ガルヴォルスBLOOD 第21話「契」
トリスの隠れ家から脱出した小夜と白夜は、街で新しい衣服を手に入れて身に着けた。白夜は自然とした衣服、小夜は朱島高校の制服に似た服を着た。
「この方がしっくりくるな。落ち着ける・・」
「私も、この方が動きやすいよ・・」
新しく着た服に安堵する白夜と小夜。
「ひとまずオレの家に行くぞ。1度体を休めておかないと・・」
「うん・・・」
白夜の呼びかけに小夜が頷く。2人はひとまず白夜の家に向かった。
丈二の騒動を聞いて、リュウはトリスに面会しようとした。だがクロスファングの本部にトリスはいなかった。
「総司令官はただ今外出中です。お引き取り願います。」
「そうか・・ならば総司令官に言伝をお願いしたい。神谷丈二の件、申し訳ありません、と・・」
呼びかける兵士に、リュウが呼びかけてきた。
「分かりました。そのようにお伝えしておきます。」
兵士たちが聞き入れると、リュウは去っていった。
(隊長の言葉は伝えておきましょう・・ですが、あなたへの監視は強化させることにします・・)
「ガルベルト隊長への監視を引き続き行うように。」
「了解。」
兵士が別の兵士に指示を出す。丈二だけでなく、リュウに対する監視も強まっていた。
小夜と白夜を追い求めて、トリスは街に繰り出していた。自分の素性を知られないように彼は変装をしていた。
(五感を研ぎ澄ませろ・・まだ小夜たちは近くにいるはずだ・・・)
ガルヴォルスとしての鋭い感覚を駆使して、トリスは小夜たちの居場所を探る。
(やはり街にいたか・・あれは白夜の家のあるほうだな・・)
トリスが小夜と白夜の気配を感じ取った。
(チェリルの気配を感じない・・彼女もいなくなったはずなのに・・・)
チェリルの気配を感じないことに、トリスは疑問を覚える。
(今は2人を捕まえることが先か・・迷っている場合ではない・・・!)
小夜と白夜を捕まえることを優先させて、トリスは走り出した。
白夜は小夜を連れて自分の家に来た。家には誰もおらず、暗さと静寂に包まれていた。
「白夜の家・・私はここで、白夜の家族を殺した・・私をこんな体にしたことへの復讐のために・・」
「お前がオレの家族を殺した・・その罪滅ぼしを、お前はこの一生でしてもらう・・・」
昔を思い出す小夜に、白夜が低く告げる。
「私もあなたも、クロスファングに、何もかもムチャクチャにされた・・お互いが何も悪さをしなかったと言ったらウソになるけど・・それでも、私たちは被害者・・・」
「全てクロスファングやガルヴォルスが仕掛けたこと、ということなのか・・・」
小夜の言葉を聞いて、白夜が歯がゆさを見せる。
「アイツらは命や人生を弄んでいる・・オレもお前も、アイツらの企みに振り回されている・・・」
「全ての元凶はクロスファング・・クロスファングを何とかするしかない・・・」
強い意思を示す白夜に、小夜も頷く。だが小夜が表情を曇らせた。
「でもまた、私は暴走してしまうかもしれない・・血に飢えて、自分を見失ってしまうかもしれない・・下手をしたら暴走して、関係ない人まで傷つけてしまうかもしれない・・」
「そうなったら、オレが力ずくで止めてやる・・」
自分を見失うことを恐れる小夜に、白夜が呼びかけてくる。
「オレはお前を倒すために戦ってきた・・それはお前を止めることと同じだ・・」
「白夜・・あなた・・・」
白夜が投げかける言葉に、小夜が戸惑いを覚える。
「お前は刀・・振った先のものを切り裂く刀だ・・だから、オレがお前の鞘になってやる・・」
「刀と、鞘・・諸刃の刃と変わらない鞘ね・・・」
