ガルヴォルスDesire 第11話「恋の大激突」
「今日からお前らと一緒に勉強する、猪木幸介だ。」
「猪木幸介です。よろしくお願いします。」
担任の紹介を受けて、幸介が一礼する。舞華とジョーがスライムガルヴォルスの襲撃を受けた翌日、幸介は彼らに言ったとおり、この私立正英大付属高校に転入してきたのだ。
「えっと・・猪木の席は・・・うん、葛城の後ろが空いてるな。」
担任の指し示した席に、幸介は着いた。新しくクラスメイトとなった彼に、秋菜が歓喜を覚え、ジョーは憮然とした態度を見せていた。
(カッコいい人・・でもジョーには負けるかも・・)
秋菜は幸介を見つめて、胸中で呟いていた。幸介がふと笑顔を見せてくると、秋菜は動揺してしまっていた。
舞華のときと同様に、幸介は生徒たちから質問攻めにあっていた。しかし幸介は気負うことなく、その質問に対応していた。
その様子を、舞華と秋菜が教室の片隅で見守っていた。
「幸介くんっていい感じの人だよね。でもジョーのほうがいいわよ。」
秋菜が唐突に声をかけると、舞華がきょとんとした面持ちを浮かべる。
「どうなんだろう・・確かに幸介さんは優しそうだけど・・私にはおせっかいをしてきてる感じだけど・・」
「そうかな?真っ正直なジョーと違って、相手を思いやる人だとは思うけど・・」
互いに意見を交わしていく舞華と秋菜。そこへ歩み寄ってきた幸介が声をかけてきた。
「昨日はどうも、舞華さん。」
「いえ、こっちこそ助けられちゃって・・」
舞華が幸介に作り笑顔を見せて答える。そこへ秋菜が満面の笑みを浮かべて割り込んできた。
「私、水無月秋菜。よろしくね、幸介くん。」
「うん。僕のほうこそよろしく、秋菜さん。」
秋菜の自己紹介に幸介が笑顔で受け止める。
「ところで舞華さん、秋菜さん、後で話したいことがあるんだけど。」
「えっ?・・あ、はい。」
幸介の突然の申し出に、舞華は当惑しながら頷いた。そして幸介は彼女たちに軽く頭を下げて、教室を後にする。
廊下をしばらく歩いたところで、幸介はジョーが向かってくるのを眼にする。すれ違おうとしたところで2人は足を止めて、ジョーは幸介に声をかけた。
「昨日はすまなかった。オレも舞華を助けようと思ったんだけど・・」
「気にしないでくれ。相手はガルヴォルスで、君は人間。敵わなくて当然だ。」
詫びるジョーに幸介が淡々と答える。
「あと、ひとつ勘違いしないでもらいたい。僕は舞華を助けたが、それは新設とか正義感とかのためではない。」
幸介の突然の言葉にジョーは眉をひそめる。
「僕は舞華に惚れた。彼女の無邪気さと天真爛漫さに僕の心は惹かれた。だから舞華は僕のものだ。君には渡せない。」
「おいおい、そっちこそ勘違いしないでくれ。オレはアイツの彼氏じゃないし、アイツもオレに対してそんな気になってるわけじゃない。」
幸介の言葉にジョーが呆れながら反論する。
「君が彼女をどう思っているかは僕には関係ない。でも僕は彼女を手に入れる。必ず・・」
自分の渇望を言い放つ幸介に、ジョーはため息をついた。
「オレはアイツに対して深い思い入れはねぇ。けどアンタの態度・・何だか気に入らなくなってきた。」
「君と僕は、あまり気が合わないようですね。それも結構・・」
ジョーの不満を目の当たりにして、気落ちの心境を見せる。
「でも僕が舞華をほしがる気持ちに変わりはない。もしも君が万が一、僕と舞華の邪魔をしようというなら、僕は君を死に至らしめることも厭わない。」
幸介の忠告にジョーは息を呑む。ジョーをねめつけてから、幸介は彼のそばを離れた。
(舞華のことなんか気にしちゃいねぇけど、アイツの好きにさせるのも癪に障る・・!)
