ガルヴォルスDesire 第8話「地脈の刺客」
クレインガルヴォルス、忍の前でブレイドガルヴォルスへの変身を遂げた舞華。舞華は刃の切っ先をキャンドルガルヴォルスに向ける。
「オレとやろうってか。だがそんなもんでオレの蝋の霧をかわせるのかな?」
哄笑を上げながら白い液体を吹き付ける怪物に、舞華は飛び上がり、刃を振り下ろす。怪物は横にずれてかわし、さらに液体を吹き付ける。
舞華は刃を振りかざして液体を振り払うが、液体を受けた刃の刀身が白く固まり、切れ味が消える。
「フッハハハハハ!もうその武器と右腕は使いもんにならなくなっただろ。次はどこを固めてやろうか?」
キャンドルガルヴォルスが勝ち誇り哄笑を上げる。しかし舞華に焦りの色はない。
三度放たれる液体をかわすと。左手を刃に変えて伸ばす。その攻撃に意表を突かれ、キャンドルガルヴォルスが右肩を貫かれる。
苦悶の表情を浮かべてその場にうずくまる怪物。舞華は左手の刃を元の長さに戻して、怪物に飛びかかる。
「ダメだ!深追いしてはいけない!」
そこへ忍の声がかかり、舞華が踏みとどまろうとする。そこへキャンドルガルヴォルスが液体を放ち、彼女の眼に付着する。
「キャッ!」
眼を攻撃されてたまらず悲鳴を上げる舞華。液体を受ける直前で眼を閉じていたため失明には至らなかったものの、眼が見えなくなってしまったことに変わりはない。
「無様だな!そんなんじゃオレがどこにいるのかも分からねぇよな!アッハハハハ!」
勝利を確信したキャンドルガルヴォルスが甲高い哄笑を上げる。あふれさせた蝋を凝固させて作り上げた剣を手にして、その切っ先を舞華に向ける。
「だがこのまま固めてもオレの腹の虫が治まらねぇ!まずは2、3ヶ所ぐらい痛い傷を着けてやるよ!」
キャンドルガルヴォルスが叫びながら剣を突き出す。だが舞華は左手の刃を振り上げて剣を弾き飛ばす。
「何っ!?」
動きを読まれたことに驚愕する怪物。そこへ舞華が刃を突きつけ、再び怪物の体を貫いた。
「バ、バカな・・・!?」
愕然となるキャンドルガルヴォルスが吐血する。
「眼は見えてないけど、風の流れとかで大体の位置は分かるんだよ。」
舞華が振り絞るように言いかける。その眼前で事切れたキャンドルガルヴォルスの体が固まり、そして砂になって崩壊した。持てる力を振り絞った舞華が前のめりに倒れ、疲労のあまりに呼吸を荒くする。
「舞華!」
忍が舞華に向けて呼びかける。キャンドルガルヴォルスの死によって拘束していた蝋が剥がれ落ち、彼女は舞華に駆け寄る。
「舞華、しっかりしろ!舞華!」
人間の姿に戻った舞華に呼びかける忍。その周囲で、蝋に包まれて動けなくなっていた秋菜や多くの人々が解放されていた。
デスピアのガルヴォルス要員であるキャンドルガルヴォルスと交戦した舞華の位置を特定したという報告を耳にして、フレディは作戦室に赴いていた。
「ようやく見つけましたか。しかもすぐ近くにあの女もいる。」
フレディが報告を思い返して不敵に微笑む。
「えぇ。しかも舞華は戦闘によって疲労している模様です。赴かれますか?」
「もちろん。私が到着するときにはある程度回復しているでしょうが、それは些細なことです。」
部下の言葉に淡々と答えると、フレディは舞華のいる英野町公園に向かった。
(久しぶりの戦いの興奮。剣崎舞華、あなたなら存分に味合わせてくれるでしょう・・)
戦いの快感に対する歓喜を覚え、フレディは笑みをこぼしていた。
戦いによる疲れでしばらく自力で立ち上がれなくなっていた舞華。秋菜と忍に支えられながら、彼女は公園内のベンチで横になっていた。
眼に蝋を受けたことで視力が弱まり、未だに視界がぼやけていた。
