ガルヴォルスDesire 第19話「邪なる覚醒」

 

 

 自ら戦場に赴いてきたブルース。舞華を追って、ブルースは廃工場の一角に駆け込んできていた。

「なるほど。人のいない、しかも私の隙を突けるこの場所に誘い込んできたということか・・だが浅はかだ。」

 ブルースは不敵な笑みを浮かべると、突如床を力強く殴りつけた。強烈な衝撃が建物を揺るがし、無造作に置かれていたダンボールやドラム缶を吹き飛ばす。

 その物陰に隠れていた舞華もその衝撃に押されて、ダンボールの上にしりもちをついた。唖然となっている彼女を見つめて、ブルースがゆっくりと近づく。

「見つけたぞ、小娘。鬼ごっこは終わりだ。」

 言い放ったブルースが、立ち上がった舞華に突進を仕掛ける。その突進力に押されて、さらにブルースの頭の尖った角に左肩を貫かれて、舞華は苦悶の表情を浮かべる。

 昏倒し、傷ついた肩を押さえてうめく舞華。ブルースが悠然と彼女に近づいていく。

「これで分かっただろう。所詮、小娘1人で我々に歯向かうことなど、ムリなのだ!」

 ブルースが笑みを強めて舞華に言い放つ。

「舞華!」

 そこへジョーが遅れて駆けつけてきた。舞華は彼を気に留める余裕がなく、ブルースも視線だけを彼に向けていた。

「お前も来たか、少年。だが終わりだ。おそらく次でこの娘の息の根は止まる。」

「ふざけんな!舞華はそんなやわにできちゃいねぇよ!それにオレも、そんな簡単には諦めねぇ!」

 ブルースの言葉にジョーが反論する。そこへ舞華が傷ついた体に鞭を入れて、立ち上がる。

「確かにしぶといようだ。だがそんな状態で私に勝てると?」

「勝つ・・みんなにために、私は勝たなくちゃいけないんだよ・・・!」

 笑みを崩さないブルースに、完全と立ちはだかる舞華。右手の刃の切っ先をブルースに向けて、一歩一歩進んでいく。

「そこから瞬発力を見せるつもりなのだが、傷ついたお前ではそれも難しいだろう。」

 言い放ったブルースが、舞華と同時に動き出す。傷を負って動きが鈍っていた舞華の右腕をブルースがつかんだ。

「し、しまった・・!」

「これでお前は終わりだ。体から刃を発してもムダだ。その動きを見せた瞬間に離れ、そこから全力の突進を食らわせてやる。」

 毒づく舞華にブルースが不敵な笑みを見せる。助けに飛び出そうとするジョーだが、ブルースの威圧感の前に接近することができないでいた。

「手こずらせてくれたが、今度こそ私の手で幕引きにしてくれるぞ。」

 ブルースが舞華を見据えたまま、全身に力を込める。集中させたエネルギーを爆発させて、彼女を葬ろうとしていた。

 そのとき、一条の閃光がブルースに向けて飛び込んできた。ブルースは舞華から手を離して、閃光を回避する。

「何度も言わせるな。舞華を傷つけるものを、オレは許さないと。」

 ブルースに鋭く言い放ってきたのは、デスピア本部から脱出してきた幸介だった。ビートルガルヴォルスに変身した幸介が頭部の角から閃光を放ち、ブルースを狙ったのだ。

「幸介!?バカな!?お前はデスピアの牢獄に捕らえられているはず・・!?

 幸介の登場にブルースが驚愕する。立ち上がった舞華と振り返ったジョーが驚きを見せている。

「オレは死なない・・貴様らに殺されるわけにはいかないんだ!」

 幸介は言い放つと、ブルースに向かって飛びかかる。具現化させた斧を手にして、ブルースに一閃を繰り出す。

 ブルースは突進を仕掛けて迎撃する。互いの攻撃は荒々しい轟音を響かせ、力を相殺する。

 相殺の衝撃を受けて、互いに吹き飛ばされる幸介とブルース。体勢を立て直したブルースに向かって、舞華が刃を振りかざして飛び込んできた。

「おのれ!」

 ブルースは吐き捨てて、舞華の一閃をかわす。舞華は追撃のために、さらにブルースに詰め寄る。

「私は負けない!絶対に!」

 舞華が叫びながら、再度一閃を繰り出す。刃は回避を続けていたブルースの右肩に突き刺さった。

「ぐおっ!」

 苦痛を覚えたブルースが顔を歪め、動きを鈍らせてひざをつく。

(こんなことが・・深手を負っているはずなのに、今まで以上の速さを・・!?

