ガルヴォルスDesire 第15話「秋菜に迫る侵食」
影に追われていた舞華の前に駆けつけた秋菜。力の戻らない舞華を助けるため、秋菜は影の前に立ちはだかった。
「舞華、大丈夫!?」
「秋菜ちゃん・・・」
秋菜の呼びかけに舞華が呆然となる。彼女の安否を確かめて、秋菜は一瞬安堵を浮かべた。
「あらあら。またかわいいお嬢さんがやってきたわね。しかも元気があってよさそうね。」
影が秋菜に眼を向けて妖しく微笑む。その態度を見て、秋菜がいきり立つ。
「アンタ、今起きてる事件の犯人みたいね。おかしな力使ってるみたいだから、もしかしてガルヴォルス?」
秋菜が問いかけると、影はさらに微笑む。そして暗闇に包み込んでいたその正体、クレアの姿を明らかにした。
「撫子、クレアさん・・・!?」
その正体がクレアだったことに、秋菜と舞華が驚愕する。
「驚いた?でもそんなに驚くこともないわ。これからあなたたちは、私のものになるんだから。」
「何を言ってるの・・私も舞華も、誰かのものになんてならないわよ。」
妖しく微笑むクレアに、秋菜がたまらず反論する。
「ガルヴォルスのことを知ってるみたいだけど・・普通の人間じゃ、私には太刀打ちできないわよ。」
「確かにね・・だけどそれでも、私は逃げるわけにはいかないのよ・・!」
悠然さを見せるクレアに、秋菜が決意を言い放つ。その態度にクレアが哄笑をもらす。
「どちらにしてもあなたたちはもう逃げられない。私の結界の中にいるあなたたちは、私の手の中で走っているみたいに、この結界から抜け出すことはできない。」
「なるほど。退路はないってわけね・・だったらアンタに無理矢理にでもその結界ってのを消してもらう!」
「ウフフ、勇ましいお嬢さんね。でも残念。あなたもその子もすぐに捕まえてあげるから。」
身構える秋菜に対して、クレアが手を口元に当てて笑みをこぼす。
「ダメだよ、秋菜ちゃん!もしガルヴォルスだったら、秋菜ちゃんに敵う相手じゃ・・!」
「そんなことは分かってるわよ!」
呼び止めようとする舞華に、秋菜が言いとがめる。
「それでも、力を使えなくなってるアンタを助けたいから・・アンタだって、たとえガルヴォルスみたいな力がなくても、誰かのために体張ったでしょ?」
「秋菜ちゃん・・・」
「舞華はすぐにここを離れて。もうすぐジョーがこっちにやってくるはずだから。」
「ジョーが・・!?」
秋菜の言葉に舞華が驚きを見せる。
(ジョーもここに来るっていうの・・ジョーが・・・)
舞華は再びひどい困惑にさいなまれた。ジョーを危険に巻き込みたくない自分の気持ちと、自分を助けようとしているジョーの気持ちが、彼女の心の中で錯綜していた。
「アンタに見せてあげる・・人間の悪あがきっていうのをね!」
秋菜が不敵な笑みを浮かべて、クレアに向かって飛びかかった。
秋菜に励まされて、舞華ともう1度話し合う決心をしたジョー。薄暗い通り道を駆け抜け、ジョーは舞華を追っていった。
(オレは自分の中の物騒な感情に怯えていた。だからそれで誰かを傷つけないよう、嫌われるような態度を取ってきた・・けど何でなんだろう。舞華も秋菜も、そんなオレを心配してくれてる。自分自身のことで手一杯になってるはずなのに・・・舞華、待ってろ・・すぐに行ってやるから・・!)
