ガルヴォルスDesire 第17話「ジョーと舞華」
クレアの屋敷に侵入したジョーが眼にしたもの。それはクレアに抱きしめられた舞華の石化されていく姿だった。
「舞華・・お前、どうして・・・!?」
「ジョー・・・!」
声を荒げるジョーに、舞華が眼を見開く。彼の登場に気づいて、クレアが彼にも笑みを向ける。
「あら。私の屋敷に忍び込むなんて、悪い人ね。でもいいわ。丁度いいところにあなたは来てくれたみたいだから。」
クレアはジョーに言いかけて、舞華を抱きしめていく。そして石化した舞華の下腹部にゆっくりと手を伸ばしていく。
秘所を触られて、舞華が声を荒げる。その姿を目の当たりにしたジョーの中に殺意が芽生え始めていた。
「・・やめろ・・・」
ジョーが低い声音でクレアに言い放つ。彼はかつて母親から迫られたことを思い出していた。
「・・やめろって、言ってるんだよ!」
ピキキッ パキッ
たまらずジョーが叫んだ瞬間、舞華にかけられている石化が進行し、クレアに抱かれている彼女の上半身に及んだ。彼女の衣服が全て剥がれ落ち、全裸をあらわにすることとなった。
舞華の動揺がさらに高まったところで、クレアは彼女から腕を離す。ジョーに石化された素肌を見せることになり、舞華はいても立ってもいられない心境に陥った。
「ジョー、私・・・」
「舞華・・・!」
沈痛の面持ちで言いかける舞華に、ジョーが声を荒げる。
「何やってんだよ、舞華・・そんなの、ガルヴォルスってヤツの力で跳ね返しちまえよ・・・!」
「分かってる・・でも・・・!」
ジョーに呼びかけられて、舞華はガルヴォルスへの変身を試みる。だが一瞬頬に紋様が浮かび上がるだけで、ガルヴォルスへの変身ができない。
「体が、言うことを聞かない・・・!」
「舞華・・・!」
クレアに支配されていくことに困惑を覚える舞華に、ジョーは歯がゆさをあらわにしていた。
「さぁ、じっくり見ておきなさい。このお嬢さんがオブジェになり、あらゆる束縛から解放されるところを。」
クレアがジョーに向けて高らかに言い放つ。様々な葛藤にさいなまれ、ジョーは石化に侵食されていく舞華に近づくことができなかった。
すると舞華はジョーを前にして笑みを見せた。その笑顔にジョーは戸惑いを覚える。
「ジョー、ゴメンね・・私が迷ってたばっかりに、力を使うことができず、秋菜ちゃんをあんな姿にして、今ジョーにも迷惑をかけている。こんな私に、何も守ることなんてできなかったんだね・・・」
ピキッ パキッ パキッ
謝意を見せる舞華の体を石化が蝕み、彼女の手の指の先を冷たく固めた。
「舞華、何を言ってるんだ・・何もできなかったのは、むしろオレのほうだ・・・!」
ジョーが悲痛さを噛み締めて呼びかけると、舞華は戸惑いを見せる。
「ガルヴォルスやデスピア、いろいろなことでお前は悩んでたっていうのに、オレは自分のことだけしか・・・!」
「ジョー・・・ありがとう。でもそういうもんだよ。自分のことしか考えられなくなるのが普通。私だってそうだよ・・」
自分の思いを叫ぶジョーに、舞華は微笑みかけた。
「そんな中で誰かのために頑張れることって、すごくすごいってことなんだよ・・・」
パキッ ピキッ
言いかける舞華を石化が包み、首筋にまで及んできた。
「ジョーはすごい・・私なんかより、ずっと・・・」
ピキッ パキッ
言いかける舞華の唇も石に変わり、彼女は声を出せなくなる。
フッ
そして瞳にヒビが入り、舞華はクレアに抱かれたまま、一糸まとわぬ石像と化した。変わり果てた彼女の姿に、ジョーは愕然となっていた。
「ウフフフフ。このお嬢さんをオブジェにした私の心はとても澄んでいるわ。彼女だけでなく、私も解放されたような感じ・・」
クレアが妖しく微笑んで、舞華から離れる。舞華が石化された影響で、クレアの着ているドレスもボロボロになっていた。
「全部脱ぎ捨てて肌も心もあらわにすること。それが人の本来の姿。誰でも生まれるときはみんな裸だもの。それを否定することは誰にも・・」
