ガルヴォルス
-End of Absurb-
第8章

 

 

 ハヤトとトウガの激しい攻防。2人が大きなダメージを負って倒れたところで、ギルが姿を現した。
「感付いて近づいてきて、私たちに気付かれないように気配を消していたの・・・!?」
 カノンが声を荒げて、トウガたちを守ろうとする。
「そこの2人にウロウロされると、みんなが安心できないんでな・・」
 ギルは不敵な笑みを浮かべると、ダークガルヴォルスへと変貌する。
(トウガもハヤトさんも疲れ切っている・・2人とアイリさんを守れるのは、私しかいない・・・!)
 トウガたちを守ろうと、カノンが覚悟を決める。
「アイリさん・・トウガとハヤトさんを連れて、ここから離れて・・・!」
 カノンが声を振り絞り、アイリに呼びかける。
「カノンさん・・それじゃ、カノンさんが・・・!」
「今、戦えるのは私だけ・・あの人を止められるのは、私しかいない・・・!」
 声を荒げるアイリに、カノンがさらに呼びかける。
「庇い立てしようと考えているようだが、お前たち全員、この闇から出ることはできない。」
 ギルが不敵な笑みを浮かべてカノンたちを見据える。
「オレを倒せば確実に出られるが、お前にそれだけの力はないし、そこの2人も今はそれだけの力は残っていない。お前たちに希望は残っていないというわけだ。」
「こっちのことを勝手に決めるな・・トウガならそういうはず・・・」
 あざ笑ってくるギルに、カノンが低い声音で言い返してきた。
「ムチャクチャにされて、それが正しいことにされたくない・・それは、トウガだけの思いじゃない・・私だって・・・!」
「カノンさん・・・!」
 自分の本音を口にするカノンに、アイリが戸惑いを覚える。
「まだハッキリと記憶が戻ったわけじゃないけど・・それでも私は、トウガと一緒に・・・!」
 カノンは言いかけて、背中から翼を広げて衝撃波を放つ。
「アイリさん、逃げて!」
 カノンが声を張り上げて呼びかける。彼女の声に突き動かされて、アイリがハヤトとトウガの腕を肩に回して連れていく。
「お前を追い込んでも、崎山トウガは絶望するどころか、怒りを膨らませて力を増してきた。だからもうお前の相手をする意味はない・・」
 ギルはため息まじりに言うと、闇で満ちた地面に潜るように姿を消した。
(アイリさんたちを・・・!)
 カノンはすぐに、ギルがアイリたちを追っていったことに気付き、翼をはばたかせて動き出した。
 
 ハヤトとトウガを連れてギルから離れようとするアイリ。ハヤトたちの意識はまだ戻らない。
(カノンさん、無事でいて・・・ハヤト、早く目を覚まして・・・!)
