ガルヴォルスBLOOD 第10話「信」

 

 

 小夜を追い求めていた白夜だったが、彼女を完全に見失ってしまった。彼は苛立ちを抱えたまま、人間の姿に戻った。

「アイツ・・どこに行ったんだ・・・!?

 小夜を見つけることもできず、白夜は憤りを感じていた。

「さすがはSクラスの戦闘力。一筋縄ではいかないということか・・」

 そんな彼に声をかけてきたのはトリスだった。

「だけど、ハードルの高い相手程、射止めたときの喜びもひとしおってね。」

「ふざけた話を聞くつもりはない。オレがアイツを仕留めることは変わらない・・」

 気さくに声をかけるトリスだが、白夜は冷徹な態度を見せたまま歩き出した。

「ガンコな上に疲れ知らずか・・ムチャっていうべきなんだけどな・・」

 トリスは肩を落としてため息をつく。が、彼はすぐに悠然さと笑みを浮かべた。

「だけど、そういうムチャはオレは好きなんだよな・・」

 白夜を追って歩き出すトリス。白夜が行きつく先に小夜もいると、彼は考えていた。

 

 血みどろの戦いに身を投じる自分の姿を咲夜に見られた。小夜は愕然となりながら、咲夜を連れて寮に戻ってきた。

 咲夜を寝かせてから、小夜は今夜の出来事を思い返した。

(見られた・・咲夜に・・私がガルヴォルスと戦って、しかも私がその血を吸っているところを・・)

 込み上げてくる辛さを噛みしめて、小夜が頭を下げる。

(きっと咲夜、私も怪物と同じと思っている・・私が関わろうとしても、咲夜は遠ざかろうとするだけ・・・)

 咲夜から完全に拒絶されると思い、小夜は苦悩を深めていく。

(もう私、咲夜のそばにいないほうがいいのかもしれない・・・)

 小夜は疲れた体を起こして、眠っている咲夜を見つめる。

(これ以上一緒にいたら、咲夜が危険なことになる・・取り返しがつかなくなってしまう・・・)

 小夜が元気なく部屋を出ていく。咲夜を守るため、小夜はあえて彼女のそばから離れた。

 

 悲劇の夜が明け、咲夜は窓から差し込んできた朝日で目を覚ました。

「あれ?・・あたし、いつの間にか寝ちゃった・・・?」

 瞼の重い目をこすって、咲夜が部屋の周りを見回す。しかし部屋に小夜の姿がない。

「小夜ちゃん・・・?」

 咲夜が立ち上がって小夜を探す。しかし部屋の中を探しても小夜はいない。

「小夜ちゃん・・どこに行っちゃったの・・・!?

 小夜がいないことに不安を募らせる咲夜。彼女は小夜の行きそうな場所を考えていく。

 そのとき、咲夜の脳裏に昨晩の出来事がよぎってきた。血まみれで刀を手にしていた小夜と血の感触を、咲夜は思い出した。

「そうだ・・あのとき、小夜ちゃんは・・・」

 その夜の小夜の血まみれの姿を思い出して震える咲夜だが、彼女への思いを感じて戸惑いを覚える。

「もしかして、小夜ちゃんはあたしが怖がると思って・・・」

 小夜の考えを汲み取って、咲夜はさらに戸惑う。

「これだけ心配してもらって・・これだけ気を遣ってもらってるのに・・怖がるのはいけないことだよね・・・」

 気持ちを落ち着かせようとしながら、咲夜は小夜を探しに寮を飛び出した。

 街中の人ごみから人気のない街の外まで、咲夜はくまなく探しまわった。しかし小夜を見つけることができない。

(小夜ちゃん・・どこにいるの・・・小夜ちゃん・・・!)

 咲夜は諦めずに小夜を探し続けていく。

(あたし、小夜ちゃんを信じたい・・・)

 彼女は心の中で小夜への思いを募らせていく。

(あたしが信じなくちゃ・・・信じてあげないと、小夜ちゃんがどんどん辛くなっちゃうから・・・!)

