ガルヴォルスDesire 第16話「舞華の復活」

 

 

 秋菜に励まされ、舞華を助けるために夜の街に飛び出したジョー。舞華、秋菜を見つけ出すため奮起するものの、ジョーは2人を見つけられないでいた。

(アイツら、いったいどこに行っちまったんだ・・・!?

 次第に焦りを募らせながら、ジョーはさらに捜索を続ける。そしてしばらく駆け抜けた先でのことだった。

 1人たたずむものを前にして、ジョーは眼を疑った。一糸まとわぬ姿の秋菜の姿をした石像が、その場で立ち尽くしていたのだ。

「な、何だよ、こりゃ・・・!?

 ジョーは恐る恐る、その石像へと近づく。その裸身がはっきり見えてきたときだった。

 ジョーの中の殺意が蠢き始め、彼は苦悶の表情を浮かべた。母親からの切迫がトラウマとなり、彼は女性の裸を見ると、強烈な殺意にさいなまれるのである。

(オレは・・オレは・・・!)

 ジョーは込み上げてくる殺意に駆り立てられて、秋菜にさらに近づいていく。そして強く握り締める拳を彼女に振るおうとする。

“ジョー・・・!”

 そのとき、ジョーの脳裏に秋菜の声がよぎった。その瞬間、彼は彼女に振りかざした拳を止める。

「秋菜・・・!?

 我に返ったジョーが眼を凝らして眼前の石像を見つめる。それは秋菜を模した石像ではなく、秋菜そのものだった。

“ジョー・・見ないで・・・”

「秋菜・・・」

“お願い、見ないで・・舞華を助けられず、こんな姿にされた私を・・・”

 ジョーに語りかけてきた声。それは紛れもなく秋菜の声だった。石化されているものの、秋菜の意識は消えていなかった。

「秋菜、お前なのか・・・どうしたんだよ、それは!?・・・秋菜・・いったい・・・!?

 ジョーは動揺の色を隠せないまま、秋菜に呼びかける。

“クレアよ・・撫子クレアがガルヴォルスで、その力で私は石にされて、舞華が連れてってしまったの・・”

「舞華が!?・・・クレアって、あのモデルの撫子クレアか・・!」

 秋菜の説明に驚きを見せるジョー。だがすぐに気を落ち着けて、思考を巡らせる。

「クレアの屋敷はこの近くのはずだ・・・秋菜をこんな姿にしたってことは、いなくなった女たちもみんな・・!?

“うん・・多分、私と同じようにクレアに・・・”

 思い立ったジョーに秋菜が答える。そのとき、秋菜は奇妙な違和感を覚えていた。

“ジョー、私の声が聞こえるの?今の私は石にされていて、声を出すことができない。心の声で呟いているだけなのに・・”

「舞華・・・オレにもよく分からねぇ。けど今、確かにお前の声が聞こえてる・・・」

 秋菜の問いかけにジョーはぶっきらぼうに答える。そして突然、来ていた上着を脱いで、秋菜の石の体にかける。

“ジョー・・・!?”

 ジョーのこの行為に秋菜が戸惑いを覚える。彼女の心境のよそに、ジョーは彼女を抱えて、通りから離れていく。そして近くの裏道の物陰に入り、彼女を下ろす。

「とりあえずこうすることしかできねぇが、気休めぐらいにはなるだろ・・いつまでも素っ裸のまんまであの場にいるわけにはいかねぇからな・・」

“ジョー・・・ありがとう・・・ホントに・・・”

 ジョーの優しさを受けて、秋菜が感謝の言葉をかける。涙をこぼしたい気持ちだったが、石化した瞳からは涙は出なかった。

「あとはオレが何とかする。オレはもう迷わないから・・」

 ジョーは秋菜にそういうと、きびすを返して走り出した。彼の背中を見送る秋菜は、彼からの気持ちに困惑を抱えていた。

 

 眼を覚ました舞華が目の当たりにしたのは、部屋中に立ち並ぶ裸の女性の石像たちだった。

「みんな解放感に満ちあふれてきれいになってるわ。みんなの心の声が、私に届いてくる・・」

 クレアが石像たちを見渡して、歓喜の笑みを浮かべる。その光景に舞華は緊迫を覚えていた。

「ここにいる石像って、もしかして・・・!?