 カノン、ハヤト、そしてトウガへの心配を膨らませていくアイリ。彼女は必死にハヤトとトウガを連れて歩いていく。
「逃げられないと言ったはずだぞ。」
 その彼女の前に、追いかけてきたギルが姿を現した。
「あなた!?・・カノンさんはどうしたの!?」
「アイツに何をしても意味はない。そのうち追いついてくるだろうが、その前にそこの2人を始末する。」
 驚愕するアイリが声を上げて、ギルが不敵な笑みを浮かべて近づく。
「ハヤトたちには手は出させない!こっちに来ないで!」
 ハヤトとトウガを守ろうとするアイリだが、ギルがあざ笑ってくる。
「ただの人間であるお前に、オレを止められることが不可能なのは、火を見るより明らかなのに・・・」
「ただの人間を甘く見ないで・・人間でいることが大事だって、言ってくれた人がいるし・・・!」
 それでもアイリは意思を強く持って、ギルから逃げまいと気を引き締める。
「度胸だけは認めよう。だが現実というものはイヤでも自覚することになる・・」
 ギルは笑みを消して、ハヤトとトウガに向けて闇を伸ばす。
「ハヤト!トウガさん!」
 アイリが2人を庇おうとするが、ギルの手に腕をつかまれる。
「お前はここでおとなしくしていろ。」
 冷たく言いかけるギルから離れることができないアイリ。ハヤトとトウガにギルの闇が迫る。
 そのとき、ハヤトとトウガの姿がギルとアイリの視界から消えた。
「まさか・・!?」
 驚きを覚えるギルが視線を移す。闇からハヤトとトウガを救い出したのは、飛行してきたカノンだった。
「カノンさん!」
 アイリもカノンの姿を見つけて声を上げる。アイリに微笑みかけてから、ハヤトとトウガを抱えて降りた。
「トウガ、ハヤトさん・・・すぐに回復を・・!」
 カノンが2人に意識を傾けて力を送る。彼女は2人の回復を行う。
「もう追いついてくるとは・・だが復活はさせないぞ。」
 ギルが改めてハヤトたちを仕留めようとする。そのとき、彼が伸ばしかけた右腕にアイリがしがみついてきた。
「ハヤトたちには手出しさせない!」
「邪魔をすると、お前から先に死ぬことになるぞ。」
 言い放つアイリに、ギルが低い声音で言いかける。彼が腕を振りかざして、アイリを振り払う。
「うっ!」
 地面に叩きつけられてアイリがうめく。ギルが改めてハヤトたちに狙いを向ける。
「これで終わりにする。まとめて葬らせてもらうぞ・・」
 ギルが闇を伸ばしてハヤトとトウガをカノン諸共押しつぶそうとする。闇が迫る中、カノンはトウガたちの回復をやめない。
「カノンさん!ハヤト、トウガさん!」
 顔を上げるアイリがたまらず叫ぶ。
(お願い、ハヤト・・目を覚まして・・起きて、ハヤト!)
 アイリが心の中でもハヤトに向けて叫んだ。
 そのとき、トウガがハヤトより先に意識を取り戻し、ビーストガルヴォルスとなって電撃を放出した。
「トウガ!」
 カノンが叫ぶ前で、トウガが電撃でギルの闇を吹き飛ばした。カノンから力を受け取って、トウガは少し体力を回復させていた。
「カノンに手を出すな・・これ以上オレたちに何もするな!」
 怒号とともに電撃を放つトウガ。電撃によって闇が吹き飛ばされ、ギルも衝撃を受ける。
「こうも早く目を覚ますとは・・だがすぐに全快とまでは・・!」
 ギルが目つきを鋭くして、トウガたちを押しつぶそうと闇を伸ばす。
「何もするなと言っている!」
 トウガがさらに電撃を放出して闇を吹き飛ばし、ギルに飛びかかる。ギルがとっさに地面の闇の中に逃げ込む。
「逃げるな!」
 トウガが右手を伸ばして、ギルの消えた地面を強く殴りつける。しかしギルの姿は見えない。
「出てこい!おめぇだけは必ず叩きつぶす!」
 トウガがさらに怒りを膨らませて、地面を強く踏みつける。
(私も、闇に隠れたあの人の居場所を見つけることができない・・まだ闇が広がっているから、近くに隠れているのは分かるけど・・・)
 カノンも感覚を研ぎ澄ませるが、ギルの気配を感じ取ることができない。
「今のうちにまた逃げたほうが・・私たち、まだ危ない状況だから・・・」
 アイリがトウガとカノンに向けて言いかける。
「もう逃げるつもりはねぇ・・敵は誰だろうと叩きつぶす!」
 しかしトウガは逃げようとせず、ギルを倒すことだけを考える。
(トウガさんはあくまで敵を倒すことしか考えていない・・カノンさんを守って、2人の願う理想を現実にするために・・・!)
 トウガの揺るがない意思を痛感して、アイリは逆に心を揺さぶられる。
(ハヤト、いい加減に目を覚まして・・いつまで寝ているつもりなの・・・!?)
