ガルヴォルス
-End of Absurb-
第10章

 

 

 ギルを倒したトウガとカノンは、人やガルヴォルスの目が届かないように場所を変えた。
「トウガ、大丈夫?・・また回復を・・・!」
「カノン・・ホントにありがとうな・・・」
 心配するカノンに、トウガが感謝して微笑む。
「このまま、ハヤトさんたちと別れてよかったのかな?・・私とトウガのように、分かり合えたかもしれない・・・」
 カノンがハヤトたちのことを気にして、不安を見せる。
「アイツはオレを止めようとした・・それなのに分かり合うことなどできねぇ・・・!」
 トウガはハヤトを信じようとせず、彼を受け入れようとしない。
「世の中やみんなをムチャクチャにする敵はもちろん、それを見過ごす人も間違っている・・トウガはそれを正しているだけ・・無関係な人を巻き込んでいる、というムチャクチャは認められない・・・」
「誰も間違いを正そうとしない・・オレがやるしかねぇ・・」
 カノンが口にした言葉に、トウガが小さく頷く。
「世の中がよくなったら、トウガはどうするの?・・私たちは・・・?」
「さぁな・・オレは今のことしか考えてられねぇ・・・今を何とかできねぇのに、これからのことを何とかできるわけがねぇからな・・・」
「そうだね・・それがトウガだね・・・」
「こんなオレに付き合ってくれて、ありがとうな・・・」
「私はトウガに全てを委ねた・・私が決めたことだから・・・」
「それでも、オレはおめぇに助けられた・・今だって・・・」
 カノンに感謝されて、トウガは戸惑いを感じていた。
「トウガ・・そう言ってくれて嬉しい・・・」
「カノン・・・おめぇとオレは、いつまでもどこまでも一緒だ・・・!」
 笑顔を見せるカノンをトウガが抱きしめた。彼からの抱擁にカノンが至福を覚える。
「私たちは一緒・・トウガと一緒・・・」
 トウガのそばにいることを喜ぶカノン。
 そのとき、カノンの脳裏に様々なビジョンがよぎってきた。それは、カノンがギルに弄ばれる前の、トウガと過ごしたときの記憶だった。
(もしかして、失っていた私の記憶・・・!?)
 失っていた記憶が戻ってきたと思い、カノンが戸惑いを感じていく。
「カノン・・・!?」
 動揺しているカノンを目の当たりにして、トウガも戸惑いを見せる。
「私・・思い出した気がする・・本当の私を・・・」
「思い出したのか!?・・記憶が、戻ったのか・・!?」
 記憶を確かめていくカノンに、トウガが訊ねる。
「戻ったと思う・・戻ったと、思いたい・・・」
 カノンは一途な願いを込めて、トウガにすがりつく。
「カノン・・そうだな・・・」
 トウガが頷いて、カノンをさらに抱きしめていく。
「戻ってきた・・完全に戻ってきたよ・・カノン・・・!」
「ただいま・・トウガ・・・」
 挨拶し合って、カノンとトウガは自分たちの抱擁に喜びを感じていった。
 そのとき、トウガたちを追いかけてきたハヤト、アイリ、あかりが駆けつけてきた。
「トウガ、カノンさん・・・お前らが戦うことで、誰かが巻き込まれることになるのは、オレは我慢ならない・・・!」
 ハヤトがトウガたちを止めようと、声を振り絞って呼びかける。
「オレはゴミクズどものムチャクチャに巻き込まれた・・それがいけねぇことだと、ヤツらに思い知らせなくちゃならねぇんだよ・・・!」
「それでお前が他の人を巻き込んでしまったら、その悪いヤツと同じになってしまう・・それはお前の望まないことじゃないか・・・!」
「オレをゴミクズと一緒にするな!オレはヤツらとは明らかに違う!」
「けど、お前は無意識にみんなを巻き込んでる・・そうじゃないと言い張って、思い込もうとしているんだよ・・!」
 怒りを募らせるトウガに、ハヤトが必死に呼びかける。しかし彼の説得の言葉が、トウガの感情を逆撫でする。
「オレはそんな言葉にも屈しねぇ!ゴミクズを潰さねぇと、世の中はよくならねぇんだよ!」
「トウガ!」
 自分の意思と戦いを貫くトウガに、ハヤトが向かっていく。
「これ以上向かってくるなら、私たちはあなたも倒さないといけなくなる・・・」
 するとカノンがハヤトに、真剣な面持ちで忠告を投げかけてきた。
