ガルヴォルスDesire 第23話「支配者の進撃」
ゼロスの攻撃によって幸介は息絶え、その体は砂のようになって消滅した。その亡骸を握り締めて、舞華は涙を流していた。
「幸介さん・・・幸介さんがこんな・・・!」
悲痛さをあらわにする舞華。ジョーも秋菜もいたたまれない気持ちで胸がいっぱいだった。
だが彼らの前で、ゼロスは不敵な笑みを浮かべていた。
「悲しむことはない。その男は生への選択を誤った。それだけのことだ。」
ゼロスのあざけりの言葉に、舞華たちの心に憤りが込み上がる。
「貴様らもすぐに追わせてやる。もっとも、貴様らが同じ天国か地獄に逝けるかは分からんがな。」
「地獄に逝くのは、お前のほうだ・・・!」
悠然と言いかけるゼロスに、ジョーが憤怒を噛み締めて反論する。
「お前らなんかに、オレたちの幸せをぶち壊させはしないぞ!たとえ全然敵わなくても、最後まで反抗してやる!」
「私も、最後まで戦う!」
ジョーに続いて、舞華もゼロスに言い放つ。
「幸介の分まで、ジョーや秋菜ちゃん、みんなのためにも私は戦う!あなたたちに絶対負けない!」
幸介の思いを握り締めて、また自分の信念を貫く決意をして、舞華はゼロスを見据えていた。
「誰かのため・・いかにも人間らしい言葉だ・・・そして私たちガルヴォルスにとっては、実に滑稽なことだ・・・」
ゼロスから笑みが消える。その瞬間、彼から周囲に向けて衝撃波が放たれる。
爆発的な衝撃が周辺を揺るがし、舞華たちは緊迫を覚える。
「私はデスピアを真に統治する者。他のガルヴォルスと混同すると、すぐに命を落とすことになるぞ。」
再び不敵な笑みを浮かべ、ゼロスは舞華に向けて手を伸ばす。その手の中から氷の刃が出現し、放たれる。
「えっ!?」
舞華は驚きを覚えるも、とっさに氷の刃をかわす。突き刺さった地面が白く凍てついた。
「氷・・・氷付けにする力なの・・・!?」
秋菜が驚愕を覚えつつ、ゼロスに視線を向ける。するとゼロスは秋菜に手を向けていた。
その手からは氷ではなく、漆黒の稲妻がほとばしった。秋菜もとっさに回避すると、標的を外した稲妻がその先の地面を石に変える。
「石!?」
「どういうこと!?ゼロスの能力は、氷付けじゃないの!?」
ゼロスが発動した力に、秋菜と舞華が驚愕する。
「驚いたか。私は他のガルヴォルスとは違い、複数の変質能力を備えている。それが毒の異名を持つポイズンガルヴォルスである、私の力だ。」
ゼロスが舞華たちに対して悠然と語りかける。ゼロスには様々な変質効果を「毒」として対象に与えることができる。その効果の種類は様々で、彼の意思ひとつでその効果が決定する。
「さて、貴様らはどのような姿に変えてやろうか。」
ゼロスが両手に力を込めて、エネルギーを収束させる。漆黒のエネルギーが彼の手の中で練り上げられていく。
そのとき、舞華がゼロスに向かって飛び出した。彼女の頬には異様な紋様が浮かび上がっていた。
「もう、みんなを傷つけさせない!」
言い放つ舞華の姿がブレイドガルヴォルスへと変化する。その常人離れした速さで、彼女は一気にゼロスの懐に飛び込んできていた。
舞華は右手を変化させた刃を振りかざし、ゼロスを切り裂いた。刃はゼロスの左肩をかすめ、血を散らした。
ゼロスはエネルギーの収束をやめ、後退して舞華との距離を取る。
「やはりブルースの見込みは本物だったようだ。さすが剣崎舞華。この私の体に傷をつけるとは・・」
傷つけられた肩を手で払いながら、ゼロスは笑みをこぼした。激情に駆られている舞華は、右手の刃の切っ先とともに鋭い視線を向けていた。