 ハヤトに向けて呼びかけるアイリ。ハヤトはまだ目を覚まさない。
 次の瞬間、地面から闇の触手が一斉に伸びてきた。トウガは触手を押し付けられるも、力を込めて耐える。
「逃がさねぇ・・今、ここでおめぇを倒す!」
 トウガが触手の1つをつかんで引き抜こうとして、ギルを引きずり出そうと考える。
(ムダだ。この闇はオレの力で、体の一部ではない。ムダな努力というものだ。)
 ギルが闇の中で不敵な笑みを浮かべる。
(だが竜崎ハヤトが目を覚ますのも時間の問題だ。2人まとめてすぐに仕留めなければ・・)
 ギルがさらに闇の触手を伸ばして、トウガだけでなくハヤトにも狙いを定める。
「ハヤト!」
 アイリがハヤトに向かってたまらず駆け出す。しかし触手より先にハヤトにたどり着けない。
 そのとき、ドラゴンガルヴォルスとなったハヤトが手を伸ばして、闇の触手のうちの2本を受け止めた。
「ハヤト!」
 アイリが叫ぶ先で、ハヤトが力を込めて紅いオーラを放出する。彼は闇の触手を吹き飛ばすと、アイリに駆け寄った。
「アイリ・・大丈夫か・・・!?」
「ハヤト・・・それはこっちのセリフよ!全然目を覚まさなかったから・・!」
 心配の声をかけるハヤトに、アイリが悲痛さを込めて呼びかける。彼女の目から大粒の涙があふれてくる。
「悪かった、心配かけて・・だけど、オレは倒れたりしない・・・」
 ハヤトがアイリに謝ってから、闇で満ちた地面に目を向ける。
「アイツが参って出てくるまで、この闇を滅多打ちにしてやる・・オレたちが帰るためにな!」
 ハヤトがアイリのそばから飛び出すと、地面を全力で殴りつける。彼は打撃の衝撃をギルに加えようとしていた。
「くっ・・この手しかねぇか・・!」
 トウガも両手に力を込めて、地面を殴りつける。2人の打撃の衝撃が、闇の中に潜んでいたギルに届く。
(あの2人、こんなでたらめなマネを・・!)
 ハヤトとトウガの行動にギルが毒づく。
(もうこのままアイツらを相手してもムダか・・ならば!)
 追い込まれた彼は狙いを変えた。ハヤトとトウガの攻撃の衝撃から逃れて、アイリの背後から現れた。
「アイリ!」
「キャッ!」
 ハヤトが叫ぶと同時に、アイリがギルに捕まる。
「この娘はもらっていくぞ!」
「待て!アイリを放せ!」
 笑い声を上げるギルにハヤトが叫ぶ。しかし彼の手が届くことなく、アイリはギルに闇の中に引きずり込まれた。
「アイリ!・・ちくしょう!アイリを返せ!」
 2人が消えた地面にハヤトが握り拳を叩きつける。彼らのいる場所から暗闇が消えていく。
「ハヤトさん・・・」
 悔しさに打ちひしがれるハヤトの後ろ姿を見て、カノンが困惑していく。
「これがゴミクズどものすることだ・・自分たちのために他のヤツを平気で傷つけて、それを正しいことにする・・・!」
 トウガが敵のことをハヤトに向けて口にして、憤りを募らせる。
「そういうヤツらに何を言ってもムダだ・・その言葉さえも利用される・・だから叩きつぶすしかねぇんだよ・・・!」
「それでこれからも戦い続けるっていうのか・・・!」
 頑なな意思を示すトウガに、ハヤトが歯がゆさを浮かべる。
「オレとお前は今は敵が共通しているが、戦う理由は全然違う・・・」
 ハヤトはトウガに言いかけて、ゆっくりと立ち上がる。
「お前は敵を倒すためだが、オレは大切な人を取り戻すため、そして守るためだ・・・!」
 ハヤトはそう告げると、アイリを追って歩き出す。
「私たちとハヤトさんは、今は共通の敵がある・・それでも協力はしないの・・・?」
「オレたちはオレたちだ・・敵が同じだからといって協力するつもりはない・・」
 カノンがハヤトを心配するが、トウガは協力せずに自分たちだけでギルを倒そうとする。
