ガルヴォルスBLOOD 第8話「力」
小夜の行方を必死に探っていた白夜。しかし彼は彼女の居場所を見つけられないでいた。
(これだけ・・これだけ探しても見つけられない・・この近くにいることは分かっているのに・・・!)
街やその周辺もくまなく探した白夜だが、小夜の手がかりさえも見つからなかった。
そのとき、白夜は突然強い気配を感じ取って足を止めた。
(この感じ・・アイツなのか!?・・強い力を持っているようだが・・・!)
白夜は感覚を研ぎ澄ませて、気配の主を探っていく。
(森のほう・・あの辺りにはもう行ったはず・・・!)
込み上げてくる気分を振り切って、白夜は走り出した。彼は街を飛び出して、森の中に足を踏み入れた。
(どこだ・・どこにいる・・・!?)
「オレもずいぶんと人気者になったものだ・・」
血眼になっていたところで、白夜が声をかけられる。彼の前に青年、知矢が現れた。
「お前もガルヴォルスか?それもかなりレベルが高い・・」
「お前は誰だ・・人間を襲うガルヴォルスか・・・!?」
笑みを浮かべる知矢に対し、白夜が目つきを鋭くする。
「襲わないと言ったらウソになるな。強くなるためにやっているからな・・」
「お前も人を弄んでいるのか・・・!?」
笑みを見せる知矢に怒りを見せる白夜の頬に紋様が走る。彼の姿がウルフガルヴォルスへと変わった。
「やはりガルヴォルスだったか・・お前のような獣に好かれても嬉しくないが・・」
「いつまでも調子に乗るな・・身勝手なバケモノが!」
悠然と言いかける知矢に、白夜が怒号を放つ。白夜が知矢に向けて素早く飛びかかってきた。
「お前のようなヤツでも、力の足しになるか・・」
知矢もヒルガルヴォルスになって、白夜に触手を伸ばす。白夜は素早くその間をすり抜けて、知矢に爪を立てる。
「ぐっ!」
体に傷をつけられて、知矢が顔を歪める。彼は触手を振りかざして、白夜から離れる。
「お前も強いな・・お前の血を吸えば、オレはもっと強くなれる・・あの女を超えられる・・・!」
「あの女・・お前、アイツを知っているのか・・・!?」
「アイツ?」
「刀を持った女だ・・お前は知っているのか・・・!?」
「この前会っただけだ・・アイツの血の味を確かめたくて、今もウズウズしてるぜ・・・」
問い詰める白夜に、知矢が不敵な笑みを浮かべてくる。
「アイツをやるのはオレだ!誰にも邪魔はさせない!」
「おいおい、何勝手に独り占めしようとしてんだ?オレが目を付けたんだから、オレがものにするのが・・」
怒鳴る白夜を知矢があざ笑った。次の瞬間、知矢の体に白夜の右手の爪が突き刺さった。
「アイツをやるのはオレだと言ったはずだ・・邪魔をするなら、お前も倒す・・・!」
白夜が低く鋭く言いかける。体から血をあふれさせている知矢が、再び笑みを浮かべてきた。
「いいぞ・・ますます楽しみが増えてきたぞ・・・それと同時に、お前たちへのイライラも増したぞ!」
知矢が叫んで触手を振りかざす。白夜は逃げずに爪を振りかざして、触手を切り裂いていく。
「お前の血を奪えば、オレは一気に強くなれる・・・オレは無敵になれる!」
歓喜の笑みを強めていく知矢。だが気持ちとは裏腹に、彼は白夜に対して劣勢に立たされていた。
「お前も・・お前もオレが必ず・・・!」
知矢は苛立ちを募らせながら、白夜の前から姿を消した。
「逃げるな!」
白夜が怒鳴りながら知矢を探す。
「焦り過ぎだって、白夜。」
そこへ声をかけられて、白夜が足を止める。彼の前に現れたのはトリスだった。
「アンタ・・・」
「あのガルヴォルス、どうやらお前が追っているあの子も狙ってるみたいだな・・」
目つきを鋭くする白夜に、トリスが気さくに声をかけてくる。
「あの子を狙うヤツは、オレの敵だ。でも白夜、お前は別。特別だ。」
