ガルヴォルスDesire 第1話「出会いと目覚め」

 

 

もしかしたら、それは運命のいたずらだったのかもしれない。

 

ちょっとしたくだらない出来事が、未来さえも左右してしまうこともある。

だからどんなことがあっても、その出来事のひとつひとつを大事にしていく。

 

友情、愛情、正義。

自分の中にあるそれらを胸に秘めて、私たちは生きていく・・・

 

 

 都内に点在する英野町(ひでのまち)。その駅前で大きく深呼吸している1人の少女がいた。

 剣崎舞華(けんざきまいか)。16歳。腰まである茶髪に、高校生としては少し高めの背丈をしていることから大人に見られがちだが、無邪気で明るく、天真爛漫の性格をしている。

 舞華は故郷の田舎町から、とある事情でこの英野町に上京してきた。彼女にとって都会に来るのは初めての経験で、彼女は期待に胸を躍らせていた。

「んー、気持ちいいー♪都会っていろいろあるらしいから、何だかワクワクしちゃうなぁ〜♪」

 喜びのあまり、思わず笑みがこぼれてしまう舞華。通り過ぎていく人々が不審の眼差しを向けてきていることなど気に留めず、舞華は再び街に眼を向けた。

「さて、この街での住まいを探さないとね。とりあえず寝るとこだけは確保しとかないと。」

 気を取り直した舞華が駆け出し、街の中へと繰り出していった。

 彼女がまず向かったのは不動産屋だった。寝られる場所を求めて、彼女はできるだけ安い住まいを探した。

「うーん、1番安いものだったら・・このくらいしかないねぇ・・」

 だが不動産での最低限の家賃の物件でも、舞華の所持金で払えるものではなかった。彼女は肩を落として不動産屋を後にした。

「はぁ・・全然届かないなんて・・少しぐらい大丈夫かと思ったのに〜・・・」

 舞華は呟きながら、元気なく通りを歩いていた。しばらく歩いていると、突然背後から1人の男にぶつかった。

「あぶねぇな!気をつけろ!」

 男は舞華に文句を言って、そそくさに離れていった。きょとんとした面持ちで男を見送ろうとしたところで、舞華は違和感を覚えた。

「・・あっ!サイフがない!待って!サイフドロボー!」

 舞華は男に向かって叫び、慌てて駆け出した。

「泥棒!?

 その声に機敏に反応した1人の少女がいた。藍色のショートヘアに大人びた雰囲気の持ち主。

 少女は通り過ぎていった男を眼にすると、その男に向かって駆け出した。彼女は運動には自信があった。

 だがその少女の全力疾走を、舞華が追い抜いていった。抜かれる瞬間、少女は舞華の速さに眼を見開いた。

(何て速さ・・・!?

