ガルヴォルス
-End of Absurb-
第4章
アイリを連れてスイートの近くまで来ていたあかり。体力と落ち着きを取り戻したアイリは、自力で歩き出した。「アイリ、もう大丈夫なの・・?」「うん・・あのときはビックリしたけど、もう大丈夫・・」 あかりが心配の声をかけると、アイリが微笑んで答える。「ハヤトくん、大丈夫かな・・・?」 あかりがハヤトを心配して、アイリも困惑を浮かべる。「大丈夫・・ハヤトなら、きっと・・・」 ハヤトの無事を信じようとするアイリ。それが彼女の不安の裏返しだと、あかりは分かっていた。 そのとき、アイリとあかりは近くで足音を耳にした。「この音・・・!」 恐る恐る振り返るアイリとあかり。彼らの前にいたのはハヤトだった。「ハヤト!・・無事だったんだね、ハヤト・・!」 アイリが声を上げて、ハヤトに駆け寄る。「ハヤトくん、大丈夫!?あの怪物は!?」 あかりも駆けつけて、ハヤトに声をかける。「あぁ、オレは大丈夫だ・・だけど、アイツを止められなかった・・・」 ハヤトが答えて深刻な面持ちを浮かべる。「アイツには全く迷いがない・・やり方が確実に間違っているのに、そこまで追い詰められているアイツの考えまでは・・」「ハヤト・・あの怪物と戦うことに、どうしても迷ってしまうんだね・・・」 ハヤトの抱える迷いを、アイリは感じ取っていた。「どうしたらいいの?・・ハヤトくんとアイリちゃんの話じゃ、悪い怪物じゃないって感じだけど・・・」 あかりもいい方法が見つからなくて悩んでいく。「とりあえず戻ろう、ハヤト・・とりあえず体だけでも休めておかないと・・」 アイリが言いかけて、あかりとともにハヤトを支える。「2人に支えられるほど疲れてるわけじゃないのに・・」「いいじゃない、いいじゃない♪両手に花ってことで♪」 肩を落とすハヤトに、あかりが笑顔を見せる。彼女とアイリに支えられたまま、ハヤトはマンションに帰ることになった。 ハヤトに逃げられたことにいら立ちを感じたまま、トウガはカノンのところに戻ってきた。「トウガさん・・・どうか、したんですか・・・?」 カノンが不安を覚えて、トウガに心配の声をかけた。「敵に逃げられた・・でも次に会ったら、今度こそ・・・!」「そうしてあなたは敵を倒していく・・ずっと・・・」 ハヤトや他の敵に対して憎悪を募らせるトウガに、カノンが困惑を感じていく。「その敵が、私たち以外の全員だとしたら、トウガさんは・・・?」「その全員を叩き潰すことになるな・・オレたちがムチャクチャに押しつぶされないために・・・」 不安を口にするカノンだが、トウガの意思は変わらない。「記憶を失う前の私には、あなた以外の大切な人はいたのでしょうか・・・?」 カノンが口にしたこの疑問を耳にして、トウガが当惑を覚える。「オレの知ってる限りじゃ、そういうヤツはいねぇ・・・」「あなたは私にとっての、大切な人ですか・・・?」「・・・そう思ってくれるなら、別に構わねぇが・・こんな、敵を倒すだけのオレでいいなら・・・」 カノンからの問いに、トウガは憮然とした態度を見せる。(カノン・・記憶喪失になっていても、おめぇはオレのことを・・・) カノンに大切に思われていることに、トウガはまたも心を揺さぶられていた。(絶対に守ってみせる・・もうおめぇに、イヤな思いをさせるわけにいくか・・・!) 敵の全滅だけでなく、カノンを必ず守り抜く。トウガの意思は強固の一途を辿っていく。「オレの大切な人はもう、おめぇしかいねぇ・・・」 トウガが感情をあらわにして、カノンに想いを伝えてきた。「トウガさん・・私も・・あなたのことを・・・」 カノンもトウガの想いを受け入れようとしたが、不安を感じずにはいられなかった。「でも私・・怖い・・体を張って、あなたの想いを受け止める勇気が出ない・・・」 震える自分の体を抱きしめるカノン。彼女の怯える姿を目の当たりにして、トウガは困惑を募らせる。(思い出させるのはよくねぇ・・思い出せたら、カノンの心が壊れるかもしれねぇ・・・!) 