ガルヴォルス
-End of Absurb-
第3章
「アイリちゃーん♪ただいまー♪」 ハヤトとともに帰ってきたあかりが、迎えに出たアイリに大きく手を振る。「あかり、ハヤト・・よかった、無事で・・・」「アイリにも心配かけちまったな・・悪かった・・・」 安心して微笑むアイリに、ハヤトが謝る。「ううん。ハヤトが無事なだけでいいよ・・・」 アイリが小さく首を横に振って、ハヤトに答える。「アイリ、お前が助けたっていうヤツが、もしかしたらガルヴォルスじゃないかって聞いたんだけど・・・」 ハヤトが真剣な面持ちになって、アイリに聞いてきた。「うん・・私の思い込みかもしれないけど・・そんな気がした・・・」 アイリが頷いて、トウガのことを思い出す。(あの人、無事に帰れたのかな?・・まだ疲れが残っていたのに、ムリして外へ出ていってしまった・・帰り道で何もなければいいけど・・・) トウガの安否を心配して、アイリが深刻な面持ちを浮かべる。「今日もいろいろ大変で、疲れちゃったよ~・・」 あかりが安心を見せて、大きく肩を落として深呼吸をする。「あたしはもう休むね・・アイリちゃん、ハヤトくん、また明日ね~・・」「うん・・ありがとうね、あかり・・」 元気なく自分の部屋に戻っていくあかりを、アイリが感謝して見送った。「私たちが助けた人・・何かを抱えていた・・ハヤトみたいに、何かを背負って戦っているような・・」「アイリ・・・」 アイリが打ち明けた話に、ハヤトが戸惑いを覚える。「ムリしてでも前に進もうとしてたし、何もなければいいと思うんだけど・・」「ま、悪いことが起きないことを願うしかないな・・」 心配を口にするアイリに、トウガが憮然とした素振りを見せる。(アイリが助けたガルヴォルス・・まさか、アイツじゃ・・・!?) アイリから直接聞いてはいないが、ハヤトは彼女が助けた人がトウガではないかと直感した。「私たちも部屋に戻ろう、ハヤト・・ハヤトだって大変だったんじゃないの・・・?」 アイリが声をかけてきて、ハヤトを支える。「オレはもう大丈夫だけど・・明日に備えて休まないとな・・」 ハヤトが答えて部屋に戻ろうとしたが、アイリにまた支えられる。「今夜は、一緒にいていい、ハヤト・・・?」「アイリ・・・オレは、いいが・・・」 アイリからの願いにハヤトが頷く。アイリは微笑んで、ハヤトと一緒に彼の部屋に行った。 ベッドに横たわって、アイリがハヤトを優しく抱きしめる。「私、安心するようになっている・・ハヤトとこうして一緒にいると・・・」「オレもだ・・アイリと一緒だと落ち着ける・・・」 互いに安堵の気持ちを口にするアイリとハヤト。2人は抱擁を交わして、互いにぬくもりを感じていく。 そしてハヤトとアイリは来ていた服を脱いで、肌と肌を触れ合わせる。2人の感じる心地よさが膨らんでいく。「私たちには支えがいる・・心を埋めてくれる支えが・・」「その支えがなかったら、どうかなっちまうんだろうな・・オレも、他のヤツも・・・」 自分たちが互いを助け合い、みんなに救われていることを実感するアイリとハヤト。「あの人も、支えがあるのかな・・・?」「アイリたちが助けたヤツのことか・・・?」 アイリがトウガのことを思い出して、ハヤトが聞く。アイリは小さく頷いて、話を続ける。「お前はそいつも、何かを抱えてるって思ったんだな・・」「うん・・ハヤトと分かり合えればいいけど・・・」「どうだかな・・似た性格だからこそ、ぶつかっちまうことだってあるんだ・・」「そんな辛いこと、起きないことを祈っているよ、私は・・」 皮肉を口にするハヤトに、アイリが一抹の不安を感じていた。トウガとハヤトが対立しないことを、アイリは願っていた。 それからハヤトとアイリは抱擁を深めた。2人は交わりによる恍惚を募らせて、息を乱しながらも笑みをこぼしていた。「ハヤト・・私はこれからも、ハヤトを支えられるかな・・・」「アイリはこうしてオレを受け止めてくれてる・・これからだって、オレにはお前が必要なんだ・・・」「ハヤト・・・ありがとう・・・」「礼を言うのはオレのほうだ・・これからもよろしくな、アイリ・・・」 互いに感謝を告げて、アイリとハヤトは唇を重ねた。