ガルヴォルスBLOOD 第23話「罪」
丈二との対決に決着をつけた白夜は、小夜と合流しようとしていた。だが小夜のいる場所に来た瞬間、白夜はリュウのすさまじい覇気を感じて息をのんだ。
「あれがリュウ・ガルベルトの、ガルヴォルスの姿と力・・・!?」
緊迫を募らせる白夜。小夜を突き飛ばしたところで、リュウが白夜に振り向いてきた。
「来たか、白夜・・丈二は命を落としたようだ・・」
リュウが白夜に向けて笑みを見せる。傷だらけになりながらも、小夜は立ち上がって刀を構える。
「強い・・今まで戦ってきたガルヴォルスの中で強い・・・いいえ・・トリスは特殊な能力を持っている・・・!」
リュウの強さを痛感する一方、トリスの特異の力を改めて実感する小夜。
「でも、たとえ相手がどんなに強くても、私はクロスファングとの因縁を終わらせる・・」
「言ってくれる・・日向白夜に生きる理由を預けているのに・・」
戦意を見せる小夜をリュウがあざ笑ってくる。
「だがそういう生き方を悪く言うつもりはない。私もクロスファングの隊長の座にいながら、上層部の指揮下で生きてきたのだから・・」
リュウが投げかけた言葉に小夜が眉をひそめる。
「私はクロスファングに忠実だった・・忠実になるという行為が、正義と秩序を見失うことになると分かっていながら・・」
「それで私たちにしたことが許されるわけではないでしょう・・・!?」
「そうだ・・それが私の犯した罪だ・・クロスファング隊長としても、私個人としても・・・」
目つきを鋭くする小夜に、リュウが表情を変えずに語りかけていく。
「強い力と権力を持ちながら、何の悪意も止めなかった・・隊長という地位も名誉も、ただの虚飾でしかない・・」
「その結果、あなたたちは私をムチャクチャにした・・このような体にして、咲夜やみんなまで・・・!」
「怒りと憎しみを抱えて、君はクロスファングに復讐をした。その結果、君は白夜の家族にまで手をかけ、白夜にも復讐の道を歩ませてしまった・・」
憎悪を見せる小夜に、リュウは話を続ける。
「だが不幸ばかりというわけでもない・・復讐を果たすための力を、君は持つことができた・・・」
「そんなの詭弁よ!私は力を持つことなんて望んでいなかった!」
「だが現に君は戦いに足を踏み入れ、生きるために、己の意思を貫くために戦ってきた・・それは君であろうと誰であろうと否定することはできない・・」
言い返す小夜だがリュウは冷静さを崩さずに話を続けていく。
「どんな事情や理由があろうと、戦いに投げ込まれてしまった以上、生き残ることに執着しなければならない・・君も白夜も、自分の生や誇示のために戦って、生き延びてきたではないか・・」
「それは・・・!」
「私も己の安泰のために、あらゆる手段を使ってきた・・もはやそれらは罪の領域となった・・」
困惑を見せる小夜に、リュウが自分自身への皮肉を口にする。
「死に陥ったとき、私は地獄に落ちる・・だが私は、まだ死ぬつもりはない・・」
リュウが小夜を鋭く見据えて、全身に力を込める。
「私にはまだ、果たさなければならない責務がある・・クロスファングが犯した罪は、隊長である私が償わせてもらう!」
「それが自己満足な詭弁だというのに!」
飛びかかってくるリュウを見据えて、小夜も刀を構えて全身に力を込める。刀を振りかざす彼女だが、リュウが繰り出した拳に刀ごと突き飛ばされる。
「そうだ・・私は詭弁を弄するばかりの罪人・・・」
ふらつく小夜を見据えて、リュウがさらに声をかけていく。
「こうして力を持ちながらも、無力同然となったまま・・それが私の、償いきれない罪だ・・・」
リュウが小夜の両肩をつかんで、大きく振り回して投げ飛ばす。空高く放り投げられた小夜が、リュウのいる場所に落下していく。
