ガルヴォルスBLOOD 第11話「咲」

 

 

 小夜を守ろうとして白夜の爪を受けた咲夜。目を見開く白夜の前で、咲夜がゆっくりと倒れていく。

「咲夜!」

 悲鳴を上げる小夜が、悲痛さを感じながら咲夜を受け止める。

「咲夜、しっかりして!咲夜!」

 小夜が必死に呼びかけるが、咲夜は目を閉じたまま答えない。

「また邪魔を・・今度こそコイツを!」

 白夜が改めて小夜にとどめを刺そうとした。だが次の瞬間、白夜の体に小夜の刀が突き立てられた。

「ぐあっ!」

 絶叫を上げる白夜が小夜に突き倒される。彼女は怒りに満ちた鋭い視線を向けていた。

「私が憎いなら私だけを狙えばいいだろう!関係ない咲夜にまで手を出すことはないだろう!」

 小夜が怒号を言い放ち、白夜を貫いている刀を振り上げる。体を切り裂かれて、白夜が激痛に襲われる。

 声にならない絶叫を上げる白夜。思うように動けなくなった彼をよそに、小夜が咲夜を抱えた。

「咲夜、しっかりして!すぐに病院に連れて行くから!」

 小夜は咲夜に呼びかけて、全力で病院に向かって。

「ま・・待て・・・!」

 白夜が血があふれる体に力を入れて立ち上がる。彼は自分自身で体を斬られた激痛に耐えていた。

「逃げるな・・・逃げるな!」

 声と力を振り絞る白夜。稲妻のようなオーラを発する彼の体につけられた傷が塞がっていく。

「邪魔をしなければ・・オレはアイツをやれたんだ・・それを・・!」

 妨害してきた咲夜、怒りを見せてきた小夜に、白夜は逆に怒りを膨らませていた。

 

 傷ついた咲夜を助けようと、小夜は病院に向かっていた。その途中の道で、咲夜が目を覚ました。

「小夜ちゃん・・・あたし・・・」

「咲夜、気が付いたのね・・・!」

 声をもらした咲夜に、小夜が喜びの笑みをこぼす。

「もう少しだけ我慢して、咲夜・・すぐに病院に・・・!」

「あたし・・・小夜ちゃんを助けられたんだね・・・」

 さらに走る小夜に、咲夜がゆっくりと手を差し伸べてきた。

「咲夜、ムリしないで・・今はしゃべらないで・・・!」

「あたしも、小夜ちゃんを守ることができたんだね・・・」

 困惑を浮かべる小夜に咲夜が微笑みかけてくる。彼女は自分が小夜を助けられたことが嬉しかった。

「あたし、小夜ちゃんに甘えてばっかりだった・・勉強はいつも小夜ちゃんに教えてもらってて・・いつも小夜ちゃんに助けられてばっかりだった・・・」

「そんなことはないわ、咲夜・・私も、咲夜に助けられたこと、何度もあったわ・・・!」

 語りかける咲夜に対して、小夜が首を横に振る。

「でもあたし、小夜ちゃんを助けられた・・・あたしだって、小夜ちゃんを守ることができたんだね・・・」

「咲夜・・・咲夜・・・」

 笑顔を見せる咲夜に、小夜が悲しさを募らせて涙を浮かべる。その彼女の頬を、咲夜が手で触れていく。

「悲しい顔しないで、小夜ちゃん・・・小夜ちゃんは、笑顔が似合うよ・・・」

「笑顔が似合うのは咲夜、あなたのほうよ・・いつも元気で・・元気が1番の取柄で・・・」

 互いに笑顔を見せ合う咲夜と小夜。

「いつまでも小夜ちゃんに笑顔でいてほしい・・・小夜ちゃんが笑顔でいてくれると、あたしも安心できる・・・」

「咲夜・・・咲夜が安心できるなら・・私は笑顔を見せられる・・・」

「エヘヘへ・・・後でまたちゃんと、小夜ちゃんの笑顔を見てみたい・・・」

 咲夜が小夜に心からの笑顔を見せたときだった。小夜に触れていた咲夜の手から力が抜けて、だらりと下がった。

「咲夜・・・!?

