ガルヴォルスDesire 第9話「忍から舞華へ」
モールガルヴォルスへと変身し、その脅威的な力で舞華を追い詰めるフレディ。彼女の頭を地面に突きつけたまま、彼は力を発動しようとしていた。
「私は、こんなところで負けるわけにいかない!」
感情をむき出しにした舞華が、体から無数の刃を出現させる。
「何っ!?」
驚愕するフレディがとっさに舞華から手を離し、刃から逃れる。危機を脱した舞華が、必死の思いで立ち上がる。
「舞華、大丈夫か!?」
「はい、平気です。ハリセンボンになった気分にはなりましたけど。」
駆け寄って呼びかける忍に、舞華が苦笑いを見せて答える。
「でもあの人、今までのガルヴォルスの中でも1番かも・・」
焦りの言葉を口にする舞華。彼女たちの眼前で、フレディが苛立ちをあらわにする。
「このオレに傷をつけるとは・・貴様!このままで済むと思っているのか!」
「あ、あの、そんなに怒られても・・」
憤慨をあらわにするフレディに、舞華は苦笑いを浮かべる。だがフレディはすぐに笑みを取り戻す。
「今回はここまでにしておこう。だが次は貴様らの最期だ!」
フレディは言い放つと砂煙を巻き上げる。舞華と忍が砂から身を守っている間に、フレディは砂に紛れて姿を消した。
「逃げちゃった・・手ごわかったよ〜・・・」
力を振り絞った舞華が人間の姿に戻りつつ、その場に座り込む。忍も人間の姿に戻って彼女を支える。
「舞華・・すまなかった。そして、ありがとう・・・」
「忍さん・・いいよ、気にしないでください・・私はただ、忍さんを助けたかっただけですから・・・」
謝罪と感謝の言葉をかける忍に、舞華が微笑んで弁解する。舞華は忍に支えられながら、ゆっくりと立ち上がる。
「忍さん、秋菜ちゃんとジョーが待ってます。戻りましょう。」
「あぁ。そうだな・・」
舞華の言葉に忍が頷く。傷だらけの体を引きずって、2人は秋菜とジョーのもとへ向かった。
舞華と忍に敗北し、撤退したフレディは、かつてないほどの屈辱を覚えていた。今まで優位に立つことを喜びとしている彼は、負けることは不快以外の何ものでもなかった。
「この私が・・あんな小娘たちに・・・!」
フレディが憤りを抑えることができず、呼吸を荒げる。
「この私が負けるはずがない!私は上位のガルヴォルス!デスピアでも上位に君臨する、フレディ・ナックルなんですよ!」
屈辱のあまりに絶叫を上げるフレディ。そしてそれは、舞華たちに対する憎悪へと変わった。
フレディの一撃を受けて気絶していたジョーが、公園の外の通りの脇で眼を覚ました。
「ここは・・・?」
「気が付いたのね。」
ジョーが起き上がると、秋菜が声をかける。
「ここは公園の外。ジョー、アンタはあの男にやられて気を失ってたの。」
「そうか・・・舞華と忍は・・・!?」
ジョーは血相を変えて、周囲を見回す。だが彼は舞華と忍の姿を確認することができない。
「まだ戻ってきてないけど、大丈夫。あの2人がそう簡単にやられるはずがないじゃない。」
「け、けど・・」
秋菜が説明するが、ジョーは気が気でなくなっていた。
「ジョーの幼馴染なんでしょ。アンタが信じないでどうすんのよ。」
秋菜に言われて、ジョーはようやく落ち着きを取り戻す。
「そうだな・・信じてやらねぇといけねぇよな・・・けどな。」
笑みを取り戻したジョーが立ち上がり、公園のほうへ振り返る。
「このままじっとしてるなんて、男らしくないんじゃないの?」
ジョーは秋菜にそういって、公園へと戻っていった。
「ったく。アンタは相変わらずしょうがないんだから。」
秋菜は苦笑いを浮かべると、ジョーを追って公園に向かった。
公園内の遊歩道の真っ只中。舞華と忍は戦いの疲れを和らげるため、そこのベンチで休憩を取っていた。
秋菜とジョーを気がかりにしていたものの、やむを得ない選択だった。
「あまりムリをしてしまっては、それこそジョーたちを心配させかねないからな。」
忍の見解に舞華が苦笑いを浮かべる。だが舞華はすぐに深刻な面持ちになる。
「ところで忍さん、ジョーはあなたがガルヴォルスであることを知ってるんですか・・?」
舞華の問いかけに、忍は物悲しい笑みを浮かべて答える。
