ガルヴォルスBLOOD 第18話「想」
小夜、白夜、トリス、そしてチェリルの行方を追っていたクロスファング。チェリルの独断がリュウの耳に入ったところで、彼女から渡されていた発信器が鳴り出した。
「これはチェリルの・・我々の監視の目を阻んでいたチェリルが、我々に居場所を知らせてきた・・・」
リュウがチェリルの行動に疑念を抱く。
「チェリルの独断に賛同する形となってしまうが、3人を拘束できるならこのリスクも安いものだ・・・」
リュウは迷いを振り切って、兵士たちに指示を出した。
「これから言うポイントに急行しろ。そこにターゲットBたちがいるはずだ。」
リュウ自身もチェリルがいる場所に赴くのだった。
(私ももはや手段を選ばん・・私も我々のために、どのような罪を背負うことも厭わん・・・!)
トリスに捕まり、気絶させられたチェリル。彼女も下層の部屋に閉じ込められていた。
「あたし・・トリスに捕まって・・・」
意識を取り戻したチェリルが、記憶を思い返していく。起き上がろうとした彼女だが、能力の使い過ぎによる疲労でふらつき、しりもちをついてしまう。
「ハァ・・ハァ・・脱出するのはもうちょっと休んでからじゃないと成功しないかも・・すぐに出られる場所にいるわけでもないし・・」
呼吸を整えながら、チェリルは脱出のチャンスをうかがっていた。トリスが現れるのを注意しながら。
「目が覚めたみたいだな。だけど体力は回復してないみたいだけど・・」
チェリルが閉じ込められた部屋にトリスが入ってきた。
「トリス・・・白夜はどこ・・ここにいるんでしょ・・・!?」
「ここまで連れ込んだんだから、何も教えないわけにはいかないな・・」
問い詰めてくるチェリルに、トリスが悠然とした態度で言いかける。
「動けるようになったら言ってくれ。小夜と白夜のところに案内してやる・・」
トリスが投げかけてきた言葉に、チェリルは緊張を見せたまま頷いた。
(向こうは何も手を出してくることはなさそうだし・・お言葉に甘えて休ませてもらうわよ・・・)
トリスの出方をうかがいながら、チェリルは体力の回復を待つことにした。
チェリルの発信機が指し示していた地点に、リュウや丈二、クロスファングの兵士たちが続々と駆け付けた。彼らは谷を見下ろして、周囲の地形を警戒する。
「この辺りにチェリルが、ターゲットBが潜んでいるのか・・・」
丈二が周囲を見回して呟きかける。兵士たちは谷に下りることができず、立ち止まっていた。
「オレが谷に下ります。谷の下に何かあると踏むべきです。」
「待て。谷の下は危険だ。どこまで底があるか把握できていない。飛び込むのは危険だ。」
谷を降りようとした丈二をリュウが呼び止める。
「この周辺は既に調査が回っている。出入り口があるとすれば、目印のある外壁・・」
リュウは谷に向けて意識を集中させた。彼は谷の崖上に沿ってゆっくりと歩いていく。
そしてリュウはある場所で足を止めて、改めて谷を見下ろした。
「ここから23メートル下に横穴がある。その穴はこの地面の下にある空洞につながっている。」
「隊長・・ガルヴォルスとしての能力を・・・!?」
言いかけるリュウに丈二が声を荒げる。
「あまりガルヴォルスの力を使わないでください、隊長・・隊長の場合・・」
丈二が言いかけるが、リュウに左手を出されて口止めされる。
「そのことは他言無用だと言ったはずだ。絶対に口にするな・・」
「すみません、隊長・・・」
リュウに制されて丈二が頭を下げる。
「この谷は普通の人間が行ける地形ではない。オレと丈二で行く・・」
「いえ、今度こそオレが行きます。隊長がどうしても行くのでしたら、能力を使うのはまずオレが・・隊長には能力と体力を温存しておいてください・・」
