ガルヴォルスDesire 第21話「水晶の中の秋菜」

 

 

 舞華からの連絡を受けて、学校の寮へと向かっていたジョー。一抹の不安を覚えながら、彼は足を速めていた。

(何かイヤな予感がする・・舞華や秋菜に何か・・・)

 押し寄せる不安を振り切ろうとしながら、ジョーは寮に急ぐ。そして寮の近くまで行き着いたときだった。

 角を曲がり、寮の前の道に出ると、そこには秋菜の姿があった。ジョーはたまらず立ち止まり、秋菜を見つめる。

「秋菜・・ここにいたのか・・・」

「ここにいたんだね、ジョー・・」

 切らした息を整えるジョーに、秋菜が微笑んで答える。

「秋菜、舞華はどうしたんだ・・お前と一緒にいるはずなんだけど・・・」

 ジョーは秋菜の周囲に視線を向けて、舞華を探す。だが舞華の姿は見当たらず。秋菜も微笑むだけだった。

 ジョーは秋菜の横をすり抜け、寮に向かう。自分の部屋に向かったところで、彼は眼を疑った。

 その眼前にいたのは、舞華の変わり果てた姿だった。彼女は一糸まとわぬ姿で、眠るように水晶に閉じ込められていた。

「舞華・・・!?

「舞華は私が守っていく。今の私には力があるから・・」

 驚愕していたジョーの耳に秋菜の声が伝わってくる。彼が振り返ると彼女は微笑んでいたが、いつも見せている笑顔ではなかった。

「秋菜・・もしかして、お前が舞華を・・・!?

「そう。この中にいれば、周りに傷つけられることもない。舞華はこれからは私が守っていくのよ。」

 愕然となるジョーに、秋菜は淡々と答える。

「秋菜、お前・・・!?

「だって許せなかったのよ・・舞華やジョーを守れなかった弱い自分が・・」

 問い詰めるジョーに、秋菜が悲痛さをあらわにする。

「もうこれ以上、舞華に助けられたくない!舞華に迷惑をかけたくない!だから、私は・・!」

「何を考えてるんだ!そんなことをするほうが、舞華に迷惑をかけることになるって分かんねぇのかよ!」

 自分の気持ちを告げる秋菜に、ジョーがたまらず反論する。その返答に秋菜が動揺を浮かべる。

「確かに舞華はお前を助けて、お前は舞華に助けられてきた。けどそれは舞華が助けたいと、みんなを守りたいと思ったからなんだ!だからお前が気に病むことじゃねぇんだよ!」

「それでも私は、守られてる自分が許せなかったのよ・・私のために舞華が体を張ってくれてることが、逆に私を追い込んでしまってるように思えて・・!」

「秋菜!」

 秋菜の考えが許せなくなり、ジョーは彼女の肩をつかみ、壁に押し付ける。

「舞華をあの中から出せ!少しでもお前の中に、舞華を守りたいっていう気持ちがあるなら!」

「・・・それはできないよ。舞華を閉じ込めている水晶の力は、私の願いが強く込められている。舞華が自力で破るか、私が死ぬかしないと絶対に破れない。」

 言い寄るジョーに、秋菜は後ろめたい面持ちで答える。その返答にジョーは再び愕然となった。

「ジョー、アンタはあえて水晶に入れたりはしない。代わりに私がずっとそばについてるから・・」

 秋菜は微笑んでジョーに寄り添い、そのまま彼を押し倒す。ジョーは愕然となったまま、秋菜を振り払うことができないでいた。

「触れ合おう、ジョー。お互いの体と心に・・」

 秋菜は言いかけると自分の衣服を脱ぎ始め、動けないでいるジョーの衣服をも脱がし始めた。

 

