ガルヴォルスBLOOD 第20話「王」
小夜たちの捜索を1度打ち切ったクロスファング。組織の兵士たちが総司令官であるトリスを出迎えていた。
「ようこそ、総司令官殿。お待ちしておりました。」
「そんなにかしこまらなくていいって。オレはそういう堅苦しいのは苦手だから・・」
兵士の1人が一礼すると、トリスは気さくに答える。
「リュウ・ガルベルトと神谷丈二の監視を厳重に。不審な行動を取ったらすぐに拘束するように。」
「了解。」
トリスの指示を受けて兵士が敬礼を送る。
「オレは少し休む。何かあれば連絡を。」
トリスは兵士たちに告げてからこの場を離れた。兵士たちの姿が見えなくなったところで、彼は心の中で喜びを感じていた。
(クロスファングも、もうオレのための駒だ・・みんな、オレの言いなりに動く・・)
自分がクロスファングの最高の地位にいることを改めて実感するトリス。
(小夜はオレのもの。クロスファングも彼女に手を出すことはできなくなった・・オレの理想が完成された・・・)
喜びを膨らませて、トリスは歩を進めていく。彼は自分の満たされた気分を満喫することにした。
トリスの指示を受けて、兵士たちはリュウと丈二の監視を行った。だが兵士たちの動きをリュウはつかんでいた。
「総司令官の命令で、私を監視しているのか?」
リュウが動じずに声をかけてきた。突然声をかけられて、兵士たちが緊張を覚える。
「感づかれても姿を現さないか?ならば私が引っ張り出すという手段もあるが・・」
リュウに促される形で、兵士たちが彼に姿を見せた。
「改めて聞く。総司令官の命令か?」
「その通りです。詳細は隊長といえど、お話できません。」
問いかけるリュウに、兵士たちが毅然とした態度で答える。
「あなたには総司令への反逆の意思が見られます。わずかでもその行動を取られるようなら、処罰もやむをえません。」
「神谷丈二も、か?」
忠告を送る兵士に、リュウが1つの指摘をする。
「詮索も無用です。自分の置かれている現状を理解されるようお願いします・・」
リュウに忠告を投げかけてから、兵士たちは部屋を後にした。
(丈二、本当に軽率な行動はするな。お前の存在意義がなくなるぞ・・)
リュウが心の中で丈二への懸念を募らせていた。
束の間の休息を取っていたトリス。彼のいる部屋のドアがノックされることなく開かれた。
「ノックもしないで勝手に入ってくるとはな・・オレがそんなことを言えた義理はないけどな・・」
トリスが気さくに言いながら、ソファーから腰を上げる。彼のいる部屋に入ってきたのは丈二だった。
「一応聞くけど、部屋の前で警備してたヤツらは?」
「不本意ながら気絶させた。お前のようなヤツに従っている時点で、もはや過ちでしかない・・」
トリスの問いかけに、丈二が冷徹に言いかける。
「それで、オレをどうするのかな?」
「そんなことも予測できないとでも言うのか?」
さらに問いかけてくるトリスに、丈二がため息まじりに言葉を返す。
「トリス・レイク、お前を今ここで断罪する・・・!」
「断罪・・オレもすっかり嫌われたものだな・・・」
敵意をむき出しにする丈二に対し、トリスが笑みを消した。彼が左手をかざすと、丈二が突き飛ばされて部屋の壁に押し付けられた。
「念力・・人の姿で、これほどの威力が・・・!」
「敵になってくるヤツを受け入れてやるほど、オレはお人よしじゃないんでな・・」
うめく丈二に言いかけて、トリスが目つきを鋭くする。
「邪魔するならオレは容赦しない・・越権行為ってヤツも、平気でやってやるさ・・・」
本心を口にするトリス。そのとき、丈二の頬に紋様が走った。
「どこまで勝手をすれば気が済む、お前は・・!」
シャークガルヴォルスに変身した丈二が、全身に力を込めて念力を打ち破った。彼はそのままの勢いでトリスに飛びかかり、肘の角を振りかざす。
だがトリスは丈二の動きを見切って、角をかわしていく。
