ガルヴォルスDesire 第25話「アオイイロ」
ガルヴォルスとなり対峙する舞華とゼロス。ゼロスは掲げている右手に漆黒の稲妻を集中させる。
「稲妻のごとく拡散する石化の効果、貴様にもたらしてくれよう。」
ゼロスが言い放って右手を握ると、収束していた稲妻が弾けて拡散する。舞華は飛び上がりつつ刃を振りかざし、かまいたちで稲妻を弾き返そうとする。
一時は押し返しようになったが、舞華の反撃は力を全て跳ね返すにはいたらなかった。舞華はとっさに身を翻して、石化の力から回避する。着地した彼女に、ゼロスが不敵な笑みを浮かべていた。
「これもかわしたか。やはり正攻法ではうまく当てられないようだ。」
ゼロスは稲妻を放った右手を軽く動かし、高揚感を覚える。
「言っておくが、オレは正々堂々に徹するつもりは毛頭ない。目的のため、私が生き延びるためなら、いかなることにも手を染める。そのことを理解しておけ。」
「そんなの分かってるよ。そういうやり方、全然悪って感じだもん。」
ゼロスの忠告に舞華は淡々と答える。その言葉に一瞬眉をひそめるも、ゼロスは再び笑みをこぼす。
「そうか・・なら貴様のいう悪のやり方というものを、試させてもらおうか。貴様は最後まで、貴様の大切なものを守り通すことができるかな?」
ゼロスは言い放つと、左手を秋菜とジョーに向ける。その一手に舞華は眼を見開き、たまらず飛び出す。
ゼロスが掲げた左手から金色の光が放たれる。秋菜もジョーもこの閃光から逃れる力はない。
その2人の眼前に舞華が割り込んだ。だがかまいたちを使って弾き返すまでの時間が足りず、彼女はとっさに右手の刃で閃光を受け止めようとする。
金色の閃光を浴びた舞華の刃は、その効果によって同じ金色に染め上げられる。秋菜とジョーを守るために、舞華の刃は金に変化してしまった。
「舞華・・私たちのために・・・!?」
かばった舞華に対して、秋菜が当惑を見せる。固まった右手を下ろして、舞華がゼロスを見据える。
「その2人をかばったか。だがその代わりに、貴様は己の力を封じ込められることとなった。」
ゼロスが追い込まれた舞華を見つめて笑みをこぼす。顔には出していなかったが、舞華は焦りを覚えていた。
「本来なら少し遊んでもいいと思うのだが、もうお遊びはせんぞ。」
ゼロスは言い放つと、動きが鈍っている舞華に飛びかかる。彼女の両肩をつかんでそのまま床に押し倒す。
「このまま石像に変えてくれる。私の力で、貴様の恐怖を不変のものにしてくれる!」
ゼロスが舞華をつかむ手に力を込める。石化の効果を及ぼす稲妻が彼の両手からほとばしる。
「うあっ!」
その衝撃に舞華が悲鳴を上げる。彼女の両肩が徐々に灰色の石へと変化していく。
「舞華!」
秋菜がたまらず叫ぶが、ゼロスの放つ稲妻に阻まれて、迂闊に飛び込めないでいた。
(このままじゃ舞華が・・オレに力があれば・・・せめてガルヴォルスと同じくらいの力が・・・!)
ジョーも舞華を助けようと、必死に考えを巡らせていた。しかし今の自分に、ゼロスから舞華を助けるだけの力はなかった。
(オレには、ただ見てるしかねぇのかよ・・知恵を絞らなくちゃ、何もできないっていうのかよ・・・!)
自分を責めるあまりに視線をそらすジョー。そのとき彼は、疲れきっている秋菜に視線を向けていた。
(秋菜・・・そうか!)
