ガルヴォルスDesire 第24話「信じ抜く正義」
ゼロスの放った毒の力により、英野町は灰色の石と化した。建物も人々も、全てが物言わぬ灰色の石となっていた。
その中で舞華、秋菜、ジョーだけは石化を免れていた。秋菜の水晶の力が、漆黒の稲妻がもたらした石化を防いだのである。
意を決した舞華たちは、デスピアを倒すために動き出していた。舞華のかすかに残っている記憶と幸介からの情報より、デスピア本部の大方の位置は分かっていた。
(冬矢さん、夏さん、みんな・・今からつけるからね・・・)
大切な人を救うため、決意する舞華は拳を強く握り締めていた。
町を出てしばらく進んだところで、舞華たちは足を止める。
「近くにいるみたいだね。」
「私たちを探してるみたい・・何人もうろついてる・・」
周囲の気配を感じ取って、舞華と秋菜が身構える。だが人間であるジョーには、その気配を強くつかむことができなかった。
「囲まれてるみたい・・」
「強行突破するしかないみたいね・・・」
舞華と秋菜の言葉にジョーが緊迫を覚える。そのとき、彼らの周囲に兵士たちが現れ取り囲む。
「ようやくお出ましか。」
「待ちくたびれちまったぜ。だがこれで存分に暴れられるぜ。」
兵士たちが歓喜を浮かべて、舞華たちに詰め寄る。だが舞華たちの心境に変化はない。
「邪魔をしないで!でないとあなたたちを倒さなくちゃなんなくなる!」
言い放つ舞華の頬に紋様が走る。そしてその姿が異質の怪物へと変化する。
右手を刃に変える舞華に、兵士たちは一瞬動揺を浮かべる。だがすぐに身構え、各々のガルヴォルスとしての姿に変身する。
「あくまで戦うってわけなんだね・・・」
いきり立った舞華が、取り囲むガルヴォルスたちに向かって飛びかかる。刃を振りかざし、一気にその1人を両断する。
その瞬間に動揺を見せるも、周囲のガルヴォルスたちがいっせいに舞華に飛びかかる。そこへ刃の群れが飛び込み、ガルヴォルスたちを一掃する。
攻撃を仕掛けたのは秋菜だった。彼女の放った水晶の刃が、ガルヴォルスを数体撃退したのである。
「封じ込めるだけが、私の力じゃないのよ。」
「秋菜ちゃん。」
微笑んで言い放つ秋菜に、舞華も笑みをこぼす。振り向く2人に、周囲のガルヴォルスたちは戦意を揺さぶられていた。
「こうなったら人間の小僧から始末してやるぞ!」
業を煮やしたガルヴォルスたちが、標的をジョーに変えて駆け出す。舞華と秋菜も追うが、ガルヴォルスの攻撃に間に合わない。
挟み撃ちにしようとするガルヴォルスたちを見据えて、ジョーは飛び込むように回避する。ガルヴォルスたちは駆け出す勢いのまま、正面衝突する。
「どんなもんだ!人間様をなめるなよ!」
倒れ込むガルヴォルスたちを見つめて、ジョーが言い放つ。
「この、人間の分際でいきがりおって!」
その彼の背後から、別のガルヴォルスが冷気を放つ。振り返るジョーだが、冷気から逃げ切れない。
そこへ舞華が飛び込み、ジョーを抱えて退避する。そして秋菜が水晶の刃を放ち、ガルヴォルスの体を突き刺す。
「ジョー、大丈夫!?」
「あ、あぁ。すまない・・」
舞華の声にジョーが答える。彼女は彼を連れて、ガルヴォルスたちから距離を置く。
「一気に終わらせるから、ここから近づかないでね。」
「舞華・・!」
舞華はジョーに言いかけると、左手も刃に変えて、右手の刃と同時に振りかざす。繰り出されたかまいたちが、ガルヴォルスたちを次々と切り裂いていく。
