ガルヴォルス
-End of Absurb-
第9章

 

 

 ギルを追って行動するトウガとハヤト。2人は途中、人目の付かない森の中で休息を取っていた。
「ハヤトさんとアイリさんも近くにいない・・ここなら・・・」
「誰か敵が近づいてきたら倒すだけだ・・今までも、これからも・・・」
 微笑みかけるカノンに、トウガが頑なな意思を見せる。
「いつまでも逃げられると思うな・・絶対に息の根を止める・・・!」
 ギルへの敵意を膨らませて、トウガが手を強く握りしめる。
「あの人、どうしてそこまで私たちのことを・・・私たち、何もしていないのに・・・」
「それがゴミクズゆえの考え方だ・・自分たちさえよければ他のヤツを平気で傷つけて、それを正しいことにする・・・」
 沈痛さを感じていくカノンに、トウガは敵への憎悪を募らせる。
「何を言っても聞き入れねぇ・・それさえも利用する材料にする・・」
「だから滅ぼす・・だからトウガは戦う・・私はそんなトウガに救われて、ずっとついていくと決めた・・」
 互いに揺るぎない意思を示すトウガとカノン。カノンがトウガの背中に優しく寄り添う。
「たとえこの戦いが自分さえも傷つけるものだとしても、私があなたを傷付けさせない・・私の力を、あなたのために・・・」
「オレも、これ以上お前を傷付けさせない・・誰にも絵を出させない・・・」
 トウガもカノンを抱きしめて、互いにぬくもりを感じ合っていく。
「ハヤトさんたちは、私たちが取り返しのつかないことになる前に止めようと考えている・・でも、私たちは・・・」
「戦い続ける・・敵を野放しにするつもりは、オレにはねぇ・・・!」
 ハヤトとアイリのことを気にしながらも、カノンもトウガも自分の意思を貫くことをやめない。
「休んだら、改めてアイツを探して見つけ出す・・」
「うん・・もう私たちはあの人の思うようにはならない・・・」
 次のすることを確かめて、トウガとカノンは横たわり眠りについた。

 トウガとカノンの行方が分からなくなり、ハヤトとアイリはマンションに戻ってきた。その廊下で待っていたあかりが、2人を見るや、ふくれっ面を見せてきた。
「もー!2人ともー!またあたしをのけ者にしてー!」
「ゴメン、あかり・・でもすごく危険な目にもあったから・・」
 文句を言ってくるあかりに、アイリが苦笑いを浮かべて謝る。
「あのトウガって人のこと・・・!?」
「あぁ・・しかも、アイツとオレを同士討ちさせて、まとめて始末しようと企むヤツまで出てきた・・危ないとこだった・・」
 緊張を覚えるあかりに、ハヤトが今日のことを話した。
「う~・・そんな卑怯なのまで出てくるなんて~・・!」
 あかりが頭を抱えて悲鳴を上げる。
「今日は1度戻って休んで、また出直すつもりだ。だけどあかりは行かないほうが・・」
「ううん、あたしも行くよ!」
 注意を呼びかけるハヤトだが、あかりは2人についていこうとする。
「だけどあかり、これは危険だって・・」
「アイリだけじゃない!危険なのはあたしも分かってる!それでもハヤトくんとアイリちゃんを助けたい!」
 不安を口にするハヤトだが、あかりも彼とアイリのことを心配する。
「どうしても危ないってことになったら、アイリちゃんと一緒に全速力で逃げるよ。だからハヤトくん、あたしも連れてって・・」
「あかり・・・」
 ハヤトに頼み込むあかりに、アイリが戸惑いを覚える。彼女はあかりの頼みを無碍に拒むことができなかった。
