ガルヴォルスDesire 第12話「暴かれた本性」
ドラス、スティング、そして幸介の襲撃から何とか逃げ延びた舞華、秋菜、ジョー。駆けてきたほうに警戒を向けながら、3人は束の間の回復を取る。
「ふぅ・・何とか逃げられたようだ・・」
ガルヴォルスたちの追跡がないことを悟ったジョーが安堵の吐息をつく。
「でも幸介さん、大丈夫かな・・・?」
その傍らで舞華が沈痛の面持ちで幸介を心配していた。だがジョーは幸介に対して疑念を抱いていた。
「舞華、秋菜、あんまり幸介のことを信用しないほうがいいと思うぞ。」
「ジョー・・!?」
ジョーの言葉に舞華が当惑を覚える。
「ジョー、幸介さんはいい人だよ。昨日だって私を助けてくれたし、さっきだって・・デスピアに従ってるのは、きっとわけがあって・・」
「そうだよ。その助けてくれたっていうのがおかしいんだよ。お前を助けたのは、親切や正義とかじゃなく、お前をどうかしちまおうってことじゃないのか?」
舞華に向けて告げたジョーの見解。それが腹立たしく思え、舞華はたまらずジョーの頬を叩いた。
「幸介さんはそんなことをいう人じゃない。いくら自分の気持ちをハッキリさせるっていっても、幸介さんを悪く言うのはやめて・・!」
「舞華・・・」
悲痛の面持ちを見せる舞華を見つめながら、ジョーは叩かれた頬に手を当てた。
「私は幸介さんを信じてる。ジョーも信じてるけど、ジョーがそんなこというなら・・・」
舞華はいたたまれない心境のまま、ジョーから離れていく。
「舞華・・!」
秋菜が呼び止めようとするが、舞華は振り返ることなく、そのまま走り去ってしまった。いたたまれない気持ちに駆られ、ジョーは舞華を追うことができなかった。
「ジョーは悪くないよ。ただ、舞華は少し気が動転してるだけだよ。」
「あぁ、分かってる・・分かってる・・・」
秋菜の励ましに答えるも、ジョーは割り切ることができなかった。そんな彼の複雑な心境に、秋菜も困惑を覚えていた。
ジョーから離れた舞華は、いつしか街外れの空き地の前に来ていた。いたたまれない心境に駆られた彼女は、何とか呼吸を整えようとしていた。
だが幸介とジョー、それぞれの言動に苦悩してしまい、彼女はなかなか気持ちを落ち着けることができなかった。
しばらく動揺していたところへ、ドラスとの交戦を終えた幸介がやってきた。
「大丈夫かい、舞華さん・・?」
幸介に声をかけられて、舞華は素直に喜びを見せることができなかった。先ほどの彼の言動が、彼女に動揺を植えつけていた。
「あのときはすまなかった・・ただ僕は、君を僕の手で守りたかっただけなんだ・・」
幸介が必死の思いで弁解するが、舞華の困惑は消えない。
「僕がデスピアに所属しているのは、内側からデスピアを潰そうと考えたからなんだ。世界支配や破壊、殺戮などに興味はない。」
「幸介さん・・・」
「ただこれだけは分かってほしい。僕はいつでも君の味方であることを。君が危なくなったら、僕はどこからでも助けに駆けつける。」
幸介は優しく語りかけて、舞華に手を差し伸べる。だが舞華はその手を取ることができなかった。
「ごめんなさい・・今は気持ちの整理がつかなくて・・・」
困惑を見せる舞華に、幸介から笑みが消えた。
「・・もしかして、ジョーのことを考えてるんじゃ・・・」
幸介の不安の問いかけに舞華は答えない。すると幸介が切羽詰った面持ちで舞華に詰め寄る。
「彼とは決してうまくいかない。君はガルヴォルスで、彼は人間だ。気持ちの上で人間だとしても、君や僕たちにはガルヴォルスとしての宿命や隔たりがある。下手をすれば、彼を危険にさらすことになりかねない。」
「何を言ってるの・・幸介さん、何を言って・・!?」
幸介の言動に舞華がひどく動揺する。
「だから君は僕を受け入れたほうがいい!君が僕を必要なように、僕にも君が必要なんだ!」
