ガルヴォルス
-End of Absurb-
第5章

 

 

 ガクト、かりんと別れたハヤトとアイリは、マンションの近くまで来ていた。そこで2人はあかりに連絡をした。
「あかり、今日は仕事だったね・・」
「荷物を部屋に置いて、スイートに行くとするか・・」
 あかりとの連絡を終えて、アイリとハヤトが声をかけ合う。2人はそれぞれ自分の部屋に自分の荷物を置いて、スイートを目指した。
「今回のこと、あかりも連れてきたほうがよかったかな・・・?」
「今回のことは、元々オレ1人の用事だったんだ。気にすることはない・・」
 あかりのことを気にしたアイリに、ハヤトが憮然とした素振りを見せて答える。
「今度はあかりも一緒かな・・」
「そうだな・・また仲間外れにしたら、今度こそ怒るだろうな・・」
 苦笑いを見せるアイリに、ハヤトがため息まじりに答える。
「今、ハッキリしてるのは、アイツのやってることを止めること・・無関係なヤツまで殺すようなことはさせない・・」
「気を付けて、ハヤト・・無事に戻ってくることを優先して・・・」
「分かってる・・必ず生きて戻ってやるさ・・・」
 アイリとハヤトが声をかけ合い、笑みをこぼした。2人はスイートを目指して歩いていった。
 昼の客入りが過ぎて落ち着きを取り戻したスイート。その店内に1人の男がやってきた。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」
 まりんがやってきて応対する。しかし男はその場から動かない。
「あ、あの・・・?」
 まりんが男に対して疑問を投げかける。
「竜崎ハヤトはここにいるか?」
 すると男が声をかけて、まりんに聞いてきた。
「ハヤトくんですか?今日はいませんが・・」
「そうか・・それは好都合だ・・・」
 まりんの答えを聞くと、男が笑みを浮かべた。彼の頬にも異様な紋様が浮かび上がった。
「えっ・・!?」
 まりんが男の変貌に目を見開く。男がサソリの怪物、スコーピオンガルヴォルスとなった。
「バ、バケモノがここに!?」
 店内にいた客たちがスコーピオンガルヴォルスを目の当たりにして悲鳴を上げる。
「アイツへの見せしめにするために、ここを叩き潰してやる!アイツの居場所は全部叩きつぶしてやるぞ!」
「に、逃げろ!」
 言い放つスコーピオンガルヴォルスから、客たちが慌てて逃げ出していく。
「みなさん、早く外へ逃げてください!」
 まりんが客たちに避難を呼びかけるが、スコーピオンガルヴォルスが振りかざした右手に殴られる。
「うっ!」
 まりんが壁に叩きつけられて、うなだれて意識を失った。
(た、大変!ハヤトくんに知らせないと!)
 物陰にいたあかりが慌ててハヤトへの連絡を取った。
 スイートに向かって歩いていたハヤトとアイリ。その途中、ハヤトは気配を感じて足を止めた。
「ハヤト、どうしたの?・・また、怪物が・・・!?」
 アイリも緊張を覚えて、ハヤトに声をかける。同時にハヤトの持っていた携帯電話が受信した。
「あかり!?・・あかり、どうした・・!?」
 ハヤトが電話に出て、あかりに声をかける。
“ハヤトくん、早く来て!怪物が店に!”
「何っ!?スイートに!?」
 あかりからの言葉にハヤトが驚愕の声を上げる。
「すぐに行く!何とか逃げ切れ!」
 ハヤトはあかりに呼びかけると、携帯電話をしまって駆け出した。
「ハヤト!」
 アイリも追いかけるが、ハヤトは彼女を置いてスイートへ急いだ。
 ハヤトへの復讐のため、スイートを襲撃したスコーピオンガルヴォルス。彼がテーブルや椅子を次々に蹴り飛ばしていく。
(まりんさん・・しっかりしてください・・・!)
