ガルヴォルスBLOOD 第22話「罰」
クロスファングに向かう小夜と白夜。2人はクロスファングの兵士による迎撃を受けることになったが、彼らは兵士たちを次々に撃退していった。
「数で止めようとしてもムダだというのに・・」
白夜が倒れている兵士たちを見下ろしてため息をつく。
「お前たちを気にしている時間もない。オレたちの目的はお前たちを手玉に取っているヤツだ・・」
言いかける白夜の脳裏にトリスの姿が浮かび上がる。
「自己満足のためにオレたちを弄んで・・このままには絶対にしておかない・・!」
「行きましょう・・たま兵士が来ないうちに・・・」
怒りを募らせる白夜に小夜が呼びかける。2人はクロスファング本部に向かって走り出していった。
クロスファング本部の敷地に足を踏み入れた小夜と白夜。多くの人数を駆り出されていたため、本部には兵士がほとんどいなかった。
「トリス・・どこにいるの・・・!?」
小夜が意識を集中させて五感を研ぎ澄ませる。彼女はトリスだけでなく、強力なガルヴォルスが本部にいるかも確かめていく。
「トリスはいない・・いないけど、強いガルヴォルスが他にいる・・・!」
「トリスの他に・・丈二か・・それともアイツか・・・!?」
小夜の言葉を聞いて、白夜が警戒を強める。
そのとき、小夜と白夜の耳に足音が入ってきた。足音は一定の間隔を保ったまま、徐々にはっきりとしてくる。
「襲撃という形でこのクロスファング本部を訪れてくるとは・・」
2人の前に現れたのはリュウだった。
「リュウ・ガルベルト・・・!」
「クロスファングを離反するとは・・もっとも、そういう行動に出ることは想定できたことだが・・」
目つきを鋭くする白夜に対して、リュウが態度を変えずに言いかける。
「私はクロスファング隊長であり、お前たちはクロスファングの敵。もはや対立する以外にないことは、お前たちも分かっているはずだ。」
「オレはオレを利用してきたクロスファングを倒す・・アンタも例外ではない・・・!」
言いかけてくるリュウに鋭い視線を向けて、白夜が身構える。彼と対峙しようとしたリュウだが、ふと視線をそらした。
「お前たちの相手はオレだけではなくなったな・・」
リュウの言葉に眉をひそめて、白夜が彼が視線を向けた先に振り向く。兵士たちに連れられる形で、丈二が姿を現した。
「アイツ・・・!」
丈二の登場に白夜がさらに敵意を募らせる。
「丈二、お前・・行動の制限を施されているな・・」
「はい・・トリスの意思のままに行動される・・無様なことです・・」
リュウが投げかけた言葉に、丈二が腑に落ちない面持ちを見せて答える。
「隊長、日向白夜は私が相手をします。ターゲットBはお任せします・・」
「そうか・・分かった。その通りにしよう・・」
丈二の言葉を聞き入れて、リュウが視線を小夜に移す。
「ターゲットB、紅小夜、お前の相手は私がしよう・・」
「クロスファングへの復讐が、私の最初の目的だった・・私の体をこのようにして、さらに咲夜の命を奪った・・・」
呼びかけてくるリュウに、小夜が低く告げる。
「本来ならあなたたちへの復讐で頭がいっぱいになっていた・・でも今は違う・・私が、私たちが生きるために、あなたたちを倒さなくてはならないの・・」
「生きるためか・・そちらのほうが立派な目的だな・・」
小夜の話を聞いて、リュウが笑みをこぼす。
「だが私はこれでもクロスファングの隊長だ。たとえ自分がまいた種だとしても、クロスファングを脅かす敵を野放しにするわけにはいかない・・!」