記憶を失うことになった出来事を思い出すことで、その瞬間にまた絶望して精神が崩壊しかねない。カノンがそうなることを、トウガは最も恐れていた。「カノン、おめぇはオレが守る・・誰にも傷つけさせはしねぇ・・・!」「トウガさん・・・」 決意を口にするトウガに、カノンが戸惑いを見せる。(もうオレには、カノンしかいねぇ・・もしカノンがいなかったら、オレは確実に見境を失くした本物のバケモノになってただろうな・・・) カノンが今の自分をつなぎとめていることを、トウガは感じていた。(終わらせるんだ・・このムチャクチャを・・オレの手で・・オレとカノンだけじゃなく、世の中そのもののために・・・!) 敵を滅ぼすことが自分とカノンが救われることになる。トウガはそう思い、また血塗られた戦いに身を投じていくのだった。 トウガに敗れた次の日。ハヤトは1人ある場所を目指して出かけた。 今回は自分だけのこと。だからアイリたちを付き合わせる理由はない。ハヤトはそう思っていた。(まさかこのタイミングで行くことになるとはな・・・) ハヤトは歩きながら、心の中で呟く。今回のことは前々から決めていたことではなく、昨日決めたことである。 ところがその途中、ハヤトは近くで足音がしたのを耳にして足を止めた。(オレとしたことが・・つけられてたことに気付かなかったなんて・・・) 肩を落としてため息をついたところで、ハヤトが振り返る。アイリがついてきていて、ハヤトに戸惑いを見せてきた。「ハヤト、どこか行くのよね・・・?」「あぁ・・これは1人で行くつもりでいたんだけど・・・」 アイリに聞かれて、ハヤトが滅入った素振りを見せて答える。「ホントにオレにしか関係のないことだぞ。それでもついてくる気か・・?」「もう私は、ハヤトと心を通わせた・・何もかも、受け止めてみせる・・・」 ハヤトに問い詰められて、アイリが真剣な面持ちで頷く。「だったらこの際だ。きちんと紹介しておかなくちゃな・・」「紹介・・?」 微笑をこぼすハヤトに、アイリが疑問符を浮かべる。「親父と、お袋にだ・・」「えっ!?・・ハヤトの、お父さんとお母さん・・・!?」 ハヤトが口にした言葉に、アイリが動揺を覚える。ハヤトは両親に会いに出かけていたのだった。 レストラン「セブンティーン」。以前はピザハウスだったこの店は、繁盛によってメニューが増えたことでリニューアルされたのである。 そのセブンティーンをハヤトとアイリは訪れた。「いらっしゃいませ。2名様で・・ハヤト・・!?」 挨拶した女性がハヤトを見て驚いた。「今までどうしたの、ハヤト!?連絡もしないで、何をしていたの!?」 女性が心配の声をかけるが、ハヤトは憮然とした素振りを見せる。「ハヤト、帰ってきたのか・・帰ってくるなら、その前に連絡してしてくれたらよかったのに・・」 さらに1人の男が店の奥の厨房から出てきた。(この人、ハヤトに似ている・・もしかして・・) アイリはその男を見て戸惑いを覚える。「あなたは・・?」 女性がアイリに目を向けて声をかけてきた。「あ、はい。同じ店で働いています。天河アイリです。」 アイリが動揺を見せながら挨拶をする。「私は竜崎かりん。よろしくね、アイリさん。」「オレは竜崎ガクトだ。」 女性、かりんと男、ガクトがアイリに自己紹介をした。2人はハヤトの両親である。「親父、お袋、アイリはオレのことを知ってる・・オレのことを、な・・」 ハヤトが口にした言葉にガクトが目つきを鋭くして、かりんも真剣な面持ちを浮かべた。「奥に行っててくれ。すぐに行くから・・」 ガクトはそう告げると、かりんとともに仕事に戻った。ハヤトは小さく頷いてから奥に向かう。「お邪魔します・・」 アイリも挨拶して、奥の部屋に向かった。「ハヤトのお父さんとお母さん、いい人ね・・」 部屋で腰を下ろしたところで、アイリが微笑んで声をかけた。「オレもそう思う。が、オレは親父たちのところから、家出同然で出てっちまった・・」 ハヤトも頷くも、ガクトとかりんのことを気にして思いつめる。「ハヤト・・・」 深刻さを感じているハヤトに、アイリも困惑を感じていた。