ガルヴォルスBlade 第24話「真の絆」
華音と双真の居場所をつかんだ流星が、双真の家に向かって進んでいた。彼は人の目から外れながら、人間離れした身体能力で移動速度を上げていた。
(双真、待っていてくれ・・すぐに行くから・・・)
双真に会いたい気持ちを募らせていた流星だが、すぐに華音への憎悪を浮かべた。
(華音ちゃん・・どうやらオブジェにして、終わりのない生き地獄を味わわせても意味がないみたいだ・・やはり命を奪わないといけないみたいだね・・・)
華音の命を奪うことを決心して、流星は双真の家へ急いだ。
だがその途中、流星は華音と双真が移動していることに気付いて、足を止めた。
「2人が移動している・・僕のほうへ向かってきている・・僕のことに気付いたのか・・・」
華音と双真の接近に、流星が笑みをこぼした。
「そういうことなら、うまく導いてあげたほうがいいかもしれないね・・」
流星は華音と双真のいる場所へは向かわず、2人を待ち受けることにした。
双真の家を飛び出して、彼と一緒に流星に会おうとする華音。だが流星が移動の方向を変えたことに、彼女は疑念を抱いた。
「流星さんが別の場所に移動してる・・・もしかして、僕たちを誘っているんじゃ・・・!?」
「ふざけたことを・・真っ直ぐくれば簡単だというのに・・」
流星が移動しているほうに振り向く華音と、不満を口にする双真。
「人のいないところで待っているってことかな?・・だったらそのほうがいい・・・!」
華音は双真を連れて、改めて流星のいる場所に向かっていった。
人気のない草原の広場。その中央に流星が立っていた。
「流星さん・・・!」
流星を発見して、華音と双真は彼の前で立ち止まった。
「双真、華音ちゃん・・まさか本当に、僕の石化を破っていたなんて・・・」
現れた2人を目の当たりにして、流星は改めて驚きを感じた。
「ひたすら何とかしようって思った・・後は僕の持てる力を出し切っただけ・・・」
華音が流星に右手を掲げて握りしめる。
「僕のこの力は僕だけのものじゃない・・つばきさんが託してくれた、双真のものでもある力・・・」
自分の持つ力を実感していく華音の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。
「流星さんみたいに、自分を押し付けるだけの力じゃない・・・!」
彼女が異形の姿へと変わり、右手から刃を突き出した。迷いを振り切っている彼女を、流星が目つきを鋭くして見据える。
「本当に厄介になったものだね・・君が関わってこなければ、双真は苦しむことはなかったのに・・・」
「それはお前の勝手な思い込みだ・・」
流星の言葉に双真が反発してきた。
「確かにオレは女のせいで苦しい思いをした・・だが、お前のしていることも、オレの苦しみを取り除くことにはなっていない・・・!」
「何を言っているんだ、双真!?・・僕が女たちを大人しくしていけば、双真が苦しい思いをしなくて済むのに・・!」
「たとえ苦しい思いをしなくなっても、後味が悪くなる・・だから流星、お前のこのやり方は受け入れられない・・」
流星の考えを双真が否定する。彼に拒まれて、流星は激しい動揺に襲われる。
「君も本当にガンコだ・・簡単に僕のことを受け入れてくれない・・・だけど・・・」
動揺を深める流星から、淡い光があふれ出してくる。
「それでも僕は・・君に幸せになってほしいんだ・・そのために僕は、どんなことでもやってやる・・・」
「流星・・お前はとことん、その考えを押し付けるのか・・・!?」
自分の考えを変えない流星に、双真が憤りを感じていく。
「双真は下がっていて・・流星さんを止めるのは僕がやるから・・・」