 舞華の向上している能力に驚愕するブルース。舞華が間髪置かずに刃を振り抜き、かまいたちを放つ。

 次々と放たれるかまいたちを受けて、ブルースが傷を負っていく。そして飛び込んできた舞華の刃が、ブルースの体を貫いた。

 ブルースの体から鮮血が飛び散り、舞華の刃を伝う。激痛を覚えながらも、ブルースは舞華の刃をつかむと、不敵な笑みを見せた。

「剣崎舞華・・よくぞこのブルース・バニッシャーを倒した・・・だがまだデスピアは滅びはしない・・デスピアの真の支配者に、お前は勝つことができるかな・・・?」

「デスピアの、真の支配者・・・!?

 ブルースの言葉に舞華が眉をひそめる。哄笑を上げるブルースの体が崩壊し、砂になって消滅した。

 困惑を抱えたまま、舞華は刃を下ろす。姿が人間に戻った後も、彼女は一抹の不安を覚えていた。

「舞華、無事でよかった・・・」

 同じく人間の姿に戻った幸介が、安堵の笑みを浮かべて舞華に声をかけてきた。すると舞華は我に返り、幸介に笑みを返す。

「幸介くん、無事だったんだね・・」

「舞華・・あぁ。何とか生きていられた・・・でも結局、君に心配をかけてしまったようだ・・すまない・・・」

 安堵する舞華に謝罪の言葉をかける舞華。そこへジョーがいぶかしげな態度を見せながら、幸介に歩み寄る。

「こんなところで何をしている?人間である君には、荷が重すぎたのでは?」

「確かにな。けどオレはそれでも、舞華を助けてやりたいんだ・・・」

 あざける幸介と、真剣な面持ちで決意を告げるジョー。2人の険悪な雰囲気を見かねて、舞華が2人の間に割って入ってきた。

「やめてよ、2人とも。ジョーも幸介くんも、私を助けようとしてくれたことは確かなんだから。」

 舞華に言いとがめられて、ジョーと幸介が押し黙る。

「それにしても、デスピアの真の支配者って・・・ブルースがデスピアのボスじゃなかったの・・・?」

「確かにブルースがデスピアの総帥だ・・表向きには。」

 舞華の呟いた疑問に、幸介が答える。その言葉に舞華とジョーが眉をひそめる。

「表向きにはって・・どういうことなんだ・・・!?

「詳しくは分からない・・だがデスピアに捕まっていたとき、連中が口にしていたんだ・・・ゼロス様と・・」

 幸介の説明に、舞華とジョーは戦慄を覚える。

「ゼロス・・・」

 思わず呟きをもらすジョー。終幕したと思われた戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。

 

 ゼロスに導かれた秋菜がたどり着いたのは、デスピアの本部だった。敵組織の巣窟の連れてこられ、秋菜は緊迫を覚えていた。

 恐怖を募らせる彼女に気づいて、ゼロスが不敵に笑う。

「怯えることはない。私たちは貴様に危害を加えるつもりはない。」

 ゼロスが言いかけるが、秋菜の不安は解消されなかった。やがて小さな部屋に入り、そこでゼロスは秋菜に振り返った。

「では水無月秋菜、貴様が追い求める力、このゼロス・ブレインが与えてやろう。」

 ゼロスが秋菜に言い放つと、突如怪物へと変貌を遂げる。ポイズンガルヴォルスとなったゼロスに、秋菜がさらに恐怖を募らせる。

 その前でゼロスが体から触手を発し、秋菜の胸を貫く。思わず後ずさりする秋菜だったが、痛みを感じず、不審に思えた。

「だから言ったであろう。怯えることはないと。」

 言い放つゼロスが触手を通じて秋菜に何かを流し込む。それは人間をガルヴォルスへと転化させる毒素だった。ゼロスはこの毒素を流し込んで、何人もの人間の中にあるのガルヴォルスの因子を活性化させてきたのである。ただその行為が残虐に行使していたため、転化させる前に殺す結果に及んでいるのも事実だった。