「ハヤト、待たせたな・・」 ガクトが部屋に来て、ハヤトに声をかけた。そしてガクトはアイリに視線を移す。「ハヤトの知ってるってことだけど、ホントなのか・・?」「はい・・ハヤトが、ガルヴォルスという怪物だということですよね・・・?」 ガクトからの問いかけに、アイリが真剣な面持ちで答える。「ハヤト、オレも母さんも、お前がガルヴォルスだということは知っている。オレたちもガルヴォルスだからな。」「ガ、ガクトさんたちも、ですか・・!?」 ガクトが打ち明けたことに、アイリが驚きを覚える。「ガルヴォルスの子供もガルヴォルスになるってわけじゃないけど、覚醒する可能性が高くなるみたいだ・・」「オレはここを出ていく前にガルヴォルスになっていた。最初は力とガルヴォルスとしての興奮状態を抑えられなくて、すぐに親父たちにこのことがばれた・・」 ガクトが言いかけると、ハヤトが昔の自分を思い返していく。 ドラゴンガルヴォルスに初めて変化したハヤトは、高い力と闘争本能を制御することができなかった。 そんなハヤトを、同じガルヴォルスだったガクトが止めたのである。「その様子だと、力は完璧に制御できてるみたいだな・・」「あぁ。さらに力を高めることもできる・・」「そうか。ならなおさら力の使い方を間違えないようにしないとな。」「分かってる・・アイツみたいに力や感情に振り回されたりしちゃいけないって・・・」 注意を投げかけるガクトに、ハヤトが深刻な面持ちで答える。トウガのことを考える彼の心境を、ガクトは大方察した。「どうしたらいいのか、きっぱり決められないってところか・・」 ガクトが言葉を投げかけるが、ハヤトは深刻さを募らせるだけで何も答えない。その沈黙を皇帝と受け取り、ガクトは話を続ける。「すぐに出さないといけないわけじゃないけど、こういうのは自分で答えを出すしかない。オレと母さんのようにな・・」「親父とおふくろも、ガルヴォルスとして戦って・・・」 ハヤトが投げかけた言葉に、ガクトが小さく頷いた。「オレの親と妹は、ガルヴォルスの起こした事件で命を落とした・・それでオレはガルヴォルスを憎むようになった。オレの家族を殺したガルヴォルスへの復讐だ・・」 自分の過去を語りかけるガクトに、ハヤトが目を見開く。(オレと同じだ・・オレも、ハルナを奪ったガルヴォルスを憎んで、ガルヴォルスを片っ端から叩きつぶしていた・・・) 自分も親と同じ道を歩いていたことを思い知らされ、ハヤトは困惑を募らせていた。「その家族の仇が、お前の母さんだった・・」「なっ!?おふくろが!?」 ガクトの口にした言葉に、ハヤトは耳を疑った。「母さんはガルヴォルスの力に振り回されてた。お互い、感情に任せて力を振るったことがあった・・だけど、交流や衝突を経て、オレたちは分かり合うようになった・・」「親父・・・」「おかしな話だよな・・家族の形と結ばれて、子供を作って家族を作って、仲良く暮らしてきたんだからな・・」 動揺を膨らませていくハヤトの前で、ガクトが皮肉を感じて苦笑をこぼした。「許せない相手と絶対に分かり合えないことはないぞ。言葉が通じなくても、成り行きになっても、最終的に分かり合うこともあるんだ・・」「オレも、中の悪いヤツとも、いつか分かり合えるときが来るのか・・・?」「それはお前と、運命次第ってヤツか・・」「親父、そんな曖昧な答えはないだろ・・」 気さくに言いかけるガクトに、ハヤトが肩を落とす。「ハヤト、お前が家を出てから今日帰ってくるまでの間に、何も経験してこなかったわけじゃないだろ?だったら自分で答えを出すことができるはずだ。」「オレが経験してきた・・」 ガクトの言葉を受けて、ハヤトが戸惑いを感じて、アイリに目を向ける。アイリもハヤトに対して戸惑いを感じている。「それにあなたは1人じゃない。あなたたちを見ていれば分かるよ・・」 かりんも顔を出して、ハヤトとアイリに言いかけてきた。「私も、答えを出せるでしょうか・・・?」