 あかりが気絶しているまりんをこっそり引っ張って連れ出そうとした。
「ここのウェイトレスには、アイツに苦しみを味わわせる役をやってもらうぞ・・!」
 スコーピオンガルヴォルスが言いかけて、あかりたちに振り向いた。
(ば、ばれてた~!?まずいよ~!)
 あかりが緊迫を募らせて、近づいてくるスコーピオンガルヴォルスから必死に逃げようとする。
(ダメ!逃げられない!)
 スコーピオンガルヴォルスから逃げ切れないと痛感し、たまらず目を閉じた。
 そのとき、スコーピオンガルヴォルスが強い気配と威圧感を感じて、たまらず足を止めた。
(何だ、このすさまじい感じは!?・・竜崎ハヤトではない・・・!)
 スコーピオンガルヴォルスが緊迫を募らせて、周囲に意識を向ける。彼の注意がそれているのを見て、あかりがまりんを連れて離れる。
 スイートのドアがゆっくりと開いた。中に入ってきたのは、ビーストガルヴォルスとなったトウガだった。
「自分の目的のために他のヤツにまでムチャクチャを押し付けるゴミクズ・・1人も逃がしはしない!」
 トウガが憎悪をむき出しにして、スコーピオンガルヴォルスに飛びかかる。
「おのれ!」
 スコーピオンガルヴォルスが迎え撃つが、トウガの繰り出した拳に殴り飛ばされる。
「ぐあっ!」
 スコーピオンガルヴォルスが壁を突き破り、外まで飛ばされる。トウガがゆっくりとスコーピオンガルヴォルスに向かって歩いていく。
(また1人怪物が・・も、もっと離れたほうが・・・!)
 あかりが緊迫を募らせて、まりんを抱えてスイートから離れた。とこで駆けつけてきたハヤトと対面した。
「わわっ!ハヤトくん!ビックリしたよ~・・」
「2人は無事だったみたいだな・・ガルヴォルスは・・!?」
 安心するあかりにハヤトが問いかける。
「店の外に・・他の怪物もやってきて、戦ってるよ・・!」
「他にも・・・この感じ、アイツ・・・!」
 あかりの話を聞いて、ハヤトがトウガの出現を予感した。彼はトウガたちのほうへ駆け出した。
「ハヤトくん・・・」
 ハヤトの後ろ姿を見つめて、あかりが戸惑いを覚える。そこへアイリも駆けつけて、あかりたちの前で足を止めた。
「あかり、無事だったんだね・・まりんさんも・・・!」
「アイリも来てくれたよ~!よかった~!」
 互いに安堵の笑みを見せるアイリとあかり。
「私たちで、逃げ遅れている人を助けよう、あかり・・!」
「アイリちゃん・・うんっ!」
 アイリが呼びかけてあかりが頷く。急行してきた救急隊員にまりんを預けると、2人はスイートの店員や客たちを助けに向かった。
 強襲を仕掛けてきたトウガに、スコーピオンガルヴォルスは悪戦苦闘を強いられていた。
「何なんだ、お前は!?オレはあの店にいるあるヤツに復讐しに来たんだ!」
「そのために他のヤツを巻き込んで平気でいるのかよ・・・!?」
 必死に呼びかけるスコーピオンガルヴォルスに、トウガが鋭く言いかける。
「お前だって他のヤツを巻き込んでいるじゃないか!自分のしていることを棚に上げて、オレを攻撃してくるなど!」
「棚に上げているのはおめぇらゴミクズだろうが!オレを悪者だと勝手に決めつけて、自分たちは正しいことにして!」
 不満をあらわにするスコーピオンガルヴォルスだが、トウガはさらなる怒号を放つ。
「お前もアイツと同じだ・・自分が被害者だと思い込んで、自分が加害者になっていることを気づこうともしない・・・!」
 スコーピオンガルヴォルスがトウガにも激しい憎悪をかき立てる。
「お前も許してはならないヤツのようだな!」