「もうオレはムチャクチャに振り回されたくねぇ・・カノン、おめぇにもうあんな地獄を味わわせたくもねぇ・・・!」
「トウガ・・・」
「だからオレは戦う・・ゴミクズどもの思い通りには、絶対にさせねぇ・・・!」
 戸惑いを見せるカノンの前から、トウガが歩き出す。彼の思いを受け入れたカノンも、続けて歩き出した。
 
 アイリをさらってハヤトたちから逃げてきたギル。ハヤトとトウガの底力に、ギルの危機感は一気に高まっていた。
(隙を狙ってもこの逆境を跳ね返してしまう・・コイツを盾にしても、ハヤトはともかく、トウガには通じないだろう・・)
 ハヤトとトウガに対する手立てが見つからず、ギルが焦りを噛みしめる。
(潰し合わせるしか勝機はないが、その狙いはヤツらに知られてしまっている・・手立てが、見つからない・・・!)
 ハヤト、トウガの両方の打倒のための秘策を考えるギルだが、妙案が浮かばない。
(人質・・同士討ち・・・もはや博打の範囲だが、これしか手はないか・・・)
 しぼり出した1つの案に、ギルは笑みをこぼした。
 
 アイリを助け出そうと、満身創痍の体を突き動かして感覚を研ぎ澄ませるハヤト。しかしどこを歩き回っても、ギルの気配やアイリの声を捉えることができない。
(アイリ、どこだ・・どこなんだ!?)
 必死にアイリの行方を探すハヤト。手がかりもなくても、彼はアイリを救う決意を固めていた。
 そんなハヤトを、トウガとカノンは見ていた。
「ハヤトさん、アイリさんを助けようと必死に・・・」
「関係ない・・オレはまずは、アイツを倒すだけだ・・・!」
 ハヤトに戸惑いを感じていくカノンと、自分の意思を貫こうとするトウガ。
「あの人はまだ近くにいる・・アイリさんも・・それでもハヤトさんとは一緒には行かないんだね・・・?」
「あぁ・・アイツもオレたちの邪魔をするヤツだ・・だから気を許すつもりはねぇ・・・!」
 カノンが問いかけるが、トウガは考えを変えない。
「もしハヤトさんが、アイリさんを助けるために、私たちについてきたら・・・?」
「オレのやることは変わらねぇ・・邪魔するヤツも倒すだけだ・・・!」
 カノンからの更なる問いかけに答えてから、トウガは1人歩き出す。
「トウガ・・・ハヤトさん・・・」
 トウガもハヤトも心配しながらも、カノンはトウガに付いていく。
(私に気付いて、ハヤトさん・・私たちも、あの人を仕留めるために、あの人と、アイリさんのところへ・・・)
 カノンは心の中でハヤトに向けて念じた。彼が気付いてくれることを信じて。
 
 アイリを連れたギルは、ハヤトの居場所を探っていた。ギルはアイリを盾にして、ハヤトをトウガにぶつけようと企んでいた。
(あの3人と違って、この娘はただの人間。どう利用しようと大した抵抗はできない。どうにでもなる。)
 眠ったままのアイリを見て、ギルが笑みをこぼす。
(余計なことに固執することで身を滅ぼすこともある。この娘とハヤトがいい例えになる・・)
 ハヤトたちの心理状態をあざ笑い、ギルはアイリを連れてさらに移動していく。そしてギルはハヤトの姿を目撃した。
(ハヤト・・・トウガたちとは別行動・・これは好都合だ・・)
 野心を覚えるギルが、ハヤトに向かって近づいていった。
 
 アイリを探してひたすら駆け回るハヤト。彼は走り回りながらも、ガルヴォルスとしての力を回復させつつあった。
「落ち着け・・アイツはオレたちを狙ってる・・このまま尻尾巻いて逃げて、雲隠れするつもりはないはずだ・・・!」
 自分に言い聞かせて気分を落ち着かせようとするハヤト。深呼吸をしてから、彼は意識を集中する。
(アイリの声は聞こえない・・だけど、こっちに近づいてくる足音が・・・!)
