ガルヴォルス
-End of Absurb-
第7章
次々に人々に攻撃を仕掛けてくるトウガに、政府はまたも彼への対処を議論していた。「このままでは国民が安心できずに過ごすことになるぞ・・!」「しかし下手に手を出せば、我々に危害が及ぶことになる!」「だがこのまま手をこまねいていては、日本だけでない!世界がヤツによって混乱の一途を辿ることになる!」「我々には国に被害を出さずにヤツを仕留める手段がない・・ヤツを始末するには、国や人々を巻き込むことになるのは避けられない・・・!」「ヤツを倒すには、日本ほどの広さの国を犠牲にしなければならんとは・・!」「それでもやり遂げなければ!ヤツを倒さねば、どのみち我々が滅ぼされることになる!」「そのために国民を犠牲にするのか!?」「我々が残れば立て直しが可能だ!我々にはそれだけの力と権力がある!」 議論を重ねていく政治家たちは、次第に感情を織り交ぜるようになっていった。しかしトウガへの対策を決定するには至らない。 そのとき、会議場の扉が突然激しく吹き飛ばされた。腰を下ろしていた政治家たちがたまらず立ち上がり身構える。 会議場に現れたのはビーストガルヴォルスとなったトウガ。彼はそばにカノンを連れていた。「き、貴様は!?」「崎山トウガ!」 トウガの出現に政治家たちが驚愕する。トウガは彼らに鋭い視線と憎悪を向けていた。「おめぇらはいつもそうだ・・何度オレの怒りをぶつけても、自分の間違いを分かろうともしねぇ・・・!」「何が間違いだ!我々に間違いなどあるわけがなかろう!」 怒りを口にするトウガに、政治家の1人が怒鳴り返す。この言動がトウガの感情を逆撫でする。「過ちを繰り返しているのは貴様だ!己の力と感情のままに人殺しを繰り返して、それを何も悪びれることなく・・!」「それはおめぇらのほうだろうが!」 政治家の言葉をさえぎって、トウガが床を強く踏みつける。その衝撃に政治家たちの数人がバランスを崩してしりもちをつく。「自分たちのしている身勝手と思い上がりを棚に上げて、何も悪くないヤツを悪者に仕立て上げて、それを正しいことにする・・おめぇらゴミクズどもは、やっぱり滅ぼさなくちゃならねぇようだな!」 トウガは激高すると、カノンを後ろに下がらせてから飛びかかる。「う、うわあっ!」 悲鳴を上げる政治家たちが、トウガが振りかざす拳を体に受けて、壁に叩きつけられていく。「に、逃げろ!殺される!」「やめてくれ!頼む、助けてくれ!」 政治家たちが慌てて会議場から逃げ出そうとする。しかしトウガが蹴り飛ばした机や椅子をぶつけられて、彼らが昏倒する。「そうやって許してもらえる・・自分だけ逃げて、他のヤツを見捨てる・・ゴミクズのやり方ばかり・・・!」 政治家たちの言動に憤りを募らせるばかりのトウガ。彼の後ろ姿を見つめて、カノンが困惑していく。「おめぇらは存在することすら許されねぇ・・野放しにすれば、世の中がムチャクチャになるんだよ!」 トウガは言い放つと、政治家たちに飛びかかり拳を振るう。「ギャアッ!」 トウガの打撃を受けて、政治家たちが次々に昏倒していく。他の政治家たちも絶望に襲われて、トウガに殴られて鮮血をまき散らしていく。(これがトウガの戦い・・戦う理由・・・) トウガの姿を見てカノンが戸惑いを感じていく。(この光景・・私は前に見たことがある・・ずっとそばで、トウガの戦いを見てきた・・・) カノンが心の中で呟いて、トウガが続けてきた戦いを思い出していく。(ムチャクチャを押し付けて、それを正しいことにする人たち・・それが許せないから戦い続けてきた・・私たちのような、ムチャクチャに何もかも狂わされる人がもう出ないように・・・) トウガの戦う理由を改めて認識したカノン。トウガの戦いを悪いことだと思えず、カノンは心を揺さぶられていく。(人殺しはいけないことだけど・・それでトウガが悪いって、私には言えない・・・だって、トウガが憎んでいる人たちは、トウガ以上に悪いことを、たくさんしているから・・・) トウガの気持ちを察して、カノンは自分の胸に手を当てた。