2人は口付けからも心地よさを感じていた。 このひと時をいつまでも味わえる機会があってほしい。ハヤトもアイリもそう願っていた。 敵に居場所を突き止められるのを危惧して、トウガはカノンを連れて別の草原に移動していた。「ここなら大丈夫か・・ガルヴォルスも近くにはいないみてぇだ・・・」 トウガが周りを見回して危険がないことを確かめる。「あの・・私たち、誰かに狙われているのですか・・・?」 カノンが不安の表情を浮かべて、トウガに聞いてきた。「あぁ・・世界の全てがオレたちの敵・・そう思わねぇと、オレたちは安心できねぇからな・・」「そうなのかな・・・」 答えるトウガにカノンが困惑を見せる。「私が助けた人は、私たちを傷付けようとしているとはとても思えなかったです・・」「だとしてもだ・・優しいヤツが最初からそばにいてくれたら、楽だったかもしれなかったけど・・・」 カノンの言葉を聞いて、トウガは皮肉を口にする。「だけど世界はオレたちの敵に回った・・明らかに自分たちが悪いのに正しいと思い上がり、オレたちを一方的に悪いと決めつけて・・こんなムチャクチャなあり方があってたまるか・・・!」「トウガさん・・・でも、だからって人を傷付けたりしていいことには・・・」「アイツらは人じゃねぇ・・自分たちさえよければそれでいいと思ってるゴミクズだ・・・!」 不安を口にするカノンだが、トウガは怒りを口にするだけである。「ゴミクズを始末しても罪にはならねぇ・・ゴミ掃除はいいことなんだから・・・!」「人はゴミなんかじゃない・・みんな、一生懸命に生きている・・・」「その一生懸命をあざ笑い、正しさも平気でねじ曲げる・・だからゴミクズなんだよ・・・!」 カノンが切実に呼びかけるが、トウガは怒りを募らせるだけである。「オレたちの邪魔をするヤツ、ゴミクズの言いなりになってるヤツもゴミクズだ・・叩きつぶさなきゃ、世の中はよくならねぇんだよ・・・!」 トウガの鋭い視線を受けて、カノンが言葉を詰まらせる。(そしてもう2度と、カノンにあんなひどい思いはさせねぇ・・・!) カノンに悲劇を味わわせないことも、トウガは強く心に決めていた。(トウガさん・・そこまで世界のことを・・私のことを・・・) トウガが誰よりもみんなのことを考えていると思ったカノン。しかし彼のやっていることがみんなのためになっているのか、カノンは納得できないでいた。(でもトウガさんは考えを変えない・・私にもきっと止められない・・トウガさんをここまで突き動かしているのは、今の世の中だから・・・) それでもトウガは自分の意思を貫くことになるとも、カノンは思っていた。「トウガさん・・私には・・私には何も・・・」 自分を無力だと思って、悲しい表情を浮かべるカノン。「そんなことねぇ・・おめぇがいるだけで、オレは・・・!」 トウガがたまらず感情をあらわにして、カノンに手を差し伸べる。「オレはおめぇに、何も生きてほしくねぇんだ・・・!」 必死の思いで呼びかけるトウガ。感情に突き動かされた彼は、カノンを抱きしめようとした。 そのとき、カノンは何か暗い何かを感じて、感じた恐怖が一気に膨らんだ。「イ、イヤアッ!」 カノンが悲鳴を上げて、トウガを遠ざけようとする。体を震わせて呼吸を乱す彼女を目の当たりにして、トウガが困惑を覚える。「カ、カノン・・おめぇ・・・!」 カノンの怖がりようを見て、トウガは息をのむ。記憶を失っていても、カノンにはギルに犯された恐怖が心身に刻まれていた。「す、すまねぇ・・もう、こんなこと・・・」 トウガは謝って、カノンから離れる。彼はカノンを怖がらせてしまったことを悔やむ。(ここまでカノンは追い込まれてたのかよ・・・アイツは・・アイツは絶対に許せねぇ・・・!) トウガはカノンを追い込んだギルへの怒りをさらに強めていた。 ハヤトとトウガの巻き起こした衝撃と爆発は、周辺だけでなく国中をも震撼させていた。強大な力を持つ怪物たちに、人々は不安を募らせていた。「またどこかで、あんな物騒なことが・・・!?」