「そのことを話すために、私はジョーに会いに来た。だがジョーはあまり信じていないようで、まだ彼にあの姿を見せていない・・」
忍の見解を聞いて、舞華は一瞬戸惑いを見せる。だがすぐに笑顔を取り戻して、忍に答える。
「多分、大丈夫だと思いますよ。ジョーって、いつもはからかってきたり、人がイヤに思うことを平気で言ったりするけれど、ホントは根はよくて優しいヤツだから・・」
「舞華・・・」
「ジョーは忍さんの幼馴染なんでしょ?だったら信じてあげないと。」
舞華が忍の手を取って、訴えかけるように呼びかける。その真っ直ぐな態度と気持ちを目の当たりにして、忍は一途の安らぎを覚えた。
「ありがとう、舞華。ジョーに助けを求めてここを訪れたつもりが、お前や秋菜にまで助けられることになるとは・・」
「そういう細かいことは気にしなくていいんです。だって私たちは、心でつながってるんですから。」
友情と愛情を交わし、絆を深めていく忍と舞華。これから何が起きようとも、この絆を大切にしていきたい。2人ともそう思っていた。
そのとき、周囲の木々の枝が突然切断されたのを、舞華と忍は耳にする。
「忍さん、これって・・!?」
「あぁ。どこかに潜んでいる・・・」
小声を交わしながら、舞華と忍は周囲を警戒する。何者かが近くの物陰にいる。
そのとき、背後の草むらからひとつの影が飛び出してきた、気づいた2人が振り返ると、かまきりを思わせる姿の怪物が飛び上がってきていた。
「ガルヴォルス・・!?」
声を荒げる舞華に向けて、マンティスガルヴォルスが鎌を振り下ろしてきた。忍はとっさにクレインガルヴォルスに変身して飛びかかり、マンティスガルヴォルスを突き飛ばす。
体勢を立て直すマンティスガルヴォルスと、舞華の横に着地する忍。だがその中で舞華は、忍に対してある思いを抱えていた。
「忍さん、あなたはジョーのところへ行ってください。」
「舞華・・!?」
舞華の言葉に忍が驚く。
「忍さん、あなたはジョーにあなた自身のことを伝えなくちゃ!このままじゃお互い、辛くなっちゃいますよ・・!」
「舞華・・分かった。だが舞華も必ず戻ってくるんだぞ。」
「はいっ!」
了解した忍の呼びかけに、舞華も怪物を見据えたまま頷く。
(忍さん、私は信じてます。ジョーと本当に分かり合えるって・・)
忍への思いを胸に秘めて、舞華は全身に力を込める。頬に紋様が浮かんだ彼女の姿がガルヴォルスとなり、右手が刃へと変わる。
マンティスガルヴォルスが舞華に向かって飛びかかる。振りかざしてきた右手の鎌を、彼女は刃で受け止める。だがマンティスガルヴォルスは左手の鎌を振りかざし、舞華を狙う。舞華はとっさに回避行動を取るが、鎌は彼女の頬をかすめた。
彼女を追い込むべく、マンティスガルヴォルスが鎌を振り上げる。彼女は右の刃でこれらを受け止めると、左手を刃に変えてマンティスガルヴォルスの体を両断する。
即死させられた怪物は、切り裂かれた勢いのまま霧散し、消滅する。刃を元に戻した舞華が、忍が駆けていったほうに振り返る。
「私も急がなくちゃ。忍さんとジョーが分かり合えるところを見とかないと。」
一途の期待を胸に秘めて、舞華は走り出した。だが既に悲劇は刻一刻と迫っていた。
舞華と忍を探して公園内を駆けていたジョー。林を抜けたところで、彼は眼を見開いた。
彼の眼前には鶴の怪物が立ちはだかっていた。彼は一瞬恐怖を覚えたが、以前に会った高揚感を覚えていた。
「お前、まさか・・・!?」
「ジョー、これが私のもうひとつの姿だ・・・」
動揺を見せるジョーに語りかけるクレインガルヴォルス、忍。彼女は人間の姿に戻って、彼に物悲しい笑みを見せる。
「忍、お前・・・!?」
「ジョー、私がお前を尋ねたのはこのためだったんだ。これで分かってくれたろう。私が怪物になってしまったことを・・」
忍はこみ上げてくる感情を必死に抑えながら、ジョーに呼びかけようとする。そこへ秋菜が遅れてやってきた。
「忍、アンタ・・」
彼女が思わず声をかける前で、忍とジョーはじっと見つめ合っていた。
「なぜこんなことになってしまったのか、何が私を変えたのか、私にも分からない。だがそのために周りから嫌われ、恐れられ、私は今まで住んでいた町を、追い出される形で出た。」