(私はあのとき決めた・・トウガに付いていくと・・トウガと一緒に戦うことを・・・そして、今も・・・!) 決意を固めたカノンの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼女は背中から翼を生やして、エンジェルガルヴォルスとなった。「カノン・・!?」 変化をしたカノンに一瞬驚くトウガ。しかし彼はすぐに視線を生き残っている政治家たちに向ける。「もうイヤだ・・これは夢だ・・・覚めるべき悪夢だ・・・!」 絶望に囚われた政治家が、現実を受け入れられずただただ悲鳴を上げる。「オレたちにその悪夢を見せてたのは、おめぇらだってこと、いい加減に理解しろ・・・!」 トウガは鋭く告げると、爪を振り下ろして政治家の体に突き立てた。血をまき散らした政治家たちは事切れて動かなくなった。「何度叩きつぶされても、ゴミクズどもはオレたちの怒りを理解しようとも思わねぇのか・・・!」 込み上げてくる憤りを噛みしめ、トウガが両手を握りしめる。「トウガさん・・・」 カノンは戸惑いを感じながら、トウガに近づき背中に寄り添った。「まだハッキリと記憶が戻ったわけではない・・でもこれだけは言える・・」 カノンがトウガに自分の思いを伝えていく。「私はトウガにどこまでも付いていく・・トウガなら、私を救ってくれると思うから・・・」 カノンが投げかけたこの言葉に、トウガは心を揺さぶられた。(まだ記憶を失っているはずなのに・・カノンはオレのことをそう信じてくれる・・オレなら自分を救ってくれるって・・・) 記憶を失う前のカノンのことを思い出して、トウガは戸惑いを覚える。そのときのカノンと今の彼女が重なったように感じた。「オレはオレの望む世の中のために戦う・・それが、おめぇのためにもなるなら・・・」「トウガ・・・うん・・私のためにも、十分なっているよ・・・」 自分の意思を口にするトウガに、カノンは心からの笑顔を見せた。「そうか・・・ならオレはこのまま突き進む・・オレがやるべき戦いを続ける・・・!」「私も私の道を歩く・・トウガと同じ道だけど・・・」 トウガも微笑んで歩き出し、カノンも彼に続く。「カノン・・おめぇがそばにいてくれるなら、オレは安らぎを持てる・・・」「私もよ、トウガ・・あなたと、これからも一緒に・・・」 気持ちを1つにして、トウガとカノンが微笑み合う。会議場を出たところで、カノンは表情を曇らせた。(アイリさん、あかりさん、ハヤトさん・・ごめんなさい・・あなたたちの気持ちを踏みにじることになるかもしれない・・それでも私、トウガのために・・・) ハヤトたちのことを気にして辛さを覚えるカノン。それでも彼女はトウガと同じ道を進む決意を固めていた。 会議場が襲撃されたニュースは、ハヤトたちの耳にも届いていた。「きっとトウガがやったんだろうな・・」「また、カノンさんと別れて、1人で行動しているのかな・・・?」 ハヤトとアイリはこの事件がトウガのしたことだとすぐに察した。「まだ遠くに行ってないはずよね?・・トウガさんを探してみましょう・・」「あぁ・・だけど危なくなったら、すぐに逃げるんだぞ・・」 互いに呼びかけ合って頷いてから、アイリとハヤトはトウガを探しに駆けだした。 感覚を周辺に傾けていくハヤト。しかしトウガも他のガルヴォルスも捉えることができない。(力を使ってれば、気付けないことはないのに・・・!) 感覚を研ぎ澄ませても気配を感じ取れず、ハヤトは焦りを覚える。「力でしか感じ取れないのかな?・・声や音は拾えないのかな・・・?」 アイリがハヤトに提案を持ちかけてきた。「やったことないから分かんないけど、やってみるか・・・!」 アイリに促されて、ハヤトは目を閉じて聴覚を研ぎ澄ませた。しかし街中の人々の声や足音、車の音だけでなく、風やあらゆるものの音まで耳に入ってしまう。(もっと集中しないとダメなのか・・・!) ハヤトが集中力を高めて、トウガの居場所を求めて探索の範囲を絞ろうとする。「くっ・・こうもうまくいかないなんて・・・!」 それでもトウガもカノンも見つけられず、ハヤトが苦悩を深める。