「カノンさん・・あなたまで・・・!」
 カノンもトウガに完全に賛同していることに、ハヤトだけでなく、アイリも困惑を募らせていく。
「この世界を正しくできるのは、トウガしかいない・・トウガのように、世界をよくすることを諦めていない人しか・・・」
「それで何もかもが混乱してもいいっていうのか、2人とも・・・!?」
 カノンが投げかける言葉に、ハヤトが困惑を募らせる。
「それで、あなたたちの思い通りになって、カノンさんもトウガさんも満足なんですか・・・!?」
 アイリが悲痛さを噛みしめて、カノンたちに問いかける。
「満足するために、オレは戦うんだ・・・!」
 トウガはそう告げると、カノンとともに歩き出す。
「もう迷うわけにいかない・・トウガ、カノン、アンタたちはオレが止める・・全力で!」
 激高したハヤトがドラゴンガルヴォルスになって、トウガたちに向かっていく。
「どこまでもオレを・・オレたちを!」
 トウガもいきり立ち、ビーストガルヴォルスとなってハヤトを迎え撃つ。2人は一気に全力を引き出して、電撃と紅いオーラを放出する。
 力を集中させた拳を、ハヤトとトウガが同時に繰り出す。2人の拳は互いの体に直撃し、強烈な衝撃を叩き込んだ。
 一瞬、重い空気と静寂が辺りを支配した。次の瞬間に倒れたのはハヤトだった。
 トウガがハヤトの力を上回るのは当然だった。トウガはカノンによって回復していた上に、攻撃の瞬間にもカノンはトウガに力を注いでいた。
「ハヤト!」
 アイリがたまらず、倒れたハヤトに駆け寄った。
「ぐっ!」
 同時にトウガも激痛を覚えて、その場に膝をついた。ハヤトの攻撃が彼に効かなかったわけではなかった。
(ハヤト・・本気でオレたちを止めようとしてきた・・オレたちのことをマジで考えて・・だからこその、こんなにも威力のある攻撃か・・・!)
 ハヤトに目を向けて心の中で呟くトウガ。彼はハヤトの信念と強さを痛感していた。
「トウガ!」
 カノンがトウガに近寄り、彼を支えて回復させようとする。
「トウガ・・大丈夫・・・!?」
「あぁ・・ダメージが大きすぎて、ちょっと驚いただけだ・・・」
 心配するカノンにトウガが微笑みかける。
「トウガさん・・カノンさん・・・」
 互いに支え合っている2人に、あかりが戸惑いを感じていく。
「オレたちはこの戦いを続ける・・邪魔するヤツも誰だろうと容赦しねぇ・・・!」
 トウガは声を振り絞ると、ハヤトたちに背を向ける。
「おめぇのように、マジでオレたちのことを考えてるヤツとは、戦いたくねぇけど・・・」
 彼は呟くと、カノンに支えられながらハヤトたちの前から去っていった。
「トウガ・・カノンさん・・・」
 2人と止められなかったことだけでなく、トウガにわずかながら心境の変化があったとも思い、ハヤトは戸惑いを感じていた。
「全然変わらないわけじゃない・・オレたちの言葉を全く聞かないわけじゃないんだ・・・」
「私も分かった・・トウガさんもカノンさんも、ちゃんと人の心を持っている・・ううん、他の誰よりも、心ある人間なんだよ・・・」
 ハヤトに続いてアイリも言いかける。
「心ない人のやることが、トウガさんたちみたいな人を生み出しているのよね・・・」
「そいつを悪いとみんな決めつけて、それがそいつをさらに追い詰めて・・」
「でも何かあったときに止めるヤツもいないと・・」
「それが、ハヤトなのね・・・」
 決意を固めているハヤトに、アイリが深刻な面持ちで答える。
「オレが止める・・あの2人を止められるのは、オレしかいないってことか・・」
「そのときも一緒だからね、ハヤト・・あなたに任せ切りにはしたくないから・・」
 ハヤトとアイリが決意を口にして、寄り添い合う。2人はさらに心と体をつなげていた。
「あう~・・あたし、すっかりのけ者になっちゃってるよ~・・」
 あかりが2人を見て、頭を抱えて悲鳴を上げる。
「エヘヘ。ゴメンね、あかり・・」
 アイリがあかりを見て、ハヤトとともに笑みを見せた。
「帰ろう、オレたちの居場所に・・・」
「うん、ハヤト・・・」
 ハヤトの声にアイリが頷く。2人はあかりとともにこの場を離れ、マンションに戻った。