リュウが振り上げた右の拳が、落下してきた小夜の体に叩き込まれる。体全体を揺さぶられて、小夜が吐血する。
「これが意思の強さ・・己の生の執着の強さが力となる・・・」
リュウが小夜をつかみ上げて、力を込めて締め上げる。小夜はリュウがつかんでいる腕を振り払うことができない。
「そろそろ終焉としよう・・君も生き地獄を味わうのは辛いだろう・・・」
リュウが右手に力を込めて、小夜にとどめを刺そうとする。自分の力が通じないと思って、小夜が刀を下げる。
「このまま死ぬことは、オレが許さないぞ・・・!」
そのとき、白夜の声が小夜の耳に飛び込んできた。その声に突き動かされたかのように、彼女は目を見開いた。
小夜をつかみ上げていたリュウの左腕に切り傷が付けられた。鮮血と激痛で、リュウが思わず小夜から手を離してしまう。
リュウから離れた小夜の目は、血のように紅く染まっていた。
「私は今は生かされている・・ここで死ぬことは許されていない・・・」
「生かされている・・日向白夜に身を預けているのか・・・」
低く言ってくる小夜から、リュウが白夜に視線を移す。白夜はじっと小夜とリュウの戦いを見据えていた。
「クロスファングを滅ぼす・・私と白夜の血塗られた宿命を終わらせる・・・!」
小夜が飛びかかり、リュウに刀を振りかざす。速さも力も上がっていた小夜だが、続けてリュウの体に傷をつけることができない。
「その程度で何度も傷をつけられると思うな・・!」
リュウが鋭く言い放ち、小夜の体に拳を叩き込む。激痛に襲われる小夜が突き飛ばされ、白夜の前に転がってきた。
力を振り絞って立ち上がる小夜が、白夜の姿を視界に入れた。
「オレならこのままやられたりしない・・徹底的に抵抗する・・・!」
言葉を投げかけてくる白夜に突き動かされるように、小夜がゆっくりと立ち上がる。
「これ以上力を出すには血が足りない・・生き延びてと思っているなら、血を吸わせて・・・」
「・・・分かった・・それで終わらせろ・・・」
小夜の呼びかけを聞き入れて、白夜が抱き寄せる。小夜が白夜の首筋に牙を入れた。
小夜に血を吸われて、白夜が奇妙な感覚を覚える。吸血がもたらす恍惚が、彼の体を駆け巡っていた。
血を吸い終わり、小夜が白夜から牙を離した。
「ありがとう、白夜・・・あなたが分けてくれた血と力を込めた一撃で、この戦いを終わらせる・・・」
白夜に声をかけた小夜が、瞳を紅く輝かせる。瞳だけでなく、彼女は黒い髪も紅く染めていた。
「これが、血を力に変えるガルヴォルスの能力を最大限に引き出した姿か・・まさに吸血鬼そのものだ・・」
鋭い視線を向けてくる小夜を見て、リュウが笑みを浮かべる。
「どこまで力を上げているか知らんが、私はここでは引き下がるつもりはない・・・!」
リュウが全身に力を込めて、小夜を見据える。小夜は刀を構えてリュウに向かって飛びかかる。
リュウが小夜に向けて両手を突き出す。だが次の瞬間、激痛に襲われたのは小夜ではなくリュウのほうだった。
小夜が振りかざした刀が、リュウの体に斜めの傷をつけた。傷から鮮血があふれて、リュウがその場に膝をつく。
「これほどまでに力が上がっているとは・・・だが!」
リュウが激痛に耐えて振り返り、小夜に拳を振りかざす。
「引き下がらないと言ったはずだ!」
リュウが言い放った瞬間だった。小夜が振りかざした刀が、リュウの両腕を切り裂いて跳ね飛ばした。
全身が血まみれになって、その場に膝をつくリュウ。まともに戦うことができなくなった彼に振り返るも、小夜は追撃せずに刀を下げた。
「これが私が犯した罪に対する報いか・・己を貫くことすらも許してもらえぬとは・・」
