ガルヴォルスBlade 第22話「憎悪の末路」
念力で双真の動きを止めて、流星が左手から光の刃を突き出した。だが刃は双真の顔の横をかすめただけだった。
「驚いたかい?・・いくらなんでも、双真の命を奪うようなことはしないよ・・」
笑みを浮かべる流星が念力を解く。束縛から解放されて、双真が脱力して華音にすがりつく。
「どうやら君は、無意識に華音ちゃんに入れ込んでしまったようだね・・否定的でいても、否定しきれなくなっている・・・」
流星が呼びかけていくが、双真は意識を失わないようにするので精一杯だった。
「そこまで華音ちゃんを気にかけているなら、双真のその奥底の願い、僕が叶えさせてあげるよ・・これで君が納得できるなら・・・」
流星はため息混じりに言いかけて、右手の指先に黒い光を宿す。
(逃げて、双真!アレを受けたら僕と同じように・・!)
華音が呼びかけるが、その声は外には伝わらず、双真も動くこともままならなくなっていた。
「いつまでも華音ちゃんと一緒にいて、心を通わせるといいよ・・・」
流星が放った黒い光線が、身動きの取れない双真の体を貫いた。
ドクンッ
強い胸の高鳴りを覚えて、双真が華音に抱きついたまま目を見開いた。
「これは・・・!?」
「できるならこんなことはしたくなかった・・こんなことになって、本当に残念だったよ・・・」
ピキッ ピキキッ
双真の体が石化を引き起こし、着ていた服も引き裂かれた。体が石になって、双真はさらに思うように動けなくなっていた。
「くっ・・オレも、他の女たちみたいにするのか・・・!?」
「仕方なかったんだ・・だけど・・こうでもしないと、君は自滅してしまうから・・・」
困惑を見せる双真に、流星が沈痛さを見せる。
「君を華音ちゃんを連れ出したら、君は確実に苦しみに打ちひしがれることになる・・そうなるくらいなら、いっそのこと・・・」
「・・オレまでこんなことをするのか・・流星・・お前・・・!」
ピキキッ パキッ
流星に向けて声を振り絞ったところで、双真がさらに石化に襲われる。彼は華音を抱きしめたまま、身動きが取れなくなっていた。
「君から恨まれることも覚悟しているよ・・覚悟がなかったら、最初からこんなことをしていない・・・」
「くそ・・こんな・・オレは・・お前にも・・コイツにも・・・」
流星の言葉に反発して、双真が無意識に華音にすがりつく。
パキッ ピキッ
華音を抱きしめたまま、双真は手足の先まで石化され、首元にまで迫ってきていた。
(双真・・僕のために、アンタを巻き込んでしまった・・・ゴメン・・・)
双真の姿を視界に入れている華音が、心の中で悲痛さを募らせていく。
「もうムリをしないで、双真・・もう君は何もしなくていい・・・」
ピキッ パキッ
流星が囁く前で、双真の石化は口元にまで及んだ。
(くそ・・オレは・・結局・・振り回されるだけなのか・・・)
フッ
抵抗の意識を抱えたまま、双真は完全に石化に包まれた。流星の目の前で、華音と双真が全裸の石像となって立ち尽くしていた。
「本当にすまない、双真・・こんなことをしないで、事を済ませたかったんだけど・・・」
変わり果てた双真を見つめて、流星が悲しい顔をする。だが彼はすぐに悠然さを取り戻す。
「もう心配しなくていいよ・・これからはしっかりと、僕が見守っていくから・・・」
流星が華音と双真を抱えて、ゆっくりと廊下を進んでいった。
「皮肉なことになってしまったね・・心の底から憎んできた女である華音ちゃんに入れ込んでしまうなんて・・それも仕方がないことかもしれない・・自分でも気づかないうちに、そんな気分になってしまうものかもしれないね・・」
双真に向けて囁いていく流星。しかし双真も華音も何の反応も見せない。
「それでも納得できるなら、君が納得できる形になるなら、僕はそれでも構わない・・」
囁きながら、流星は華音と双真を大部屋ではなく、自分の部屋に連れてきた。彼は2人を部屋の壁際に置いた。
「僕の目の届くここで、2人だけの時間を過ごしていくといいよ・・永遠にね・・・」
華音と双真に告げると、流星は振り返って2人に背を向ける。
「僕はこれからも双真の敵を、女を粛清していくよ・・君の代わりにね・・」
流星はそう告げると、歩き出して部屋を後にした。彼は双真を守るために、完全に人の道を外れていった。
明かりの消えたその部屋に、華音と双真は取り残されることになった。
(双真まで・・こんなことになるなんて・・・)
双真までもが流星の手にかかってしまったことに、華音は辛さを感じていた。この状況を打破したいと考えようとしても、彼女にはその方法を見つけられないでいた。
(つばきさんみたいにすごい力を手にしたはずなのに、何もできなかった・・双真を守ることもできなかった・・・)
自分の無力さを痛感して、華音が自分の体を抱きしめる。彼女は自分の心の中で、ひたすら涙を流していた。
(僕も双真も、ずっと石になったままなのかな・・ずっと一緒にいることになるのかな・・・?)