「特別扱いされるほどのことには何もなっていないが・・」
なだめてくるトリスに、白夜が憮然とした態度を見せる。
「あの子も今のガルヴォルスも、チェリルちゃんたちが探してくれてるから。自分から探しに行くのもいいけど、果報は寝て待てってね。」
「待っている間にチャンスを逃す。オレはこれからもアイツを探す。邪魔をするヤツも容赦しない・・」
トリスの言葉さえも聞き入れようとしない白夜。人間の姿に戻った彼を、トリスはさらに呼びかける。
「そこまで言うなら別に構わないが、せめて何か食べてからにしたら?腹が減っては戦はできないからな。」
「くだらないことをベラベラと・・」
トリスの言葉と態度に滅入ってしまい、白夜はため息まじりに足を止めた。
「さっさと食事を済ませるぞ・・今はアンタの言うことを聞いてやる・・」
「すまないな、わがままに付き合わせちゃったみたいで・・」
肩を落とす白夜に、トリスが気さくな笑みを見せた。
小夜だけでなく白夜にも力負けしたことに、知矢はさらに苛立ちを募らせていた。
「あの女だけじゃなく、あんな狼にまで負けるとは・・・!」
人間の姿に戻った知矢が、苛立ちで顔を歪める。
「力がほしい・・血がほしい・・・」
小夜と白夜を倒して彼らの血を奪うため、力の渇望を膨らませていく知矢。彼の視界に、通りがかった2人の女性がいた。
「血だ・・血を吸えば、力を高めることができる・・・!」
渇望に満ちた笑みを浮かべて、知矢がヒルガルヴォルスになって女性たちに襲いかかった。2人は知矢の伸ばした触手に刺されて、一気に血を吸い取られていった。
「まだだ・・こんな程度ではまだ足りない・・・!」
血を吸い取ったにもかかわらず、知矢は満足していなかった。小夜と白夜に勝利するため、知矢はさらに人の血を求めた。
知矢の捜索を行うも見つけられず、小夜は戦意を抑えて寮に戻ってきた。
「小夜ちゃん、おかえり・・今日も遅かったね・・」
帰ってきた小夜を出迎えて、咲夜が心配の声をかけてきた。
「咲夜、ごめんなさい・・また、あなたに心配をかけてしまって・・・」
「ううん・・その代わり、今夜はあたしが夜ご飯の支度をしたんだから、次のあたしの番のときは小夜ちゃんがやってよね。」
「そうね。何度も咲夜に代わりにさせるのもよくないからね・・・」
謝る小夜に笑顔を見せる咲夜。
「咲夜、少しは料理の腕は上がったの?」
「もう、小夜ちゃんったら・・あたしだって成長してるんだからね。料理も勉強も、ボディだって・・」
小夜の問いかけを受けて、咲夜がふくれっ面を見せる。
「それじゃ成長した料理の腕を確かめさせてもらうとしますか・・」
「エヘヘへ。ちゃんと味わってよね♪」
笑みをこぼす小夜に、咲夜が笑顔を見せた。2人は咲夜が作った夕食を目にする。
「今日もカレーなのね・・咲夜が当番だと、ほとんどカレーね・・・」
「だってカレーが簡単なんだもん・・」
肩を落とす小夜に、咲夜が苦笑いを浮かべていた。
夕食を終えて、時間は夜中に差し掛かった。咲夜が熟睡している中、小夜はまだ寝ていなかった。
小夜は様々なことを考えて、不安と懸念を感じていた。白夜やクロスファング、知矢のことである。
(クロスファングは倒さなければならない・・自分たちの目的で、私をこんな体にして・・・)
自分の体を異形のものへと変えられたことで、小夜はクロスファングへの憎悪を芽生えさせていた。
(アイツらを何とかしないといけない・・でもその前に、あのガルヴォルスを何とかしないといけない気がしてならない・・・)
小夜はクロスファング以上に知矢のパワーアップを危惧していた。
(もしもガルヴォルスになったなら、私が感覚を研ぎ澄ませれば見つけられるはず・・見つけ出したら、確実に倒さないと・・・!)