「あなたは私が倒す。そしてみんなのところに帰るんだ。もうこれ以上、誰かが悲しむところなんて見たくない・・・!」
「私を倒すだと?面白い。その愚かな考えがどこまで保てるか、見届けてやろう。」
ゼロスは舞華に言い放つと、再びエネルギーを発して眼前の地面に叩きつける。爆発と閃光が巻き起こり、舞華たちは視界をさえぎられる。
彼女たちが視線を戻したときには、既にゼロスの姿はなかった。
「逃げたの・・・?」
舞華は呟きながら周囲をうかがうが、ゼロスの気配すら感じられなかった。戦意を消した舞華は人間の姿へと戻る。
「舞華、秋菜・・大丈夫か・・・!?」
ジョーが心配の言葉をかけると、舞華も秋菜も笑みを返した。
「ジョー、ありがとう。私は大丈夫だよ。」
「そうか・・・すまない、2人とも。オレ、また何もできなくて・・・」
安堵と同時に無力さを覚えるジョー。しかし舞華は笑みを崩さない。
「そんなことはないよ。ジョーの声が、私の背中を押してくれたんだから・・」
「そ、そうか・・・」
舞華に励まされて、ジョーは苦笑いを浮かべる。だがすぐに、彼らから笑顔が消える。
彼らの心には、幸介の死が植えつけられていた。その悲しみに暮れて、彼らは沈痛の面持ちを浮かべていた。
「デスピアと戦おう。幸介さんのためにも・・」
「そうね・・でもとりあえず家に戻ろう。」
舞華の言葉に秋菜も頷く。
「そうだな。冬矢さんも夏さんも心配してるだろうし・・秋菜、戻ったらちゃんと謝んないとな。」
「うん。分かってる・・・」
ジョーに言いかけられて、秋菜は笑顔を作って頷いた。
親友同士の和解を経て、舞華たちは水無月家に帰ってきた。秋菜は冬矢に迎えられ、夏から抱擁を受けた。
そして舞華たちは、先ほど起こったことを話した。秋菜がガルヴォルスに覚醒したことに、冬矢も夏も動揺の色を隠せなかった。
娘が異質の存在となってしまったという衝撃的な出来事を告げられ、冬矢は困惑と同時に憤りを感じていた。
「秋菜、お前は舞華くんとジョーくんを想う自分の気持ちを信じられなかったのか・・・!?」
押し殺すような冬矢の言葉に、秋菜は緊迫を覚える。
「秋菜、お前は周りの人の想いを受け入れず、力を求めて人間を捨ててしまった。お前は、みんなの気持ちを裏切ったんだ・・・」
「・・・ごめんなさい、お父さん、お母さん・・舞華、ジョー・・・」
冬矢の言葉を受けて、秋菜は悲痛の面持ちを浮かべて涙を流す。そんな彼女を、冬矢は優しく抱きとめる。
「間違いは、これからゆっくりと正していけばいい。たとえお前が人間でないとしても、私も母さんも、お前がお前だと信じている。」
「お父さん・・ありがとう・・・」
優しく言いかける冬矢に、秋菜は思わずすがりつく。その様子を見て、舞華、夏も涙を浮かべ、ジョーも照れくささを浮かべていた。
「とにかく、遅くなったが食事にしよう。そしてゆっくり体の疲れを癒すんだ。」
「分かりました、冬矢さん。」
笑顔を取り戻す冬矢に舞華が答え、秋菜とジョーも頷いた。
幸介を抹殺したものの、舞華の素早い攻撃の前にあえて撤退を選択したゼロス。彼はすぐに舞華たちの抹殺を行わず、彼らを精神的に追い込むための行動を行おうとしていた。
デスピア本部に戻ってきたゼロスを、デスピアに属するガルヴォルスたちが迎える。
「デスピアの尖兵たち、本部での待機、ご苦労だった。待たせた分、貴様らには存分に働いてもらう。」
不敵な笑みを浮かべるゼロスに、兵士たちが敬礼を送る。
「攻撃範囲は英野町全域。標的は剣崎舞華、水無月秋菜、葛城ジョーの3人だ。見つけ次第全力をもって排除するのだ。」
「はっ!」