「あなたも、あなた自身と運命次第ね・・」 戸惑いを募らせるアイリに、かりんが微笑みかける。「おふくろまでそういうこと言うかよ・・」 ガクトと同じことを言ってきたかりんに、ハヤトは呆れ果てていた。「2人とも多くのことを経験してきた。1人じゃない限り、自分たちで答えを出せるはずだ。」「親父・・・」「オレも母さんも、それを信じてるからな。」 戸惑いを見せるハヤトの肩に手を添えて、ガクトが信頼を投げかける。「親父・・おふくろ・・いきなり押しかけて、勝手な気持ちを押し付けて、悪かった・・」「気にするな。そういう押し付けがましいのは別に構わない。」 謝意を示すハヤトにガクトが微笑みかける。「この後は用事はあるの?なければ今日はここに泊まっていったら?」 かりんがアイリに店と家に招待する。「では、お言葉に甘えることにします・・よろしくお願いします・・」 アイリは微笑んで、かりんからの招待を受けることにした。「ハヤト、お前の部屋は空いているからな。掃除はしたが、ちょっと汚れが出てるかもな・・」 ガクトがハヤトに声をかけて微笑んだ。「わざわざ、オレのいない部屋を整理してくれてたのか・・むしろ感謝しなくちゃってところだ。ありがとうな、親父・・」 ハヤトも微笑んでお礼を言った。ガクトとかりんが目を合わせて、微笑み合って頷いた。 竜崎家にあるハヤトの部屋は、少し片づけられていたが、彼が出て行ったときとほぼそのままの状態だった。「ここは変わってないな・・オレはすっかり変わっちまったが・・」 ハヤトが部屋を見回して笑みをこぼす。「ハヤトは昔は、この部屋で過ごしていたんだね・・」「そんな自慢できるものじゃないけどな・・」 アイリが声をかけて、ハヤトが憮然とした態度を見せる。彼が部屋のドアを閉めると、アイリを抱き寄せてベッドに倒れ込んだ。「親父もおふくろもオレを、オレたちを信じてる・・きちんとしたことを言わないから冷たいってことじゃない。オレたちなら自力で答えを導き出せると思っているんだ・・」 ガクトとかりんのことを考えて、ハヤトが謝意を感じていく。「あの怪物と、戦う理由も覚悟もできそう・・?」「まだ分かんない・・けど、必ず答えを出してみせる・・・」 アイリからの問いかけにハヤトが自分の考えを口にする。「そしてこれだけは言える・・アイリや、オレが大事に思ってるヤツを守りたいってな・・」「ハヤト・・・」 ハヤトの告げた想いに、アイリが戸惑いを見せる。2人がベッドに横たわったまま、抱擁を深めていく。「支えてくれてありがとうな、アイリ・・そんなお前を、オレも受け止めてやるよ・・」「ハヤト・・ありがとう・・私もできる限りのことをするよ・・・」 互いに想いを伝え合い、ハヤトとアイリが口づけを交わした。 ハヤトとアイリの抱擁が行われている部屋。その近くにガクトとかりんはいた。「親が親なら子も子、ということか・・」「私たちの場合は、最初は成り行きばかりだったね・・怒りや憎しみ、悲しみや絶望・・気持ちばかりに突き動かされて・・」 ガクトとかりんが言葉を交わして、自分たちの昔を思い返していく。「ガルヴォルスの力で、石にされたり水晶に閉じ込められたり・・その中で私たち、ずっと一緒だった・・・」「結果的にオレたちは結ばれて、こうしてずっと暮らしてる・・オレたちも幸せになれたってことだな・・・」 かりんとガクトが懐かしさに浸りながら、抱擁を交わす。「今さらこんなこと、大人げないって・・」「逆だろ。子供らしくないって、これは・・」 照れるかりんにガクトが言いかける。2人は笑みをこぼしてから、軽く口付けを交わした。「ハヤトなら自分で何とかしちまう。オレとお前もそうだったからな・・」「そしてアイリちゃんがいるから、暴走することはない・・必ずハヤトらしい道を進んでいくよ・・」 唇を離したガクトとかりんが、ハヤトとアイリへの信頼を募らせていった。 トウガの強襲に対する恐怖で、人々は怯えることが多くなった。無闇に言動を取るのを避ける動きが広がっていた。 表立った言動が見られなくなった情勢の中、トウガは敵を見つけ出そうと目を光らせていた。