ガルヴォルスBLOOD 第2話「牙」

 

 

 このとき、オレはまだ高校生だった。

 大学進学に手応えを見出していて、オレは自信と喜びを感じながら家に帰った。

 だが、オレが家で目にしたのは、血まみれの親父とおふくろだった。

 明かりのないリビングに立っていたのは、刀を下げた1人の女。着ていた女子の制服は返り血を浴びていた。

「お前か・・お前がやったのか・・・!?

 オレが声をかけるが、女は何も答えない。

「どうなんだ!?・・・何とか言えよ!」

 オレは怒鳴って女に殴りかかった。だが女は窓を破って外に出て行ってしまった。

「逃げるな!」

 声を上げるオレだが、女が逃げていくのを見送ることしかできなかった。

 オレは許せなかった。家族を殺したあの女を。そしてそいつに何もできなかったオレの無力さを。

 そしてオレは決意した。大学進学ではなく、あの女への復讐をする道を選ぶと。

 このときだった。オレがガルヴォルスという怪物へと変わったのは。

 

 突然家族を殺された白夜。独自に犯人を追っていた彼は、ガルヴォルスという存在を知り、自分もその1人となったことを自覚した。

 その後も独自で調査を続けた白夜はその道中、ある組織の人間に声をかけられた。それが「クロスファング」だった。

 クロスファングはガルヴォルスの引き起こす事件を解決、撲滅するために結成された部隊であり、前線に出るそのメンバーの多くもガルヴォルスだった。

 ガルヴォルスに覚醒し、高い身体能力を持っていると見て、クロスファングは白夜を自分たちの一員に加えようと呼び寄せた。しかし白夜は最初、クロスファングに加わることを快く思わなかった。

「我々としては、力のある君をサポートしていきたいとも考えているのだが・・」

「オレは軍隊やそれに準じた組織に入るのは嫌いです。絶対的なルールを押し付けるやり方に従うつもりは、オレにはありません。」

 入隊を拒む白夜の前に立っていた男。クロスファング戦闘部隊隊長、リュウ・ガルベルトである。

「ガルヴォルスに関する情報を単独で入手していくのは非常に困難。下手をすれば、我々の任務に支障をきたすことにつながりかねない。」

「邪魔をすれば始末することになる。だから協力したほうが身のためだと・・それでオレを従わせようとしても逆効果だ。なおさら従う気になれなくなる・・」

「ならば我々の用いる情報を利用すればいい。我々の任務に協力してくれるなら、君にも情報を提供しよう。それならば絶対主従もないだろう?」

「お互い利用しあうということか・・そこまでオレを指揮下に置きたいのか・・・?」

 冷静沈着に振る舞うリュウに、白夜が笑みを見せた。

「いいだろう・・アンタたちに協力してやる。オレの敵を倒すために、アンタたちを利用してやる・・」

 白夜がクロスファングの入隊を承諾した。するとリュウが白夜に手を差し伸べてきた。

「リュウ・ガルベルトだ。よろしく、白夜くん・・」

 白夜は笑みを見せることなく、リュウの手を取って握手を交わした。

 こうして白夜は、クロスファングの一員となった。だが彼には他の隊員ほどその意識はなく、あくまで家族の仇を狙うだけだった。

 