クレアは淡々と言いかけると、半壊している自分のドレスを引き剥がす。ジョーを前に、クレアも自分の裸身を見せ付ける。
その姿を目の当たりにしたジョーの顔が強張る。彼の中に忌まわしき過去と殺意が呼び起こされる。
「オレに、そんな姿を見せるな・・・!」
低い声音で言いかけるジョーだが、クレアは再び石化した舞華の頬に手を添える。
「あなたにも分かるときが来るわ。解放による喜びというものを・・」
「やめろって、言ってんだよ!」
話をやめないクレアに憤怒したジョーが、横の窓のガラスを叩き割る。そしてガラスの破片を追ってつまみ、おもむろにクレアに近づいていく。
「そうね。久しぶりに男の人をオブジェにしてみるのもいいかも。あなたのような美青年なら、私は大歓迎よ。」
クレアが再び舞華から離れて、ガルヴォルスの力を発動しようとする。だがジョーは歩みを止めようとしない。彼の眼は鋭く、殺意に満ち溢れていた。
獲物を狙う獣のような威圧感を放つジョーは、持っていたガラスの破片でクレアの胸を突き刺した。あまりに一瞬のことのように思えて、クレアは何が起こったのか分からなかった。
「そんな・・・どうして、こんな・・・!?」
クレアには信じられなかった。普通の人間が常人ではない動きを見せ、人間の進化であるガルヴォルスの1人である彼女が捉える間もなく、急所を突いてきたのである。
鮮血にまみれたクレアは脱力し、その場に仰向けに倒れる。そこでジョーは我に返り、血まみれのクレアを眼にして驚愕する。
「私は、まだ死ねない・・・まだ解放されなくちゃいけない人が、たくさん・・・」
生と欲望を求めて、力を振り絞って手を伸ばすクレア。だがその手を伸ばした体勢のまま、彼女の体が石のように固まり、動かなくなる。
ガルヴォルスとしての最後である。絶命したクレアは一瞬固まり、そして砂のように崩壊して消滅した。
「オレが倒したのか・・オレが殺したのか・・撫子クレアを・・・!?」
ジョーは眼を見開いたまま、無意識に呟いていた。クレアの命を奪った破片が彼の手から離れ、鮮血のあふれている床に落ちて音を立てる。
呆然とクレアの亡骸を見つめているジョー。彼の傍らで、彼女によって石化されていた舞華にかけられていた石化が解ける。
硬直されていた体が元に戻り、舞華はその場に座り込む。だがジョーは彼女の様子に気づかず、呆然としたままだった。
クレアの死によって、彼女によって石化されていた女性たちが解放されていた。どの人もクレアの力を受けて石にされたことを覚えており、恐怖や動揺、歓喜や安堵など、いろいろな様子を見せていた。
そしてこの邸宅から離れた街の中。舞華を助けようとしてクレアに石化され、放置されていた秋菜も石化が解かれていた。
ジョーがかけた上着を羽織った状態で元に戻った秋菜。自分の両手を見つめて、その実感を確かめる。
「元に、戻った・・・体が石から戻ってる・・・」
自分の手を閉じたり開いたりした後、秋菜は自分の体を抱きしめる。
「私、今回も舞華に助けられたってことかな・・・」
物悲しい笑みを浮かべる秋菜。その笑みさえもすぐに消えてしまう。
「私、何もできなかった・・舞華を助けたいっていう気持ちはあったけど、舞華を助けることもできず、私は石にされて裸にされて・・・」
押し寄せる悲痛さのあまりに震える体を必死に押さえようとする秋菜。
「もしも舞華とジョーが何とかしてくれなかったら、私はこのまま裸を見られてたってことに・・・私って、何でこんなに弱いんだろう・・・」
自分の無力さを噛み締めて、その場でうずくまる秋菜。それは力を求めることと同じだった。
「力がほしい・・・舞華とジョーを助けられるだけの力が・・・」
何とか気持ちを落ち着けた舞華は、呆然としているジョーに眼を向けた。
「ジョー・・・?」
舞華が当惑を浮かべて声をかけると、ジョーは視線だけを彼女に向けてきた。その瞬間、彼は狂気を覚えて眼を見開いた。
そしてジョーは舞華に飛びかかり、彼女を床に押し付ける。