「秋菜、まだ力を使えるか!?」
「えっ?何とか頑張れば・・でも、私の力じゃ、ゼロスのあの稲妻を突き崩して水晶の力を与えるのはムリだよ・・」
思い立ったジョーが秋菜に呼びかけるが、秋菜は困惑の面持ちで首を横に振る。
「お前が戦うわけじゃねぇ。ただ、あのクリスタルの刃物を出してほしいだけなんだ。」
「でもそれで何を・・・まさか、ジョー・・!?」
ジョーの考えを悟った秋菜が困惑を強める。
「今、お前は疲れてる。アイツに飛びかかれるのはもうオレしかいねぇ。」
「ダ、ダメよ!そんなことしたら、ジョーが何かにされてしまうよ!」
「そのくらいの覚悟がなきゃ、舞華を助けられねぇだろ!」
声を荒げる秋菜に言いとがめるジョー。舞華を助けたいという強い意思が、今の彼を突き動かしていた。
彼のその意思を受けて、秋菜も困惑と迷いを拭い去った。
「分かったわよ。私もできる限りやってみる。」
「秋菜・・すまねぇ・・・」
頷く秋菜に、ジョーも微笑をこぼす。
「気にしないで。私も舞華を助けたいと思ってたんだから。」
「秋菜・・・」
「でも本当に力は残ってないから。1本作り出すのがやっと。だから絶対に失敗しないでよ。」
「あぁ。分かってる。」
注意する秋菜に、ジョーは真剣な面持ちで頷く。そして秋菜は最後の力を振り絞り、水晶の刃を1本形成する。
その作り出した刃を、秋菜はジョーに手渡す。半透明の刃物を見つめて、ジョーは覚悟を決める。
「コイツで、オレは舞華を救ってみせる・・・!」
秋菜の想いを込めた刃を握り締めて、ジョーは駆け出した。そして舞華を助けるため、彼は漆黒の稲妻の漂う真っ只中に飛び込んだ。
舞華は力を発揮して、何とか石化の進行をせき止めていた。だが彼女の両腕は既にゼロスの力で石化しきっていた。
「ここまでよくやった。だが貴様はそろそろ潮時だ。」
ゼロスが勝利を確信して笑みを強める。舞華も窮地に追い込まれ、諦めかけていた。
そのとき、ゼロスは右肩に激痛を覚えて眼を見開いた。飛び込んできたジョーが水晶の刃を突き出してきたのだ。
「なっ・・!?」
驚愕するゼロスの眼にジョーの姿が映る。稲妻の効果を受けて、ジョーの体を石化が蝕み始めていた。
「バカな・・貴様はただの人間のはず・・・にも関わらず、貴様は私の放つ石化の力の余波を突き抜けて、私に・・・!」
「これがオレの底力だ!」
声を荒げるゼロスに言い放つジョーが、舞華の横で踏みとどまる。その間にもゼロスの放っていた石化の効果が彼の体を蝕んでいく。
「ジョー、ここまで突っ切ってきたの・・・!?」
「あぁ・・オレと秋菜の気持ちだ・・ちゃんと後押ししたぞ・・・!」
動揺を見せる舞華に、ジョーが不敵な笑みを浮かべて告げる。両腕を石化されながらも、舞華は何とか立ち上がった。
「ありがとう、ジョー、秋菜ちゃん。私、みんなに支えられて、ホントに感謝してるよ・・・」
「舞華・・・」
舞華の言葉に、遠くから見つめていた秋菜が戸惑いを覚える。自分、そして自分の周囲の人々の思いを確かめて、舞華は呟きかけた。
「いろいろな人と出会い、いろいろなことを経験した・・だから、どんなときでも支えてくれたみんなを、私は守りたい・・」
改めて決意を固めた舞華が、満身創痍の体を突き動かして、動揺の色を隠せないでいるゼロスを見据える。
「ゼロス、みんなのために、あなたを倒す!」
言い放つ舞華だが、ゼロスは不敵な笑みを崩さない。
「倒す?もはや両腕は石化によって封じられ、力もわずかとなった貴様に、私を倒すことなど不可能!」
舞華の決意をあざ笑うゼロスが、一歩一歩彼女に近づいていく。
「分かっているぞ。貴様は腕を刃に変えるだけではない。全身全てから刃を具現化して伸ばすことができる。全身が刃という武器そのもの。まさにブレイドガルヴォルスということか・・だが刃が形成される一瞬を見切れば、不意打ちを受けることはない。」
ゼロスは舞華の動きを見据えながら淡々と言い放つ。だが舞華は攻撃を繰り出すことをやめようとしない。
「当ててみせる。ううん、絶対に当てなくちゃいけない!」
舞華は体から刃を突き出し、ゼロスを狙う。だがゼロスはその2本の刃を間を縫うようにかわし、さらに両手でその刃を石に変える。
「もはや貴様に勝機はない!このまま無様の姿を不変のものにしてくれる!」
勝利を確信して、ゼロスが舞華に両手を伸ばした。
そのとき、ゼロスの体を何かが貫き、ゼロスは激痛を覚えて吐血する。
「ぬっ!?こ、これは・・!?」
