ガルヴォルスDesire 第20話「崩れ去る友情」
秋菜を探して街を駆け回っていた舞華。そんな彼女が目の当たりにしたのは、水晶に閉じ込められた全裸の少女だった。
「何、コレ・・・どうなってるの・・・!?」
舞華もその少女の姿に驚愕していた。
(この力、もしかしてガルヴォルスじゃ・・・!?)
「舞華!」
そそくさに人だかりから出てきたところで、舞華はジョーに声をかけられた。
「舞華、何だ、この人の集まりは・・!?」
「が、学校の女子が、水晶の中に閉じ込められてて・・」
「水晶・・・!?」
舞華の言葉にジョーが眉をひそめる。
「もしかして、ガルヴォルスの仕業じゃ・・」
「多分・・でも今は、秋菜ちゃんを見つけないと・・これがガルヴォルスのやったことなら、秋菜ちゃんが危ないよ・・・!」
「それで、秋菜は見つかったのか・・・!?」
ジョーの問いかけに舞華は沈痛の面持ちで首を横に振る。
「心当たりを探してみたけど、どこにもいないの・・」
「・・とにかくもう1度探してみよう。舞華、お前は街を探してみてくれ。オレはこの辺りを探してみる。」
ジョーの言葉に頷く舞華。2人は別れ、秋菜の捜索を再開した。
襲撃してきたスティングに対し、迎撃を開始した幸介。2人の力の衝突によって、2人の通り過ぎていった場所が崩壊を引き起こしていた。
2人は拮抗したまま、街外れの小さな通りに行き着いていた。
「本当に惜しい。これほどの力を持つお前を始末せねばならんとはな。」
「オレは死なない。お前たちを潰すまで、舞華をものにするまでは!」
悠然と言いかけるスティングに幸介が言い放つ。そして幸介は全身に力を込めて、エネルギーを収束させる。
「知っているぞ。周囲の熱を集めてのエネルギー砲であろう。威力は高いがかわすのは難しくはない。」
悠然さを崩さないスティングが、幸介の攻撃の瞬間を見計らっていた。エネルギーを収束させて、幸介がスティングを見据える。
「これで一気に決着を付けてやる。いくらお前でも、この攻撃を受けて、生きてはいられない!」
言い放つ幸介が、エネルギーを集めた角から閃光を発射する。だがこの発射の瞬間を見切り、飛び上がってこれをかわす。
「これを撃ったお前にはもはや余力はない!攻を焦ったお前の負けだ!」
スティングが拳を握り締めて、幸介に向かって飛び込んでいく。力を使い果たして、幸介は動けなくなっているとスティングは思っていた。
だが幸介は平然としており、さらに頭部の角にはエネルギーが残っていた。
「何っ!?」
「残念だったな!オレが今放ったのは、派手なだけで大した威力はない!」
驚愕するスティングに対して、不敵な笑みを浮かべて言い放つ幸介。溜めていたエネルギーを、スティングに向けて改めて放出する。
閃光はスティングの右わき腹を貫き、勝敗を決定的にした。地面に倒れ、スティングは立ち上がることもままならなくなった。
彼の前に、斧を手にしていた幸介が立ちはだかっていた。
「これで終わりだ。せいぜい地獄で後悔するのだな。」
幸介が斧を振り上げて、スティングにとどめを刺そうとする。そこへ一条の刃が飛び込み、幸介がとっさに跳躍して後退する。
着地して振り返った幸介の前に、白い体毛の怪物が立ちはだかっていた。イエティガルヴォルスが氷の刃を放ち、不意打ちを食らわせようとしていたのだ。
「デスピアの刺客か!?スティングを助けに来たということか・・!?」
「勘違いするなよ。オレはゼロス様の命令でここに来たんだ。貴様を始末しろってな。」
幸介の言葉に、イエティガルヴォルスが不敵な笑みを浮かべて返す。
「まぁいい。何にしても、デスピアもガルヴォルスも全てオレが始末してやるさ。」
「できるかな?貴様はスティングとの戦いで力を使い果たしたようだが?」
余裕を見せるイエティガルヴォルスに向かって、幸介が斧を振り上げて飛びかかる。重みのある斧を振り下ろすが、イエティガルヴォルスは簡単にこの一閃を受け止めてしまう、