 小夜の心の支えになろうと決意して、咲夜はさらに彼女を追い求めた。

 

 咲夜を危険に巻き込まないようにと考えて、1人寮を出た小夜。彼女は人々にも危害が及ばないように、街から離れていた。

(ここまで来ても・・どこまで行っても・・不安が消えない・・ここで立ち止まっても、誰かを巻き込んでしまうと思えてならない・・・)

 小夜は歩きながら苦悩を深めていく。

(私の力は、みんなを守るための力にできる・・その自信がなくなりかけている・・・)

 気落ちした小夜が、林の真ん中で足を止めた。

(宿命を終わらせるために使った力で、大切な人を奪っていた・・私は、これから何のために戦っていけばいいの・・・?)

 心を迷いで満たして、小夜は苦悩を深めて顔を歪める。彼女はせめてクロスファングへの復讐を行おうと自分に言い聞かせようとしていた。

「やっと見つけたぞ・・ここにいたか・・・!」

 そのとき、小夜に向けて鋭い声が飛び込んできた。彼女の前に現れたのは白夜だった。

「あなた・・・!」

 小夜が緊張を感じながら身構える。

「今度こそ・・今度こそお前を・・・!」

 白夜の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼がウルフガルヴォルスに変わって、小夜に迫る。

「今の私は戦うことに迷いを抱いている・・でも私にはまだ、やらなければならないことが残っている・・・!」

 小夜が刀を手にして構え、白夜を見据える。

「お前もクロスファングの1人・・クロスファングは誰だろうと、私は許さない!」

「許さないのはオレのほうだ・・オレの家族を殺したお前は、オレが必ず叩き潰してやる!」

 互いに怒りの言葉を言い放つ小夜と白夜。白夜が飛びかかって振りかざしてきた爪を、小夜が刀で防ぐ。

「お前がいなければ、オレは今も平穏な時間を過ごせていたはずだったのに・・・!」

「それは私のセリフだ・・クロスファング、お前たちのせいで、私はこんな体になり、戦いを強いられている・・・!」

 さらに怒りを言い放つ白夜と小夜。小夜が右足を突き出して、白夜を蹴り飛ばす。

「くっ!」

 白夜がうめきながら踏みとどまる。彼はすぐに走り出して、小夜に素早く飛びかかる。

 小夜の刀と白夜の爪が荒々しくぶつかり合い、火花と衝撃を巻き起こしていく。

(私にはもう迷ってはいられない・・私には、この力で抗うことしかできないのよ・・・!)

 小夜が心の中で迷いを振り切ろうとする。彼女は地面を強く踏み込んで、刀を構える。

「これが私の力・・私の一部!」

 飛びかかってきた白夜に向けて、小夜が刀を振りかざす。

「オレは、お前を必ず倒す!」

 そのとき、白夜の体を稲妻のようなオーラが発せられた。小夜が振りかざした刀を、白夜の爪が受け止めた。

 力を込める小夜だが、白夜の爪に押されていく。その先端が彼女の体を切り付けた。

「ぐっ!」

 傷を負って、小夜が顔を歪める。彼女は白夜の発揮した力に太刀打ちできない。

 大木の幹に叩きつけられる小夜の前に、白夜が詰め寄ってきた。

「今度こそとどめだ・・お前を倒せば、オレの家族が浮かばれる・・・!」

 白夜が小夜にとどめを刺そうと爪を振り上げる。小夜は全身に力を込めて、爪をかわそうとした。

「やめて!」

 そこへ声が飛び込み、白夜と小夜が視線を向ける。彼らの前に現れたのは咲夜だった。

「咲夜・・・!?

「小夜ちゃん・・・見つけた・・ここにいたんだね・・・」

 驚いている小夜に目を向けて、咲夜が呼吸を乱しながらも笑みを見せていた。

「どうして・・どうして私を・・・!?