「速いな。白夜に負けないくらいに・・だけど・・」
トリスが丈二の腕をつかんで床に叩きつける。トリスの手を振り払おうとする丈二だが、トリスに足で押さえつけられる。
「攻撃してくるのが分かっていれば、よけることも受け止めることも難しくはない・・」
「オレの力を見極めたというのか・・・!?」
淡々と言いかけてくるトリスに、丈二が声を振り絞る。
「伊達にこれだけの力と地位を手にしてるわけじゃない。それなりの経験と実力はあるということさ・・」
「それでクロスファングと、秩序を掌握できるものか・・!」
気さくな素振りを見せるトリスに対し、丈二が全身に力を込める。彼はトリスの足を払いのけて、両手を体に叩き込んだ。
打撃を受けて怯んだトリス。丈二が間髪置かずに角を振りかざすが、トリスにかわされて腕をつかまれる。
「今のは効いたぞ・・オレも本気になってきたぞ・・・!」
トリスが目を見開いて、丈二の体に右手を叩き込んだ。
「がはっ!」
痛烈な一撃を受けて、丈二が吐血する。激痛に襲われた彼がその場に膝をつく。
「お前は昔から堅物だったな。自分やクロスファングの理念に忠実で、それを貫くためなら手段も厭わない・・」
トリスが丈二を見下ろして語りかける。
「いつも手厳しいお前の考え方には正直参ってた・・何とかしたいと思っていたくらいだ・・だけど嫌いでもなかった・・お前らしかったから・・」
「どこまでも勝手なことを・・このままには・・絶対にしておかない・・・!」
丈二がトリスに言い返して、力を振り絞って立ち上がる。
「かなり本気で当てたのに立ってくるとは・・お前も高いレベルのガルヴォルスの1人ということか・・」
「お前だけは必ず断罪する・・トリス・レイク、オレはお前を認めない!」
「この調子だと、クロスファング全員を敵に回しても、オレを敵として倒しにかかるか・・」
頑なな丈二をトリスが念力で吹き飛ばす。壁に叩きつけられて、丈二が再び吐血する。
「お前との時間、気に入っていたんだぞ・・今まで話に付き合ってくれて、ありがとうな・・」
トリスは念力で丈二を床に叩き伏せた。強い衝撃に襲われて、丈二は意識を失い、ガルヴォルスから元に戻った。
「総司令官!」
駆けつけた兵士たちが部屋に飛び込んできた。その中の数人が、気絶している丈二に銃口を向ける。
「申し訳ありません、総司令官・・神谷丈二を取り逃がしてしまいました・・申し訳ありません・・」
「そのことはいい。それより、丈二にギブスを取り付けろ。遠隔操作できるタイプのものをな・・」
頭を下げる兵士にトリスが呼びかける。
「神谷丈二を使うのですか・・!?」
「反逆者にこの程度の処罰では足りない、と言いたいんだろうが・・これだけの強力なガルヴォルス、切り捨てるのはもったいない・・」
驚きを覚える兵士に、トリスは気さくな笑みを浮かべた。丈二は兵士たちに部屋から連れ出された。
トリスによって石化されていた小夜、白夜、チェリル。静寂な部屋の中にいた中、小夜と白夜の石の体から光があふれ出してきた。
光を放っていた2人の体が石から元に戻った。
「も・・戻った・・・」
「間違いない・・本物の体だ・・・」
自分たちの石化が解かれたことを、小夜と白夜が実感する。
「チェリルさん・・・!」
小夜がチェリルに振り返る。しかしチェリルの体は石化されたままだった。
さらにチェリルの体に刻まれているヒビがさらに広がっていく。
「これは、まさか・・・!?」
白夜はチェリルの異変に目を見開く。
「待って、チェリルさん・・待って!」
小夜が手を伸ばすが、チェリルが壊れて崩れていった。
「チェリルさん!」
悲鳴を上げる小夜の前で、チェリルが崩壊して消えていった。白夜は改めて、チェリルが自分たちに全てを託したことを実感した。
「チェリル・・オレたちに力の全てを・・命を・・・」
「そんな形で元に戻れても、全然嬉しくないよ・・・チェリルさん・・・!」
歯がゆさを覚える白夜と、悲しみを膨らませる小夜。
