ガルヴォルスBLOOD 第9話「血」

 

 

 咲夜を襲ってきた知矢に戦いを挑む白夜。彼は素早い動きで触手をかいくぐり、知矢に迫る。

 白夜が振りかざした爪が知矢の体に命中する。だが白夜は思い手応えを感じて目つきを鋭くする。

「お前・・どれだけの人を犠牲にしてきた・・・!?

「さぁな、数えてないな・・ひたすら血を吸って、強くなることを考えたからな・・」

 問い詰めてくる白夜に、知矢が不気味な笑みを浮かべてくる。その返答と態度が、白夜の感情を逆撫でする。

「お前のようなヤツがいるから、傷つく人がいるんだ!」

 激高した白夜に光が宿る。彼の力が一気に高まっていく。

「それなりに強くなっているんだぞ、オレは・・お前でも、前のように簡単にやれると・・!」

 知矢が強気な態度を見せたときだった。彼の右肩が、飛び込んできた白夜の爪に切り裂かれた。

「何っ!?

 驚きの声を上げる知矢。彼は無意識に白夜の突撃をかわそうとしていた。それがなければ、白夜の爪は肩ではなく体に突き刺さっていた。

(まだ、オレよりコイツのほうが上だというのか・・・!?

 また自分に力が足りないことに、知矢は憤りを膨らませる。だが憤りを膨らませていたのは白夜も同じだった。

「必ず叩き潰す・・お前を野放しにしてたまるか・・・!」

 白夜が知矢に再び爪を振り下ろす。知矢は触手で地面を叩いて、白夜から離れる。

「これ以上の暴挙は許さないぞ。」

 着地したところで知矢が声をかけられる。彼の後ろにいたのは丈二だった。

「ここからはオレがやる。日向白夜は下がっていろ。」

 丈二は白夜に言い渡すと、シャークガルヴォルスに変身して知矢に立ち向かおうとする。

「邪魔をするな・・コイツはオレが倒す・・・!」

「勝手を言うな。ターゲットBだけでなく、他のガルヴォルスの首も手柄として独占するつもりか・・!?

 敵意をむき出しにする白夜に、丈二が苛立ちを見せる。

「このままやられてたまるか・・オレはやられない!」

 知矢が叫んで、丈二に向けて触手を伸ばす。だが丈二の肘の角で触手が切り裂かれる。

「おのれ!」

 知矢が触手で地面を叩いて、白夜と丈二の前から離れていく。

「逃がさないと言ったはずだ!」

 白夜が知矢を追いかけるが、同じく知矢を追いかけようとした丈二と衝突する。

「ぐっ!」

 ぶつかって地面に落ちる白夜と丈二。2人が互いを鋭くにらみつける。

「邪魔をするな!オレはアイツを・・!」

「どこまで貴様は、我々の妨害をすれば気が済むのだ・・・!?