 驚きを覚える少女が見つめる先で、舞華はついに男に追いつき、背後から男に向かって飛びかかる。その突進を受けて、男が前のめりに倒れ、盗んだ財布を手放す。

「ちょっと!人の持ち物を取るなんてサイテーじゃない!」

「こ、このアマ!」

 言い放つ舞華に、男がいきり立って殴りかかろうとする。そこへ飛び込んできた少女の飛び蹴りが、男の顔面に命中した。

 男は倒れ込み、気絶して動かなくなる。その男を、少女は勝気を見せて頷く。

「まったく、女の子を殴ろうなんて、横暴極まりないんだから。」

「あの、ありがとうございます。助けてくれて・・・」

 舞華が自分の財布を拾いながら、少女に感謝の言葉をかける。すると少女が照れ笑いを浮かべて、

「いいよ、いいよ。単に曲がったことが大嫌いなだけなんだから。」

「とにかくありがとうございます。私は剣崎舞華。あなたは?」

「私?私は水無月秋菜(みなづきあきな)。16歳。」

「えっ!?16歳!?ビックリー!大学生かそれ以上かと思った・・」

 少女、秋菜の自己紹介に舞華が驚くと、秋菜が不満を浮かべる。

「失礼ね。私はまだ高校生よ。そういうあなたはいくつなの?まさかそれで私より年上ってことはないよね?」

「私も16だよ。でも周りはみんな子供っぽいって言ってくるんだよ。それこそ失礼しちゃうよ。」

「えっ!?アンタもなの!?うわぁ。てっきり中学生辺りかと思った。」

「もうっ!秋菜ちゃんまでそんなこと言うんだからー!」

 笑みをこぼす秋菜に、舞華がふくれっ面を見せる。

「おっと。こんなことしている場合じゃないんだった。早く住まいを探さないと。」

「住まい?」

 舞華の言葉に秋菜が眉をひそめる。

「実は1人暮らしがしてみたく上京してきたんだけど・・すぐに住まいが見つかると思ってたんだけど・・」

「住まい?どのくらいの家賃で・・?」

 秋菜が問いかけると、舞華はこっそりと答えた。そのあまりにも予想外の答えに、秋菜は唖然となった。

「アンタ、これだけの所持金で何とかなると思ってたの・・!?

「だって、まさかここまでの交通費だけで使い切りそうになるなんて思わなかったんだもん・・」

「呆れた。もう少し常識と計画を学んだら?」

 舞華の見解に秋菜が呆れて肩を落とす。

「しょうがないわね。住むとこに困ってるなら、私の家に来る?」

「家?」

「うん。私の両親、ちょっと洒落たお店を経営してるの。メニューも豊富だから、お客さんが多いよ。」

 疑問を投げかける舞華に、秋菜が笑顔で答える。そのとき、おなかの鳴る音が響き、2人が唖然となる。

 たまらずおはかを押さえて顔を赤らめる舞華。それを見て秋菜がたまらず笑みをこぼす。

「もう。笑わないでよ〜。」

「ゴメン、ゴメン。丁度いいからお店に来たら?私が賄ってあげる。」

 ふくれっ面になる舞華を、秋菜が苦笑いを浮かべて誘う。すると舞華は機嫌を直したかのように笑顔を取り戻す。

「そうだ。途中で私の通ってる学校を通るから、そこも紹介しておくね。」

「学校?もしかして・・」

 秋菜の言葉を聞いて、舞華は一途の期待を覚えた。

 

 私立正英(しょうえい)大付属高校。共学、中級学力の正英大学のエスカレーター式の高校である。

 秋菜はその高校の2年生であり、活気と強気を合わせた女子と噂されているが、本人はそのことに対して複雑な心境だった。

 その正門前にたどり着いた舞華と秋菜。その学校から活気を覚えて、舞華が眼を輝かせる。

「これが私が通ってる私立正英大付属高校。といっても、世間体としては普通だけど。」

「そうか・・秋菜ちゃん、私が転入する高校に通ってるんだぁ♪」

 舞華が口にした言葉に、秋菜が唖然となる。

「も、もしかしてアンタ・・・!?

「うん。ここに通う予定だよ。といっても、まだ住まいが決まってないから、いつから通い始めるかは分かんないんだけど・・」

 舞華の見解を目の当たりにして、秋菜が大きく肩を落とす。

「呆れた。そういうのは住むところが決まってからでしょ。」

「だって、すんなりいくと思ってたんだもん・・」

 秋菜が言いかけると、舞華も大きく肩を落とした。少し考えあぐねてから、秋菜が舞華に声をかけた。

「しょうがないわね。一応、家族に何とかしてもらえるか話してみるよ。」

「えっ!?ホント!?

 秋菜の言葉に舞華が満面の笑みを浮かべて喜ぶ。

「だけど、いくらうちの親が温厚だからって、あんまり期待しないでよね。」

 秋菜は言いかけて、改めて家に向かう。舞華も期待に胸を躍らせて、秋菜についていった。

 