「死ぬかもしれない・・それ以上の地獄を味わうことになるかもしれないぞ・・・」
「そうなりそうだったら逃げるって・・だからそばにいさせて・・そばでハヤトくんの戦いを見させて・・」
 さらに忠告するハヤトだが、それでもあかりは引き下がらず、真剣な面持ちを見せる。
「分かった。アイリと一緒にいて、お互い離れるなよ・・」
「ハヤトくん・・うんっ!」
 頷いたハヤトに感謝して、あかりはアイリに笑顔を見せた。
「少しは危機感持ったほうがいいよ、あかり・・」
「エヘヘ~・・また調子に乗っちゃったってヤツかな~♪」
 肩を落とすアイリに、あかりが照れ笑いを見せた。しかしあかりはすぐに真剣な面持ちを見せた。
「でも今回は遊び気分じゃない。本気の本気なんだからね。」
「あかり・・分かっている。それは分かっているから・・」
 あかりの思いにアイリが頷いて握手をした。
「2人とも、マジで無鉄砲なんだから・・・」
 ハヤトが肩を落としてため息をついた。笑顔を見せてきたアイリとあかりに、ハヤトも笑みをこぼした。
「というわけで、今度に備えて今日は休むぞ・・」
「うん♪」
 ハヤトの声にあかりが元気に頷く。彼らはそれぞれ部屋に戻り、体を休めることにした。

 闇に紛れて夜に暗躍するガルヴォルスたち。人目の付かない小道で、数人のガルヴォルスたちが人を襲って喜びに浸っていた。
「今夜もいい感触と気分だぜ・・いい獲物ばかり見つかる・・」
「この調子でどんどん遊んで楽しんでやるぜ・・!」
 ガルヴォルスたちが満足して不気味に笑う。
 そのとき、ガルヴォルスたちのいる小道がさらに深い暗闇に包まれた。
「何だ?停電でも起きたか?」
「にしちゃ暗すぎるな・・」
「違う・・これはまさか・・!?」
 ガルヴォルスたちが気配を感じて緊張を覚える。次の瞬間、彼らが暗闇に満ちた地面の中に引きずり込まれていく。
「何だ、これは!?うわあっ!」
 絶叫を上げるガルヴォルスたちが闇の中に消えていった。
「まさかアイツと同じやり方に踏み切ることになるとはな・・・」
 自分の下で動いていたガルヴォルスのことを思い出して、ギルが皮肉を口にする。
「だがもはやこれ以外に方法がない・・ハヤトとトウガを仕留めるのは、これしか・・・」
 ハヤトたちを打倒して自分の思惑通りにしようと、ギルは躍起になっていた。
「もっとだ・・できるだけ多くの力を手に入れて、ヤツらを超えなければ・・・!」
 力への欲望に駆られて、ギルは次の獲物を求めて移動した。

 翌朝、つかの間の休息を取ったトウガとカノンは、周囲に意識を傾けた後、ギルを追って動き出した。
 トウガもカノンも眠りながらでも、本能的、反射的に感覚を研ぎ澄ませて気配を感じ取れるようになっていた。しかしこの夜に周辺でガルヴォルスが蠢いた様子はなかった。
「あの人が何もしなかったのは気になるけど・・私たちと同じように、体を休めていたのかな・・・?」
「関係ない・・どこにいても必ず見つけ出して、今度こそ仕留めてやる・・・!」
 ギルのことを気にするカノンと、ギルへの敵意を募らせるトウガ。
「今は気配を感じない・・あれだけの力・・普通にしていても感じ取れないことはないのに・・・」
「力を抑えてるってことだろ?・・それでもオレはアイツを見つけ出す・・絶対に・・・」
 ギルの気配を感知できないカノンに、トウガは揺るぎない意思を示す。
「アイツもこのまま逃げようとはしねぇだろ・・オレたちに自分を押し付けたくてしょうがなくなってる・・・」