「小夜ちゃんが心配だからに決まってるじゃない!・・ずっと探したんだから・・・!」

 動揺する小夜に涙を見せながら言い放って、咲夜が彼女に近づいていく。次の瞬間、白夜が小夜に改めてとどめを刺そうと爪を構えた。

「咲夜、逃げて!」

 小夜が白夜に刀を振りかざしつつ、咲夜を抱えて離れる。

「あなたの狙いは私でしょう!咲夜には手を出すな!」

「邪魔するヤツにも容赦しない!お前を倒すのがオレの目的だ!」

 声を張り上げる小夜だが、白夜は彼女に敵意を向けるだけだった。

「咲夜、離れて!」

「小夜ちゃん!」

 小夜が咲夜を突き放して、刀で白夜の爪を受け止める。

「私を倒すためなら、他の人が傷ついてもいい・・そんなやり方、私は許さない・・・!」

「オレの家族を殺したお前が!」

 憤る小夜を、白夜がさらなる怒りで押し切る。突き飛ばされた小夜が両足に力を入れて踏みとどまる。

「お前はオレの家族の仇・・ここでお前を・・!」

「やめてったら!」

 そこへ咲夜が小夜の前に出て、白夜を呼び止めてきた。

「小夜ちゃんが・・小夜ちゃんが罪のない人を傷つけるなんてことしない・・小夜ちゃんのことを何も知らないで、勝手なことを言わないで!」

「何も知らないのはお前のほうだ!コイツがオレの家族を殺したのは間違いない!」

 切実に呼びかける咲夜だが、白夜は聞き入れず、歩みを止めない。

「たとえ刀を持って戦っていても、小夜ちゃんは悪いことはしない!」

「オレの家族を殺したのが、悪いことでないというのか!?

 さらに呼びかける咲夜だが、白夜の怒りを増すことになった。

「邪魔をするなら、お前も容赦しないぞ!アイツがいる限り、オレの平穏は戻らない!」

 白夜が小夜を庇う咲夜にも爪を振りかざそうとする。そのとき、小夜が飛び込んで白夜に刀を突き立てた。

「咲夜を傷つけるなら、私はあなたの命を絶つこともためらわない!」

 小夜がさらに刀を押し込む。刺された白夜の左肩から血があふれ出し、小夜に降りかかる。

「咲夜、今のうちに逃げるよ!」

 小夜が咲夜の腕をつかんで逃げ出していった。

「逃げるな!」

 白夜が2人を追いかけようとするが、すぐに姿を見失ってしまった。彼は五感を研ぎ澄ませて、小夜の気配をつかみ取ろうとする。

「逃がさない・・絶対に逃がさないぞ!」

 白夜が小夜を追って走り出す。彼を突き動かしているのは小夜への怒りだけ。彼女を倒すためなら手段を選ばないと彼は考えていた。

 

 突然現れた咲夜を連れて逃げ出した小夜。2人は林の中に隠れて、白夜の追跡をかいくぐろうとしていた。

「ハァ・・ハァ・・咲夜、大丈夫・・・!?

「あたしは大丈夫・・小夜ちゃんが引っ張っていってくれなかったら、どうなってたか・・・」

 心配の声をかける小夜に、咲夜が照れ笑いを見せる。すると小夜が咲夜の両肩を強くつかんできた。

「どうして私を探してきたの!?・・・私は・・あの怪物と変わらないのに・・・!」

「そんなことない・・だってまだ、小夜ちゃんは小夜ちゃんから変わってないじゃない・・・!」

 咲夜の切実な気持ちを込めた言葉に、小夜が戸惑いを覚える。

「小夜ちゃんがあんなバケモノになっていたら、あたしを助けてくれるなんてしてくれないよ・・小夜ちゃんにはまだ、心が残ってるんだよ!」

「咲夜・・・」

「自分がバケモノだと思われて、あたしが怖がると思って出ていったんなら、大間違いだよ・・あたしはどんなことがあったって、小夜ちゃんを見捨てるようなことはしないよ・・」

「咲夜・・・でも、私にこれ以上関わったら、咲夜も無事じゃ・・・」

「小夜ちゃんがいないほうが、あたしには辛いよ・・・!」

 咲夜に気おされて、小夜は動揺を募らせていく。彼女は咲夜を突き放すことができなくなっていた。

「やっぱり・・咲夜のところに、無事に帰らないといけないわね・・・」

「小夜ちゃん・・・ありがとうね・・・」

 咲夜の気持ちを受け入れる小夜。微笑みかける彼女に、咲夜が笑顔を見せた。

「見つけたぞ、ターゲットB!」

 そこへ声がかかり、小夜が身構える。彼女たちを数人の兵士たちが取り囲み、銃を構えてきた。

「武器を捨てて大人しくついてこい。そうすれば狙撃はしない。」

 兵士の隊長が小夜に呼びかける。一瞬敵意を見せる小夜だが、咲夜がそばにいたことに気付いて自制する。

(1人ならすぐにでも斬り捨てるべきだけど、咲夜がいるのにその手は使えない・・!)