呼びかけてくる白夜の言葉を聞いて、小夜が思わず苦笑いを浮かべた。
「でもありがとう・・でも、この刀を振るのはもう、あなただから・・・」
小夜が微笑んで白夜に寄り添った。
「私もあなたと一緒に、クロスファングとの決着をつける・・私たちの悲劇を、終わらせないと・・・」
「言われなくてもそのつもりでいる・・」
小夜が投げかけた言葉に白夜が言い返す。
「私は・・もう迷ったりしない・・・どうかなってしまうことを、私は恐れない・・・」
「言ってくれるな・・お前がまた暴走したなら、オレが力ずくでも押さえつけてやる・・!」
白夜が言葉を返して、小夜を強く抱きしめた。2人はそばのソファーに倒れ込んで、あつい抱擁を交わした。
2人はさらに肌の触れ合いをして互いのぬくもりを確かめ合う。
(そうだ・・コイツには相手を斬る刀がある・・見境なく振り回されるその刀を止める鞘に、オレがなるしかない・・)
小夜の体に触れながら、白夜が心の中で決意を呟いていく。
(オレは戦う・・オレの全てに決着をつけてやる・・そしてコイツに罪を償わせる・・)
白夜は意思を強めて、小夜にさらに触れていく。彼の接触と決意を、小夜は正面から受け入れようとしていた。
2人の抱擁はこの夜の間、続くことになった。
小夜と白夜を求めて、彼の家に向かうトリス。だが彼の前に2人の男が行く手を阻んできた。
「やはり紅小夜をあなたに独占させるのは腑に落ちませんね・・」
さらに現れたのは時雨だった。男たちはクロスファングが拘束したガルヴォルスで、時雨たち研究班によって洗脳されて彼の言う通りに動くようになっていた。
「いくらクロスファング総司令官と言えど、やっていいことといけないことの区別をつけてもらわなくては・・」
「ターゲットB、紅小夜を引き渡せ・・単刀直入に言えばそういうことだろう?」
呼びかけてくる時雨に、トリスが言葉を返す。
「さすがは総司令。話が早いですね・・」
「だけど、はい、いいですって言ってもらえると思ってる?」
「返答する必要はありませんよ。あなたの意思に関係なく、紅小夜を掌握することになるのですから・・ただ・・」
時雨がトリスに言いかけると、男たちの頬に紋様が走る。
「あなたに邪魔されるのが1番の問題なのです・・!」
時雨が目つきを鋭くすると、男たちがライオンとトラの姿の怪物へと変わった。
「1度しか聞きません。紅小夜の居場所を教えなさい。さもなくば、たとえ総司令官であるあなたでも容赦・・」
時雨が呼びかけていた途中で、突如ライオンガルヴォルスとタイガーガルヴォルスが血しぶきをまき散らしながら倒れた。
「容赦しないのはオレのほうだ・・・」
「バカな・・攻撃力の高い2人を選別したのに・・・!?」
低く告げてきたトリスに、時雨は驚愕を覚える。2人のガルヴォルスが事切れて、崩壊して消えていった。
「オレにとってクロスファング総司令官という地位に大した意味はない。オレの強さは権力ではなく、ガルヴォルスとしての力だ・・」
トリスが時雨の前でガルヴォルスに変身する。
「お前は2つの間違いをした。1つは小夜を奪おうとしたこと、そしてもう1つは、オレを怒らせたこと・・・!」
トリスが目つきを鋭くすると、時雨が体から血をあふれさせた。トリスの放つ衝撃波、かまいたちで体を切り裂かれたのである。
「ぐふっ!・・まだ私には・・やらなければならないことが・・・!」
時雨が血まみれの体を起こす。立ち上がってくる彼を見て、トリスがため息をつく。
「もう少しで・・もう少しで私の研究が完成する・・それを邪魔されてたまるものか・・・!」
