ガルヴォルスBlade 第25話「刃の咆哮」

 

 

 流星の邸宅の大部屋で、石化された全裸の美女たちが立ち並んでいた。だが流星が命を失ったことで、彼女たちの体が石から元に戻った。

「あれ?・・私・・?」

「あたし、石にされて・・裸にされて・・・」

 女性たちが石化に対する困惑や、裸になっていることでの恥じらいなど、いろいろな様子を見せていた。

「元に戻れたってことは・・華音ちゃんが流星さんを・・・」

 同じく石化が解けた麻子が、華音たちのことを考える。

「すぐに華音ちゃんたちのとこに行きたいけど・・この格好じゃ・・・」

 麻子が自分の体を抱きしめて、頬を赤らめる。裸になっていたため、彼女は外に出ることができなくなっていた。

 

 流星の死に悲しみとも憤りとも取れない感情を抱いて、華音と双真は彼の邸宅に向かっていた。歩いていく中、2人は重く沈黙していたが、その沈黙を破ったのは華音だった。

「双真・・僕は少しでも、双真を支えることができたのかな・・・?」

「何だ、いきなり・・・さぁな・・オレはそんな実感がない・・・」

 華音が唐突に投げかけてきた問いかけに対して、双真が憮然とした態度を見せる。

「やっぱり・・支えられなかったんだね・・・」

「オレはそういうことには鈍い・・だから気にするな・・・」

「偉そうに言えたことじゃないじゃない・・・」

「華音・・お前というヤツは・・・」

 互いに愚痴を言うようになり、華音も双真も思わず笑みをこぼしていた。

「くだらないな・・こういうくだらないことで、気分がよくなったりするものなのだな・・・」

「そうだね・・やっぱりどんなことでも、気楽にやれたらいいよね・・・」

 屈託のないことで安らぎを感じられると思い、双真も華音も気を楽にしていた。

「それじゃ急ごう・・麻子ちゃんやみんなが待ってる・・」

「急いでも、厄介なことが増えるだけだ・・オレたちが行ったところで・・・」

「それでも、麻子ちゃんが心配だから・・・やっぱり急がないと・・・」

「華音・・しょうがないヤツだ・・」

 駆け足になる華音を、双真は不満げになりながらも追いかけていった。

 

 石化されていた女性からの連絡で、警察が流星の邸宅を取り囲んでいた。だが女性たちが事情を説明しても、警察は信じようとしなかった。

 この誘拐事件の犯人と断定して、警察は流星の捜索を開始した。既に彼が命を失い、影も形もなくなっていることを知る由もないまま。

 その警察の監視をかいくぐって、華音と双真は邸宅に入っていった。廊下を少し進んだところで、2人はシーツを体に巻いた麻子を見つけた。

「華音ちゃん・・無事だったんだね・・・!」

「麻子ちゃん・・麻子ちゃんも石化が解けたんだね・・よかった・・・」

 麻子と華音が抱きしめあって、互いの無事を確かめ合う。だが麻子は双真もいることに気付いて、不安を覚える。

「女殺し・・こんなところまで・・・!」

「大丈夫だよ、麻子ちゃん・・双真は悪いヤツじゃないよ・・」

 怖がる麻子に華音が優しく言いかける。双真が2人の様子を見て、憮然とした素振りを見せる。

「とにかくここからすぐに出るんだろう?お前たちだけで女子寮に行け。」

「双真・・」

「華音はともかく、そいつは自分の格好を気にするんだろう?面倒見てやれるのはお前だろうが・・」

「双真・・ありがとう・・・」

 双真が投げかけた気遣いに、華音が感謝の言葉を送る。憮然さを浮かべたまま、双真が彼女たちから離れていく。

「行こう、麻子ちゃん・・とりあえずちゃんと服を着ないと・・」

「あ、そうだね・・華音ちゃん、お願い・・・」

 華音に促されて、麻子が照れ笑いを見せる。双真を追いかける形で、2人も邸宅から出ていった。

 

