ガルヴォルスBLOOD 第15話「逃」
小夜と白夜を狙う丈二たちの前に現れたのはトリスだった。突然のトリスの出現に、丈二だけでなく白夜も驚きを感じていた。
「トリス・・どういうつもりだ・・・!?」
「あー、ちょっとこの2人に手を出すのはやめてくれないかな・・」
睨みつけてくる丈二に、トリスが気さくに声をかけてきた。彼のこの言動が丈二や兵士たちの感情を逆撫でする。
「ふざけるな!そこの2人はクロスファングの標的だ!お前の都合が通るはずもない!」
「そういわれてもね。2人を放っておけなくなっちゃったんだよね・・」
怒鳴る丈二だが、トリスは悠然とした振る舞いを崩さない。
「もしも2人を庇うようなことをするなら、お前も処罰の対象となる。分かってやっているのか・・!?」
「分かってないのはそっちだ・・オレは別にクロスファングの一員になったつもりはない。待遇がよかったから、雇われてただけさ・・」
忠告を送る丈二だが、トリスは聞こうとしない。
「ならばお前も、我々の敵だ・・・!」
丈二が言い終わると、トリスに向かって素早く飛びかかった。だが丈二が振りかざした角を、トリスは軽々とかわした。
「何っ!?」
攻撃をかわされたことに驚く丈二。トリスは軽やかな動きを維持して、兵士たちに手足を出して突き飛ばしていく。
「この動き・・トリスもガルヴォルスだったな・・・!」
トリスの動きを見て丈二が毒づく。トリスが小夜、白夜と合流する。
「いくらなんでも、オレだけで全員まとめて相手するのはきついかな。君たちを守りながらっていうのもあるし・・」
トリスは小夜と白夜の腕をつかんで、丈二たちから離れていく。
「何をする気だ・・・!?」
「お前さんだってまともに戦えないんだろ?だったら逃げるが勝ちだ!」
声を荒げる白夜に呼びかけて、トリスは走り抜けていく。
「3人をこのまま逃がすものか!」
丈二たちが小夜たちを追って駆け出していく。トリスの妨害にあって、丈二は憤りを募らせていた。
トリスに助けられて、小夜と白夜は丈二たちから逃げることができた。
「ふぅ・・どうやら振り切ったみたいだ・・」
「どういうつもりだ・・・!?」
ひと息ついたトリスに、白夜が疑問を投げかける。
「オレとコイツを助けて、何を考えている・・・!?」
「さっきも言っただろ?・・2人をどうしても放っておけなくなっちゃってね・・」
問い詰めてくる白夜に、トリスが気さくに答える。彼は落ち込んでいる小夜に目を向けた。
「ずっと会いたかったと思ってたけど、こうしてやっと会えたな・・」
「あなたも、クロスファングだったはず・・そのあなたが、私たちを・・・」
「刀を手に持って戦う姿もいいけど、今みたいな弱気なのも捨てがたい・・」
弱々しく声をかける小夜にも、トリスが気さくな笑みを見せる。
「オレはトリス・レイク。君の名前は?」
「小夜・・紅小夜よ・・・」
互いに自己紹介をするトリスと小夜。
「さて、また逃げるとするかな。いつ追い付いてくるか分かんないし・・」
「でも、どこに行けば・・私の学校の寮にも、きっとクロスファングの監視が・・・」
「オレの隠れ家に行くんだよ。そこはクロスファングも知らないはずだ・・」
不安を見せる小夜に、トリスが提案を投げかける。
「そこに行くしかないか・・・」
白夜も渋々トリスの案内に従うことにした。
「トリスが裏切った・・・!?」
丈二からの報告にリュウは耳を疑った。
“はい。ヤツはターゲットBと日向白夜の逃走を手助けしました・・申し訳ありません。トリスのために2人を取り逃がしてしまいました・・”
「いや、いい・・丈二たちは引き続き捜索を行え。ターゲットBと白夜だけでなく、トリスも抵抗するなら攻撃しても構わん。」