 サンドウィッチバー「ミナヅキ」。様々なサンドイッチやおにぎりを調理、販売している店である。

 いろいろなメニューを取り揃えているこの店は、女子高生の来客が多いが、男性客も少なくない。

 その店の前にやってきた秋菜と舞華。ここは秋菜の住まいでもあるのだ。

「うわぁ。すごいお店だよ〜・・」

「この辺りじゃちょっとした有名店だからね。お客さんも結構多いよ。」

 感激を覚えている舞華に、秋菜が照れながら言いかける。そして店のほうに眼を向けると、来客が多く、店は慌しかった。

「あちゃー、これは相談を受けてもらえそうな落ち着きようじゃなさそうだねぇ。」

「ええー!?そんなー・・」

 秋菜の呟きに舞華が肩を落とし、その場で座り込んでしまった。

「とにかく、お店のほうを手伝ってくるから、ちょっと待ってて。勝手にどっかに行ったりしないでよ。」

 秋菜が舞華に告げて、店のほうに向かおうとした。

「お、秋菜じゃないか。そんなとこで何やってんだよ?」

 そこへ1人の青年が気さくに声をかけてきた。少し逆立った黒髪と長身、顔立ちのよさを兼ね備えた青年だった。

「何?ジョー、今日バイトだったっけ?」

「おい、そりゃねぇだろ。こっちだって所持金多いってわけじゃねぇんだからさ。」

 秋菜に言われて、青年、葛城(かつらぎ)ジョーが肩を落とす。そしてジョーは、未だに座り込んでいる舞華に眼を向ける。

「おいおい、オレにそんなハレンチなのを見せるつもりか?」

「えっ・・?」

 ジョーに指摘されて舞華がきょとんとなる。その直後、座り込んだ状態から、パンツが見えているのに気づく。

「う、うわっ!」

 舞華はたまらず赤面して、必死にスカートを整える。そしてゆっくりと視線を移すと、ジョーは気さくな笑みを崩していなかった。

「ち、ちょっと!普通気づかないフリするもんでしょ!なんて不謹慎な・・!」

「見えちまったんだからしょうがねぇだろ。見せてたおめぇがワリィんだよ。」

 抗議の声を上げる舞華だが、ジョーは全く謝意を見せずにこの場を立ち去っていった。

「全く!何なの、アイツは!」

「ゴメンね、舞華。ジョーはああいうふうに、ハッキリという性格だから。」

 憤慨をあらわにする舞華に、秋菜が弁解を入れる。しかし舞華の不機嫌さは治まらない。

「だからって、あんなデリカシーのない・・!」

「まぁまぁ、抑えて抑えて。それじゃ、私もお店の手伝いに行ってくるから。」

 秋菜は舞華をなだめると、そそくさに店のほうに向かっていった。だがしばらくして、秋菜のことが気がかりとなり、店の中に入ろうとした。

 するとウェイトレス姿の秋菜が飛び出してきた。

「あ、秋菜ちゃん!?

「あっ!舞華!ゴメンね。一応話はしといて、父さんも母さんも了承の方向で考えてくれてるみたいだから。」

 秋菜の言葉に舞華が感激をあらわにする。

「詳しい話は後でだって。それより輪ゴム買ってこなくちゃなんないから・・!」

「輪ゴム?」

「テイクアウト用の箱を留めるためよ。丁度切らしちゃって、近くで買って補おうってわけ。」

 疑問符を浮かべる舞華に、秋菜が説明を入れる。すると舞華が意気込みを見せて、

「それなら私が買ってくるよ!」

「えっ・・!?

 舞華の言葉に秋菜が驚きを見せる。

「もしかしたら住まわせてもらえるかもしれなから・・だからどんなことでも、少しでも手伝いたいの。」

「舞華・・・分かった。この先のT字路の角にお店があるから、そこに入って。」

 秋菜からお金を渡されて、舞華は買い物を任された。決意と自信を胸に秘めて、舞華は街に繰り出した。

 

 大通りから少し離れた裏通り。その細道を駆け抜けていく1人の女性がいた。

 女性は長い黒髪を揺らすほどにひたすら走り抜けていた。その表情からひどく怯えている心境が伺える。

 そんな彼女を追うもう1人の女性が追いかけてきていた。銀の滝のような挑発をしたその女性からは、不気味な雰囲気が漂ってきていた。

 やがて黒髪の女性が行き止まりで立ち止まり、背後に振り返る。その視線の先には、銀髪の女性が近づいていた。

「ちょっと・・何なのよ、あなたは・・!?

