ガルヴォルスBLOOD 第24話「刃」

 

 

 欲望をむき出しにして、トリスが小夜に向けて手を伸ばす。小夜が刀を鞘から引き抜いて振りかざすが、トリスは上に飛んでかわした。

「直線的な攻撃ではオレをやれないことは、お前たちなら分かっていると思うけど?」

 トリスが降下しながら小夜に迫る。

「あぁ、分かっている・・」

 そこへ白夜が飛びかかって爪を振りかざしてきた。トリスは白夜の手を払って、2人から離れて着地する。

「復讐を果たすために、オレは手段を選ばなかった・・今もオレはお前の息の根を止めることに手段を選ばない・・・!」

「言ってくれる・・それでこそ白夜ってもんだ・・」

 鋭い視線を向けてくる白夜に、トリスが悠然とした態度を取る。

「小夜に固執しているお前もオレのものにしてやるよ。それが少しばかりだったけどクロスファングの同僚だった仲としての手向けだ・・」

「オレを陥れておきながら、勝手なことを・・・!」

 笑みをこぼすトリスに、白夜が苛立ちを見せる。

「陥れた・・オレはとことん陥れたな・・お前だけじゃなく、クロスファングも含めて、オレの周りにいる連中みんなを騙してきた・・」

 語っていくトリスが、白夜から小夜に視線を向ける。

「そういう策略がうまいように見せてきたけど、やっぱり性に合わないな、どれだけたっても・・」

「もうそんな小賢しいことをしなくていい・・私はあなたの手の中から抜け出す・・・!」

 肩を落とすトリスに小夜が再び刀を振りかざす。トリスは軽い身のこなしで刀をかわしていく。

 そのとき、連続で振り下ろされていく刀に紛らわせるように、小夜が刀の鞘を振りかざしてきた。

「おっ!」

 鞘に体を叩かれて、トリスが声を上げる。さらに小夜が刀を振りかざしてくるが、トリスは見切ってかわす。

「分かってきているな。鞘も刀の一部、お前の一部だと・・」

 小夜に向けて悠然と話していく。

「その全ても、オレがものにして、手放さないようにする・・・!」

 トリスが右手を突き出して、念力を放つ。小夜が素早く動いてかわすが、トリスの左手からの念力に捕まってしまう。

「捕まえたぞ・・今度こそ・・今度こそお前を・・・!」

 トリスが改めて小夜に石化を仕掛けようとした。そこへ白夜がトリスを背後から爪を突き立ててきた。

「小夜とオレも、お前のものにはならない・・・!」

 白夜がトリスに鋭く言いかける。白夜の体から稲妻のようなオーラが発せられていた。

「そういわれると余計にほしくなるのがオレの性だ・・・!」

 トリスが全身に力を入れて、白夜を突き飛ばす。彼は右手を振りかざして念力を放ち、白夜を捕まえる。

「ぐっ!・・こ、この・・!」

 力を込める白夜だが、トリスの念力から抜け出すことができない。

「また2人仲良くしてもらおうかな・・さっきもそうだったからね・・」

 トリスが白夜を動かして、小夜にぶつける。2人が寄り添い合っている状態にして、トリスはさらに念力で動かしていく。

「今度こそ終わりだ・・今度こそものに・・・!」

「言ったはずだ・・オレも小夜もお前のものにはならないと・・・!」

 引き寄せようとするトリスに、白夜が低く言い返す。彼の首筋に小夜の牙が刺さっていた。

 白夜の血を吸っていた小夜の髪が紅く染まっていく。彼女は強化してトリスに攻撃しようとしていた。

「白夜の血を吸って、力にしているのか・・・」

「小夜・・オレの力を使え・・オレもお前も、こんなヤツに振り回されるわけにはいかない・・」

 トリスが呟く前で、白夜が小夜に呼びかける。小夜は目つきを鋭くして、全身に力を込めて念力を打ち破る。

「オレの力を破ってきたか・・だがオレの力はこんなものではないぞ!」

 トリスが念力を放とうと両手を前に突き出す。その瞬間、小夜がトリスの懐に飛び込んできた。

(速い!)