「丈二・・・私の根負けだ。とりあえずお前の案で行ってみようか・・」
丈二の言い分を聞き入れて、リュウは谷に下りることにした。
「他の者はこの谷を包囲しつつ待機だ。緊急時は各個に対応しろ。」
「了解・・お気をつけて・・・」
丈二の指示に答えて、兵士が敬礼を送った。リュウと丈二は谷に向かって壁に沿って降りていった。
トリスに見張られながら、チェリルは体力の回復を待つことになった。しばらく待ってから彼女は立ち上がった。
「もういいよ・・白夜に会わせて・・・」
「あぁ・・ついてくるといい・・」
トリスが歩き出すと、チェリルは後について部屋を出た。2人は石化された美女たちが置かれている部屋に来た。
チェリルは目を疑っていた。彼女は石化された小夜と白夜を目撃していた。
「白夜・・そんなことって・・・!?」
変わり果てた2人を見つめて、チェリルが絶望を覚える。彼女が恐る恐る触れるが、2人は全く反応しない。
「何で・・何でこんなことを・・!?」
チェリルがトリスに鋭い視線を向ける。しかしトリスは悠然とした態度を変えない。
「ずっとものにしたかったのさ・・彼女、小夜をね・・」
「・・ターゲットB・・・」
トリスの言葉を耳にして、チェリルが小夜に目を向ける。
「きれいであるだけでなく強い彼女を手に入れるのが、オレの最大の目的だった。そしてとうとう、オレは小夜を手にすることができた・・」
「だったら何で白夜まで・・白夜は関係ないでしょ!?」
「白夜が、小夜にご執心だったからさ・・」
怒鳴るチェリルにトリスが言葉を返す。
「白夜が小夜を復讐しようとしていたことは、君も分かっていただろ?今のアイツは殺そうとせずに、小夜に罰を与えるために生き地獄を味わわそうとしていた・・」
トリスが語りながら、白夜の頬に手を添える。
「白夜は最後まで小夜を連れまわそうとしていた・・だからオレは白夜も一緒にオブジェにした・・」
「そんな・・白夜が、そんな・・・!」
トリスの話を聞いて、チェリルが絶望を痛感する。白夜が石化されたことだけでなく、白夜が小夜への感情を募らせていることも。
「これがオレの欲望さ・・魅力的な人をものにしないと気が済まない・・それがオレさ・・」
トリスは言いかけると、チェリルの腕をつかんできた。
「このまま野放しにしておくわけにはいかないな・・君もオブジェにしておかないと・・」
「あたしを裸の石に・・冗談じゃないって!」
チェリルが不満を見せて、トリスの手を振り払う。
「そんなことされるぐらいなら、あたしも徹底抗戦するんだから!」
「それはどうかな?君が自ら戦っているところを見たことがない。だからオペレーターの役割が多かった・・能ある鷹が爪を隠していたというのも考えられるが・・」
身構えるチェリルに対し、トリスは態度を変えない。
「試してみるかい?オレとしても、君がどれほどの力を持っているか確かめたい気持ちもあるし・・」
「今のあたしは手段を選ばない・・どんなことをしてでも、あたしは白夜を助ける!」
余裕を見せるトリスにチェリルが挑む。彼女はトリスの動きを見据えて、出方をうかがう。
「どうした?君からかかってきていいぞ。」
トリスがチェリルに向けて手招きする。しかしチェリルはトリスの挑発に乗らない。
「戦う力があるなら、戦えるという自覚があるなら、迷うことなくオレにかかってくるはずだ。いくら慎重であっても・・」
トリスがチェリルに向けて次々に言葉を投げかけていく。彼は彼女に戦える力がないことに気付いていた。
「だったらあたしのやり方、見せてあげるわよ!」
チェリルが言い放ってトリスに向かって走り出してきた。トリスは彼女に向けて右手を伸ばそうとした。