 激高したスコーピオンガルヴォルスが前に出した両手から毒針を放つ。トウガはジャンプして毒針をかわす。
 そこへスコーピオンガルヴォルスが飛びかかり、空中にいるトウガに拳を振りかざす。殴られたトウガが地面に叩き落とされる。
「お前も必ず仕留める!」
 スコーピオンガルヴォルスが再び毒針を飛ばす。トウガが体に毒針を当てられて、麻痺を覚える。
「この毒を受ければ体は麻痺を起こす!普通の人なら即死するほどのな!」
 着地したスコーピオンガルヴォルスがトウガを見下ろす。
「ガルヴォルスでも受けてすぐに動くことはできないはずだ!今のうちにお前を!」
 スコーピオンガルヴォルスがトウガにとどめを刺そうと爪を振り上げる。
「おい、やめろ!」
 そこへハヤトが駆けつけて呼びかけてきた。スコーピオンガルヴォルスが手を止めて、ハヤトに目を向けた。
「竜崎ハヤト!・・ようやく現れたか・・!」
 スコーピオンガルヴォルスがハヤトに鋭い視線を向ける。
「お前はオレの仲間を手にかけた・・この恨み、必ず晴らしてやるぞ!」
 スコーピオンガルヴォルスが怒号を放ち、ハヤトに飛びかかる。ハヤトがとっさにドラゴンガルヴォルスとなって、スコーピオンガルヴォルスを迎え撃つ。
「オレへの恨み!?まさかそのためにスイートに、あの店に乗り込んできたっていうのか!?」
「お前にも思い知らせるためだ!仲間の苦しみをお前に味わわせるために!」
 憤りを覚えるハヤトに、スコーピオンガルヴォルスが憎悪を傾ける。彼が繰り出した拳を、ハヤトが手で受け止めた。
「そのためにオレに近しい人を襲ったのかよ!?オレが狙いなら、オレを直接狙えばいいのに!」
「お前に仲間の苦しみを味わわせると言ったはずだ!お前の身近なヤツに地獄を味わわせれば、1番効果的だからな!」
 互いに怒りの声を上げるハヤトとスコーピオンガルヴォルス。
「お前の仲間を殺したオレを許せない気持ちは分かる・・だけど、それで関係ないヤツを巻き込もうとするなら、オレはお前に罪滅ぼしをしてやるわけにはいかないな!」
 激高したハヤトが握りしめた拳をスコーピオンガルヴォルスに叩き込んだ。
「ぐっ!」
 重みのある一撃を体に受けて、スコーピオンガルヴォルスが壁に叩きつけられる。苦痛を感じて顔を歪めるも、スコーピオンガルヴォルスが力を振り絞って起き上がる。
「オレはお前を許さない・・みんなに手を出させないために、お前を倒す!」
「お前・・自分がしたことを棚に上げて、ふざけたことをぬかすな!」
 強い意思を示すハヤトに、スコーピオンガルヴォルスが怒号を放つ。彼が手を前に出して毒針を連射する。
 ハヤトは全身に力を込めて、紅いオーラを放出した。オーラがスコーピオンガルヴォルスの毒針をはじき飛ばした。
「何っ!?」
 毒針が通じないことに、スコーピオンガルヴォルスが驚愕を覚える。
「お前も・・お前の動きを止めさえすれば!」
 スコーピオンガルヴォルスが跳躍して、別方向から毒針を飛ばす。しかしこれもハヤトの紅いオーラに吹き飛ばされる。
「もうお前を許さないぞ・・ここで仕留めて、お前の暴走を止める!」
 ハヤトが言い放つと、スコーピオンガルヴォルスに飛びかかる。2人が同時に拳を繰り出し、激しくぶつけ合う。
「ぐあっ!」
 ハヤトの拳に押されて、スコーピオンガルヴォルスが右の拳を砕かれる。
「こ、こんな・・こんなところで・・・!」
 声と力を振り絞るスコーピオンガルヴォルス。ハヤトが剣を具現化して。スコーピオンガルヴォルス目がけて突き出す。
 ハヤトの剣はスコーピオンガルヴォルスの体を貫いた。
「これで終わりだ・・後で謝るからな、お前たちに・・・!」