リュウが呼びかけて、小夜をおびき寄せる。
「ついてこい。白夜と戦おうとする丈二の意思を邪魔したくはない。」
「分かった・・あなたとも一騎打ちよ・・・!」
リュウからの挑戦を受けて、小夜は彼と一緒にこの場を離れた。兵士たちも離れて、そこには白夜と丈二の2人だけが残った。
「これでぞんぶんに戦えるか?」
「どこで戦おうとオレには関係ない。オレはガルヴォルスになってから、復讐の戦いを始めてからずっとそうしてきた・・」
「その復讐の相手を連れて、本部に乗り込んでくるとは・・どこまでも見下げ果てたものだな・・」
表情を変えずに言う白夜を丈二があざける。だが丈二が表情を曇らせていく。
「オレももはや罪人でしかない・・こうしてトリスの言いなりにされているのだからな・・」
「トリス・・お前・・!」
「トリスを断罪しようとして返り討ちにあい、逆らえないように施しをされた・・今のオレはヤツの命令で行動している・・愚の骨頂だ・・」
憤りを募らせる白夜に、丈二が歯がゆさを見せる。
「もはやオレには選択肢がない・・あるべき正義を貫くためには、こうするしかない・・・!」
声を振り絞る丈二の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「完全に拘束されたこの心身で唯一思い通りになることがある・・」
シャークガルヴォルスになった丈二が、白夜に鋭い視線を送る。
「せめてお前だけでも断罪する・・それがオレの譲れないもの・・・!」
「アイツの言いなりになってまで、オレの邪魔をするのか、お前は・・・!」
丈二に敵意を見せる白夜も、ウルフガルヴォルスに変身する。
「オレの邪魔をするなら、今度こそ叩き潰す!」
「オレが貫こうとしていたことは、間違いではなかった・・・!」
言い放つ白夜に向けて、丈二が笑みをこぼして迎え撃った。
リュウと対峙することになった小夜。小夜はリュウに刀の切っ先を向ける。
「ここで1つ聞く・・なぜ私をこのような体にした・・?」
小夜が冷静さを見せてリュウに問いかける。リュウはひと呼吸置いてから彼女の問いに答えた。
「あの研究は迫水時雨が指揮する研究班の見解が大きい。私が君に固執したのは、君がガルヴォルスとしての強靭な身体能力を得てからだ・・もっとも、そんなことは君には言い訳にしか聞こえないだろうが・・」
「そうよ・・私の人生を狂わせたのは、あなたたちクロスファング・・その隊長であるあなたを、私が許すと思っているの・・?」
「そうだな・・おそらく私は地獄に落ちるだろう・・だが私にも、決して譲れない信念というものがある・・」
小夜に答えてリュウが戦意を見せる。彼の頬に紋様が走る。
「私のガルヴォルスとしての姿を見た者は、おそらくわずかだろう。少なくともクロスファングの面々には、トリスも含めて誰にも見せていない・・」
リュウが龍を思わせる姿の怪物へと変わる。彼から放たれる戦意を痛感して、小夜が緊迫を覚える。
「これでも私はクロスファングの隊長に就いている。相応の力があることは予測できていたはずだろう・・」
「えぇ・・それでも私は、私たちは恐れて背を向けたりはしない・・!」
リュウに言い返して小夜が飛びかかる。彼女が刀を振りかざすが、リュウは左腕で防いでみせる。
「その勇気には敬服する。だが今までのように、その刀で私を斬れると思わないことだ・・・!」
リュウは低く告げると、小夜に右の拳を叩き込む。
「うっ!」
体が重い衝撃に襲われて、小夜がうめく。彼女は激しく突き飛ばされて、壁に叩きつけられる。
