ガルヴォルスDesire 第7話「想いの三重奏(トライアングル)」

 

 

 英野町から少し離れた小さな町。そこでは1人の少女が、自身が驚異の変貌を遂げたことにより、その町の人々からの迫害を受けていた。

 その変貌に彼女自身、動揺を隠せなかった。なぜ自分がこんなことになってしまったのか、全く分からなかった。

 人々から見放されたくない気持ちでいっぱいだったが、少女はその思いを胸に秘めて、今まで住んでいたこの町を後にした。

 

 遊園地でのひと時から数日が経ち、舞華たちは勉強とバイトの日々を続けていた。彼女たちがバイトに奮起していたときのことだった。

「ジョーくん、君にお客さんだ。」

「えっ?」

 冬矢に呼ばれて、ジョーが仕事の手を休めて、店の前に出る。そこで彼はそこで待っていた人物に当惑を覚える。

「久しぶりだな、ジョー・・」

「お前・・・!?

 声をかける少女に、ジョーは動揺をあらわにしていた。

 その様子を、接客をしている舞華は窓越しから眼にしていた。しかし2人が何を話しているのかまでは分からなかった。

(ジョー・・?)

 舞華が眼を向けていると、少女はジョーから離れていった。話が済んだのだろうか。舞華は疑問を感じていた。

 休憩室で立ち会ったところで、舞華はジョーに問いかけた。

「ジョー、さっきの人は誰なの?」

「あぁ・・ちょっとな・・」

 舞華の質問に、ジョーはあやふやな態度で答える。未だに疑問が残ったままだったが、舞華は追及することができなかった。

 

 その翌日の放課後、舞華と秋菜は下校の途中で寄り道し、軽い買い物をしていた。

「ねぇ、クレープ食べていかない?」

「えっ?・・うん、いいね。」

 秋菜の提案に舞華が同意して頷く。そんな舞華の眼にジョーの姿が飛び込んできた。

「あれ?・・秋菜ちゃん、あれ、ジョーじゃない?」

「えっ?」

 舞華の声に秋菜が眉をひそめる。ゆっくりと近づいてみると、ジョーは1人の少女とテーブル越しに話をしていた。

「ちょっと、誰よ、あの人・・!?

「知らないよ、私にだって・・!」

 小声で問い詰めてくる秋菜に、舞華が動揺を見せながら答える。

「と、とにかく、話を聞いてみたいと・・」

 舞華の言葉に秋菜は無言で頷く。2人は物陰からジョーと少女の話に耳を傾ける。

「そんなバカな話を信じろって言うのか?」

「私だって今でも信じられない・・だがそれは現実で、そのために私は町を出てきたんだ・・」

 呆れ気味に答えるジョーに、少女は深刻な面持ちで言いかける。

「そういえば、本当に久しぶりだな。昔はよく無邪気に遊んだものだ・・」

「・・あぁ。昔もバカみたいに遊びまわってたな・・」

 少女の言葉にジョーが感嘆の笑みをこぼす。

「今もあまり昔と変わっていないように見えるが・・」

「ほっとけ。」

「それで、お前の婚約者にされたときは、本当に驚いたよ。」

 ジョーと少女の会話に、舞華が当惑を覚える。

「ジ、ジョーの婚約者!?

