ガルヴォルスDesire 第13話「すれ違う二人」
スティングとの戦いのさなか、ジョーに正体を見られた舞華。動揺の色を隠せない2人に対して、スティングが再びエネルギーを収束して放とうとしていた。
(ダメ・・力が入らなくて、ガルヴォルスになることもできない・・・!)
反撃しようとする舞華だが、全身に力が入らず、立っているのもままならない。
そのとき、スティングが収束させていたエネルギーに異変が起こり、稲妻が霧散し始める。同時にスティングが激痛を覚えて顔を歪める。
「ぐっ!・・2発は放てるはずなのに・・まさか、この娘・・・!?」
スティングが舞華に眼を向けて驚愕を覚える。彼女がエネルギーを弾き返すために振りかざした刃は、エネルギーの粉砕だけでなく、スティングにも痛烈な衝撃を与えていたのだ。
しかしスティングの異変がどういうものなのか、舞華は分からなかった。
(よく分かんないけど、今のうちに・・!)
「ジョー、逃げよう!」
舞華はジョーに呼びかけて、スティングの様子を見計らいながらこの場から離れ出した。ジョーも動揺を抱えたまま、彼女を追っていった。
スティングがエネルギーの混乱から落ち着けた頃には、既に2人の姿はなかった。
「ぐっ・・オレとしたことが・・2人とも逃がしてしまうとは・・!」
スティングが自分の失態に苛立ちを覚える。
「しくじったな、スティング。」
そこへドラスが姿を現し、スティングをあざ笑いながら声をかける。
「これだけの破壊の跡を残して、あの娘を始末し損なうとは・・詰めの甘い貴様には荷が重かったか?」
「思い上がるな、ドラス。もう油断はせん。次こそは必ず。」
ドラスの言葉に、スティングが憤慨を覚えるだがドラスは悠然さを崩さない。
「貴様に次はない。なぜならオレが剣崎舞華を始末するからだ。」
ドラスは哄笑を上げながら、悠然と姿を消していった。苛立ちを噛み締めて、スティングも本部に戻っていった。
スティングから何とか逃げ延びることができた舞華とジョー。公園前で立ち止まったところで、舞華は沈痛の面持ちを浮かべた。
「ジョーに、とうとう見られちゃったね・・・」
言葉を切り出す舞華に、ジョーは再び動揺を見せる。
「私も忍さんと同じガルヴォルス。人間を超えた存在なの・・」
「舞華・・・」
自分の正体を打ち明ける舞華に、ジョーが愕然となる。
「私がガルヴォルスになったのは、ここにやってきて、ミナヅキにやってたときだった・・ガルヴォルスに襲われそうになって、そしたら私もガルヴォルスになっちゃって・・」
「そうだったのか・・お前も忍と同じように、いろいろ苦労したんだな・・・」
事情を説明する舞華に弁解しようとするジョーだが、動揺は拭いきれていなかった。
「隠していてゴメンね、ジョー・・こんな私じゃ、アンタは受け入れてくれないよね・・・」
舞華は涙ながらに微笑み、運命の残酷さを痛感した。そして彼女はたまらずこの場から駆け出した。
「舞華!」
ジョーは舞華を呼び止めようとするが、舞華は立ち止まることはなかった。
「ジョーに正体を見られた!?」
声を荒げる秋菜に、舞華がたまらず静かにするよう促す。気まずくなった秋菜がたまらず自分の口を両手で押さえた。
ミナヅキに戻った舞華は、秋菜にさきほどの事情を話した。スティングとの戦いの中で、ジョーに正体を見られたことも。
「それで、ジョーはどんな反応だった?」
「えっ・・ううん。私、いても立ってもいられなくなって、何も聞かずにここに戻ってきちゃった・・」
苦笑いを浮かべて答える舞華に、秋菜が呆れて額に手を当てる。
「もう、何やってるのよ。アイツなら多分、そんなことで舞華を嫌がったりしないから。忍のときだって、背を向けずに向かい合ってたじゃない。」
「でも、自分が当事者になっちゃうと、ホントにどうしたらいいのか分かんなくなっちゃって・・」
不満を込めて言いかける秋菜に対し、舞華は動揺を隠せないでいた。
「ジョーとは、もう会わないほうがいいかな・・・」
「舞華、ちょっと何言ってんのよ!?そんな敬遠してたって、全然ジョーのためにならない!」
後ろめたさを見せる舞華に、秋菜がたまらず言いかける。
「ジョーは舞華のことをそんな簡単に見放すような人じゃない!ガルヴォルスだからって、見放すような人じゃない!」
「秋菜ちゃん・・・」