「どこまでもオレの邪魔を・・お前もオレの敵でしかないようだな・・・!」

「同じ言葉を返す・・ここで貴様の暴挙を断罪する・・!」

 知矢を打倒することを気に留めず、白夜と丈二がまたも敵対する。

「ちょっと待てって、お前たち・・」

 そこへトリスが現れて2人を呼び止めた。白夜も丈二も憤りを浮かべたまま、トリスに振り向く。

「あのガルヴォルスを追ってたんじゃないのか?それなのに仲間割れして・・」

「オレはお前たちを仲間と思った覚えはない・・・!」

「任務の支障となるものは排除しなければならない・・・!」

 トリスに呼びかけられても、白夜も丈二も引き下がろうとしない。

「あのガルヴォルスを逃がすほうがよっぽど屈辱。そうは思わないのかい?納得できるのかい?」

 トリスのこの言葉を聞いて、白夜と丈二はようやく思いとどまった。2人は人間の姿に戻るも、互いへの敵意を消せないでいた。

「丈二はアイツを探しに行けって・・白夜は他に追いかけてるヤツがいただろ。」

「くっ・・日向白夜の処罰はすぐに行う。覚悟しておくことだな・・」

 トリスに言い返せず、丈二が低く告げてから知矢を追いかけていった。白夜もトリスの言葉を理解していた。

「オレはアイツを追う。だがもしあのガルヴォルスを見つけたら、今度こそオレが倒す・・」

 トリスに言いかけてから、白夜は小夜を追って走り出していった。

「やれやれ。もう少しぐらい仲良くできないもんなのか・・」

「どうやらそれは不可能というしかないようだ・・」

 肩を落とすトリスに答えてきたのはリュウだった。

「隊長が現場に出てきてどうするんです?何かあったら崩壊必死ですよ・・」

「部下にばかり働かせる上官よりはいいと思うが?」

 苦言を呈するトリスに、リュウが淡々と答える。

「白夜と丈二を取りまとめることができるのはトリス、お前しかいない。頼むぞ。」

「問題児のお守りですか?本当に厄介な仕事ですね・・」

 リュウの呼びかけにトリスが肩を落とす。彼はため息混じりに、白夜が行ったほうに歩いていった。

 

 知矢やクロスファングの動向を探ってから、小夜は寮に帰ってきた。もう咲夜が先に帰ってきているだろうと思っていた小夜だが、寮の部屋に彼女の姿はなかった。

「咲夜?・・帰っていないの・・・?」

 小夜が声をかけるが返事がない。部屋を見回す彼女だが、咲夜の姿はない。

(もしかして、あのガルヴォルスに・・・!?

 一気に不安を膨らませた小夜が、咲夜を探しに外に飛び出した。寮の前に出たところで、彼女は咲夜の姿を目撃する。

「咲夜!」

 小夜が慌ただしく咲夜に駆け寄る。咲夜は体だけでなく心も疲れ果てていた。

「咲夜、どうしたの!?しっかりして、咲夜!」

「小夜ちゃん・・・ランが・・・ランが・・・!」

 呼びかける小夜に咲夜が声を振り絞る。彼女のこの言葉で、小夜は何が起こったのかを把握した。

(あのガルヴォルスが・・咲夜たちにまで襲いかかってきた・・・!)

 小夜の心の中にあった知矢への憎悪が一気に膨れ上がった。

(守らないと・・咲夜を守らないと・・・!)

 同時に彼女は咲夜への強い思いも感じていた。

「咲夜、あなたは寮に戻っていて・・誰が来ても、絶対にドアを開けないで・・」

「小夜ちゃん・・・」

 呼びかけてくる小夜に、咲夜が動揺を浮かべる。

「いいね・・絶対に外に出ないで・・・!」

 小夜は咲夜に強く念を押すと、知矢を探しに外に飛び出していった。心身ともに疲れていた咲夜は、小夜を呼び止めることができなかった。

 

 ランを手にかけ、咲夜をも傷つけた知矢に、小夜は怒りを募らせていた。

(やっぱり、私がそばについていればよかった・・そうすれば、咲夜が傷つくこともなかった・・)

 同時に彼女は自分を責めていた。

(私が決着をつける・・私の手で、何もかも終わらせる・・・!)