「舞華、大丈夫?眼はよくなった?」
秋菜が心配の面持ちで舞華に声をかける。
「秋菜ちゃん・・うん、平気。少し休んでれば治ると思うから・・」
舞華は眼を閉じたまま微笑み、秋菜に答える。
「だけど、少し冷やしたほうがいいかも。手伝うから行こう。」
「う、うん・・」
秋菜に促されて舞華は立ち上がり、近くのお手洗いに向かう。忍も冷静を保ったまま、2人についていく。
「お前も私と同じ境遇だったとは・・」
「私も驚いちゃいましたよ・・忍さんもガルヴォルスだったなんて・・」
互いに苦笑を浮かべる忍と舞華。その傍らで秋菜は深刻な心境を抱えていた。
「もしかして、町を出た、ううん、町を追い出された理由って、ガルヴォルスになってしまったから・・」
秋菜が口にした指摘に、忍は小さく頷いた。
「あんな姿、あんな力を見てしまったら、怖がらない人はまずいないだろう。私自身、変身することが怖いくらいだ・・」
「忍さん・・・」
物悲しい笑みを見せる忍に、舞華が困惑を覚える。すると忍は舞華の頬に手を添える。
「だがジョー、秋菜、舞華たちと出会えて、私はその怖さに負けない強さと勇気を得ることができた。私は、とても感謝している・・・」
「忍さん・・・ありがとう、忍さん・・」
忍の優しさを受けて、舞華が思わず涙をこぼしていた。
舞華たちの様子が気になったジョーは、仕事を終えて英野町公園に赴いていた。しばらく探したところで、彼は公園の片隅にいた彼女たちを発見する。
「舞華、秋菜、忍!」
ジョーの呼びかけを受けて、秋菜と忍が振り返る。舞華はぬらしたハンカチで眼を冷やしていた。
「ジョー、来たんだね。もう、公園はパニックになっちゃって・・」
「あぁ。どうやらそうらしいな・・舞華、どうしたんだ・・!?」
秋菜の声に答えた直後、ジョーは舞華の様子を見て声を荒げる。
「うん、ちょっと眼をやられちゃってね。でも大丈夫、すぐによくなりそうだから・・」
「そうか・・あんまりムチャすんなよ。お前はおてんばだからな。」
「一言余計。」
説明を入れたところでジョーにからかわれ、舞華が不満を口にする彼女が無事であることを確信して、ジョーは安堵の笑みをこぼす。
「それで、3人とも納得したか?いろいろ話し合って、少しは互いのことを分かり合えたか?」
ジョーがぶっきらぼうに問いかけると、忍と舞華が笑みをこぼす。
「心配は要らない。むしろ仲がよくなった気がしてる・・」
「私もだよ、ジョー。忍さん、すごく優しくて、私のほうが忍さんに感謝してるくらい・・」
互いに感嘆の言葉を交わす忍と舞華。気が合っている2人の様子を見て、秋菜とジョーが呆然となる。
「何だか意気投合しちまったな・・」
「そうね・・」
ジョーの呟きに秋菜が答える。ガルヴォルス同士、気が合うのだろうと考えつつも、別の何かが通じているのだろうと、彼女は信じた。
そんな彼らに近づく1人の男。男は周囲を気に留めず、舞華の眼前で立ち止まる。
「あなたが剣崎舞華ですか。」
男は不敵な笑みを浮かべて、目元にかけていたハンカチを外す舞華に声をかける。
「あなたは・・?」
「お初にお眼にかかります。私はデスピアのフレディ・ナックル。あなたに興味があるんです。」
男、フレディを前にして、舞華、秋菜、忍が緊迫を覚える。その横でジョーが疑問を浮かべていた。
「デスピア?おい、アンタ、悪ふざけならよそでやって・・」
気さくな態度で呼びかけたところで、突如飛び込んできたフレディの一蹴を受けるジョー。魂が吹き飛ぶような感覚に陥ると、彼は前のめりに倒れて気絶する。
「ジョー!」
忍がたまらず駆け寄り、ジョーに呼びかける。
(気絶しているだけだ・・・)