 女子寮に向かった華音と麻子。着替えている麻子に、華音は流星との事件のことを話した。

 流星が双真のために頑なに自分の意思を貫こうとしたことを。彼と分かり合えず、傷つけ合うことになってしまったことを。

「流星さんが・・そんなことになったなんて・・・」

 話を聞いた麻子が困惑を感じていた。

「流星さんは真っ直ぐだった・・僕や双真以上に・・その真っ直ぐなところが、みんなに迷惑をかけてしまったというだけ・・・」

「あの流星さんがみんなに迷惑をかけて、あの女殺しが華音ちゃんを助けてくれたなんて・・ホントに驚き・・・」

「ちゃんと関わってみないと・・関わっても本当のことが分からないこともあるってことなんだね・・今までいろんなことがあって、学ぶことになった・・・」

「人は見かけや噂によらないってことなのかな・・複雑だね・・」

 華音が語りかけたことに、麻子は戸惑いを感じていく。麻子が着替えを終えると、華音が微笑みかけた。

「双真が待ってるから・・そろそろ行こうか・・」

「双真って人・・ホントに大丈夫なのかな?・・襲いかかってきそうで、怖い・・」

 呼びかける華音だが、麻子が双真に対して不安を見せる。

「大丈夫だよ、麻子ちゃん。双真はもうそんなに突っかかったりしないから・・もしも突っかかってきたら、僕がやっつけちゃうから・・」

「そ、そう・・そう言われても、不安が消えないんだけど・・・」

 明るく振る舞う華音だが、麻子は不安を消せないでいた。部屋を出て外に来た2人を、双真が待っていた。

「女のやることは何もかも時間がかかるな・・待ちくたびれたぞ・・」

「女というのはそういうものなんだ。僕は女でありながら、そういうことは疎いけどね・・」

 憮然とした態度を見せる双真に、華音が苦笑いを浮かべる。彼女と麻子を見ても、双真は不快をあらわにすることはなく、落ち着いていた。

「でもやっと分かった気がする・・ムリに自分を変える必要はないってこと・・・」

 華音が自分の気持ちを切実に語り始める。

「僕は、このまま堂々としていればいい・・女のくせに男っぽくて、時々悩んだりすることもあるけど、どんなときも真っ直ぐでいる・・それが僕なんだって・・・」

「華音・・・」

「華音ちゃん・・・」

 華音の言葉を受けて、双真と麻子が戸惑いを覚える。

「真っ直ぐに自分の気持ちを伝えていけばいい・・・どうしても伝わらないこともあるけど、諦めなければ、きっと気持ちが届くから・・・」

「きれいごとに聞こえるが・・オレも諦めが悪いほうだがな・・その考え方は、分からなくもないな・・・」

 双真が華音に苦笑を浮かべた。

「ビックリ・・碇双真って、噂と違うところもあるんだね・・・」

 麻子が感心の声を上げると、双真が鋭く睨み付けてきた。彼の視線に怖くなって、麻子が華音の後ろに隠れて震える。

「大丈夫だって・・双真、むやみに突っかかったりしないから・・」

「我慢がならないヤツが相手なら容赦しないぞ・・邪魔してくるヤツも含めてな・・」

 麻子に言いかける華音と、憮然さを消さない双真。

「でも、少しは落ち着いてきてるんじゃない?昔だったら、もう突っかかってきてたよ・・」

「落ち着いているも何も、オレは自分に正直になっているだけだ・・お前もそうだろう、華音・・・」

 華音が投げかけたこの言葉に、双真が突っ返すように返事をする。すると双真が華音と麻子に背を向けた。

「オレは家に戻る・・少し1人にさせてくれ・・・」

「双真・・・」

 双真が口にした言葉を受けて、華音が戸惑いを募らせる。双真はゆっくりと歩き出して、華音と麻子から離れていった。

 麻子が双真を追いかけようとするが、華音に制止される。

「今はそっとしておこう・・流星さんのことで辛くなっているから・・・」

「華音ちゃん・・・うん・・・」

 華音に呼びかけられて、麻子は小さく頷いた。

(双真ならすぐに立ち直れるって、僕は信じてるから・・)