 ハヤトは低く告げてから、スコーピオンガルヴォルスの体から剣を引き抜いた。鮮血をあふれさせて、スコーピオンガルヴォルスが倒れる。
「まだだ・・オレは・・こんなところで・・倒れるわけ・・には・・・」
 まだ立ち上がろうとするスコーピオンガルヴォルスだが、力尽きて崩壊を引き起こした。
「オレがまいた種なら、オレがケリを付けるしかないよな・・・!」
 歯がゆさを噛みしめて、剣を握りしめるハヤト。ゆっくりと立ち上がるトウガに、ハヤトが振り返る。
「お前がいなかったら、店のみんなは死んでいたかもしれない・・助かったよ・・」
「オレは身勝手なゴミクズどもを叩き潰す・・それだけだ・・・!」
 謝意を示すハヤトに、トウガが自分の意思を口にする。
「お前の考えは分かる・・でもだからって、関係ないヤツを巻き込んでいいことならない・・」
「ゴミクズは叩きつぶす・・絶対に野放しにするわけにはいかねぇんだよ・・・!」
「そこまで何がお前をそうかき立てるんだよ・・そこまでのムチャクチャを味わったっていうのかよ・・・!?」
「オレは何も悪くない・・明らかに間違ってるはずなのに正しいことにされて、オレたちだけがムチャクチャを押し付けられる・・そんなふざけたこと、絶対に認めるかよ!」
 言葉を投げかけるハヤトに、トウガは理不尽への憎悪を傾ける。
「ゴミクズは1人残らずオレが叩きつぶす・・邪魔するヤツも敵として殺す・・・!」
「もうお前は、誰とも分かり合うことはないのか・・・!?」
 憎悪を募らせるトウガに、ハヤトが歯がゆさを覚える。
「オレと分かり合えるのは、アイツだけ・・いや、アイツのことは、オレがどうしても守り抜かなくちゃならねぇんだ・・・!」
「アイツ・・・!?」
 声を振り絞るトウガに、ハヤトが疑問符を浮かべた。
「誰かは絶対に言わねぇ・・言えばアイツが狙われることになる・・・!」
「一緒に、守ることはできないのか・・お前も、お前が守ろうとしている人も・・・!?」
「油断させて近づいてくるヤツもいる・・絶対に気を許したりしない・・・!」
「そこまで疑心暗鬼だっていうのか、お前は・・・!?」
「お前もこれ以上オレに関わるな・・オレが倒すべき敵とのケリは、オレが付ける・・・!」
 事情を聞いたハヤトを、トウガが遠ざけようとする。
「それでお前が納得するならそうしてくれ・・だけど、そのために関係ないヤツまで巻き込んで傷つけて、それで平気でいるようなら、オレはお前を止めないといけなくなる・・!」
「やっぱりおめぇも、オレの邪魔をしようっていうのか・・・!?」
「お前が自分を押し付けて、何も悪くない人を傷付けようとするならな・・・!」
 怒号を放つトウガに、ハヤトが鋭い視線を向ける。
「オレはもう戻る・・今度お前が無関係なヤツを問答無用で傷つけようとしてるのを見たら、もう容赦しないぞ・・・!」
 ハヤトはガルヴォルスから人の姿に戻ると、トウガの前から立ち去っていった。
「アイツがオレの邪魔をする・・オレたちの幸せをムチャクチャにしてくるのか・・・!?」
 さらなる疑心暗鬼に襲われて、トウガが体を震わせる。
「相手が誰だろうと何だろうと、邪魔をしてくるなら、容赦しねぇのはオレのほうだ・・ゴミクズどもは、オレが必ず叩きつぶす・・・!」
 自分の意思を貫こうとするトウガ。カノンを守ろうとする想いが、彼の意思を頑なにしていた。
 スコーピオンガルヴォルスを倒してアイリとあかりのところへ戻ったハヤト。スイートにいた人々は全員救出された。
「ハヤト、大丈夫!?・・怪物は・・・!?」
 アイリがハヤトに駆け寄り心配の声をかけてきた。