必死に呼びかける秋菜に、舞華は戸惑いを覚える。舞華自身、ジョーを信じたいと思っていた。しかしこの現状から、自分の気持ちを素直に伝えることにためらいを感じていた。
「舞華には正直に言う。私はジョーが好き。」
「あ、秋菜ちゃん・・!?」
秋菜の言葉に驚き、舞華は思わず赤面する。
「ジョーはあんなヤツだけど、困ってるときには手を差し伸べてくれる。私はジョーのそんな優しさが好きになったの。」
自分の気持ちを告げる秋菜に、舞華は困惑する。
「舞華、アンタもジョーのことが好きになったんでしょ?」
「えっ!?私、そんな・・!」
「謙そんしないの。舞華がライバルだったら、私は望むところよ。でも、私は負けないからね。」
「ち、ち、ちょっと秋菜ちゃん、私、そんなつもりじゃ・・!」
舞華が必死に弁解するが、完全に秋菜に言いくるめられてしまった。しかしジョーに対する気持ちをはっきりさせられないでいた。
その翌日、秋菜とともに登校した舞華。教室でジョーと会うが、2人は声をかけることができず、沈黙するばかりだった。
授業の合間もそんな重苦しい雰囲気にさいなまれている舞華とジョーに、秋菜は事態の深刻さに頭を抱えていた。
そして校内で一切会話することなく、放課後となる。舞華はジョーに声をかけないまま、教室を後にした。
それを見かねた秋菜が、そんなジョーに声をかけてきた。
「見ててヘンな気分になってくるんだよね、今のアンタたちを見てると。」
秋菜のこの言葉にジョーがため息をつきながら振り向く。
「どう声をかけてやったらいいのか、分かんなくなっちまったんだ・・」
「ジョー・・」
ジョーの言葉に秋菜は深刻さを覚える。
「アイツが何だろうとオレには関係ない。けどアイツがどんな気分でいるかと思うと・・」
ジョーは舞華を想っていた。だがその想いゆえに、彼女に自分の気持ちをどう伝えればいいのか分からなかった。
落ち込んでいる彼を目の当たりにして、明菜は不満の面持ちを見せる。
「んもうっ!そういうのは男らしくないじゃない!もうちょっとシャキッとしなさいよ、ジョー!」
「秋菜・・」
「いつも前向きで自分にハッキリさせている。それがいつものジョーじゃないの。」
腰に手を当てて励ましてくる秋菜に、ジョーは葛藤が和らいだような感覚を覚えた。
「よく考えてみりゃ、そうかもしれねぇなぁ・・」
ジョーは頭をかきながら、窓から外を見つめる。
「とりあえずアイツと話をしてくる。秋菜、もし舞華に会ったら・・」
「分かってる。ジョーが探してるって伝えて、ジョーにも連絡入れるから。」
秋菜の言葉を受けて頷き、ジョーは教室を後にした。彼と同じく、秋菜も舞華を追いかけて教室を出た。
先に教室を後にして下校した舞華は、真っ直ぐミナヅキには向かわず、街外れの裏通りを歩いていた。彼女もジョーに対して、どう言葉をかけたらいいのか分からないでいた。
(これでいい・・これ以上ジョーと関わったら、私とデスピアとの戦いにジョーを巻き込むことになっちゃう・・)
ジョーの身を案じるあまり、舞華はジョーへの本当の気持ちを伝えられずにいた。彼女はジョーを想っていたことに気づき始めていた。
(いいんだよ、これで。ジョーや秋菜ちゃん、みんなを守るために、私はデスピアを何とかしなくちゃいけないんだから。)
迷いを振り切ろうと、舞華は自分の頬に両手を強く当てて、自身に活力を入れる。両手を握って意気込みを見せて、彼女は止めていた足を進める。
「何をそんなに意気込んでいるのだ?」
そのとき、舞華の背後から声がかかり、彼女は再び足を止める。振り返った先には、不敵な笑みを浮かべているドラスの姿があった。
「今度はオレが相手だ。今度こそ貴様の息の根を止めてくれる。」
いきり立ったドラスの姿がシャークガルヴォルスへと変わる。
「さぁ、貴様もガルヴォルスになるがいい。せめて最後の抵抗を見せたらどうだ?」
ドラスが舞華を手招きして挑発する。舞華は緊迫を覚えながらも、立ち向かおうといきり立つ。
「私はこんなところで負けられない・・私はみんなを守るため、あなたたちを倒す!」
舞華が全身に力を込めて、ブレイドガルヴォルスへ変身しようとする。
そのとき、浮かび上がっていた頬の紋様が突如消える。驚愕を覚える舞華が、自分の両手を見つめる。
「あれ・・どうなってるの・・・変身、できない・・・!?」
「どうした?早く変身したらどうだ?」
