ガルヴォルスBLOOD 第16話「呪」
床に開いた穴から落ちて、さらなる下層に落とされた小夜と白夜。2人が意識を取り戻したのは、暗闇に包まれた場所だった。
「ここは・・・?」
小夜が周囲に意識を傾ける。
「広くも狭くもない部屋・・だがオレたち以外誰もいないし、何もない・・」
白夜が小夜に向けて声をかける。
「とにかく出口を探さないと・・いつかトリスがここに来る・・・」
小夜の言葉に白夜が頷く。2人は壁に手を当てて、出入り口を探っていく。
「・・あった。」
小夜が部屋のドアを見つけた。だが押しても引いてもドアは動かない。
「ビクともしない・・そんな・・」
「破るしかないな・・・!」
息をのむ小夜のそばで、白夜がウルフガルヴォルスに変わる。彼は右手に力を込めてドアを殴りつける。
ドアが打ち破られて大きく飛ばされた。しかしその先も明かりがなく、暗闇が広がっていた。
「廊下か・・進んでいくしかないな・・・」
「罠だとしても、もう罠の中に落とされてしまったし・・・」
白夜と小夜が暗闇の廊下を進んでいく。廊下を抜けた先は、また別の部屋だった。
「いったいどうなっているんだ・・どこに出口が・・・!?」
「出口を見つける前に、オレに見つけられたな・・」
白夜が苛立ちを見せたところで声がかかった。緊張を覚える小夜と白夜の前にトリスが現れた。
「トリス、お前・・・!」
「真っ暗だけど、お互い目が慣れているようだな・・」
緊張を覚える白夜と、悠然さを見せるトリス。
「ここまで来たんだ・・そろそろ決めることにしよう・・」
「オレたちをものにしようとか言っていたが・・そんなふざけたことに屈してたまるか!」
近づいてくるトリスに白夜が飛びかかる。だがトリスが右手を伸ばして放った念力を受けて動きを止められる。
「ぐっ!・・こんなもので、オレは止まるわけには・・・!」
「止めてやるさ・・オレはオレの心を満たしたくてウズウズしているんだから・・・」
うめく白夜にトリスが笑みを向ける。
「まずは君だ、小夜・・君を血塗られた宿命から解放させてやる・・」
「解放・・・」
トリスが投げかけた言葉に、小夜は心を揺さぶられていく。
「体を改造されて、友達まで失って・・その状況で戦っていきたいと思うのは相当なことだ・・それよりも楽になりたいと思ってしまうのは普通だと思うが・・」
「そんなことはお前にもヤツにも関係ない・・!」
小夜に向けて語りかけていたトリスに言葉を返したのは白夜だった。
「小夜はオレが復讐を味わわせる・・他のヤツに手は出させないぞ・・・!」
白夜が全身に力を込めて、稲妻のようなオーラを放つ。オーラは光となって、わずかながら明かりとなった。
「その姿と力を出せばオレに対抗できると思わないことだな・・」
低く告げるトリスの頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「オレのガルヴォルスとしての力は、あんなものではない・・・!」
トリスが右手を握りしめて、念力の力を上げる。白夜に体に締め付けられるような圧力が加わる。
「ぐあっ!」
押し寄せる激痛に絶叫する白夜。力を振り絞る彼だが、トリスの念力から逃れることができない。
「何が目的であれ、自分を貫こうとする意思が強いほうが勝つ・・力もその意思の強さも、オレのほうが上だったという話だ・・」
「なら私も譲るわけにはいかない・・・!」
笑みを強めるトリスに向けて、小夜が刀を振りかざしてきた。トリスは回避が間に合わず、刀が彼の体をかすめた。
「君もガンコだったね・・そういうところも君の魅力なんだけどね・・」
トリスが左手をかざして、小夜にも念力を仕掛ける。
「ぐっ!」
体の自由を奪われてうめく小夜。トリスが彼女を動かして、白夜にぶつけた。
「く・・くそっ・・!」
声と力を振り絞る白夜だが、トリスが仕掛けた念力の圧力を上からかけられて床に押さえつけられる。
「もうお前たちはオレから逃げられない・・ここから出られないまま、オレのものとなる・・」
「何だと・・!?」
淡々と言いかけてくるトリスに、白夜が声を荒げる。
(ダメ・・この力を破るには力が、血が足りない・・・!)
