ガルヴォルスDesire 第14話「失われた力と心」

 

 

「ガルヴォルスに、なれなくなった・・・!?

 舞華の告げた真実に秋菜は驚愕した。舞華はガルヴォルスへの変身ができなくなってしまっていたのだ。

「どうして・・そんなこと1度もなかったじゃない・・」

「私にも分かんないよ・・なんで、こんなことになっちゃったのか・・・」

 秋菜の問いかけに舞華は答えを出せなかった。舞華自身、この理由が分からないでいた。

「私、これからどうしたらいいんだろう・・・」

 ガルヴォルスになれずに落ち込む舞華に、秋菜が何とか励まそうと話題を変えようとする。

「あ、そうだ。ジョーがアンタともう1度話し合いたいってさ。」

「ジョーが・・・?」

 秋菜が切り出した言葉に舞華が当惑を見せる。しかし舞華はジョーと関わることを拒絶していた。それがガルヴォルスへの変身の拒絶に起因していることにも気づかないまま。

「ゴメン、秋菜ちゃん・・私、ジョーにはもう会えない・・」

「舞華・・ちょっと、何言ってるのよ!?

 舞華の言葉に秋菜がたまらず反論する。

「ジョーは、アンタが人間じゃなくても、アンタを受け入れようとしている!そんなアイツの気持ちを、アンタは切り捨てるの!?

「そうじゃない!でも、このままジョーと関わったら、デスピアや他のガルヴォルスに襲われる危険が出てくる!私はそれがイヤなんだよ・・!」

「舞華・・・」

 ジョーを心配する舞華に、秋菜が戸惑いを覚える。舞華はジョーを守るため、あえて彼との接触を避けていたのだ。

 物悲しい笑みを秋菜に見せた後、舞華は彼女から離れていった。

(ジョー・・サヨナラ・・・)

 ジョーへの決別を胸に秘めて、舞華はミナヅキに戻っていった。秋菜も彼女の気持ちに困惑を覚え、呼び止めることができなかった。

 

 薄暗い裏通りを駆け抜ける1人の少女。バイト帰りの女子高生である。

 少女はひたすら通りを駆け抜けていた。背後から迫ってくる影から彼女は必死に逃げていた。

 近くの十字路に差し掛かったところで彼女は足を止め、背後に振り返る。彼女が見つめる先だけでなく、周囲にも誰かがいる様子はない。

 少女は影が追ってきてないと思い、安堵の吐息をつく。

 だが、彼女を狙う影はまだ消えていなかった。突如少女に重苦しい空気が押し寄せる。不安を覚えた彼女が振り返ると、その先に不気味な影があった。

「ついに追いついたわ、きれいなお嬢さん・・」

 影が妖しく微笑んだ瞬間、少女は悲鳴を上げた。そして少女の行方は分からなくなった。

 

 毎晩起こる美女失踪事件。その話は英野町全体に広まっていた。

 事件はいつも日が落ちた夜の、人気のない場所で発生している。何かの不可思議な現象なのか、それとも何者かの誘拐なのか、それさえはっきりしていない。警察は誘拐事件として操作を行っているが、依然として事件の消息も少女の行方も分かっていなかった。

 現段階の安全策として、警官が張り込みをする以外になかった。

「ねぇ、最近多くなってきてないかな・・」

「私、さらわれちゃうかも〜・・」

「バカね。アンタみたいなぶりっ子をさらうヤツの顔が見てみたいわよ。」

 ミナヅキにて、バイトの女子たちがその噂話をして、いろいろな様子を見せていた。

「すっかり噂になっちゃってるね、事件の話。」

 秋菜も舞華に向けて話を振るが、舞華は沈痛の面持ちを浮かべたままだった。

(ジョーも来てないみたいだし、こりゃ本気でまずいことになってきたかも・・)

 秋菜も舞華の様子を見て、思わずため息をつく。ジョーはこの日、突然ミナヅキに休みの連絡を入れてきており、店には来ていない。

「コラコラ、君たち仕事中だぞ。早くお客の応対をしてくるんだ。」

 そこへ冬矢がやってきて、女子たちに呼びかける。女子たちは促されて、そそくさに仕事に戻っていった

「と、冬矢さん・・ジョーは、どうして・・・?」

 舞華が唐突に冬矢に問いかけてきた。すると冬矢は深刻さを込めて答える。

「分からない・・病気でも事情でもないようだった・・ただ、何だか元気がないようだった・・」

 冬矢の返答に舞華はさらなる困惑を募らせた。

“皆様、大変長らくお待たせいたしました!世界的に有名なヌードモデル、撫子(なでしこ)クレアです!”