体に激痛を感じて、小夜が座り込むように倒れる。彼女の前にリュウが立ちはだかる。
「龍は力が強いだけでなく、鋼鉄以上の硬さの皮膚も持っているとされている。実際、私の力はガルヴォルスの中でもかなり上の戦闘力を備えている・・」
リュウが小夜を見下ろして語りかけていく。
「私の前では一瞬の油断でも死を招くことになる・・お前とで例外ではない・・・!」
リュウが小夜に向けて拳を繰り出す。小夜がとっさに横に動いてかわし、外れたリュウの拳が壁にめり込んで打ち砕いた。
ともにスピードを上げて、爪と角をぶつけ合う白夜と丈二。2人は互角の攻防を繰り広げていた。
「クロスファングの兵との戦いで力をつけたということか・・」
丈二が白夜の力を実感して呟く。
「いや、これはオレが弱くなったということか・・これだけオレの意思が束縛されれば、力が発揮できなくてもおかしくないということか・・・」
トリスの手玉に取られている自分に皮肉を覚える丈二。
「それでも、オレは正義と秩序を守らなければならない・・それだけは、どのような束縛や思惑にも屈しない・・・!」
「理屈ばかり言っていないで、自分の意思を貫けばいいだけのことだろう・・・!」
声を振り絞る丈二に白夜が呼びかけてきた。
「オレは小夜への復讐のために行動してきた・・邪魔するヤツも敵として・・お前も、お前の信じてきたもののために戦ってきたんじゃないのか!?」
「それを決めるのはオレではない。ましてお前やトリスなどという罪人でもない・・世界のあるべき正義は、既に定められている・・・」
「強情なヤツが・・自分の考えを押し付けたくて、ウズウズしているくせに・・!」
「強情なのはお前のほうだ・・過ちを正そうとせずに、自分のことだけを押し付けて・・・!」
呼びかけてくる白夜に、丈二が憎悪をむき出しにする。
「やはりお前を野放しにはできない・・お前たちの身勝手が正義を、世界を乱す・・・!」
「そうやって自分の屁理屈を正当化するための言い訳は、オレには通用しないぞ・・・!」
敵意をむき出しにする丈二に、白夜が飛びかかる。彼が繰り出してくる拳を、丈二が両腕で防いでいく。
「自分の考えも目的も全く貫けない・・そんな息の詰まる生き方、オレはゴメンだ!」
「それが過ちだということをなぜ分かろうとしない!?」
「自分の思い通りにならないことが、本当の正義なのか!?」
互いに問い詰める丈二と白夜。白夜が繰り出した拳が丈二の体に叩き込まれた。
「ぐっ!」
強い衝撃に襲われて、丈二がその場に膝をつく。痛みをこらえようとして震えている彼を、白夜が見下ろす。
「こんなくだらないのが、お前の守ろうとしている正義というヤツなのか!?」
「違う・・トリスに従うことが、本当の正義であるはずがない・・・!」
問い詰めてくる白夜に、丈二が声を振り絞って言い返す。
「あるべき秩序と平和に準じること・・これがオレの揺るぎない正義だ!」
丈二が立ち上がり、右腕を振りかざして角で白夜を狙う。だが白夜が振りかざした爪に防がれる。
「それをぶつけてこないなら、相手を止められるわけがないだろうが!」
「言ったはずだ・・今のオレは、トリスにいいようにされていると・・!」
「オレならその束縛、力ずくでも破る!死ぬ仕掛けになっていようと、オレは生き延びてやる!」
白夜が言い放った言葉に、頑なな意思を持っていた丈二が心を揺さぶられた。
(オレはオレの信じる正義を貫く・・・まさかコイツに、日向白夜に思い出されるとは・・・!)