「あんなことがまた起こったら、私たちどうしたらいいの・・!?」「警察も政府もいったい何をやってるんだ・・!?」 人々が現状に対して不安を膨らませていく。いつまた爆発が起きて、自分たちが巻き込まれるかもしれないと思うようになっていた。 それでも自分たちにはどうすることもできないと思い知らされながら、人々は今まで通りの日常を送るしかなかった。 この日もハヤトもアイリもあかりも、スイートでの仕事を行っていた。しかしハヤトたちは内心ではガルヴォルスたちのことを考えていた。(アイツ、またどこかで誰かを襲っているんだろうか・・ガルヴォルスも人も関係なく、敵だと思ったヤツを片っ端から・・・) 仕事中、トウガのことを考えていくハヤト。(今度こそ、アイツと本気で戦うことになるんだろうか・・そのときはオレは・・・)「ハヤトくん?」 考えに気を向けていたところで、ハヤトがあかりに声をかけられた。「あ、あぁ・・すまない・・何だ・・?」 我に返ったハヤトが、あかりに返事をする。「また洗い物が出たからよろしくね。でもハヤトくん、もしかして・・」「いや、それは今は気にしてる場合じゃないな・・集中、集中・・」 心配の声をかけるあかりに答えて、ハヤトが仕事に集中する。(ハヤトくんも考え事を・・あのときやっぱり何かあったんじゃ・・・) あかりもハヤトのことを気にして不安を感じていた。「あかりー、注文取ってー。」 考えを巡らせたところで声をかけられるあかり。「あ、はーい。」 あかりが返事をして、彼女も仕事に集中するのだった。 そんな中、スイートに1人の男が入ってきた。男はギルだった。「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ。」 アイリがギルの着いたテーブル席に向かった。「コーヒーをもらえるか?」「コーヒーですね。少々お待ちください。」 ギルが注文してアイリが答える。その間にギルは厨房の奥、皿洗いをしているハヤトに目を向けていた。「お待たせしました。コーヒーになります。」 アイリからコーヒーを受け取って、ギルが口にする。(悪くはないな・・) コーヒーをたしなめて、ギルが笑みをこぼした。(これは本当にただの挨拶だ。だが今度会うときは戦う者同士ということになる。) ハヤトに対する目論みを胸に秘めて、ギルは再びコーヒーを口にした。(何だ、この感じは・・まさか、ガルヴォルスが・・・!?) 皿洗いを終えたハヤトが気配を感じて緊張を覚える。しかしその気配の正体まではつかめず、迂闊に動けなかった。(どっちみち、ここで事を起こしてもみんなを巻き込むことになる。何か仕掛けてくるなら、また来るはずだ・・) ハヤトは向こうの出方を見ることにして、休憩に入ることにした。 この日の仕事を終えてマンションに戻ってきたところで、ハヤトはアイリとあかりに感じた気配のことを打ち明けた。「えっ!?怪物が!?」 驚きの声を上げたあかりの口を、アイリが慌てて手で押さえた。「近くでオレたちのことを見張ってるかもしれない・・だから人前でこの話をするのはどうかと思ったんだ・・」 ハヤトが考えを告げて、あかりが口を押えられたまま頷いた。「誰かとんでもないヤツが店に来てた・・けど誰なのかまでは分かんなかった・・・」「その怪物が暴れなかっただけよかったと思うべきかな・・」 語りかけるハヤトに、アイリは深刻な面持ちで答える。「人前で派手にやらかさないところから、結構な慎重派だな。それも、とんでもない力を持っているかもしれない・・」 ハヤトの話を聞いて、アイリも緊張の色を隠せなくなった。 そのとき、あかりがアイリの腕を叩いてきた。アイリに口を押えられたため、あかりは息ができなくなって息苦しさを訴えてきた。「あっ!あかり!」 アイリが慌てて手を放して、あかりが大きく深呼吸する。「あう~・・アイリちゃんに殺されるところだったよ~・・」「ゴメン、あかり・・話に夢中になってしまったみたい・・・」 肩を落とすあかりに、アイリが両手を合わせて謝る。