これからの自分たちのことを考えて、華音がさらに不安になった。彼女は震える自分の体を強く抱きしめた。
(双真・・ゴメン・・・双真・・・)
双真への罪の意識にさいなまれる華音。彼女の中に双真への思いが膨らんでいく。
そのとき、華音の視界に双真の姿が入ってきた。彼の姿は水の中にいるように揺らいで見えていた。
「双真・・・!?」
華音はその双真の姿に意識を傾けた。彼女は彼に向かって、ゆっくりと近づいていた。
やがて華音は、双真の姿をはっきりと捉えた。彼は目を閉じて眠り続けていた。
「双真・・双真、しっかり!」
華音が呼びかけて、双真に近寄った。華音は双真を起こそうと、体を揺すっていく。
「双真なんだろ!?目を覚ますんだ、双真!」
華音に呼びかけられて、双真は目を開いた。
「ん・・んん・・・オレは・・・」
「双真・・よかった・・気が付いたんだね・・・」
呟きかける双真に、華音が安堵の笑みをこぼす。
「お前・・どうしてお前が・・・」
疑問を投げかけようとしたとき、双真は華音に対して怒りを覚えた。彼女の裸身を目の当たりにして、彼は彼女が女であると改めて確信したのである。
「お前・・またオレを・・・!」
「待って、双真・・説明しないといけないことがたくさんあるんだよ・・!」
睨み付けてくる双真に、華音が慌ただしく呼びかける。憮然とした態度を見せるも、双真は大人しくなる。
「僕たち、流星さんに石にされて・・でもこうして意識は残ってて・・・」
「そうだ・・オレも流星に、お前や他の女みたいに・・・」
華音からの説明を聞いて、双真は自分に起きたことを思い返していた。
「だとしたら、ここにいるオレたちは何なんだ・・・?」
「僕にもよく分かんない・・きっと意識・・心じゃないのかな・・・?」
双真の投げかける疑問に、華音は困惑を見せるだけだった。
「でも、僕のような怪物じゃない人は、石化されたら意識が残らないって、流星さんが言ってたのに・・」
「アイツも結局は自分勝手なヤツだった・・そんなアイツの言葉を、オレは信じない・・」
困惑を歯がゆさを浮かべたまま、華音と双真が互いを見つめ合う。そして華音は双真に対して物悲しい笑みを見せた。
「ホントに馬鹿げてるよね・・男みたいに振る舞ってる僕が、こういう体をしてるんだから・・・」
「あぁ・・本当だな・・前々から思っていたが、今でもそう思う・・・」
華音の言葉を聞いて、双真がため息をつく。
「見ての通り、僕は女・・胸もお尻もふくらみがあって、男みたいなしっかりした体つきじゃない・・男みたいに振る舞っても、女だって事実は変わんない・・・」
物悲しい笑みを浮かべる華音。現実を認めている彼女が、目から涙をあふれさせていく。
「このまま女であることを認めなくちゃいけない・・認めるしかないってことだね・・・」
「華音・・・」
「・・・双真・・僕をムチャクチャにして・・僕に女であることを分からせて・・・」
戸惑いを見せる双真に、華音が呼びかけてきた。
「もう僕には何もできない・・石化を破ることも、力を出すことも・・できるのは、双真と心を通わせることだけ・・・」
「心を通わせるって・・気持ち悪いことを言うな・・・と言いたいが、本当にそれしかできないな・・・」
切実に呼びかけてくる華音に、双真がため息をつく。腑に落ちないながらも、双真は華音を抱き寄せた。
「これが、女の体ってヤツか・・こんなにも小さく心地よくなってくるものだったのか・・・」
華音の裸身の感触を確かめていく双真。このぬくもりで、彼は女への憎悪さえも揺さぶられていた。
「おかしくなってる・・我慢ができなくなってくる・・・」
「双真・・・」
「本当に・・どうなっても知らないぞ・・・お前も、オレも・・・」
動揺を募らせる華音の胸に、双真が触れてきた。いいとも悪いともいえない気分を感じて、華音が顔を歪める。
「双真が・・僕に触れてきている・・殴るとかじゃなく、触れてきている・・・」
「オレをそんな風に見てたのか・・・そんなやり方ばかりしてたか、オレは・・・」
華音の口にした言葉に不満を感じるも、双真は自分のことを思い返して、皮肉を口にする。その間も、双真は華音の体を撫で回していた。
「あれだけ女を憎み続けてきたオレが、女であるお前にこんなことをしているとはな・・・」
「今なら分かる気がする・・双真がどれほど女に振り回されて、不愉快に感じてたかも・・・」
ため息をつく双真に華音が囁きかける。双真は華音の腰からお尻にかけて撫で回し、さらに彼女との口づけを交わす。
華音も双真も込み上げてくる恍惚を次第に抑えられなくなっていた。