 小夜がこの瞬間に目を疑って、思わず立ち止まった。咲夜は笑顔を見せたまま、目を閉じて動かなくなった。

「咲夜・・・咲夜!」

 小夜が悲痛の叫びを上げる。彼女の感覚は咲夜がもう2度と目を覚まさないことを感じ取っていた。

 

 咲夜を失った悲しみに心を満たして、小夜は病院ではなく寮に来ていた。寮の自分たちの部屋に戻ってきた小夜は、咲夜をゆっくりと下ろした。

「咲夜・・・帰ってきたよ・・・」

 小夜が横たわっている咲夜を見下ろして微笑みかける。

「明日になったら、学校や買い物で、また楽しい時間を過ごそうね・・私も、咲夜との時間を楽しみたいわ・・・」

 小夜が囁くように言いかけるが、咲夜は答えない。

「これからももっともっと・・ずっとずっと・・咲夜と・・・」

 咲夜への思いと願いを込み上げていくうちに、小夜が目から涙を流していく。彼女は小夜の死を受け入れたくない気持ちと受け入れるしかない非情さを膨らませていた。

「咲夜・・目を覚ましてよ・・いつまでも寝ていると、また寝坊するよ・・・!」

 咲夜に呼びかけずにいられなかった。彼女はこのまま泣き疲れて眠りにつくまで泣き続けた。

 

 研究の完成のために小夜の捜索を行っていた時雨たち研究班。しかし彼女を見つけることができず、また白夜の行動で事態が混乱することが多々あり、時雨は苛立ちを募らせていた。

「なぜだ・・なぜこうも研究が遅れる!?・・今頃はもう研究は完成に近づいていたというのに・・・!」

 声を荒げる時雨。時折ものに当たることもあり、研究員たちはそんな彼に声をかけづらくなっていた。

「まだ見つからないのか、彼女は!?

「はい・・先ほど発見されたのですがまた取り逃がし、日向白夜の介入でさらに事態が悪化しています・・!」

 問い詰めてくる時雨に、研究員の1人が慌ただしく答える。

「日向白夜・・我々の研究を邪魔して・・・!」

 苛立ちを膨らませて、時雨が通信回線をつなげた。

「ガルベルト隊長、あなたたちはいったい何をしているのですか・・・!?

“迫水主任、こちらも全力を持って捜索しているのですが、動きが早く力もあり、手間取っております・・”

 声を振り絞る時雨の耳に、リュウの落ち着いた返事が入ってくる。

“あなたの研究の集大成というだけのことはありますね・・”

「お前たちは我々を愚弄しているのか!?泣き言をいう余裕があるなら、早急に捕まえろ!」

 リュウの態度にさらに苛立って、時雨は通信を終えた。

「どいつもこいつも・・アレがどれほど貴重な存在か、まるで分かっていない・・・!」

 リュウの怒りは頂点に達していた。自分の研究が全く進まなくなってしまったことに、彼は我慢の限界を迎えていた。

 

 時雨から怒鳴り声を聞かせられて、リュウは肩を落としていた。

(自分の不始末を棚に上げて、こちらに責任追及をしてくるとは・・主任の研究熱心にも困ったものだ・・)

 リュウが心の中で呟いてため息をつく。

(だが我々に猶予がないのも事実だ・・主任の言葉に賛同する形となるが、急ぐ必要もある・・)

 リュウは意を決して通信回線をつないだ。

「私だ。そちらの一部隊をこちらによこしてくれ。」

“ターゲットB捕獲のためですか?”

「そうだ。事態も事態で人員が足りない。無理を承知で申請する。」

“ターゲットBが相手でしたら構いません。すぐに部隊編成をしてそちらに向かいます。”

「すまない、感謝する・・」

 通信を終えたリュウが再び肩を落とす。

(これだけ人手を割いて、自分が動かないというのは傲慢というものだ。オレもそろそろ乗り出すとするか・・)

 リュウは席を立って隊長室から出ていく。彼は小夜の拘束と白夜の監視を自らの手で行おうとしていた。

 

 小夜が目を覚ましたときには既に正午を迎えていた。ゆっくりと体を起こした彼女が、咲夜が目を覚まさないことを再び痛感して愕然となる。

「咲夜・・・私・・私は・・・」

 悲しみに囚われて、小夜は咲夜に顔を近づけた。

「このまま咲夜をひとりぼっちにはしない・・いつまでもどこまでも一緒よ・・・」

 小夜が咲夜の首筋に牙を入れた。小夜の目は今、紅くきらめいていた。

 小夜は咲夜の血を吸っていた。血を吸うことで咲夜を自分の中に取り込み、一進一退のような感覚を得ようと小夜は思った。

(これで・・咲夜と一緒にいられる・・ずっと一緒・・・)