 その横で秋菜がたまらず声を荒げる。その声にジョーと少女が気づいて振り向いてきた。

「舞華、秋菜、どうしたんだ、こんなところで?」

「う、ううん、何でもない!たまたま通りがかっただけで、ジョーの昔話なんて・・あ・・・」

 ジョーの問いかけに弁解を入れようとする秋菜だが、ぼろを出して唖然となってしまう。

「ジョー、この人たちは?」

「あ、あぁ。オレのクラスメイトの、剣崎舞華と水無月秋菜だ。」

 少女の問いかけにジョーが苦笑いを浮かべて答える。

「ち、ちょっと、その人、ジョーの何なのよ・・・?」

 舞華が困惑気味に問いかけると、少女が思わず笑みをこぼした。

「やはり聞かれていたのだな・・婚約といっても、私とジョーの親が断りなく決めようとしたことだ。今の私にそのつもりはないし、ジョーもそうは思っていないだろう。」

 苦笑いを浮かべて弁解する少女だが、舞華も秋菜も安堵を見せていなかった。すると少女は気を落ち着けて、改めて声をかける。

「自己紹介がまだだったな。私は藤堂忍(とうどうしのぶ)。ジョーとは古い付き合いになる。」

「ジョーの、幼馴染・・?」

 自己紹介する少女、忍に戸惑いを見せる舞華。

「実はジョーに直接相談したいことがあって、ここを訪れたんだ。それでやっとジョーを見つけて、今こうして話をしていたところだ。」

 忍が事情を説明するが、舞華は戸惑いを拭えず、秋菜は疑いの眼差しを向けている。

「イヤ、マジだって。お前らが考えてるようなやましいもんじゃないから。」

 ジョーも弁解を入れて忍を擁護しようとする。すると舞華が不満の面持ちになる。

「別にやましいことなんて考えてないわよ。ただお二人さん、仲がよさそうかなって。」

「あのなぁ・・」

 舞華の態度にジョーが呆れ顔を見せる。

「ジョー、今日はもういいよ。また時間を改めてからにしよう。」

「しかし忍・・」

 話題を切り上げようとする忍を、ジョーが呼び止めようとする。だが忍は微笑みながら首を横に振る。

「私自身、まだ分かっていないことだらけだ。あまり突き詰めて話をしても混乱してしまう。」

 忍はそういうと席を立ち、ジョーの呼び止めも聞かずにその場を後にした。

「忍・・・」

 ジョーが去っていく彼女を見つめて困惑を見せる。舞華も秋菜も動揺の色を隠せないでいた。

 

「ねぇ、忍さんって、ジョーとどういう関係なの?」

 翌朝の学校の教室で、舞華はジョーに問い詰めた。するとジョーは頭をかきながら、

「どうって、ただの幼馴染だよ。昔はよく話したり遊んだりしてたけど、忍の家が引っ越すことになって、それきり会ってなかったんだ。」

 ジョーが説明を入れるが、舞華は信用していない様子だった。

「あのなぁ、舞華、何か疑り深くなってないか?オレからしても、忍はオレよりしっかりしてる。悪いヤツとは言い切れねぇよ。昔からそうだったし、久しぶりに会ってもその点は変わってないと思うぞ。」

「そうやって忍さんのことに詳しくて、彼女をそこまで気にかけてるなら、私にかまけてることはないんじゃないかな。」

 あくまでジョーの弁解を聞き入れようとせず、悪ぶった態度を取ってしまう舞華。困り果てたジョーは、ため息をひとつついてから言いかける。

「だったらアイツと話をしてみるといいさ。そんでお前とアイツ、互いに納得するように話し合えればいいさ。」

 投げやり気味なジョーの態度に不満を抱きながらも、舞華は彼のこの案を受け入れた。

 