「だからって、オレの邪魔をしてもらいたくないな・・・!」
声を振り絞る時雨を、トリスが右手を伸ばして念力で押さえつける。身動きの取れなくなった時雨の首を、トリスは念力でへし折った。
「お前さんの気難しい研究なんて、凡人のオレの頭じゃ理解できないんだよ・・・」
トリスが念力を解いて、時雨を地面に落とす。首の骨折と出血多量で、時雨は命を落とした。
「面倒なことになったな・・目撃者がいなかったのがせめてもの救いか・・」
人間の姿に戻ったトリスがため息まじりに呟く。
「さて、改めて小夜を連れ戻しに行くか・・・もう朝か・・・」
気を引き締めて歩き出そうとしたとき、トリスは夜の闇に差し込んできた朝日を目撃した。
抱擁の中、小夜と白夜は眠りについていた。2人は夜明け前に目を覚ました。
「もう朝か・・よほど疲れていたということか・・・」
白夜が外を見てため息をつく。
「この後にまた、体も心も休めるときが来るのだろうか・・もし来るとしたら、いつになるのか・・」
「今は考える気にならない・・トリスを倒し、クロスファングを倒す・・オレをここまで陥れたことを後悔させてやる・・・」
呟きかける小夜に白夜が自分の頑なな決意を口にしていく。
「そろそろ行くぞ・・本当はここも、クロスファングの監視の網にかかっていないといえない・・それなのに一晩落ち着けたのが不思議なくらいだ・・」
「見つかっても構わないと思っているけど、思い出の場所を壊されたくない・・白夜は、そう考えている・・・」
「オレの考えを勝手に言うな・・」
小夜が微笑みかけると、白夜が憮然とした態度を見せる。
「1度ここを離れよう・・クロスファングと戦うのはそれから・・・」
「長引かせてもオレたちが不利になるだけだ・・最初にトリスを倒す・・・」
言葉を交わしてから、白夜が小夜を抱き寄せた。
「いざとなったらオレの血を吸え・・オレとクロスファング以外のヤツから吸うな・・」
白夜が投げかけた言葉に、小夜が戸惑いを覚える。
「お前は血を力に変える。その血を無関係なヤツから奪うことはオレが許さない・・たとえ無意識にやろうとしてもだ・・」
「ありがとう、白夜・・私を支えてくれて・・・」
「お前のためではない。オレとオレの家族のためだ・・」
「それでもありがとう・・感謝したい・・・」
憮然とする白夜に小夜が微笑みかける。2人は気持ちを落ち着けてから、玄関のほうに目を向けた。
「行くぞ・・」
白夜に頷く小夜。2人は白夜の家を傷つけないため、クロスファングとの決着をつけるために外に飛び出していった。
トリスが白夜の家にたどり着いたのは、小夜と白夜が出ていって少ししてからだった。
「いない・・入れ違いになったか・・」
家の中に2人の気配がしないことを確かめるトリス。
(絶対に逃がさない・・どんなことをしてでも、小夜をこの手で・・・!)
野心と欲望を募らせていたところで、トリスに向けて通信が入ってきた。
「オレだ?何の用だ?」
“総司令官、ターゲットBが現れました!日向白夜も一緒です!”
応答したトリスの耳に、兵士の慌ただしい声が響いてきた。
(小夜と白夜が・・!?)
トリスはこの連絡に一気に緊張を膨らませる。彼はすぐに落ち着きを取り戻して、兵士に呼びかけた。
「オレが行くまで2人の行方を追い続けろ・・絶対に見失うな・・」
“了解!”
トリスの命令に答えて、兵士が通信を終える。
(とうとう見つかってしまったか・・ならばもう手段だけでなく自分の立場も関係ない・・何としてでも小夜を・・・!)