 小夜が決意を込めた右手の中に刀が現れる。彼女は刀を握りしめて、五感を研ぎ澄ませて知矢の気配を探った。

 小夜の鋭く研ぎ澄まされた感覚、血のように紅く染まった瞳が、逃げ回る知矢の姿を捉えた。

「いた!」

 小夜は目を見開いて、知矢に向かって駆け出していった。自分のことが知矢や他のガルヴォルスに知られても、今の小夜には構わなかった。

 知矢に接近して、小夜が刀を構える。怒りと殺気で満ちている彼女の接近は知矢に気付かれていた。

「しつこく狙ってきて・・・!」

 苛立ちを見せる知矢が、触手を伸ばして知矢を迎え撃つ。小夜は刀を振りかざして触手を切り裂いていく。

「お前、自分の目的のために、咲夜たちまで・・・!」

 小夜が怒りを込めて刀を振りかざす。知矢は素早く動いて刀をかわしていく。

「そんなに血がほしいというの!?血を吸うために、みんなを次々に犠牲にして・・!」

「よく言うぜ!お前も血を力に変えるヤツじゃないか!」

 激高する小夜を知矢があざ笑う。彼のこの態度が彼女の感情を逆撫でする。

「違う!私は、お前たちとは違う!」

「違わないさ!血を力に変える吸血鬼さんよ!」

 言い返す小夜を知矢がさらにあざ笑う。小夜が振り下ろした刀を左肩に食い込まれるも、知矢は触手を伸ばして彼女の体を締め付ける。

「この前のオレだと思うな・・今度こそ・・今度こそお前の血を・・・!」

 知矢が小夜の血を吸おうと触手を伸ばそうとする。小夜は全身に力を込めて触手をかいくぐり、刀で絡み付いている触手を切り裂く。

「どこまでもしぶとくしやがって!」

 苛立つ知矢が小夜に飛びかかり、力任せに血を吸い取ろうとした。だが彼女が突き出した刀に右肩を貫かれる。

「ぐあっ!」

 絶叫を上げる知矢から血しぶきが起こる。返り血を浴びる小夜が、知矢に鋭い視線を送る。

「もう2度と、誰も傷つけさせない・・今ここで、お前を斬る・・・!」

 小夜が刀を引き抜いて、知矢にとどめを刺そうとする。

「お前!」

 そこへ声が飛び込み、小夜が目を見開いた。飛び込んできた声の主は、ウルフガルヴォルスとなっている白夜だった。

 白夜は両手のをで、小夜と知矢に同時に振りかざす。小夜は刀で爪で防ぎ、知矢は紙一重でかわす。

「お前は・・こんなときに・・・!」

 毒づく小夜が刀を振りかざして白夜を引き離す。だがその一瞬に知矢は逃げ出していた。

「逃がすか!」

 知矢を追いかけようとする小夜だが、白夜に横から突き飛ばされる。

「邪魔をするな!アイツを倒さなければならないんだ!」

「オレはお前を倒す!お前が、オレの家族の仇だ!」

 呼びかける小夜だが、白夜は聞き入れずに飛びかかってくる。小夜が刀を振りかざすが、白夜の爪に刀身を受け止められて押し返されていく。

「お前がいなければ、オレは平和な日常を過ごせるはずだった!お前がいなければ!」

「それは私のセリフだ!お前たちクロスファングが、私の日常を狂わせた!」

 怒号を上げる白夜に小夜も言い返す。爪と刀に力を込められて、互いの体を切り付けていく。

(コイツを倒せば全てが終わる・・オレたちの悲劇を、終わらせることができる!)

 感情を高まらせた白夜から電撃のようなオーラがあふれ出してきた。彼の戦闘能力が一気に高まった。

 白夜が加速して爪を振りかざす。小夜が刀で受け止めるが、白夜の力に押されていく。

(これは・・!?

 白夜の力に脅威を覚える小夜。白夜の爪が彼女の左の二の腕に傷をつけた。

「ぐっ!」

 切り付けられて小夜が顔を歪める。白夜がさらに爪を突き出し、刀を構えた小夜を突き飛ばした。

 激しく横転した小夜がすぐに体勢を整えて、向かってくる白夜を見据える。

「お前だけは、この手で地獄に叩き落とす!」

 怒りを募らせて、白夜が爪を振りかざす。だが2人が交錯した瞬間、体に傷をつけられたのは白夜のほうだった。

「何っ!?

 逆に攻撃を受けたことに白夜が驚愕する。膝をつく彼に小夜が振り返る。

「スピードもパワーも上がっていたが、まだその力をコントロールできていないようだな・・動きが直線的だった・・」

「だからよけずに迎え撃ったというのか・・そんなことで・・オレは倒れない・・倒れてたまるか・・・!」

 低く告げる小夜に対して、白夜が憎悪をむき出しにする。

「私は大切な人を守るために戦う・・その思いを踏みにじるお前たちクロスファングやガルヴォルスを、私は許さない・・・!」

「偽善まで口にするか・・そんなことを言うお前が、オレの家族を、オレの大切な人を殺したんだぞ!」

 敵意を見せる小夜に白夜が怒号を放つ。この言葉を耳にして、小夜が心を揺さぶられた。

(私が・・大切な人を殺した・・・!?

 白夜の言葉に耳を疑う小夜。彼女は白夜に対する怒りを消さないようにする。

(コイツもクロスファングの1人・・私の日常を狂わせた敵の1人・・!)