「アイツはオレが倒した・・アイツの他にも、前に会ったガルヴォルスも、トウガもいた・・・」
「トウガさんが・・・!?」
 ハヤトが口にした答えに、アイリが驚きを覚える。
「トウガは自分たちを追い詰めたヤツを片っ端から叩きつぶしてる・・人間もガルヴォルスも・・アイツは自分たちを正しくするために手段を選ばないヤツを心から憎んでいる・・」
「あの人が、そんな戦いを・・・」
 ハヤトの話を聞いて、アイリが困惑を感じていく。
「でも、その怪物がいなかったら、あたしたち、助からなかったと思う!」
 あかりが切実な思いでハヤトたちに言いかけてきた。彼女の気持ちを受け止めて、ハヤトが頷いた。
「分かっている。トウガは、オレと同じ感情を持っているだけだ・・ただ、怒りと憎しみが、オレ以上に強くなっているだけなんだ・・」
「ハヤト・・・」
 トウガのことを口にするハヤトに、アイリが戸惑いを感じていく。
「オレも下手をしたら、トウガみたいになっていたかもしれない・・怒りと力に囚われて、敵と見たものを全部叩きつぶそうとする・・・」
「そんなことない!ハヤトくんがそんな破壊魔になるなんて・・!」
 トウガと同じ道を歩いていたかもしれないことに不安を覚えるハヤトに、あかりが弁解する。
「でも、私たちが最初に会ったときの、怪物になっていたときのハヤトは、怪物を倒すことだけを考えていた・・・」
 アイリがガルヴォルスとなったハヤトと初めて会ったときのことを思い出して、不安を浮かべる。
「でもハヤトくんはその戦いを終わらせたじゃない!ハヤトくんはもう復讐じゃなくて、みんなを守るために戦ってるよ!」
「それはまぁ、違うとは言わないけど・・・」
 あかりが抗議の声を上げて、ハヤトが苦笑をこぼす。
「復讐自体は悪いとは思わない・・けど、他のヤツを巻き込むことには、オレは納得できない・・」
「分かるよ、ハヤトの気持ち・・ハヤトはこのことをたくさん経験しているから・・・」
 本音を口にするハヤトに、アイリが微笑んで頷いた。
「オレは止めるつもりだ・・アイツの暴走を・・・!」
「ハヤト・・・あなたもムチャしないで、必ず帰ってきて・・」
 決意を口にするハヤトに、アイリが切実な思いを伝える。
「もちろんだ。オレに何かあったら悲しむヤツがいるからな・・」
 ハヤトが微笑んで、アイリの肩に優しく手を乗せた。彼の思いを受け止めて、アイリも微笑んで頷いた。
「あは~♪甘酸っぱいなぁ~♪」
 あかりが2人を見て照れ笑いを見せる。
「ちょっと、あかり・・そんな風に見ていたわけ・・!?」
 からかってくる彼女に、アイリが動揺をあらわにする。ハヤトは肩を落とすも、すぐに安らぎの笑みをこぼした。
 ギルや敵を探し回るトウガ。頭の中にハヤトの姿がよぎり、トウガはいら立ちを募らせていた。
「邪魔をしてくるなら容赦しねぇ・・オレはゴミクズどもを滅ぼさなくちゃならねぇんだよ・・!」
 自分の意思を貫こうとして、トウガが声を振り絞る。
「オレだけじゃねぇ・・アイツを守るためにも、オレは戦う・・・!」
 カノンのことを思い、敵を倒す決意を頑なにするトウガ。
「まずはアイツを探す・・これ以上カノンに手出しをさせるか・・・!」
 トウガはギルを求めて、1人歩き出す。ハヤトが妨害してきても倒すだけだと、トウガは自分に言い聞かせていた。
 その頃、カノンは1人街に出ていた。トウガのことが気がかりになり、さらに何もしないでただ待つだけの自分に耐えられなくなって、カノンはトウガを探しに動き出したのである。
(トウガさん、どこ!?・・私、トウガさんのことが心配なんです・・・!)