一瞬安堵を覚える忍。だが背後に立ちはだかるフレディの威圧感に緊迫を覚える。
「あなたもここにいましたか、藤堂忍。あなたのガルヴォルスとしての力。この私が見てあげましょう。」
言い放つフレディの頬に紋様が浮かび上がる。そして彼はモグラを思わせる怪物へと変身する。
「ガルヴォルス・・!?」
怪物の姿に秋菜が驚きの声をあげ、舞華もたまらず身構える。だがまだ視力が戻っていないため、足取りが覚束ない。
「この姿になってしまうと、何もかもが優しくなくなってしまう・・さぁ、変身してオレと戦うのだ!」
フレディが忍に鋭い視線を向けて言い放つ。人間の姿のときの紳士的な態度から一変、粗暴な態度を見せ付けていた。
「秋菜ちゃん、ジョーを連れてできるだけ逃げて。」
舞華が秋菜に向けて呼びかける。
「舞華、アンタはどうするのよ・・!?」
「忍さんを助けて、あのガルヴォルスをやっつける・・!」
舞華の言葉に、秋菜はたまらず反論する。
「ダ、ダメよ、舞華!そんな体で戦うなんて・・!」
「それでも、私は戦わなくちゃいけない・・忍さんを助けられるのは私だけ。そしてジョーを助けられるのは秋菜ちゃんだけだよ。」
舞華の返答に秋菜は戸惑いを見せる。舞華は強く決めたことはどんなことがあっても変えようとしない。秋菜はそう悟っていた。
「分かった。もう止めたりしない。だけど絶対無事で戻ってくること。」
「秋菜ちゃん・・・うんっ!」
了承した秋菜に、舞華が笑顔で頷く。そしてぼやけている視界の中で、舞華はフレディの姿を見ようとする。
「どういうつもりかは知らんが、眼が見えていないようだな。安心しろ、貴様がフラフラしている間に、オレは先にそこの女を相手にするから。」
フレディは舞華に言い放つと、忍に向けて歩み寄る。忍はたまらずクレインガルヴォルスに変身して迎え撃とうとする。
「そう焦るな。オレはじっくり楽しむタイプだ。すぐに終わらせるなんて無粋なマネはしないさ。」
フレディが忍をあざ笑いながら告げる。その直後、彼の周囲に突如砂煙が舞い上がる。
「それと、オレはあまり騒がしいのが嫌いでね。」
その砂煙が、周囲にいた人々を取り巻く。そしてその体に付着していき、動きを止めていく。
「オレは砂を操り、その砂を吹き付け、人間を石像のように固めることができる。オレを倒さない限り、元に戻すことはできんぞ。」
「ちょっと、あなた!周りの人は関係ないでしょ!今すぐ元に戻して!」
舞華が声を荒げると、フレディは哄笑をもらす。
「オレの周りにいるから悪いのだ。元に戻したいのなら、オレを見事倒してみるのだな。」
「なら私が相手をしてやる。舞華、お前は手を出さないでほしい。傷ついたお前を、これ以上傷つけさせるわけにはいかない・・!」
悠然とした態度を見せるフレディに、忍が真っ向から挑む。
「忍さん!」
舞華が呼び止めようとするのも聞かず、忍は翼を羽ばたかせて飛び上がる。そしてさらに羽ばたかせ、羽根の矢を解き放つ。
だがフレディの前に砂が舞い上がり、羽根を防ぐ壁を作り出した。
「その姿から、動きは速いほうだろう。だがオレの力は砂による固めだけではない。」
フレディは不敵な笑みを崩さずに、地面に右手をつける。すると忍の眼下から石の刃が飛び出してきた。
「何っ!?」
驚愕する忍に刃が伸びる。彼女はとっさに回避行動を取るが、刃は彼女の翼をかすめる。
「忍さん!」
舞華が忍に呼びかけるが、視界がまだぼやけており、真っ直ぐ進むことができない。
忍は空中で体勢を立て直すが、フレディの力に焦りを覚えていた。
(足元から攻撃を仕掛けてくるとは・・飛翔能力がなかったら、私でもかわせなかった・・!)