「とにかく、お前らも気を付けろよ・・お前らもオレを狙うために襲われるかもしれないからな・・」 ハヤトから注意を聞かされて、アイリとあかりが緊張を募らせる。「ちょっと~・・今も誰かあたしたちを狙ってるんじゃ~・・・!?」 あかりが不安を浮かべて周りを見回す。「そうやって警戒しても、ガルヴォルスは正体を現さないぞ・・」 ハヤトが呆れながらあかりに言いかける。「オレはもう休む・・何かあったらすぐにオレに知らせてくれ・・」「うん・・ハヤト、ありがとう・・」 部屋に戻ろうとするハヤトに、アイリが微笑んで感謝した。「オレしか戦えないからな・・ガルヴォルスとも、悪いことを企んでるヤツらとも・・」 自分の意思を口にしてから、ハヤトは自分の部屋に戻った。(ハヤト・・私も、私のできることで、ハヤトを助けるから・・・) アイリのハヤトを支えたいという思いに迷いはなかった。 トウガの敵意と憎悪は留まることを知らなくなっていた。彼はタレントのイベントに乗り込んでいた。「何よ・・あたしが何をしたっていうの!?」 立ちはだかるトウガに女性タレントが怒号を上げる。その彼女をトウガが鋭く睨みつけてくる。「おめぇは他のヤツを脅しつけて自分を押し付けて、いい気になってる・・ゴミクズのやることなんだよ・・・!」「それがあたしの仕事なのよ!そうしないととてもやってられないの!第一、他の人は喜んでくれてるんだからいいじゃない!」 怒りの言葉を口にするトウガに、タレントが不満の声を上げる。この言葉と態度に激高したトウガが、足を振り上げて彼女を蹴り飛ばした。 強い衝撃に襲われたタレントが、鮮血をあふれさせて事切れた。「そういうのが明らかに間違ってるのが分かんねぇのかよ・・こんなゴミクズのことをいいと思ってるヤツらも、確実に狂ってるんだよ・・・!」 憤りを噛みしめて、トウガが両手を強く握りしめる。「どいつもこいつも、オレたちばかりを・・・!」 自分たちばかりが理不尽や思い上がりにさいなまれる現実に、トウガは我慢がならなかった。「そこまでだ、バケモノ!」 そこへ警官たちが駆けつけて、拳銃を手にして構えた。「これ以上危害は加えさせないぞ!おとなしくしろ!」 警官たちが警告を呼びかけると、トウガが振り返り鋭い視線を向ける。「おめぇらもふざけやがって・・悪いのはここで思い上がってたゴミクズのほうだろうが!」 トウガが怒号を言い放って、警官たちに向かって歩く。「コイツ、自分のしたことを棚に上げて!」「おとなしくしないと撃つぞ!」 警官たちが怒鳴りかかるが、トウガは足を止めない。「撃て!これ以上近づけさせるな!」 警官たちが発砲するが、トウガは弾丸を受けてもものともしない。「おめぇらもホントに正しいのが何なのかを分かろうとせずに・・そんなにゴミクズになりてぇのかよ!」 激高したトウガが警官たちにも拳を振りかざした。彼に殴り飛ばされて、警官たちが血をあふれさせて動かなくなる。「退避だ!全員外へ出るんだ!」 警官たちが危険を感じて、トウガから離れていく。「逃げるな!」 トウガが追いかけるが、警官たちは巧みに彼から逃げ切った。「くっ・・どいつもこいつも・・オレたちが悪いと決めつけて・・・!」 理不尽に憤るトウガのいら立ちは増すばかりとなっていた。「この世の中全てが、オレの敵に回っちまったっていうのかよ・・・!?」 彼の疑心暗鬼はさらに強く、さらに世界全てに向けられるようになっていった。信じられるのは、もうカノンだけ。 度重なる怪物の襲撃事件。ハヤトもこの襲撃がトウガの仕業であると思っていた。(アイツ・・このままじゃホントの殺人鬼、バケモノになっちまうぞ・・・!) トウガの暴走を危惧して、ハヤトが心の中で毒づく。(だけどアイツは許せないヤツがいるから戦ってる・・自分勝手に暴れてる他のガルヴォルスとは違う・・・!) トウガと戦うことに迷いを抱くハヤト。(このままアイツを止めても、アイツが救われることにはならない・・どうしたらいいんだ・・・!?) トウガを納得する形で止める方法が見つからず、ハヤトは苦悩を深めていく。