「なっ・・!?」
「やはり力を使い果たしてるようだな。見かけより勢いが感じられないぞ。」
驚愕する幸介に、イエティガルヴォルスが笑みを強める。怪物は全身から氷の刃を放ち、幸介の右腕に突き刺した。
苦痛に顔を歪めた幸介がとっさに後退する。傷ついた右腕を左手で押さえて、怪物を鋭く見据えていた。
「さて、じっくり痛めつけてやるぞ。オレも少しぐらいは楽しまないとな。」
哄笑をもらすイエティガルヴォルスに、幸介は焦りを覚えていた。
「ふざけるな・・オレはお前たちなどに負けない!絶対に抗ってやる!」
「たわけたことを!お前はデスピアから逃げられないんだよ!」
互いに言い放ち、幸介とイエティガルヴォルスが同時に飛びかかった。
ジョーとともに秋菜の捜索を続ける舞華。街での捜索を終えてから、彼女は水無月家に連絡を入れた。
「もしもし、冬矢さん、秋菜ちゃん、帰ってきましたか?」
“舞華くん、いや、まだ帰ってきていない。”
「そうですか・・今、ジョーも一緒に探してくれています。私ももう少し探してから、いったん家に戻ります。」
“そうか・・分かった。2人とも、気をつけるんだぞ。”
「はい。ありがとうございます、冬矢さん。夏さんにもよろしく。」
冬矢との連絡を終えて、舞華は携帯電話を切ってポケットにしまった。そして水無月家の方面に進みながら、引き続き秋菜の捜索を再開する。
(秋菜ちゃん、いったいどこに行っちゃったの・・・!?)
時間がたつにつれて、舞華の不安は膨らむばかりだった。
そしてしばらく道を進んだところで、舞華は強烈な悪寒を覚えて、たまらず足を止める。
(この感じ・・ガルヴォルス・・・!?)
ガルヴォルスの気配を感じ取って、舞華は周囲を見回す。背後に眼をやったところで、舞華は当惑を覚える。
その眼前にいたのは秋菜だった。秋菜は舞華を見つめたまま、その場に立ち尽くしていた。
「秋菜ちゃん・・・よかったよー、心配したよー・・」
舞華が安堵の吐息をついて秋菜に駆け寄っていく。だが秋菜の様子がいつもと違うように思えて、舞華が笑みを消す。
「どうしたの、秋菜ちゃん・・・?」
「ゴメンね、舞華。心配かけちゃったみたいで・・でも私はもう大丈夫だから・・」
疑問を投げかける舞華に、秋菜は微笑んで声をかける。そして秋菜は舞華の手を払うと、ゆっくりと振り返る。
「秋菜ちゃん・・・?」
「舞華、私は力を手に入れたのよ・・舞華みたいなすごい力を・・」
秋菜のこの言葉に、舞華は一抹の不安を覚える。その直後、秋菜はおもむろに歩き出し、この場を離れる。
「秋菜ちゃん!」
舞華が慌てて彼女を追っていく。その間、舞華は携帯電話を取り出して、ジョーに連絡を入れる。
「もしもし、ジョー。秋菜ちゃんを見つけたよ。」
“何っ!?見つけたのか!?”
小声で言いかける舞華に、ジョーが声を荒げる。
「でも何だか様子がヘンなの・・今、学校の寮のほうに向かってるみたい・・」
“分かった。舞華、お前は秋菜と一緒にいろ。オレも寮のほうに行くから。”
ジョーの言葉を受け入れて、舞華は電話を切った。そして秋菜に視線を戻すが、秋菜は舞華が電話していたことを気に留めている様子を見せていなかった。
やがて2人は学校の寮の近くに来ていた。だが寮にたどり着く直前で、秋菜は突然足を止めた。
そこで秋菜は、眼の前を歩いている長い黒髪の女性を見つめる。
「舞華、見てて。これが私の力・・・」
秋菜は舞華に告げると右手を伸ばし、指を女性に向ける。その指先から細い光を放ち、女性の体を撃ち抜く。
光を受けた女性が突然苦しみだし、その場に倒れ込む。この事態に舞華が驚きを覚える。
「秋菜ちゃん、これって・・まさか・・・!?」
「そう。これが私の、ガルヴォルスとしての力よ・・・」
声を荒げる舞華に、秋菜が淡々と答える。舞華が視線を戻すと、女性の腕から水晶が突き出していた。
「今その人の体は水晶に変わっているわ。やがて広がっていく水晶の中に封じ込められる。」