「ジ、ジョー・・!?」
舞華は動揺を見せていた。過去と殺意に駆り立てられるジョーの姿が信じられなかったのだ。
「ジョー、もうやめよう!終わったんだよ!秋菜ちゃんやみんなは、元に戻ったんだよ!」
舞華が必死に呼びかけるが、ジョーの殺意が消える様子はない。
「ジョー!」
舞華がたまらず叫び、思わずジョーを突き飛ばしていた。その衝動でジョーは我に返り、恐怖を覚えていた舞華に眼をやる。
「舞華・・・!?」
ジョーは愕然となり、しりもちをついたまま動けなくなった。舞華は何とか気を落ち着けて、改めてジョーに声をかけた。
「ジョー、私はもう大丈夫。少し恥ずかしい姿になっちゃってるけど、体も心も大丈夫だから。」
笑顔を作ってジョーを励まそうとする舞華。自分が今裸であるにも関わらず微笑みかける彼女に、ジョーは動揺を浮かべていた。
「舞華・・オレ・・オレは・・・」
次第に込み上げる感情をあらわにしていくジョー。
「舞華、オレは・・・!」
その感情を抑えることができなくなったジョーが、再び舞華の方をつかむと、近くの部屋の中に飛び込んだ。そして部屋の中にあるベットの上に彼は彼女を押し倒した。
「ジョー・・・!?」
ジョーのこの行動に舞華は呆然となっていた。ジョーは激しく動揺しきってしまい、悲痛さをあらわにしていた。
「舞華、お前には話してなかったな・・オレは昔、親に無茶苦茶にされてたことがあるんだ。それが怖くて、許せなくて、オレは込み上げてくる怒りのまま、その親を殺した。親にされたことで、オレは女の裸を見ると、自分が自分でなくなるくらいに気が狂っちまうんだ。さっき、クレアを殺したように・・」
「ジョー、大丈夫だよ!」
自分を打ち明けるジョーに、舞華が必死に励まそうとする。
「ジョーがクレアを手にかけたのは、私がクレアに石にされたからだよ・・ジョーがいなかったら、私は・・・」
「舞華・・・」
舞華の言葉を受けて、ジョーはさらに動揺を覚える。すると舞華はジョーに手を伸ばし、彼を抱き寄せる。
「ジョー、もしもジョーが自分の心に振り回されてるっていうなら、それを乗り越えよう。私も力になるから・・」
舞華はそういうと、突然ジョーと口付けを交わした。突然のことにジョーは唖然となった。
感情が爆発したような感覚にさいなまれ、ジョーは舞華を強く抱きしめて、ベットで横になった。そして彼女の胸に手を当てて、その感触を確かめる。
その接触に舞華は今までにないほどの動揺を覚える。だが抵抗はなかった。自分がジョーに対して望んだことだったからである。
(どうしちゃったんだろう・・自分がどうかなっちゃいそう・・なのに、悪い気分じゃない・・・)
ジョーからの抱擁に、舞華は心地よさを感じていた。
「ジョー、構わないからもっとやって・・私は平気だから・・・!」
舞華がジョーに弄ばれることを望んでいた。彼女の感情を込めた声に促されて、ジョーは彼女を抱き寄せ、さらに胸を揉み解していく。あまりの快感と刺激に、舞華はついにあえぎ声を上げる。
その刺激に耐えられなくなった舞華の秘所から愛液があふれる。愛液は彼女の足を伝い、ベットのシーツをぬらしていた。
「ジョー・・ありがとう・・ジョーと一緒なら、私は強くいられる・・・」
快感にさいなまれている中、呟きかける舞華。その声は、同じく感情に駆り立てられているジョーには聞こえていなかった。
そしてしばらくジョーに体を撫でられていた舞華。その後2人はベットで横になり、互いに顔を見つめ合っていた。
「ありがとう、ジョー。私の中にあったもやもやが一気に吹き飛んじゃったみたいだよ・・」
「お前、こんなことでスッキリすんなんて、けっこう変わってるよな。」
舞華の安堵の笑みに、ジョーが呆れてため息をつく。
「けどお前もこれで分かっただろ。オレには物騒なもんがいるんだよ。悪魔かもしれねぇ・・」
「悪魔・・・」
真剣な面持ちを見せるジョーに、舞華も当惑を見せる。
「このままオレのことに深入りすると、いつか暴走したオレに殺されちまうかもしれねぇ。そうなったらオレは・・・」