敗北を皮肉に感じて、リュウが笑みをこぼす。
「・・・どうした?・・・とどめを刺さないのか・・・?」
「この姿の相手にとどめを刺すのは気が進まないし、何もしなくても、あなたは時期に死ぬ・・・」
問いを投げかけるリュウに、小夜が戦意を和らげて言い返す。
「それにここですぐ命を絶つよりも生き地獄を味わわせてから本当の地獄に落としたほうが、復讐としては達成感がある・・」
リュウに言ってきたのは小夜ではなく、歩み寄ってきた白夜だった。
「紅小夜は、すっかりお前の手玉に取られているようだな・・それがお前の鞘に対する復讐のやり方か・・」
「小夜を自分が望むような死に方はさせない・・アンタと同じように生き地獄を味わわせる・・・」
笑みをこぼすリュウに、白夜が表情を変えずに言葉を返す。
「分かっていると思うが・・私から言わせてもらう・・トリスを侮るな・・・」
リュウが小夜と白夜に向けて忠告を送る。
「力が強いだけでなく、能力も特殊だ・・一瞬の隙でさえ命取りとなる・・・」
「分かっているわ・・私と白夜は、そのことを身を以て体感しているから・・・」
小夜がリュウに向けて言葉を返す。彼女も白夜もトリスの念力と石化を受けたことを思い出していた。
「だがチェリルがオレたちの石化を解いてくれた・・自分の命を捨てて・・・」
「チェリルが・・力を使って、お前たちを・・・」
白夜の話を聞いて、リュウは把握した。1度トリスの手に落ちた小夜と白夜が再び現れた理由を。
「丈二も倒れ、私も命を終えようとしている・・これで私は、クロスファングに対して未練も後悔もない・・・」
リュウが笑みを見せたまま倒れる。血だまりの中で横たわる彼を、小夜と白夜が見下ろす。
「私も・・・束縛から解放できる・・・」
安堵を感じたリュウの体が崩壊していった。消えていった彼を、小夜と白夜が歯がゆさを感じながら見送った。
「嫌々ながらクロスファングに組している人もいたはずだった・・でも・・・」
「そこまで気にしてやるほど、オレもお前も穏やかではない・・」
刀を鞘に収める小夜と、人間の姿に戻る白夜。2人が顔を上げて、クロスファングの本部の奥に振り向く。
「行くぞ・・他のヤツらも叩いて、トリスを引きずり出す・・」
白夜の呼びかけに小夜が頷く。2人はさらにクロスファングの本部の奥へと進んでいった。
クロスファングの本部に戻ってきたトリス。彼は本部の中で血まみれで倒れている兵士や研究員たちを目の当たりにした。
「小夜と白夜の仕業か・・2人らしいというべきか、派手にやったもんだ・・」
トリスが肩を落として廊下を進んでいく。その途中、彼の前に兵士が1人駆け込んできた。
「総司令官、お戻りになられましたか・・・申し訳ありません・・本部を守ることができませんでした・・・」
「いや、よくやってくれた・・ここからはオレが2人を止める。お前たちは負傷者を避難させろ。」
頭を下げる兵士にトリスが指示を送る。
「ですが、本部をヤツらに明け渡すようなことは・・」
「オレがそう簡単にやられないって。後のことはオレに全部任せとけって。」
困惑する兵士にトリスがさらに呼びかけた。
「了解しました・・ご無事で・・・」
兵士はトリスに敬礼を送って、この場を離れた。
(そうだ・・ここからはオレがやる・・オレの野心と欲望が踏み込むときだ・・)
トリスは心の中で、小夜を手に入れることを強く考えていた。
(クロスファングの部隊は全てこの本部から出ることになる・・たとえ残っていたとしても、オレの排除の対象となるだけだ・・)
小夜を手に入れるために、今の自分の全てを切り捨てようとしていたトリス。彼女の掌握と比べて、彼にとって地位も権力も取るに足らないものでしかなかった。