「それは違うよ、幸介さん・・イヤ・・イヤッ!」
執拗に迫ってくる幸介を、舞華はたまらず突き飛ばしてしまう。突き飛ばされてしりもちをついた幸介が、怯えて後ずさりする舞華を呆然と見つめていた。
「僕はただ・・舞華の、舞華のことを・・・」
「その辺にしときな。」
愕然となっている幸介に向けて声をかけてきたのは、気持ちを切り替えて舞華を追いかけてきたジョーだった。
「ジョー・・・!?」
「さっきは悪かったな、舞華。お前は先に帰ってろ。」
さらに困惑を見せる舞華にジョーが呼びかける。気持ちの整理がつかないまま、舞華はその場を立ち去った。
「自分の気持ち押し付けるっていう強引がありなら、それを阻む強引もありだよな。」
ジョーが笑みを見せずに言い放つと、幸介が怒りに顔を歪める。
「言ったはずだ・・もしも邪魔をするなら、僕は君を躊躇なく殺すと・・!」
憤慨した幸介がビートルガルヴォルスに変身する。だがジョーは思いつめた表情と心境を崩さない。
「分かんねぇのかよ!?・・そんな力任せに気持ちを押し付けたって、受け入れてもらえるわけねぇだろうが・・!」
「うるさい・・舞華がいたから僕は頑張れる・・舞華は僕にとっての心の支えなんだ!」
言いとがめるジョーに、幸介が感情をあらわにする。その言葉にジョーが眉をひそめる。
「お前のその気持ちは愛とか恋とかじゃねぇ・・ただの甘え、単なる気持ちの押し付けなんだよ・・!」
「お前に、僕の何が分かる・・ここまで舞華を欲している僕の何が分かるというんだ!」
「分かんねぇよ、お前の気持ちなんて!けどな、お前も舞華の気持ちを何も分かってねぇ!分かろうともしちゃいねぇ!」
言い放つジョーに対して、幸介がいきり立って拳を振りかざす。ガルヴォルスとしての力で殴りかかれば、頭の骨を砕くことも可能である。
だがその拳はジョーの眼前で止まっていた。ジョーは一切の動揺を見せていなかった。
「それでオレを殺したって、オレの気持ちは変わらねぇし、お前の気持ちも晴れねぇだろうが・・」
低い声音で告げるジョーを前に、幸介はこれ以上踏み込むことができず、力を抜いて人間の姿に戻る他なかった。
憤りを隠せないままの幸介に哀れみの眼差しを向けてから、ジョーは舞華を追うべくこの場を後にした。
一路、デスピア本部に戻ってきたドラスとスティング。
「どうだ?剣崎舞華、なかなか侮れなかったであろう。」
その作戦室にて、ブルースが2人に不敵な笑みを見せて声をかける。
「オレとスティングには遠く及ばん。だがそれなりに楽しめたことは確かだ・・幸介が邪魔立てしなければな。」
ドラスも不敵な笑みを浮かべて答え、スティングに眼を向けてねめつける。しかしスティングは落ち着きを崩さない。
「ヤツの行動はこれでも察しているつもりだ。だがあまりにも驕りが過ぎたな、今回は。」
「だが次もし邪魔するようなら、オレは今度こそヤツを始末する。それが困るなら、もう少し言うことを聞くようにしつけることだな。」
ドラスは嘆息を付きながらきびすを返す。スティングに背を向けたところで、ドラスは足を止める。
「幸介の動き、注意しておいたほうがいいぞ。ヤツには不審な動きをしている。」
「分かっている。この不始末、このスティング・シュバインが終わらせる。」
スティングが鋭く言い放つと、ドラスは笑みをこぼして作戦室を後にした。
「気負うな、スティング。お前はお前のやり方でやればいい。剣崎舞華、万が一のときは猪木幸介も。」
ブルースが言いかけると、スティングは不敵な笑みを見せる。
「分かっている。まずは剣崎舞華を始末する。デスピアがいつまでも、1人の小娘に手を焼かされるわけにはいかんからな。」
スティングはブルースに言い放ち、舞華を倒すべく再び戦いに赴いた。