秋菜の説明に舞華は固唾を呑む。やがて水晶への変化に飲み込まれ、女性の体が光り輝いた。その光で彼女の衣服は吹き飛び、彼女の裸身は形成された水晶の中に閉じ込めた。
水晶の中で眠るように封じ込められた女性。その姿を目の当たりにして、舞華は動揺を隠せなかった。
「秋菜ちゃん、どうして・・・!?」
「どうして?もちろん、舞華やジョーの力になりたかったからだよ。」
問い詰める舞華に、秋菜は振り返って淡々と答える。
「私、自分が許せなくなってた・・いつも舞華に守られてばかり。舞華を助けようとしても何もできず、結局裸の石にされてしまうし・・こんな弱い自分が許せなかったのよ・・」
「それは仕方ないことだよ。秋菜ちゃんは人間、私はガルヴォルス。だから秋菜ちゃんは、秋菜ちゃんのできることをやれば・・」
「私が人間だから、私は力がない私自身を許せなかったのよ!」
言いとがめる舞華に、秋菜が秘めていた感情をあらわにする。
「私は強くなりたかった!強くなって、舞華やジョーを悪いものから守ってあげたかった!・・・だから舞華・・」
「秋菜ちゃん・・・!」
「これからずっと一緒にいよう・・」
叫ぶ舞華に、秋菜が微笑んで近づきだす。舞華はたまらず後退して、秋菜から離れる。
「やめて、秋菜ちゃん!こんなこと、私は嬉しくないし、ジョーだってきっと喜ばないよ!」
「舞華やジョーを守りたい。私の気持ちは、あなたの気持ちとあまり差はないと思うんだけど・・」
悲痛の叫びを上げる舞華だが、微笑んでくる秋菜には届いていない。
「舞華、もうムリしなくていいよ。これからは私が、舞華たちを守っていくから・・」
「秋菜ちゃん!」
秋菜は舞華に右手を向けて、指先から光を放つ。舞華はとっさに身を翻し、その光をかわす。
「本気で・・本気で私やジョーをどうかするつもりなの・・・秋菜ちゃん・・・!」
いきり立った舞華がブレイドガルヴォルスに変身する。
「舞華・・・!」
自分に敵意を向けられていると思い、秋菜は舞華に対する感情を揺るがしていた。だが舞華は秋菜を傷つけるつもりはなかった。あくまで秋菜の力をかわすために、ガルヴォルスとなったのだ。
「秋菜ちゃん、やめて!私は秋菜ちゃんとは戦いたくないよ!」
「私も舞華とは戦いたくない。ただ、今はあなたがほしいだけ・・」
さらに呼びかける舞華と、淡々と言葉を返すだけの秋菜。秋菜はさらに光を放ち、舞華を追い詰めていく。
やがて寮の壁まで追い詰められ、舞華は焦りを浮かべる。彼女の前に秋菜が立ちはだかる。
「もう終わりにしよう。舞華が逃げ回ってたら、私が舞華を敵にしているようでイヤなのよ。」
「だから、こんなことはもうやめようよ、秋菜ちゃん!私、こんな秋菜ちゃん、信じられないよ・・・」
悲痛の面持ちを浮かべて秋菜に言いかける舞華。今の自分を否定されたと思い、秋菜の感情はさらに揺らいだ。
「私は力を手にして、強くなったんだよ・・この私を、信じられないなんて言わないで!」
秋菜が舞華に光を連射する。舞華はその光をかいくぐり、秋菜に向かって飛び込む。
「秋菜ちゃん!」
秋菜に飛びつく直前、舞華は人間の姿に戻る。秋菜に抱きつき、舞華は彼女の顔を見つめる。
「一緒に帰ろう、秋菜ちゃん・・私も、ジョーも、みんな秋菜ちゃんの帰りを待ってるから・・・」
「舞華・・・」
切実な思いで呼びかけてくる舞華に、秋菜が小さく呟く。秋菜を安心させようと、舞華は微笑みかけた。
だがその笑みが一瞬にして消えた。
舞華の体を一条の光が貫いていた。秋菜の指先から放たれた光が、舞華を捉えていたのである。
「秋菜、ちゃん・・・!」
愕然となる舞華が秋菜から突き飛ばされるように離れ、その場に倒れ込む。眼の前にいる秋菜は、以前の秋菜ではないと悟るしかなかったときだった。
突然舞華は全身に激痛を覚える。あまりの痛みに舞華は顔を歪め、その場にうずくまる。
(どうなってるの・・・体が・・体中が痛い・・・!?)