 スティングを撃退したものの、イエティガルヴォルス襲撃に追い込まれていた幸介。力を使い果たし、右腕を負傷しながらも、幸介は怪物から引き下がろうとはしなかった。

「さぁ、命乞いしろよ。命乞いすれば許してやらんこともないがな。」

「黙れ!オレはたとえ殺されようと、お前たちに従ったりはしない!」

 悠然とした態度を見せるイエティガルヴォルスに、幸介がいきり立って叫ぶ。

「まだそんな反抗的な態度ができるようだな。その見かけ倒しがどこまで続くかな?」

 不敵な笑みを浮かべるイエティガルヴォルスが右手に力を込める。その手から巨大な氷の刃が出現し、右手に握られる。

「もう力も風前の灯。そんな貴様がコイツを食らえば、さすがに生きてはいまい。」

 イエティガルヴォルスが幸介を見据えて、氷の刃を投げつけようと構える。

(この状態では、あの氷の早い攻撃を斧で跳ね返すこともできない・・やはり砲撃で迎え撃つしか・・・)

 幸介は怪物の攻撃に対する打開策を練るために思考を巡らせていたが、砲撃を放つ余力は今の彼には残されていない。もし撃とうものなら、それは死を覚悟することにつながる。

(だがオレがここでやらないと、舞華が・・・!)

 幸介は意を決して、残る全てを力を振り絞って、熱エネルギーを角に収束させる。

「ムダだ。もう貴様にそいつを撃てる力は残っていない!」

 勝ち誇った態度を崩さず、イエティガルヴォルスが氷の刃を幸介に向けて放つ。

(オレはここで死ぬわけにはいかない・・だからオレの力は、こんなものではない!)

「オレを・・なめるな!」

 叫ぶ幸介が集めたエネルギーを放出する。閃光は本来に勝るとも劣らない威力を発揮し、氷の刃を撃ち砕き、さらにイエティガルヴォルスを吹き飛ばす。

「バカな・・こんなことがぁぁぁ!!!

 絶叫を上げる怪物が閃光の中へと消えていった。

 

 舞華は今、水の中に沈んでいるような感覚にさいなまれていた。体中を水の湿ったような感触に包まれ、彼女の意識はその淀みの中を漂っていた。

(何だろう・・体が思うように動かない・・水に体が流されてるみたい・・・)

 もうろうとしている意識の中で、舞華は心の中で呟いていた。

(不思議・・気持ちがいい・・・水に体を優しく撫でられてる・・・)

 この感覚に快感を覚え、小さく息をつく。

(私、これからどうなっちゃうんだろう・・ジョーと秋菜ちゃんは・・・?)

 舞華はジョーと秋菜を気にし始めていた。すると舞華の脳裏に、1つの光景が現れてきた。

 それは舞華にとって異様な光景に思えた。ジョーと舞華は服を脱いでいて、互いに寄り添いあっていた。

 舞華はそれを目の当たりにして、閉じていた眼を見開いた。彼女の不安に呼応するかのように、周囲が淀み出した。

 

 水晶に封じ込められている舞華の眼の前で、ジョーは秋菜のなすがままにされていた。秋菜の胸を触らせられ、快楽を与えさせられていた。

「ジョー・・もっと・・もっとやって・・・」

 刺激と快感を覚えて声を荒げる秋菜。ジョーも快楽にさいなまれて顔を歪めていた。

(ジョー、舞華、もうあなたたちを誰にも傷つけさせない。私がずっと守っていくから・・・)

 秋菜はその中で願っていた。舞華とジョーが無事でいてくれることを。それが自分がガルヴォルスの力を得たことを有意義なものとすると彼女は思っていた。

 秋菜はジョーの性器を自分の秘所に入れて、さらなる快楽と刺激を覚える。感情がさらに高まり、ジョーも秋菜も声にならない声を上げていた。

(この感じ・・・ジョーの気持ちが私の中に流れ込んでくる・・・でも・・・)

 ジョーの心を感じ取る秋菜だが、その心境に対して彼女は違和感を覚えていた。

(ジョー、あなたは、舞華のことを・・・)