全身に力を込める小夜だが、トリスの念力をはねのける力は及ばず、相応の力に必要な血も足りなくなっていた。
トリスの念力に動かされて、小夜と白夜が壁に叩きつけられる。力を消耗して、白夜の姿が元に戻る。
「ここまでかな・・では仕掛けるとするか・・・」
トリスが小夜と白夜に向けて意識を集中させる。2人は力を消耗して、抵抗することもままならない。
「白夜、特別だ・・お前も小夜と一緒にいさせてやる・・永遠に・・」
目つきを鋭くするトリス。彼の額に3つ目の目が開いて、不気味に蠢いた。
ドクンッ
小夜と白夜が胸に強い衝動に襲われた。
「い、今のはいったい・・・!?」
「胸をわしづかみにされたような・・・!」
2人ともこの衝動に動揺を隠せなくなっていた。
「これでお前たちはオレのものとなった・・・」
トリスが喜びを込めた笑みをこぼしたときだった。
ピキッ ピキッ ピキッ
小夜と白夜の上着が突然引き裂かれた。あらわになった体が固まり、ところどころにヒビが入っていた。
「これって・・・!?」
「体が石に・・まさかお前・・!?」
自分たちの身に起きた異変に、小夜と白夜が驚愕を見せる。
「オレがお前たちにかけたのは石化。しかもただの石化でなく、かけた相手の全てをさらけ出す効果も持っている・・」
「このまま完全に石化すれば、オレたちは丸裸ということか・・こんなふざけたことに、オレが・・・!」
語りかけてくるトリスに、白夜が苛立ちを見せる。しかし体が石化しているため、思うように動けない。
「もう抵抗はできないよ・・この石化はオレの思うがまま。どこから石にすることも、石化のスピードも自由にコントロールできる・・」
ピキッ ピキキッ
トリスが語りかけたところで石化が進行し、小夜と白夜の素肌がさらけ出されていく。
「本当にきれいな体をしているね、小夜は・・このきれいな体から、あれだけの力と速さを出せるんだから、不思議だ・・」
小夜の裸身を見つめて、トリスが喜びを募らせていく。
「このままじゃ、完全に石になってしまう・・何とかしないと・・・!」
小夜が力を振り絞って、トリスに刀の切っ先を向ける。刀を持つ手が揺れる小夜だが、白夜に腕をつかまれて支えられる。
「こんなことで、オレたちがやられてたまるか・・!」
「白夜・・・!」
声を振り絞って刀を構える白夜と小夜。だがトリスがかけた石化で言うことを聞かなくなった体のため、小夜の手から刀が滑り落ちた。
「だから抵抗はできないって・・お前たちはオブジェとして、吸血鬼以上の永遠を生きていくんだ・・・」
トリスが悠然としたまま小夜と白夜に言いかけていく。
ピキキッ パキッ
トリスに向けて伸ばしていた手の先まで石に変わる。小夜と白夜は互いを抱き寄せたまま、身動きが取れなくなってしまった。
「体が動かない・・これではもう、攻撃することが・・・」
「ガルヴォルスにもなれない・・オレたちは、こんなところで終わってしまうのか・・・」
悔しさを噛みしめる小夜と白夜。2人は込み上げてくる感情に突き動かされて、無意識に唇を重ねていた。
パキッ ピキッ
髪や頬にまで石化が進み、2人は唇を放すことができなくなった。
(もう、どうすることもできない・・私はここで終わる・・・)
ピキッ パキッ
絶望を痛感する小夜の目に涙が浮かび上がった。彼女のこの涙を目の当たりにして、白夜が動揺を覚えた。
フッ
小夜の目から涙が流れ落ちた瞬間、2人が完全に石化に包まれた。小夜と白夜はトリスの石化によって、全裸の石像と化してしまった。