「それで、オレを頼ってここまで来たっていうのか・・・」
ジョーが問い返すと、忍は小さく頷いた。
「これからどうしていけばいいのか、私には分からなかった。だから私は誰か知り合いを頼るしかなかった・・・私は、これほどまでに弱い人間だったんだ・・」
「忍・・・そんなことないさ。お前はお前の力に負けずに、オレを尋ねてきたんだ。そんなお前を、誰も弱いなんていわないさ。」
ジョーのこの言葉に、忍の心は大きく揺れた。今まで抑え込んでいた感情とともに、彼女の眼から涙があふれてきていた。
「でも、それでも私は弱いから、涙を止めることができない・・・」
涙ながらに声を振り絞る忍に、ジョーは歩み寄り、彼女の頬を伝う涙を拭う。
「涙を見せるってことは、お前が人間である証拠だ。忍、たとえお前が今のようなバケモノになってしまったとしても、お前は人間だ。オレはそう信じ抜く・・」
「ジョー・・・」
ジョーに励まされて、忍は初めて感情をあらわにした。その様子を見て、秋菜は思わず涙を浮かべていた。
そのとき、周囲に突如砂煙が舞い上がった。ジョーたちがその衝動に緊迫を覚える。
「ついに見つけましたよ、藤堂忍さん。」
その中から、憎悪に駆り立てられたフレディが姿を現した。
「フレディ・・・!」
忍がジョーと秋菜の前に立ち、身構える。するとフレディが不敵な笑みを浮かべる。
「ほう?お前が相手になってくれるか。それは帰って好都合・・」
歓喜を覚えるフレディの頬に紋様が走る。
「オレは貴様を殺さねば、気が治まらんのだ!」
フレディは怒号を上げるとともに、モールガルヴォルスへと変身する。感情をむき出しにして、忍を鋭く見据える。
「アイツ・・忍、ここは逃げるべきだ。」
「ジョー・・」
ジョーが口にした言葉に忍が当惑する。
「オレも秋菜も、アイツに対抗できる力がない。だからってお前にアイツと戦わせるわけにもいかない。」
忍と秋菜を守ろうとするジョー。彼の気持ちを察しながらも、忍は彼の率直な気持ちを受け止めることができなかった。
「すまない、ジョー・・お前の優しさに、私は応えることができない・・」
物悲しい笑みを見せる忍の頬に異様な紋様が浮かび上がる。そしてフレディに視線を戻すと、彼女の姿が怪物へと変貌する。
「ジョー、秋菜、お前たちは逃げろ!ジョーが私を守りたいように、私もお前を守りたいんだ・・・!」
「忍!」
呼びかける忍にジョーが声を荒げる。そしてフレディが哄笑を上げる。
「ハハハハハハ!涙ぐましい友情だな!いや、愛情と呼ぶべきか!」
ジョーたちのやり取りをあざ笑うフレディ。忍がフレディを見据えて身構える。
「ジョーたちには、絶対手を出させない!」
「アッハハハハハ!オレに手も足も出なかった分際でよくほざけるな!」
忍の決意をまたもあざ笑うフレディ。彼は右手を掲げ、砂を収束させたつぶてを生み出す。
「もうお遊びはせんぞ。すぐに終わらせてやる。全力のオレを相手に、貴様は何秒持つかな?」
フレディが不敵に言い放つと、忍に向けてつぶてを発射する。今度は前の戦いよりも速度が上がっていた。
忍は翼を広げて旋回し、つぶてをかわす。迷いを振り切っていた彼女も速度が上がっていた。
「オレは貴様を許さん。オレに屈辱を与えた貴様は、死ぬ以外の末路はない!」
次第に怒号を強めていくフレディ。右手を地面に突きつけて、忍の下方から刃を突き出す。
「忍、危ない!」
ジョーが呼びかける前で、忍に刃が命中する。回避行動を取っていたため、突き刺されることはなかったが、その衝突は彼女に激痛を与えていた。
そんな彼女に向けて、フレディは容赦ないつぶての攻撃を繰り出す。次々とつぶてが命中し、忍が顔を歪める。
「忍!」
ジョーが彼女に駆け寄ろうとするが、つぶてが飛び込み、彼の進行を阻む。
一瞬怯むジョーだが、それでも前に進もうとする。そしてついに、彼は傷ついた忍の前に立つ。
「いい加減にしろ!女1人を痛めつけて、何が面白いんだ!」
ジョーが忍を傷つけられたことに憤怒するが、フレディは笑みを崩さない。
「オレはその女を相手にしているんだ。邪魔をするなら貴様から始末するぞ。」
「このヤロー・・!」
あくまで悠然とするフレディに、ジョーは苛立ちを募らせていく。