 ハヤトとトウガによってギルは倒れた。ギルに襲われたことで失われていた記憶を、カノンは取り戻すことができた。
 だがトウガとカノンの戦いは終わらない。彼らが世の中を乱す敵と判断する者がいなくならない限り、戦いの幕は閉じない。
 トウガたちの正確な居場所が分からないまま、ハヤトたちは日常に戻ることになった。

 トウガの世界への影響は留まることを知らない。
 政府は以前よりも制度の導入や改正を行うことができなくなった。そればかりか迂闊な発言もなりをひそめることになった。
 もしも強行に走ればトウガの怒りを買い、殺されることになる。人々の心に彼の存在が強く刻まれていた。

 スイートが営業を再開して、ハヤト、アイリ、あかりも本来の日常に戻っていった。しかしトウガとカノンへの気がかりは膨らむばかりだった。
「カノンさんとトウガさん、今頃どうしているかな・・・?」
 アイリがふとトウガたちのことを呟く。
「まだ、敵と戦い続けているのかな?・・それとももう、安心できるようになったのかな・・・?」
「さぁな・・あの2人が納得できるようになるのは、アイツら自身しかできない・・・」
 言いかけるアイリにハヤトが答えてきた。
「でも、それだとハヤトが・・周りの人たちが・・・」
「だから、オレが止めないといけないってことだ・・今は分からないけど、居場所が分かったなら・・・」
 不安を口にするアイリに、ハヤトが決意を口にする。彼がいつでも止めに飛び出せるようにしているのだと、アイリは思った。
「アイツらが関係のない人を巻き込んだりしないっていうならそれでいい・・それでも混乱は起きるだろうけど・・」
「ハヤト・・これでみんな、安心できるのだろうか・・これが本当の平和なのかな・・・」
「分かんない・・オレもアイツも、答えを見つけてない・・もしかしたら、一生かかっても見つけられないかもしれない・・・」
「そんな中、私たちもみんなも生きていくのね・・トウガさんとカノンさんも・・・」
 何が正しくて何が間違いなのか、その隔ても分からず、ハヤトもアイリも悩みを深めていく。
「これで救われたのかな・・トウガさんも、カノンさんも・・・?」
「それも分かんない・・アイツらが納得しない限りは・・・」
 不安を口にしたアイリに、ハヤトが深刻な面持ちで答える。
(トウガ、お前はまだ戦っているのか?・・それとも、どこかでひっそりと・・・)
 ハヤトは心の中でも、トウガのことを気にかけていた。
「ハヤトくーん、アイリちゃーん、仕事サボったらダメだよー・・」
 そこへあかりがやってきて、ハヤトたちに声をかけてきた。
「さて、オレも洗い物を済ませないと。そろそろお昼ごはんの時間だ。」
「今日もこれから忙しくなるね・・」
 気のない素振りを見せるハヤトに、アイリが微笑みかける。2人は気持ちを切り替えて、仕事に、日常に戻っていった。