ジョーは舞華への想いを募らせて、さらに足を速めた。
舞華を守るため、果敢にもクレアに挑みかかる秋菜。優れた運動神経を駆使して迫る秋菜だが、クレアは身を翻して軽々とかわしてしまう。
「えっ!?う、うわっ!」
体勢を崩した秋菜が危うく前のめりに転びそうになる。だが一歩を強く踏み込んで踏みとどまり、振り返って再びクレアを見据える。
「どうしたの?もうおしまいかしら?」
クレアが妖しく微笑んで秋菜に手招きをする。その態度に秋菜が歯がゆさを見せる。
「その余裕、すぐに消してやるから・・!」
秋菜は負けじと再び飛び出していく。だが秋菜のあらゆる猛攻はクレアによってことごとくかわされていた。
そのさなかに、秋菜は呆然としている舞華に眼を向けて、小さく頷く。
(舞華、私がこんなに頑張れるのは、舞華のおかげなんだよ・・)
秋菜は舞華に対する気持ちを思い返していた。
(舞華に会うまでは、私は自分の気持ちに正直になれなかった。ジョーのことを気にかけていたのに、その気持ちを打ち明けないままだった。でも、舞華の明るく元気な姿を見て、私は勇気が持てるようになった。だから私はこうして、どんな困難にも立ち向かえる・・そして今度は、私が舞華を助ける。たとえ私がどうなったとしても・・・!)
舞華との出会いと絆を大切にして、秋菜はクレアに向かっていく。
(秋菜ちゃん・・・)
秋菜の気持ちを目の当たりにした舞華。舞華は覚悟を決めて、ジョーと合流すべくこの場から離れようとする。
そのとき、舞華の足を何かが巻きついた。彼女は足を引っ張られて体勢を崩される。
「キャッ!」
悲鳴を上げる舞華の手足がさらに縛り付けられる。それはクレアが伸ばしていた髪だった。
「舞華!」
捕まった舞華を眼にして、秋菜がたまらず彼女に駆け寄る。そこへクレアが回り込み、秋菜さえも捕まえてしまう。
「ウフフフフ。やっと捕まえたわ。」
抱きしめるように捕まえられた秋菜の焦りの表情を見つめて、クレアが笑みをこぼす。その背後で舞華を釣り上げ、磔のように見せ付ける。
「だから言ったでしょう?あなたたちは私から逃げられないと。たとえここから逃げ出せても、私の結界までは抜け出せない。」
「もう、放して!放してよ!」
淡々と語りかけるクレアの腕を必死に振り払おうとする秋菜。しかしクレアの力は強く、抜け出すことができない。
「そんなに怒らないで。これから私がかわいがってあげるから。」
「・・そういえばアンタ、自分の体をきれいにすることに力入れてるそうよね?」
あやすように言いかけるクレアに、秋菜が不敵な笑みを浮かべる。その直後、秋菜が頭を突き出し、頭突きを見舞った。
秋菜の抵抗の一撃を受けて、クレアが数歩後退する。一矢報いたことに、秋菜が笑みをこぼす。
「どう?私だってやるときにはやるのよ。」
言い放つ秋菜を抱えたまま、クレアは左手で自分の額に触れる。その手のひらを見てみると、かすかに血が付着していた。
自分の体に傷が付いたことを不快に感じ、クレアは笑みを消す。
「私に傷を付けるものは許さない・・たとえ最高の輝きを持つ宝石でも、手に取った私を傷つけたら、それには何の価値もない。」
カッ
冷淡に告げるクレアの眼がまばゆいばかりに輝いた。
ドクンッ
その光を受けた秋菜は、強い胸の高鳴りを覚えて眼を見開いた。
(な、何・・胸がものすごく押し付けられるような感じだった・・・)
その衝動に動揺する秋菜。クレアはそんな彼女を解放し、数歩下がる。
「あなたの勇気は褒めてあげる。でもそれもこれでおしまいよ。」
「ど、どういう・・・!?」
ピキッ ピキッ ピキッ