流星に突っかかろうとする双真を華音が呼び止める。
「双真の心と怒り、僕に預けて・・・」
「華音・・・そこまで言うなら、絶対にアイツの思い通りにさせるなよ・・」
真剣に呼びかける華音に、双真は自分の意思を託すことを決めた。
「双真・・どうして華音ちゃんに・・彼女は君を陥れようとしているんだよ・・・!」
「それはお前だろう、流星・・オレがどうやっていくかはオレが決める・・オレ自身でオレの苦しみを叩き潰さないと、何にもならないんだ・・・!」
愕然となる流星に双真が鋭く言いかける。双真は流星の考えを完全に否定していた。
「そう・・・それなら今ここで打ち明けておくとしよう・・僕も君に負けないくらい、意固地だってことをね!」
流星が光を体に宿したまま、華音に向かっていく。華音が刃を振りかざすが、流星が右手で受け止めてしまう。
「分かっているはずだよね?・・僕の力は、君さえも大きく超えていることをね・・・!」
「それでも僕は諦めない・・僕も双真や流星さんに負けないくらいに、諦めが悪いから!」
目つきを鋭くする流星に向けて、華音が右足を振り上げる。流星は華音の刃を放して、右足を紙一重でよける。
「双真のためと言いながら、双真の言葉を聞かずに自分を押し付けようとしている・・双真を自分の思い通りにしようとしている・・・だから・・・」
華音が低い声音で、流星に向けて呟くように言葉を投げかける。
「僕はもう迷わないよ・・流星さん・・・あなたを手にかけることも!」
「君でも僕を殺すことはできないよ・・もちろん逃げることもね・・・!」
決意を言い放つ華音と、目を見開いて言い返す流星。流星が突き出した右手から衝撃波が放たれ、華音が突き飛ばす。
「うっ!」
うめき声を上げる華音だが、すぐに踏みとどまる。彼女は流星を見据えたまま、呼吸を整えていく。
「逃げないよ・・僕も、双真も・・・!」
声と力を振り絞る華音から紅いオーラがあふれ出してきた。彼女は力を解放させていた。
「その力を使っても僕に勝てないことは、前に証明されているはずだよ・・」
「同じ姿と種類の力でも、僕は強くなっていっている・・力だけじゃなく、心のほうも・・・!」
笑みをこぼす流星に言い返して、華音が飛びかかっていく。紅いオーラを発揮しても、彼女は自我を失ってはいなかった。
華音のスピードは格段に上がっていた。だが流星は彼女が振りかざす刃をかわしていく。
そしてついに流星は、突き出された刃をかいくぐって、華音の右手をつかんだ。
「これでまた証明された・・君が僕に届かないことが・・・」
悠然さを見せる流星に対して、華音が目つきを鋭くする。
「そんなことはない・・僕は・・僕と双真は、あなたを追いつき、追い越していく・・・!」
「双真が僕を追い越していく?・・双真は僕が守ると言ったはずだよ・・ここに来て勝手なことを言うなんて・・・」
「勝手じゃないよ・・心の強さじゃ、双真は流星さんよりずっとずっと強いんだから・・・!」
憤りを募らせていく流星に、華音が切実に呼びかけていく。彼女は戦いの中でも、双真への思いを心に宿していた。
「僕は決して弱くはない・・力もある・・自分を貫こうとする気持ちも強い・・それなのに、君たちよりも僕のほうが思い通りになっていないなんて、絶対にありえない!」
流星が両手に光を集めて、華音に向かっていく。華音も負けじと刃を振りかざすが、流星の光をまとった手に防がれる。
「僕は双真を救いたい!双真を守りたい!双真を振り回すだけの君に、僕が負けるはずがない!」
流星が言い放ちながら、華音の体に両手を叩き込む。重みのある攻撃を受けて、華音が吐血する。
