ガルヴォルス

-End of Absurb-

第2章

 

 

 マウスガルヴォルスに遭遇したアイリとあかりだが、トウガがマウスガルヴォルスを倒したことで事なきを得た。

「あう〜・・助かったよ〜・・・」

 あかりが無事でいられたことに安心する。

「ハヤト、もう怪物はこの辺には・・・?」

「いや、気配は感じない。もう襲われることは多分ない・・」

 アイリが声をかけて、ハヤトが周りを見回しながら答える。

「私、やっぱり何もできなかった・・私に力があれば・・・」

「それはやめろ、アイリ・・言っただろ、取り返しがつかなくなるって・・・」

 自分の無力さを痛感するアイリに、ハヤトが言いかける。

「それに、あのガルヴォルスのことも気になるしな・・」

「ハヤト・・・」

 トウガのことを気に掛けるハヤトに、アイリが戸惑いを募らせる。

「今日はもう帰るぞ。もう帰る気でいたんだろ?」

「う、うん・・アイリちゃん、帰ろうよ〜・・」

 ハヤトの呼びかけに頷いて、あかりがアイリにすがりつく。

「持って帰れるものを、しっかり持っていったほうがいいみたいだね・・」

 アイリが苦笑いを浮かべて、落としていた買い物を拾う。

「アイリちゃん、あたしも〜!」

 あかりが慌てて自分の買ったものを拾っていく。

「ちょっとぐらいなら、荷物を持ってやってもいいぞ・・ここまで来ちまったからな・・」

「やったー♪ありがと〜、ハヤトく〜ん♪」

 ハヤトが言いかけると、あかりが笑顔と喜びを振りまく。

「調子に乗るなっての、あかり・・」

「ふえ〜・・」

 憮然とした態度を見せるハヤトに、あかりが落ち込んで肩を落とした。

 

 人気のない草原の片隅に、1人の少女がいた。カノンである。

 カノンには記憶がない。名前を教えてもらったが、それ以外の全ての記憶を失っている。

 1人待つカノンの前にやってきたのはトウガだった。

「カノン・・・」

 無表情のカノンを見て、トウガが困惑を覚える。

(オレは信じてる・・おめぇが記憶を取り戻すことを・・そして必ずゴミクズどもを滅ぼして、おめぇにあのときみたいな悲劇を起こさせねぇようにする・・)

 心の中で決意を口にするトウガ。彼はギルを始めとした敵の打倒という決意を強固にしていた。

「トウガさん・・私は大丈夫です・・何事もなく、落ち着いて過ごせました・・トウガさんが食事を持ってきてくれますし・・・」

 カノンが微笑んで言いかけて、トウガが戸惑いを見せる。

「オレはオレが生き延びるために戦ってきた・・食い物や金を奪うマネもしちまったが、ゴミクズ相手にしかやっちゃいねぇ・・・」

「でも盗みをしているのですよね・・それは悪いことに・・・」

 トウガの話を聞いて、カノンが表情を曇らせる。

「確かに盗みをしている時点で、オレが正しいとはいえねぇ・・けど、世の中には明らかに間違っているのに正しいことだと思い上がってるゴミクズどもが湧いて出てるんだ・・・!」

 トウガはカノンに頑なな意思を示す。彼の言葉を聞いて、カノンが困惑を募らせる。

「そんな連中の資源は、いいことに使われないといけねぇんだ・・それなのにゴミクズどもは・・・!」

「トウガさん・・・」

 敵への憎悪をむき出しにするトウガに、カノンはかける言葉が出なくなった。

「明らかに間違っていることを正す・・それがオレの戦いだ・・・!」

 カノンの思いを受け止めながらも、トウガは自分の戦う理由を変えようとはしなかった。

「今日は休むけど、明日からまた行く・・まだゴミクズどもは好き勝手やってやがるからな・・・」

 トウガは言いかけて、カノンの隣に横たわった。

「自分の考えを貫くことは悪くないことだけど、命は大切にして・・あなたを大事に思っている人がいるから・・・」

 そんなトウガにカノンが想いを伝える。彼女の言葉を聞いて、トウガが戸惑いを感じていく。

「カノンも、その1人ってことか・・・」

「えっ?・・・うん・・」

 トウガが投げかけた言葉に、カノンも戸惑いを見せる。

「おめぇのためにも、オレは戦わなくちゃいけねぇってことだ・・・」

 トウガもカノンへの想いを口にして、眠りについた。

(トウガさん・・そこまで私のために・・・ありがとう・・・)

 トウガへの感謝を心に秘めて、カノンも眠りについた。トウガの孤独の戦いはまだ続いていくのだった。

 

 スイートでの仕事が休みの日。ハヤトは気晴らしに1人外を歩いていた。

(みんな穏やかに過ごしているな。物騒な世の中だって知ってるのかってくらいに・・)

 人々の様子を見回して、ハヤトが心の中で呟く。

(アイツは、この辺りにいるのか・・どこかで誰かを攻撃しているのか・・・?)