 トウガへの対策を密かに練り上げていた政治家たち。どうにかしてトウガを排除しようと、彼らは思考を巡らせていた。
「今はおとなしくしていた方がいいのでは・・こんなこと、知られただけで我々の命がなくなる・・・!」
「だからと言って、ヤツをこのまま野放しにすれば、遅かれ早かれ我らを殺しに来る!生きた心地がしないぞ!」
「このまま殺されるのを待つぐらいなら、何かしらの手を打つ!」
「ここは国民全員の力を結集して、崎山トウガを打倒する!国民全員を手にかければどうなるか、ヤツも分からないわけではあるまい!」
「ヤツは敵と認識した者を徹底的に潰すバケモノだ!たとえ周りの全てを敵に回しても、ヤツはその全てを滅ぼすことを躊躇しない!」
 議論を重ねるうちに語気が強まるばかりで、政治家たちの意見がまとまることはなかった。
「こうなれば、多くの市民を集めて、ヤツを倒す盾にしてくれる・・!」
「国民を皆殺しにするようなマネをするなら、世界規模でヤツの排除の計画が進むことになる!」
「ま、待て!それでは何も残らない!仮に崎山トウガを仕留められてもだ!」
 政治家たちの議論はさらに過熱していく。
 そのとき、政治家たちのいる部屋のドアが突然破られた。振り返った彼らの前に現れたのは、トウガとカノンだった。
「き、貴様は・・崎山トウガ!?」
「なぜ、この場所が!?」
 政治家たちがトウガたちの出現に驚愕する。
「私の感覚は鋭くなっている・・あなたたちの企みを知ることは、もう難しいとは言えなくなっている・・・」
 カノンが低い声音で政治家たちに言いかける。
「今ここで言ってやる・・もしも世界のみんながゴミクズの味方になっても、オレは全員を叩き潰すことを迷わねぇ・・そいつらもゴミクズになっているのだから・・・!」
 トウガも政治家たちに向けて鋭く言いかける。
「特におめぇらみてぇに、自分たちのために他のヤツを巻き込んで平気でいる連中は、すぐに必ず叩きつぶす!」
 激高をあらわにしたトウガが政治家たちに飛びかかる。
「おのれ!」
「バケモノが!」
 政治家たちが携帯していた拳銃を手にして、トウガに向けて発砲する。しかしビーストガルヴォルスになっているトウガに射撃は通じず、弾丸が蒸発するようにかき消される。
「き、効かない!?・・本物のバケモノだ・・・!」
 政治家たちが恐怖して、慌てて逃げ出そうとする。だがトウガが振りかざした拳の衝撃で、政治家たちが壁に強く叩きつけられる。
「こ・・殺される・・もう我々は、このバケモノに・・・!」
 抵抗することも逃げることもできないと痛感し、政治家たちが絶望していく。彼らにトウガが近づき、両手を握りしめる。
「後悔や絶望をするぐらいなら、最初から思い上がりをしなければよかった・・そんなことも分かんねぇのかよ・・・!?」
 憤りを募らせて、トウガが拳と足を振りかざす。彼の打撃を受けて、政治家たちは鮮血をまき散らして昏倒した。
「オレはゴミクズを滅ぼす・・これだけのことになっても理解しようともしない敵を、オレは野放しにはしねぇ・・」
 揺るがない意思を口にするトウガ。怒りを噛みしめる彼に、カノンが寄り添う。
「遅かれ早かれ、きっと止めに来るよ、ハヤトさんたち・・・」
「オレは止まらねぇ・・止めに来るヤツも、容赦しねぇ・・・」
 カノンが投げかけた言葉に、トウガは態度を変えずに答える。
「行こう・・まだオレの戦いは終わっちゃいねぇ・・・」
「うん、トウガ・・・」
 呼びかけるトウガにカノンが頷く。2人は血まみれになっている部屋を後にした。

 政府が新たな制度の導入や改正を行うのは絶望的と言ってもよかった。トウガに見つけられて殺されることが目に見えているからだ。
 だが納得できない政府の行動が封じ込められるこの事態を良しと思う人々もいないわけではなく、トウガの行動に賛同するようになっていった。
 トウガによる襲撃と国や世界の混乱は、沈静化どころか拍車がかかる。それでも平和に向かっているという意見が増えつつあった。
 政府は国や人々に対する姿勢と政治家の構成を大きく変えることになった。

 徐々に穏やかになっていく国や世界の情勢。その最中、トウガとカノンは人気のない草原の真ん中で、休息を取っていた。
「これで、落ち着いてきたかな・・・」
「分かんねぇ・・何か仕掛けてくるなら、オレが出てって叩きつぶすだけだ・・・」
 言いかけるカノンに、トウガが低い声で答える。
「ゴミクズどもが滅び、他のヤツがゴミクズにならねぇなら、オレが戦うことはもうねぇ・・・」
「トウガ・・・」
「だけど、そんなことになりそうな気が全然しねぇ・・今までずっと変わらなかった・・ゴミクズどもも、そいつらを野放しにしたヤツらも・・・」
 自分の考えと予感を口にして、憤りを噛みしめるトウガに、カノンが困惑を感じていく。
「それまでオレは休むことにする・・次に戦うときが来たら、すぐに戦えるように・・・」
「それなら私も・・私はトウガと一緒だから・・・」
 言いかけるトウガにカノンが寄り添う。2人はそのまま草むらに横たわる。
「また、トウガと一緒になっていいかな・・・?」
「あぁ・・このイヤな気分、少しでも和らげたい・・カノンとなら、幸せを実感できる・・・」
 トウガとカノンが顔を近づけて、唇を重ねる。込み上げてくる恍惚を堪能して、2人は安らぎを感じていく。
(オレはカノンと一緒なら、幸せになれる・・世の中に潜むムチャクチャに苦しめられても、カノンと一緒なら立ち直れる・・・)
 カノンとの口付けの中、トウガが心の中で呟いていく。
(カノンがいなかったらきっと、オレの心が壊れていたところだ・・・)
 カノンへの感謝を募らせるトウガ。2人が唇を放して、互いを見つめ合う。
「このまま、私の中に入ってきて・・・」
「カノン・・・あぁ・・オレを、受け止めてくれ・・・」
 カノンとトウガが衣服を脱いで、さらなる抱擁を交わしていく。2人はさらに心地よさを感じ合っていく。
(もう失いたくねぇ・・ムチャクチャにされたくねぇ・・何が何でも、オレはカノンを守り、世の中の間違いを正す・・・)
 カノンとの交わりの中、トウガが決意を秘めていく。
(カノンは、オレの全てを受け止めてくれる・・・)
 カノンのぬくもりに触れていれば、イヤなことに押しつぶされなくなる。その感情に突き動かされながら、トウガはカノンとの性交を深めていった。