クレアの言葉に反論しようとしたとき、秋菜の着ていた上着が突然引き裂かれた。そして彼女の左胸から左手にかけて白く固まり、ところどころにヒビが入っていた。
「ちょっと・・どうなってるの、コレ・・!?」
ピキキッ パキッ
驚愕を覚える秋菜に追い討ちをかけるように、彼女のはいているジーンズをも引き裂いた。下腹部さえも石化し、彼女は裸身のほとんどをあらわにしていた。
「体が石に・・秋菜ちゃんに何をしたの!?」
変質していく秋菜の姿を目の当たりにして、舞華がクレアに問いかける。するとクレアは妖しい笑みを浮かべて答える。
「これが私のガルヴォルスとしての力。私の光る眼を見た人は体が石になるの。それもただ石になるだけじゃなく、身に着けているものを全部壊して裸のオブジェにするのよ。」
淡々と説明するクレアに、舞華はさらなる驚愕を覚える。裸にされていくのに体が石化して自由に動かせないために動揺を見せている秋菜に、クレアがゆっくりと近づいた。
「そんなに恥ずかしがることはないわ。あなたは私に抱かれて、だんだんと心地よくなっていくのよ。」
クレアは妖しく語りかけると、秋菜を優しく抱きしめる。その抱擁に秋菜は赤面する。
クレアは秋菜の石化していない右胸に手を当てて、優しく撫で回す。その接触に秋菜は奇妙な感覚を覚えていた。
「ちょっと何やってんのよ!・・動けない私を弄ぼうとでもいうの・・!?」
「弄ぶ?ウフフフフ・・それは違うわ。気持ちいい状態のままでオブジェになってほしいという配慮よ。」
押し寄せる感覚に顔を歪める秋菜に、クレアが妖しく語りかける。そしてクレアはさらに秋菜の胸を撫で回していく。
「そこのお嬢さん、あなたも後でこういう風に気持ちよくさせてあげるから。」
クレアは縛り付けられている舞華に呼びかける。秋菜の危機に舞華は全身に力を込めているが、クレアの髪から抜け出ることができない。
「ムダよ。私の髪は私の力で、ワイヤー並みの強度になってるわ。ガルヴォルスでもない限り、絶対に抜け出せない。」
クレアは舞華に言いかけて、今度は秋菜の石化した秘所に手を伸ばす。今までにない感覚が秋菜の心身を駆け巡る。
「やっぱりきれいになるためには解放されるのが1番効果的なのよ。何もかもからね。」
「も、もしかして、アンタがさらった女性みんな・・!?」
「そうよ。今のあなたのようにオブジェに変えたわ。この石化は私の考えに最も合ってる。体だけ石にして、着ているものを全部引き剥がして、丸裸のオブジェにする。それはその人にこれ以上ないくらいの解放感をあたえることと同じなの。」
必死に声を振り絞る秋菜に、クレアが笑みを強めて答える。
「冗談じゃない・・こんなんじゃ私はいい気分にならないわよ・・自分の考えを人に押し付けないで!」
「ウフフフフ。そう怖い顔しないで。そうやって気を張り詰めるから、嫌なものをいつまでも抱え込むことになるの。そんなことがないように、私は美女たちに永遠の美と解放を与えてるのよ。」
反発の意思を見せる秋菜の体を撫で上げるクレア。押し寄せる刺激に耐え切れなくなり、秋菜がついにあえぎ声をもらす。
「そう。そういう風に解放を感じるのが1番なの・・」
クレアは息を荒げている秋菜の顔を見つめると、彼女の唇に自分の唇を重ねた。突然の口付けに、秋菜は意識が吹き飛びそうな感覚にさいなまれた。
舞華はいても立ってもいられなくなり、何とかガルヴォルスになろうと試みる。しかし頬に紋様が浮かぶだけで、変身までには至らない。
(どうして!?・・秋菜ちゃんがあんな目にあわされてるっていうのに・・全然、ガルヴォルスになれない・・・!)