「トウガ・・・」
「向こうが来るなら、こっちの望むところだ・・今度は逃がさず、必ず倒す・・・!」
 ギルを倒すことを第一に考えるトウガに、カノンが戸惑いを感じていく。
「ゴミクズはオレが滅ぼす・・そうすればオレとカノンだけじゃねぇ・・みんなが心から安心できる世の中がやってくるんだ・・・」
「その世の中と、それを導くトウガを、私は信じている・・どこまでも、あなたについていく・・・」
 自分の意思を貫くトウガに、カノンが寄り添う。
「ありがとう、カノン・・オレとおめぇは、いつまでも一緒だ・・・」
 トウガが感謝を口にして、カノンを抱きしめる。カノンが微笑んで小さく頷いた。
「オレは行く・・世の中をムチャクチャにする敵は、オレが必ず滅ぼす・・・!」
 改めて決意を口にして、トウガはカノンとともに歩き出した。

 朝を迎え、目を覚ましたハヤトが部屋を出た。廊下にはアイリとあかりがいた。
「オレだけすっかり寝入っちまったってことか・・」
「そんなことない・・いろいろ考えたり怖くなったりしていると思ったけど、すっかり熟睡してしまった・・私もあなたも疲れていたということかも・・・」
 苦笑をこぼすハヤトに、アイリも微笑みかける。
「あたしもすっかり寝ちゃったよ~・・」
 あかりもハヤトとアイリに照れ笑いを見せる。
「あかりはそんな疲れていないし、のん気に寝るタイプじゃない・・」
「う~・・アイリったら~・・」
 アイリにからかわれて、あかりがふくれっ面を浮かべる。2人のやり取りを見てハヤトも笑みをこぼす。
「ここからは真剣モードってヤツだ。お互い、気を引き締めないとな・・」
「うん、ハヤト・・・」
 真剣な面持ちで言いかけるハヤトに、アイリも頷いた。
「今度はみんなで行って、今度こそ終わらせよう!」
 高らかに意気込みを見せるあかりに、ハヤトとアイリは顔を見合わせて笑みをこぼした。

 一晩の間に数多くのガルヴォルスを取り込んだギル。しかしギルはハヤトとトウガへの危機感を消せずにいた。
「まだだ・・まだ2人を仕留めるには足りない・・そう思わせられる・・・!」
 力への欲求を強めて、ギルが呼吸を乱していく。
「ヤツらと遭遇するまでに、少しでもオレの力を上げる・・・!」
 次の標的を求めて、ギルは移動していく。彼はさらにガルヴォルスを取り込んでいく。
「オレは強くなる・・あの2人を野放しにするのは、どうしても我慢がならない・・・!」
 ハヤトとトウガへの憎悪をむき出しにするギル。
「ここにいたか・・見つけたぞ・・・!」
 そこへ声がかかり、ギルが振り返る。トウガとカノンが彼を見つけて、姿を現した。
「また会ったか・・だが、これで終わりだ・・・!」
 ギルが不敵な笑みを浮かべて、トウガたちに鋭い視線を向ける。
「もう絶対に逃がさねぇ・・オレが必ず、ここで叩き潰す・・2度と身勝手なマネができねぇようにな・・・!」
 ギルに怒号を放つトウガの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼はビーストガルヴォルスとなって、カノンが後ろに下がる。
「気を付けて、トウガ・・この前より力が格段に上がっている・・・」
 ギルの底力を感じ取り、不安を覚えたカノンがトウガに呼びかける。
「コイツが何をしてこようと、オレが倒す・・それだけだ・・・!」
 しかしトウガは退かずに、ギルに向かっていく。
「やはり向かってくるか・・」