ゼロスの下した命令を受けて、兵士たちが返答し、行動を開始する。ゼロスも進撃のため、再び動き出そうとしていた。
悲劇の夜が明けて、朝日が昇ろうとしていた頃、舞華と秋菜は眼を覚ました。2人がそれぞれの部屋から廊下に出てきたのは同時だった。
「おはよー、秋菜ちゃん♪」
「うん。おはよう・・」
いつものように明るく挨拶する舞華を前にして、秋菜の返事は弱々しかった。
「どうしたの、秋菜ちゃん?」
「うん・・昨日も昨日でいろいろあったから、まだ落ち着かなくて・・・」
問いかける舞華に、秋菜が沈痛の面持ちを見せて、自分の胸に手を当てる。
「私、もう人間じゃないんだよね・・ガルヴォルスになって・・人間を超えた力を持ってしまったんだよね・・・」
変わり果ててしまった自分に対し、秋菜は今も困惑を抱えていた。これから舞華やジョーとともに生きていこうと割り切っているものの、まだ動揺が広がっていた。
迷い込んでいる秋菜に、舞華は微笑んで言いかける。
「自分が人間だって信じていれば、その人は人間のままだよ、秋菜ちゃん。」
「舞華・・・」
舞華の言葉に秋菜が戸惑いを覚える。
「体はガルヴォルスになっちゃってるけど、私も秋菜ちゃんも心は人間のままだよ。だってこんなにみんなをことを想って、こうして心から笑顔を見せられる。だから私も秋菜ちゃんも、立派な人間だよ。」
舞華に励まされて、秋菜は心が安らいだような気分を覚えた。その安らぎに、彼女は思わず涙を浮かべていた。
「ありがとう、舞華。でもアンタが立派だっていうのはちょっと言いすぎじゃないの?」
「もう、秋菜ちゃん、それはないよ〜・・」
からかう秋菜に、舞華が肩を落とす。
「おい、お前ら、朝っぱらからうるせぇよ・・」
そこへジョーが顔を出し、2人に不満を言ってきた。その声に2人は笑顔を向けた。
「とりあえず学校に行こう♪また3人、楽しい学校生活を過ごさないと。」
「けど、あんまりはしゃぎすぎるなよ、舞華。いつまでも子供じゃねぇんだからさ。」
明るく振舞ったところでジョーにからかわれ、舞華はふくれっ面を浮かべた。彼女の反応を見て、ジョーも秋菜も笑顔を見せた。
ゼロスはデスピアのガルヴォルスを引き連れて、英野町の前に来ていた。彼らは丘の上から、町と人々を見下ろしていた。
不敵な笑みを浮かべて、ゼロスは待機している兵士たちに振り返る。
「いいか、貴様ら。準備はできたか?これより、本格的な攻撃を開始する。」
「はっ!」
ゼロスの言葉に兵士たちが返事をする。そしてゼロスは再び英野町に眼を向け、右手をかざした。
「貴様ら、眼に焼き付けておくがいい。そして人間どもよ、知るがいい。このゼロスの毒の力を!」
言い放ったゼロスが異質の怪物へと変化する。そして彼の右手から漆黒の稲妻がほとばしる。
ゼロスはその右手を振りかざし、稲妻を解き放つ。漆黒の力は一気に町全体に広がり、その範囲の全てに影響を与えた。
稲妻を浴びた建物や人々が、一瞬にして灰色に染め上げられ、動きを止める。人々はその異変に恐怖することも気づくこともないまま、次々に石像へと変えられていく。
ゼロスの毒の力によって英野町は石化し、町の音が消失した。まさにゴーストタウンと化していた。
「すごい・・何という・・・」
「これが、ゼロス様の力・・・」
その力を目の当たりにした兵士たちに動揺が走る。町の石化を終えたゼロスが人間の姿に戻り、兵士たちに振り返る。
「町は毒に侵された。だが舞華たちは毒から逃れているはずだ。探し出せ。私たちに牙を向ける愚か者たちを絶望の底に、地獄の底に叩き落とせ!」
「はっ!」