 打開の糸口を探ろうとする小夜。彼女は咲夜が無事でいられる選択肢を選ぼうとしていた。

「やめて!小夜ちゃんは何も悪いことをしていない!」

 そのとき、咲夜が兵士たちに呼びかけて、両手を広げて小夜を守ろうとする。

「どけ!刃向かうならお前もただでは済まなくなるぞ!」

「勝手なこと言わないで!小夜ちゃんを無理やりどうかしちゃおうとしてる人の言うことなんて聞かない!」

 隊長が呼びかけるが、咲夜は聞き入れようとしない。

「やめて、咲夜!刺激してはダメよ!」

 小夜が呼び止めようとするが、咲夜は彼女を守ることをやめない。

「小夜ちゃんに何かしたら、あたしが許さないんだから!」

 咲夜が感情を込めて言い放ったとき、兵士の1人が彼女に当たるのも顧みずに小夜を狙って発砲した。

「咲夜!」

 小夜が咲夜を抱えてジャンプする。兵士たちの包囲を飛び越えたが、その直前に弾丸を左足に受けてしまう。

「うっ!」

 激痛を感じながらも、小夜は咲夜を連れて走り出す。

「逃がすな!だが発砲はするな!」

 隊長が兵士たちに命令を下す。

「しかし銃を使わずにターゲットBを捕まえるのは・・!」

「一般人を手にかけるのは禁忌となっている!絶対に銃は使うな!」

 言葉を返す兵士に、隊長がさらに呼びかける。兵士たちが小夜たちを追って走り出していった。

 

 白夜だけでなく、クロスファングの兵士たちからも追跡される小夜と咲夜。小夜はせめて咲夜を安全な場所まで連れて行こうと必死になっていた。

(何とかしないと・・このままじゃ咲夜が・・・!)

 だんだんと焦りを膨らませていく小夜。彼女は咲夜を連れて寮に向かっていた。

(せめて寮まで行けば、咲夜を安全にできる・・せめてそこまで・・・!)

「小夜ちゃん・・足、大丈夫・・・!?

 考えを巡らせていたところで、小夜は咲夜に声をかけられる。彼女は左足を銃で撃たれていた。

「大丈夫・・弾は貫通しているから、すぐに治るわ・・」

「治るって・・撃たれただけでも大ケガだって・・・!」

 言いかける小夜に、咲夜がさらに心配の声をかける。すると小夜の撃たれた傷が瞬く間に塞がっていった。

「傷が・・・!」

「私は普通の人よりも能力が高い・・このぐらいの傷ならすぐに回復してしまうのよ・・・」

 驚く咲夜に小夜が説明する。納得する一方で、咲夜は胸を締め付けられるような気分を感じた。

「だからって、自分が傷つくのを軽く見ないで・・小夜ちゃんが傷ついているのを見るの、あたしはイヤだよ・・」

「咲夜・・私は、そんなふうに自分を考えてはいないよ・・今はなおさら・・」

 辛い顔を見せる咲夜に、小夜は微笑んで首を横に振った。彼女は咲夜を守りたい気持ちをさらに強めていた。

「見つけたぞ・・もう逃がさないぞ・・・!」

 そのとき、小夜と咲夜の前に白夜が現れた。彼に見つかったことに、小夜は緊張を一気に膨らませた。

「お前を倒せば、オレの家族は報われる!」

「小夜ちゃん!」

 白夜が小夜に向けて爪を突き出した。だがその爪が捉えたのは小夜ではなく咲夜だった。

「えっ・・・!?

 小夜はこの瞬間に目を疑った。咲夜が白夜の手にかかり、ゆっくりと倒れていく。

「咲夜・・・咲夜!」

 傷ついた咲夜に小夜が悲鳴を上げた。

 

 

次回

第11話「咲」

 

「悲しい顔しないで、小夜ちゃん・・・」

「いつも小夜ちゃんに助けられてばっかりだった・・・」

「でもあたし、小夜ちゃんを助けられた・・・」

「いつまでも小夜ちゃんに笑顔でいてほしい・・・」

 

 

作品集

 

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