 喜びを募らせていく小夜。瞳の紅い彼女の目からは涙が流れていた。

(咲夜を巻き込んでしまって、本当に悪いと思っている・・咲夜や私みたいに、一方的な理不尽で悲しい思いをする人を、これ以上増やしたらいけないよね・・・)

 心の中で咲夜に向けて囁いて、小夜は彼女の首筋から顔を離した。瞳の色が紅く染まったまま、目つきを鋭くした。

(あのガルヴォルス・・絶対に許さない・・・!)

 今の小夜を突き動かしていたのは、咲夜を手にかけた白夜への憎悪だけだった。

 

 小夜を探し回るも見つからず、白夜は無意識に足を止めて、公園のベンチに腰を下ろして眠りについていた。正午に目を覚ました彼は、自分が寝てしまっていたことに驚いて飛び起きた。

「しまった・・いつの間にか眠ってしまっていた・・・!」

 白夜が周囲を見回して、五感を研ぎ澄ませて小夜の気配を探る。

「逃がしはしない・・絶対に逃がさないぞ・・・!」

 小夜と思える気配を細大漏らさず探り出そうとしていた。だが彼は簡単に小夜の気配を感じ取った。

「見つけた・・だがなぜだ・・なぜこうも簡単に見つけられたんだ・・・!?

 あまりにも簡単に見つけられたことに、白夜は喜べずに疑問を感じていた。

「何があるか分からないが・・行くだけだ・・・!」

 白夜は迷いを振り切って、気配の感じるほうに向かって走り出していった。

「何か罠が仕掛けられているのかもしれない・・だがその罠ごと、アイツを・・・!」

 何があっても逃げずに小夜を倒す。白夜の決意は今も揺らいではいなかった。

 そして白夜は朱島高校の女子寮の近くにたどり着いた。

(この辺りだ・・どこに隠れている・・・!?

 白夜が周囲を見回して小夜の居場所を探る。

「そんなに血眼にならなくても、私はここにいるわ・・・」

 そこへ声がかかり、白夜が振り返る。その先に小夜はいた。白夜に鋭い視線を向けて。

「お前からオレの前に出てくるとは・・何を企んでいるんだ・・・!?

「企んでいるとしたら・・お前を殺すこと・・・」

 問い詰めてくる白夜に、小夜が低い声音で答える。彼女は右手で刀を握りしめた。

「オレを殺す・・・オレの家族を殺したようにか!?

 憤りをあらわにした白夜がウルフガルヴォルスに変わる。

「そんなことをいうお前も、その自己満足のために、私に怒りをぶつけるために咲夜を殺した・・もうお前が何を言おうと何を考えようと、私はお前を許さない・・分かり合おうとも思わない・・・!」

「オレの家族を殺しておいて、あくまで自分のためだと口にするのか!」

 冷徹に告げる小夜に、白夜が怒りのままに飛びかかる。だが彼が振り下ろした爪を、小夜が振り上げた刀が弾き返す。

「言葉はもう意味を持たない・・その怒りと力だけをぶつけてこい・・・!」

 小夜はさらに刀を振りかざして、白夜の体を切り付けていく。彼女の速さと刀はこれまでと比べて格段に上がっていた。

(バカな・・オレが全く反応できなかっただと・・・!?

 小夜の飛躍した身体能力に白夜が驚愕する。だが彼の驚きはすぐに憤怒へと変わった。

(こんなことで・・オレはやられたりしない!)

 白夜が全身に力を込めて、稲妻のような光を解き放つ。彼は力を全開にして、能力を高めた小夜に敵意を見せる。

「お前はオレが倒す!お前を倒すことだけが、オレが安らげる唯一の方法!」

 白夜が怒号を放って小夜に飛びかかる。小夜が素早く刀を振りかざすが、全て白夜の爪に弾き返される。

 白夜が突き出す爪が小夜の体に傷をつけていく。それでも小夜は怯まず、白夜に刀を振りかざしていく。

(コイツが何を考えていようと、コイツの過去に何があろうと関係ない・・コイツが咲夜を殺したことは変わらない・・)

 小夜が心の中で咲夜への思いと白夜への憎悪を募らせていた。

(だからコイツは、必ずこの手で息の根を止める!)