愕然となっている舞華に、ドラスが悠然と言い放つ。
「どういうことか分かんないけど、今は戦わなくちゃ・・・!」
舞華は再びブレイドガルヴォルスへの変身を試みる。だが紋様が浮かび上がるだけですぐに消えてしまい、変身ができない。
「どうして・・・こんなこと、全然なかったのに・・・!?」
舞華がこの現状に愕然となった。どんなに変身を願っても、ガルヴォルスになることができなくなっていた。
これは舞華の心理状態にあった。ジョーをガルヴォルスに関わる事件に巻き込みたくないという気持ちが、彼女の中のガルヴォルスの拒絶へとつながり、結果的に彼女をガルヴォルスに変身させることを阻んでいたのである。
しかし舞華自身、その原因に気づいていなかった。
「どういうわけか知らんが、どうやらガルヴォルスになれないようだな。」
舞華の異変に気づいたドラスが哄笑を上げる。その笑いに舞華はさらなる緊迫を覚える。
「それでは楽しめないな。このオレが直接手を下すまでもない。」
ドラスが嘆息をついた直後、どこからか光が飛び込んできた。舞華はとっさに跳躍してその光をかわす。
「人間のままでその身体能力は大したものだ。」
着地した舞華に向けて、1体の怪物が声をかけてきた。貝のような表皮をまとったシェルガルヴォルスである。
「だが所詮人間だ。オレたちデスピアの、ガルヴォルスの敵ではない。」
シェルガルヴォルスは手に持っていた丸い宝石を掲げると、その宝石からまばゆい光が放たれる。その光に舞華は捕まり、引き寄せられる。
そして光を放つ宝石の中に舞華は取り込まれた。シェルガルヴォルスの力の発動が終わり、宝石から光が消える。
「ガルヴォルスになれないのでは人間と同じ。大したことはないな。」
シェルガルヴォルスが淡々と呟きながら、宝石を覗き込む。中には眠っている舞華が閉じ込められていた。
「ドラス様、この女はオレがいただいていきますよ。」
「好きにしろ。スティングとブルースには言っておく。」
シェルガルヴォルスの言葉にドラスが悠然と答える。そのとき、一条の閃光が飛び込み、シェルガルヴォルスの体を貫いた。
(この光・・!?)
崩れ落ちていくシェルガルヴォルスを見つめながら、ドラスが眼を見開く。怪物が倒れた拍子で宝石が割れて、中から舞華が解放される。
「はやり貴様は、あのとき始末しておくべきだったか・・」
振り返ったドラスの前に、ビートルガルヴォルスとなっている幸介が立ちはだかった。
「言ったはずだ。舞華はオレのものだと。彼女を傷つけるものは、何であろうと容赦しない。」
憤慨を噛み締める幸介が斧を手にし、ドラスに向かって飛びかかる。
「小童の分際でいきがるな!」
ドラスもいきり立って、幸介を迎え撃つ。右腕から刃を突き出して、幸介に向かって駆け出す。
幸介が振り下ろしてきた斧を素早くかわして、ドラスは刃を振りかざす。刃は幸介の左腕に傷を付け、2人はすれ違う。
ドラスは振り返りざまに刃を振りかざし、かまいたちを放つ。かまいたちは幸介の右肩を切りつけ、その拍子で幸介が斧を手放してしまう。
「これで両腕を封じた。もはや貴様に勝機は残されてはいない。」
ドラスが勝ち誇り、哄笑を上げる。そこへ舞華を探しに走り回っていた秋菜がやってきた。
「幸介さん!」
叫ぶ秋菜に気づいて、幸介が背後に視線を向ける。
「秋菜さん、舞華さんを連れて、できるだけここから離れてもらいたい。」
「幸介さん・・!?」
幸介の申し出に秋菜が当惑する。
「今からやることに、舞華や君を巻き込むことになってしまう・・」
幸介の深刻さを込めた言葉に、秋菜は困惑しながらも頷く。意識を失っている舞華を抱え、急いでこの場を離れる。
「バカめ。このまま逃がすと思っているのか?」
ドラスが右手を構えて舞華と秋菜を追撃しようとする。そのとき、ドラスは周囲の異変に気づいて笑みを消す。
不審に感じるドラスが幸介に眼を向けると、幸介が全身に力を込めていた。その周囲の地面や草木が徐々に白く凍てつき始めていた。
(どういうつもりだ?・・冷気を放ってオレを凍てつかせるつもりか・・だがオレにそんな手は通用せんぞ。)
ドラスは覇気を放ちながら幸介の一手を見据える。そのとき、ドラスは幸介の角に光が集まっているのに気づく。
(違う!これは冷気による攻撃ではない!周囲から光を、熱を奪って収束させているのだ・・!)