“了解。”
丈二との通信を終えたリュウは、深刻さを募らせていた。
(トリスまで敵に回るとは・・これではターゲットB拘束はより困難なものとなった・・・)
リュウが小夜の拘束のための打開策を見つけようと、思考を巡らせていた。
「私も捜索と断罪に乗り出さなければならなくなったか・・・」
「あたしも連れてってください・・・!」
席を立ったところで、リュウはチェリルに声をかけられた。
「チェリル、今の状況は我々の存続さえも脅かすものとなっている。生半可な覚悟で首を突っ込めば、君が命を落とすだけでなく、クロスファングを全滅させることにもなりかねない。」
「そんなこと・・クロスファングに入る前から分かっています・・生半可な気持ちだったら、ここに来たりしていません・・・!」
忠告を送るリュウだが、チェリルは意思を変えない。彼女の決心を目の当たりにして、リュウも小さく頷いた。
「分かった。チェリル、ついてこい・・」
「隊長・・はいっ!」
リュウの呼びかけにチェリルは元気に答えた。2人は小夜、白夜、トリスの捜索に乗り出した。
小夜と白夜がトリスに連れられてやってきたのは、森の中にある谷だった。谷は大きな穴となっていて、落ちればまず上がってはこれない場所となっていた。
「ここに何かあるのか?・・こんなところに、無事に隠れられそうな場所など・・」
「普通に見渡しただけじゃ見つけられないよな・・」
疑問を投げかける白夜に、トリスが気さくに答える。
「ガルヴォルスクラスの運動能力があれば、場所が分かってれば行けなくもない。知らないと本当に分かんないよ、オレの隠れ家は。」
トリスは小夜と白夜に言うと、崖下をのぞき込んだ。
「もう体力は回復したか?いいならオレが先に行くから、見逃さずについてこいよ。」
彼はその崖下に向かって飛び降りた。正確には崖の壁に足をつけて、滑るように下に進んでいた。
「あの人についていくしかなさそうね・・・」
「あぁ・・ここにいても見つかるだけだし・・・」
小夜の言葉に白夜が頷く。2人もトリスを追って崖下を滑り降りていった。
崖の壁にはいくつか穴があった。その中の1つにトリスは入っていった。
「そこか・・」
白夜が目つきを鋭くする。彼も小夜もトリスの動きを見逃さずに、横穴に入っていった。
横穴は小さな洞窟のように見えた。その奥には岩や土でない鉄の扉があった。
「ここが、アンタの隠れ家か・・」
白夜が問いかけると、トリスが笑みを浮かべて頷く。3人は重く閉ざされた扉を開いて、中に入っていった。
中は入り口の前よりもさらに暗かった。しかし小夜たちは夜目を利かせて進んでいく。
「この暗い道は1本道だが、足元に気をつけろよ。」
トリスが小夜と白夜に呼びかけるが、2人とも五感を研ぎ澄ませて、足をつまずかないようにしていた。
しばらく進んだところで、小夜たちは暗い道に明かりが差し込んできているのを目にした。
「何度通っても長いんだよな・・オレの親父もおかしな設計してくれたもんだ・・」
「設計?」
愚痴をこぼすトリスに白夜が眉をひそめる。
「オレの親父、設計士と建築家だったんだ。だけど変わり者でもあってな。他のヤツと感覚が合わなくて、しかも設計と建築を始めると、他のことを全部忘れる性格だったし・・」
「そういうアンタも変わり者だがな・・」
語りかけるトリスに、白夜が憮然とした態度を見せる。
「オレが変わり者か・・親父の血を受け継いでるってことか・・」
トリスがおもむろに苦笑をこぼした。さらに進んだ先に、小夜と白夜が驚きを覚えた。
洞窟の中だとは思えない、邸宅のような廊下と部屋が広がっていた。
「すごい・・これが、隠れ家だというの・・・!?」