 トリスは即座に両手を振り下ろして、念力を下に仕掛ける。刀を振りかざそうとした小夜が、念力に押されて床に叩き落とされる。

「油断ならなくなってきたな・・だけどお前に血を吸われたことで、白夜は戦う力を失ってしまったみたいだな・・」

 小夜の強化された強さを実感しながら、トリスが彼女から白夜に視線を移す。

「これでオレが役立たずになったと勝手に思うな・・この程度で戦えなくなるほど、オレは弱くはない・・」

 白夜がトリスに向けて声を振り絞る。だが彼の呼吸は整っていない。

「口や頭と違って、体は正直というところか・・」

「いいえ・・白夜の力は失ってはいない・・・」

 悠然さを見せているトリスに、小夜が言葉を返す。

「私は白夜に全てを預けている・・でも白夜は、私に力を貸してくれる・・・」

 小夜が自分の気持ちを正直に口にしていく。彼女は手にしている刀を構える。

「私はまだ全てを失ってはいなかった・・・刀があり、鞘がある・・白夜という刃がある・・」

 小夜が構えた刀の切っ先をトリスに向ける。

「どんな不条理にも屈しない・・この刀で全て切り裂く・・お前も・・!」

「不条理・・オレも不条理か・・」

 小夜の決意を聞いて、トリスが笑みをこぼす。だがすぐに彼の表情から笑みが消えた。

「オレという不条理を斬れなければ、お前たちはオレのもの・・そうしてやるさ!」

 トリスが目を見開いて、小夜に飛びかかる。素早く動いた小夜がトリスの視界から消えた。

 次の瞬間、トリスの体に切り傷が付けられた。小夜が振りかざした刀が、トリスの体に傷をつけたのである。

 トリスが小夜に目を向けて、捕まえようと手を伸ばす。だがトリスは再び小夜に刀で切り付けられた。

(オレの動きも反応も、小夜に追い付かなくなっている・・これが、白夜から受け取って掛け合わせた小夜の力か・・・!)

 トリスが小夜の力に脅威を覚える。1度動きを止めた小夜が、トリスに鋭い視線を向ける。

「速さに重点を置くと、決定打を放てない・・それでもこのほうが、あなたには効率がいい・・」

「強くなっただけでなく、頭も冴えるか・・」

 低く告げる小夜に笑みを向けてから、トリスが意識を集中する。

「それでもお前がほしい!お前を捕まえてやる!」

 トリスが両手を突き出して念力を放ち、小夜の動きを奪う。彼女は動けないまま宙に持ち上げられる。

「このままお前をオブジェにする・・絶対に逃がさないぞ・・・!」

「私は、私たちは、どんなものにも屈したりしない!」

 目を見開くトリスに言い返して、小夜が全身に力を込めて刀を振り下ろす。切るような感覚で、彼女はトリスの念力を打ち破ってみせた。

「何だとっ・・・!?