次の瞬間、チェリルがトリスの視界から消えた。彼女は石化している小夜と白夜を抱えて、部屋を飛び出した。
「まさか2人を連れ出して逃げるとはね・・」
トリスがため息をついてから、チェリルに向けて右手を伸ばす。彼の念力に捕まって、チェリルが動きを止められる。
「体が動かない・・念力・・・!?」
「そう簡単には逃がさないぞ。仮にオレの目から逃れても、この下層から抜け出すには地形を知らないと不可能と言ってもいい・・」
声を荒げるチェリルに、トリスが淡々と声をかけてくる。
「そこまで白夜を助け出したいか・・オレも執着していたから、その気持ちは分からなくもない・・だけどそれだけじゃオレから逃げられない・・」
「勝手なこと言わないで!・・あたしは白夜を助けるんだから・・・!」
言いかけるトリスにチェリルが言い返す。
「あたしの気持ちはもう決まってる・・クロスファングも、世界の全部を敵に回してでもいい・・!」
チェリルがトリルの念力に抗う。
「あたしは白夜を助ける・・あたしももう、手段を選ばないんだから!」
彼女が全身に力を込めて、強引に念力から抜け出そうとする。彼女の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
ガルヴォルスの力を発揮したチェリルが、トリスの念力を打ち破る。だが彼女は一気に体力を消耗してしまい、小夜、白夜とともに倒れてしまう。
「まさかオレの力を強引に破るとは・・だが力を使うと体力を大幅に消耗してしまうみたいだ・・」
トリスがチェリルを見下ろして呟きかける。
「オレが石化した人は壊れることはないが、あまり乱暴に扱われるのはいい気がしないな・・少しは丁寧に扱ってほしいな・・」
トリスが再び念力を放って、チェリルたちを持ち上げる。
「そんなに白夜と一緒にいたいなら、オレが望みどおりにしてやるさ・・」
笑みを強めるトリスの頬に紋様が浮かび上がる。彼の姿が異形のものへと変化していった。
「ガルヴォルス・・・!」
ガルヴォルスとなったトリスに、チェリルが警戒を強める。
「お前も白夜と同じになれるなら、不満じゃないだろ?」
トリスがチェリルに視線を向けたまま、額の目を開いた。
ドクンッ
トリスの額の目に見られて、チェリルが強い胸の高鳴りを覚える。
「い、今のが、白夜がかけられたのと同じ・・・!」
ピキッ パキッ パキッ
声を上げたチェリルの両足が石に変わる。彼女の靴がはじけて素足があらわになる。
「あ、足が、動かない・・!」
もがくチェリルだが、石化した両足は彼女の意思を受け付けない。
「君も永久不変のオブジェとなるんだ。君もその2人も変わることも老いることもなく、ずっと一緒にいることができる・・」
「だからって・・一方的に裸にされるなんて・・・!」
笑みをこぼすトリスにチェリルが恥ずかしさを見せる。
「君も実に魅力的だ。その点は認めているんだよ。」
「アンタにそんなこと言われたって、全然嬉しくないよ!」
手を差し伸べてくるトリスに言い返すチェリル。
「たとえ足を石にされていたって、まだ力は・・!」
「いや、石化が始まった時点でガルヴォルスになることはできない・・」
ピキッ ピキキッ
チェリルの言葉をトリスが言い返したときだった。石化が進行して、チェリルの衣服を引き裂いて素肌をさらけ出していく。
「君ももうこのままオブジェになるだけだ。だが悪いことばかりじゃないだろ。白夜と一緒に、いつまでもいられるんだから・・」
悠然と語りかけていくトリスに返す言葉が見つからなくなり、チェリルは苛立ちと恥じらいを募らせるしかなかった。
「・・ゴメン、白夜・・あたしにあなたを助ける力もなかったんだね・・・」
チェリルが白夜に向けて囁きかける。彼女が視線を小夜に移す。