「ハヤト・・・私にも、力があったら・・・」 アイリが自分の無力を感じて、表情を曇らせる。「そんなこと言うな・・戻れなくなっちまうぞ・・オレや、トウガたちみたいに・・・」「ハヤト・・・ゴメン・・私は、人間でないといけない・・私が人間でいることが、とても大事なことだね・・・」 ハヤトに言いかけられて、アイリが物悲しい笑みを浮かべて謝る。「ここは地道に探すしかないってことか・・場所を変えてまた探してみる・・」「分かった・・私もできるだけ周りを見て探してみるよ・・・」 ハヤトとアイリは声をかけ合い、トウガとカノンの捜索を続けた。 政治家たちを仕留めたトウガは、カノンとともに街外れを移動していた。彼の顔を見るなり、そばにいた人々が慌てて避けていく。(みんな、トウガのことを知っている・・トウガを刺激したら殺される・・警察も止められないことが分かっていて、手出しができない・・・) トウガの存在が世の中を震撼させていることを、カノンも痛感していた。しかしトウガは人々の怯える様子を意に介さず、牙を向けようともしない。 世の中を乱す行動を取らなければ、トウガは憎悪を向けることはない。カノンはそのことも理解していた。「トウガ、次はどこに行くの・・・?」「さっきはゴミクズどもがいたから叩きつぶした・・オレの1番の目的は、アイツだ・・・!」 カノンが声をかけて、トウガがギルのことを考えて両手を強く握りしめる。カノンもギルのことを思い出して、不安を覚えて自分の胸に手を当てる。「心配することはねぇ・・もうアイツには、おめぇに手を出させねぇ・・・」 トウガがカノンを自分に抱き寄せて、本音を口にする。彼からの抱擁を受けて、カノンが戸惑いを覚える。(トウガなら大丈夫・・トウガと一緒なら私、どんなことでも・・・) トウガへの思いをさらに強めていくカノン。その先に何が合ってもトウガと一緒にいると、カノンは気持ちをさらに強めた。 トウガと歩いていく途中、カノンはふと足を止めた。「カノン・・・?」「近くにいる・・ハヤトさんが、この近くに来ている・・・」 同じく足を止めたトウガに、カノンが弱々しく答える。ガルヴォルスの力を取り戻した彼女は、ハヤトやトウガ以上に感覚が鋭い。「アイツ、またオレたちの邪魔を・・・!?」 トウガはハヤトに対して、憎悪を傾ける。「私たちそのものじゃなくて、私たちが関係ない人を巻き込むのを止めようとしているんじゃ・・・」「そうだとしても、オレは止まるつもりはないし、邪魔をしてくるなら容赦しねぇ・・それに、ゴミクズどもを野放しにしてる時点で、関係ねぇなんてことはねぇ・・・!」 不安を口にするカノンに、トウガが頑なな意思を示す。(トウガはもう変わらない・・敵を滅ぼすまで、絶対に止まらない・・そして私は、トウガについていく・・・) トウガへの心境を察しながらも彼についていく。カノンは自分の思いを確かめていた。 ハヤトに近づこうとも離れようとも思わず、トウガは進路を変えることなく歩いていった。 トウガとカノン、そしてハヤトとアイリの動きを、ギルも把握していた。しかしギルは彼らに手を出さずに、動向をうかがうにとどめていた。(焦っても仕方がない。遅かれ早かれぶつかり合うことになる。それを待つんだ・・) 自分に言い聞かせるギルが笑みをこぼす。(お前たちがいると面倒になってくる・・この世界にもオレにも・・) 期待を膨らませながら、ギルは1度ハヤトたちとトウガたちとの距離を置いた。 ギルや他の敵を追い求めて、トウガはカノンとともに歩き続けた。その彼らを恐怖して、周囲の人々は遠ざかっていく。 しかしトウガを恐怖する人ばかりではなかった。 歩道を歩くトウガが突然小石をぶつけられた。右のこめかみに当たったが、トウガは痛みを感じず血も出ていない。「だ・・誰・・・?」 カノンが当惑を覚えながら視線を移す。ガルヴォルスの気配を彼女は感じない。 足を止めたトウガとカノンの前に、1人の少年が現れた。「人殺し!僕のパパとママを返せ!」 少年が文句を言って、持っていた小石を投げつけてきた。今度はトウガは顔を動かして小石をよける。「オレがおめぇらに何をした・・・!?」 