その激痛の正体が分からないまま、舞華はその痛みにさいなまれる。そして彼女は信じられないものを眼にする。
自分の右腕の皮を突き破って、水晶が飛び出してきた。舞華がたまらずその水晶を引き抜こうと水晶をつかむが、まるで体の一部になっているかのように密着していて、引き抜こうとすることで激痛が強まる。
「やめたほうがいいよ。体から出ている水晶は、元々は体の中の筋肉が水晶に変わったもの。下手に引き抜こうとすると、筋肉を引きちぎることになり、体を壊すことになる。」
舞華に説明すると、秋菜は彼女を抱え上げる。舞華は体を駆け巡る激痛に耐え切れる。秋菜の腕の中で暴れる。
「痛い・・痛い!」
「今は痛いわ。でもそれもすぐに終わる。もうすぐ楽になれるからね、舞華・・・」
叫ぶ舞華に優しく言いかける秋菜。舞華の腕には、さらに水晶が皮を突き破って生えてきていた。
あまりの痛みに声にならない悲鳴を上げる舞華。その激痛は意識を吹き飛ばすほどの勢いで、見開く彼女の眼の焦点が定まっていない。
(ダメ・・このままじゃ意識が吹き飛びそうだよ・・・痛みが激しすぎて、ガルヴォルスになることもできない・・・!)
押し寄せる痛みと激しい体の変化に意識がもうろうとなる舞華。もはや彼女には痛みに抗うために暴れることも、秋菜の腕から離れることもできなかった。
そんな舞華を抱えたまま、秋菜は寮のジョーの部屋を訪れた。男物がいくつか見られたが、そこにジョーの姿はなかった。
「舞華、ここにいよう。そしてジョーも、私たちと一緒に暮らしていくんだよ・・・」
秋菜は舞華に優しく言いかけると、苦悶の表情を浮かべている舞華を下ろした。舞華の首筋から、また新たに水晶が生えてきていた。
「もうすぐあなたは楽になれる。これからは私が舞華とジョーを守っていくから・・」
言葉を続ける秋菜が見下ろす先で、舞華から生えている水晶が輝きだす。その光は舞華の体に広がり、彼女の身に着けている衣服を吹き飛ばしていく。
(何、コレ・・・ヘンな気分になってく・・・)
胸中で体の異変に対して胸中で呟く舞華。水晶の光の抱かれて、彼女は次第に脱力感を覚えていく。
(クレアに石にされたときや、ジョーに触られたときに似てる・・・何だか、気持ちよくなってく・・・)
光に包まれていく中で快楽を感じていく舞華。その輝きによって衣服が全て剥ぎ取られた体が浮かび上がる。
(ジョー・・私・・私・・・)
ジョーに対する想いを胸に秘める舞華を包む光が強まる。光は彼女の姿をかき消すほどに強まり、周囲の視界をさえぎっていた。
やがて光が治まった先には、大きな水晶の中で眠るように閉じ込められていた舞華の姿があった。水晶の力に封じ込められた彼女を見つめて、秋菜は笑みを浮かべた。
「舞華、これであなたは私のものになった。あなたの全てが、私の中に入り込んできてる・・・」
秋菜は空を仰ぎ見るように両手を広げて、歓喜を覚える。
ガルヴォルスとして覚醒した秋菜の水晶の力には、相手を水晶に閉じ込める以外にも効果がある。それは閉じ込めた相手の力を得ることである。舞華の力を得た秋菜は今、強靭な力を備えていた。
「次はジョーを連れてくる。ちょっとだけ待っててね、舞華・・」
舞華に言いかけてから、秋菜は部屋を後にした。その声に舞華は全く反応しないはずだった。
だがその水晶の中で、舞華の眼からうっすらと涙の雫が零れ落ちていたことを、秋菜は気づいていなかった。
(もう誰も、舞華やジョーを傷つけさせない。たとえデスピアでも、もしみんなを傷つけるなら、私は容赦しない・・・!)
一途の想いを胸に秘めて、秋菜は歩き出した
次回予告
「ここにいたんだね、ジョー・・」
「秋菜、お前・・・!?」
「オレを・・なめるな!」
「触れ合おう、ジョー。お互いの体と心に・・」
「オレが・・オレが想っているのは・・・」