ガルヴォルスDesire 第18話「ブルース、猛攻」
クレアとの交戦を終えて、水無月家に戻ってきた舞華、秋菜、ジョー。クレアの石化を受けた影響で舞華と秋菜は全裸だったため、3人は玄関からではなく、裏口から入ろうとしていた。
「3人そろって、こんなところで何をしているんだ?」
だが冬矢は3人が戻ってきていたことに気づいていた。突然声をかけられて、3人はただただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
「冬矢さん・・冬矢さんと夏さんにも、お話しておきます・・」
舞華は戸惑いを浮かべながら、冬矢たちにも真実を話すことを決めた。
新しい服を着用した舞華と秋菜。2人がジョーとともに、冬矢と夏の待っているリビングに行くと、舞華は今までの出来事を話し始めた。
秋菜たちと知り合った日にガルヴォルスという怪物の暗躍を目撃し、自分もガルヴォルスへと変身したことを。デスピアがガルヴォルスたちを引き連れて世界の制圧を企てていること。忍や幸介のこと。そして今回起きた美女失踪事件の真相。
あまりに現実離れした話に、冬矢も夏も困惑を浮かべていた。
「信じられないかもしれませんがホントなんです。今回だって私や秋菜ちゃん、さらわれたみんなが石にされて・・ジョーがいなかったら、どうなってたか・・」
舞華は沈痛の面持ちを浮かべて説明していく。
「信じるよ、舞華くん。」
彼女の真剣な話に、冬矢は笑みを浮かべて頷いた。
「君が何者であろうと、私はしっかりと受け止めるよ。ただ、あまり自分たちだけで背負い込まないでもらいたい。」
「冬矢さん・・・」
冬矢の言葉に舞華が戸惑いを覚える。
「私も母さんも、舞華くんのような力はない。しかし、こんな私たちにも、何かできることがあるはずだ。」
「冬矢さん、夏さん・・・ありがとうございます。でも私、できるだけ自分の力だけでやってみたいんです。ジョーも、私と同じことを考えてるはずです・・」
冬矢に感謝の言葉をかけた舞華がジョーに眼を向ける。するとジョーは笑みを見せて頷いた。
その傍らで、秋菜は沈痛の面持ちを浮かべていた。
その後、舞華たちは談話と休憩を取った。そしてジョーが寮に戻ろうとしたところで、舞華が玄関から出てきた。
「ジョー、ホントにありがとう・・」
「おい、もうそんなに言わなくたっていいだろ。」
感謝の言葉をかける舞華に、ジョーはぶっきらぼうに言いかける。
「あの、ジョー・・今度、またどっかに遊びに行こう。」
「舞華・・・あぁ、いいぜ。けど、あんまりおかしなとこに連れて行かねぇでくれよな。」
「もう、ジョーったら、ちょっと優しくしたらすぐコレなんだから。」
ジョーが気さくな笑みを見せると、舞華が呆れる。そして2人は笑みを取り戻すと、互いに寄り添いあう。
「舞華、言ってもムダだけどさ・・ムチャすんなよ・・」
「努力してみる・・でもさっきも言ったけど、自分の力でやってみたい・・・」
2人は言葉を交わすと、さらに深く抱き合う。その様子を、秋菜は玄関のドアの影から見つめていた。
その頃、デスピアは本格的に舞華打倒に向けて動き出していた。どの系統のガルヴォルスが有利か、ブルースは立案に苦労していた。
(剣崎舞華・・あれほどの力を備えたガルヴォルスでありながら、我々に牙を向く・・)
思考を巡らせていくが、ブルースは打開の策を導き出せないでいた。
「何をそんなに思いつめているのだ、ブルースよ?」
そのとき、ブルースの背後から声がかかってきた。その声にブルースは眼を見開き、着いていた席を立ち上がり振り返る。
「あ、あなたは・・!?」
眼前にいる男にブルースはさらに戦慄を覚える。彼が対峙しているのは、デスピアの真の統率者、ゼロス・ブレインだった。
「久しぶりだな、ブルース。まだガルヴォルスの支配が確立されていないようだが?」
ゼロスが淡々と問いかけるが、ブルースは緊迫をあらわにしたまま答えない。するとゼロスはテーブルに置かれていた1枚の写真に眼を向ける。
「この娘が、私たちの侵略を阻んでいるということか・・名前は?」
「はい。名は剣崎舞華。全身から刃を形成できるガルヴォルスです。高位の潜在能力を備えており、何人ものデスピアのガルヴォルスがあの娘によって・・」
ゼロスの問いかけに、ブルースはようやく口を開いた。その説明を受けて、ゼロスは写真に写っている舞華を見て頷く。
「そうか・・ここまでくると、もはや私たちの同士に加わる気はないようだ・・ブルース、貴様が先陣を切れ。」
「ゼロス・・!?」
「デスピアの最高司令官としての貴様の力を見せ付ければ、私たちに歯向かう愚か者も消え失せることだろう。」
驚愕するブルースの心境を気に留めず、ゼロスは淡々と言いかける。
「デスピアに属する全ての者に告げる。これよりここでの指揮は私が取り仕切る。」
ゼロスがデスピアに向けて指示を送り出した。
スティングによって拘束され、デスピアの牢獄に閉じ込められていた幸介。その中で彼は、この本部からの脱出の機会をうかがっていた。
(絶対ここを出てみせる・・こんなところで終わるわけにはいかないんだ・・・!)