「ハヤト・・」 そのとき、ハヤトが後ろから声をかけられて振り向く。アイリがやってきて、ハヤトに困惑を見せていた。「何か、思いつめるようなことを考えていたんじゃ・・・」「アイリ・・・」 アイリからの言葉にハヤトも困惑を浮かべた。「ハヤトは他の怪物たちとは違う。自分だけが喜ぶためじゃなく、心から許せない存在を倒すために怪物の力を使ってきた・・」「そうだ・・オレはガルヴォルスの好き勝手が許せなくて、ガルヴォルスとなって戦ってきた・・」 アイリの言葉を受けて、ハヤトが自分の戦いを思い返していく。全てはハルナを奪ったガルヴォルスを倒すためだった。「だけど、今人を襲ってるガルヴォルスも、オレみたいに誰かを許せなくて攻撃を仕掛けてる・・だから、無理やり止めるんじゃ全然意味がないんだ・・」「ハヤト・・でも、このままあの怪物を何とかしたいとも考えているんでしょう・・?」 トウガとの戦いに対する迷いを見せるハヤトに、アイリが聞いてくる。「どんな理由でも、何も悪くない人、関係ない人まで傷ついたり殺されたりするのはよくない・・それは間違いないよね・・・?」「それは、そうだけど・・・」「せめて止めるだけでも、悪いことにはならないんじゃないかな・・・」 困惑を募らせるハヤトを励まそうとするアイリ。しかしハヤトの迷いは和らがない。「それでもどうしたらいいか決めきれない・・ハヤトは私以上に、いろいろ抱え込んでいるからね・・・」「アイリ・・・」 物悲しい笑みを浮かべるアイリに、ハヤトが戸惑いを覚える。「私には強く言うことはできない・・それだけの強さがないから・・・」「そんなことはない。オレが迷ってばっかなのがいけないんだ・・」 思いつめるアイリにハヤトが弁解する。「迷いをあっさり振り切って、すぐに答えを出せたらいいのに・・」「そんな単純じゃないよ、私たちはみんな・・」 互いに皮肉を口にして、ハヤトとアイリが肩を落とす。2人とも追い求めている明確な答えを見出せないでいた。「考えてもムダに時間が経つだけだ!考えるよりも行動を起こしたほうがいいこともある!」 ハヤトは考え込むのをやめて、自分の頬を叩いて気を引き締めなおす。「ハヤトらしくなってきたね・・」「オレらしいって、お前なぁ・・」 微笑みかけるアイリに、ハヤトが肩を落とす。2人はすぐに真剣な面持ちに戻る。「まずはアイツの人殺しを止める。話はそれからだ・・」 ハヤトはアイリに言いかけて、トウガを追って駆け出した。 トウガの敵を倒すという襲撃はさらに続いていた。心から許せない相手を、トウガは次々に手にかけていった。「や、やめて!助けてくれ!」 しりもちをついた男が、トウガに助けを請う。「自分のことを押し付けておいて、今さらそんなことを口にするのかよ・・・!」 トウガが男の態度に憤りを覚える。「だってそうしたほうが人気上がるから・・!」「こんな思い上がりで、不快感しか感じられないもののどこが人気だ!こんなことをいいと思ってるヤツらも、脳が腐ってるんだよ!」 必死に答える男に、トウガが怒号を言い放つ。「お前の考えていることより、他の人のほうが常識人なんだよ!いい加減そのことに気付け・・!」 言い放つ男にトウガが足を振り下ろす。トウガの強烈な蹴りを受けて、男の体が上半身と下半身に両断された。「そうやっていつまでも思い上がってるから、おめぇらはゴミクズなんだよ・・・!」 込み上げてくる憤りを抑えられず、トウガが床を強く踏みつける。彼は次の敵を追い求めて、場所を変えようとした。 だがトウガは近くに気配を感じて足を止めた。彼の前に現れたのはハヤトだった。「おめぇ、この前の・・・!」 トウガがハヤトを見て目つきを鋭くする。「ハヤト・・・!」 アイリも遅れて駆けつけて、ハヤトに声をかけた。(アイツは・・・!) トウガがアイリを見て動揺を覚える。それを表に出さないように、彼は動揺を抑える。「あの怪物・・あのときの・・・」 アイリがトウガがなっているビーストガルヴォルスを目の当たりにして、緊張を膨らませる。「また人を襲ってるのか・・関係ない人まで巻き添えにして・・・!」