 ハヤトは足音の接近を耳にしていた。彼はさらに落ち着きを払って、足音のする方に振り返った。
「まさか、逃げたのにまた戻ってくるとはな・・・!」
 ハヤトが低く鋭く言いかける。彼は足音だけでなく気配も捉えていた。
「気付いているか。だったら下手な隠し事は必要ないな。」
 姿を現したギルが不敵な笑みを浮かべた。
「アイリはどこだ!?アイリを返せ!」
 ハヤトがギルに問い詰めて、鋭い視線を向ける。
「あの娘は今は無事だ。だがお前が抵抗すれば命はないぞ。」
 ギルから脅しをかけられて、ハヤトが彼に対して踏み出せなくなる。
「卑怯だぞ、お前・・そんな考えで、トウガたちを襲ったっていうのか・・!?」
「オレは倒すべきと判断した相手は、徹底的に追い込んだほうが効果的だと思っている。トウガもそうして、華原カノンを追い込んだが、アイツは逆にその怒りを力に変えてきた・・」
 憤りを見せるハヤトに、ギルが不敵な笑みを絶やさずに語りかける。
「だがお前は違う。敵を倒すことを優先させるトウガと違い、お前は守ることを優先する。トウガほど怒りに身を任せることはない。」
「なるほどな・・オレならその手がうまくいくと思ったわけか・・だけどお前は勘違いをしている・・」
 ギルの話に対し、ハヤトが言い返す。
「昔のオレも、敵を倒すことを優先させていたんでな!」
 言い放つハヤトの頬に紋様が走る。
「あの娘が死んでもいいのか?」
 しかしギルに言われて、ハヤトはたまらず思いとどまる。
「確かに思い違いをしていたようだが、状況は全く変わっていないぞ。」
「お前・・・!」
「おとなしくしておけ。あの娘を無事に戻してほしかったらな・・」
 笑みを絶やさないギルに、ハヤトがいら立ちを募らせる。しかしアイリの身を案じて、ギルに手出しができない。
「助けてほしかったら、今度こそトウガと戦い倒すことだな。もちろんわざとらしくやられるのはなしだ。」
「そうやってオレたちは共倒れか、あのときのように・・・!」
 呼びかけてくるギルの言葉を聞いて、ハヤトがトウガとの戦いを思い出す。
「お前たちがいると、世の中は安定しないんだよ。おまえたちのように好き放題に動き回って・・特にトウガは敵を見つけては場所や他人を顧みずに見境なしに暴れる始末だ・・」
「だからって、お前のものさしで勝手に滅ぼされたんじゃたまったもんじゃないんだよ!」
「そうやって暴れられるのが、みんなの迷惑になっていることを自覚するんだな・・」
「お前・・そうやって何もかも、自分の思い通りにしようっていうのかよ!?」
 不敵な笑みを崩さずに言いかけるギルに、ハヤトが怒りをさらに膨らませる。
「オレが倒すのはガルヴォルスとは限らない・・オレたちをいいように利用しようとするヤツらが、オレの敵だ!」
「だとしてもお前は何もできない。お前が大事にしている人を考えるならば。」
 言い放つハヤトをギルがあざ笑う。アイリを盾にされて、ハヤトがいら立ちを募らせる。
「さぁ、トウガと戦え!そして互いにつぶし合え!」
 ギルがハヤトに向けて脅しをかける。そのとき、トウガとカノンが駆けつけて、ギルを目にした。
「おめぇ・・もう逃がさねぇ・・必ず叩きつぶす!」
 トウガがビーストガルヴォルスとなって、ギルに向かっていく。
「ハヤト、トウガと戦え!あの娘を死なせたくなかったら!」
 ギルがトウガの繰り出した拳をかわして、ハヤトに呼びかける。トウガが再び繰り出した拳を、飛び込んできたハヤトがわざと受ける。