ジョーは幸介に対して強い不信感を抱くようになった。
ビートルガルヴォルス、幸介の介入を、デスピアは既に察知していた。ブルースとドラスが幸介の動きを見て、力量を推測していた。
「あの男、かなりの潜在能力を宿しているな。」
「あぁ。これだけ見ても凄まじいことはよく分かる。」
鋭く見据えるブルースと、不敵な笑みを浮かべるドラス。
「どうだ、ブルース?今のその男と剣崎舞華という娘、どちらが強い?」
「これだけでは情報不足だが、2人とも強大であり、そして近しい。」
ドラスの問いかけにブルースが淡々と答える。
「それでどうするのだ?どちらから始末にかかる?」
「そんなものをわざわざ決める必要はない。見つけたほうから始末してやるさ。」
ブルースが問いかけると、ドラスは疑問に感じながら答える。そしてきびすを返して、作戦室を後にした。
(さすがに抜け目がない。それでいて戦いに対して強欲だ。)
ドラスの気構えを見据えながら、ブルースも笑みをこぼしていた。
放課後、幸介に呼ばれて正門前にやってきた舞華と秋菜。そこで待っていた幸介が、彼女たちに笑顔を見せてきた。
「ゴメン、幸介くん。待った?」
「いや、僕も少し前に来たばかりさ。」
秋菜の言葉に幸介が笑みを見せて答える。
「それで、話っていうのは・・?」
「ここだとあまり話しづらい。場所を変えよう。」
舞華の問いかけに幸介が答える。彼に促されるまま、舞華と秋菜は歩き出した。
その3人を、ジョーは物陰に隠れながら追跡するのだった。
舞華たちが訪れたのは学校から少し離れた高架下だった。そこはあまり人の来ない場所で、秘密の相談事をするには打って付けの場所だった。
「それで話したいことって?」
秋菜が声をかけると、幸介が真剣な面持ちを見せてきた。
「実は、僕は君たちのことをいろいろ知っているんだ。舞華さんがガルヴォルスであること、秋菜さんがそのことを知っていること。」
幸介のこの言葉に舞華と秋菜は緊迫を覚える。すると幸介は笑みをこぼして、彼女たちの緊張を解こうと努める。
「そんなに緊張しなくていいよ。僕は君たちを掌握しようなんて考えていない。むしろ味方でありたいと思ってる。」
切実に言いかける幸介が、当惑している秋菜に眼を向ける。
「舞華さんとジョーくんは見ているから知っているけど、僕も舞華さんと同じガルヴォルスなんだ。」
「えっ!?幸介さん・・!?」
幸介の告白に秋菜が困惑する。だがすぐに気を落ち着けて、真剣に話に耳を傾ける。
「僕はガルヴォルスなったけど、それでも人間として生きたいと思っている。だから、僕はガルヴォルスの被害にあっている人たちを守るために・・」
「幸介さん・・・これからも、よろしくお願いします!」
幸介の誠意と決意を受けて、彼に手を差し伸べる。彼も彼女の気持ちを汲んで、その手を取って握手を交わした。
「ずい分と仲のいいことだな、貴様ら。」
そのとき、1人の男に声をかけられ、舞華たちが振り返る。
「誰なの・・?」
舞華が声をかけると、男は不敵な笑みを見せる。
「オレはデスピアのガルヴォルス、ドラス・ジェネラル。剣崎舞華、貴様はこのオレが丁重に葬ってくれるぞ。」
「デスピアの・・!?」
男、ドラスの言葉に舞華たちが緊迫を覚える。
(何ということだ・・まさかデスピアの最上級のガルヴォルス3人のうちの1人が出てくるとは・・!)