「こんなんじゃ、1人で過ごすのも落ち着かないな・・」
2人が廊下を見回して呟きかける。
「長く歩いたから大変だっただろう。休憩と行こう・・」
トリスに促されて、小夜と白夜は1つの部屋に入った。客人を迎えるための客室だった。
「本当は休んでいる場合ではないのだが・・一刻も早く、リュウに会って、クロスファングの真実を知らないといけない・・」
休憩を取ることに乗り気になれない白夜。
「焦っても逆効果・・って言っても聞かないんだったな、お前は・・」
彼の態度を見て、トリスが肩を落としてため息をついた。だがトリスは小夜に目を向けると、笑みを取り戻した。
「やっぱり君、本当にかわいくてきれいだな・・」
「ち、ちょっと・・・」
悩ましい眼差しを送ってくるトリスに、小夜が戸惑いを見せる。
「やはりこうしてここに連れてきてよかった・・ものにしたくてしたくて、我慢するのも必死だった・・・」
トリスが口にした言葉を耳にして、白夜が目つきを鋭くする。
「でもこうして邪魔者はいなくなった・・心置きなく本性を現せる・・・」
「アンタ・・何を考えている・・・!?」
白夜がトリスに鋭い視線を向ける。敵だと認識しているときの目である。
「そのままの意味さ・・彼女、小夜ちゃんをオレのものにする・・・」
「ふざけるな・・小夜はオレの仇だ・・誰にもこの戦いの邪魔はさせない・・」
「邪魔はさせないのはオレのほうさ。やっとの思いでここまで連れてきたんだ・・」
低く告げる白夜に言葉を返して、トリスが右手を伸ばす。すると白夜が突然、体を宙に持ち上げられる。
「あなた、何を・・・!?」
突然のことに小夜が驚きの声を上げる。
「オレも目的のために手段を選ばない性質でね・・邪魔をされるぐらいなら、誰だろうと容赦しない・・!」
トリスが右手を下ろすと、白夜も床に叩き落とされる。トリスは念力を仕掛けて、白夜の体を束縛していた。
「白夜、お前には悪いが、小夜はオレがいただく。お前はここで大人しくしてもらおうか・・」
「そんなマネさせるか・・お前もオレの敵だったということだな・・クロスファングは、全て・・・!」
低く呼びかけてくるトリスに対して、白夜が力を込めて立ち上がろうとする。だがトリスの念力に白夜は床に押し付けられる。
「勘違いしまくりだな・・オレは別にクロスファングの一員のつもりはないし、誰の味方でもない。オレはオレの味方だから・・」
トリスが気さくな態度のまま、白夜に言葉を投げかける。しかし彼の口調と瞳には欲情が込められていた。
「騙していたみたいになるが・・悪く思うなよ・・いろいろと楽しかったぞ・・・」
トリスが白夜に笑みをこぼした。
そこへ小夜が飛びかかり、トリスに刀を振りかざしてきた。気付いたトリスがとっさに体を動かして、小夜の刀をかわした。
「オレにも攻撃をしてくるか・・仮にもクロスファングにいたオレだ。攻撃してきてもおかしなことじゃないか・・」
トリスが刀を構える小夜を見つめて笑みをこぼす。
「あなたがどういう立場にいるのか、あなたが何を企んでいるのか、私には分からない・・でも私は、あなたに屈するわけにはいかない・・・」
「言うね・・そういう強気なところも、オレのお気に入りだ・・」
鋭く言いかける小夜に対して、トリスが悠然さを崩さない。
「悪いがオレは、拒まれれば拒まれるほどに欲するようになる・・そして心から欲するものは、手に入れないと気が治まらない・・・!」
トリスが小夜に向けて念力を放つ。小夜は素早く動いて念力をかいくぐり、トリスに向けて刀を振り下ろす。
だがトリスがかざした左手から放たれた念力に、小夜が捕まった。
「し、しまった・・!」