忍は胸中で毒づきながら、打開の策を必死に模索する。
「ムダな抵抗はやめておけ。今のがお前の限界なら、このオレには勝てないぞ。」
フレディは勝ち誇ると、両手をかざす。その眼前で砂が集まり、無数のつぶてへと変わる。
「この砂の砲弾、どこまでかわせるかな?」
そしてつぶてたちが忍に向かって放たれる。忍は翼をはためかせて回避を行うが、つぶては彼女を徐々に追い詰めていく。
そのつぶてのひとつが、ついに彼女の左腕に直撃する。
「ぐっ!」
その痛みに忍が顔を歪める。脱力して落下する彼女をさらにつぶてが命中していく。
「どうした!デスピアが捉えた貴様の底力というのは、ただの勘違いだったか!?」
フレディが忍をあざ笑い、地上に落下した彼女の頭上につぶてを集結させる。しかし忍は立ち上がることができない
「やれやれ、これでは拍子抜けだな。デスピアの尖兵に加わる資格もない。」
落胆をついたフレディがつぶてを操り、忍にとどめを刺そうとする。そのつぶてたちが突如真っ二つに両断される。
フレディが眉をひそめる先で、ブレイドガルヴォルスに変身した舞華が、右手の刃を構えていた。
「ま、舞華・・!」
何とか立ち上がった忍の前で、舞華がフレディを見据えていた。
「よく砲弾を切り裂けたな。眼のほうは治ったのか?」
「おかげさまで。秋菜ちゃんと忍さんのおかげだよ。」
不敵に笑うフレディに、舞華が自信のある笑みを見せて答える。
「だがその程度の力でオレを倒すなど、浅はかな行為に他ならん・・・まぁいいだろう。己の無力さ、敗北と死をもって実感するがいい・・・!」
眼を見開くフレディが、再び砂のつぶてを作り出す。舞華は刃を構えて攻撃に備える。
「オレの砲弾を破壊したことは誉めてやる。だが砲弾を生み出す砂はほぼ無尽蔵に存在している。貴様は徒労を繰り返した後、オレの手によって息の根を止められるのだ!」
「そんなもんに私は負けない!忍さんは私が守る!」
あくまで勝気でいるフレディに、舞華が負けじと言い放つ。彼女に向かってつぶての群れが飛びかかる。
舞華は刃を振りかざしてつぶてを次々と切り裂いていく。だがフレディの力によって、つぶてが次々と量産されていく。
(やっぱりきりがない。だったら力を使ってるあの人を叩く!)
舞華はつぶてを作り出しているフレディに向かって飛びかかり、刃を突き出す。だがその間に砂の壁がせり上がり、彼女の突進をさえぎる。
「その判断は正しい。だがそれはオレも分かりきっていたことだ。」
フレディが舞華に言い放つと、展開した砂の壁を突き破って飛びかかる。虚を突かれた舞華が、彼に顔をつかまれ、そのまま地面に叩きつけられる。
「うわっ!」
痛烈な衝撃を受けて、舞華が悲鳴を上げる。彼女の頭を地面に押し付けたまま、フレディが笑みをこぼす。
「確かに力はあるようだ。だがあまりに単純で直線的だ。それならどんなに力が強くても、対処は簡単だ。」
「こ、このぉ!放して!放してってば!もうっ!」
フレディの眼前で舞華が手を振り払おうとするが、彼の力は強く、もがくばかりだった。
「こんなに暴れるとはみっともない。だがこのまま力を与えたら、貴様の頭は地面にめり込むぞ。」
笑みを強めるフレディが、舞華をつかんでいる右手に力を込める。
「舞華!」
忍が叫ぶ前で、舞華にかつてない危機が及ぼうとしていた。
次回予告
「忍、お前・・・!?」
「これが私のもうひとつの姿だ・・・」
「このままで済むと思っているのか!」
「忍さん!」
「お前たちの思いが、私に力を与えてくれたんだ・・・」