 トウガを追い求めて雑踏をかき分けていくカノン。
(私に何かあった・・それが私に記憶がないことと、トウガさんが私を守ろうとする理由かもしれない・・・!)
 自分とトウガが置かれている状況を知りたいという気持ちが強くなっているカノン。トウガのために何かしたいという思いが、彼女を突き動かしていた。
(トウガさん、どこ!?・・どこにいるの・・トウガ・・・!?)
 カノンはひたすらトウガを追い求めて、街中を歩き続けた。
 街中をさまよっているカノンの姿を、ギルは目撃していた。街に入ったことで、カノンはギルに気配を感知されていたのである。
「今までどこにいたんだか・・まぁ、そんなことは些細なことだ・・」
 ギルが呟くと、カノンを見つめて笑みを浮かべる。
「崎山トウガ、世の中を混乱させるお前は、身の程を思い知る必要がある。己を貫いて世界を敵に回すことが、どれほど愚かなことかを・・」
 ギルが顔から笑みを消して、目つきを鋭くする。
「地獄と絶望を思い知らせてやる・・どれほど怒りと憎しみを増やしても、世界を覆すことはできない・・」
 トウガを追い詰めるため、ギルはカノンに狙いを傾けていた。
「では行こうか。トウガ、仮にお前がオレを仕留めても、お前は本当の至福をつかむことはできない・・」
 ギルは再び笑みを浮かべて、カノンに向かって動き出した。
 スコーピオンガルヴォルスの襲撃で、スイートはムチャクチャになってしまった。店の損害の検証と修復のため、ハヤトたちは店に近づくことができないでいた。
「しばらく仕事はできそうにないね・・・」
 アイリが困った顔で呟いて、ハヤトが小さく頷く。
「オレはトウガを見つけて止めに入る・・できるなら一緒に解決する・・」
 ハヤトが自分の考えをアイリとあかりに告げる。
「それなら私も・・」
「今まで以上に危険と隣り合わせになるんだぞ・・死ぬかもしれないんだぞ・・・!」
 一緒に行こうとするアイリに、ハヤトが忠告を送る。
「それでも放っておけない、トウガさんのこと・・・危ないのは覚悟している・・その上で、危なくなったら逃げるって約束する・・・」
「あたしもハヤトくんとアイリちゃんに付き合うよ。もちろん危なくなったら逃げることにするよ。」
 アイリだけでなくあかりも真剣な面持ちで言いかける。2人の意思も真っ直ぐで揺るぎないものとなっていた。
「ホント、どうなっても知らないからな・・」
 憮然とした素振りを見せて、ハヤトがきびすを返す。彼の後ろ姿を見て、アイリとあかりが笑みをこぼした。
「行くなら行くぞ。置いてけぼりになりたいのか・・?」
「行くよー♪行くー♪」
 ハヤトに言われて、あかりが上機嫌を見せて追いかける。アイリも微笑んで2人を追いかけていった。
 トウガを追って街中を歩いていくカノン。彼女は人込みを離れて街外れに向かっていた。
「トウガ・・どこに行ってしまったの?・・トウガ・・・」
「崎山トウガを探しているのか?」
 人気のない道に差し掛かったところで、カノンが声をかけられた。振り向いた彼女の前にギルが現れた。
「あの・・あなたは・・・?」
「久しぶりだ・・と言っても分からないだろうな、今のお前には・・」
 疑問符を浮かべるカノンに、ギルが笑みを浮かべて言いかける。
「まぁ、これだけ知っておけばいい。オレがお前の敵だということを・・」
 ギルが目つきを鋭くすると、影が広がるように彼の足元から闇が広がった。闇はカノンをも取り囲んで閉じ込めた。
「こ、これって・・・!?」
「これでお前はオレから逃げられない・・」
 緊迫を覚えるカノンに向けて、ギルが歩を進める。
(この感じ、どこかで・・もしかしてこの人、私の忘れていることを知っている・・・!?)