 身体と能力のチェックを行った白夜。チェックを終えた彼の前に、1人の青年がやってきた。

「お前か、新しく加わった隊員というのは?」

「誰だ、アンタ?アンタもここのヤツか?」

 声をかけてきた青年に、白夜が警戒の眼差しを送る。

「オレは神谷丈二。クロスファング戦闘部隊の隊員だ。お前の名は?」

「日向白夜。オレはアンタたちの部隊の一員になったつもりはない。オレの目的のために戦うだけだ。」

 互いに名乗る丈二と白夜。

「言ってくれるな・・新入りは緊張しすぎなのが欠点だが、調子に乗るのもいい気はしない・・」

 丈二は淡々と言葉を口にすると、白夜に一気に詰め寄ってつかんで、背負い投げを繰り出した。

「ぐっ!」

 床に叩き付けられて、白夜がうめき声を上げる。倒れた彼から手を放して、丈二が見下ろしてくる。

「いくらガルヴォルスになっていても、上には上があるということだ。覚えておくことだ。」

「お前、いきなりこんなことをして・・・!」

 冷徹に告げる丈二に、立ち上がった白夜が鋭く睨み付けてくる。

「お前にも言ってやる・・オレを完全に思い通りにできるとは思わ・・!」

「思っている。」

 白夜の言葉を丈二がさえぎった。

「現時点でお前はオレには勝てない。なぜなら、クロスファングのガルヴォルスはお前だけではないからだ・・」

 冷淡に告げる丈二の頬に異様な紋様が浮かび上がる。白夜は彼もガルヴォルスであることを実感した。

「お前も高いレベルのようだが、それだけで調子に乗らないでもらおう・・」

「それで納得するオレだと思うな・・・!」

 呼びかけてくる丈二に、白夜が鋭い視線を送る。2人は臨戦態勢に入り、衝突しようとしていた。

「ちょっと待った!ちょっと待ったー!」

 そこへ1人の少女が飛び込んで、白夜と丈二を止めてきた。紅いショートヘアをした、明るさと優しさを併せ持った雰囲気の少女だった。

「いきなり仲間割れはなしだって・・せっかくの新人くんなんだから・・」

「仲間割れではなく指導なのだがな、チェリル・・」

 少女、チェリル・ハウに声をかけられても、丈二は態度と考えを変えない。

「オレは指導されていたつもりも、お前たちの言いなりになったつもりもない。勝手なことを言うな・・!」

 白夜が丈二に向けて声を振り絞るが、チェリルになだめられる。

「もう、ホントにケンカはやめてったら・・ここからはあたしが案内するから・・」

 チェリルは丈二から引き離すように、白夜を連れ出していった。廊下に出たところで、白夜がチェリルの手を振り払う。

「オレを引っ張るな!何なんだ、いったい!?