「そう。私がここに連れてきて、ガルヴォルスの力でオブジェに変えてあげたの。繰り返しているうちにこんなに多くなって・・いつしか彼女たちのことをコレクションなんて呼ぶようになってしまったの。」

 舞華が口にした言葉に、クレアが淡々と答える。

「どうして、そんなにまでして・・・!?

 舞華の問いかけにクレアは淡々と語り始める。

「私が美を追い求めていることはあなたもご存知でしょう?私が追い求める美。それは人の肌。」

 クレアは語りかけながら、口元に指を当てる。

「人は生まれたときはみんな裸。でもみんな普段は服というものでせっかくの肌を覆い隠してしまった。それは自分の中にストレスを溜め込んでいることにつながるの。何とかしてみんなを楽にしてあげたい。負の感情から解放させてあげたい。そう強く願っていたとき、私はこの力を得たのよ。」

「力・・ガルヴォルスの石化の力・・・」

「いつかみんながこのようにいい気分になれるように、私はこの力を使ってるのよ。」

 当惑する舞華に言いかけて、クレアは石化されている女性の1人の石の頬に優しく手を添える。

「このお嬢さんたちもみんな解放されたのよ。あのお嬢さんもね。あなたも私が優しく抱いて、オブジェにして解放してあげる。」

 クレアは今度は困惑している舞華に近づいた。そしてクレアは舞華を背後から優しく抱きしめる。

「思ったとおりいい体をしているわね。今すぐにでもオブジェにして、その肌をじっくり見てみたいわ。」

 歓喜の笑みを見せるクレア。舞華が彼女を振り払おうと思いながらも、体に力が入らなかった。

(私、このまま何もできずに終わっちゃうの?・・秋菜ちゃんみたいに裸の石像にされて、ずっとここにいなくちゃいけないの・・・?)

 悲痛さを噛み締めて、自分の無力さを呪う舞華。彼女の脳裏に、自分をかばってクレアに石化された秋菜の姿がよみがえる。

(秋菜ちゃん、ゴメンね・・私に力が戻ってたら、秋菜ちゃんを助けられたはずなのに・・・)

 秋菜に強く謝意を思い起こす舞華。すると舞華は、優しく微笑みかけてくる秋菜の姿を見たように感じた。

(秋菜ちゃん・・・!?

 一瞬驚きを覚えて眼を見開くが、微笑みかける秋菜を目の当たりにして、次第に安堵を覚えていく。

(そうだよね、秋菜ちゃん・・・もうこれ以上、誰かをひどい目に合わせちゃいけないよね・・・)

 舞華の心から次第に迷いが薄らいでいく。同時に彼女は体の中から力が湧き上がっていくような感覚を覚える。

(まだ私に望みがあるなら、力があるなら・・・)

「私は戦う!最後まで戦ってやるんだから!」

 決意を言い放った舞華が、抱きついてきていたクレアを振り払う。舞華の頬には異様な紋様が浮かび上がっていた。

(秋菜ちゃん、ジョー、ありがとう・・・)

 感謝の言葉を胸に秘める舞華の姿が変貌する。刃を具現化するブレイドガルヴォルスの姿に。

「あ、あなたもガルヴォルスだったの・・・!?

 クレアが舞華の姿を見て驚愕を覚える。

「ジョーや秋菜ちゃん、みんなを守るために・・私は戦う!」

 言い放った舞華の右手が刃に変化する。失われていたガルヴォルスの力が完全に彼女に戻っていた。

 動揺を見せていたクレアだったが、すぐに妖しい笑みを浮かべた。

「あなたがガルヴォルスだったとは驚きだわ・・でもあなたがきれいでかわいいことに変わりはない。」

 クレアが両手を広げると、彼女の体がわずかに宙に浮く。

「あなたは必ず解放させてあげる。あなたの心と体を縛り付けているガルヴォルスの力から。」

 言いかけるとクレアは舞華に向かって飛び込んでくる。舞華は身を翻して刃を振りかざすが、クレアはこれを軽やかにかわす。

 クレアは舞華から距離を取り、部屋の扉に向かっていく。

「私が解放させたオブジェたちを傷つけるわけにはいかないからね。場所を変えさせてもらうわ。」

 クレアは舞華に告げると、ドアを開けて廊下に飛び出す。追いかけようとした舞華だが、ふと足を止めて踏みとどまる。

(もしかして、私を誘い込もうとしてる・・・?)