(何なの・・・体がおかしい・・・体の中を滅茶苦茶にされてるみたい・・・)

 体の変化に秋菜が違和感を覚える。

(そう・・あのとき、クレアに石にされて、胸とかいろんなところを触られた感じに似てる・・・イヤなことのはずなのに、気持ちよくなってく・・・)

 次第に安堵を覚えて、秋菜は思わず笑みを浮かべる。彼女の頬に、ガルヴォルスへの変身を確信させる異様な紋様が浮かび上がっていた。

 毒素の注入を終えたゼロスが、秋菜から触手を引き抜く。脱力した秋菜がその場に座り込む。

 意識がもうろうとなって、おもむろに両手を見つめていた。彼女の様子を見下ろして、ゼロスが笑みをこぼす。

「まだ実感がわかないか・・ムリもない。同種であるものの、人間にとっては全く別の存在への変貌だからな。」

 ゼロスの言葉を耳にして、秋菜が呆然と顔を上げる。

「だがそれもすぐに分かる。己のガルヴォルスとしての力が何なのかも含めてな。」

「私の、力・・・」

 変貌を遂げた自分に対し、秋菜が笑みを浮かべる。彼女は立ち上がり、自分の存在を確かめる。

「光栄に思うがいい。これより貴様も、強靭なガルヴォルスの1人だ。」

 歓喜をあらわにするゼロス。自分の力を確かめようと、秋菜は部屋から出て行った。

 

 ブルースとの死闘を終えた舞華は、ジョー、幸介と別れて家に帰ってきた。

「ただいまー。」

「あ、おかえり、舞華くん。秋菜と一緒ではなかったのか?」

 玄関に出てきた冬矢の問いかけに舞華が眉をひそめる。

「いいえ、一緒だったのはジョーとです・・まだ、帰ってきてないんですか?」

「あぁ・・特に用事がなければ真っ直ぐ帰る子なんだが・・」

「そういえば、ちょっと寄るところがあるって言ってましたけど・・」

「寄るところ?私も母さんも何も頼んでいないし、今までこんなに時間のかかる寄り道はない。これはもしかして・・」

 冬矢は言いかけて言葉を詰まらせ、舞華もこれ以上は言えなかった。秋菜の身に何かが起こったとは、2人は信じたくはなかった。

「冬矢さん、私、探してきます!冬矢さんはここで秋菜ちゃんが帰ってくるのを待っててください!」

「舞華くん、いいのか?私が探しに出たほうが・・」

 申し出た舞華に冬矢が声を荒げる。

「冬矢さんはここにいてください。見つけたらすぐに連絡を入れますから。」

 舞華は冬矢に言いかけると、きびすを返して家を飛び出した。彼女の行動に、冬矢は頭をかく。

「やれやれ。若いっていうのはすばらしくもあり、ややこしくもある、か・・」

「それが青春ってものなのかしらね。」

 冬矢が呟いていると、夏が笑顔で声をかけてきた。

「そんなものかな・・・」

「そんなものよ・・・」

 互いに笑みをこぼして、冬矢と夏は舞華に秋菜の捜索を任せて、家に待機することを決めた。

 

 ガルヴォルスとしての力を得た秋菜は、学校の前に来ていた。生徒のほとんどは既に下校していたが、まだ何人か校内に残っていた。

 秋菜はその正門から出てきた女子数人を眼にしていた。

(分かる・・・私の力がどういうものなのか・・・)

 秋菜は自分の両手を見つめて、湧き上がる力を実感する。彼女はおもむろに右手をかざすと、その指先から細い光が放たれる。

 光は女子の中の藍色のポニーテールの少女に命中する。するとその少女は突然倒れ込み、苦しみ出した。

「ち、ちょっとどうしたのよ!?

 周囲にいた女子たちが呼びかけるが、少女は苦痛にさいなまれたままである。

「い、痛い・・体中が痛いよ・・・!」

 自分の体を押さえて苦痛にあえぐ少女。周囲の女子たちが、彼女の腕から何かが突き出てくるのを目撃する。

 それは透き通った水晶だった。あまりに奇怪な現象に、周囲の女子たちも恐怖を覚えていた。

(これが私の力・・人を水晶にして、さらに広がる水晶の中に閉じ込めるもの・・・)

 自分の力を把握して、秋菜はその場から離れていった。体が水晶へと変質する少女の激痛の悲鳴を耳にしながら。

(待ってて、舞華。すぐ行くから・・・)

 

 行方が分からなくなった秋菜を探して、街中を駆け回る舞華。しかし秋菜の姿はどこにもなかった。

(秋菜ちゃん、どこに行っちゃったの・・・!?