「ぐっ!」
 吹き飛ばされたハヤトが激しく地面を転がっていく。彼にいら立ってから、トウガがギルに視線を戻す。
「オレはおめぇを倒す・・邪魔してくるヤツも叩きつぶす・・・!」
「やはり、お前には人質も意味はないということだな・・・」
 憎悪を向けるトウガに、ギルが肩を落とす。
「だがハヤトは違う・・他の人を見殺しにしたり、大切な人を気にして攻撃をためらうようなことをしないヤツではない・・」
「オレには関係ない・・オレはおめぇらゴミクズを滅ぼす・・それだけだ!」
 呟くギルにトウガが飛びかかり、具現化した剣を振りかざす。ギルは地面から闇を伸ばして、トウガの剣を受け止める。
「ハヤト、出てこい!あの娘がどうなってもいいのか!?」
 ギルがハヤトに脅しをかける。しかしハヤトはギルのところにやってこない。
「くっ!愚かな選択をしたというのか!?」
 憤ったギルは、遠くに置いていた自分の闇を動かして、拘束しているアイリを仕留めようとした。しかしギルはその手ごたえを感じない。
(何っ!?あの娘がいない!?)
 ギルは闇の中にアイリがいないことに気付き、驚愕する。
「どこを気にしてる!?」
 トウガが怒号を放ちながら、ギルに剣を振りかざす。ギルが闇を伸ばして防いでいくが、トウガの剣に闇が切り裂かれた。
(どういうことだ!?ハヤトもあの娘もどこに行った!?なぜ気配も感じられない!?)
 ギルが感覚を研ぎ澄ませるが、ハヤトもアイリも捉えることができない。
「やっと取り戻したぞ・・!」
 そこへ声がかかり、ギルが振り返って目を見開く。ハヤトとアイリがカノンと一緒にいた。
「私が2人を助けたの!私の意思で!」
「何だとっ!?」
 言いかけるカノンにギルが声を荒げる。
「あなたは目的のために、私たちを追い詰めるために手段を選ばない!だから私たちにはあなたたちのやることは想像できる!」
「お前・・その娘の居場所を感知したのか!?闇の中に閉じ込めていたのに!?」
「それでも私にはつかめた!アイリさんのいるところが!」
 驚愕するギルにカノンが言い放つ。彼女はカノンとハヤトの居場所を正確に探知したのである。
「おめぇ・・どこまでもオレたちにふざけたマネをしやがって・・・!」
 トウガが憎悪を募らせて、ギルに向けて剣を突き出す。ギルがとっさに動いて、紙一重で剣をかわす。
「許さねぇ・・おめぇらのようなゴミクズは、絶対に滅ぼす!」
 トウガが剣を横に振り抜く。剣の切っ先がギルの頬をかすめた。
「オレは・・オレはこんなところで死ぬつもりはない!」
 ギルは危機感を覚えて、闇を展開してその中にもぐりこんだ。
「逃げるな!」
 トウガが力を込めて地面を殴りつける。地面はめり込んだが、ギルの姿は出てこない。
「また・・どこまでもオレを弄びやがって!」
 トウガが激高して、さらに地面を強く踏みつけていく。
「落ち着いて、トウガ!もうあの人はこの近くにいない!」
 カノンが呼びかけて、トウガが足を止める。ギルに対する激情を抑えられず、トウガが体を震わせる。
「どこまでもオレたちをムチャクチャにして、いい気になってる・・だからゴミクズは野放しにはできねぇんだよ・・!」
「トウガ・・・」
 トウガの怒りに困惑するカノン。
「あんな怒りに身を任せたら、その怒りで自分を傷付けることになっちまう・・・!」
 ハヤトがトウガの荒ぶる姿を見て、危機感を募らせていく。