リュウと丈二との戦いを経て、小夜と白夜はさらに本部の奥に進んでいた。その途中、2人は本部内の状況に違和感を感じていた。
「おかしい・・・人がいなさすぎる・・・」
「あぁ・・オレたちが倒したヤツらはいたが、ここにはその死体も転がっていない・・」
疑念を感じながら、小夜と白夜が周りを見回す。2人は改めて周囲の気配を探った。
「まさかお前たちのほうからオレを探してきてくれるとは・・」
突然かけられた声に、小夜と白夜が目つきを鋭くする。2人の後ろにトリスが現れた。
「丈二もリュウもお前たちに倒されたか・・2人はクロスファングの一員として、よくやってくれた・・」
「あなたが陥れておきながら・・・」
悠然と声をかけてくるトリスに、小夜が振り向きざまに鋭い視線を向ける。
「何ものにも囚われずに自分だけに忠実なのは、オレもお前たちも同じだろう・・」
「何の関係のないヤツまで手にかけるお前たちと一緒にするな・・!」
さらに言いかけるトリスに、白夜も鋭く言葉を返してきた。
「何の関係のないヤツ、ねぇ・・自分のことを棚に上げても、説得力ないぞ。でなかったら、お前たちはここまで辛い思いをしなかったかもな・・」
「どこまでも御託を並べて・・!」
トリスの言葉に憤慨する白夜が、ウルフガルヴォルスになって飛びかかる。だがトリスの右手から放たれた衝撃波で、白夜が吹き飛ばされる。
「チェリルの姿がないが・・もしかして、彼女がお前たちをオブジェから元に戻したのか・・・?」
「えぇ・・チェリルさんは、私と白夜のために・・・自分の命を・・・!」
トリスが投げかけた疑問に答えて、小夜が歯がゆさをあらわにする。自分と白夜を助けるために、チェリルは命と力を投げ打った。
「残念だ・・チェリルも魅力的と言えたのに・・・」
「人をもののように扱う考えが、苦痛を与えることになるというのに・・・!」
ため息をつくトリスを、小夜がさらに鋭くにらみつけてくる。
「強情なのは相変わらずだね・・そんなお前を、オレはどうしてもほしい・・・」
笑みを強めるトリスの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼がガルヴォルスとなって、小夜を見据える。
「今度は絶対に逃がさない・・オレなしでは絶対に元に戻せないように徹底してやる・・・!」
「そうはいかない・・咲夜の思いとチェリルさんの恩、ムダにするわけにはいかない・・・!」
野心と欲望をむき出しにするトリスに言い返して、小夜が刀を鞘から抜いた。
「刀を武器とする女子高生か・・お前はその刀に何も感じないのか?」
トリスが投げかけた言葉に、小夜が眉をひそめる。
「数多くの人やガルヴォルスを斬ってきた刀。にもかかわらず、折れるどころか刃こぼれも起きていない・・」
「確かに・・・これは・・」
トリスの言葉を受けて、小夜は自分が使ってきた刀に関する確信を覚える。
「そうだ・・その刀もお前の一部・・お前の戦う力が、刀として具現化しているということだ・・」
「私の一部・・これが、私の体の一部・・・」
「切れ味が鈍くなることがあるなら、それはお前の心という刀の切れ味が悪くなってるってことかな・・・」
戸惑いを見せる小夜に、トリスが淡々と語りかけてくる。
「その心の刀さえも、オレはものにしてやるぞ・・・」
トリスが小夜に向けて手を伸ばす。小夜は真剣な表情を見せて、自身の一部である刀を構えた。
次回
「私は白夜に全てを預けている・・」
「私はまだ全てを失ってはいなかった・・・」
「小夜・・オレの力を使え・・」
「私は生きる・・私たちを信じた人たちの気持ちに押されながら・・・!」