 双真への信頼を胸に秘めて、華音は彼を見送ることにした。

「今日はもう寮にいよう・・何だか、疲れたよ・・・」

 華音が疲れを感じて肩を落とす。

「いろいろあったからね・・ホントに・・今夜はあたしが買い物とごはんの支度をするね♪華音ちゃんに助けてもらったお礼がしたいし♪」

「お礼って・・そんな大げさな・・・」

 意気込みを見せる麻子に、華音は苦笑いを浮かべていた。

 

 流星の石化が解かれてから1週間がたった。大学も調査に区切りがつけられて、講義が再開されて生徒が登校するようになった。

 華音も麻子も大学に通い出した。だがこの1週間、華音は大学でもレストランでも、双真と会っていなかった。

 連絡を取ろうにも、双真が連絡を受けたことはなかった。携帯電話は持っているが、かかってくる電話に出ることはなかった。

 華音も何度か連絡を取ったが、電話に出ることはなかった。

「双真くん、来ないね・・・」

 一緒の講義が終わったところで、麻子が華音に声をかけた。麻子が持ちかけた話に、華音が戸惑いを浮かべる。

「双真くんの家、どこにあるか知ってる・・?」

「うん・・でも双真がまだ、心の整理をつけてないかもしれない・・それなのに押し掛けるのは・・・」

「気を遣ってるってことだね・・でもこういうの、華音ちゃんらしくないんじゃないかな・・・?」

「どうかな・・僕も双真も、変わってないって言ったらウソになるからね・・・」

 麻子に問いかけられて、華音が困惑を募らせていく。

「麻子ちゃんの言うとおり、1回双真の家に行ってみるね・・でも、僕1人で会いに行かせて・・」

「華音ちゃん・・・それじゃその代わり、ちゃんと様子を見てきてよね・・あたしも心配してるんだから・・・」

 華音の言葉を受け入れて、麻子は笑顔を見せた。

(双真・・今日、様子を見に行くからね・・・)

 双真への思いを胸に秘めて、華音は麻子に微笑んでから講義室を出ていった。

 

 1週間ぶりに双真の家に来た華音。玄関のチャイムを鳴らす彼女だが、双真が出てくる様子がない。

「双真?・・勝手に入るよ・・・」

 華音が声をかけてから、玄関のドアのノブをつかむ。ドアに鍵はかかっていなかった。

 家の中に入って見回していく華音。

「双真・・・いないの・・・?」

「オレの家に勝手に上がり込んでくるな・・」

 そこへ双真が現れて、華音に声をかけてきた。

「双真・・ビックリさせないでって・・いるならチャイム鳴らしたときに返事してよ・・」

「出たくなかった・・チャイムにも電話にも・・・」

 不満の声を上げる華音に、双真が憮然とした態度を見せる。

「流星のことを引きずっているわけではない・・それでも整理がつかなくてな・・」

「双真は真っ直ぐ・・だからいろいろと深く悩んでしまうんだね・・・何となく分かるよ・・僕も真っ直ぐだから・・・」

 双真の心境を察して、華音が微笑みかける。

「今までのような双真でいればいいよ・・双真らしくしてればいい・・僕も僕らしくしていくから・・・自分らしく、気持ちを伝えていければいい・・・」

「気持ちを伝える・・そういうのはオレらしくねぇな・・・」

 自分の気持ちを切実に口にしていく華音に、双真が愚痴のように言葉を返した。

(そう・・気持ちを伝え合って、分かり合っていく・・そのために道を切り開いて、壁を突き破っていく・・・)

 華音が自分自身の力を思い返して、右手を強く握りしめる。つばきと出会って憧れて手に入れて、欲情と苦悩を抱えながら強くしていった力。その力を手にしたことを、彼女は後悔していなかった。

(それが、僕の力・・・僕の、刃・・・)