 ギルは呟いてから、トウガを迎え撃つ。2人が同時に拳を繰り出してぶつけ合う。
「うっ!」
 トウガが力負けしてギルに突き飛ばされて、地面を激しく転がっていく。
「トウガ!」
 カノンが叫ぶ中、トウガがすぐに立ち上がり、ギルを鋭く睨みつける。
「体でも理解したようだな。オレの力が上がっていることに・・」
 ギルがトウガに向けて不敵な笑みを浮かべてきた。
「何度も言わせるな・・オレはおめぇを倒し、ゴミクズどもを滅ぼす・・それだけだ!」
 トウガがさらに怒号を放ち、ギルに飛びかかる。彼が繰り出した拳を、ギルは軽々とかわした。
「今のオレには、お前の動きが手に取るように分かる。今までお前が速く力があるとは思えないほどに・・」
「どこまでもいい気になりやがって・・おめぇはオレが!」
 あざ笑ってくるギルに、トウガが怒りを膨らませていく。彼が力任せに連続で拳を繰り出していく。
「少しはやるようになったが、お前の本気はこの程度ではないだろう!」
 ギルは目を見開き、右足を振り上げてトウガを蹴り飛ばす。
「ぐふっ!」
 トウガが激痛を覚えて顔を歪める。ギルはさらに足を振りかざして、トウガを蹴り飛ばしていく。
「トウガ!」
 叫ぶカノンが背中から翼を生やす。彼女はエンジェルガルヴォルスになって、念力を放ってギルの動きを封じようとした。
「もはやお前の力を脅威とは思わないぞ・・・!」
 しかしギルはカノンの力に屈せず、不敵な笑みを見せる。力が通じないことにカノンが驚愕する。
「オレはおめぇなんかに・・おめぇなんかに!」
 激高したトウガの体から電撃がほとばしる。彼は力を上げてギルに攻撃を仕掛ける。
「そうだ!その力もオレがねじ伏せてくれる!」
 ギルが笑みを見せて、トウガを迎え撃つ。2人が拳をぶつけ合い、互角の攻防を繰り広げる。
「前はその力を厄介だと思っていたが、今はそんなことはないということか!」
 勝ち誇るギルが地面から闇の触手を伸ばす。
「ぐっ!」
 触手の1本を強く体に叩きつけられて、トウガが空中に跳ね上げられる。
「トウガ!」
 カノンが飛び上がり、トウガを受け止めてギルから離れる。
「トウガ、大丈夫!?トウガ!」
 カノンが必死の思いで呼びかけて、トウガが閉じていた目を開ける。
「くっ・・オレが、こんなことでやられてる場合じゃねぇ・・・!」
 トウガが声と力を振り絞り、ギルに向かっていく。
「どうしても懲りないか。それを取ったら何も残らないくらいにな・・」
 ギルが再び闇の触手を地面から伸ばす。トウガは跳躍で触手をかわして、ギルに向かっていく。
 トウガが電撃を帯びた拳を繰り出す。後ろに下がってかわすギルだが、トウガの拳が地面に当たり、電撃が周囲に放出される。
 拡散した電撃がギルにも命中した。体のしびれを感じるも、ギルはすぐに体勢を整えた。
「この電気も今のオレには大して効かないか・・お前の力を、オレは超えている・・・!」
 力の高まりを実感して、ギルが笑みを強める。
「オレはおめぇを許さねぇ・・オレたちを追い詰めて、カノンをムチャクチャにしたおめぇは、どんなことをしても叩きつぶす!」
 トウガが諦めずに、ギルを倒そうと憎悪を募らせる。
「諦めたり逃げたりしないのは確定的か。ならばお前は、オレに倒されるしかないということだ。」
「オレは倒れねぇ・・倒されるのはおめぇのほうだ!」
 さらに笑みをこぼすギルに、トウガが怒号を言い放つ。彼は剣を具現化して飛びかかり、ギルに向けて振りかざす。