 一抹の不安を覚え、舞華は思考を巡らせる。だが彼女は迷いを振り切ろうとして、再び廊下に眼をやる。

「えーいっ!迷ってたってしょうがないよ!こうしてじっとしてたって、秋菜ちゃんやみんなが元に戻るわけじゃないし!」

 自分に言い聞かせて、舞華はゆっくりと部屋を出て廊下を進む。彼女の眼前に、悠然としているクレアの姿があった。

「どういうつもりなの・・この長い廊下ならうまく後ろを狙うことだってできたのに・・?」

「私は卑怯なことはしたくないの。逃がさないようにしてから、堂々と狙った相手を捕まえる。それが私のやり方よ。」

 疑問を投げかける舞華に、クレアが淡々と答える。その敬意を目の当たりにして、舞華は思わず笑みをこぼした。

「案外優しいんだね。だけど私はあなたと戦う。あなたを何とかして、秋菜ちゃんやみんなを助ける!」

「それは許されないことよ。あなたにみんなの解放感を邪魔させるわけにはいかないわ。」

 意気込む舞華にゆっくりと近づいていくクレア。舞華は彼女の身辺に注意を払いながら、刃を構える。

「その刃物は、私の髪を切れるのかしら?」

 クレアは言いかけると、舞華に向けて髪を伸ばす。舞華はステップを行って、髪による包囲網をかわしていく。

「2回も捕まってたまるもんですか!」

 舞華は余裕を見せながら、飛び交う髪の間をすり抜けていく。そして一気にクレアの懐に飛び込もうとする。

 だが舞華はすぐさま刃を振るわず、横に飛びのく。その直後、クレアの眼から石化の閃光が放たれる。このまま飛び込んでいれば、舞華はクレアの席かを受けていただろう。

「ふぅ。危ない、危ない。もう少しで裸の石像にされちゃうとこだったよ・・」

「ウフフフ。このまま私の力を受けて解放されたほうがいいのに・・」

 安堵の吐息をつく舞華。妖しく微笑むクレア。

「今度は外さない。かならずあなたを縛るものからあなたを解き放つ。」

 クレアは自分の欲望を口にすると、再び体を宙に浮かべる。そして風に流れるような動きを見せて、舞華を惑わす。

 舞華の眼には、クレアの姿が何人にも見えていた。だが舞華はすぐに気を落ち着ける。

(何人もいるように見えるけど、本物は1人・・・)

 舞華は乱れ飛ぶ影の中から、本物のクレアの気配を探る。そして舞華はそのたったひとつの気配を掴み取る。

 舞華は刃を振りかざし、クレアに一閃を繰り出す。刃はクレアの頬をかすめる。

 顔を傷つけられたクレアから笑みが消える。2人はそれぞれ距離を取り、互いを見据える。

「私に傷を付けたのはあなたが2人目よ。あなたと、あなたのお友達・・」

 低い声音で言いかけるクレアの言葉に、舞華は秋菜の姿を思い返していた。石化された彼女に、舞華は再び歯がゆさを感じていた。

「ここまできたらそれは特別に些細なことにしてあげる。本当だったらここに連れてこずにオブジェにしていたところよ。あのお嬢さんも私の顔に傷を付けたから、私のコレクションに加われず、街の中に置いてきたのよ。」

「それ以上言わないで・・!」

 淡々と語りかけるクレアに舞華が眼つきを鋭くする。

「私は怒ってるのよ・・あなたの勝手な考えを、他の人に押し付けないで!」

「これはあなたたちのきれいさ、かわいさ、美しさのためって言ってるでしょう?」

 激昂する舞華を前にしても、クレアは悠然さを崩さない。

「みんなを元に戻して、今すぐに。さもないと私はあなたを倒す・・・!」

 舞華はクレアに忠告を促し、ゆっくりとクレアに近づく。だがクレアは舞華の言葉を聞き入れようとしない。

 舞華は右手の刃を振りかざすと、クレアの前から姿を消す。正確には素早く動き、クレアの視界から消えたのである。

 そしてクレアが気が付いたときには、舞華は彼女の懐に飛び込み、刃を振りかざしていた。刃はクレアの右のわき腹を切り裂き、鮮血をまき散らした。

「うっ!」

 一気に押し寄せてきた激痛にあえぐクレア。痛みに耐えられなくなり、彼女はその場にひざを着く。

 クレアから完全に余裕が消えていた。彼女は舞華の力を前にして、死の直面すら感じていた。

「みんなを元に戻してくれれば命は奪わない。それが何で分かんないの!?