「思い上がってるゴミクズどもを叩き潰してるだけだ・・ゴミクズどもに味方したり、目の前にいながら野放しにしてるヤツらもいいとは言えねぇ・・!」 ハヤトが言いかけるが、トウガは敵意を消さない。「そうやって、自分が命を奪っているのは全然悪くないって言いたいのかよ・・・!?」「そう思ってるのはゴミクズどものほうだ・・明らかに間違ってるのに、正しいことにして、オレたちを悪いと決めつけて・・・!」 ハヤトが憤りを見せるが、トウガは敵意を募らせるだけである。「オレはそいつらを野放しにするつもりはねぇ!1人残らず見つけ出して叩きつぶす!」「それで何も悪くない人まで巻き込まれてもか・・!?」「それでゴミクズを野放しにしていいことにはならねぇ!」 憤りを募らせるハヤトに激高して、トウガが飛びかかる。ハヤトがとっさにドラゴンガルヴォルスとなって、トウガを迎え撃つ。「キャッ!」 ハヤトとトウガの激突の衝撃で、アイリが吹き飛ばされて地面を転がっていく。「アイリ!」 倒れたアイリを気にしてハヤトが声を上げる。彼はトウガを引き離して、アイリに駆け寄る。「大丈夫か、アイリ!?」「ハヤト・・私は大丈夫・・押されただけだよ・・」 心配の声をかけるハヤトに、アイリが微笑んで答える。「ハヤトくーん!アイリちゃーん!」 そこへあかりがやってきて、ハヤトたちに呼びかけてきた。「あかり、アイリを連れて逃げろ!」「ハヤトくん!・・あの怪物・・・!」 ハヤトが呼びかけて、あかりがトウガを見て緊迫を募らせる。「早く逃げろ・・ここはまた物騒になるぞ・・・!」「ハヤトくん・・無事に戻ってきてよね・・・!」 ハヤトが呼びかけて、あかりが小さく頷いた。「ハヤト・・・」「アイリ・・オレは必ず戻る・・戻ってくる・・・!」 声を振り絞るアイリに、ハヤトが笑みを見せる。あかりはアイリを連れてここから離れた。「お前はこうして関係ないヤツを傷付けても、敵を倒すためなら間違ってないというつもりなのか・・!?」 ハヤトが怒りを膨らませて、トウガに鋭い視線を向ける。「敵を野放しにすることは、オレたち自身を殺すことと同じことなんだよ・・・!」「それでアイリまで・・いくらなんでもやりすぎだ、お前!」 敵を倒すためだけに集中するトウガに、ハヤトの堪忍袋の緒が切れた。 ハヤトが繰り出した拳がトウガの顔面に直撃した。押されたトウガだがすぐに踏みとどまる。「おめぇも・・おめぇもオレたちのことを!」 トウガも激高して、ハヤトと拳をぶつけ合う。ハヤトがとっさに左の拳を出して、トウガの体に叩き込んだ。「こんなもので・・オレは止まらないぞ!」「止めてやる!心苦しいが、お前はもう止めるしかない!」 怒号を放つトウガに、ハヤトが言い返す。2人がさらに拳を繰り出して、激しくぶつけ合う。 ハヤトとトウガの攻防は最初は互角だった。だが徐々にハヤトがトウガに押されていく。「オレはゴミクズを滅ぼして、ホントの正しい形の世界にする!そうしなければ、世の中は思い上がりとムチャクチャに塗りつぶされて、オレたちみたいに絶望を無理やり味わわされるヤツが出てしまう!」 自分の揺るぎない意思を言い放ち、トウガがさらに攻め立てる。彼の繰り出した拳を体に受けて、ハヤトが大きく突き飛ばされる。「ぐっ!」 壁に当たって突き破って、ハヤトが痛みを覚えてうめく。トウガがハヤトを追って、穴の開いた壁を突き破る。 しかしその先にハヤトの姿はなかった。トウガが見回すがハヤトの姿はない。「どこだ・・どこへ行った!?」 トウガが怒号を放つが、彼はハヤトの行方を見つけることができなかった。 トウガに追い詰められたハヤトは、再び戦意を揺さぶられてしまった。彼は辛くもトウガから遠ざかり、アイリとあかりのところへ向かっていた。(アイツに競り負ける・・力というよりは、意思で・・・!) トウガとの差が決定的だということを痛感して、ハヤトが歯がゆさを噛みしめる。(オレに何が足りないんだ・・何が・・・!?) 疑問と困惑を抱えたまま、ハヤトは歩を進める。彼のトウガに対する苦悩はさらに深まっていた。 第4章へ 作品集に戻る TOPに戻る