 ギルが軽やかな動きでトウガの剣をかわし、さらに地面から触手を伸ばして剣を防いでいく。
「逃げるな!」
 トウガがさらに怒号を放ち、剣を振りかざしていく。彼の一閃がギルの頬をかすめた。
 ギルが顔から笑みを消して、さらに触手を伸ばしてトウガにぶつける。
「ぐっ!・・オレは・・オレはおめぇなんかに!」
「本当に強情なことだ・・呆れ果てるぐらいに・・・」
 攻撃をやめないトウガに、ギルが肩を落としてため息をつく。彼はさらに触手を振りかざして、トウガに叩きつける。
「トウガ!・・このままじゃトウガが・・!」
 危機感を覚えたカノンが、背中の翼をはばたかせて突風を巻き起こす。ギルが風を受けて怯んだ瞬間に、カノンがトウガを抱えて飛翔する。
「トウガ・・私の力を、トウガに・・・!」
 トウガへの心配を膨らませるカノン。彼女はトウガを回復させると同時に、自分の力を彼に注いでいく。
「お前もお前だ。トウガのために命を懸けることも厭わないとは・・ムダなことをするのは滑稽でしかない・・」
 カノンの行動をもあざ笑うギル。彼は触手を伸ばして、トウガとカノンの体を締め付けた。
「そんな!?」
 触手に縛られて、カノンがトウガとともに引っ張られていく。
「もう小賢しいマネを見過ごしてやるものか・・確実に貴様の息の根を止める・・・!」
 ギルが触手に力を込めて、トウガとカノンを締め付けていく。
「どこまでも・・どこまでもおめぇは、オレたちを・・!」
「貴様らは世の中にいてはならない存在だ!オレが確実に仕留めなければならないのだ!」
 声と力を振り絞るトウガに、ギルが言い放つ。
「やはりおめぇらはゴミクズだ・・自分たちのことばかりで、他のヤツがどうなっても正しいことにする・・滅ぼさねぇといけねぇ存在だ!」
 トウガが怒りを爆発させて、触手を引きちぎろうとする。
「どこまでも勝手な理屈だな・・いい加減身の程を知れ・・!」
「思い上がるな、ゴミクズが!」
 鋭い視線を向けるギルに、トウガが激高する。彼がギルの触手を打ち破り、電撃をほとばしりながら飛びかかる。
「言っても分からないとはこのことだな・・・」
 ギルはため息をつくと、触手を一斉にトウガにぶつけた。
「ならばバラバラになるしかない・・・」
 ギルが目つきを鋭くして、力を込めてトウガを押しつぶそうとする。トウガが止まらずにギルに向かおうとする。
「オレが・・オレがおめぇを・・・!」
 トウガが声を振り絞った瞬間だった。ギルが突然横に突き飛ばされた。
「今のは・・!」
 カノンが振り向いた先には、ドラゴンガルヴォルスとなったハヤトと、アイリとあかりがいた。
「ハヤトさん・・私たちが力を出したから、気付いて・・・!」
 カノンがハヤトたちを見て声を上げる。ハヤトがアイリたちと駆けつけて、ギルを突き飛ばしたのである。
「オレもお前にたくさんの借りがある・・オレもお前を倒す理由がある!」
「竜崎ハヤト、お前も出てきたか・・だが、2人そろっても、今のオレを倒すことはできない・・!」
 敵意を向けるハヤトを見て、ギルが声を荒げる。
「まずはお前を倒す!それがオレの考えなんだよ!」
 ハヤトが言い放ち、ギルに飛びかかり拳を繰り出す。
「待って!その人は前よりも強くなって・・!」
 カノンが呼びかけるが、ハヤトがギルが伸ばした触手に叩きつけられる。
「ぐあっ!」
 ハヤトが激しく地面を転がり、激痛を覚えてうめく。
「ハヤト!」
「ハヤトくん!」