「そろそろレストランに行こう。顔出すぐらいはしておかないと・・翔太さんもみなさんも心配しているよ・・」

 気持ちの整理をつけた華音が、双真に呼びかける。

「オレのことなど気にしなくていいというのに・・気晴らしに行ってもいいか・・・」

「1人で気持ちの整理がつけばいいけど、ここはみんなと一緒にいたほうがいいかもね・・」

 双真と華音が言葉を交わして、家を出てレストランへと向かう。双真と一緒に歩きながら、華音が大きく腕を伸ばす。

「やっぱり外に出ると気持ちがいいよ〜・・」

「今まで外にいたヤツが何を言っている・・・」

 気分をよくする華音に、双真が呆れてため息をつく。だが突然、華音が緊張を覚えて笑みを消す。

「どうした?」

「また怪物が・・近くにいる・・・!」

 双真が声をかけると、華音が声を振り絞るように答える。彼女が後ろに振り返ると、その視線の先に1体の怪物が現れた。

「いい女がいるなぁ・・のみ込んじゃいたいなぁ・・」

 ヘビの姿をした怪物が不気味な笑みを浮かべて、華音に近づいてくる。

「もう、ホントにしつこいんだから・・・双真、少し離れてて・・・」

 双真に呼びかける華音の頬に紋様が走る。彼女は異形の姿になって、右手から刃を突き出す。

「お前もオレと同じかぁ・・できれば人間の姿でのみ込みたいなぁ・・・!」

 怪物が不満を言い放ちながら華音に迫っていく。その怪物に向けて、華音が右手の刃を振り上げる。

 華音とすれ違った直後、怪物が真っ二つに切り裂かれた。鮮血をまき散らしながら、怪物は倒れて事切れた。

(そう・・これが、僕の力・・・)

 自分自身の本当の強さを実感して、華音は微笑む。人間の姿に戻った彼女に、双真が歩み寄った。

「華音・・大丈夫か・・・?」

「全然大丈夫・・たとえ、どんなことがあったって、僕はへこたれない・・・」

 双真が投げかけた声に、華音が微笑んで頷く。

「僕は僕らしく、真っ直ぐに進んでいくよ・・その先に壁があったって、今みたいに切り開いていく・・・」

「そのご立派な考え、見届けさせてもらうぞ・・」

 互いに笑みを見せ合う華音と双真。2人の今の心には安らぎが宿っていた。

「それじゃ、改めてレストランに行くとしましょうか・・」

「偉そうに言ってくれる・・だが、ここで引き返したら、何のために外に出てきたか分からなくなるからな・・・」

 笑顔を見せる華音に、双真が憮然とした態度を見せる。2人は再び歩き出して、レストランへと向かった。

 しかしレストランはやっておらず、中の明かりもついていなかった。

「あれ?休み?年末年始以外はやってるはずなのに・・?」

「裏口から行けばいい・・暗いだけでいるのではないのか・・?」

 動揺を浮かべる華音に双真が呼びかける。2人が裏口にやってくるが、ドアの鍵はかかっていなかった。

「開いてる・・ホントに中にいるのかな・・・?」

 恐る恐るドアを開けて中に入る華音。双真も彼女に続いていった。

「翔太さん?・・誰もいないんですか・・・?」

 華音が声をかけた途端、暗かった店内に明かりがともった。

「華音ちゃん、双真くん、おかえりなさーい♪」

 華音と双真に声をかけてきたのは麻子だった。彼女だけでなく、翔太や他のレストランの店員たちが、2人を迎えてくれていた。

「待っていたよ、双真くん・・なかなか来ないから心配になったよ・・」

「これからも仕事やってくれよな。」

「皿洗いや掃除、僕じゃうまくいかなくて・・」

 翔太や店員たちが双真に声をかけていく。自分が必要とされていると思いつつも、双真は自分を貫く姿勢を崩さなかった。

「オレを当てにしても、何の得にもならないというのに・・・」

「やっぱり、真っ直ぐってことだね・・僕も双真も・・・」

 華音が笑顔を見せると、双真が思わず笑みをこぼす。

「オレはオレの考えを貫かせてもらう・・それがオレだからな・・・」

「双真ったら・・・」

 ガンコを見せる双真に華音が笑みをこぼす。

 真っ直ぐに気持ちを伝えていく。そのために刃を振るっていく。華音は決心を秘めて、これからの大学生活を楽しんでいくのだった。

 

 

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