「ゴメン・・でもあたしたちの間でケンカするのはよくないって思って・・・」

 怒鳴る白夜にチェリルが謝る。

「あたしはチェリル・ハウ。クロスファングの1人で、アシスタントよ。」

「オレは日向白夜。お前にも言っておくが、オレはここのメンバーになったつもりはない。あくまでオレの目的のためだ・・」

 自己紹介するチェリルだが、白夜は憮然とした態度を見せるだけだった。

「残念・・・でも、白夜くんの目的って・・?」

「人のことを無闇に聞くもんじゃない・・プライベートに勝手に踏み込んでくるな・・」

 質問を投げかけるチェリルだが、白夜は不満を見せながら歩き出していった。チェリルは慌てて彼を追いかける。

「待ってって・・リュウ隊長から話は聞いてるよ。君の求める情報はきちんと提供するようにって・・」

「そこまで言うならオレの求めるガルヴォルスの情報を出してもらおうか・・」

 さらに声をかけるチェリルに、白夜がようやく話に耳を傾けた。

「刀を使う人型のガルヴォルスだ。かなりレベルの高いヤツで、特にスピードは並外れている・・」

「刀・・詳しい情報はまだ集まっていないんだけど、あたしたちも何度か相手をしてきているよ。ホントに強くてホントに速いよ、あの子・・」

 白夜が口にした話に、チェリルが説明をしていく。

「彼女はあたしたちのほうでも警戒レベルが高いです。あたしたちでは彼女のことを“ターゲットB”と呼んでいます・・」

「ターゲットB・・」

「ターゲットBの狙いはガルヴォルスだけでなく、私たちも含まれてる・・むしろあたしたちのことを憎んでるようにも感じられた・・・」

「ヤツが何を企んでいようと関係ない・・オレはヤツを倒すだけだ・・それ以外のことを考えるつもりはない・・・」

 白夜は突っ張った態度を見せたまま、チェリルの前から歩き出していく。

「だから待ってって、白夜くん!」

「いつまでもオレに付きまとうと、無事でいられる保障がなくなるぞ・・・!」

 呼び止めようとするチェリルだが、白夜に鋭く言われてしまう。立ち去っていく彼を、彼女はこれ以上呼び止めることができなかった。

「本当に意固地な男だ・・」

 落ち込んでいるチェリルの横に、丈二が出てきた。

「自分のことしか考えず、オレたちの言葉に耳を貸そうともしない。あくまで自分を貫こうとするだけだ・・」

「そこまで悪く言えたもんじゃないよ。丈二みたいに真っ直ぐで・・」

「オレをあのような身勝手なヤツと一緒にするな。オレはクロスファングに忠実だ。」

「そういうとこが真っ直ぐだっていうのに・・・」

 顔色を変えずに言い返す丈二に、チェリルは肩を落としていた。

 そのとき、クリスファングの本部に警報が鳴り出した。チェリルが真剣な表情を浮かべて、丈二と一緒に走り出していった。

 

 クロスファングが用意した本部内の個室に、白夜はいた。彼は家族の仇に対する強い怒りを感じていた。

(何もできなかったのが悔しかった・・一方的にみんなを殺されて、その犯人を攻撃することもできなかった・・・)

 白夜は部屋の中で自分の無力さを痛感していた。

(だけどその後、オレはガルヴォルスというものになった・・この姿と力を手にしたのは、不幸中の幸いだった・・・これならアイツを追いかけて、倒すことができる・・・)

 ガルヴォルスとなった自分が弱くはないと実感する白夜。

(もう逃がさない・・みすごしてはおかない・・今度こそ、オレのこの手で・・・!)

 そのとき、白夜の耳にも警報が入ってきた。

「もしかしたら、アイツが・・・ヤツが出てきていたら、オレが叩き潰してやる・・・!」

 家族の仇への怒りを胸に秘めて、白夜は部屋を飛び出した。

 

 指示された場所、地下道に駆けつけた白夜。そこで彼はクロスファングの兵士たちと対峙している少女、小夜を発見した。

「アイツだ・・やっと見つけたぞ・・・!」

 小夜に鋭い視線を向けて、白夜が両手を強く握り締める。

(オレはもう、何にも振り回されない・・)

 一瞬頬に紋様が走った白夜だが、1度気持ちを落ち着けてから前進を始めた。

(オレのこの手で、お前を地獄に叩き落としてやる!)

 それから白夜は小夜に戦いを挑んだ。ウルフガルヴォルスになった白夜は、小夜を一歩まで追い詰めた。だが彼は小夜にとどめを刺そうとしたところで、丈二に止められた。

 このとき白夜は腑に落ちないながらも、丈二とクロスファングに従った。だが時間がたつにつれて、白夜はクロスファングよりも小夜の息の根を止めることを重視するようになっていった。

(オレはヤツを倒すためにここにいるんじゃなかったのか!?・・・倒せ・・アイツを・・オレの仇を・・・!)

 迷いを振り切ろうとして、白夜は走り出した。今度こそ小夜を自分の手で倒すために。

 

「アイツの居場所を教えろ!どこに連れて行った!?