ドラスは幸介の次の攻撃の正体に気づいた。幸介は周囲の熱エネルギーを頭部の角に収束させ、強力なエネルギーを生み出そうとしていた。そのため、熱を奪われた周囲は凍てつき出したのである。
幸介が舞華と秋菜に逃げるように促したのは、その凍結に彼女たちを巻き込まないようにするためだった。
「おのれ!このまま撃たせてたまるか!」
ドラスが攻撃を撃たせまいと、幸介に向かって飛びかかる。
「砕け散れ・・・!」
低く告げる幸介が、角に収束させていたエネルギーを解き放つ。閃光はドラスの反応速度よりも速く、回避する前にドラスを包み込んだ。
「バカな!こんな・・こんなことがぁぁぁ・・・!!!」
絶叫を上げるドラスが、まばゆい閃光の中で消滅する。その閃光も空高く跳ね上がり、虚空に消えていった。
デスピアでも脅威の戦闘能力を備えたガルヴォルスの1人、ドラスを倒した幸介。だがエネルギーの放出によって力を使い果たし、彼はその場でひざをつき、姿も人間へと戻った。
疲れ果てた幸介が息を荒げ、そしてそのまま前のめりに倒れて意識を失った。
そんな彼の前に、スティングが姿を現した。スティングは半壊した通りを見回して、不敵な笑みを浮かべる。
「滅びたか、ドラス・・幸介の力量は、貴様より私のほうが詳しい。」
消滅したドラスをあざけり、スティングは幸介を見下ろす。
「安心しろ。幸介の始末はオレがつける。」
意識を失っている幸介を見据えて、スティングは再び不敵な笑みを浮かべた。
幸介に助けられた秋菜は、舞華を連れて公園へと向かっていた。その途中、舞華が意識を取り戻し、気づいた秋菜が足を止める。
「舞華、眼が覚めたんだね・・」
安堵の笑みを浮かべる秋菜が舞華を下ろす。意識をはっきりとさせて、舞華が秋菜に視線を向ける。
「秋菜ちゃん・・私、どうなっちゃの・・・?」
「舞華、あのドラスって連中に襲われてたときに、幸介さんが助けてくれたの。それで幸介さんに言われて、アンタをここまで運んできたってわけ。」
「幸介さんが・・・」
秋菜の説明を聞いて、舞華は戸惑いを浮かべる。
「それで、幸介さんは・・?」
「戦ってるけど・・大丈夫よ。幸介さんもガルヴォルスなんだから。無事でいるはずよ。」
秋菜が励ましの言葉をかけるが、舞華は不安を拭えていなかった。そして、舞華の抱える問題はこれだけではなかった。
「秋菜ちゃん、実は、その・・・」
舞華が言葉を切り出すと、秋菜が疑問符を浮かべてきた。
「私、ガルヴォルスになれなくなっちゃった・・・」
「えっ・・・!?」
舞華が告げた言葉に、秋菜は驚愕を覚えた。
次回予告
「世界的に有名なヌードモデル、撫子(なでしこ)クレアです!」
「私、これからどうしたらいいんだろう・・・」
「しばらく頭を冷やせ。」
「次の標的はあなたよ。」
「ジョー・・サヨナラ・・・」