「正義は・・お前やトリスなどに、動かされたりなどしない・・・!」
激高した丈二が全身に力を込める。彼は体の筋肉に力を入れて、戦闘力を高めた。
「正義もルールも関係ない・・オレはオレの決めた道を進む!」
「それが秩序を乱すことになるのだぞ!」
白夜に言い返して、丈二が腕を振りかざして角で切り付けようとする。白夜が全身から稲妻のようなオーラを放出する。
「オレたちが報われるなら、お前たちの言う秩序も敵だ・・・!」
白夜も右手に力を集中させる。彼が繰り出した拳が、丈二が振りかざした角を打ち砕いた。
「なっ・・・!?」
自分の力が破られたことに、丈二が愕然となる。白夜が丈二に向けて爪を振りかざした。
動きが鈍り、とどめを刺されると覚悟する丈二。だが白夜が爪を突き出してこない。
「どうした・・・今ならとどめを刺せたはずだぞ・・・!?」
「気が乗らない・・トリスの言いなりになっているお前を倒しても、後味が悪くなるだけだ・・・」
問い詰める丈二に白夜が憮然とした態度で答える。
「まずは首につけているものを外せ・・話はそれからだろう・・」
白夜が丈二に向けて告げると、背を向けて歩き出していく。丈二がその白夜に対して憤りをあらわにする。
「そこまで言うなら外してやろうではないか・・正義や秩序は、こんなもので縛れるものではない!」
丈二がいきり立って、首に設置されている機器をつかんだ。その瞬間、機器から激しい電撃が放たれ、丈二に激痛を与える。
「この程度の痛みなど、任務を果たせないことの苦痛に比べれば痛みのうちに入らない!」
「コイツ、強引に器具を外すつもりか!?」
「自殺行為に相当することだ!すぐにやめさせなければ!」
機器を外すことをやめない丈二に、監視していた兵士たちが驚きの声を上げる。彼を止めに行く兵士たちだが、白夜が行方を阻んできた。
「アイツは自分を貫こうとしている・・邪魔をするならオレが叩き潰す・・・!」
「血迷ったのか!?敵としているアイツを庇うとは!」
鋭く言い放つ白夜に、兵士たちが声を荒げる。
「何にしろ、貴様は我々に刃向かう敵だ!すぐに排除を!」
兵士の1人が白夜に銃を構え、もう1人が丈二に向かおうとする。だが2人とも白夜が振りかざした爪に切り裂かれた。
「オレは・・オレはトリスの言いなりにはならない!」
丈二が首の機器を力ずくで外す。その瞬間に彼の体に押し寄せる激痛が一気に高まった。
「がはっ!」
吐血した丈二が崩れるように倒れる。負傷が深く、彼はガルヴォルスから人間の姿に戻った。
力を使い果たして動けなくなった丈二の前に、白夜が立ってきた。
「やっと・・自分を貫けるところに来たか・・・」
「自分を貫く・・ここまで清々しいものだったとは・・・」
見下ろしてくる白夜に向けて、丈二が声を振り絞る。
「いや・・オレは忘れていた・・オレも白夜のように、ひたむきになっていたではないか・・・!」
丈二が残された力を振り絞って、白夜に向けて手を伸ばす。
「オレも・・オレもずっと・・お前のように、自分を貫きたかった・・・!」
歯がゆさをあらわにする丈二が、目から涙を流す。
「オレは・・あるべき正義のために・・・!」
自分の信じる正義を貫こうとする丈二の体が崩壊を引き起こした。命を散らした彼は白夜の見つめる前から姿を消した。
「どこまでもガンコなことだ・・オレが言えた義理ではないが・・・」
憮然とした態度で呟きかける白夜。彼は無意識に目から涙を流していた。
「これはオレの涙ではない・・これは・・チェリル・・・」
白夜は実感していた。今流している涙は、彼に宿っているチェリルの悲しみを表していることを。
“行こう、白夜・・小夜ちゃんが待ってる・・・”
(チェリル・・あぁ・・アイツがオレ以外のヤツに地獄に落とさせてたまるか・・・)
伝わってくるチェリルの声に心の中で答えて、白夜はリュウと交戦している小夜と合流するために歩き出した。
リュウの見せつける強靭な攻撃で、小夜が激しく壁に叩きつけられる。彼女はリュウに追い詰められていた。
「たとえ高い戦闘力を備えていても、まだ上には上があるということだ・・」
倒れている小夜を見下ろして、リュウが落ち着いたまま声をかけてくる。
「君の心情が分からないわけではない・・だが君が我々に牙を向くならば、我々は全力を持って排除する責務がある・・ターゲットB、紅小夜、ここで君に引導を渡してやるぞ・・」
リュウが両手を握りしめて、全身に力を込める。彼が見せる覇気に、小夜は緊迫を感じずにいられなかった。
次回
「どんな事情や理由があろうと、戦いに投げ込まれてしまった以上、生き残ることに執着しなければならない・・」
「強い力と権力を持ちながら、何の悪意も止めなかった・・」
「それが私の、償いきれない罪だ・・・」