少なくとも彼は、ギルという明確な敵を認識していた。(アイツはどこに隠れてるんだ・・どこにいても、オレは必ず見つけ出して叩きつぶす・・・!) ギルへの憎悪を募らせるトウガ。カノンを絶望させたギルが存在することを、トウガは決して認めないつもりでいる。(カノンの記憶が戻ってほしいとは思っている・・どっちにしても、オレはゴミクズを叩き潰すことは確実だ・・・!) カノンへの思いを胸に秘めながら、トウガはギルや他の敵を滅ぼす決意をさらに強くした。「1度、カノンのところへ戻るか・・・」 トウガはカノンのことを気にして、彼女のところに戻ることにした。自分の支えとなっている彼女のところに。 戻ってきた実家でアイリとともに一夜を過ごしたハヤト。ガクト、かりんと会ったことで自分の気持ちの整理がついて、ハヤトは落ちつきを取り戻していた。(もうオレは迷わない・・たとえ最終的にアイツのためにならなくても、オレはアイツを止める・・・) 自分の決意を確かめて、ハヤトが自分の手を握りしめる。(その先どうするかは、そのときにじっくり考える・・行き当たりばったりでも、分かり合えないことはないんだ・・親父とおふくろのように・・・) 心の中で呟いて、ハヤトがまだ眠っているアイリに目を向ける。(アイリや、あかりたちもいるんだ。全然答えが見つけられないってことはないはずだ・・今度こそ見つけてやるぞ・・) 自分を支えてくれる人たちに感謝するハヤト。仲間や家族、かけがえのない人の存在が希望をもたらしてくれていると、彼は思っていた。「ハヤト・・・」 アイリも目を覚まして、ハヤトに声をかけてきた。「もう、大丈夫なの、ハヤト・・・?」「あぁ・・体も心ももう大丈夫だ・・」 アイリからの問いかけに、ハヤトが微笑んで答える。「私も、心の中のモヤモヤがどこかに行って小さくなったような気がする・・私からも迷いが消えたのかな・・・?」「あぁ・・そうだな・・オレと同じだ・・」 戸惑いを募らせるアイリに、ハヤトが笑みをこぼした。「2人とも目が覚めたみたいだな。」 そこへガクトがドア越しに声をかけてきた。彼はハヤトとアイリの会話を耳にしていた。「母さんが朝ごはん作ってる。2人とも食べるよな?」「あぁ。朝を食べたら、オレたちは戻るよ・・」 ガクトが投げかけた言葉に、ハヤトが微笑んで答える。アイリも笑みを浮かべて頷いた。「また、戻ってくるよな、ここに・・?」「もちろんだ。オレは死ぬつもりはない。またここに戻ってくる・・」 ガクトの問いかけに、ハヤトが真剣な面持ちで答えた。彼の迷いはないと、ガクトは悟った。「ご飯ができたよ。冷めてしまう前に食べに来て。」 かりんがハヤトたちに向けて呼びかけてきた。「行くとするか。」「あぁ。」 ガクトとハヤトが声をかけ合い、アイリが頷いた。 カノンのところへ戻っていたトウガ。カノンが無事で平穏でいることに、トウガは安心を感じていた。「トウガさん、私なら大丈夫です・・あなたのやることをやって・・・」「ありがとうな、カノン。けどオレは、おめぇとこうして一緒にいるとホッとできるんだよ・・」 呼びかけてくるカノンに、トウガが感謝して微笑む。「私が、トウガさんのためになっている・・・」 自分がトウガの支えになっていることに、カノンは戸惑いを感じていく。「少し休んだらオレはまた行く・・今度こそ、ケリを付けてやる・・・!」 トウガが立ち上がり、ギルとの決着に向かおうとする。「私も・・行っていいですか・・・?」 カノンが頼みかけてきて、トウガが足を止めた。「私がトウガさんのためになるなら、私もそばにいたほうが・・それに、あなたと一緒にいれば、自分のことを思い出せるかもしれない・・」「ダメだ・・オレの戦いは危険と隣り合わせだ・・そばにいると死ぬかもしれねぇぞ・・・!」 想いを伝えるカノンだが、トウガは聞き入れず忠告を送る。「それでも私、私のことを・・・」「ダメだ!オレは、おめぇにもうイヤな思いをしてほしくねぇんだよ!」 一緒に行こうとするカノンに、トウガが感情を込めて言い放つ。