心密かに決意を固めて、幸介は希望を見据えていた。
「ゼロス様がお戻りになられたぞ。」
「ゼロス様が!?大変だ!すぐに顔を出さなければ!」
兵士の言葉を耳にした監視員が、慌しく牢獄の前を離れる。それが幸介の脱出の絶好の機会だった。
とっさに幸介は立ち上がり、ビートルガルヴォルスに変身する。そして牢獄の鉄格子を突き破り、脱出を図った。
ゼロスの帰還によって、デスピア本部内は慌しくなっていた。最高司令官に位置づけられているブルースさえも凌駕する脅威を備えているゼロスに、兵士や研究員は固唾を呑むばかりだった。
「貴様らの活躍には私も賞賛している。だが私たちに逆らう輩が存在していることも事実。そこで制圧の前線として、反逆する意思を見せる者を徹底的に始末する。」
ゼロスの告げた言葉に兵士たちが戦慄を覚える。
「ところで、ドラスはどうしているのだ、スティング?」
「幸介に倒されました。現在は牢獄に叩き込んでおります。」
「牢獄?すぐに始末しろ。デスピアの上位のガルヴォルスを手にかけたほどだ。また反逆を企てる。」
ゼロスの言葉を受けてスティングが動き出す。そこへ1人の兵士が飛び込み、ゼロスたちの前でひざまずく。
「申し上げます!猪木幸介が牢獄より脱走!現在基地の外へ・・!」
「何だとっ!?」
兵士の報告にスティングが声を荒げる。
「スティング、幸介を追え。躊躇せずに息の根を止めるのだ。」
「はい!分かりました!」
ゼロスの命令を受けて、スティングが作戦室を飛び出した。
「剣崎舞華のデータを見せろ。能力だけでなく、身辺や関連するもの全てだ。」
「了解しました。」
ゼロスが研究員の1人の指示を送る。そしてコンピューターの画面に映し出された舞華のデータに眼を通す。
その中のあるものを見た途端、ゼロスは笑みを浮かべた。
(これは面白くなるかもしれんぞ・・)
ゼロスが期待を覚えると、きびすを返して歩き出す。
「貴様らはここで待機だ。もし幸介が戻ってくるようなことがあっても、迂闊な行動はするな。」
ゼロスは兵士たちに指示を送り、作戦室を後にした。
ジョーや冬矢たちに全てを打ち明けてからの翌朝、いつも秋菜に起こされていた舞華は、この朝は早く眼が覚めた。自分を包み隠さず打ち明けたことで自分の心がすっきりしたのだと、彼女は思った。
そして彼女は、ジョーに対する想いを思い返していた。いろいろなことが起きた中で、自分がずっとジョーを気にかけていたことに、彼女はようやく気づくことができた。
(ジョー、秋菜ちゃん、ありがとう・・私、もう迷わないから・・・)
周囲の親しい人々に感謝の意を込める舞華。彼女は元気よく起き上がり、制服に着替えて部屋を出た。
「秋菜ちゃん、朝だよー♪起きないと遅刻しちゃうよー♪」
舞華が秋菜の部屋に来て、明るく声をかける。
「何よ、舞華・・今日はやけに早起きじゃないの・・」
秋菜が眠そうな態度を舞華に見せる。
「今日は早く行きたい気分なの。やっぱり朝早く起きるのはいいよね♪」
「全く。いつも寝坊して私に起こされてるくせに・・」
明るく振舞う舞華に、秋菜が呆れて肩を落とす。その様子を気に留めていない様子で、舞華はリビングへと向かっていった。
そして秋菜は舞華に連れられる形で、学校へと向かう。その途中、2人はジョーと合流する。
「ジョー、おはよー♪」
「あぁ、おはよう。相変わらず子供みてぇにはしゃいじゃってよ。」
元気に挨拶する舞華に、ジョーが呆れながら挨拶を返す。
「ん?どうしたんだ、秋菜?何だか元気がないみたいだけど・・」
「えっ?う、ううん、何でもないよ・・」
ジョーに声をかけられて、秋菜が慌てて答える。気が動転してしまい、彼女は先走ってしまった。