小夜、白夜、トリスの行方を追うクロスファング。チェリルも彼らを必死に探していた。
「白夜、どこにいるの・・・!?」
捜索を続けるチェリルの心は、白夜への想いでいっぱいになっていた。
(どうしても白夜を放っておくことができない・・あたしもさびしい思いをしてきたから、同情してたのかもしれない・・・)
チェリルの心の中に、自分の過去がよぎってきた。
(あたしには誰もそばにいなかった・・家族もすぐにいなくなったし、友達もあたしを怖がって離れていってしまった・・)
長い時間孤独を経験してきたチェリル。家族を失った白夜に彼女は同情し、1人で戦おうとする彼を彼女は放っておけなかった。
(自分勝手だって思われてもしょうがないことだけど・・自分の気持ちを裏切りたくない・・・)
チェリルの中に、自分だけの譲れないものが確立していた。
(たとえクロスファングを敵に回してでも・・白夜を・・・!)
白夜への想いを募らせて、チェリルは彼らを追い求めていった。
トリスの手にかかり、小夜と白夜は石化されて全裸の石像と化してしまった。微動だにしなくなった2人を見つめて、トリスは笑みをこぼしていた。
「ついにやったぞ・・・これでオレの心は大きく満たされた・・・」
喜びを感じながら、トリスが小夜の頬に手を添える。彼に触れられても、小夜も白夜も全く反応を見せない。
「こうしてオブジェになっていれば、老いることも体力や血を消耗することもなく、永遠を生きられる・・苦痛も苦悩も感じることもなく、幸せを感じていける・・・」
小夜の石の裸身を撫でまわしていくトリス。彼女の体に触れて、彼は喜びを募らせていく。
「いつまでもここにいるのはさびしいだろう。みんなのところに行くか・・」
トリスは動かない小夜と白夜に念力をかけて、持ち上げてゆっくりと運んでいく。
暗い廊下を進んでいって、トリスは1つの部屋に来た。そこでようやく明かりに照らされた。
部屋の中には数多くの全裸の女性の石像が立ち並んでいた。全員が元々人で、トリスに連れ込まれて石化されていた。
「小夜の代わりのつもりで心を満たそうとしたりしたが、完全に満足することはなかった・・口封じの目的でオブジェにしたこともあった・・」
トリスが石化した美女たちを見回していく。数多くの美女を石化してものにしてきたが、トリスが満足することはこれまでなかった。
「だがようやく満たされた・・強くも美しい小夜がついに、オレのものとなった・・・」
トリスが小夜と白夜を見やすい位置に置いた。
「強く美しいお前は、図らずも血塗られた宿命に身を投じることになった・・賛成していたわけじゃなかったが、そうさせたクロスファングに仮にも身を置いていたからな・・」
トリスが小夜と白夜の裸身を優しく抱き寄せた。
「その血塗られた心、のぞいておく必要があるな・・・」
トリスは2人に触れたまま意識を集中させる。彼は2人の心の中に入り込んでいった。
トリスの手にかかり、石化されてしまった小夜と白夜。だが2人の心は失われてはいなかった。
完全に石化した瞬間に意識を失った小夜だが、すぐに意識を取り戻した。
「私、何を・・ここはいったい・・・白夜・・・!」
小夜がそばに白夜がいたことに気付く。彼女は自分たちの身に起きたことを思い返していた。
「そうよ・・私たちはトリスに石にされて・・・」
「お前のほうが先に目が覚めたようだな・・」
そこへ白夜が声をかけてきた。彼も自分たちに起きたことを思い返していた。
「まさかアイツに石にされるとは・・しかも裸とは・・・」
「でも、だとしたら私たちはどこにいるというの?・・それに、ここにいる私たちは・・・?」