トウガも少年に向けて鋭い視線を向ける。「とぼけんな!お前が暴れて、パパとママが巻き込まれて殺されたんだ!お前が好き勝手しなければ!」「あなた、トウガの戦いで・・・」 少年の話を聞いて、カノンが戸惑いを覚える。しかしトウガの意思は変わらない。「オレは世の中を乱すゴミクズどもを叩き潰しただけだ・・ゴミクズどもを野放しにすることも、もう悪いことだ・・・!」「ふざけんな!パパもママも何も悪いことはしてない!世の中を乱してるのはお前のほうだろうが!」 怒りを口にするトウガに、少年が怒鳴り返す。彼の態度にトウガが憤りを募らせる。「こんな子供もか・・オレを悪いと決めつけて、自分は正しいと思い上がるヤツが・・・!」 トウガが鋭く言いかけて、ビーストガルヴォルスになった右足に力を込めた。強く踏みつけられた地面がひび割れを起こして、少年がその衝撃の揺れでふらついて倒れる。「オレにそういうムチャクチャを押し付けるなら、オレは容赦しねぇぞ・・・!」 さらに鋭く睨みつけてくるトウガ。緊迫と恐怖を感じながらも、少年は逃げようとしない。「自分のことを棚に上げて!お前の言いなりになるぐらいなら、死んだほうがマシだ!」 少年がトウガにまた小石を投げつけようとした。「やめて・・トウガに手を出さないで・・・」 そのとき、カノンもエンジェルガルヴォルスになって、背中の翼を広げてはばたかせた。彼女の力を受けて、少年は意識を失って倒れた。「カノン・・・!」「トウガは悪くない・・でもこの子にもまだ将来があるから・・私たちは、その将来を断ち切るために戦っているんじゃ・・・」 振り向くトウガに、カノンが深刻な面持ちで言いかける。いくら自分が正しくても、子供を無慈悲に手にかけることを、カノンはしたくはなかった。「もしまた攻撃してくるなら、今度は容赦しねぇ・・・!」 憎悪を口にするトウガに、カノンはこれ以上声をかけることができなかった。 世の中の理不尽を消すためなら、誰が相手でも容赦しない。トウガのこの意思は誰にも曲げられないことを、カノンは分かっていた。「あ・・トウガさん・・・!」 そのとき、カノンが声を上げて、トウガが振り向く。2人の前に、彼らを探して駆けつけたハヤトとアイリがいた。「ハヤトさん・・・アイリさん・・・!」 カノンがハヤトたちを見て緊張を覚える。今、自分たちが力を使ったのを感付かれたのだと彼女は思った。「トウガ・・まだ敵を・・そのために関係ない人を巻き込んでいるのか・・・!?」 ハヤトがトウガに向けて問いかける。「オレの邪魔をしてくるなら容赦しねぇ・・そう言ったはずだ・・・!」「だからオレは覚悟を決めた・・このやり方を貫こうとするお前を止めることを・・・!」 鋭い視線を向けてくるトウガに、ハヤトが真剣な面持ちで決意を口にする。「だったら叩きつぶす・・オレはこのままムチャクチャにされるわけにいかねぇんだよ・・・!」 敵意を見せるトウガだが、ハヤトは退かずに対峙する。「カノンさん、私は人間だけど、ハヤトに手は出させない・・トウガさんを助けようとしているのは分かっている・・・」 アイリがカノンに向けて呼びかける。アイリは体を張ってでもカノンに手を出させないようにしようと考えていた。「トウガ・・・」「オレだけでいい・・おめぇは戦わなくていい・・・」 不安を浮かべるカノンにトウガが呼びかける。「分かった・・でも、危なくなったら呼んで・・すぐに行くから・・・」「あぁ・・・」 頷くカノンにトウガが答える。ハヤトとアイリに意識を向けながら、カノンはトウガから離れた。「1対1の対決だ・・丁度、周りに他のヤツはいない・・・」 ハヤトが言いかけて、トウガと真正面から向かい合う。「オレは世の中に散りばめられているムチャクチャを叩き潰す・・乱しているゴミクズどもを滅ぼす・・・!」「それで世の中をよくしていこうっていう気持ちそのものを否定するつもりはない・・だけど、そのために関係ないヤツまで巻き込んで、イヤな気分を広げるのは、絶対に止めなくちゃならないんだ・・!」