 自分の力を打ち破られて、トリスが愕然となる。着地した小夜がトリスの眼前に刀の切っ先を突き付けてきた。

「諦めて・・もう私たちは、あなたのものにならない・・・!」

「言っただろ・・そういわれると、余計にものにしたくなるのがオレの性だ!」

 忠告を送る小夜に言い返して、トリスが彼女の刀の刀身をつまんだ。

「もう逃がさない・・攻撃も反撃もさせない・・・!」

「攻撃も反撃もできないのはあなたのほう・・・」

 迫ろうとしたトリスに対して、小夜が刀を振り上げた。刀はトリスがつかんでいた手を振り払い、彼に縦の傷をつけた。

 小夜に全く手も足も出なくなってしまったことに、トリスが愕然となった。彼は血しぶきをあふれさせながら、仰向けに倒れた。

 血まみれになって動けなくなったトリスを、近づいてきた小夜が見下ろす。

「私にはまだ残っている・・咲夜もチェリルさんも、私と白夜に思いを寄せてきている・・・」

 小夜が落ち着きを見せて、自分の思いを口にしていく。

「私は生きる・・私たちを信じた人たちの気持ちに押されながら・・・!」

 小夜がトリスに向けて刀を振り下ろす。刀がトリスの体に食い込んで切り付けた。

 深手を負わされたトリスには、ガルヴォルスとしての力を使う余力は残っていなかった。

「まさか・・力で・・オレの欲望が打ち砕かれるとは・・・」

 絶望感を感じるあまり、思わず笑みをこぼすトリス。倒れている彼を鞘と白夜が見下ろす。

「これで終わりだ・・クロスファングも、オレと小夜の復讐も・・・」

 白夜がトリスに向けて低く告げる。するとトリスが再び笑みをこぼす。

「復讐・・・満足したか・・お前たち・・・?」

 トリスが弱々しく声をかけるが、鞘も白夜も喜びも不満もない虚無感を感じていた。

「お前たちをものにできなくて・・残念だ・・・だけど、真っ直ぐに戦いを挑んでいくお前たちの姿に・・オレも興奮させられた・・・」

 トリスが頭の中で、小夜と白夜の姿と戦いを思い浮かべていく。自分たちの意思を貫いていく2人に、トリスは心を奪われていたと思っていた。

「ほしかった・・手にできれば・・オレは満たされただろうな・・・」

「オレはもう、他のヤツの言いなりにはならない・・お前たちのようなヤツが満足するようなことには絶対にさせない・・・」

 呟いていくトリスに、白夜が目つきを鋭くして言いかける。

「最後に・・これだけは言っておく・・・クロスファングも、世界の傘下の組織の1つに過ぎない・・お前たちは、今まで以上のお尋ね者となるぞ・・・」

「関係ない・・そいつらがお前たちと同じ手口を使ってくるなら、答えはもう決まっている・・」

「私たちを虐げてくるなら斬り捨てる・・それ以外の手段は私たちにはない・・・」

 忠告を送るトリスだが、白夜も小夜も考えを変えようとしない。

「本当・・どこまでもガンコなことだな・・お前たち・・・」

 笑みをこぼした直後、トリスの体が動かなくなった。彼の体が崩壊を引き起こして、小夜と白夜の前から消えていった。

「・・・終わった・・クロスファングとの因縁が・・・」

 小夜が戦意を消して、刀を鞘に収める。

「今回はな・・だが全てが終わったわけではないようだ・・・」

「クロスファングをさらに指揮している、上層部・・・」

 周りの廊下を見回す白夜の言葉を聞いて、小夜が目つきを鋭くして続ける。

「私の復讐の相手はクロスファング・・それ以外を斬るつもりは今のところない・・」

「お前の考えなど聞いていない・・と言いたいところだが、オレも同じ考えだ・・・」

 互いに自分の意思を口にする小夜と白夜。

「小夜に生き地獄を味わわせている・・オレを陥れたクロスファングは壊滅に陥る・・オレの復讐はとりあえずは終わった・・だがもしもオレたちの邪魔をするヤツが出てきたなら・・」

「斬り捨てる・・どんな理由でやってきても、自業自得にする・・・」

 揺るぎない意思を実感して、白夜と小夜が廊下を歩き出していった。

 

 トリスが命を落としたことで、彼に石化されていた女性たちが元に戻った。

「あ、あれ・・?」

「ここは、どこ?・・あたし・・・?」

「体が石になって・・・キャッ!裸!」

 石化が解けた女性たちが様々な反応を見せる。彼女たちは裸のままであるため、暗い地下の部屋から出ることができなくなっていた。

 クロスファングが事前にこのトリスの隠れ家の所在を探知していたのが幸いした。負傷者の保護に当たっていたクロスファングの兵士たちがこの隠れ家を訪れ、女性たちも保護したのだった。

 石化の恐怖に襲われていた女性たちであるが、その呪縛から解放されて、安心して家へと帰っていった。

 

「これは・・・!?