「どんなに速くても、攻撃してくる瞬間さえ分かれば止められなくもない・・」
うめく小夜をトリスが念力で床に叩き落とす。上から圧力をかけられて、小夜が苦痛を覚える。
「できれば暴力を振るいたくはなかったが・・痛い目に合うよりは・・」
トリスが小夜を持ち上げて手を伸ばそうとした。そこへウルフガルヴォルスとなった白夜が爪を振りかざしてきた。
「勝手に小夜に手を出すな・・!」
「フン。仇を姫に見立てた王子様・・王子様の柄じゃないな・・」
鋭く言いかける白夜を見据えるトリス。再び飛びかかってきた白夜に向けて、トリスが念力を放つ。
白夜は全身に力を込めて、稲妻のようなオーラを発した。彼は速度を上げて、トリスの念力をかいくぐった。
「ぐっ!」
白夜に爪を突き立てられて、トリスが顔を歪める。彼を壁に叩きつけてから、白夜が小夜に駆け寄る。
「出るぞ!来い!」
白夜が小夜の腕をつかんで部屋を飛び出す。この隠れ家に入るときに通った道への扉を開けようとする白夜だが、扉は複雑な構造の鍵がかけられていた。
「いつの間に・・なら打ち破って・・・!」
白夜が力を込めて扉を打ち破ろうとした。
そのとき、小夜と白夜が立っていた床に穴が開いた。不意を突かれた2人がそのまま穴に落下してしまった。
小夜がとっさに刀を壁に突き立てるが、壁に穴や傷をつけることができず、落下を食い止められない。
「くっ・・止まらない・・・!」
毒づく小夜が白夜とともに、穴の底へ落下していった。
穴の中に落ちていった小夜と白夜。その穴の下をトリスが見下ろしていた。
「簡単に逃がすつもりはない・・君は絶対にオレがものにする・・・」
トリスが小夜と白夜に向けて笑みをこぼす。
「落ちたらもう出られない・・これから本格的に追い詰めていくとしよう・・・」
トリスは呟くと、下層につながっている別の階段に向かった。
小夜、白夜、トリスの行方を追うクロスファングだが、3人の行方を発見することができないでいた。
「3人とも、どこに行ってしまったというのだ・・・!?」
丈二が小夜たちを見つけられずに、苛立ちを募らせていた。
「まだ3人は見つけられていないようだな・・」
その彼の前にリュウとチェリルが現れた。
「申し訳ありません、ガルベルト隊長・・しかし、隊長が直接出向くことは・・」
「事態が深刻を極めていることは、お前たちも分かっているはずだ。総司令官までこちらに赴くことにもなりかねない・・」
頭を下げる丈二にリュウが忠告を込めた言葉を投げかける。この言葉に丈二もチェリルも緊張を隠せなくなっていた。
「私が隊長であるからと言って気を遣うな。私も、もしも3人と遭遇すれば一戦交える覚悟を決めている。」
「隊長・・・分かりました・・私も全てを賭けて、この任務を遂行いたします・・・」
リュウの覚悟を目の当たりにして、丈二も改めて決意を示した。
「隊長、これを持っていてはもらえませんか・・?」
チェリルがリュウに手渡してきたのは、小型の発信機のレーダーだった。
「あたしに何かあれば、この発信器のスイッチを入れます。必ずターゲットBたちの居場所を知らせますので・・」
「チェリル・・・分かった・・お前にも信頼を寄せているからな・・」
言いかけるチェリルにリュウが頷いた。
「では引き続き捜索を行う。見つけても単独で何とかしようとするな。必ず連絡をして指示を待て。」
「了解。」
「分かりました・・」
リュウの指示に丈二とチェリルが答える。彼らは兵士たち共々、散開して小夜たちの捜索を行った。
次回
「もうお前たちはオレから逃げられない・・」
「お前も小夜と一緒にいさせてやる・・永遠に・・」
「これって・・・!?」
「ついにやったぞ・・・これでオレの心は大きく満たされた・・・」