 心当たりのある場所を必死に模索していく舞華。だが時間がたつにつれて、次第に不安が募っていくばかりだった。

 しばらく捜索を続け、舞華は学校の近くに行き着いていた。そこで彼女はその道端で人だかりができているのを見つける。

 秋菜のことを念頭に置きながら、舞華はその人ごみに駆け寄る。

「あの、何かあったんですか・・?」

「えっ・・あぁ。下校途中の生徒が突然苦しみだして、それから・・・」

 舞華に声をかけられて、説明する男が人ごみの輪の中を指差す。舞華は思い切ってその人ごみの中をすり抜けて、前に出ようとする。

 そんな舞華の眼に、奇怪な光景が飛び込んできた。大きな水晶が立ちはだかり、その中に全裸の少女が眠るように閉じ込められていた。それは秋菜が発した光を受けたポニーテールの女子だった。

 

 デスピアの本部から脱出し、一路マンションの自室に戻ってきた幸介。満身創痍の体を癒しながらも、ガルヴォルスの襲撃に備えて臨戦態勢は崩さなかった。

(たとえどんなことになろうと、舞華はオレがものにする。そのために、デスピアはオレの手で滅ぼす・・!)

 ガルヴォルスとデスピアへの敵意を胸に秘めて、幸介は拳を握り締める。

「やはりここに戻ってきていたか、幸介。」

 そのとき、聞き覚えのある声に幸介は眼を見開く。立ち上がり振り返った先には、悠然としているスティングの姿があった。

「スティング・・・!?

「久しぶりだな、幸介。お前の行動にはつくづく不快にさせられるな・・」

「どうして、ここが・・・ここは誰にも教えてはいないはずだ・・・!」

「デスピアの情報網を甘く見るな。お前の行き先などある程度は筒抜けになっている。」

 驚愕する幸介に、スティングが淡々と告げる。

「聞いても意味がないことだが、ここまで我らデスピアに牙を向く理由は何だ?」

「お前たちは舞華を狙っている。そのお前たちを許せると思っているのか?」

 スティングの質問に、幸介が苛立たしげに答える。

「自己満足の正義感か・・・くだらん。」

 スティングが幸介のこの決意をあざ笑う。それが幸介の感情を逆撫でした。

「やはり、お前たちはオレの手で叩き潰す・・お前たちなどに、オレの全てを否定させない!」

 いきり立った幸介の頬に紋様が走る。彼はスティングに飛びかかり、窓を突き破って外に飛び出す。

 落下していく中で、幸介はビートルガルヴォルスに変身する。同時にスティングもクロコダイルガルヴォルスへの変貌を遂げる。

 ガルヴォルスとなった2人がマンションの横の駐車場に衝突する。2人はすぐに立ち上がり、距離を取って互いを見据える。

「まずはスティング、お前から倒してやる・・そしてゼロスとかいうデスピアの本当の司令官への見せしめにしてやる。」

「ゼロス様の?お前など、ゼロス様の足元にも及ばん。ゼロス様は人間をガルヴォルスへと進化させることのできる存在。デスピアのガルヴォルスの大半は、ゼロス様に力をいただいている。」

 言い放つ幸介と、悠然さを崩さないスティング。

「お前はゼロス様の相手になる資格もない。なぜならお前はここで、このスティング・シュバインに敗れるのだから!」

 スティングが全身に力を込めて、エネルギーを集中させる。その衝動でマンションの部屋や車の窓ガラスが次々と割れていく。

「オレがその思い上がった認識を改めさせてやる・・・!」

 幸介も具現化させた斧を握り締めて、スティングを鋭く見据えた。

 

 

次回予告

 

「秋菜ちゃん、どうして・・・!?

「舞華、私は力を手に入れたのよ・・」

「お前はデスピアから逃げられないんだよ!」

「痛い・・痛い!」

「もうすぐ楽になれるからね、舞華・・・」

 

次回・「崩れ去る友情」

 

 

作品集

 

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