彼に怒鳴られてカノンが押し黙る。「今度こそ全部を終わらせる・・そしたら、また一緒に行こうな・・・」「トウガさん・・・」 微笑みかけて言いかけるトウガに、カノンは悲しみを禁じ得なかった。トウガのために何もできない、守られてばかりの自分の無力さを、カノンは辛く感じていた。「また必ず戻ってくる・・ここに、おめぇのとこに・・・」 トウガは言いかけると、カノンの前から改めて歩き出す。(そうだ・・カノンにもうイヤな思いはさせねぇ・・させてたまるかよ・・もうあんなこと、2度と起こさせねぇ・・・!) カノンを悲劇に巻き込ませない。ギルや他の敵に手を出させない。トウガのこの強い意思は、思いを向けられているカノンでも変えることができなかった。 自分の手で悲劇を終わらせる。トウガの決意は変わることはなかった。 セブンティーンでの時間を過ごしたハヤトとアイリは、自分たちが住んでいるマンションに戻ろうとしていた。「ご飯おいしかったです。また食べに来ますね。」「いつでも来てね、アイリちゃん。大歓迎だから。」 挨拶するアイリにかりんが笑顔で呼びかける。「ハヤト、次に戻ってきたとき、向こうのことをオレたちに話してくれよな。」「あぁ。今度は楽しく話をさせてもらうぜ、親父、おふくろ。」 ガクトとハヤトが笑みを見せて、握り拳を軽く当てて再会を誓った。「ガクトさん、かりんさん、ありがとうございました。では失礼します。」 アイリはガクトたちに挨拶すると、ハヤトとともにセブンティーンを後にした。「大丈夫かな、ハヤトとアイリちゃん・・?」「ハヤトはオレたちの子で、しっかりしてる。アイリちゃんもハヤトをサポートしてる。心配しなくていいだろ。」 アイリの心配の声を受けて、ガクトがハヤトとアイリへの信頼を口にする。「うん。そうだね・・信じよう、2人を・・」 かりんが言いかけて、ガクトと頷き合う。去っていくハヤトとアイリを、2人は微笑んで見送った。 スイートでの仕事が入っていたあかり。ハヤトとアイリがいなくて、あかりは寂しさを感じていた。(あう~・・アイリちゃんもハヤトくんもどこに行っちゃったの~・・?) あかりが心の中で悲鳴を上げる。そのことを隠し、彼女は接客では笑顔で接していく。 そんな中、あかりが自分の携帯電話が受信したことに気付いた。彼女は店の裏で電話を確かめた。(あ~♪アイリちゃんからだ~♪) あかりが喜びを感じて、アイリに連絡を返した。「アイリちゃん、昨日は全然連絡取れなくて、どこに行ってたの~!?」 あかりが悲鳴のように、アイリに泣きながら呼びかけた。“ゴメン、あかり。ハヤトと出かけていたのよ・・” するとアイリが謝って、事情を話してきた。「ハヤトくんと?・・も、もしかしてお泊りでもしてきちゃったりしちゃったりして~!?」“そんな大げさなことじゃないから・・” 驚きの声を上げるあかりに、アイリが言葉を返す。“これからそっちに戻るね。ゴメンね、心配かけちゃって・・”「ううん、いいよ。話が分かっただけでもいいから・・じゃ、また後でね。」 アイリに答えてから、あかりは携帯電話をしまった。(はう~・・2人とも無事でよかった~・・怪物にやられちゃったんじゃなかった~・・) あかりが携帯電話を胸に当てて、安心を感じていた。「あかりちゃん、どこー?」 そこへ呼び声がかかり、あかりが慌てて携帯電話をしまう。「あ、はーい!」 あかりが答えて店の中に戻っていった。 あかりが戻っていったスイート。それを遠くから見ていた1人の男がいた。(あそこか。あの龍のガルヴォルスがいるのは・・) 男がハヤトのことを考えて不敵な笑みを浮かべる。(アイツの居場所を叩き潰しておくのも面白いかもな・・アイツがどれだけの悔しさと苦しみを見せることか・・・) 男が期待に胸を躍らせて、笑みを強めていく。(アイツのせいで、オレの仲間はみんな・・必ずオレが地獄を味わわせてやるぞ・・・!) ハヤトへの復讐を誓う男。彼はそのための作戦を実行に移そうとしていた。 第5章へ 作品集に戻る TOPに戻る