“あたしなら・・ここにいるよ・・・”
そのとき、小夜と白夜の頭にチェリルの声が響いてきた。
「チェリル・・・!?」
「チェリルさん・・どこにいるの・・・!?」
白夜と小夜が周りを見回すが、チェリルの姿はない。
“白夜と小夜ちゃんの中にいるよ・・・”
2人に向けて再び声がかかった。
「チェリルさん・・もしかして、本当に私たちの中に・・・!?」
小夜は実感した。自分の中にチェリルの力と意識が存在していることを。
“さっきも言ったけど、あたしの命は白夜と小夜ちゃんに渡してる・・もうちょっとしたら、話をすることもできなくなる・・・”
「チェリルさん・・・こういう形で助かっても、私たちは嬉しくないわ・・・」
“ゴメン・・これはあたしのわがままだから、気にしなくていいよ・・・”
悲しみを膨らませていく小夜に、チェリルが優しく呼びかけていく。
“白夜、もう白夜の信じる道を進んで・・あたしにもクロスファングにも囚われなくていいから・・・”
「チェリル・・・オレは最初からそのつもりでやってきたぞ・・・」
呼びかけてくるチェリルに、白夜は憮然とした態度を取る。
“それでこそ白夜だよ・・・小夜ちゃん、白夜を助けてあげてね・・・”
「チェリルさん・・・」
チェリルに励まされて、小夜が戸惑いを募らせていく。
“あたしはいつでも、2人のそばについてるからね・・・白夜・・・”
小夜と白夜へのこの呼びかけを最後に、チェリルの声が聞こえなくなった。
「チェリル・・・」
チェリルのことを思い起こして、白夜が歯がゆさを募らせていた。だが彼はすぐに気分を落ち着かせようとした。
「行くぞ、小夜・・ここにいれば、トリスに見つかる・・・」
「チェリルさんがあんなことになって・・白夜は何も感じないの・・・?」
「チェリルのことを思うなら、すぐに行動を起こすべきだ・・アイツの思いを、ムダにするな・・・」
困惑を見せる小夜に、白夜が呼びかける。彼の言葉を受けて、小夜が突き動かされる。
「まずはここから出るぞ・・そしてトリスを今度こそ・・・!」
白夜の意思と怒りを小夜は無言で受け入れる。2人は命を投げ打ったチェリルと石化が解かれていない人々を気にしながらも、部屋を、トリスの隠れ家を抜け出した。
クロスファングは犯罪を犯したガルヴォルスを処罰してきた。その中には生き残ったまま拘束され、クロスファングの完全な監視下に置かれることになっていた。
そのガルヴォルスのいる牢獄に、トリスは足を踏み入れた。ガルヴォルスたちは力と転化を、錠で封じられていた。
「ここにいる連中を、クロスファングの完全な支配下に置くことはできるか?」
「もちろんですよ。記憶も精神も全て壊してしまえば、我々の忠実なしもべになりますよ・・」
トリスの質問に時雨が笑みをこぼして答える。
「だったらそいつらもクロスファングの戦闘員として活用しようか。いくら重罪だからって、高い力をムダに消すこともない。」
「さすが総司令官。活用できるものは最大限に活かすのが1番です。」
トリスの提案に時雨が賛同する。だが時雨の顔からふと笑みが消える。
「ですが、ターゲットBの管理をあなただけが請け負うのは、どうにも腑に落ちません・・」
「悪いな。彼女はオレのお気に入りなんだ。いくら研究が理由でも彼女は渡せないな・・」
「それで納得する私とお思いですか?」
「融通が利かないと、実力行使という手段もあるんだぞ・・」
不満を見せる時雨にトリスが鋭い視線を向ける。彼に殺気を向けられて、時雨が後ずさる。
「本当は納得できていないのですから、それだけはお忘れなきよう・・・!」
腑に落ちない心境を感じながら、時雨はトリスから離れていった。
(小夜は誰にも渡さない・・奪おうとするヤツがいるなら、オレは容赦しない・・)
小夜たちを独占しようとするトリスが、心の中で野心を募らせる。
(他のヤツらにオレの邪魔はさせない・・アイツにも、丈二にも逆らわせない・・・!)