 トウガがどこかで戦いをしているのかどうかを考え、ハヤトは深刻さを感じていた。

 街中を歩いていたハヤト。彼のそばのビルにある大画面ではワイドショーが放送されていた。

「最近バケモノが暴れ回ってるなんて噂が流れてるみたいだが、そんな現実離れしたことあり得るか!万が一バケモノがいても、その暴挙は認められるもんじゃない!」

 ワイドショーにゲストで出ていたタレントが、怪物の事件について語っていた。高飛車で有名なタレントで、評価は賛否が分かれている。

「警察も自衛隊も徹底的にバケモノの始末に乗り出すべきだ!世の中を守る公務員が、その役目を果たさなくてどうする!」

 タレントが現状に対して痛烈に批判を述べていく。

「最近の男たちは度胸が足りない!いくらいつ殺されるかもしれない状況になっても、言いなりにならずに立ち向かう勇気が必要なのに!」

 そのとき、ワイドショーのスタジオで突然爆発が起こった。

「な、何だ!?

 緊迫した状況に直面して、タレントが声を上げる。

「き、危険です!早く逃げないと!」

「バカを言うな!おめおめと尻尾巻いて逃げられるか!」

 スタッフが避難させようとするが、タレントは逃げようとしない。彼らの前に現れたのは、ビーストガルヴォルスとなったトウガだった。

(アイツ!)

 ハヤトが緊迫を覚えて、駆け出しながら感覚を研ぎ澄ませる。彼は人目から離れて裏路地に入ったところで、ドラゴンガルヴォルスとなる。

(この近くか!急がないとな!)

 トウガの居場所を捉えたハヤトが、一気に加速した。

 

 突然ワイドショーのスタジオに乱入したトウガ。彼はタレントの高飛車な言動に激怒していた。

「出たな、バケモノが!どんなに暴れようと、お前らの思い通りになることは何1つないぞ!」

 タレントが転がってきた棒を拾うと、トウガ目がけて振り下ろす。棒が当たっても、トウガは痛みも感じていない。

「ちくしょう!お前らの思い通りにさせるか!」

「思い通りにさせない・・それはこっちのセリフだ!」

 言い放つタレントに、トウガが怒号を放つ。彼は振り下ろされた棒をつかんでへし折り、タレントから奪い取って投げ飛ばす。

「いつも自分が正しいと思い上がり、他のヤツらに自分を押し付けて平気でいる!オレはおめぇらのようなゴミクズどもを、絶対に野放しにしねぇ!」

「何がゴミクズだ!ゴミクズはお前だろうが!人を襲って楽しんでるバケモノにくせに!」

 怒りを言い放つトウガにタレントが言い放つ。この言葉と態度に激高して、トウガがタレントを強く蹴り飛ばした。

 トウガの重みのある蹴りを体に受けたことで、タレントは即死していた。その先の壁に叩きつけられたことで、彼の体から鮮血があふれ出した。

「自分の間違いを棚に上げて、他のヤツを悪いと決めつける・・だからゴミクズなんだよ・・・!」

 憎悪を噛みしめて両手を強く握りしめるトウガ。怒りを逆撫でする敵がいる限り、彼の憎悪と戦いは終わることはない。

「オレはおめぇらゴミクズどもを滅ぼす・・邪魔をしてくるヤツも、オレは許さねぇ・・・!」

 揺るぎない敵意と決意を募らせて、トウガはスタジオを後にして、外に出てきた。

「お前・・・!」

 そこへハヤトが駆けつけて、トウガと対面した。敵と認識した相手にすぐに攻撃を仕掛けたトウガに、ハヤトは困惑していた。

「人殺しをしたっていうのか、お前・・・!?

「オレはゴミクズを始末しただけだ・・思い上がるだけのゴミクズをな・・」

 問い詰めるハヤトに、トウガが低い声音で答える。

「そうやって見境なしに攻撃して、関係ない人が傷つくことになってもか・・・!?