知矢の打倒を念頭に置く小夜。だが彼女は今は知矢の気配を感じ取れなかった。
(今は今後に備えて休んだほうがいいかもしれない・・その間に何もなければいいけど・・・)
次の壮絶な戦いに備えて、また平穏な日常がまた訪れるのを信じて、小夜は眠ることにした。
朝を迎え、朝食の支度をしていた小夜。彼女はその間にTVのニュースも耳にしていた。
そのニュースは女性が襲われて血を抜き取られた事件を知らせていた。この一晩の間に被害者は2ケタに達していた。
(やはりあのガルヴォルス・・この夜にこんなに襲いかかったなんて・・・!)
感じていた不安が当たったと思い、小夜が悔しさを募らせていく。
「おはよ〜・・・」
その緊張感を吹き飛ばすように、咲夜が気のない挨拶をしてきた。
「咲夜、おはよう・・」
小夜が何とか元気の素振りを見せて、咲夜に挨拶を返す。
「あたしって、何でいつも早く起きれないのかな〜・・小夜ちゃんより先に寝たはずなのに〜・・・」
「ちゃんと気を引き締めていれば、寝坊することもないと思うのだけど?」
「そういうもんなのかなぁ〜・・」
小夜に励まされるも咲夜は気落ちしたままだった。
「それじゃ朝ごはんにしましょう。のんびりしすぎていると、それこそ遅刻よ。」
「それもイヤだよ〜!いっただっきまーす!」
小夜に言われて咲夜が慌てて朝食にかじりつく。
「慌てて食べても体に悪いよ・・」
彼女に苦笑いを送ってから、小夜も朝食を口にした。
学校でも夜の吸血事件のことで話は持ち切りになっていた。同時に校内でもその事件の不安が膨らんでいた。
「やっぱり、みんな不安になってるね・・」
咲夜が教室の中を見回してから、小夜に小声で囁いてきた。
「もしかして小夜ちゃん、この前の怪物が・・」
「咲夜・・・おそらく・・・」
咲夜の言葉に小夜は小さく頷いた。困惑を覚える咲夜に、小夜が心配の声をかける。
「咲夜はそのことは気にしないで・・危険に飛び込むことはないよ・・」
「小夜ちゃん・・でも・・・」
「お願い・・できることなら、もう関わってほしくない・・・」
「小夜ちゃん・・・小夜ちゃんがあたしを心配してくれるのは嬉しいけど、あたしも小夜ちゃんを心配してるんだからね・・」
心配するはずが、逆に咲夜に心配されてしまった小夜は、戸惑いを感じていた。だがその優しさを全て受け入れることは、彼女にはできなかった。
「ありがとう、咲夜・・お互い、気を付けるようにってことね・・」
「そういうこと。まぁ、もしも何かあったら、誰かに助けを求めるよ・・」
声を掛け合って笑みを見せ合う小夜と咲夜。教師が教室にやってきて、2人も席に着いた。
この日の放課後も咲夜は部活で、小夜は先に帰ることになった。
「咲夜、やはり終わるまで待っているよ・・帰り道で何かあったら・・」
「いいよ、そこまでしなくても。今日はランちゃんと一緒に帰る約束もしちゃったし・・」
呼びかける小夜だが、咲夜は首を横に振った。
「そこまで言うなら、私は帰ることにするよ・・本当に気を付けてね、咲夜・・」
「うん・・ホントにありがとうね、小夜ちゃん・・」
咲夜に声をかけてから、小夜は学校を後にした。これから何か起こるかもしれないという不安を抱えたまま。
(あのガルヴォルスを探さないと・・これ以上強くなる前に・・・)
小夜は知矢の行方を追って走り出した。自分自身の宿命を断ち切るためだけでなく、咲夜を守るために。
部活が終わり、咲夜は部活の仲間であるランと一緒に学校を出ていた。
「咲夜ちゃん、急いで帰ろうよ・・ニュースで言ってたあの事件のことがあるし・・」
「練習で疲れてるのに、また走るの〜・・そっちのほうが参っちゃうよ〜・・」
互いに不安を口にするランと咲夜。2人は緊張感を感じながら学校を後にした。
夕日が沈みかけていて、咲夜もランも夜の不気味な静けさを感じていた。
「う〜・・やっぱり怖いよ〜・・早く行こうよ〜・・」
「そんなに急がせないでよ〜・・いざとなったら携帯で警察に助けを求めれば・・」
怖がっているランを励ます咲夜。寮に近づいてきたときには、夜になって暗くなっていた。
「やっぱり、こう静かすぎる夜も怖いね・・」
「だよね・・だから早く寮に・・・」
さらに怖くなって、咲夜とランが寮に急ごうとしたときだった。
突然そばで物音がしてきて、2人が驚いて立ち止まる。
「な、何・・・!?」
ランが恐怖のあまり、振り返ることなく呟く。
(もしかしてあの事件の犯人・・あんな怪物じゃ・・・!?)