ゼロスの命令を受けて、兵士たちがガルヴォルスに変身し、散開した。舞華たちを追い込むべく、デスピア最大の挑戦が始まった。
突然発せられた強大な力を、登校途中の舞華と秋菜は察知した。2人はその気配に気づいていないジョーを連れて、道から外れた。
「2人とも何だよ、いきなり・・!?」
不満を言うジョーの声を気に留めず、押し寄せる気配に緊迫を覚えていた秋菜が全身に力を込める。3人を巨大な水晶が包み込み、その力から3人を守る。
その直後、力の正体、漆黒の稲妻が駆け抜け、周囲の建物や人々を灰色に染め上げていく。
「な、何だ!?」
驚愕するジョーの眼前で、町が一気に生を失っていく。そのエネルギーに耐え切れなくなり、水晶にヒビが入る。
だが水晶が崩壊する前に稲妻の奔流は終わる。秋菜が力を解除すると、崩れかかっていた水晶がガラスのように割れて消失する。
力を浪費した秋菜がその場に座り込み、その後舞華とジョーに支えられる。
「秋菜ちゃん、大丈夫!?」
「舞華・・私は大丈夫・・ちょっとムリしすぎただけだから・・」
心配の声をかける舞華に秋菜が笑顔を作って答える。
「いったい何が起こったんだ・・もしかして、デスピアが・・・」
思い立ったジョーが通りに飛び出す。そこで彼と舞華、秋菜は信じられない光景を目の当たりにする。
それは変わり果てた英野町の姿だった。建物も人も、全てが灰色の微動だにしない死の世界と化していた。
「みんな、石になっちまってる・・・!?」
「そんな・・そんなことって・・・!?」
ジョーと秋菜がその光景に驚愕する。舞華も眼を見開いて、固唾を呑んで見つめていた。
「町が全部、石になってる・・・それじゃ、まさか!?」
舞華はたまらずきびすを返し、駆け出した。ジョーと秋菜も彼女を追う。3人がたどり着いたのは「ミナヅキ」だった。
その店内も、いつもと変わらない様子のまま、冬矢や夏、他のアルバイトの人たちや客たちが灰色になって止まっていた。
「ガルヴォルスの仕業よ・・それも、かなりの力を持った・・・!」
「デスピアの可能性が高い・・もしかしたら、ゼロスが・・・!」
息を呑む秋菜と舞華が、これがデスピアのガルヴォルスの仕業と踏んだ。駆け出そうとした舞華の腕を、ジョーがつかんで止めた。
「待て、舞華!お前1人でデスピアと戦うつもりか!?」
「放して、ジョー!英野町のみんなをこんな風にしたガルヴォルスを倒さないと、みんなが・・!」
呼び止めるジョーと、その手を振り払おうとする舞華。
「だからって1人で抱え込むなよ!お前はもう1人じゃないんだから・・!」
「ジョー・・・」
必死の思いで励まそうとするジョーの声に、舞華は戸惑いを覚える。その拍子で彼女の眼に浮かんでいた涙が零れ落ちる。
「オレも行くからな、舞華・・」
「ジョー・・でもジョーは・・」
「分かってる。けど、それでもオレも、この町のみんなを助けたいんだ・・お前と同じように・・」
ジョーの決意を知って、舞華が当惑する。もはや自分や秋菜が何を言っても、ジョーは自分同様、聞き入れないだろう。
「アンタの負けよ、舞華。こうなったら私もやるから。」
秋菜は舞華の肩に軽く手を当てて微笑みかける。強い友情と想いに支えられて、舞華も割り切った。
「分かったよ、秋菜ちゃん、ジョー・・・一緒に行こう。」
舞華が言いかけると、ジョーと秋菜が頷く。そして真剣な面持ちを浮かべて、彼女は振り返った。
「デスピアの・・ゼロスのところに・・・!」
次回予告
「舞華たちが攻めてきました!」
「封じ込めるだけが、私の力じゃないのよ。」
「人間様をなめるなよ!」
「まさかここまで来るとはな。」
「みんなを守りたい・・それが私の正義!」