「ゴミクズは始末されて当然だ・・それをみんな、野放しにしてた・・ずっと近くにいたのに・・・!」

「他のヤツらが、オレやお前みたいに強いとは限んないだろうが・・・!」

「力があるとかないとかは関係ねぇ・・言いなりにならねぇ、逆らい続けることが大事だってのに・・!」

 ハヤトが呼びかけるが、トウガは憎悪と自分の意思を変えない。

「敵わねぇとか怖いとか、そんなことで逆らわねぇのは、ゴミクズどもに従ってるも同じなんだよ・・!」

「そうやって、自分の考えを関係ないヤツにまで押し付けるなよ!自分勝手に人を困らせたいわけじゃないんだろ!?

「オレはそんなことはしねぇ!してるゴミクズどもを、オレは全員叩きつぶす!」

「関係ないヤツを巻き込まないようにしろ!最悪、お前がお前のような人を増やすことになるんだぞ!それも、お前を憎む人が!」

「オレは間違いを正すために戦ってる!それが間違いだと決めつけるヤツもゴミクズだ!」

「いい加減にしろ、お前!そうまでして自分を押し付けるってか!」

 憎悪をむき出しにするトウガに、ハヤトがついに憤りを覚える。

「ムチャクチャを押し付けられる不満を、お前も感じていると思ったけど、お前もそうなっちまったみたいだな・・!」

 ハヤトが両手を握りしめて、トウガに鋭い視線を向ける。

「邪魔をするなら、誰だろうと容赦しねぇ・・!」

 トウガも目つきを鋭くして、ハヤトと拳をぶつけ合う。強い衝撃が巻き起こる中、ハヤトとトウガの力は拮抗していた。

(コイツ、やっぱりとんでもない力を持っている!しかも怒りが力を上げている!)

(このヤロー、オレの力と互角に渡っていやがる!)

 ハヤトとトウガが互いの力を痛感する。2人とも押し切れず、後ろに下がって距離を取る。

「オレは引き下がらねぇ!オレはもう、ムチャクチャを受け入れるつもりはねぇんだよ!」

 怒りに突き動かされて、トウガがハヤトに飛びかかる。ハヤトが迎え撃ち、トウガと拳をぶつけ合っていく。

「ムチャクチャ・・やっぱりコイツも、ムチャクチャなのが許せなくて、敵を倒して回ってるのに・・・!」

 ハヤトはトウガの心境を悟り、困惑していく。ハヤトはトウガに憤りながらも、このまま倒すことにためらいを感じていた。

「オレの邪魔をするなら、おめぇも叩きつぶす!」

 トウガが怒りを募らせて、全身から電撃を放出してきた。

「ぐっ!」

 ハヤトが電撃を直撃されて、大きく突き飛ばされる。遠ざかっていく彼を、トウガが追いかける。

 ハヤトとトウガは人気のない工場跡地に移動してきた。

「どこだ・・どこにいる!?

 トウガが叫び声を上げて、ハヤトを探す。ハヤトは工場に落ちた際に落下した瓦礫に埋もれて、トウガの目の届かない状態になっていた。

(オレもこのままやられるつもりはない・・いくらアイツがまるっきり悪くないとしても、オレが殺されるぐらいなら、他のヤツが危なくなるくらいなら・・!)

 自分自身の危機感と込み上げてくる感情を膨らませて、ハヤトが全身に力を込める。瓦礫から出た彼の体から紅い霧のようなオーラがあふれ出していた。

「ここにいたか・・おめぇも力を発揮したのか・・!」

 トウガがハヤトの全力を目の当たりにして憤りを募らせる。

「だけどそれでも、オレは敵を倒す!邪魔するヤツらも含めてな!」

 言い放つトウガが両手を強く握りしめて、ハヤトに飛びかかる。2人が同時に拳を繰り出し、ぶつけ合う。

 その瞬間、ハヤトとトウガの力の衝撃が一気に広がった。工場の建物だけでなく、周辺のビルを次々に吹き飛ばした。

(オレたちの力が、ここまですごくなるとは・・・!)

(この爆発・・オレとコイツが引き起こしたのか・・・!?