 そのとき、TVからアナウンサーの声が聞こえ、秋菜が眼を向ける。すると画面には1人の女性が映し出されていた。さらりとした長い金髪、大人びた長身と雰囲気。まさに美女そのものだった。

「秋菜ちゃん、撫子クレアさんって?」

「舞華、知らないの?撫子クレアは日米ハーフのモデル。美意識の強い人で、きれいな体を作ることに力を入れているの。そのきれいさにファンが多く、世界中で注目されているのよ。」

「でもヌードモデルなんでしょ?・・裸を見せるってことだよね・・・?」

 舞華が赤面しながら秋菜に問いかける。すると秋菜は苦笑を浮かべる。

「確かにね。ヌード写真出してこれだけファンが多いというのは珍しいよね。っていうか例外。」

 秋菜の説明を受けながら、舞華はTV画面に映されているクレアに眼を向けていた。

 

 クレアが所有している大豪邸。そこから姿を見せたクレアに、記者たちが詰め寄ってきた。

「クレアさん、撮影旅行、お疲れ様でした!」

「アハハハ、旅行だなんて、そんな優雅なものじゃないですよ。」

 記者の言葉にクレアが苦笑いを浮かべる。

「クレアさん、美貌あふれたモデルとして世界的に注目されていますが、その美貌を保つ秘訣は何ですか?」

 別の記者からの質問に、クレアが少し考えてから答える。

「まぁ、いろいろやってるけど、1番の秘訣はストレスを溜めないことですね。開放感を保ち続けると、体から悪いものが取れてよくなりますから。」

「なるほど。いつも何事においてもプラス方向なんですね、クレアさんは。」

「そうですね。私が言いたいのは、どんなことが起きても落ち込まず、前向きに、開放的になることが大事なことだと、私は思います。」

 笑顔を見せてクレアは答え、その後記者たちの質問に優しく答え、仕事のために現場へと向かっていった。

 

 バイトを休んでいたジョーは、ベットの中で震えていた。彼は幼い頃の忌まわしい出来事を思い返していた。

 ジョーの実母は彼が生まれてすぐに亡くなった。幼い彼に母親が必要だと思った彼の父親は再婚を決めた。

 だがその母親は夜毎にジョーにわいせつな行為を迫ってきていた。母親としての権限に押し込まれ、彼は抗うことができず、父親もその母親に頭が上がらず、救いの手を差し伸べてくれなかった。

 やがて母親に対する苛立ちが溜まり、ついにそれが爆発した。激怒と激情の赴くまま、ジョーは母親の首を絞めた。抵抗して両腕をつかんで引き離そうとする母親だが、ジョーはさらに怒りと力を強めた。

 結果、母親は死亡。殺人を犯したジョーだったが、少年法によって罪は軽減された。そして母親を失った父親は自暴自棄の状態に陥り、自殺を図った。

 家族を失ったジョーは一時期、親戚の家に預けられた後、一人暮らしをするためにこの英野町にやってきていた。だが母親からの切迫がトラウマとなり、女性の裸を見ると殺意を呼び起こしてしまうのである。

 舞華や秋菜に嫌われるような態度をしていたのも、その点から女性とあまり関わりたくないと思ったからである。そしてそのことを知っているのは親戚の一部と秋菜だけである。

 昨晩もその殺意と舞華への思いにさいなまれて、ジョーは部屋から出ることができないでいた。

「舞華・・オレは・・オレは・・・」

 苦悩にさいなまれながらも、ジョーはベットから出ることができないでいた。

 

 デスピア本部奥の牢獄。その1つに幸介は閉じ込められていた。

 ドラスとの戦いの後、幸介は力を使い果たし、そのまま意識を失った。そしてその彼をスティングが運び、この牢獄に入れたのだった。

 深い眠りの中にいた幸介が、ようやく眼を覚ました。同時に彼のいる牢獄に、スティングがやってきた。

「ようやく眼を覚ましたか、幸介。」

「・・スティング・・・」

 悠然と言いかけるスティングに、幸介が低く答える。

「実に不様、実に滑稽だな、幸介。貴様は自分の立場をわきまえずにオレたちに逆らい、あろうことかドラスを手にかけるとは。オレにとっては些細なことだが、デスピアにとっては手痛い事態だ。」

「それで、オレをどうするつもりだ?・・オレを処刑するなら、わざわざオレをこんなところに閉じ込めておく必要はないはずだ。」

 幸介が問いかけると、スティングが哄笑をもらす。

「そう焦るな。貴様はここで完全に人間を捨て去ってもらう。」

「何だと・・・!?