驚愕するゼロスが視線を移すと、彼の体を鋭い刃が貫いていた。その刃は舞華が具現化し放ったものに間違いなかった。
「バカな・・刃は全てかわし、かつ石化させて動きを封じたはず・・!?」
ゼロスは自分を貫いている刃をたどってみると、刃は地面から飛び出していた。そして舞華の両足がついている床に亀裂が入っていた。
「貴様、足を変化させて・・!?」
「ホントはこういうことは私は好きじゃないんだけど・・みんなを助けるためだったから・・・」
声を荒げるゼロスに舞華が淡々と答える。満身創痍に陥りながらも打開の糸口を見出した彼女を目の当たりにして、ゼロスは思わず笑みをこぼした。
「貴様は私を滅ぼしたことを、必ず後悔するだろう・・人間どもは、己の力を凌駕する私たちガルヴォルスを、決して認めはしない・・・人間でもガルヴォルスない貴様たちに、生き延びる術はない・・・」
「確かに私も秋菜ちゃんも、ガルヴォルスでありながら人の心を持ってる・・でも私たちが人間の心を持っていれば、私たちは人間のままだよ・・・」
不敵に言い放つゼロスに、舞華は自分の気持ちを曲げない。あくまで正直に生きようとしている彼女たちを目の当たりにして、ゼロスはさらにあざ笑う。
「その愚かな考えがどこまで続くか、見ものだな・・・」
弱々しく言い放つゼロスがゆっくりと倒れ込む。仰向けに倒れた彼が絶命し、その体が崩壊して消滅した。
ゼロスが滅び、デスピアはついに崩壊した。それにより、舞華にかけられていた石化、金化が解かれ、彼女は解放される。
「ふぅ・・これで、みんな助かるんだね・・・」
「舞華・・・!」
安堵の吐息をつく舞華に、同じく石化から解放されたジョーが駆け寄ってきた。
「舞華、大丈夫か・・・?」
「ジョー・・うん。私は大丈夫。ジョーと秋菜ちゃんは?」
「あぁ・・オレも秋菜も、何とか生き延びてるぜ・・」
互いの無事を確かめ合って、笑みをこぼす舞華とジョー。体力がある程度まで回復した秋菜も、微笑みながら歩み寄ってきた。
「ジョー、秋菜ちゃん、これで冬矢さんも夏さんも、みんな助かったよね・・・?」
「そうね・・すぐに戻ってあげないと・・・」
舞華の問いかけに秋菜が答える。だが秋菜の顔から笑みが消える。
「全部が終わった・・ってわけじゃないんだよね・・・?」
「えっ・・?」
秋菜の言葉に舞華が疑問を投げかける。
「私と舞華はガルヴォルス。私たちを受け入れてくれるのは、私たちを信じてくれている人たちだけ・・」
再び思いつめる秋菜に、ジョーも困惑の面持ちを浮かべる。だが舞華は笑みを崩していなかった。
「そんなことないよ、秋菜ちゃん。だってガルヴォルスも元々は人間なんだもん。きっと受け入れてもらえるよ。」
「舞華・・・」
無邪気な笑顔を見せる舞華に、秋菜は戸惑いをあらわにする。以前から迷いをあまり感じさせなかった舞華だったが、今では前以上に迷いを振り払っていた。
舞華のその様子を目の当たりにして、ジョーは苦笑を浮かべた。
「観念しろ、秋菜。コイツはそういうヤツだってのは、オレより秋菜のほうがよく分かってるはずだが・・」
「ジョー・・・もう。アンタはしょうがないんだから、舞華・・」
ジョーに言われて、秋菜も苦笑を浮かべて肩をすくめる。そして舞華に向けて手を差し伸べる。
「帰ろう、舞華・・お父さんもお母さんも、みんな待ってるから・・」
「秋菜ちゃん・・・」
差し出された秋菜の手を見つめて、舞華が戸惑いを見せる。
「早くしなさいよ。でないと私、ジョーと手をつないじゃうよ。」
「お、おい、秋菜・・・」
言いかける秋菜の言葉に、ジョーが苦笑を強める。
「・・・ありがとう、秋菜ちゃん・・・」
舞華は笑みを取り戻して、秋菜の手を取って立ち上がる。友情、愛情、想いを受けて、舞華は多大な喜びを感じていた。
そのとき、突然広場が揺れだし、舞華たちが周囲を見回す。
「な、何・・・!?」
「この展開って・・悪の組織の最後ってお約束ってこと・・・!?」
秋菜が声を荒げ、舞華が一抹の不安を口にする。その言葉に、ジョーも秋菜も慌ててきびすを返す。
「舞華、急げ!ここは潰れるぞ!」
「分かってる!待って、ジョー、秋菜ちゃん!」
呼びかけるジョーを追いかけて、舞華もこの場を後にした。
わずかに息のあった兵士の1人が最後の力を振り絞り、舞華たちを道連れにしようと、本部の自爆スイッチを入れた。本部内は崩壊へと歩を進めつつあった。
だが舞華たちは何とか本部を脱出。小さな丘から本部の崩壊を目の当たりにしていた。