「ジョー、私を見て!私はジョーが好き!今ならハッキリ言える!たとえ嫌われたとしても、正直に言いたい!私はあなたが好き!ジョーが大好き!」

 秋菜がたまらずジョーに呼びかける。刺激にさいなまれながらも、ジョーの心は秋菜には向いていなかった。

「秋菜・・オレは・・オレは・・・!」

 刺激にまみれながらもそれに抗い、ジョーは秋菜を突き飛ばす。快感によって溜まっていた愛液があふれ、床をぬらした。

 突然のことに驚きを隠せなくなる秋菜と、我に返るジョー。2人は互いを見つめたまま、視線を外すことができなかった。

「ジョー、どうして・・・私はただ、ジョーと舞華を守りたいだけなのに・・・」

「お前のその気持ち、もう十分に伝わった。けど、どんな気持ちだって、無理矢理押し付けても、絶対に伝わるもんじゃねぇ!」

 切実に言いかける秋菜に、ジョーは沈痛の面持ちで言いかける。

「秋菜、お前はオレたちに自分の気持ちを押し付けてるだけなんだ。それだとお前が言ったような、オレたちに迷惑をかけるってことになっちまうんだよ・・」

 ジョーの言葉に秋菜が動揺する。ジョーは舞華に眼を向けて、引きずるように体を前に突き出す。

「秋菜、舞華・・・オレが・・オレが想っているのは・・・」

 ジョーは声を振り絞りながら、舞華を包み込んでいる水晶に寄り添う。自分の心にある確かな想いを舞華に込める。

「舞華、眼を覚ましてくれ!こんなとこで寝てる場合じゃないだろ!」

「ジョー!」

 舞華に呼びかけるジョーに、秋菜が声を荒げる。

「お前は何のために戦ってるんだ!?ガルヴォルスになってまで戦ってるのは、何でなんだよ!」

「ジョー、ダメよ!私の力を受けた人は、よほどのことがない限り意識は戻らない!」

 互いに叫ぶジョーと秋菜。ジョーは舞華を閉じ込めている水晶を叩き始める。

「ちくしょう!こうなったらこんなもん、ぶち壊してやる!」

「ダメよ。その水晶は舞華の体が変質したもの。下手に壊したら、舞華の体まで壊すことになるのよ。」

 いきり立ったところで秋菜に言いとがめられ、ジョーは振るおうとしていた拳を止める。歯がゆさを覚えながら、彼は秋菜に振り向く。

「もう舞華は私のものなの。私の力が強くこもってるから、私でももう簡単には出せない。」

 秋菜の言葉を耳にして、ジョーはいたたまれなくなった。そして舞華を包んでいる水晶に寄り添い、少しでも彼女を見つめようとしていた。

「舞華、眼を覚ましてくれ!オレは、お前が・・・!」

「やめて、ジョー!それ以上言わないで!」

 舞華に呼びかけるジョーに、秋菜が悲痛さをあらわにして呼び止める。

「舞華のことが好きなんだ!」

 その制止を振り切って、自分の想いを伝えるジョー。

 そのとき、舞華を封じ込めていた水晶が突然輝きだした。その水晶に触れていたジョーの手が吸い込まれ始めた。

「な、何だ・・!?

 驚愕するジョーの体が、徐々に水晶の中へと吸い込まれていく。何が起こっているのか、秋菜も分からなかった。

 やがてジョーの体が完全に水晶に取り込まれてしまった。秋菜はただただこの光景を見つめるだけだった。

 水晶から発せられていた輝きが消えると、その中には舞華だけでなく、ジョーの姿もあった。舞華を抱き寄せる体勢で、ジョーは彼女と同様に眠るように水晶に閉じ込められていた。

「どうなってるの・・・ジョーが私の水晶の中に入ってった・・・」

 秋菜はどうなっているのか分からなかった。絶対の強度の水晶の中に、ジョーは入り込んでいた。だが入るのが精一杯で、中で舞華とともに閉じ込められ、意識を失っていた。

「もしかして、ジョーの気持ちを、舞華が受け入れたっていうの・・・!?

 秋菜は信じられない心境に陥り、たまらず舞華とジョーに近寄る。

「違う・・私は一緒にいたかっただけ・・たとえジョーに嫌われても、一緒にいられればそれで満足だった・・・」

 秋菜は自分の胸に手を当てて、自分の気持ちを確かめる。

「それなのに、私は自分の気持ちを押し付けて、舞華やジョーにひどいことをしてしまった・・・私は・・私は・・・!」

 悲観する秋菜が、舞華とジョーを包んでいる水晶に寄り添った。

「お願い!舞華とジョーを解放して!2人を守ることが、2人をこの中に入れることじゃなかった・・!」

 水晶に寄り添う秋菜の眼から大粒の涙が零れ落ちる。しかし舞華もジョーも眠ったまま反応しない。

「もうこんなわがままはしない!だから2人を助けて・・・!」

 悲痛の叫びを上げる秋菜だが、彼女の願いは叶わない。

「・・こんな私には、もう何の望みもない。私は自分で自分の希望を壊してしまった・・・」

 絶望感を覚えた秋菜がその場に座り込み、呆然と舞華とジョーを見上げる。

「もう、謝っても許してくれないよね・・舞華、ジョー・・・」

 悲しみに暮れる秋菜は、その場で泣き崩れるしかなかった。

 