「こんなことって・・・!?

 クロスファングの本部に戻ってきた兵士たちが、そこでの悲惨な光景に驚きを感じていた。

「総司令官は・・総司令官はどちらに・・・」

「ターゲットBも・・日向白夜もいない・・・」

 兵士たちが廊下を見回すが、3人の姿を発見することはできなかった。

「総司令官が負けることなどありえない・・しかしなぜ我々の前から突然姿を・・・!?

「探さなければ・・総司令官が行方不明になどなってたまるものか!」

 兵士たちが慌ただしく本部内を探し回る。しかしトリスも小夜も白夜も、その手がかりさえも発見することができなかった。

 通信を使って連絡も試みたが、トリスの居場所はつかめなかった。彼が既に力尽きていたことを知ろうともせずに、兵士たちは捜索を続けるばかりとなっていた。

 この日の夜を迎えるまで続けられたトリスの捜索が打ち切られようとしていたときだった。上層部からトリスの死が伝えられた。

 トリスの死によってクロスファングの解体が決定された。だがそれは、今回の一連の出来事も含めて公にされなかった。

 

 小夜と白夜は、朱島高校の女子寮の近くに来ていた。2人は寮を見つめながら、これまでの出来事を思い返していた。

「ガルヴォルスやクロスファングと関わっていなかったら、私は今もここで暮らせていたのかな・・・?」

「そうだろうな・・ガルヴォルスに襲われていたとも考えられるが、それを考えたら生きた心地がしなくなる・・・」

 小夜の呟きに、白夜が憮然とした態度で答える。

「もう咲夜もいない・・学校のみんなもいない・・・どんなに願っても、楽しかったあの頃には戻れない・・・」

「戻れるなら、オレもあの時に戻りたいものだ・・家族みんないた、あの頃に・・・」

「あの頃・・白夜のあの頃は、私が奪ってしまった・・憎しみという刀で、切ってしまった・・・」

「今さら何を言おうと何をしようと、もうあの頃は戻らない・・こうして見つめていても、思い出しか湧いてこない・・悔しいが・・・」

 声をかけ合っていくうちに、悲しさと虚しさを膨らませていく小夜と白夜。寮を見つめていても、2人は安心できないでいた。

「そろそろ行くぞ・・不条理は、オレたちに同情はしない・・・」

「あなたも私も、同情なんてものを忘れてしまった・・周りもさせてくれない・・・」

 白夜が呼びかけ、小夜が立ち上がる。彼女の手には鞘に収められている刀が握られていた。

 新たなる追跡者を振り切るため、小夜と白夜は朱島を離れることにした。

 

 クロスファングの壊滅と、その要因となった小夜と白夜のマークに、国家の上層部は重点を置いていた。

「まさかこの2人にクロスファングを壊滅させられるとは・・」

「だがクロスファングは既にトリス・レイクの暴走が起きていた。こうなることは想定外だったとは言い切れない・・」

 上層部が今後の対策について会議を行っていた。

「トリスは力尽き、クロスファングは壊滅した。ヤツの自業自得ということだ・・」

「問題は紅小夜と日向白夜。2人ともクロスファングの技術と情報を得ている。このまま野放しするわけにはいかない。」

「すぐにガルヴォルス要員をこちらに呼び寄せなければ・・」

「それもかなり高い戦闘要員でなければ、足止めにもならない。」

「数よりも質か・・トリスのほうが全然力は格段に上のはずなのだが・・」

「だが決定的というわけではない。皮肉にもヤツ自身がそれを証明してしまった・・」

 苛立ち、笑み、期待、野心が入り乱れて、上層部の会議は私情を挟みながらも長く進められた。

 具体的な案を出せなかったものの、小夜と白夜の確保だけは心に決めていた。

 

 

次回

第25話「夜」

 

「邪魔をするなら容赦しない・・・」

「私たちは運命共同体・・」

「私が刀であなたが鞘・・」

「この血まみれの道を、どこまでも突き進んでいく・・・」

 

 

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