白夜も小夜も自分たちがいるところに疑問を感じていた。
「互いが裸になっていることは気にしていないのか?」
そのとき、小夜と白夜が声をかけられて緊張を覚える。彼らの振り向いた先にトリスの姿があった。
「トリス・・ここはどこだ・・・オレたちをお前は石にしたんだろう!?」
白夜が声をかけると、トリスが悠然さを見せたまま答えてきた。
「簡単に言えば、今のお前たちは、お前たち自身の心だ・・」
「心・・・!?」
「実際のお前たちはオレの力で石化して、全く動けない。それでも意識は、心は残っている・・それが今そこにいるお前たちだ・・」
トリスの話を聞いて、白夜が息をのむ。小夜も緊張の色を隠せなくなっていた。
「意識が残っていれば、自分たちが永遠を与えられているのだと実感できる。お前たちも永遠を堪能するといい・・」
「ふざけるな!こんなものが永遠なんて立派なものか!オレを弄ぶガルヴォルスなのに・・!」
「そういうお前も、そのガルヴォルスの1人だぞ。考え方は普通のとは違うが・・」
怒りをあらわにする白夜に、トリスが淡々と言葉を返していく。
「こうしてお前たちはオレのものとなった。そのお前たちの心をもっと知っておこうかと思ってね・・」
「私が受けた苦痛をのぞこうというの・・・今まで辛い思いをしてきた私の心を、勝手に見ないで・・・!」
悩ましい笑みを浮かべてくるトリスに、小夜が悲痛さをあらわにする。
「そのような考えは、今の状態では意味を持たないよ・・」
トリスが笑みを強めて小夜に手を伸ばす。白夜が苛立ちを見せて、トリスに小夜を触れさせないようにした。
だが白夜はトリスの手を振り払うことができなかった。力を込めてもトリスの手を払うことを絶対的に拒絶された。
「これは・・!?」
「言っただろ?お前たちはオレのものだって。お前たちはオレの石化でオブジェになったって・・」
驚愕する白夜にトリスが言いかける。力任せにトリスの手を振り払おうとする白夜だが、体が言うことを聞かなくなっていた。
「どういうことだ・・体が、まるでオレの体じゃないみたいに・・・!」
「オレのオブジェにされたヤツの心は、オレの考えひとつで思い通りにできる。まずオレに逆らうことは絶対にできない・・」
声を荒げる白夜に語りかけてから、トリスが改めて小夜の裸身に手を当てた。小夜もトリスからの接触に逆らうことができなくなっていた。
「きれいだ・・きれいで、濁りのない水のように澄んでいる・・一方で血に染まっている・・」
「やめて・・触らないで・・・!」
堪能してくるトリスに恥じらいの声を上げる小夜。しかしトリスは小夜の体をさらに撫でまわしていく。
「本当なら体が石になっているから、嫌がることもできない・・これが石化・・受けたら一方的に接触や行為を受け入れるしかなくなる・・」
「黙れ!それでオレが押さえ込まれてたまるものか!」
小夜に向けて淡々と語りかけていくトリスに、白夜が強引につかみかかろうとする。
「本当に強情なことで・・」
トリスが呟いた瞬間、小夜と白夜が突然下に落下させられた。2人は一切の抵抗ができないまま、心の奥の闇の中に落ちていった。
「自分たちの心をもう1度確かめるといいよ。オレと一緒に思い知るといい・・」
落下していった小夜と白夜を、トリスは悠然と見送っていた。
次回
「これがお前たちが刻み付けた心の傷か・・」
「誰でも何でもやりたいという感情はある。」
「こうなったお前たちにもう何もできない・・」
「これで、オレの心は満たされた・・・」