 倒れるハヤトに叫ぶアイリとあかりが、彼に駆け寄ろうとした。
「来るな、2人とも!」
 ハヤトが顔を上げてアイリたちを呼び止めた。
「カノンさんの言う通り、とんでもない強さになっている・・飛び火に巻き込まれるぞ・・・!」
 アイリたちに言いかけて、ハヤトが立ち上がりギルに視線を戻す。
「どうやってこんなに力が・・・!?」
「オレも取り込んだのだ・・他のガルヴォルスを・・お前たちを倒すためにな・・・!」
 ハヤトが口にした疑問に、ギルが不敵な笑みを浮かべて答える。
「自分の目的のために、ガルヴォルスを・・・!」
「別に気に病むことはないだろう?お前もガルヴォルスを憎んでいただろう?」
 憤りを覚えるハヤトを、ギルがあざ笑う。しかし彼の言葉にハヤトは納得しない。
「昔はオレはガルヴォルスを憎んでいた・・だけど今は違う・・オレは大切な人を守るために戦う・・その相手がガルヴォルスだろうと人間だろうと関係ない!」
 ハヤトが自分の正直な思いを口にしていく。
「心のあるガルヴォルスもいれば、バケモノ以上に心のない人間もいる・・お前は、自分のことしか考えてないヤツだ!自分の考えが世界の考えだと思い上がっているんだよ!」
「それをとがめられる言われはない。もはやオレしか、世界を正しく導くことができなくなっているからな!」
 怒りをぶつけるハヤトだが、ギルは彼らをあざ笑ってくる。
「アイツ・・どこまでも思い上がりやがって!」
 トウガが怒りを叫び、ギルに向かっていく。ギルが地面から伸ばす触手に阻まれても、トウガは足を止めない。
「おめぇのようなゴミクズがいるから、世の中はムチャクチャになってくんだよ!」
「そうしているのはお前たちのほうだ!トウガ、お前の行動が世界の脅威になり、人々を恐怖させる根源となった!それをムチャクチャと呼ばず何と呼ぶ!?」
「オレたちはゴミクズ以外のヤツらには手を出さねぇ!ゴミクズどもの言いなりになってるから、みんな勝手に怖がってるんだ!」
「勝手な理屈ばかりだな、全く・・・」
 自分の考えを言い放つトウガに、ギルが呆れ果てる。次の瞬間、トウガの足元の地面が闇に変わった。
「ぐっ!」
 トウガが闇に足を引っ張られて動けなくなる。そこへ闇の触手が飛び、トウガが体を叩きつけられる。
「トウガ!」
 ハヤトが声を上げるが、ギルがさらに振りかざした触手を当てられて突き飛ばされる。
「ハヤト!トウガさん!」
「こ、このままじゃ2人ともやられちゃうよ~!」
 アイリが声を荒げて、あかりが頭を抱えて悲鳴を上げる。
(助けないと・・トウガとハヤトさんを・・・!)
 カノンが意識を集中して、背中の翼をはばたかせる。彼女から念力の衝撃波が放たれて、ギルの触手を押していく。
「トウガ、早く!今のうちにその人を!」
「カノン・・・!」
 カノンが呼びかけて、トウガが一瞬戸惑いを覚える。だが彼はギルに視線を戻すと、彼に向かって突っ込む。
「おめぇだけは、絶対に叩きつぶす!何が何でも!」
「お前たちの思い通りにはならない!オレがさせない!」
 トウガとギルが怒号を放ち、同時に拳を繰り出してぶつけ合う。2人の力は拮抗し、打撃が相殺される。
「ぐっ!」
 トウガとギルが攻撃を仕掛けた手に痛みを覚えて、たまらず押さえる。
「まだだ・・オレはお前には屈しない・・・!」
 トウガが声と力を振り絞り、ギルに向かおうとする。
「そうだ!お前の思い通りにはならない!」
 さらにハヤトも飛び込み、ギルに具現化した剣を突き出してきた。