 この瞬間にハヤトもトウガも驚愕を覚える。心が揺らいだためか、2人も自分たちの攻撃の衝撃に吹き飛ばされた。

 強く壁や地面に叩きつけられて、ハヤトもトウガも意識を失った。その弾みで2人の姿がガルヴォルスから人に戻った。

 

 街中で起こった巨大な爆発。このことは人々に瞬く間に知れ渡った。

 アイリもあかりもこの出来事を知った。彼女たちはハヤトに何かあったのではないかと予感した。

「ハヤト・・・ハヤトが携帯に出ない・・・!」

「やっぱり何かあったってこと!?・・ハヤトくん・・・!」

 不安に駆りたてられて、アイリとあかりが街中を駆け抜ける。しかし爆発の起こった付近は、既に規制が張られていて入れなくなっていた。

「この先にハヤトくんがいるかもしれないのに・・・!」

「違うところへ行ってみよう・・そこにいるかもしれない・・・!」

 困った顔を浮かべるあかりに、アイリが真剣な面持ちで言いかける。2人は場所を変えて、ハヤトを探していく。

「ハヤト、お願い・・無事でいて・・・!」

「アイリ・・・」

 ハヤトを想うアイリに、あかりが戸惑いを感じていた。

「あっ!アイリ!あっちで何か動いたよ!」

「えっ!?

 そのとき、あかりが声を上げて指さし、アイリが振り返る。2人の見つめる先の瓦礫が蠢いた。

 瓦礫の中から出てきたのはハヤトではなくトウガだった。

「あ、あの!しっかりしてください!」

 アイリがとっさにトウガに駆け寄っていく。トウガが意識を保てなくなり、倒れてアイリに支えられた。

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

 アイリがさらに呼び掛けるが、トウガは目を覚まさない。

「あかり、私はこの人を病院に連れていくから、あなたはハヤトを探して!」

 アイリが振り向いてあかりに呼びかける。

「でもアイリちゃん、この人・・・」

 あかりが不安を見せると、アイリが真剣な面持ちを見せてきた。

「分かった・・ハヤトくんを見つけたらすぐに戻るから、アイリちゃんも気を付けて・・・!」

 あかりも真剣な顔で呼びかけて、アイリが頷く。あかりが駆け出してから、アイリもトウガを連れて歩き出した。

 アイリもあかりも、トウガがガルヴォルスではないかという予感を持っていた。

 

 トウガとの衝突で大きく吹き飛ばされたハヤト。彼は人気のない草原まで吹き飛ばされていた。

 ハヤトは足が引きずっている感覚から意識を取り戻した。

「オレは・・・なっ・・・!?

 自分が引っ張られていることに気付いて、ハヤトが声を荒げる。

「あっ・・目が覚めたんですね・・よかった・・・」

 ハヤトを運ぼうとしていたのはカノンだった。彼女が倒れていたハヤトを見つけて、安全な場所で連れて行こうと思ったのである。

「お前、誰だ・・オレに何を・・!?

「あなたが倒れていて・・助けようって思って・・・」

 たまらず身構えるハヤトにカノンが答える。

「そうだったのか・・すまないな。オレはもう歩ける・・」

 ハヤトはカノンに感謝すると、自分の足で立つ。しかし彼は体力の消耗を感じて一瞬顔を歪める。

「あの、大丈夫ですか・・・?」

「あ、あぁ・・ちょっと疲れが残ってたのにビックリしたけど、もう大丈夫だ・・」

 心配するカノンにハヤトが笑みを見せて答える。彼が屈伸してみせると、カノンが微笑みかける。

「でも少し休んだほうが・・今まで気を失っていたんですから・・」

 カノンがさらに心配して、ハヤトをまた支える。

「わ、分かった・・近くの休めるところで休むよ・・」

 ハヤトが聞き入れて、近くの木陰で腰を下ろした。

「優しいな・・顔も名前も知らないヤツを助けるなんて・・・」

「人助けって純粋な気持ちじゃないと思います、多分・・よくは分からないですが、あなたから何かを感じた気がしたから・・・」

 感謝するハヤトに、カノンが自分の正直な気持ちを口にする。

「オレから何かを感じた・・・?」

 ハヤトがこの言葉に疑問を感じて、カノンをじっと見つめる。

(もしかしてこの人も、ガルヴォルスなんじゃ・・・だとしても、向こうから明かしてくるまでは、オレもできるだけ内緒にしたほうがいいみたいだ・・)

 カノンがガルヴォルスではないかという予感がしながらも、ハヤトは追及はしなかった。

「あの・・私に何か・・・?」

「えっ?・・あ、いや、何でもない・・」

 カノンが首をかしげて、ハヤトが首を横に振って誤魔化した。ハヤトはカノンが記憶喪失に陥っていることを知らなかった。

 