切り刻まれた怪物たちは石のように固まり、砂のように崩れ去っていく。デスピアの猛攻を退け、舞華が肩の力を抜く。
「すごい・・舞華、こんなにすごかったの・・・!?」
秋菜が舞華の力を垣間見て、当惑を見せていた。人間の姿に戻った舞華が、秋菜とジョーに駆け寄る。
「ジョー、秋菜ちゃん、ホントに大丈夫?ケガとかしてない?」
「舞華、オレも秋菜も平気だ。そんなに心配すんなよ。」
心配する舞華にジョーがぶっきらぼうに答える。ジョーと秋菜の無事を確信して、舞華は安堵の笑みをこぼす。
「さて、まだまだこれからよ。デスピア本部にはゼロスがいるんだから。」
秋菜の言葉を受けて、舞華とジョーが頷く。3人は英野町の人々を救うため、デスピアの本部を目指した。
「舞華たちが攻めてきました!」
デスピアの兵士の1人からの報告を受けて、ゼロスの眼つきが鋭くなる。
「それで、舞華たちは今はどこだ?」
「はい。あと数分でこの本部で到着します。」
「そうか。全員、迎撃体勢を取れ。私が赴くまでの足止めをするだけで構わん。」
兵士に指示を送り、ゼロスは本部の入り口へと向かった。
(剣崎舞華、これほどとはな。あの町を石化すれば、精神的に追い込まれ、戦意をそがれると思ったのだが・・追い込まれることなく、攻を焦る様子もない。なんという精神力だ・・)
舞華たちの力を認めながら、ゼロスは臨戦態勢に入っていた。デスピアにおいて絶対的な存在として君臨し続けた男は、今初めて、自分を脅かす脅威を感じ始めていた。
舞華、ジョー、秋菜はついに、デスピアの本部の入り口の前に来ていた。姿は見えないが、舞華と秋菜は眼前に立ちはだかる巨大な扉の先にいる脅威を感じ取っていた。
「ここにゼロスがいるんだね、秋菜ちゃん・・」
「多分・・ゼロスは私に力を与えるとき、ここを案内したから・・」
舞華が問いかけると、秋菜が緊迫を押し殺してから答える。
「とにかく行こう。ここでじっとしてても、みんなが元に戻るわけじゃねぇ・・」
ジョーが言いかけると、舞華と秋菜が微笑みながら頷いた。再びブレイドガルヴォルスに変身して、扉を切り開こうとした。
だが舞華が身構えたと同時に、扉が轟音を立てて開いた。予想していなかったため、舞華たちは唖然となった。
「もしかして、誘ってるってこと・・・?」
「罠だな・・・けど、行くしかねぇ・・・!」
秋菜の呟きにジョーが答える。
「せっかく開けてくれたんだから、入らないわけにいかないよね。」
舞華の言葉を皮切りに、3人はデスピア本部に乗り込んだ。本部内の廊下や部屋には明かりが残っているが、人は全く見られなかった。
「やっぱり誘ってるみたいね。それに・・」
秋菜は呟きながら、通路を照らす明かりを気にしていた。明かりは彼らを導くように照らされていた。
「その明かり、案内するように付いてる・・私たちが迷わずに誘い込むために・・」
「上等だ。一気に乗り込んでやるとするか。」
秋菜に続けて、ジョーが不敵な笑みを浮かべて言い放つ。3人は明かりが導くままに廊下を進んでいく。
そして3人がたどり着いたのは、地下の広場だった。
「広い・・・これだと、どこから飛び出してくるか分からないわね・・」
秋菜が声をかけながら、広場の周囲に注意を払う。舞華もジョーも警戒を強めつつ、広場の中央に歩を進める。
「まさかここまで来るとはな。」
そのとき、広場の天井が声がかかり、舞華たちが立ち止まって見上げる。その天井から、ゼロスが降り立ってきた。
「ゼロス・・・!」