「ぐっ!」
 剣が左肩に刺さり、ギルが顔を歪める。彼はとっさに後ろに下がりながら、闇の触手を伸ばして剣を押さえて、ハヤトたちから離れる。
「コイツら、どこまでも悪あがきを・・!」
 刺された肩を押さえてうめき、ギルがハヤトとトウガに憎悪を向ける。
「お前たちは消えなければならない・・世界から・・・お前たちは、世界にいてはならない存在・・・!」
「オレたちのことを、お前が勝手に決めるな!」
 声を振り絞るギルに、トウガが怒号を放つ。
「オレたちはもう押し付けられない!おめぇらのように、自分たちが正しいと思い上がるゴミクズの思い通りにはならない!」
 トウガが右手を握りしめて、ギルに拳を振りかざす。
「ゴミクズどもを滅ぼして、世の中に安心をもたらす!」
 トウガの拳がギルの体に叩き込まれた。トウガは力任せに強引にギルに拳を押し付ける。
「オレは、お前たちなどに・・!」
「いい加減消えろ!」
 ギルの憎悪を押しのけて、トウガが拳で彼の体を貫いた。
「がはっ!」
 ギルの口と体から血があふれ出した。突き飛ばされた彼が横転して、鮮血をあふれさせる。
「これで終わりだ・・2度と思い上がりができないように・・ここで完全に叩き潰す・・・!」
 トウガがとどめを刺そうと、ギルにゆっくりと近づいていく。彼から離れようとするギルだが、体が言うことを聞かない。
「オレは、お前たちに殺されない・・お前たちに殺されるぐらいなら・・自ら命を絶つ・・・!」
 ギルが自害を図り、右手を自分に向けた。だがトウガにその右腕をつかまれた。
「逃げるなと何度も言ってる・・そんな逃げ方も、オレは許さねぇぞ・・・!」
 トウガが鋭く言うと、ギルの右腕をへし折った。
「ぐあぁっ!」
 さらなる激痛に襲われて、ギルが絶叫を上げる。手も足も出せなくなり、彼はその場から動けなくなった。
「オレは・・自分で死ぬこともできないのか・・・!?」
 自分の思い通りにできなくなったことに、ギルが絶望していく。
「自分で死んで逃げようなんて、オレが許さねぇと言っている・・・!」
 トウガがギルを見下ろして、鋭く言いかける。彼が剣を手にして構える。
「おい、トウガ・・もうそいつは抵抗どころか動くこともできないんだぞ・・それでもとどめを刺す気なのか・・!?」
 ハヤトが前に出て、トウガを呼び止めてきた。
「オレは敵を倒すために戦っている・・それを邪魔するヤツも容赦しねぇぞ・・・!」
「それで満足なのかよ・・お前も、カノンさんも・・!?」
「そうしねぇと納得できねぇよ・・特にコイツは、オレたちを振り回し、カノンをムチャクチャにした・・地獄に落としても、まだ怒りが治まるかどうか・・・!」
 ハヤトの説得を聞かずに、トウガが拳に力を込める。
「もうこの先にしか、安心できる道はない・・もうトウガにしか、世界を正しくできない・・・」
 カノンはトウガが自分の道を進むことを願い、全てを委ねていた。
(カノンさん・・トウガさん・・・)
 トウガとカノンの揺るぎない意思を目の当たりにして、アイリは困惑していた。
「おめぇらのようなゴミクズがいなければ、オレたちは・・オレたちは!」
 トウガが怒りを込めて、ギルの体に拳を叩き込んだ。
「ぐはぁっ!」
(コイツにこのまま殺されるぐらいなら、誰か、道連れを・・・!)
 ギルは吐血しながら、力を振り絞り闇を操る。闇の触手はアイリとあかりの後ろから伸びた。
(ガルヴォルスはムリでも、ただの人間なら始末できる・・!)