 小夜が気を引き締めて、刀を構えて白夜を見据える。白夜も痛みに耐えて、小夜に向かっていく。

「お前を倒さなければ、悲劇は終わらない!」

「お前たちがいる限り、本当の安息は訪れない!」

 白夜と小夜が怒りのままに、爪と刀を振りかざす。激しい衝撃の中、小夜の手から刀が弾かれた。

「なっ!?

 武器を失ったことに毒づく小夜。彼女は白夜の突撃をかいくぐり、刀を求めて茂みに飛び込んだ。

「逃げるな!」

 白夜が追いかけるが、茂みの中には小夜の姿はなかった。

「どこにいる・・・どこにいる!?

 小夜への怒りの叫びをあげて、白夜は力を暴走させていた。

 

 白夜の攻撃から辛くも脱し、刀も取り戻した小夜。だが彼女の心の中に、自分のしたことの後悔が芽生え始めていた。

(私が、アイツの大切な人を殺した?・・でも私もクロスファングに、ムチャクチャにされて・・・!)

 込み上げてくる迷いに苦悩していく小夜。落ち着くことができなくなり、彼女はだんだんと呼吸を乱していく。

「おっ、かわいい子みーっけ!」

 そこへ声がかかり、小夜が殺気を研ぎ澄ませる。彼女の背後にカマキリの怪物が立っていた。

「かわいい子を見ると・・どうしても切り刻みたくなってくるんだよな!」

 怪物、マンティスガルヴォルスが小夜に飛びかかり、手の鎌を振りかざしてきた。だが小夜が振りかざした刀に、マンティスガルヴォルスが両手を切り裂かれた。

「何っ!?

「今の私に近づいたのが命取りだったようね・・・!」

 驚愕するマンティスガルヴォルスに、小夜が低く告げる。彼女はさらに刀を振りかざす。

 マンティスガルヴォルスの体が切り裂かれ、鮮血をあふれさせる。返り血を浴びた小夜が、刀を振って刀身についた血を振り払う。

「このように・・迷いを捨てないといけないのに・・・」

 ガルヴォルスを倒したにもかかわらず、小夜は苛立ちを感じていた。揺れ動く感情は、彼女の血の衝動さえも揺さぶっていた。

「血が・・血が・・・抑えられない・・・」

 瞳を紅く染めた小夜がマンティスガルヴォルスに近づく。彼女はあふれているその血を舌で舐め取っていく。

 動揺が広がっている小夜は、飢えと渇きの赴くままに血を吸い取っていった。

「小夜ちゃん・・・?」

 そこへ聞き覚えのある声が耳に入り、小夜が目を見開く。我に返った彼女の前にいたのは、寮にいたはずの咲夜だった。

「小夜、ちゃん・・・!?

「咲夜・・・!?

 咲夜の登場に驚愕する小夜と、小夜の血まみれの姿を見て驚愕する咲夜。

(見られた・・今の私を・・・!)

 困惑を膨らませる小夜が、手から刀を落とす。彼女の戦意も冷静さも完全に失われていた。

「咲夜・・・これは・・その・・・!」

 小夜が声を振り絞って、咲夜に呼びかける。驚愕と恐怖の高まりで、咲夜が目を開けたまま意識を失い、倒れてしまう。

「咲夜!」

 小夜が駆け込んで咲夜を支える。

「咲夜、しっかりして!さく・・!」

 呼びかけたとき、自分に降りかかっていた返り血が咲夜にもついたことに、小夜は愕然となった。

(完全に巻き込んでしまった・・・咲夜を、私の戦いに・・・)

 絶望感に襲われた小夜がその場に座り込んでしまう。彼女が咲夜を寮に連れ戻したのは、しばらくその場にとどまってからだった。

 

 

次回

第10話「信」

 

「もう私、咲夜のそばにいないほうがいいのかもしれない・・・」

「今度こそ・・今度こそお前を・・・!」

「あたし、小夜ちゃんを信じたい・・・」

「信じてあげないと、小夜ちゃんがどんどん辛くなっちゃうから・・・!」

 

 

作品集

 

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