「あたしもあなたのことを散々追いかけまわすようなことしてたけど、もういいよね・・・」
ピキキッ パキッ
小夜と白夜に寄り添ったチェリルが、さらなる石化に襲われる。2人を抱く彼女の腕や手の先まで固まり、動かなくなる。
「白夜と一緒にいられるのが・・不幸中の幸いかな・・・」
目から涙を流しながら、チェリルが白夜と小夜に寄り添った。
パキッ ピキッ
髪や頬にまで石に変わり、チェリルはほとんど動けなくなってしまった。
「こうなる前に・・分かり合うことができていたらよかったかな・・・」
ピキッ パキッ
唇も石に変わり、チェリルは白夜を見つめることしかできなくなっていた。
フッ
瞳も石となり、チェリルは完全に石化に包まれた。小夜と白夜に寄り添ったまま、彼女は全裸の石像と化した。
「これで君にとっての幸せが実現したことになるな・・」
トリスが動かなくなったチェリルの石の裸身を見つめて笑みをこぼす。
「完成されたオブジェだと思っていたけど、また華が咲いたようだ・・」
トリスがチェリルの頬に手を添える。彼は彼女から白夜に視線を移す。
「本当に幸せ者だな、白夜。2人の美女と一緒にいられるのだから・・」
そして白夜から小夜に視線を移すトリス。
「だけどオレとしては君のほうがいいな、小夜・・」
石化した3人を見渡して満足するトリス。人間の姿に戻った彼が、念力で3人を部屋に連れて行く。
「オレはオレの欲望を完璧なものとする・・欲望の最高の象徴となるお前たちを、オレは絶対に手放さないぞ・・」
笑みを消して野心を口にするトリス。彼は小夜たちを背にして、部屋を後にした。
トリスの隠れ家に通じる横穴を発見し、ついに足をつけたリュウと丈二。2人は警戒しながら空洞を進み、隠れ家につながる扉を見つけた。
「ここか・・これでは探し出せないわけだ・・」
「ですが見つけた以上、トリスの拘束は確実です。道を確保して、隊員たちの突入を可能にしなければ・・」
呟きかけるリュウに丈二が提案を持ちかける。
「人の住処に正当な理由も断りもなく土足で踏み込むつもりか?」
そのとき、背後から声をかけられてリュウと丈二が緊張を覚える。2人が振り返った先にはトリスがいた。
「トリス、姿を現したか・・・!」
「待て、丈二・・!」
トリスに詰め寄ろうとした丈二をリュウが呼び止める。
「あなただったのですか・・クロスファングの総司令官は・・・!?」
リュウがトリスに向けて問いかける。今のトリスは普段の私服ではなく軍服を身に着け、胸にはバッチがついていた。
「バカな・・トリスが、クロスファングの総司令・・・!?」
丈二は目を疑っていた。敵と見なしていたトリスがクロスファングの指揮をしていたことが、丈二には信じられなかった。
「まぁ、司令官ってガラじゃないんだけどな・・」
「なぜ、今回のようなことを・・・!?」
ため息まじりに言いかけるトリスにリュウが問いかける。
「何事も自分に忠実に、ということで・・・」
「ふざけるな!散々勝手な行動をしておいて、挙句の果てに総司令の名まで語るとは・・!」
気さくに声をかけるトリスに、丈二が不満をあらわにする。しかし突っかかろうとしたところをリュウに止められる。
「いろいろと聞きたいことがあるだろうけど、ここだと落ち着かないだろう。外に出ようか・・」
トリスに言われてリュウが頷く。2人が1度空洞から外に出た。
「絶対に・・絶対に認めないぞ・・・!」
丈二はトリスに対して激しい怒りと疑念を募らせていた。
次回
「ちゃんとお話しできるね・・・」
「あたしがあなたに気持ちを伝えられただけでもいい・・」
「白夜が幸せならそれでいい・・・」
「ホントに・・ホントにありがとうね・・・」