「僕は双真を君から取り戻す・・終わりのない生き地獄からも抜け出してしまう以上、華音ちゃん、君の命を奪わなければならない!」
流星が右手の光を刃に変えて、華音に突きつける。その鋭い刃が華音の体を貫いた。
「うっ・・・!」
刺された体から鮮血をあふれさせて、華音がうめく。
「華音・・・」
傷ついていく華音を目にして、双真の心が揺らぐ。
「こんなことで倒れていて、オレを支えるなんて大口を叩けると思っているのか!?」
双真が言い放った言葉が、華音の傷ついた体に鞭を入れた。
「口先だけの意思でオレをどうにかできると思うな!そんな無様を見せるくらいなら、オレが相手したほうが全然よかったぞ!」
「双真・・そうだった・・大きな口を叩いておいて、何もできないなんて、1番かっこ悪いよな・・・!」
華音が力を振り絞って立ち上がる。刺された傷口から血があふれ出すが、彼女は踏みとどまっていた。
「華音ちゃん・・・まだ立つというのかい・・・!?」
「裏切れない・・双真を・・僕自身の気持ちも・・・!」
息をのむ流星の前で、華音が目つきを鋭くする。
「絶対に負けるな、華音!オレに言ったことぐらい、やり通してみせろ!」
「双真・・・ありがとう・・・!」
双真の言葉に後押しされて、華音は勇気づけられて喜びを感じた。
「双真・・どうして華音ちゃんを・・・!?」
華音への気持ちを募らせている双真に、流星は驚愕を感じていた。
「目を覚まさせないと・・双真がまた苦しむことになってしまう・・・そんなこと、僕は認めない・・認めるわけにはいかない・・・!」
流星がいきり立って、華音に向けて再び刃を突きつける。華音は自分の刃で流星の刃を受け止める。
「これは・・僕の刃を、華音ちゃんが受け止めている・・・!?」
流星が力を込めるが、華音を押し切ることができない。
「僕は純粋に力を求めている・・双真を支えられるだけの力を・・・!」
華音が力を振り絞って、刃を突きつける。彼女の刃が流星の光の刃を打ち砕いた。
「何っ!?」
驚愕の声を上げる流星が、華音に押されて後ずさりする。
「そんな!?・・僕の力が、完全に華音ちゃんに負けている・・・!?」
自分の力を華音が上回ったことに、流星は絶望感を抱いていた。
「僕はもう迷わないよ・・流星さん・・・」
華音は落ち着いた様子で言いかけて、流星に刃の切っ先を向けた。
「麻子ちゃんやみんなを元に戻すためなら・・双真を支えるためなら、僕はあなたを手にかけることもためらわない・・・!」
「たとえためらわなくても、僕が君を倒して、双真を救うことに変わりはない!」
鋭く言いかけてくる華音に対し、流星が感情をむき出しにして飛びかかる。再び光の刃を出して振りかざすが、華音の刃に防がれていく。
華音が反撃に出て刃を振りかざす。その一閃に切り付けられて、流星が右腕に傷をつけられる。
「ぐっ!」
切られた腕に激痛を覚えて、流星が顔を歪める。
「深く切りつけている・・それに傷がすぐにふさがらない・・それだけ力と精神力が上がっているということなのか・・・!?」
ふさがらない傷口に毒づく流星。愕然となっている彼に、華音が刃の切っ先を向ける。
「僕は心の中で喜びを感じている・・・この力と刃を手にしたことを、僕は後悔しない・・・!」
華音が左手からも刃を突き出した。彼女がまとっている紅いオーラが凝縮されて濃くなっていき、体の形状にも変化が起こっていく。
体の一部分にあるとげがさらに鋭利になり、鋭さの際立つものとなっていく。1番の変化は赤いオーラが青白い炎のようになったことだった。
(青白い炎・・赤い炎と比べて静かで穏やかだが、温度が高い・・)
華音の新たな姿を見て、双真が心の中で呟いていく。
(今の華音は、今までで1番の力を出したということか・・・!)