ジョーに言いとがめられ、舞華を任せるしかなかった秋菜は、ひとまずミナヅキに戻ってきていた。
「いらっしゃいま・・秋菜、おかえり。」
秋菜の帰宅に冬矢が顔を見せる。だが困惑気味の彼女を目の当たりにして、彼は彼女に駆け寄った。
「舞華くんはどうしたんだ・・?」
「お父さん・・・ううん、大丈夫。舞華はジョーと一緒にいるから・・」
冬矢の心配に、秋菜が笑顔を見せて答える。しかし内心安堵はなかった。
そのことを察しながらも、冬矢はあえて追求しなかった。
「ジョーくんが一緒なら心配はいらないか・・しばらくしたら連絡を入れてくれないか?」
「うん、分かった。」
冬矢の言葉に秋菜は微笑んで頷いた。そして外に振り返り、舞華とジョーの無事を祈っていた。
幸介の気持ちを押し付けられそうになり、舞華はたまらず駆け出していた。彼女はいつしか街の近くの廃工場に来ていた。
幸介の気持ちとジョーの気持ち。2人の気持ちにさいなまれて、舞華は動揺を隠せなかった。
「どうしちゃったんだろう、私・・心の中が、ぐちゃぐちゃになってるみたいだよ・・・」
舞華が自分の旨に手を当てて沈痛さを口にする。
「何だろう、この気持ち・・自分を保てない・・・」
動揺に耐え切れなくなり、彼女はたまらずその場に座り込んだ。
(幸介さんは優しい・・でも私を求める気持ちが強すぎて、私には抱えきれない・・・ジョーはいつもはからかったりしてくるけど、いざってときには手を差し伸べてくれる・・・どっちが、私にとっていいんだろう・・・)
幸介とジョー、どちらの気持ちを尊ぶべきなのか。困惑している舞華には、すぐにその答えを出すことができなかった。
「何をそんなに思いつめているのだ?」
そのとき、舞華の前にスティングが姿を現した。彼に声をかけられ、舞華は緊迫を覚える。
「貴様は逃れられない。このオレからも、ガルヴォルスとしての貴様自身の宿命からも。」
「どういう、ことよ・・!?」
不敵な笑みを浮かべるスティングに対し、舞華が問いかける。
「ガルヴォルスが人間の進化であることは貴様も聞いているだろう。だがそれは人間から見れば、人間でありながら人間でないと解釈され、やがて迫害される。貴様もその十字架を背負っているのだ。」
「迫害・・・」
「貴様の周りにいる人間も、貴様のガルヴォルスとしての姿を見れば迫害、軽く見ても敬遠されるのは必死。」
「そんなことはない!私の友達や知り合いは、きっと私を受け入れてくれる!」
スティングの言葉に反論する舞華。だがスティングは彼女の言葉に対して哄笑を上げる。
「勇ましいことだな!もはや貴様に、この宿命から逃れることはできぬわ!」
言い放ったスティングがクロコダイルガルヴォルスに変身する。
「さぁ、戦うのだ。そしてオレの力で粉々に粉砕されるがいい!」
「冗談じゃない!私は負けない!あなたにも、ガルヴォルスの宿命ってヤツにも!」
舞華も負けじといきり立ち、ブレイドガルヴォルスへと変身する。
「今度は本格的に攻めてくるようだな。だがムダだ。貴様はオレの力の前に、死という敗北を迎えるのだ!」
スティングが眼を見開き、舞華に向かって飛び出す。全身に力を込めて、彼女に突っ込む。
「ぐっ!」
その凄まじい突進に舞華があえぐ。突き飛ばされた彼女は廃工場の壁を突き破り、中のダンボールの山を突き崩した。
体を駆け巡る痛みを覚えつつ、舞華は立ち上がる。そして右手を刃に変えて、スティングを迎え撃つ。
「オレの力をまともに受けて、平然さを装うことができるとは大したものだ。だがその虚勢がいつまで続くか、試してやるとするか。」
スティングが淡々と告げると、再び舞華に向かって突っ込む。舞華は大きく飛び上がって、その突進をかわす。
するとスティングも飛び上がり、舞華に向かって腕を振り上げる。その鋭い爪が彼女の体をかすめる。