「もう誰も関係ねぇなんてことはねぇ・・どいつもこいつもゴミクズどもを野放しにして、自分たちだけがよければそれでいいと考えてる・・それじゃダメだってことを、みんな思い知らないといけねぇんだよ・・・!」「そんな無理やりなやり方・・お前が嫌ってきた強引と同じだろうが・・・!」 自分の意思を貫こうとするトウガと、彼の戦い方を止めようとするハヤト。「オレはゴミクズどもとは違う・・自分たちさえよければそれでいいゴミクズじゃない!」 怒号を放つトウガの頬に異様な紋様が浮かび上がる。ハヤトの頬にも紋様が走る。 トウガとハヤトの姿がビーストガルヴォルス、ドラゴンガルヴォルスとなった。「お互い、言っても分からないってことだ・・だったらもうやることは1つしかない・・・!」「戦って・・倒すだけ・・・!」 低く告げるハヤトとトウガが、互いを鋭く見据える。2人がゆっくりと互いに向かって歩いていく。 そして2人の距離が眼前となったところで、ハヤトとトウガが同時に拳を振りかざす。2人は同時に互いの拳を受けて、大きく突き飛ばされる。 激しく転がっていくハヤトとトウガを目の当たりにして、アイリもカノンも困惑を隠せなくなる。倒れたハヤトとトウガがすぐに立ち上がり、視線を戻す。(ホントに自分の心を曲げない・・揺るがない強い意思ってヤツか・・・!)(アイツ、自分勝手なゴミクズどもとは違う・・他のヤツのこともしっかりと考えてやがる・・・!) ハヤトとトウガが互いの心境を悟って毒づく。(けどだからって、おとなしく引き下がるわけにはいかねぇ・・オレがやらなきゃ、世の中は悪くなるだけなんだよ・・!) それでもトウガは引き下がらず、自分の戦いを貫こうとする。(それで悲しんだり傷ついたりする人が出てくるなら、オレは黙って見ているわけにいかない・・!) ハヤトも意志を強く持って、トウガに向かっていく。 ハヤトとトウガが連続で拳を振るっていく。何度強い打撃を受けながら、2人は攻め立てていく。(ハヤト・・トウガさん・・・2人とも、力だけじゃなく、勢いもすごい・・・!) ハヤトとトウガの戦いを見つめて、アイリが緊張を募らせていく。(譲れないものがある人同士・・そのぶつかり合いも、ものすごい重みがある・・・) カノンも2人の戦いに息をのんでいた。(どちらかしか、自分の考えを貫けない・・もう手を取り合うことはできない・・・)(2人の考えは、全く同じというわけじゃないから・・・) ハヤトとトウガの意思も戦いも止められないと通感じて、カノンもアイリも困惑を感じていた。 ハヤトとトウガの拳は、互いの体に次々に叩き込まれていく。しかし2人は怯まずに攻撃を続ける。「オレはもう耐えられねぇんだよ・・ムチャクチャに押しつぶされて、それが正しいことにされることに!」 怒りを募らせるトウガの体から電撃がほとばしる。彼の力が一気に高まる。「オレだってそんなのはまっぴらゴメンだ・・何とかしたいって気持ちは、お前たちだけのものじゃない・・・!」 ハヤトも両手を強く握りしめて、体に力を込める。「オレもこのまま、何もしないでじっとしてるわけにはいかないんだ!」 彼も紅いオーラを放出して、力を解放した。2人の力がぶつかり合い、火花のような衝撃が巻き起こる。(本気でぶつかる・・ハヤトとトウガさんが・・・!) アイリの緊張がさらに膨らんでいく。ハヤトとトウガが同時に繰り出した拳がぶつかり合うと、さらに強力な衝撃が周囲にほとばしった。「うっ!」 その衝撃に押されるアイリを、カノンが受け止めて支える。「大丈夫ですか・・!?」「は・・はい・・ありがとうございます、カノンさん・・・!」 心配の声をかけるカノンに、アイリが感謝する。衝撃が治まって、2人が落ち着きを取り戻す。「ハヤト・・・!」「トウガ・・・!」 アイリとカノンがハヤトとトウガに視線を戻す。ハヤトとトウガは拳をぶつけたまま、力比べをしていた。 ハヤトが右足を上げて、トウガに膝蹴りを当てる。一瞬怯むトウガだが、すぐに拳を振りかざしてハヤトを殴りつける。 攻撃を当てられても踏みとどまり、ハヤトとトウガが拳と足をぶつけていく。それぞれの強い意思が彼らを突き動かしていた。「ハヤトもトウガさんも、耐えて反撃している・・互角の戦い・・・!」