「まぁいいだろう。貴様もその女と一緒に葬り去ってやる。一緒に地獄に落ちるなら、それも本望だろう。」
フレディは右手に砂のつぶてを集め、形を刃に変える。無数の刃の群れを、彼は忍を守ろうとするジョーに向けて放つ。ジョーは無事ではいられないと覚悟を決める。
そのとき、満身創痍の体を起き上がらせた忍が、ジョーを横に突き飛ばす。横転するジョーに優しく微笑んだ直後、忍の体を刃が突き刺した。
秋菜、ジョー、そして遅れて駆けつけた舞華が、傷ついて倒れていく忍を見て愕然となる。
「しの、ぶ・・・!?」
「忍さん!」
ジョーと舞華の悲痛の叫び。フレディが忍にとどめを刺すべく、さらにつぶてを放つ。
「ぐっ!」
そこへジョーが飛び込み、忍をかばってつぶてを背中に受ける。その攻撃で彼は倒れ、意識を失う。
「ジョー!」
再び上がる舞華の悲痛の叫び。フレディが眼を見開いて哄笑を上げる。
「無様!滑稽としか呼べぬ不様だな!その女はもう助からんというのに、それをかばって自分が傷つくとはな!」
フレディが高らかとあざ笑っているときだった。突如彼の背後から閃光が巻き起こり、その直後、その光が彼の体を通り過ぎていった。
何事かと思ってフレディが振り返ると、舞華が右手の刃を全力で振り抜いていた。
「何をしたのか知らんが、貴様もすぐに始末してやるからありがたく・・」
フレディが不敵な笑みを浮かべて舞華に近づこうとしたときだった。フレディの足が止まり、彼の意識が吹き飛んだ。
舞華はフレディに向けて全力の一閃を見舞った。これによってフレディの体が真っ二つに両断されたのだった。
切り裂かれたフレディが地面に触れる前に、その肉体が砂になって霧散した。激情に駆り立てられた舞華が呼吸を荒げ、気が落ち着かないまま座り込みそうになる。
だが舞華は何とか踏みとどまり、忍に詰め寄る。
「忍さん・・忍さん、しっかりして!忍さん!」
人間の姿に戻った舞華が忍に呼びかける。力を使い果たした忍も人間に戻る。
「舞華・・戻ってきたのか・・・」
「忍さん・・大丈夫です!すぐに病院に・・!」
答える忍に、舞華が安堵の笑みを見せる。体を支えようとする舞華に、忍が微笑んで首を横に振る。
「もう、いいんだ・・私には分かる・・もう助かりはしないと・・・」
「何勝手に諦めてるのよ!」
そこへ秋菜も駆け寄り、舞華と協力して忍を助けようとする。そして気絶していたジョーも眼を覚まし、彼女たちに眼を向ける。
「アンタ、ジョーのことが好きなんでしょ!私たちと同じように・・だったら諦めてないで、徹底的に足掻いてやるのよ!」
「秋菜・・・」
激励を入れる秋菜にも、忍は微笑を見せる。左肩を押さえながら、ジョーが忍の顔を見つめる。
「忍・・オレなんかのために、どうしてそこまで・・・!?」
「ジョー・・眼が覚めたのか・・・秋菜が言ったとおりだ・・お前が好きだから・・・」
問い詰めてくるジョーに、忍が自分の気持ちを素直に伝える。
「そしてお前や舞華や秋菜、みんなが私を好きでいてくれたから・・・お前たちの思いが、私に力を与えてくれたんだ・・・」
「忍・・・」
「ありがとう、みんな・・・みんなと出会えて、私は幸せだった・・・」
感謝の言葉をかけて、忍がジョーの手を取る。その直後、忍の手から力が抜け、彼女の体が石のように固くなる。
「忍・・・!?」
眼を見開くジョーの見つめる先で、忍の体が崩壊する。舞華と秋菜の腕の中で、忍の体が砂のように崩れ去っていく。
「忍!」
「忍さん!」
ジョーと舞華がたまらず叫ぶ。忍の亡骸を握り締め、ジョーが拳を地面に打ち付ける。
「忍・・どうして・・どうしてお前が・・・!」
悲しみと激情にさいなまれて、ジョーが大粒の涙をこぼす。地面を殴りつける彼の手からは、血があふれてきていた。
かけがえのない親友を失った舞華の心にも悲しみが宿っていた。
自分と大差ない年齢の大切な人を失うのは初めてのことだった。今までにない悲痛さにさいなまれて、舞華は胸が締め付けられる気分でいっぱいだった。
次回予告
「まさかフレディが倒されるとは・・」
「ガルヴォルスって、いったい何なんだろうね・・」
「オレは、忍の気持ちを大切にしたいと思ってる・・・」
「ついに来たか・・」
「この私がいる限り、あの娘は終わりだ。」