ゼロスの登場に舞華たちが身構える。ゼロスは悠然さを崩さずに、舞華、ジョー、秋菜に眼を向ける。
「私をここまでさせたのは貴様らが初めてだ。本来なら光栄に値するぞ。」
「こんなことで光栄に思われたって、別に嬉しくないけど。」
言い放つゼロスの言葉を、舞華は真剣な態度で一蹴する。それでもゼロスは笑みを消さずに、話を続ける。
「私は喜んでいるのだ。向上しようとする貴様らの意気込みに。」
「は?いきなり何言ってんだよ・・?」
ゼロスの言葉にジョーが眉をひそめる。ゼロスは笑みを消して、真剣な面持ちで語り始める。
「私は人間に絶望している。人間の愚かで傲慢な態度が、私たちを支配への道に踏み込ませたのだ。」
「ゼロス・・・!?」
ゼロスの言葉に舞華が眉をひそめる。
「確かに人間は長い歴史の中で知恵と身体能力を高め、高度な文化と文明を築き上げてきた。だが現在、人間は現在の在り方に満足し、進化することをやめてしまっている。それどころか、自分たちが世界の王者だと思い込んでいる。」
「何を言ってるの!?人間がそんなわけないじゃない!」
「そう信じたいと思っているのだろうが、これは私が目撃した真実であり、否定しきれることではない。」
反論する舞華に、ゼロスが淡々と言いとがめる。
「しかも、人間の能力を超えた人間の進化は、人間そのものでないと見解し、迫害、排除しようとし、あくまで自分たちが世界の王者であると誇張している。こんな人類に未来があると、貴様らは思うのか?」
「そんなことはない!確かに間違ったり悪いことをすることもあるけど、みんな周りの人たちのことを大切に思っているはずだよ!」
「それは貴様の願望に過ぎん!現実は貴様が願っているような夢物語などではないのだ!」
「夢なんかじゃない!私を支えてくれるみんな、私の中にある思いは、私に笑顔を与えてくれる!みんなを笑顔にする力を与えてくれてる!」
世界の非情さを言い放つゼロスと、それにあくまで反論し、自分の気持ちを告げる舞華。彼女の言葉にジョーも秋菜も戸惑いを浮かべている。
「私、英野町に来て、いろいろな経験をして、いろいろなことを覚えた・・秋菜ちゃんやジョーと出合っただけじゃない。自分のしたことがみんなを喜ばせたり悲しませたりすることや、私の中で今まで感じたことのなかったものを感じたこと・・それはみんなが心優しい証拠にもなる・・・」
「舞華・・・」
自分の気持ちを正直に告げる舞華。彼女の思いを受けて、ジョーと秋菜も笑みをこぼしていた。
「なるほど。貴様もそれなりに経験してきたということか・・・」
舞華の思いを耳にしたゼロスが淡々と言葉をこぼす。だが次第に彼から笑みが消える。
「だがそれは、自分の周囲しか見ていない者の言い分だ。」
言い放つゼロスから稲妻のような波動がほとばしる。その衝撃に舞華たちが緊迫を覚える。
「何も分かっていない分際で、知った風な口を叩くな!」
語気を強めるゼロスの頬に異様な紋様が浮かび上がる。そしてその姿が異質の怪物へと変化する。
「世界は塗り替えなくてはならん!そのための私であり、デスピアなのだ!」
「そんな身勝手をみんなに押し付けないで!いくらみんなが信じられないからって、命を、想いを壊していいことにはなんないよ!」
舞華も必死の思いでゼロスに言い返す。ゼロスの放つ力に、彼女も抵抗を見せていた。
(こういうのって、正義っていうのかな・・曲げたくないことのひとつは、前にも私の中にもあった。でも今は、前以上にそういうのを感じている・・・今の私に、もう迷いはない・・・!)