「それでもトウガは止まらないし、その傷さえも怒りに変えて、敵にぶつける・・それだけです・・・」
 トウガの性格や心境を察していたカノンは、自ら傷つくことになっても止まることはないと確信していた。
「ハ・・・ハヤト・・・」
 そのとき、眠っていたアイリが意識を取り戻して、ハヤトに声をかけてきた。
「アイリ!大丈夫か、アイリ!?」
「ハヤト・・カノンさん・・・ゴメン・・みんなに迷惑をかけてしまったみたい・・・」
 心配するハヤトに、アイリが戸惑いを見せながら謝る。
「そんなことはない・・無事に戻ってきたってだけでよかった・・・」
 ハヤトが安堵を見せて、アイリを抱きしめて無事を実感していく。
「アイリさん、ハヤトさん・・・トウガ・・・」
 ハヤトとアイリに安心を感じると、カノンは2人から離れてトウガに駆け寄っていく。
「ゴメン、トウガ・・・でもハヤトさんとアイリさんを見殺しにはできなかった・・・」
「それはいい・・オレもお前も無事だったから・・・」
 謝るカノンだが、トウガは気にしてはいなかった。
「アイツを追う・・絶対に逃がしはしねぇ・・世界の反対に逃げても、追いかけて叩きつぶす・・・!」
 トウガはギルを追って歩き出す。彼の心身を心配しながら、カノンもついていく。
「戦うのはせめて、体力を回復させてからにして・・トウガ、あなたはハヤトさんと戦って消耗していて、私が回復させたのもまだ少ししか・・・」
「カノン・・・あぁ・・だけど、休むにしても場所を変えてからだ・・他のゴミクズどもが、オレたちを狙って潜んでるかもしれねぇからな・・・」
 カノンの呼びかけを受け入れながらも、トウガは場所を変えることにした。
「カノンさん・・トウガさん・・・」
 トウガとカノンを気にして、アイリが不安を感じていく。
「やっぱり、この戦いはオレだけのほうがいい・・今みたいに、危険に巻き込まれることになるんだぞ・・・!」
 ハヤトがアイリの身を案じて、彼女に忠告を送る。するとアイリは首を横に振った。
「危険なのは分かっている・・それでも私は、ハヤトのそばにいたい!」
「アイリ・・・」
 アイリからの想いを聞かされて、ハヤトが戸惑いを覚える。
「オレもアイリと一緒にいたい・・失いたくない・・だから、オレはアイリを守って、トウガたちを止める・・」
「ハヤト・・私もこのまま、トウガさんたちを止めるために・・・」
 互いに想いを伝え合い、ハヤトとアイリが抱擁を交わす。頷き合った2人が、トウガとカノンを追って歩き出した。
 
 ハヤトを利用した同士討ちも失敗し、またも逃走する羽目になったギル。普段は冷静な彼だが、思うように事が運ばないことにいら立ちを感じていた。
「このままあのような連中に振り回されてなるものか・・必ず地獄を味わわせて、息の根を止めるぞ・・・!」
 ギルがハヤトとトウガへの憎悪に駆り立てられていく。
「だがやはり力が足りないか・・トウガは力を増してきているし、ハヤトと一緒に攻撃を仕掛けられたら、オレでも手に負えない・・」
 ハヤトとトウガを打倒する策を練り上げていくギル。
「オレの闇の力は無限・・世の中の平穏も不変・・揺るぎないものでなければならないのだ・・・!」
 自分が抱えている野心をむき出しにして、ギルは不敵な笑みを浮かべた。彼の足もとから闇があふれて広がっていった。
 
 
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