 カノンはギルに対して関心を抱く。しかしそれ以上に彼に対する恐怖も感じていた。
「またオレの力と世界というものを思い知らせてやるぞ。お前にも、アイツにも・・」
 ギルは不敵な笑みを浮かべると、カノンに手を伸ばしてきた。カノンは彼を恐れて逃げ出していく。
「もうオレが作り出した闇の中だ。外とは完全に隔離されていて、外に出ることはできないぞ。」
 ギルが呼びかけるが、カノンはひたすら彼から逃げていく。
「仕方がないことだ・・」
 ギルはため息をつくと、指を鳴らして周辺の闇を操る。闇が伸びてカノンの行く手を阻んだ。
「お前はオレから決して逃げられない。アイツを絶望させるための生贄になってもらうぞ。」
「やめてください!私、トウガさんに会いに行くんです!」
 言いかけてくるギルに、カノンが自分の正直な思いを口にする。
「会わせてやるさ。お前をまた追い込んで、アイツを追い詰めるために・・」
 迫るギルにカノンは絶望を感じていく。
 そのとき、ギルは近くに気配を感じて足を止めて笑みを消した。視線を移した彼の耳に足音が入ってくる。
「ここに誰か紛れ込ませてしまったか・・それもただの人間ではない・・」
 ギルは目つきを鋭くして、足音の主の行方を探る。彼の前に現れたのはハヤトだった。
「まさかここで遭遇することになるとはな・・竜崎ハヤト・・」
「この闇・・お前が広げているのか・・!?」
 呟きかけるギルに、ハヤトが真剣な面持ちで問いかけてきた。
「そうだ。それをすぐに気付いたお前も、オレと同じということだろう?」
 ギルは不敵な笑みを浮かべて、答えの分かっている問いかけをあえてした。2人は互いの正体を分かっていた。
「君は、カノンさん!?・・カノンさんに何をしようとしていたんだ・・!?」
 ハヤトがカノンに気付いて驚き、ギルに鋭い視線を向ける。
「あくまでオレの用事だ。お前には関係ない・・と言いたいところだが・・」
 ギルは言いかけて、ハヤトを注視していく。
「お前にも世の中というのを理解してもらわないとな・・」
「世の中?そういうのはオレはよくは分かんないが、考えを押し付けられるのは好きじゃないな・・!」
 狙いを変えたギルに、ハヤトが憤りを傾ける。
「ハヤト!」
 そこへアイリがあかりと一緒に駆けつけて、ハヤトに声をかけた。
「アイリ、あかり、その人を逃がしてくれないか・・・!」
 ハヤトがカノンに目を向けて呼びかけてきた。
「分かった・・あかり、行こう・・!」
「う、うんっ!」
 彼に答えたアイリが呼びかけて、あかりが頷く。怖くて震えているカノンに、2人が駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「は・・はい・・・」
 アイリが心配の声をかけて、カノンが小さく頷く。
「早く、ここから逃げよう!危ないから!」
 あかりも呼びかけて、アイリと一緒にカノンを連れて離れていく。しかしギルは彼女たちを追おうとせず、ハヤトに視線を向けたままだった。
「まずはお前から相手をしてやるぞ。」
「お前はアイツと違う意味で、ほっとくわけにはいかないみたいだな・・・!」
 不敵な笑みを見せるギルに言いかけるハヤトの頬に紋様が走る。彼はドラゴンガルヴォルスとなって、ギルに向かっていった。
 
 
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