こうしてデスピアは最期を迎えた。舞華たちによって、世界の再構築を目論んでいたガルヴォルスの組織は滅びたのだった。
「終わりだな、デスピアも、オレたちの戦いも・・・」
「とりあえずはね・・・」
ジョーの呟きに秋菜が答える。舞華は崩壊を示唆する煙を見つめながら、胸中でこれまでの出来事を思い返していた。自分を大切にしてくれている人たち、自分に全てを託して命を閉ざした人たちを。
「忍さん、幸介さん・・私、やったよ・・・」
「舞華・・・」
舞華の言葉と想いに、ジョーも深刻さを覚える。忍と幸介の死と想いが、彼の心の中にも渦巻いていた。
その想いを心に秘めて歩き出さなければならない。舞華たちはそう思っていた。
「舞華・・帰ろう、みんなのところに・・・」
秋菜が微笑んで声をかけると、舞華は振り向いて笑顔を見せた。
「そうだね・・・今は帰ろう・・みんな、待ってるから・・・」
舞華が軽い足取りで駆け出し、丘から降りていく。天真爛漫さを見せる彼女を見つめて、ジョーと秋菜が視線を向け合って、笑みをこぼす。
「おーい、ジョー、秋菜ちゃーん、早くー♪」
少し離れた場所から、舞華が両手を大きく振ってジョーと秋菜に声をかける。半ば呆れながら、2人は彼女を追いかけていった。
デスピアの崩壊、ゼロスの死によって、英野町にかけられた石化が解かれ、人々は解放された。まるで何事もなかったかのように町は平穏さを取り戻していた。
その間に起きた出来事を知ったのは、舞華たち以外には冬矢と夏だけだった。2人は舞華たちの心境を察して、このことを口外しないことにした。
それからしばらくして、夏は姉の春子に連絡していた。夏は春子に、舞華たちとのこれまでの出来事を話した。もちろん、ガルヴォルスのこと、舞華や秋菜がガルヴォルスであることは伏せていた。
“なるほど。それはいろいろあって大変だったわね、夏。”
「えぇ。秋菜も私たちが思っていた以上に成長してしまっていて・・子供って、親が気が付かないうちに大きくなっちゃうものなのね・・・」
納得する春子に、夏が微笑みながら言いかける。
「ともかく、これからはあの子たちを見守っていこうと思うの。相談を持ちかけられたら、もちろん受けるけど。」
“そう・・あなたもいい母親なんだから、しっかりね。冬矢さんにも、よろしく伝えておいて。”
「うん。ありがとう、姉さん・・それじゃ、また。」
春子との電話を終えて、受話器を置く夏。夏は冬矢の手伝い、店の仕事へと向かった。
その日の昼休み、舞華はジョー、秋菜とともに学校の屋上で昼食を取っていた。その中で舞華は唐突に、空に向けて右手を伸ばした。
「青い空だね・・この前のことがウソみたいに、青空が広がってる・・・」
舞華の言葉に一瞬疑問符を浮かべるも、ジョーも秋菜も笑みをこぼした。
「そうね・・まさにこれが平和って感じね・・・」
「おいおい、お前ら、いきなり何しんみりな気分になってんだよ。」
彼女たちの言葉にジョーが呆れる。だが彼女たちの心境を察して、彼も笑みをこぼす。
「なぁ、今度またどっか出かけないか?遊園地でも映画でも・・」
「えっ?」
ジョーの誘いに舞華が戸惑いを見せる。
「そうね。でも舞華とジョーの2人きりで行ってきたら?私がいたら何かと邪魔でしょ。」
そこへ秋菜が舞華とジョーの仲を取り持とうと言いかける。だが舞華はそんな彼女に対して、
「そんなことないよ。そりゃ、いろいろ食い違いとかはあるけど、まだ3人一緒にいられるうちは、一緒にいたい・・」
「舞華・・・ゴメンね。あなたたちのことを気遣ったつもりだったんだけど・・・」
逆に舞華に励まされることとなり、秋菜が照れ笑いを見せる。彼女の反応に舞華とジョーも笑みをこぼした。
「いろいろ言ってみたい気もしてるけど・・今はこの空の下で、みんなとの時間を過ごしたい・・・」
舞華は自分の気持ちを告げて、再び右手を空に伸ばして握る。
「また見よう・・みんなのいるこの町から、あの青い空を・・・」
舞華の言葉に、ジョーと秋菜は微笑んで頷いた。そのとき、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り出した。
「あ、もう昼休み終わりかよ。」
「行こう、舞華。遅刻しちゃうよ。」
「うんっ♪」
愚痴をこぼすジョー。秋菜が呼びかけ、舞華が頷く。
3人はこれからの幸せと想いのために、絆を強めて生きていくことを心に誓った。
数々の出会い。
数々の戦い。
数々の想い。
この想いを胸に秘めて、私たちは歩いていく。
果てしない未来を、みんなと一緒に・・・