 舞華が悲痛さをあらわにして言い放ち、刃の切っ先をクレアに突きつける。

「これが最後だよ。元に戻す以外の行動をしたら、今度こそ・・・!」

 舞華が最後の警告を口にした瞬間だった。

 

     カッ

 

 クレアの眼から閃光が放たれ、舞華を包み込んだ。

 

    ドクンッ

 

 舞華は強い胸の高鳴りを覚えて、後ずさりする。同時に彼女の姿が人間へと戻る。

「ウフフフフ。そうやってためらうからよ。これであなたは私のもの。形勢逆転ってところかしら。」

 傷ついた体を必死の思いで起こして、クレアが舞華に妖しい笑みを見せる。危機感を覚えた舞華は、すぐにクレアにとどめを刺そうと足を前に出そうとする。

  ピキッ ピキキッ

 そのとき、舞華の靴と靴下が弾け飛び、彼女の素足が白く固まり、ところどころにひび割れた。

「あ、足が石に・・・!」

「ウフフフ。やっぱりいい体をしていたわね。服で隠しているなんてもったいない。」

 頬を赤らめて動揺する舞華の石の足を見つめて、クレアが笑みを強める。

「何とかしないと・・このままじゃ私も、丸裸の石像になっちゃう・・・!」

 必死に抗おうとする舞華だが、石化した足は彼女の意思に反して前に進まない。

「もう抵抗に意味はないわ。あなたは私に抱かれて、最高の解放感に身を委ねるのよ。」

 クレアは言いかけて、動揺している舞華を背後から抱きしめた。その抱擁に舞華はさらに動揺を強める。

「今度は逃がさない。あなたの解放される瞬間、私も確かめさせてもらうわ。」

 クレアはそういうと、舞華を抱く腕に力を込める。その強まる抱擁に、舞華は顔を歪めていた。

「この感触を確かめた後、石化したあなたの素肌をしっかりと確かめてあげる。あなたはあなたの心を締め付ける枷から解き放たれるのよ。」

  ピキッ ピキッ ピキッ

 クレアが言いかけた直後、舞華にかけられた石化が進行する。はいていたスカートが引き裂かれ、舞華は下腹部をさらけ出される。そして石化の余波によって、クレアが着ていたドレスも半壊していた。

 だがクレアにとっては問題ではなかった。身に着けているものを脱ぎ捨てて全てをさらけ出すことが、クレアの最高の喜びだった。

 

 秋菜から話を聞いたジョーは、クレアの邸宅へとたどり着いた。彼はあえて呼び鈴を鳴らすことはせず、さらに正門や裏口ではなく、壁を登って進入していた。

 クレアや彼女側に属している人間が屋敷の中にいるはず。ジョーは警戒心を強めて、屋敷の中に忍び込んだ。

 だが忍び込んだ直後、ジョーは奇妙な感覚を覚えていた。

(おかしい・・誰かいるはずなのに、誰かいる気配が全然しない・・・)

 屋敷内の異変に気づき、ジョーはさらに警戒心を強める。少なくとも警備員はいるはずなのに、その警備の気配もない。

 様々な疑問を胸に秘めて、ジョーは並ぶ部屋を確かめる。大金持ちの女性らしい部屋が並んでいたが、そのことに興味を示さないジョーは、呆れながらすぐに舞華の捜索を続ける。

 そしていくつか部屋を見て回った後、次の部屋のドアを開けた。その部屋の中を覗き込んだとき、ジョーは眼を疑った。

 部屋の中には裸の女性の石像が立ち並んでいた。クレアが連れさらい、石化させた女性たちである。

 裸身をさらけ出している石像たちを目の当たりにして、ジョーは狂気にさいなまれる。錯乱しそうになるところを彼は必死にこの衝動を抑え込もうとする。

 息を荒げながら、ジョーは部屋を出る。そして迷うように廊下を進んでいくと、彼は新たに信じられない光景を目の当たりにする。

 それはクレアに背後から抱きしめられている舞華の姿だった。舞華の下半身があらわになり、白く冷たい石に変わっていた。

 

 

次回予告

 

「オレに、そんな姿を見せるな・・・!」

「ジョーがいなかったら、私は・・・」

「舞華、オレは・・・!」

「私、今回も舞華に助けられたってことかな・・・」

「お互いに隠し事はなしにしよう。そのほうがお互いのためになる・・・」

 

次回・「ジョーと舞華」

 

 

作品集

 

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