体勢を崩された舞華が床に叩き落される。痛みに顔を歪める彼女の前に、スティングが降り立つ。
「どうだ?貴様が今まで相手をしてきたガルヴォルスとは違うだろう。」
スティングが悠然と舞華に言い放つ。
「ドラスもオレに負けず劣らずの力を備えている。今の力量ではオレもドラスも倒せんぞ。」
「そんなことない・・どんな相手でも、必ずどこかに勝ち目がある・・だから、私は諦めない・・!」
スティングの言葉に対し、舞華は自分の信念を告げる。するとスティングが彼女をあざ笑う。
「諦めないならそれもいい。ならその意地を抱えたまま、朽ち果てるがいい。」
スティングが全身に力を込め、舞華に向けて両手をかざす。その手の中で電流のようなものがほとばしる。
「これはオレの最高の技だ。これを叩きつければ、小さな草原を一気に荒野に変えることもできる。これをまともにくらって、貴様は生き延びることができるかな?」
言い放つスティングが両手にさらに力を注ぎ込む。膨大となっていくエネルギーを前に、舞華は退かない。
「その気構え、このオレも感服したぞ。それに免じて、せめて華々しく吹き飛ばしてやろう!」
眼を見開いたスティングが、収束させていたエネルギーを放出する。舞華は刃を振りかざして、エネルギーの両断を試みる。
「ムダだ!そのエネルギーは原子爆弾ほどの威力がある!跳ね返すことなどできぬわ!」
スティングの言い放つ前で、舞華の刃がエネルギーの球と衝突する。その瞬間、エネルギーが破裂して爆発を引き起こす。
爆発は廃工場を吹き飛ばし、さらに周囲の建物や草木に影響を及ぼした。その衝撃に押されて、舞華が近くの通りに投げ出された。
舞華を追って心当たりのある場所を探し回っていたジョー。そんな中、彼は廃工場のほうで大きな爆発がしたことに気づく。
「あの爆発・・まさか!?」
思い立ったジョーは、廃工場のほうへと駆け出していく。そこに舞華がいて、爆発に巻き込まれたかもしれない。
「舞華、無事でいてくれ・・・!」
一途の願いを胸に秘めて、ジョーは通りを駆け抜けていく。そして廃工場まですぐというところまで来た。
そのとき、爆発で巻き起こった煙の中から、異質の怪物が飛び出してきた。怪物は通りの真ん中に落下し、昏倒して動かなくなる。
「コイツは、あのときの・・!?」
ジョーがその怪物を見て驚愕を覚える。遊園地で対峙した怪物のうちの1人であると、彼は直感した。
傷ついて弱っていた怪物は突如人間の姿に変わった。その姿にジョーがさらなる驚愕を覚える。
「舞華・・・!?」
眼を疑っているジョーの声に反応して、舞華が体を起こす。そしてジョーの姿を眼にして、彼女も当惑する。
「ジョー・・・」
自分がガルヴォルスであることをジョーに知られ、舞華も動揺を隠せなくなった。
そのとき、舞華の背後に爆発が巻き起こり、彼女とジョーはそこに振り向く。吹き上がる煙の中から、スティングが姿を現した。
「オレのこの攻撃で生きているとは。やはり侮れない相手だったか・・」
悠然と言い放つスティングに、舞華は危機感を覚えていた。エネルギーを相殺させるために、彼女は力を使い果たしていた。
「ほう?人間も来ていたのか。まぁいい。貴様もともに始末してやろう。ここに来てしまった自分を呪うのだな。」
スティングは困惑しているジョーにも言い放ち、再び両手を構えてエネルギーを収束させる。
(ダメ・・力が入らなくて、ガルヴォルスになることもできない・・・!)
窮地に追い込まれた舞華たちに、スティングの脅威が伸びようとしていた。
次回予告
「ジョーに正体を見られた!?」
「詰めの甘い貴様には荷が重かったか?」
「アイツが何だろうとオレには関係ない。けどアイツがどんな気分でいるかと思うと・・」
「ジョーとは、もう会わないほうがいいかな・・・」