 水の中を漂うような感覚に陥っている舞華。意識がもうろうとしている彼女の眼に、ジョーがゆっくりと近づいてくるのが見えた。

(・・ジョー・・・?)

 舞華はそのジョーの姿に手を伸ばそうとする。体の感覚が弱くなっており、本当に手を伸ばしているのか彼女は分からなかった。

 だが舞華のその手がジョーの手を握った瞬間、その感覚は明確になった。眼前のジョーは偽者でも幻でもなく、本物である。

(ジョーだ・・・本物のジョーだよ・・・)

「ジョー・・・!」

 舞華はジョーに向けて声を振り絞った。ジョーはこの声に反応を見せて、視線を彼女に向けた。

「舞華・・・無事だったのか、舞華・・・?」

「ジョー・・どうしたの、こんな・・・!?

 声を返すジョーに舞華が声を荒げる。一糸まとわぬ姿の2人は、互いの体を寄せ合う。

「オレにも、よく分かんねぇ・・いったい何がどうなってるのか・・・ただ、お前を助けたいと思っただけ・・・」

「私、ジョーと秋菜ちゃんの姿が見えた・・・眼を閉じてたら、2人の姿が映ってた・・・」

 困惑するジョーに対して、舞華は眼を閉じて微笑む。

「私は心の中で、ジョーと秋菜ちゃんのことをずっと考えてたんだね・・・」

「・・何くだらねぇこと言ってんだよ・・・けど、そう思ったほうが気分がいいかもな・・・」

 舞華の心境を聞いて、ジョーは半ば呆れながら答える。

「オレは舞華が好きだ。その気持ちにウソはねぇ・・ただ、今は傷ついている秋菜を助けたいというのもある・・」

「・・私も、ジョーが好き・・そんでもって、秋菜ちゃんを助けたいとも思ってる・・・とにかく今は、秋菜ちゃんを助けることを考えよう。」

「悪いな。何だか、オレがわがまま押し付けてるみたいで・・」

「気にしない、気にしない。ひとつひとつやっていこうよ。」

 苦笑をもらすジョーに、舞華が笑顔を見せた。それは彼女がいつも見せている、無邪気で明るい笑顔だった。

 

 幸介の戦いをモニター越しに見ていたゼロス。だがスティングを撃退し、イエティガルヴォルスの攻撃にも耐え抜いた幸介に対し、ゼロスは笑みを消していた。

 苛立ちを募らせたゼロスは席を立ち、部屋を後にする。

「幸介の抹殺に向かう。私が直接引導を渡してくれるぞ。」

 兵士たちに呼びかけながら、ゼロスは戦場に赴こうとする。

「ゼロス様、私もお供させてください。」

「来るな!」

 同行を志願する兵士に対し、ゼロスが激昂する。その反動で彼から衝撃波が放たれ、周囲の明かりやドアの窓ガラスを粉砕する。その脅威的な威圧感に、周囲の兵士や研究員たちが萎縮する。

「貴様らはここで待機だ。私の後をつけてきた者は、その命はないと思え。」

 ゼロスは鋭く言い放つと、幸介打倒のために本部を後にした。

(このゼロス・ブレインを愚弄することがどれほど愚かな行為か。この私自らの手で身にしみさせてくれる!)

 憤慨を押し殺すゼロスの頬には、ガルヴォルスを象徴する異様な紋様が浮かび上がっていた。

 

 

次回予告

 

「舞華・・ジョー・・・!?

「私たちは戻る・・秋菜ちゃんのところへ・・・」

「華々しく散るがいい、小僧。」

「戻ってきたんだね、舞華・・・」

「ただいま・・秋菜ちゃん・・・」

 

次回・「舞華、生還」

 

 

作品集

 

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