 ギルはアイリたちを触手で貫こうと企んだ。だが触手はアイリとあかりに届く前に切り裂かれた。
「あなたのやることは、イヤってほど分かっている・・・!」
 カノンがギルに向けて鋭く言いかける。彼女の放ったかまいたちが、ギルの闇を切り裂いた。
(最後にどこまでも、思い通りにならなくなるとは・・・)
 完全にトウガたちに屈したことに絶望したギルが、崩壊を起こして消滅した。
「これでやっと・・この人を倒すことができた・・・」
 ギルを倒せたことに安心を覚えて、カノンはその場に座り込む。彼女の姿がエンジェルガルヴォルスから人に戻った。
「カノン・・・!」
 トウガがカノンに駆け寄ろうとするが、力を使い果たして思うように動けず、ガルヴォルスから人の姿に戻って倒れてしまう。
「トウガ!」
 ハヤトがとっさにトウガを支えて呼びかける。
「トウガ、大丈夫か!?・・しっかりしろ!」
「くっ・・カノン!・・どけ!」
 心配の声をかけるハヤトだが、トウガは感情をむき出しにして彼を突き飛ばして、カノンのところへ向かう。
「カノン、大丈夫か!?カノン!」
「トウガ・・大丈夫・・力を使いすぎただけ・・・トウガと同じだよ・・・」
 必死に呼びかけるトウガに、カノンが微笑んで答えた。それを見てトウガが安堵を覚える。
「行くぞ、カノン・・ここを離れるぞ・・・」
 トウガが呼びかけて、カノンを抱えた。トウガに抱きかかえられて、カノンが戸惑いを覚える。
「トウガ・・また人殺しをするつもりなのか?・・それで、関係ない人を巻き込むつもりなのか・・・!?」
 ハヤトがトウガたちに近付いて問い詰める。トウガがハヤトに鋭い視線を向ける。
「ゴミクズは・・敵は倒す・・ヤツらは明らかに間違っている・・それ以外に、世界を正しくすることはできねぇから・・・!」
 トウガは自分の意思を貫き、カノンとともに歩き出す。
「どこまでもみんなを巻き込むなら、オレはお前を止めないと・・・!」
 ハヤトがトウガを止めようとするが、体力の消耗でふらついてしまう。
「ハヤト!」
 アイリがあかりと一緒にハヤトを支える。
「ハヤトくん、大丈夫!?ハヤトくん!」
 あかりが声を張り上げて、ハヤトに呼びかける。
「オレは大丈夫だ・・それよりもトウガとカノンさんを止めないと・・・!」
「待って、ハヤト!そんな体ではムチャよ!」
 歩き出そうとするハヤトとアイリが呼び止める。
「だけど、このままトウガたちを行かせて、2人がまた誰かが傷ついたり殺されたりすることになったら・・・!」
「でも、それでハヤトが死ぬことになってしまったら・・・!」
「もう、アイツらを止められるのは、オレしかいねぇのに・・・!」
「ハヤト・・それであなたがいなくなるのは、私はイヤ・・・!」
 トウガを止めようとするハヤトに、アイリがすがりつく。
「アイリ・・・」
 アイリの心境を察して、あかりが戸惑いを感じていく。
「ハヤト、アイリ、一緒に2人を追いかけよう・・!」
「あかり、何を言って・・!?」
 あかりが口にした言葉にアイリが驚きを覚える。
「1人じゃ危険だっていうなら、3人一緒に行けばいい!それがダメなら、あたし、最初からここにいないよ!」
「あかり・・・」
 呼びかけてくるあかりに、アイリだけでなくハヤトも戸惑いを覚える。
「行くしかないな・・アイツらを止めに・・3人一緒に・・・!」
「ハヤト・・・」
 あかりの思いを受け止めて改めてトウガを止めに行くことを決めたハヤトに、アイリが戸惑いを募らせる。
「ハヤトは、私が支えるからね・・危なくなったら、無理やりにでも引き留める・・それだけの力がなくても・・・!」
「アイリ・・・ありがとう・・悪いな・・」
 自分の思いを伝えるアイリに、ハヤトが微笑んで感謝した。
「2人とも、あたしも付いてるんだからね~!」
 あかりも自信満々の顔を見せて、ハヤトたちに言いかけた。彼女とアイリに励まされて、ハヤトは頷いた。
「一緒に行くぞ・・置いてかれないようにしろよ・・!」
「うん・・!」
「わー!待ってー!」
 歩き出すハヤトに、アイリとあかりが続く。3人はトウガとカノンを追いかけた。
 
 
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