 街外れの廃工場に逃げ込む数人の男たち。彼らを1人の怪物が追っていた。
「おとなしくオレに従ったほうがいいぞ。そうすれば命だけは助けてやるよ。」
 怪物、アルマジロガルヴォルスが男たちに言いかける。
「警察とかに知らせてもムダだ。オレの力には敵わないんだからよ・・」
 アルマジロガルヴォルスが不敵な笑みを浮かべて、男たちが恐怖を募らせる。
「諦めろ。貴様らはオレに従うか殺されるか、どちらかしかないんだよ・・」
 アルマジロガルヴォルスが笑みをこぼして、男たちに近づいていく。抵抗も逃亡もできず、男たちは震えて動けなくなっている。
「いや、お前が倒されるという結末もあるぞ・・」
 そこへ声がかかり、アルマジロガルヴォルスと男たちが振り向く。彼らの前にドラゴンガルヴォルスとなったハヤトが現れた。
「同じガルヴォルスが出てきたか・・だがな・・・」
 アルマジロガルヴォルスがハヤトにも不敵な笑みを見せてきた。ハヤトの後ろに、新たにクワガタムシの姿をしたスタッグビートルガルヴォルスが現れた。
「2人以上なら、同じガルヴォルスでも始末できるわけだ。」
「尻尾巻いて逃げるなら今のうちだ。」
 スタッグビートガルヴォルスとアルマジロガルヴォルスがハヤトにも不敵な笑みを見せてきた。しかしハヤトは全く動じない。
「逃げたほうがいいのはお前たちのほうだぞ。オレは悪いガルヴォルスには容赦できないからな・・」
「コイツ、痛い目にあわないと分からないヤツか・・」
「身の程を思い知らせておこうか・・」
 言いかけるハヤトに、スタッグビートガルヴォルスとアルマジロガルヴォルスが不敵な笑みを見せた。
「身の程を分かっていないのはおめぇらのほうだ・・・!」
 そこへ声がかかり、アルマジロガルヴォルスとスタッグビートガルヴォルスが視線を移す。2人の前に、ビーストガルヴォルスとなったトウガがカノンを連れて現れた。
「トウガ・・カノンさん・・・!」
 ハヤトがトウガたちを見て緊張を覚える。
「ハヤト・・おめぇもこっちに来てたのか・・・!」
 トウガがハヤトにも鋭い視線を向ける。
「またガルヴォルス・・これで3人になったぞ・・・!」
「焦ることはない・・両者は仲間という感じではないようだ・・やり様によってはオレたちにも希望がある・・・!」
 焦りを募らせるスタッグビートガルヴォルスに、アルマジロガルヴォルスが言いかける。
「ゴミクズは1人残らず叩きつぶす・・おめぇらも同じだ・・・!」
 トウガがアルマジロガルヴォルスたちに鋭い視線を向ける。
「おめぇらのようなヤツらが、世の中をムチャクチャにするんだよ!」
 トウガがアルマジロガルヴォルスたちに向かって飛びかかる。スタッグビートガルヴォルスが飛びかかり、頭の角でトウガの体を挟み込んだ。
「オレたちはお前たちの相手をしているほど暇じゃないんでな・・!」
「邪魔をするな、ゴミクズが!」
 必死に抑え込もうとするスタッグビートガルヴォルスに、トウガが怒号を放つ。彼は力を込めて、スタッグビートガルヴォルスの角をへし折った。
「ぐあぁっ!」
 スタッグビートガルヴォルスが激痛を覚えて昏倒する。彼を気に掛けながらも、アルマジロガルヴォルスはトウガたちから離れる。
「逃げるな!」
 トウガが怒号を放ち、アルマジロガルヴォルスを追いかける。アルマジロガルヴォルスがとっさに体を丸めて、防御の体勢に入る。
(このままヤツらから逃げ切る!オレは死ぬつもりはない!)
 心の中で必死に叫ぶアルマジロガルヴォルス。彼は高速で転がり、トウガから遠ざかる。
 そのとき、アルマジロガルヴォルスの体が突然宙で止まった。
(な、何っ!?)