 トウガがガルヴォルスではないかと予感していたアイリ。アイリはトウガを連れて、病院ではなくマンションの部屋に来た。

 アイリはトウガを自分のベッドに横たわらせて、彼の様子を見る。

(この人もハヤトと同じ怪物・・でもハヤトと同じ、何かを抱え込んでいるような感じがしている・・)

 アイリがトウガを見つめて、彼のことを考えていく。

(この人も、自分のためじゃなく、何か違う目的のために・・・)

 トウガに深い事情を抱えていると、アイリは思っていた。

「くっ・・ぅ・・・」

 そのとき、トウガが意識を取り戻して目を開いた。

「あ・・気が付いたのね。よかった・・」

 アイリがトウガを見て安心の笑みを見せる。

「おめぇは!?・・・ここは、どこだ・・・!?

 トウガがベッドから飛び起きて身構える。しかし体の痛みが残っていて、彼が顔を歪める。

「まだ休んでいないと・・さっきまでひどく疲れていたみたいだから・・」

 アイリが近寄ってトウガを休ませようとする。

「関係ねぇ・・オレは休んでる時間はねぇんだよ・・!」

「でも、そんな状態で動いたら、死んでしまう・・!」

「オレは死なねぇ・・オレの邪魔をするな・・誰だろうと容赦しねぇぞ!」

 しかしトウガはアイリからの制止を聞かずに、部屋を出ようとする。

「お願い!・・あなたに何かあったら、悲しんだり辛くなったりする人がいるはずでしょ・・・!?

「だからじっとしてるわけにいかねぇんだよ、オレは・・・!」

 必死の思いで呼びかけるアイリに、トウガが自分の意思を口にする。

「助けようとしたことには感謝する・・けどオレは行く・・・」

「あの・・あなた、名前は・・・?」

 改めて外へ出ようとするトウガに、アイリが聞いてきた。

「トウガ・・・崎山トウガだ・・・」

「私はアイリ・・天河アイリ・・・」

 アイリと互いに自己紹介をすると、トウガは部屋を出て外に飛び出した。

(トウガさん・・・)

 去っていくトウガのことを、アイリは気にせずにはいられなかった。彼女はトウガが深いものを抱えていることを、確信に変えていた。

 

 ハヤトを探して走り回るあかり。彼女はいつしか街外れの草原に足を踏み入れていた。

「あう〜・・ハヤトくん、ホントにどこに行っちゃったんだろ〜・・!?

 あかりが頭を抱えて苦悩を深めていく。

「また携帯に連絡してみれば・・!」

 あかりは携帯電話を取り出して、ハヤトへの連絡を試みる。すると近くで着信音が鳴っているのを、彼女は耳にした。

「あれ!?もしかして、ハヤトくんの!?

 ハヤトが近くにいると思い、あかりが慌てて駆けていく。彼女は血眼になってハヤトを探していく。

 そしてあかりが目撃したのは、カノンのそばで横たわっているハヤトだった。

「ハヤトくん!」

 あかりが歓喜を浮かべて、ハヤトたちに駆けつけた。

「ハヤトくん、大丈夫!?しっかりして、ハヤトくん!」

 あかりが突然呼びかけてきて、カノンが驚きを覚える。

「あの・・あなたは・・・!?

「あなたが助けてくれたんですね!よかった〜・・!」

 動揺を見せるカノンにあかりが感謝する。

「も、もしかしてこの人の知り合いですか・・?」

「うん♪さっきの爆発に巻き込まれたんじゃないかって思って・・無事でよかった〜・・」

 問いかけてくるカノンに頷いて、あかりが安心する。2人の声を耳にして、ハヤトが目を覚ました。

「あっ!ハヤトくん!」

 あかりがハヤトに声をかけて、また安心を見せる。

「あかり・・ここに来ていたのか・・アイリは・・?」

「アイリは、その・・倒れていた人を見つけて・・・」

 ハヤトが聞いてきて、あかりが口ごもる。

「そうか・・・そろそろ戻らなくちゃな・・これ以上、心配を増やすわけにいかないな・・」

 ハヤトが笑みを浮かべてゆっくりと立ち上がる。

「助けてくれてありがとうな。オレは竜崎ハヤト。」

「私はカノン・・華原カノンです・・・」

 ハヤトが感謝して、カノンと自己紹介を交わす。

「あたしは朝比奈あかり♪またね、カノンちゃん♪」

 あかりも挨拶して、ハヤトと一緒にカノンと別れた。

「ふぅ〜・・ハヤトくん、ホントに無事でよかったよ〜・・」

 大きく肩を落として深呼吸するあかり。彼女の隣でハヤトは真剣な面持ちを浮かべていた。

「どうしたの、ハヤトくん・・?」

「いや・・もしかしたらアイツ、ガルヴォルスじゃないかって思ったけど・・結局、分かんないまま別れちまったな・・」

 あかりが聞くと、ハヤトがカノンのことを口にする。

「えっ!?あの子、怪物だったの!?