 黒髪の女性が悲観の叫びを上げる。すると銀髪の女性が不気味に微笑む。

「いいわねぇ、その表情・・その恐怖を永遠のものにしてあげるわ・・」

 銀髪の女性が告げると、突如全身を震わせる。その彼女の頬に異様な紋様が現れる。

 そしてその姿が人間ではない不気味な怪物へと変貌する。その容姿は軟体動物、ウミウシに酷似していた。

 カウフィッシュガルヴォルスの姿に、女性はさらに恐怖を覚え、悲鳴を上げる。するとカウフィッシュガルヴォルスが、口から白い液体を吐き出した。

 液体は女性の髪、衣服、体のところどころに付着する。粘り気のある液体をかけられて、女性が不快感を覚える。

 だが、女性が本当に恐怖するのはこれからだった。液体によって白くなっていた部分が一気に広がりだしたのだ。そして白くなった部分が、女性の意思に反して動かなくなった。

「ど、どうなってるの!?・・体が、動かない・・・!?

「その液は触れたものを石に変える効果があるのよ。ちょっと触っただけでも、全身に広がるわよ。ウフフフ・・」

 驚愕する女性に、怪物が不気味な笑みをこぼしながら答える。その間にも、女性に及ぼしている石化が全身に広がりだしていた。

「イヤ・・やめて・・・助けて・・・」

 必死に抗いながら助けを請う女性。だが彼女の願いも虚しく、その体は完全に白く冷たく固まってしまった。

「ウフフフ。いいわね、その表情。恐怖が満面に出てて・・私の心を満たしてくれる・・・」

 完全な石像と化した女性を見つめて、カウフィッシュガルヴォルスが歓喜をあらわにしていた。

 

 秋菜に言われたとおりにお店に向かい、輪ゴムを購入した舞華。彼女は笑顔を浮かべて、ミナヅキに戻ろうとしていた。

 そのとき、舞華はどこからか、女性の悲鳴を耳にして足を止める。緊迫を覚えつつ周囲を見回してみるが、見る限りでは何も事故や事件が起こったような雰囲気はない。

(どういうことなんだろう・・どっから・・・?)

 舞華はその悲鳴に導かれるように、通りから外れて小道を進んでいった。歩を進めていくうちに、次第に人気が少なくなっていく。

 しばらく進んだところで舞華は足を止める。張り詰める緊迫が襲いかかり、彼女は固唾を呑む。

 そして舞華は振り返った先に、女性の石像と、それを見つめて笑みを見せている不気味な怪物を目撃する。

「なっ・・な、な・・!?

 舞華が思わず声を荒げて、たまらず後ずさりする。その足音を耳にして、怪物がゆっくりと振り返る。

「おや?また1人獲物が現れたみたいだねぇ・・」

 怪物が舞華に眼を向けて不気味に呟く。異様な光景を目の当たりにして、舞華は緊迫を覚える。

「か、か、怪物!?・・撮影、じゃないよね・・カメラがどこにも見当たらないし・・・」

 思わず苦笑いを浮かべながら、舞華が視線を巡らせる。そしてこれが撮影でも幻でもなく、紛れもない現実であることを悟る。

「痛くないから安心してね。それにすぐ終わるから・・」

 カウフィッシュガルヴォルスが不気味に呟き、舞華に向かってゆっくりと近づき始める。

(冗談じゃないよ・・都会に来て早々、こんな怪物に襲われるなんて・・・)

 信じられない心境に陥る舞華が、次第に感情を高めていく。

「そんなのってないよ!」

 やがて高まった感情のまま叫ぶ舞華の頬に異様な紋様が浮かび上がる。そして彼女の姿が異質の怪物へと変貌した。

 鋭い刃のような突起が所々にあり、相手を射抜くような鋭い眼光を放っていた。

「これって・・どうなっちゃってるの、私・・・!?

 自身の変貌に驚きをあらわにする舞華。

「へぇ。あなたもガルヴォルスなの?私も少し驚いちゃった・・」

「ガルヴォルス・・・!?

 カウフィッシュガルヴォルスの呟くような言葉に、ブレイドガルヴォルスとなった舞華が疑問を投げかけた。

 

 

次回予告

 

「すごい・・私に、こんな力が・・・」

「なるほど、この娘か・・・」

「君を水無月家に迎え入れよう。」

「お前・・ここに入るのか・・・!?

「あなたの好き勝手にはさせないんだから!」

 

次回・「新たな生活と戦い」

 

 

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