 クロスファング本部に戻った白夜は、小夜の行方を問いただした。しかし兵士たちは毅然とした態度を見せるだけだった。

「たとえ戦闘部隊といえども、この件の質問にはお答えできません。最高レベルの秘密事項ですので。」

「どこに行ったって聞いているんだ!早く教えろ!」

「できません。お引取りください。」

 顔色ひとつ変えずに言葉を返す兵士たちに、白夜は苛立ちを募らせるばかりだった。

「もういい!アンタたちが何も言わないなら、しらみつぶしに探し出してやるまでだ!」

「それはクロスファングへの反逆につながるぞ。」

 飛び出そうとした白夜の前に現れたのは丈二だった。

「何度も言わせるな・・オレはお前たちの一員になったつもりはない・・オレの敵を倒すだけだ・・・!」

「お前の私情のために、クロスファング全体を危険にさらすわけにはいかない。」

 進もうとする白夜を、丈二は腕をつかんで止める。

「お前が抹殺されたとしても、クロスファングには何の影響もない。」

「それがどうした!?オレの邪魔をするなら、アンタたちだろうと・・!」

 戦意を見せる丈二の腕を、白夜が振り払った。

「2人ともそこまでだ。」

 そこへ声がかかり、白夜と丈二が振り向く。2人の前に白い髪の青年が現れた。

「お前だな、新しくクロスファングに入ってきたのは・・?」

「お前もわざわざ顔を出して、何のつもりだ、トリス・・?」

 白夜に問いかける青年、トリス・レイクに、丈二が鋭い視線を向ける。だがトリスは気さくな態度のまま、白夜に言いかける。

「オレが許可を出すまで冷静でいられるか?できるなら教えてやってもいいぞ。」

「トリス、貴様・・!」

 トリスが白夜に投げかけた言葉に、丈二が感情をあらわにする。

「オレがここで頷いても、その約束を裏切るかもしれないぞ・・それは先刻承知のつもりか・・?」

「そうなったら、敵同士になってでも邪魔せざるを得ないな・・」

 頑なな白夜に対し、トリスも気さくかつ強気な態度を崩さない。

「・・だがその心意気は気に入った。オレの責任でお前を連れてってやる。」

 トリスが口にした言葉が予想外に思えて、一瞬驚く白夜。だが小夜の居場所に行けることを喜んで、彼は笑みを浮かべた。

「トリス、我々に反逆するつもりか!?

「悪いがオレはお前みたいな、クロスファングの理念に基づいているヤツじゃない。待遇がいいからここで働いているだけのこと・・」

 声を荒げる丈二に、トリスが強気な態度のまま言葉を返す。

「じゃ、さっさと行くとするか。お前も急ぎたいんだろ?」

「後悔しないことだな・・」

 歩き出すトリスに白夜がついていく。小夜のいる場所に向かう2人に、丈二は憤りを感じていた。

 

 トリスが運転する車に白夜は乗っていた。車は小夜のいる施設に向かって走っていた。

「オレをアイツに会わせて・・何を企んでいる?オレをどうしようと考えている・・?」

「ただの気まぐれだ。気にしなくていいって・・」

 疑念を抱いている白夜に、トリスが気さくに返事をする。

「実はオレ、あの子が気になっちゃってな・・」

「は?」

「あのきれいな黒髪と背丈がいい・・そして服の中に隠されたボディスタイルがどれほど魅力的なのか、気になってしょうがなくなっている・・」

 いやらしい笑みを浮かべてきたトリス。彼の様子の意味が分からず、白夜は眉をひそめていた。

「ま、お前があの子に会いに行く理由は、オレみたいな不純なもんじゃないんだろ?」

 真面目な顔を浮かべてきたトリスに対して、白夜は目つきを鋭くしていた。

 

 クロスファングの上層部が管理している地下施設。その奥の実験室に小夜は運び込まれていた。

「ターゲットBのデータ、78%まで収集を完了しています。」

 研究員の1人が、調査チームのリーダー、迫水(さこみず)時雨(しぐれ)に報告を入れる。時雨は生物学で高い学力を示唆し、ガルヴォルスの研究にも力を入れていた。

「やっと戻ってきたんだ・・我々の研究の成果が・・・」

 時雨が体を調べられている小夜の様子をガラス越しで見て、喜びの笑みを浮かべる。

「あのとき、不覚にも逃げられてしまったが・・今度こそ研究を完成させてやるぞ・・・!」

 笑みを強めながら作業を進めていく時雨。

 その間も体を調べられていた小夜。だが、このとき彼女は意識を取り戻していた。

 

 

次回

第3話「対」

 

「絶対に・・絶対に許さない・・・!」

「お前、もう動けるのか・・!?

「今度こそ・・今度こそお前を!」

「この前の借り、ここで返してやる・・・!」

 

 

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