「そうだと分かったわけじゃない。だからいきなりそんな大声あげるなよ・・」

 驚くあかりに、ハヤトがため息まじりに答える。

「そうだ。アイリに知らせとかなくちゃね。アイリもハヤトくんのこと、心配してたから・・」

 あかりがアイリにハヤトが無事だったことを知らせようと、携帯電話を取り出して連絡を取った。

 

 介抱したトウガと別れることになったアイリ。彼のことを気にするアイリは、携帯電話が鳴ったことに気付いて我に返った。

「アイリ・・ハヤトは見つかったの・・・?」

“ハヤトくん、見つかった♪大丈夫だよ♪”

 アイリが電話に出ると、あかりが明るい声で呼びかけてきた。

「ハヤトが!・・よかった・・・!」

 ハヤトの無事を聞いて、アイリが安心の笑みをこぼす。

“それでアイリ、あの人は・・?”

「それが・・目が覚めたんだけど、1人で出ていってしまって・・・」

 あかりがトウガのことを聞いて、アイリが深刻な面持ちで答える。

“そんな〜・・じゃ、今から戻るね〜・・”

「うん・・ありがとうね、あかり・・」

 落ち込んだあかりとの連絡を終えて、アイリは携帯電話をしまった。

(トウガさん、大丈夫かな・・もしも怪物だとしたら、誰かを襲っていなければいいけど・・・)

 アイリがトウガのことを考えて、不安を覚える。

 その不安通り、トウガは人間、ガルヴォルス問わず手にかけていた。ただしそれは自己満足ではなく、自分たちに理不尽を押し付ける敵が許せないという怒りによるものだった。

 

 アイリに助けられたトウガは、カノンのところへ戻ることにした。

 ハヤトとの対決による衝撃。その爆発にカノンが巻き込まれていないか、トウガは気が気でなくなっていた。

「カノン・・・オレだ、カノン!」

 草原に戻ったトウガが呼びかける。するとカノンが木陰から顔を出してきた。

「トウガ・・・」

「カノン!・・無事だったか・・・!」

 声をかけるカノンを見て、トウガが安堵を覚える。

「うん・・さっき、人が1人倒れていたの・・助けたんだけど、無事に帰っていきました・・」

「人が!?・・何もしてこなかったのか!?何かおかしなことを言ってこなかったか!?

「ううん・・感謝してくれた・・とても優しい人でした・・・」

「そうか・・何もなかったか・・・」

 カノンの答えを聞いて、トウガが再び安堵する。

(カノンにこれ以上危害を加えさせるか・・あのような苦痛、もうカノンに味わわせない・・・!)

 カノンを悲劇にあわせないという決意を、トウガは心の中で強めていた。

「カノン、さっきの爆発でこの辺りも危なっかしい・・少し場所を変えるぞ・・・」

「トウガ・・・うん・・・」

 トウガの呼びかけにカノンが小さく頷く。2人は草原から場所を移動する。

 トウガが危惧したのは、草原にも爆発の余波が来るのではないかと思ったからではない。カノンのことを知って敵が迫ってくるかもしれないことだった。

(もうカノンは傷つけさせない・・カノンが苦しむ危険がちょっとでもあったら、遠ざけて叩きつぶす・・・!)

 トウガの戦いは敵を倒すだけでない。カノンを危険から守ることも含まれていた。

 

 ハヤトとトウガの激突による爆発の情報は、ギルにも伝わっていた。

(崎山トウガ、派手に暴れているようだ・・これでは隠しきれなくなるぞ・・)

 トウガの行動に滅入って、ギルがため息をつく。

(アイツもだが、もう1人とんでもないガルヴォルスがいたようだ・・竜崎ハヤト。ヤツもガルヴォルスの中でずば抜けた力の持ち主のようだ・・)

 ギルはトウガだけでなく、ハヤトのことも考えていた。

(うまく対立して潰し合ってくれればいいが、他のヤツが巻き添えになるのはいかんな・・)

 自分たちの脅威となる存在がうまく共倒れしてくれることを、ギルは思っていた。

 

 

第3章へ

 

作品集に戻る

 

TOPに戻る

inserted by FC2 system