幸介がドラスを見据えながら胸中で毒づいた。ドラスが赴いてきたことは、デスピアが本格的に攻めてきたことを意味していた。
「このオレを引っ張り出したんだ。それなりに楽しませてもらおうか。」
ドラスが舞華を見据えて一歩前に足を踏み込む。そして彼の頬に紋様が浮かび上がり、鮫を思わせる姿の怪物へと変化する。
「サメの、ガルヴォルス・・!?」
「さぁ、どうした?貴様もガルヴォルスとなって、その力をオレに見せてみろ。」
ドラスが悠然とした態度のまま、舞華に手招きをする。すると2人の間に幸介が割って入ってきた。
「ん?」
「こ、幸介さん・・!?」
幸介の乱入にドラスが眉をひそめ、舞華が驚愕する。
「舞華さん、君は秋菜さんを連れて早く逃げるんだ。ここは僕が相手をするから。」
幸介がドラスを見据えたまま、舞華に呼びかける。するとドラスが笑みをこぼす。
「貴様がオレの相手をするだと?フフフ、なかなか面白い冗談を言うではないか。」
ドラスが幸介をあざ笑うと、右腕を振りかざしてその甲から刃を突き出す。
「ダメだよ、幸介さん!私も一緒に戦うから・・!」
「そ、それじゃ君が・・!」
前に出る舞華に幸介が声を荒げる。だが舞華の決意は変わらなかった。
「秋菜ちゃんも分かってくれる。危なくなってきたら逃げるようにするから。」
舞華の言葉を受けて、幸介も笑みを見せて頷いた。身構える2人を見て、ドラスが再び笑みをこぼす。
「2人がかりか・・これも十分楽しめそうだ。」
ドラスは言い終わると、刃を出している右腕を振り上げる。そして振り下ろして刃を地面に叩きつける。
一閃の強烈な衝撃が地面を這い、舞華たちに迫る。舞華と幸介がそれぞれガルヴォルスとなり、その衝撃波を跳躍して回避する。
だが舞華の背後にドラスが回り込み、振り向いた彼女に一撃を加える。痛烈な一撃を受けた彼女が、激しく地面に叩きつけられる。
「舞華!」
「舞華さん!」
秋菜と幸介がたまらず叫ぶ。その幸介の背後にドラスが飛び込んでくる。
「他人を心配している暇はないぞ、小僧!」
言い放つドラスが突き出した刃が、幸介の左肩を貫いた。幸介が激痛を覚えて、左肩を右手で押さえた体勢のまま地上へと落下する。
一方、舞華が痛みに顔を歪めながらも、必死に立ち上がろうとする。
「つ、強い・・!」
「強い?当然だ。オレはガルヴォルスの中でも指折りの戦闘力を備えている。生半可な動きはオレには通用せんぞ。」
うめく舞華の背後に立ち、ドラスが悠然と語りかける。その威圧感に舞華が一瞬動きを止める。
「諦めろ。小娘、ここが貴様の墓場となるのだ。」
「ここが私の!?・・こんなところで死にたくないよ・・・!」
ドラスの言葉に反論しながら、舞華が立ち上がり振り替える。そのとき、彼女の眼に、橋の上で驚愕している警官2人が飛び込んできた。
「な、何だ・・!?」
異様の怪物たちを目の当たりにした警官たちに動揺が走る。彼らに気づいたドラスが笑みを消して舌打ちする。
「せっかく楽しんでいるというのに・・」
ドラスが低く言い放つと、右手の刃を振りかざす。その一閃によって、警官2人の体に亀裂が入り、砂のように崩壊する。
その光景に舞華が驚愕する。ドラスの一閃が容赦なく2人の命を奪ったのだ。
「あの人たちは関係ないでしょ・・どうしてこんなことを!」
「人の心が残っていると、つまらないことにこだわるようだな。」
舞華がドラスに憤慨したところへかかってきた声。それはドラスの声ではなかった。
舞華が振り返った先には、もう1人、別の男が立っていた。黒の短髪の巨漢で、拳を握り締めていた。
「貴様も来たようだな、スティング・シュバイン。」
ドラスが声をかけると、男、スティングが笑みを強める。
「独り占めはいただけないな、ドラス。少しはオレにも楽しみを残してくれよな。」
「フフフフ。すまなかったな。久しぶりの大きな楽しみなのでな。つい夢中になってしまった。」
互いに笑みをこぼすスティングとドラス。満身創痍の舞華が当惑を覚えていた。
「さて、どうする、小娘?オレとスティング、最高位のガルヴォルス2人の前では、貴様は勝つどころか、逃げることもままならんぞ。」
「勝ち目がないって言われて、諦めるわけにはいかない・・・!」
勝ち誇るドラスに、舞華が再び反論する。
「私は負けられない・・私を受け入れてくれた秋菜ちゃんやジョーや幸介さん、みんなのいること場所を、私は守り抜く!」