自分も小夜と白夜を捕まえようと、トリスも本格的に行動を起こした。
家を飛び出したところで、小夜と白夜はクロスファングの兵士に目撃された。だが小夜も白夜も歩みを止めずに、発砲してきた兵士たちを迎え撃った。
小夜が刀を手にして、放たれた弾丸を弾いていく。白夜もウルフガルヴォルスになって、兵士たちを攻撃していく。
「つ、強い・・!」
「データや予想を超えるパワーとスピードだ・・!」
攻め立ててくる小夜と白夜に、兵士たちが冷静さを失っていく。
「すぐに別部隊と合流しなければ・・今の戦力では、2人を足止めすることも・・!」
兵士が小夜と白夜から離れようとする。だが白夜に突き倒されて、さらに上から踏みつけられる。
「オレはオレを利用したお前たちを許すつもりはない・・容赦なく叩き潰す・・・!」
白夜は鋭く言うと、踏みつけていた兵士を蹴り飛ばす。横転する兵士が、すぐに立ち上がって白夜に向けて銃を構えた。
だが兵士は後ろから小夜に刀で貫かれた。
「往生際を悪くするなら、最初から出てくるな・・・!」
小夜は低く言ってから、兵士から剣を引き抜いた。
「行くぞ・・こんな相手に時間を割いているわけにはいかない・・」
白夜の呼びかけに小夜が頷く。2人はクロスファングの本部に向かっていく。
自分たちのことがどれだけ周りに知れ渡ろうと関係ない。自分たちを陥れたクロスファングに刀と牙を振り下ろす。2人の考えはただそれひとつだった。
小夜と白夜の行方をつかんだ知らせは、リュウの耳にも届いた。
(紅小夜と日向白夜、2人ともトリスの手に落ちずに生き延びていたか・・)
2人の建材に対して、リュウが笑みをこぼす。
(だが2人はもはやクロスファングの責務を阻む脅威でしかない・・それはもはや敵・・敵は我々自らの手で排除する以外にない・・)
「総司令官との連絡はついたのか?」
リュウが小夜、白夜と交戦している部隊との連絡を取った。
“はい。2人の行方を見失うなという命令です。”
「そうか・・私も出る。私もターゲットB打倒に乗り出す・・」
“了解。総司令官にも、再び連絡がつき次第、そのように伝えておきます・・”
兵士たちとの通信を終えると、リュウは本部から飛び出していった。
(トリスの好きにさせないためだ。紅小夜、日向白夜、お前たちは私が地獄に連れて行くぞ・・・!)
小夜と白夜を倒すことでトリスの野心を挫くことになると考え、リュウは戦いに赴くのだった。
同じ頃、トリスはクロスファング本部に連絡を入れていた。彼は完全な束縛に置いていた丈二を使おうとしていた。
「今、神谷丈二を出すのですか・・?」
“そうだ。オレたちに忠実となる隊員の中で、小夜と白夜とまともに戦えるのは丈二だけだ。アイツを出す。”
「ですが、神谷丈二は日向白夜と度重なる対立をしています。我々の秘匿が明るみに出ることになりかねません・・」
“もう状況は隠しきれないほどにまで悪化してきているんだぞ。この際完璧に隠し通せるものとは考えずに対処する。”
「総司令官・・了解しました。ただちに向かわせます・・」
トリスの言葉を受けて、兵士たちは通信を終えた。
「総司令官の命令だ。神谷丈二を出撃させる。」
「了解。」
兵士たちが声をかけて、独房にいる丈二の前に来た。
「あなたに任務が与えられました。言っておきますが、あなたに拒否権はありません。」
「本来ならオレはお前に従ったりはしない。が、今のオレにそれは許されない・・」
呼びかけてくる兵士に丈二が言葉を返す。
「ですがあなたにとって全く不本意というわけではありません。あなたが相手をするのは、ターゲットB、そして日向白夜です。」
「日向白夜か・・確かに全く不本意ではないな・・」
兵士の言葉を聞いて、丈二が無意識に笑みをこぼした。
「では2人の処分を遂行してもらう。」
兵士の命令に促されて、丈二は小夜と白夜の迎撃に出た。
次回
「オレももはや罪人でしかない・・」
「あるべき正義を貫くためには、こうするしかない・・・!」
「せめてお前だけでも断罪する・・」
「これがオレの揺るぎない正義だ!」