「しばらく頭を冷やせ。今の貴様がどういう存在であるのか、よく考えてみるのだな。」

 スティングが幸介に言い放つと、牢獄に背を向ける。

「それと、剣崎舞華は確実に葬り去る。これはデスピア全体の意思だ。」

「何っ!?・・やめろ・・舞華には手を出すな!」

 スティングの言葉に幸介がたまらず感情をむき出しにする。するとスティングが笑みを強めて、

「言ったはずだ、頭を冷やせと。ガルヴォルスが、いつまでも情などというくだらんものを抱え込んでいるのではない。」

「やめろ!彼女に手を出すなら、オレは地獄の底からでも、お前たちを殺しに来るぞ!」

「フハハハハ!やってみるがいい。やれるものならな。」

 怒号を放つ幸介をあざ笑いながら、スティングは牢獄を後にした。歯がゆさを覚え、幸介は地面を殴りつけた。

(オレは、このまま何もできないのか・・あのときみたいに・・・!)

 幸介の脳裏に、忌まわしい過去がよみがえってきた。それは家族内での出来事だった。

 彼には兄がいた。何事においても優秀で、まさに天才だった。それに比べ、幸介はあまり成績がいいとはいえなかった。

 父親は天才である兄を美化し、幸介を侮蔑した。兄と比べられ、虐げられる自分に、彼は無力感に襲われていた。

 何も悪いことをしていないのに。ただ天才の兄がいるだけなのに。父親からの理不尽な態度から、彼はそんな訴えを覚えつつあった。そして事件は起こった。

 激情に駆られた幸介はガルヴォルスとして覚醒。そこで押し殺してきた憎悪が爆発し、破壊本能の赴くままに父と兄を手にかけた。

 心身にのしかかる絶望感を押し込めて、幸介は家を出た。途方に暮れていた彼が眼にしたのが舞華だった。

 舞華なら自分の絶望に満ちた心を救えるかもしれない。天真爛漫でいつも明るい彼女なら。幸介は漆黒の闇の中から、一条の希望の光を見出したような気がした。

「舞華・・舞華・・・」

 舞華を欲し求め、幸介は目から涙をこぼしていた。

 

 街中でも包囲網が敷かれていたため、警官や刑事たちが警戒に回っていた。その中で舞華は事件解決を視野に入れて動き出していた。

 依然としてガルヴォルスへの変身はできないが、それでも何とかしたいと彼女は思っていた。それは彼女の中にある正義感と友情によるものだった。

(今日までで行方が分かんなくなった人は20人を超えてる・・かなり大きな事件と見て間違いなさそうね。)

 裏路地から街の様子を伺い、舞華が推理を立てる。

「ちょっと君。」

 そのとき、舞華は背後から声をかけられ、一気に緊張を覚える。恐る恐る振り返ると、1人の警官が声をかけてきていた。

「ここは警備区域だ。すぐに家に帰り、夜は外出を控えること。」

「は、はい。どうも。アハハハハ・・」

 警官に注意されて、舞華は照れ笑いを浮かべながらこの場を後にした。しばらく離れたところで立ち止まり、彼女は安堵の吐息をつく。

「ふぅ。危なかったよ〜。今度は見つからないように気をつけて・・」

「舞華?」

 気を取り直したところで再び声をかけられ、舞華は再び緊張する。振り返った先には、買い物帰りの秋菜がいた。

「秋菜ちゃん・・・脅かさないでよ・・」

「舞華・・アンタが勝手に驚いてるだけでしょ・・・それより、こんなところで何してるのよ?」

 大きく息を吐く舞華に、秋菜が半ば呆れながら問いかける。

「うん。ちょっと事件の調査にね。もしかしたら、ガルヴォルスやデスピアが関係してるんじゃないかと思って。」

「ちょっと舞華、またガルヴォルスになれるようになったの?」

 秋菜が戸惑いを見せながら問いかけると、舞華は首を横に振った。

「それじゃどうするのよ。もし相手がガルヴォルスだったら、とても太刀打ちできないじゃない。」

「分かってる。でもこのまま指をくわえて待ってるなんて、私にはできないよ。」

「・・もしかして、ジョーのため・・?」

 秋菜のこの言葉に舞華の表情が曇る。だがすぐに真剣な面持ちに戻り、舞華は答える。

「・・それと、秋菜ちゃんや幸介さん、みんなのためにも・・・」

「舞華、ジョーときちんと会ったほうがいいよ。こんなの舞華のためにも、ジョーのためにもならない。」

「そうかもしれない。だけどジョーを危険に巻き込みたくないから、今は会えない・・もし落ち着いたら、そのときには私のほうから会いに行くから・・」

 舞華はそういうと駆け出していった。秋菜は舞華をこれ以上呼び止めることができず、歯がゆさを噛み締めるしかなかった。

(こうなったら、ジョーに直談判するしかない。ジョーしかもう、舞華を止めることはできない!)