揺るぎない決意を眼前の相手に見せ付ける舞華。だがドラスもスティングも悠然さを崩さない。
「なかなかの度胸だ。その心意気には感服するぞ。だがそんな感情だけではオレたちには敵わんぞ。」
「そんなの、やってみなくちゃ分かんない。勝負は最後まで分かんないじゃない!」
「分かるさ。」
必死に抗いを見せる舞華だが、ドラスは淡々とこれを一蹴する。
「絶対的な力の差、数、心身の状態、総合的に考えれば勝敗は明白だ。」
「それに、そこにいる猪木幸介は、元々はオレたちの仲間だ。」
続けてかけてきたスティングの言葉に、舞華は信じられない心境に駆られた。振り返って眼を向けた先で、幸介が沈痛の面持ちを見せていた。
「幸介、さん・・・!?」
「何を驚いている?その男はこのスティング・シュバインの直属の部下だ。お前の心の動揺を突くために、オレが派遣したのだ。」
幸介を指し示すスティングの言葉に、舞華は完全に困惑しきってしまっていた。そこで幸介がスティングに反論する。
「あまり勘違いしないでくれ。表向きには直接的な関係にあるが、僕は君たちと結託しているに過ぎない。」
「幸介さん、本気で・・!?」
幸介の説明に舞華が愕然となる。その拍子で彼女は人間の姿に戻ってしまう。
「僕の最大の目的は、そう・・」
幸介は言いかけて、舞華に一気に詰め寄る。彼女の両手をつかんで、困惑する彼女を見つめる。
「舞華、君を僕のものにすることだ。」
「幸介さん・・!?」
「僕は君の魅力に心を動かされた。その心、僕は僕だけのものにしたい。」
舞華に詰め寄ってくる幸介。困惑を拭えず、舞華は抗うこともままならない。
そのとき、幸介は飛び込んできた何かに突き飛ばされる。彼が眼を向けた先には、舞華たちを追跡していたジョーの姿があった。
「ジョー!?」
ジョーの乱入に舞華が驚き、幸介が驚愕する。踏みとどまった幸介が笑みを消して、慄然としているジョーを見据える。
「何しに来た?人間の君には、あまりにも荷が重過ぎることだが。」
「お前が舞華におかしなことしてるってのに、黙って見ていることなんてできるかよ!」
嘆息をつく幸介に、ジョーが憤慨して反論する。
「また小うるさいハエが現れたか。だがオレたちが気にするほどのことではない。」
ドラスが不敵な笑みを浮かべると、舞華とジョーに向けてかまいたちを放つ。虚を突かれた2人が眼を見開く前で、幸介が出現させた斧でかまいたちを一掃する。
「どういうつもりだ、幸介?」
眉をひそめるドラスに、幸介がゆっくりと振り返る。
「言ったはずだ。舞華はオレが手に入れると。たとえデスピア指折りのガルヴォルスである君たちであろうと、オレと彼女の邪魔はさせない!」
「愚かな。小僧の分際で獲物を独り占めしようなどと、滑稽な解釈だな!」
幸介の心境をあざ笑い、ドラスが刃を振りかざして幸介に飛びかかる。いきり立つ幸介が斧を振り上げ、ドラスを迎撃する。
激しくぶつかり合う2人のガルヴォルスを見据えて、秋菜が舞華とジョーに呼びかける。
「今のうちに逃げたほうがいいよ、舞華、ジョー!」
「秋菜ちゃん・・!」
秋菜の呼びかけを受けて、舞華は人間の姿に戻って頷く。だがドラスと交戦している幸介に対して、舞華は困惑を抱えていた。
「今はアイツのことを気にしてる場合じゃない。急ぐぞ。」
「う、うん・・」
ジョーにも言いとがめられて、舞華は小さく頷いた。3人は高架下から必死に逃げ出した。
「逃がしはしないぞ。」
それを見ていたスティングが、ワニの怪物へと姿を変える。クロコダイルガルヴォルスとなったスティングが、舞華たちに向かって駆け出す。
そこへドラスと交戦していたはずの幸介が、スティングに向けて閃光を放つ。その光に阻まれたことで、スティングが舞華たちを見失う。
「幸介、邪魔をする気か!?」
「それはこちらのセリフだ!舞華はオレのものだと何度言えば分かる!?」
声を荒げるスティングに、幸介が憤慨をあらわにする。その言動に呆れ果て、スティングは人間の姿に戻る。
「拍子抜けだ。今回は引き上げる。だが幸介、そこまで言い切ったのだから、確実にあの娘を始末してみせろ。」
スティングは幸介に言い放つと、先にデスピア本部へと引き返していった。ドラスも幸介に敵意を見せながらも、この場から姿を消した。
次回予告
「舞華は僕にとっての心の支えなんだ!」
「幸介の動き、注意しておいたほうがいいぞ。」
「ジョー・・・」
「舞華・・・!?」
「もはや貴様に、この宿命から逃れることはできぬわ!」