「悪魔がいるのは私だって同じだよ。ガルヴォルスっていう悪魔が・・・」
舞華の身を案じるジョーに、舞華も物悲しい笑みを浮かべて言いかける。
「私、思うんだよね・・結局は自分の気持ちのありようなんじゃないかな・・ガルヴォルスにしたって、それ以外の危ないものにしたって、心をしっかりと持っていれば、その人は人間だよ・・」
「そうだとしても、オレはお前も・・・」
「しっかりしてよね、ジョー。そういうのはジョー自身がしっかりしていれば、どうにでもなっちゃうもんなんだよ・・」
自分に自信が持てないでいるジョーに、舞華は微笑んで言いかける。
「お互いに隠し事はなしにしよう。そのほうがお互いのためになる・・・」
「舞華・・・お前ってヤツは・・・」
あくまで信じようとしてくれている舞華に、ジョーはようやく笑みを浮かべた。
「分かったよ。オレの負けだ。もうお前をからかったりしねぇよ。自己防衛みたいなことはやめるさ。」
「もう、ジョーったら・・」
観念してみせるジョーに、舞華も苦笑いを浮かべた。互いに笑みをこぼしていたところで、ジョーはあることを思い出した。
「そういえば、秋菜・・・」
この言葉に舞華は一瞬唖然となった。
その後、舞華はブレイドガルヴォルスに変身し、ジョーを連れてクレアの屋敷を飛び出した。クレアに連れ去られて石化されていた女性たちは自ら警察への連絡を行い、その救助を受けた。
そして舞華とジョーは、街の物陰で震えている秋菜を発見した。ひとまず人間の姿に戻った舞華に、秋菜はたまらず抱きついた。
裸のまま互いの無事を喜んで抱き合う2人に、ジョーは気恥ずかしくなって視線をそらしていた。
スラム街の広場。1人の黒ずくめの男を、数人の男たちが取り囲んでいた。
「ここはオレたちの縄張りなんだよ。」
「ここを通りたきゃ、オレたちに通行料を支払いな。」
男たちが黒ずくめの男に詰め寄り、金を巻き上げようとする。
「触るな。」
黒ずくめの男は左腕を振り上げた瞬間、男たちのうちの2人の体が切り裂かれた。血飛沫をまき散らして男たちがその場に倒れ、砂のように崩壊した。
「て、てめぇ、何しやがった!?」
男たちが驚愕を覚えながら問い詰める。だが黒ずくめの男は平然としていた。
「貴様らごときがこの私に命令できる立場にいると思っているのか?」
黒ずくめの男の姿が変貌し、異質の怪物へと変化した。その姿を目の当たりした周囲の男たちが恐怖し、一目散に逃げ出す。
「滑稽だな。私におろかなマネをして、逃げられると思っているのか?」
怪物は落胆の言葉を呟くと、体から触手を伸ばしてきた。触手は逃げ惑う男たちの体を次々と貫いていく。
中には事切れた者もおり、体が崩壊して消滅していた。だが生き残った者は立ち上がり、顔に異様な紋様を浮かべていた。
「ガルヴォルスとして転化したのは2人か・・さて、貴様らの力、どれほどのものか見せてもらおうか。」
怪物はガルヴォルスに覚醒した男たちを眼にして不敵に笑う。振り返ったところで、姿が怪物から人間へと戻っていた。
「そろそろ本部に向かうか。私たちに牙を向く裏切り者がいると聞いているからな。」
男は悠然さを崩さずに、右手を掲げて呟く。
「貴様ら、暴れたければ好きにしていいぞ。この私が授けた力、存分に楽しむがいい。」
黒ずくめの男は他の男たちに言いかけると、哄笑を上げながらこの場を立ち去った。彼の言葉を受けた男たちが笑みを浮かべると、その姿が怪物へと変貌した。
新たな力を手に入れた男たちが、ガルヴォルスとしての力を発揮する。その後、スラム街とその周辺には、石や氷にされている人々が立ち並んでいた。
それがデスピアの真の支配者、ゼロス・ブレインの新たなる胎動の始まりだった。
次回予告
「君が何者であろうと、私はしっかりと受け止めるよ。」
「あ、あなたは・・!?」
「これよりここでの指揮は私が取り仕切る。」
「ブルース!?」
「お前たちは、このブルース自ら相手をしてやる!」