「みんなを守りたい・・それが私の正義!」
改めて決意を言い放った舞華が、ゼロスに向かって飛びかかる。その眼前に、デスピアのガルヴォルスたちが再び立ちはだかった。
だがそこへ秋菜が水晶の刃を解き放ち、ガルヴォルスたちを一掃する。虚を突かれた怪物たちに迷いが生じる。
「うろたえるな!貴様らは水無月秋菜を始末しろ!剣崎舞華は、私が葬り去る!」
そのガルヴォルスたちに言い放ち、ゼロスは舞華を鋭く見据える。両手に力を集中させて、不敵な笑みを浮かべる。
「貴様のその自信も、その命とともに打ち砕いてくれるぞ・・・!」
ゼロスは舞華に言いかけながら、力を集めていた両手を強く握り締める。稲妻のような力が爆発するように弾ける。
「どのような姿に変えてやろうか・・見せしめとして、貴様を群集の前で粉々に砕いてくれる。」
「あなたには負けない。みんなが、私の帰りを待ってるから・・」
それぞれ言い放ち、ゼロスと舞華がそれぞれ拳と刃を突き出す。2人の力がぶつかり合い、さらに激しい火花を散らす。
やがて衝突による衝撃が高まり、舞華とゼロスが弾き飛ばされる。すぐに体勢を立て直し、2人は再度飛びかかる。
だがゼロスが突き出した右手には、白い冷気が取り巻いていた。気づいて回避しようとする舞華だが、放たれた冷気は舞華を取り囲む。
包み込む冷気によって、舞華の体が一気に凍てついていく。彼女は展開された氷塊に閉じ込められてしまった。
「このまま落下すれば、貴様の肉体も粉々に砕け散るぞ!」
笑みを強めて言い放つゼロスの見つめる先で、氷付けになっている舞華が落下する。だが氷塊は地上に叩きつけられる直前に突然砕けた。
舞華は凍らされる直前に力を集中させて自分の体に膜を張って守り、その力を解放して氷塊から脱出したのである。
力から逃れられたにも関わらず、ゼロスの顔にはまだ笑みが残っていた。
「それから脱出するとはな。だが私の能力がこれだけではないことは、貴様らに見せているはずだ。」
「そうだね。あなたはたくさんの種類の力があるんだよね。また氷と石化しか見てないけど・・」
言い放つゼロスに対し、舞華も笑みを見せて答える。空中に停滞していたゼロスが、舞華の眼前に降り立つ。
「脱出可能の氷の次は、脱出不可能の直接的な変質効果を貴様にもたらしてやろう。」
ゼロスが右手を掲げて、再び力を集中する。その手には冷気ではなく、漆黒の稲妻が取り巻いていた。
一方、秋菜たちはデスピアのガルヴォルスたちと交戦していた。水晶の力を存分に発揮する彼女の前に、ガルヴォルスたちはなす術もなかった。
だがガルヴォルスたちに退くことは許されなかった。もしも退けば、そのときはゼロスによって処罰されてしまうからだ。
「このままお前たちに、我々デスピアの進攻を阻まれてたまるか!」
いきり立ったガルヴォルスたちが、いっせいに秋菜に飛びかかる。だが攻を焦った怪物たちに、秋菜を倒す勝機はなかった。
秋菜は水晶を剣の形状に変えて、身を翻して斬りかかる。ガルヴォルスたちが一気に胴体を切り刻まれ、砂になって消滅する。
「舞華があんなに頑張ってるのに、私が負けるわけにはいかないじゃないの!」
舞華への想いを背に受けて、秋菜が全力を振り絞る。やがて彼女は、デスピアのガルヴォルスたちの一掃に成功する。
力を出し尽くし、秋菜がその場に座り込む。そこへジョーが駆け寄り、彼女の体を支える。
「秋菜、大丈夫か・・!?」
「ジョー、私は大丈夫。ちょっとムリしすぎたかな・・」
心配の声をかけるジョーに、秋菜が苦笑いを浮かべて答える。
「ジョー、私よりも舞華を見てあげて。今あの子は、私やアンタ、みんなのために戦ってるから・・」
「分かってるけど、お前を放ってもおけねぇだろ・・!」
「ホントに大丈夫だって。ゼロスやそれに近い力の相手だったらともかく、それ以外だったら平気よ。」
秋菜に言いとがめられて、ジョーは気持ちを落ち着けて、ゼロスと交戦している舞華を見据える。デスピアを統べるガルヴォルスと対峙する彼女の決意は揺るぎないものとなっていた。
(舞華、オレはお前を信じてる。お前がみんなを助け出すのを。)
ジョーは舞華に自分の思いを託して、2人のガルヴォルスの戦いを見据えていた。
(舞華、お前は自分の気持ちのために戦ってきた。オレや秋菜、お前の周りにいるみんなを守りたいために・・今まであった正義感が、今までのお前やオレたちに起こった出来事を経験して、さらに強くなった。)
舞華に感化されてか、ジョーは無意識に拳を握り締めていた。
(お前の揺るぎない正義・・舞華、オレもその正義を信じぬくぞ・・・!)
ジョーが鋭く見つめる先で、舞華とゼロスの戦いが本格化しようとしていた。
次回予告
「いろいろな人と出会い、いろいろなことを経験した・・」
「舞華・・・」
「どんなときでも支えてくれたみんなを、私は守りたい・・」
「これがオレの底力だ!」
「また見よう・・みんなのいるこの町から、あの青い空を・・・」