 殺意をむき出しにした小夜。そのとき、彼女の黒髪が血のように紅く染まっていった。

 小夜の変貌に白夜が驚きを覚えて目を見開く。さらに飛躍した小夜の力に、彼は無意識に威圧されていた。

(逃げるな・・オレが逃げたら、父さんも母さんも、みんな何のために死んだのか分からなくなる・・・!)

 逃げ越しになりかけている自分に言い聞かせて、白夜が再び怒りを募らせていく。

「オレはお前を倒す!それでしか、オレの家族は浮かばれない!」

 白夜も力と光を解き放って、小夜に飛びかかる。小夜が振りかざす刀と白夜が突き出す爪が激しくぶつかり合い、火花を散らしていく。

(怒りと憎しみのままに戦っている私の姿を見たら、咲夜はきっと辛くなると思う・・それでも・・・)

 咲夜の悲しい顔を思い浮かべて、小夜が心の中で辛さを募らせていく。

(それでも私はコイツが許せない・・あなたを奪ったコイツが・・!)

 再び怒りを浮かべて、小夜が刀を振りかざす。だが白夜に左手で刀を持つ右腕をつかまれ、右手で刀の刀身を押さえられる。

「くっ・・!」

「いくら速く大きく刀を振れても、こうしてしまえばその刀も触れないぞ・・!」

 うめく小夜に白夜が声を振り絞る。

「だがこれではお前も攻撃できないぞ・・その牙で攻めてこようとしても、私にはその予備動作が見える・・!」

「オレの力は、牙と爪だけではない・・・!」

 言いかける小夜に白夜が笑みを強める。次の瞬間、白夜が体から稲妻を放出してきた。

「ぐっ!」

 電気ショックのような強い衝撃に襲われて、小夜が苦痛を覚える。押し寄せる彼女が足を突き出して、白夜を蹴り飛ばして距離を離そうとする。

 しかし白夜は彼女の腕も刀も放そうとしない。

「放すものか・・このままお前を倒すまで、絶対に放さない!」

「このままでは・・・!」

 放そうとしない白夜に、小夜は危機感を覚えて焦りを募らせる。

「このまま・・このまま死んでたまるものか!」

 小夜が目を見開いて全身に力を込める。白夜に押さえられていた刀が動き出していく。

 白夜が小夜を押さえつけようとさらに力を込めるが、彼女に徐々に押されていく。そしてついに力負けして、白夜が押されて小夜が振りかざした刀が彼の頬をかすめる。

(これで・・これで咲夜が安心して・・・!)

 咲夜の仇を受けると思い、小夜は安心を感じていた。

“小夜ちゃん!”

 そのとき、小夜の視界に咲夜の姿が入り込んできた。幻だとすぐに分かった小夜だが、この一瞬で彼女は戦意を揺さぶられた。

 この一瞬の隙を見逃さず、白夜が小夜に爪を突き出した。爪は彼女の右のわき腹を切り付けた。

 激痛のあまり、小夜は声を上げることもできなかった。彼女はわき腹を押さえて、白夜からとっさに離れる。

 刀を構えて白夜を見据える。だがわき腹からは血がにじみ出て、まともに戦える状態ではなかった。

「これで決まりか・・今度こそ・・今度こそお前を!」

 白夜が憎悪をむき出しにして、小夜にとどめを刺そうと爪を構えた。

「そこまでだ。」

 そのとき声がかかり、小夜と白夜が視線を移す。2人を数人の兵士たちが取り囲んで銃を構えてきた。

「ターゲットB、今度こそ我々と来てもらおう。」

 兵士たちの前に丈二が出てきた。クロスファングの介入に、小夜だけでなく白夜も警戒を募らせていた。

 

 

次回

第12話「去」

 

「お前たちをここで拘束する!」

「コイツの首は誰にも渡さない・・」

「私は・・まだここで倒れるわけにはいかないのよ・・・!」

「もうこれ以上、お前の身勝手な行動が許されることはない・・」

 

 

作品集

 

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