咲夜がさらなる不安を感じながら、ゆっくりと後ろを振り返った。
「次の獲物は、お前たちの血だ・・・」
咲夜とランの前に現れたのは知矢だった。彼の頬に紋様が浮かび上がっているのを咲夜が目撃する。
「ランちゃん、危ない!」
咲夜がとっさにランを引き寄せて走り出した。彼女たちがいた場所に触手が伸びて、地面をえぐっていた。
「大丈夫、ランちゃん!?早く逃げよう!」
咲夜が呼びかけるが、ランは恐怖のあまりに震えるばかりになっていた。
「逃げることないだろう。大人しくしてくれれば、怖いのも痛いのも短くて済むのに・・」
知矢が笑みを強めてから、ヒルガルヴォルスに変化する。彼は触手を伸ばして、咲夜とランに迫る。
「ラン、逃げないとあたしたち・・キャッ!」
ランに呼びかけた咲夜が、知矢の触手に叩かれて壁に叩きつけられる。
「咲夜ちゃん!」
悲鳴を上げるラン。咲夜が痛みを感じながら体を起こした。
次の瞬間、ランの体に知矢の触手が突き刺さった。
「ランちゃん・・・!?」
咲夜は目を疑った。ランが知矢の触手に血を吸われていた。
「咲夜ちゃん・・・助けて・・・たす・・け・・・」
咲夜に手を伸ばそうとするランから力が抜ける。彼女は知矢に血を吸い取られて力尽きた。
「ランちゃん・・ランちゃん!」
悲鳴を上げる咲夜に、知矢が笑みを見せてきた。
「まだだ・・まだ足りない・・アイツらを超えるには、まだ・・・」
知矢が咲夜を狙って歩を進めていく。
(は・・早く連絡を・・小夜ちゃんに・・・!)
咲夜が慌てて小夜に連絡を入れようとした。だが知矢の伸ばした触手に携帯電話を弾き飛ばされてしまう。
「あっ!」
「邪魔されるのは好きじゃない・・大人しくオレの餌食になれ・・」
声を上げる咲夜に、知矢が低く告げる。助けを呼ぶこともできず、咲夜は絶望に駆り立てられる。
そのとき、知矢が伸ばした触手が突然切り裂かれた。
「何っ!?」
この瞬間に知矢が驚きを見せる。自分もやられたと思っていた咲夜が、閉ざしていた目をゆっくりと開いた。
彼女の視界には、知矢の前に立ちはだかるもう1人の怪物の姿があった。それはウルフガルヴォルスとなった白夜だった。
「お前・・こんなときに現れるとは・・・!」
「まだ人を食い物にしているのか、お前は・・・!?」
苛立ちを見せる知矢に、白夜が憤りを見せる。
「あの、あなたは・・・!?」
「邪魔だ・・消えろ・・・!」
問いかけてくる咲夜に、白夜が冷徹に言葉を返す。
「で、でも・・」
「消えろ!」
白夜に怒鳴られて、咲夜が慌てて立ち上がって走り出していった。
「フン。白馬の王子様気取りか?」
「本当に邪魔だっただけだ・・お前の道具にされてもいい気がしないからな・・・!」
あざ笑ってくる知矢に鋭い視線を送る白夜。彼は全身に力を込めて、知矢に飛びかかった。
次回
「守らないと・・咲夜を守らないと・・・!」
「お前も血を力に変えるヤツじゃないか!」
「私は、お前たちとは違う!」
「小夜、ちゃん・・・!?」
「咲夜・・・!?」