 秋菜は決意を胸に秘めて、学校の寮のジョーの部屋に急いだ。

 

 学校の寮のジョーの部屋に来た秋菜は、ひたすらインターホンを押した。するとジョーがため息混じりにドアを開けてきた。

「何だよ、そう何度も・・・秋菜・・?」

「ジョー、アンタ、舞華を助けたいって思ってる?」

 ぶっきらぼうな態度を見せるジョーに、秋菜が真剣な面持ちで問いかける。

「何だよ、いきなり・・・あぁ。思ってるさ。」

「だったら悩んでないですぐに追いかける!親切なジョーなら、そのくらいするはずだよ。」

 秋菜に呼びかけられるも、ジョーはためらいを覚えていた。

「秋菜も知ってるはずだよな・・オレが女に執着できないって・・・」

「確かにね。でもそれが何?舞華だってアンタと同じ爆弾を抱えてるのよ!いつまでも自分のトラウマに怯えてないで!男でしょ!」

 困惑を浮かべるジョーに激励を入れる秋菜。彼女の言葉にジョーは眼を見開く。

「とにかく私は舞華を追いかける。ジョーもすぐに追いかけること!いいわね!?

 秋菜は言いたいことを言い切ってから、部屋から飛び出していった。ジョーは自分の手のひらを見つめ、自身の気持ちを確かめた。

(そうだ・・オレは怯えてたかもしれねぇ・・オレだけじゃない。アイツもとんでもないもんを抱えてるっていうのに・・・)

 広げていた手を握り締めて、ジョーは迷いを振り切る。

(舞華、オレは迷わねぇ・・お前とオレとで、けじめをつけようじゃねぇか。)

 ジョーは舞華と和解するため、秋菜から遅れて寮を飛び出していった。

 

 日が落ちて時間帯は夜。暗闇が包み始めてきた街中に、舞華はいた。

 舞華は警官や刑事たちに見つからないようにしながら、事件の解決に奮起していた。

(秋菜ちゃん、みんな、私が守るから・・たとえガルヴォルスになれなくても・・デスピアや他の悪いガルヴォルスに、みんなを傷つけさせたりしない・・)

 その中で舞華は心密かに決意を呟いた。そのとき、彼女の脳裏にジョーの顔が浮かび上がった。

「ジョー・・・」

 ジョーに対する想いが再び込み上げ、舞華は戸惑いを覚えた。彼を想う気持ちが心の中で絡み合い、彼女に葛藤を植え付けていた。

 そのとき、舞華は奇妙な感覚を覚える。そして一気に人気がなくなった感覚にさいなまれ、緊張を覚える。

「これであなたは私から逃げられない。」

 そこへ声がかかり、舞華は振り返る。その先の通りから、1つの不気味な影が近づいてきていた。

「次の標的はあなたよ。」

 影は舞華に言いかけて、彼女に右手を向ける。危機感を覚えた舞華はきびすを返し、その場から駆け出した。

 走り抜けている合間にガルヴォルスへの変身を試みたが、まだガルヴォルスになれなかった。

(まだなれない・・いったいどうしちゃったんだろう・・・!?

 変身できないことへの疑問が晴れないまま、舞華はひたすら走り続ける。

「ウフフフ、ムダよ。」

 そのとき、影の声が響き渡り、舞華はたまらず足を止めた。彼女の眼前に先ほどの影が立ちはだかっていた。

「この周囲には結界を張ってあるの。どんなに逃げても、あなたは私の手の上で踊らされているのと一緒なの。」

 影が妖しく語りかけ、舞華は緊迫を浮かべたまま後ずさりする。

「さて、鬼ごっこはおしまい。私と一緒に来てもらうわよ。」

「ちょっと待ちなさい!」

 影が手を伸ばしてきた瞬間、別の声が割って入ってきた。そして舞華の前に現れたのは、彼女を追ってきた秋菜だった。

「秋菜ちゃん!」

「いつも舞華に助けられてきた。だから今度は、私が舞華を助ける・・・!」

 力の使えない舞華を守るため、秋菜が影の前に完全と立ちはだかった。

 

 

次回予告

 

「舞華、待ってろ・・すぐに行ってやるから・・!」

「ウフフ、勇ましいお嬢さんね。」

「私はアンタに絶対屈しない・・!」

「あなたは私に抱かれて、だんだんと心地よくなっていくのよ。」

「秋菜ちゃん!」

 

次回・「秋菜に迫る侵食」

 

 

作品

 

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