自分の無力さを痛感して、眼から涙をこぼす。秋菜から唇を離して、クレアが再び彼女を見つめる。冷静さを保てなくなり、息を荒げている秋菜に、クレアは歓喜の笑みをこぼしていた。
「これであなたは私の虜。この解放感を永遠に堪能することになるのよ。」
「何、バカなこと言ってんのよ・・私は舞華を助けたいと思ったから、敵わないと分かってて、アンタに向かっていった・・それがこんな姿にされて、舞華を助けることも・・・」
淡々と告げるクレアに、秋菜は反論する。秋菜の心はまだ快楽に犯されてはいなかった。
「だから私がくじけたら、舞華までダメになっちゃう・・・だから、私はアンタに絶対屈しない・・!」
石化していく体をさらけ出すことになっているにも関わらず、自分の気持ちを言い放つ秋菜。その態度に舞華は戸惑いを隠せなくなる。
「やっぱり勇ましいお嬢さんね。こんなに自分の気持ちを曲げなかったのはあなたが初めて・・・でも残念。あなたはここでずっと留まってるのよ。」
クレアの言葉に秋菜と舞華が当惑を覚える。
「あなたは私の顔に傷をつけた。そんなあなたを、私のコレクションに加えるわけにはいかない。あなたはこの子と一緒に私がいなくなった後も、ずっとここに立っていることになるのよ。きれいなオブジェとしてね。でも今のあなたなら大丈夫。あなたは私によって、最高の解放感を味わってるんだもの。」
妖しく微笑むクレアが、縛り付けられている舞華に近寄る。
「さて、あなたは行きましょうか。あなたもあのお嬢さんのように、気持ちよくオブジェにしてあげるから。」
クレアは身動きの取れない舞華の頬に優しく手を添える。その接触に舞華が歯がゆさを見せる。
「私の力を受けた人は、もう私の思い通り。石化の進行、石化が始まる場所、全部私の考えひとつ。」
ピキッ ピキキッ
秋菜を蝕んでいた石化が進行を再開した。まず両足を石に変え、彼女がはいていた靴下を引き裂き、靴を壊す。
「舞華・・アンタもジョーも、すぐに諦めてしまう人じゃない・・私はそう信じてる・・・」
呼びかける秋菜の声に、舞華が戸惑いを見せる。
「舞華、自分を信じて!自分の気持ちと向かい合って!自分が今何を考えて、誰を想っているのか!」
「秋菜ちゃん・・・!」
秋菜に励まされて、舞華が眼を見開く。
ピキッ パキッ パキッ
そんな秋菜の右胸から右手の指先まで石化が及び、微動だにしなくなる。それでも秋菜は舞華への呼びかけを続けようとする。
「私もジョーのことが好き・・でも舞華もジョーが好きだとしても、私は何も不満に思わない・・舞華がライバルなら、望むところよ・・・」
秋菜が言いかけて舞華に笑みを見せる。石化の侵食によって、語気が次第に弱々しくなっていた。
パキッ ピキッ
やがて石化は秋菜の首元に及んできていた。ショートヘアの先端も白い石へと変わり始めていた。
「舞華・・ありがとう・・・舞華がいたから・・私は・・・」
ピキッ パキッ
舞華に感謝の言葉をかけた秋菜の唇も白く固まり、彼女の視界が次第にぼやけていく。その眼には一粒の涙が浮かび上がっていた。それは舞華のために戦えたことへの喜びと、舞華を守れなかった自分の無力さが込められていた。
フッ
その涙が眼からあふれた瞬間、秋菜の瞳にもヒビが入った。
「秋菜ちゃん・・・秋菜ちゃん!」
完全に石化に包まれた秋菜を眼にして、舞華はたまらず叫ぶ。その彼女を背後から抱きしめて、クレアは彼女を連れてこの場から姿を消した。
この場に取り残されたのは、クレアの力で石化され、一糸まとわぬ姿で立ち尽くしている秋菜だけだった。結界が解かれ、秋菜は夜の街に放置された。
クレアの瞬間移動の影響を受けて、意識を失っていた舞華。彼女が眼を覚ましたのは、暗闇に包まれた部屋の中だった。
「ここは・・・?」
舞華はもうろうとしている意識を覚醒させようとしながら立ち上がり、周囲をうかがう。
「ウフフフ。やっと眼が覚めたようね。」
そこへクレアの声がかかり、舞華が声のしたほうへと振り返る。そのとき、暗闇に包まれていた部屋に明かりが灯り、舞華はそのまぶしさで一瞬眼がくらむ。
閉ざしていた眼をゆっくりと開けた途端、舞華は眼を疑った。部屋の中には、裸の女性の石像が立ち並んでいた。
「これって・・・!?」
「ここは私の屋敷の中にあるコレクションルームよ。私があなたをここに連れてきて1時間というところね。」
驚愕を見せる舞華に答えて、石の女性たちの間をかき分けて、クレアが姿を現した。クレアは次々と女性たちをさらい、ゴルゴンガルヴォルスの力を使って裸の石像に変えていたのである。
「さて、次はあなたがこの中に加わる番よ。」
次回予告
「秋菜・・いったい・・・!?」
「オレは・・オレは・・・!」
「いつかみんながこのようにいい気分になれるように、私はこの力を使ってるのよ。」
「ジョーや秋菜ちゃん、みんなを守るために・・私は戦う!」