 動けなくなったことに驚愕するアルマジロガルヴォルス。彼の動きを止めていたのは、念力を発しているカノンだった。
「トウガが逃げるなと言った・・だから、私も逃がさない・・・」
 カノンが低い声音で、アルマジロガルヴォルスに向けて言いかける。アルマジロガルヴォルスは彼女の念力から抜け出すことができない。
「ゴミクズは倒す・・オレたちが逃がさず滅ぼす・・・!」
 トウガがアルマジロガルヴォルスに向かっていく。
(こんなところで死ねるか・・死んでたまるものか!)
 アルマジロガルヴォルスが力を込めて、カノンの念力から強引に脱出した。
「逃げるなと言っている!」
 トウガが体から電撃を放出して、アルマジロガルヴォルスに飛びかかる。丸まったまま逃亡しようとするアルマジロガルヴォルスをつかんで、トウガが硬さのある背中に拳を叩き込んだ。
 そして力を込めたトウガが叩き込んだ拳が、アルマジロガルヴォルスの背中をぶち破った。
「ぐおっ!」
 体中に激痛が走り、アルマジロガルヴォルスが絶叫を上げる。トウガがさらに拳を叩きつけて、アルマジロガルヴォルスを地面に押し付けた。
 大きなダメージを負い、アルマジロガルヴォルスが身動きが取れなくなる。鮮血があふれている彼を、トウガが鋭く見下ろす。
「死にたくない・・オレはこんなところで死ぬわけには・・・!」
 必死に生き延びようと抗うアルマジロガルヴォルス。彼の言動はトウガの怒りを逆撫でする。
「そうやって生きようとしたヤツに、おめぇは何をした・・・!?」
「オレが生きるためだ・・他のヤツのことなど・・・!」
 鋭く言いかけるトウガだが、アルマジロガルヴォルスはあくまで自分を優先させていた。その態度にトウガが激高する。
「自分さえよければいい・・だからゴミクズどもは滅ぼさねぇといけねぇんだよ!」
 トウガが振りかざした拳がアルマジロガルヴォルスの頭部に叩きつけられた。絶叫を上げる間もなく、アルマジロガルヴォルスは即死した。
 乱れた呼吸を整えながら、トウガがカノンに目を向ける。彼女と頷き合った後、トウガがハヤトに視線を移す。
「オレはゴミクズを滅ぼす・・邪魔するヤツも容赦しねぇ・・それは絶対に変わることはねぇ・・ゴミクズを滅ぼすまでは・・・!」
「それで関係ない人まで巻き込まれるのを、オレは止める・・そのためならオレはもう、お前らに嫌われても憎まれても構わない・・鬼にも悪魔にもなってやる・・・!」
 揺るぎない意思を示すトウガと、彼を止める決意を強固にするハヤト。
「やっぱオレとおめぇは、戦うしかねぇってことか・・・!」
「ぶつかり合うしか止められないのは、いい気がしないな・・・!」
 互いに毒づきながら、トウガとハヤトが構えを取る。
「カノン、手を出すなよ・・コイツとはオレだけでケリを付ける・・・!」
「トウガ・・・うん・・・」
 トウガに言われて、カノンが小さく頷いて後ろに下がる。
「これで終わらせる・・オレとお前の戦いを・・・!」
「オレはおめぇを倒して、オレの戦いを続ける・・・!」
 互いの意思を貫いて、ハヤトとトウガが飛び出し、同時に拳を繰り出した。2人の互いに譲れない新たな戦いが始まった。

 大切な人を救うために、ガルヴォルスとの戦いに身を投じたハヤト。
 世の中の理不尽に振り回され、憎悪して戦いを起こしたトウガ。
 2人の揺るぎない意思はぶつかり合うしかない。

 その激突の後、ハヤトとトウガはそれぞれの信じる道を歩む。
 たとえこの先に何が待ち受けていても、2人は後悔することはない。
 
 
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