「さて、そろそろ小夜たちのところに行くか・・アイツらの様子を確かめておかないと・・」
小夜たちの様子を確かめるため、トリスは自分の隠れ家に向かった。
地下と隠れ家をつなげる階段を発見した小夜と白夜。2人はその階段で地下を、そして隠れ家を脱出した。
その途中、小夜たちは隠れ家からトリスの衣服やシーツを身に着けた。
「アイツの服を着るのは納得がいかないな・・」
「私も・・ラフなのと派手なのばかりなのは・・・」
トリスの服装のセンスに、白夜も小夜も滅入っていた。だがこれ以外に着る服がなかったため、2人は仕方なく着ることにした。
「すぐに別の服に着替えてやるからな・・」
「それは私も同感・・」
白夜の言葉に小夜が頷く。2人は1度街に向かうことにした。
隠れ家の地下に戻ったトリスは目を疑った。石化したはずの小夜、白夜、チェリルの姿がなくなっていた。
「バカな!?・・いない、だと・・!?」
地下をくまなく探すトリス。だが地下のどこにも小夜たちの姿はなかった。
「隠れ家のことを知っているのはリュウと丈二だけ。だがリュウはまだ監視が続いていて、丈二は拘束してある・・誰にも小夜たちを連れ出すことはできない・・・!」
小夜たちがいなくなった原因を探るトリス。
「まさか、自力で石化を破ったというのか!?・・・ありえない・・そんなことありえないぞ・・・!」
納得できずにそばの壁に拳を叩きつけるトリス。特殊な金属はその強度のため、彼の打撃にも傷もつかなかった。
「ここはオレが探しに出るしかない・・他のヤツに知られたら、オレへの不審が一気に膨らむことになる・・・!」
小夜たちがいなくなったことに、トリスは焦りを募らせていく。
「どういうことなのか、真実を確かめなければ・・そして捕まえてまたオブジェにして、2度と石化を解かれないように徹底しておかないと・・・!」
感情をあらわにしたまま、トリスは小夜と白夜を探しに地下を後にした。
トリスの命令を受けて、兵士たちは丈二に特殊な器具を取り付けた。取り付けた相手の行動を制限するためのもので、ガルヴォルス相手にも有効である。
「これであなたは、我々の完全な支配下に置かれました。あなたは我々の命令に背くことはできなくなりました。」
「オレにこんなマネをして、ただで済むと思っているのか・・!?」
平然と告げてくる兵士に苛立ちを見せる丈二。器具を外そうとする丈二だが、器具から電撃が発せられた。
「ぐっ!」
電撃で思うように動けず、丈二がその場に膝をつく。
「我々の命令に逆らう、器具を外そうとする、いずれかの行動を起こせば、器具から電気が出る仕組みになっていることは、あなたにも分かっているはずです。」
「お前たち・・正しさを見失った分際で・・!」
「正しさは常に1つです。少なくともあなた個人の意見などで、本当の正しさが揺らぐことなどありません。」
苛立ちを募らせる丈二に対し、兵士たちは平然さを崩さない。
「別命があるまで独房にいるように、反抗や脱走は自分の首を絞めることになると覚えていただきましょう・・」
兵士たちは丈二に告げて去っていった。納得のいかない丈二だが、兵士たちの言いなりになる以外になかった。
次回
「アイツらは命や人生を弄んでいる・・」
「オレがお前の鞘になってやる・・」
「お前がまた暴走したなら、オレが力ずくでも押さえつけてやる・・!」
「私は・・もう迷ったりしない・・・」