「でも力を高めているから、受けるダメージも高いはず・・それでも立って、立ち向かおうとしている・・2人とも・・・」 息をのむアイリに、カノンが深刻さを募らせていく。どちらが勝っても、戦いが終わってすぐは消耗が大きくなっているはずだと、カノンは予感していた。(結果がどうなるとしても、トウガが疲れたところを狙ってくる人がいるなら、私がトウガを守る・・・!) 自分とトウガが最悪の事態にならないように、カノンは気を引き締めていた。 ハヤトとトウガが繰り出した打撃が同時に直撃して、2人が衝撃に押されて地面に強く叩きつけられる。「ぐっ!・・マジで、とんでもない力だ・・・!」 体に激痛が駆け巡るのを感じて、ハヤトが顔を歪める。「オレは・・オレは倒れるわけにはいかねぇ・・・!」 トウガが力を振り絞って立ち上がり、ハヤトを鋭く見据える。 ハヤトとトウガがまた拳を振りかざし、殴り合う。何度打ちのめされても、2人とも引き下がろうとしない。「オレはゴミクズどもを野放しにはしねぇ・・邪魔してくるヤツも容赦しねぇ・・・!」 トウガが声と力を振り絞り、ハヤトに立ち向かう。「もうムチャクチャに振り回されたりはしねぇ・・オレも、カノンも・・・!」「そのために他のヤツを巻き込んで、平気でいるヤツじゃないはずだろ・・・!」 感情をあらわにしていくトウガに、ハヤトも必死に呼びかける。「カノンみてぇに、他のヤツのことを考えられる人が他にたくさんいるなら、オレたちはこんな苦痛を押し付けられることもなかったのに・・・!」 カノンのことを思い、トウガが歯がゆさを募らせていく。「けどオレは戦う・・敵を叩き潰す・・敵が何も変わらない、変わろうともしないから!」 トウガが怒号を放ち、ハヤトに拳を振りかざす。ハヤトが拳の直撃を受けるが、力を込めて踏みとどまる。「それがお前の、本当の思いってヤツか・・・!」 トウガの力に耐えながら、ハヤトが言いかける。「オレにだって、心から許せないヤツはいる・・ただオレは、向こうが手出しをしてきたときに、オレは戦うことを決めている・・・!」「それじゃ手遅れなんだよ・・のんびりしてる間に、ゴミクズどもは思い上がりを膨らませていく・・そんなこと、もうオレが絶対にさせねぇ!」 自分の考えを告げるハヤトだが、トウガは自分の考えを曲げない。「オレとお前でも、どうしても分かり合えないって言うのかよ・・・!」 歯がゆさを募らせるハヤトが、トウガに殴り掛かる。殴られて押されるトウガだが、すぐに踏みとどまる。「受け入れることが、死んだも同然になるってこともあるんだよ・・・!」「だからって、オレたちまで・・他のいいヤツまで・・・!」 互いに声と力を振り絞るトウガとハヤト。2人が両手に力を込めていく。(次で決まる・・2人の対決が・・・!) カノンがハヤトとトウガの対決の決着を予感する。2人が構えた拳を全力で振りかざす。 この戦いの中で1番の衝撃が周囲を揺るがした。ハヤトとトウガの拳が互いの体に命中した。 その瞬間の体勢のまま、ハヤトとトウガは動かなくなった。「ハヤト・・・!」「トウガ・・・!」 アイリとカノンが緊張を膨らませて、2人をじっと見つめる。しばらく静止してから、ハヤトとトウガがゆっくりと倒れた。「ハヤト!」「トウガ!」 アイリとカノンがハヤトとトウガに駆け寄って支える。「ハヤト、しっかりして!ハヤト!」「トウガ、大丈夫!?目を覚まして、トウガ!」 アイリとカノンが呼びかけるが、ハヤトもトウガも意識を失っている。「早く回復させないと・・2人とも体力が・・・!」 カノンが力を使って2人を回復させようとする。 そのとき、アイリたちのいる場所が闇に包まれた。「この暗闇・・まさか!?」 緊迫を覚えたカノンが、アイリと一緒に振り返る。彼女たちの前に現れたのはギルだった。「このときを待っていた・・お前たちが互いにつぶし合い、疲れ切るときを・・」 ハヤトとトウガが倒れているのを見下ろして、ギルが不敵な笑みを浮かべる。近付いてくる彼に、アイリとカノンは緊迫を隠せなくなっていた。 第8章へ 作品集に戻る TOPに戻る