 ガルヴォルスが繁栄する世界を導こうとしているデスピア。その総帥、ブルースは、1人の人物に眼をつけていた。

「なるほど。この女がガルヴォルスへと覚醒したというのか。」

 ブルースは1枚の写真を眺めて、部下に言葉をかける。

「それで、その女はどうしている?」

「はい。町々を転々としていますが、位置は常につかんでいます。」

 部下の報告を受けて、ブルースが不敵に笑う。

「その女、見つけ次第連れてくるのだ。」

「その役目、この私が引き受けよう。」

 部下に命令を与えようとしていたブルースに、1人の男が声をかけてきた。長身、白髪の優男である。

「久しぶりです、ミスター・ブルース。」

「おぉ、本当に久しぶりだな、フレディ・ナックル。」

 紳士的な態度を取る男、フレディの登場に、ブルースが笑みを強める。

「各地に暗躍しているガルヴォルスの力を見てきましたが、あまり我らの尖兵としては役立ちませんね。」

「相変わらずお前の評価はノルマが高いな。だがお前の力量は上位であることに疑いはないがな。」

 失笑を見せるフレディに、ブルースも思わず笑みをこぼしていた。

「ではこの女の力量、私の眼で確かめることにしましょう。」

「あぁ。だが1人、始末してほしい者がいる。」

 ブルースが言いかけると、フレディが眉をひそめる。そしてブルースは、所持していた1枚の写真をフレディに見せた。

「剣崎舞華。我々デスピアに逆らうガルヴォルスだ。かなりの潜在能力を備えており、チャールズを倒している。」

「チャールズを?それは楽しみですな。分かりました。十分に楽しませてもらいますよ。」

「それはいいが、あまり派手に動くなよ。お前は興奮するとやりすぎるからな。」

「肝に銘じておきますよ。」

 ブルースの言葉を受け入れながら、フレディは部屋を出て行った。

「よろしいのですか?フレディ様だと、本当にやりすぎてしまうかもしれませんよ。」

 部下が心配を口にするが、ブルースは不敵な笑みを崩さなかった。

「あの剣崎舞華を始末するには、そこまでやるくらいが丁度いいだろう。それに、ヤツも本格的に戦わせてやらんと。」

 ブルースは舞華の始末をフレディに一任するのだった。

 

 ジョーに誘われるまま、舞華と秋菜はミナヅキへと赴いていた。そこで忍と落ち合うことになっていた。

「忍、待たせたな。2人を連れてくのに手間取った。」

「いや、私も今来たところだ。」

 声をかけるジョーに、テーブル席についていた忍が弁解を入れる。非を与えられて、舞華と秋菜が不満を覚えていた。

 ジョーがふとキッチンのほうに眼を向けると、冬矢が笑みをこぼしていた。そのことからジョーは忍の親切を見抜いた。

「お前はウソが下手だな。方便のウソでさえまともにつけない、真面目の塊のようなヤツだったからな。」

「そういうお前こそ、遠慮のなさの塊であることは相変わらずだな。」

 忍の返事にジョーは思わず気恥ずかしくなり、舞華が笑みを必死にこらえていた。

「それで、お前が抱えてる問題の解決の前に、お前に頼みごとがあるんだ。」

「頼みごと?」

 ジョーの言葉に忍が眉をひそめる。するとジョーは、後ろにいる舞華と秋菜を親指で指し示す。

「この2人の話し相手になってくれないか?舞華と秋菜、そしてお前、3人が納得いくまで話し合ってくれ。」

 ジョーの申し出に忍が舞華と秋菜に眼を向ける。2人は不審そうに見つめていたが、忍は笑みを見せた。

「分かった・・行こうか、2人とも。」

「え、えぇ・・私もアンタとじっくり話がしたいと思ってたんだから・・」

 淡々と言葉をかける忍に、秋菜が勝気な態度で返した。

 

 舞華、秋菜、忍の3人は、ひとまずミナヅキを出て、近くの公園にやってきた。

「で、ホントにアンタはジョーの何だっていうのよ?」

 秋菜が忍に向けて疑いの眼差しで問いかける。すると忍は苦笑いを浮かべて答える。

「昨日ジョーが言ってくれた通りだ。私はアイツの幼馴染で、婚約だとか恋話とかは、私とジョー、双方の親が仕立てようとした出任せだ。私自身、ジョーはよき親友だと思っている。それだけだ。」

「ホントに、ホントにそれだけなんですか・・・?」

 忍の弁解に、舞華が困惑気味に聞き返す。

「お前たちは本当に優しいんだな。そこまでジョーのことを気にかけている・・・」

「忍さん・・・」

 優しくかけてくる忍の言葉に、舞華は安堵を覚えて笑みをこぼす。だが秋菜は未だに納得していなかった。

「そういうアンタは、ジョーのことをどう思ってるの?」

「だから私はジョーを友達だと・・」

「そういうことを聞いてるんじゃないの!ジョーを愛してるかどうかってこと!」

 忍に対して感情的になる秋菜の言葉に、舞華が驚きを覚える。忍は微笑を崩さずに、秋菜の質問に答える。

「愛してないといってしまえばウソになるな。正直、自分の気持ちに整理がついていない状態なんだ・・」

「アンタ・・・」

 物悲しい笑みを浮かべる忍に、秋菜が当惑を見せる。

「確かにジョーのことは好きだ。だがそれが愛なのかどうかは私にも分からない・・」

 忍の心境を察して、舞華も秋菜も動揺を覚えていた。ジョーを想う心が3つ、揺らめいて交錯していた。

 そのとき、公園内に突如白い霧のようなものが舞い上がってきた。

「ち、ちょっと、何が・・!?