秋菜は自分の気持ちを打ち明けられないでいた。彼女もジョーを気にかけていた。だがもしもその気持ちを告げたら、舞華と険悪になってしまう。
(私、いったいどうしたら・・・)
自分の気持ちを心の中に押しとどめたまま、秋菜はひたすら学校に駆け抜けていった。
秋菜が心が重く沈んだまま授業は進み、そして放課後となった。
「秋菜ちゃん、一緒に帰ろー♪」
舞華が笑顔で秋菜に声をかけてきた。
「ゴメン、舞華・・ちょっと寄るところがあるから・・」
秋菜は後ろめたい心境で舞華に言いかけると、そそくさに教室を出て行った。秋菜の今までの様子に、舞華は困惑を覚える。
「秋菜のヤツ、何かあったのか?」
「分かんない・・でも、何かあったみたい・・・」
そこへジョーが声をかけ、舞華が口ごもるように答える。今日の秋菜はいつもと何かが違っていた。
「とにかく、家に戻ったら話を聞いておいてくれねぇか?家に帰ればイヤでも話するんだからさ。」
「うん・・聞けそうな雰囲気だったら聞いてみる。」
ジョーの言葉に頷く舞華。2人は遅れて教室を後にし、帰路に着いた。
「ジョー、昨日も言ったけど、そんなに自分のことで怖がったりすることはないよ。」
舞華の唐突な声にジョーが眉をひそめる。
「ガルヴォルスでもそれ以外のものでも、自分に負けるかどうかは、その力に溺れない心の強さじゃないかと思うんだよね。自分をしっかり持っていれば、人間のままでいられるんだよ・・」
「そうか・・そんなもんかな・・・」
励ましの言葉をかける舞華に、ジョーは苦笑をもらしていた。
そのとき、舞華は突如押し寄せてきた緊迫感に襲われて、思わず足を止める。その様子にジョーも真剣さを見せる。
「どうしたんだ、舞華・・・!?」
ジョーが声をかけるが、舞華は前を見つめたまま答えない。
「久しぶりだな、剣崎舞華。」
「ブルース!?」
淡々と声をかけてきた男、ブルースに舞華が眼を見開く。デスピアの司令官が自ら戦いの場に赴いてきたのだ。
「知ってるのか、舞華・・コイツを・・!?」
「ブルース・バニッシャー・・デスピアのボスだよ・・・」
ジョーの問いかけに舞華が声を振り絞るように答える。するとブルースが不敵な笑みを浮かべる。
「はじめまして、少年。今回、私は舞華の抹殺を目的としている。だがもし我々にまだ従う意思が残っているというなら・・」
「いまさら何言ってんのよ!私はあなたの部下になんてならないわよ!」
ブルースの言葉を舞華は一蹴する。
「残念だけど、舞華はこれでけっこう頑固なんだ。アンタらの悪巧みには付き合えねぇってさ。」
続けてジョーもブルースに言い放つ。拒否を受けたブルースから笑みが消え体に力が入る。
「最後の警告も拒むとは・・・いいだろう。お前たちは、このブルース自ら相手をしてやる!」
言い放ったブルースの頬に紋様が浮かび上がる。そしてその姿が猛牛に似た怪物へと変化する。
「私はデスピアのガルヴォルスの中でも最高位のパワーを備えている。この私の力、お前たちに破れるかな?」
ブルースが両手を強く握り締めて、力を放出する。その爆発的な威圧感に舞華もジョーも眼を見開いた。
「ジョー、すぐにここから離れて!私もみんなが迷惑しないところに移動するから!」
「舞華!?」
舞華の声にジョーが当惑する。向かってくるブルースに対し、舞華もブレイドガルヴォルスに変身する。
だが突進を仕掛けてきたブルースによって、舞華は突き飛ばされる。強烈な突進力を受けて、舞華は後方にどんどん吹き飛び、やがて突き当たりの壁に叩きつけられて、ようやく踏みとどまった。
(イタタタ・・すごい力・・車にはねられるって、こんな感じなのかな・・・?)