双真は確信を抱いていた。華音が力を最大限まで解き放ち、刃も鋭くさせていることを。どんなものも切り裂き、どんなものも突き破ることができると。
「そこまで力を上げているのか、華音ちゃん・・・!?」
華音の青白い姿を見て、流星が緊張感を募らせていく。
「それでも・・たとえどんな姿と力を見せつけてきたとしても、僕は双真のため、絶対に負けるわけにはいかない・・・!」
流星が叫んで華音に向かっていく。彼が光の刃を振りかざすが、そこに華音の姿はなかった。
「何っ!?」
流星が周囲を見回すが、華音の姿を見つけることができない。
「僕はここですよ・・」
背後から声をかけられて、流星が目を見開く。彼の後ろに華音が回り込んでいた。
「そんな・・僕が、全然反応できなかった・・・!?」
圧倒的な力の差を見せつけられて、流星がさらに愕然となる。
「これが最後です・・麻子ちゃんたちを元に戻して・・・!」
華音が流星に向けて鋭く言いかける。しかしそれでも流星は聞き入れようとしない。
「女たちを元に戻したら、双真が苦しむことになる・・それだけは、絶対に認めるわけにはいかないんだ!」
激高した流星が全速力で華音に刃を突きつける。だがこれも華音を捉えてはいなかった。
同時に流星の両手にあった光の刃が砕け散っていた。絶望感の広がる流星の視界に、鋭く睨み付けてくる双真の姿が飛び込んできた。
「本当にバカなヤツだ・・女以上にな・・・!」
「双真・・・!?」
双真が口にした言葉を聞いて、流星が完全に冷静さを失った。次の瞬間、流星の体がX字に切り裂かれた。
鮮血をまき散らしながら、流星がゆっくりと倒れていく。
「双真が・・僕を女よりも・・・」
絶望から立ち直れなくなりながら、流星が倒れる。両手の刃を引っ込めて、華音が振り返る。
「僕たちみんな、ガンコですね・・こうしてぶつかり合わないと分かり合えないんです・・最悪、分かり合えないまま傷つけ合って・・・」
華音が流星に向けて物悲しい笑みを浮かべる。しかし流星の頭の中にまでは入っていなかった。
「双真・・僕がどんなことになっても・・君に嫌われても・・僕は、君を・・いつまでも・・・」
空に向けてゆっくりと手を伸ばす流星。彼は完全に自分だけの世界に入り込んでいた。
致命傷と出血多量で、流星は命を失った。彼の体が固まり、風に吹かれて砂のように崩れ去っていった。
「流星・・お前というヤツは・・・」
頑なな流星に、双真は歯がゆさを感じていた。1人でいたときから最初に芽生えた友情を失ったことに、彼は憤りを感じていた。
人間の姿に戻った華音が振り返り、双真に沈痛な面持ちを見せる。
「ゴメン、双真・・・流星さん、助けられなかった・・・」
「謝るくらいなら最初から傷つけるようなことをするな・・謝られると逆に気分が悪くなる・・」
謝意を見せる華音に、双真が憮然とした態度を見せる。胸を締め付けられるような気分に駆られている華音に、双真が歩み寄ってきた。
「お前もオレも、流星を救いたいという願いを、今まで捨てなかった・・その願いを、流星は裏切ったんだ・・」
「そんなこと言わないで・・一方的に流星さんが悪いみたいになるから・・・」
双真が投げかけた言葉に、華音が不快感を覚える。
「流星さんは、流星さんなりに双真を守ろうとしていた・・僕と双真が納得できない形だったけど・・その気持ちだけは確かで真っ直ぐだった・・・」
「だからといって、オレたちが受け入れたわけではないだろう・・アイツ自身も、オレたちが認めてくれると思っていなかった・・・」
「でも、それは・・・」
「それでもオレたちは、オレたちの考えを貫くだけだ・・バカみたいにな・・・」
双真が投げかけた言葉に、華音は小さく頷いた。2人は流星との友情を断ち切ることとなった。
次回
「僕は、このまま堂々としていればいい・・」
「真っ直ぐに自分の気持ちを伝えていけばいい・・・」
「気持ちを伝え合って、分かり合っていく・・」
「それが、僕の力・・・」