 秋菜が眼を見開いて声を荒げる。そして彼女たちは、異様な光景を目の当たりにした。

 公園内にいた人々がその白い霧に包まれ、次第に動きを鈍らせていく。舞華がその霧を手で振り払うと、その手が白く固まりかけていた。

「これは・・蝋だよ!ろうそくの・・!」

 手についた蝋を払いながら、舞華が説明を入れる。そのことに驚愕する秋菜が、周囲の人々が蝋の粉に包まれて蝋人形になっていくのを目の当たりにする。

 公園にて楽しく遊んでいた子供や女子高生たちが、次々と白く固まっていく。

「舞華、秋菜、ここにいたら危ない!すぐに逃げるんだ!」

 忍が舞華と秋菜に呼びかける。2人は慌てながら、公園から飛び出した。

「これ、もしかしてガルヴォルスじゃ・・!?

 混乱の公園に振り返った秋菜が言葉をもらす。

「姿を見せてきたか。計画通りに事が運ぶのは、いつでも気分がいいものだ。」

 そのとき、公園を見つめている舞華たちの背後から声がかかってきた。彼女たちが振り返った先には、1人の不良が不気味に笑っていた。

「もしかして、アンタがみんなを・・!」

「その通りだ。オレのこのガルヴォルスの力で、みんな蝋細工にしてやったぜ。アッハハハハ!」

 声をかける秋菜に、不良が哄笑を上げる。その頬に異様な紋様が浮かび上がると、ろうそくの怪物へと変身する。

「さて、貴様らは本格的に固めてやるからよ!」

 キャンドルガルヴォルスが両手をかざし、その手のひらから白い液体を噴射する。とっさに動いた舞華と忍は回避したが、秋菜はその液を浴びてしまう。

「秋菜ちゃん!」

 自分の身を守ろうとする体勢のまま固まった秋菜を目の当たりにして、舞華が驚愕する。そしてキャンドルガルヴォルスが哄笑を上げる。

「安心しなって!貴様らもすぐに蝋細工にしてやるさ!そんでデスピアの制圧完了の宴に飾ってやるよ!」

「デスピア!?・・あなた、デスピアの・・!?

 キャンドルガルヴォルスの口にした言葉に、舞華が驚愕する。その隣で忍も驚愕を覚えていた。

「さて、そろそろ茶番は終わりだ。一気に決めさせてもらうぜ。」

 怪物が右手から液体をあふれさせている。その前で忍は真剣な面持ちになる。

「舞華、教えてあげる。これが、私がジョーを頼った理由なんだ・・・」

 舞華に囁くように告げると、忍は全身に力を込める。彼女の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「忍、さん・・・!?

 その変貌に舞華が驚愕する。彼女の前で忍の姿が、鶴を思わせる怪物へと変身したのだ。

「貴様もガルヴォルスだったか・・だったら存分に楽しめそうだな。」

 キャンドルガルヴォルスが哄笑を上げて、右手を振りかざして液体を振りかける。忍は羽を広げて飛翔し、液体を回避する。

 忍は羽を羽ばたかせて、羽根の矢を解き放つ。キャンドルガルヴォルスは蝋を広げて壁を作り上げ、矢の群れを防ぐ。

 歯がゆさを覚える忍がすかさず飛び込み、羽と爪で相手を切り裂こうとする。するとキャンドルガルヴォルスが白い霧を放ち、忍の動きを止めようとする。

「し、しまった・・体が・・・!」

「フッハハハハ!やっと動きを封じたぞ!これからじっくり固めてやるからさ!」

 顔を歪める忍に、キャンドルガルヴォルスがゆっくりと近づいていく。その前に、真剣な面持ちの舞華が割り込んできた。

「お?貴様から固めてほしいってか?」

「ま、舞華・・・!」

 笑みをこぼす怪物と、当惑を見せる忍。

「忍さん、あなたと同じように、私にも秘密があるんです・・・」

 忍に言いかける舞華の頬に紋様が走る。そして彼女はブレイドガルヴォルスへと変身する。

「舞華、お前も・・・!?

 驚愕を覚える忍の前で、舞華は右手を刃に変えて、不気味な笑みを浮かべているキャンドルガルヴォルスを見据えていた。

 

 

次回予告

 

「お前も私と同じ境遇だったとは・・」

「何だか意気投合しちまったな・・」

「あなたが剣崎舞華ですか。」

「忍さんは私が守る!」

「己の無力さ、敗北と死をもって実感するがいい・・・!」

 

次回・「地脈の刺客」

 

 

作品集

 

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