痛みを覚えて胸中で呟く舞華。騒然となっている周囲に気づいて、彼女はとっさにこの場を離れた。
彼女の動きを見据えていたブルースが不敵に笑い、彼女の後を追った。ジョーもたまらず舞華を追って走り出した。
舞華とジョーより先に下校し、夕暮れの道を1人歩いていた秋菜。その途中、彼女は突如寒気を覚えて足を止める。
「さ、寒い・・いくらなんでもこんな寒いなんて・・・」
秋菜は自分の体を抱きしめて震える。
そのとき、秋菜はどこからか悲鳴が響いてきたのに気づく。その声のしたほうへ彼女は向かう。
進んでいくに連れて、流れてくる冷たい風が強くなっていくのを感じる秋菜。しばらく進んだところで、彼女は眼前の光景に眼を疑った。
強い冷気を浴びている女子中学生の下半身が、半透明の氷に包まれていた。
「お、お願いです!・・た、助けて・・くだ・・・」
秋菜に気づいた女子が助けを求めて手を伸ばしてくる。だが秋菜はどうしたらいいのか分からず、呆然とするばかりだった。
女子は恐怖の表情のまま、完全に氷に包まれてしまった。氷付けにされた女子を目の当たりにして、秋菜は愕然となってひざをつく。
「いいぞー!この怯えた顔!何もできないという無力感!オレの心をゾクゾクさせてくれる!」
そこへ1体の怪物が姿を現し、歓喜をあらわにしていた。白い体毛に覆われた大型動物を連想させる姿の怪物だった。
そして黒ずくめの男が姿を見せ、秋菜に眼を向けて笑みをこぼす。
「貴様が水無月秋菜だな?私はデスピアの支配者、ゼロス・ブレインだ。」
男、ゼロスに声をかけられ、秋菜が呆然としたまま振り向く。
「貴様、力がほしくないか?自分が満足するような力が・・」
ゼロスに問いかけられて、秋菜は困惑を見せる。ゼロスは笑みを消さずに話を続ける。
「貴様が望むというなら、私がその力を与えてやろう。私はガルヴォルスの中でも数少ない、人間をガルヴォルスへと転化させる能力を備えている。」
「へへへ、オレもゼロス様にガルヴォルスにしてもらったんだ。最高だぜ、ガルヴォルスの力は。」
ゼロスに続いて、イエティガルヴォルスが秋菜に言いかける。デスピアからのいざないに、秋菜がおもむろに顔を上げる。
「力を求めるなら与えよう。それで私たちに従うなどという代償を科すつもりはない。貴様の思うがままに力を行使すればいい。」
淡々と告げて、ゼロスは秋菜に手を差し伸べる。自分の無力さを痛感し、力を求めていた秋菜は、その手を取っていた。
「私とともに来い。力を授ける。ただしどのような姿になるか、どのような力が覚醒するかは私にも分からん。だが貴様ならすぐに理解できることだろう。」
不敵に言い放つゼロスに導かれ、秋菜は暗黒の道を歩んでいった。
次回予告
「所詮、小娘1人で我々に歯向かうことなど、ムリなのだ!」
「私は負けない!絶対に!」
「これより貴様も、強靭なガルヴォルスの1人だ。」
「待ってて、舞華。すぐ行くから・・・」