「もっと・・もっと、僕に触れてきて・・・」
華音が弱々しく、双真に声をかけてきた。
「どうすることもできないっていう現実を感じられなくなるくらいに・・もっと・・・」
「華音・・そこまでオレに弄ばれたいっていうのか・・・」
苦悩から逃れようとする華音に、双真はさらにすがりついていく。彼の性器が彼女の秘所に入り込んでいく。
「ぁぁ・・ぁぁあああぁぁぁ・・・」
一気に恍惚が高まって、華音があえぎ声を上げる。だが華音は双真の心身を受け止めようとしていた。
「気分がよくなってくる・・オレ・・このままこの気分に・・・」
双真が恍惚に促されるままに、華音を抱きしめていく。2人はこの抱擁に快感を募らせていって、自分たちが置かれている現実から逃げようとしていた。
「やめて・・助けて・・・」
新たに大学の女子を屋敷に連れ込んだ流星。彼によって石化されて、女子は両足を石にされていた。
「助けて?そういった類の言葉を言う男を弄んできた女が、それを口にする資格があると思っているのかな?」
「助けて・・あたし、このまま石になんてなりたくない・・・!」
ピキッ パキッ パキッ
声を振り絞った女子の体がさらに石に変わっていく。一気に石化が進んで、彼女は素肌をさらけ出すことになった。
「どこまで図々しいことを言うつもりだ?・・そんな態度がいつまでも通用するなんて思わないことだ・・・」
流星が女子に冷淡に告げて、鋭い視線を向ける。
「本当に助けて!何でもするから!」
「何でもする、ね・・本当に図々しいこと・・・」
懇願してくる女子に対して、流星が呆れ果ててため息をつく。
ピキッ ピキキッ
「えっ!?」
さらに石化が進行して、女子が絶望感に襲われる。
「だったらオブジェになって、自分の罪を思い知ることだ・・・」
「やめて・・お願い・・だか・・・ら・・・」
冷徹な態度を見せる流星に最後まで助けを請う女子。
フッ
しかし流星はその願いを聞き入れず、女子は完全に石化に包まれた。全裸の石像と化した彼女を見て、流星が笑みをこぼす。
「女は誰も、自分の都合でしか考えようとしない・・行動しようとしない・・双真が不満になるのもムリはない・・トラウマになってもおかしくない・・・」
ため息をつきながら、流星は女子さえも石化されて置かれた大部屋を出ていった。
「だけど、そんな双真が、華音ちゃんを助けようとした・・今になって、双真も変わっていこうとしていたのかな・・どっちにしても、馬鹿げたことだけど・・・」
双真のことを思って、流星は戸惑いを募らせていた。
「僕が初めて会ったときには、双真はいくらか荒んでいた・・今みたいにすぐに暴力を振るってはいなかったけど、自分から接しようとしないで避けていた・・」
流星が心の中で双真との過去を思い返していく。
「最初は遠くで見ていただけだったけど、どうしても我慢ができなくなった・・怒りと憎しみで暴走していく君を、指をくわえて見ているのが耐えられなかった・・」
胸を締め付けられるような気分に襲われて、流星が胸を押さえる。
「結果的に君までオブジェにしてしまったけど、これで君は傷つくことはなくなった・・・」
自分の部屋に戻ってきた流星が、立ち尽くしている華音と双真に目を向ける。石化されている2人は、今も何の反応も見せていなかった。
「これからも僕が守っていくからね、双真・・・」
双真を見つめて妖しい笑みを浮かべる流星。彼の意識は双真との思い出へと飛んでいた。
双真と流星は高校も同じだった。だが2人は最初から知り合いというわけではなかった。
流星が双真のことを初めて知ったのは、双真が母親を死に追いやった事件が起きたときだった。証拠不十分で逮捕されなかった双真だが、周囲から親を殺したと冷たい目で見られていた。
中にはからかってくる人がいて、その中には女子もいた。その女子たちにも振り回されたことで、双真は完全に女への憎悪と拒絶を確立させることになった。
女を目にしただけでいら立ちをあらわにし、女に声をかけられただけで、女に触れられただけで一気に憎悪を膨らませる。次の瞬間には有無を言わさずに殴りかかった。
その女の知り合いが怒りを見せると、双真はその人物にも暴力を振るった。教師をはじめとしたたくさんの人たちから注意をされても、双真はトラウマから言動を改めようとしなかった。
完全に荒みきった双真に、誰も近づこうとしなくなった。孤立していた彼に歩み寄ったのが流星だった。
「ずっと辛そうにしているね・・あんなことがあって、落ち着いていられるのは逆におかしいからね・・」
「何だ、お前は?・・お前もオレを怒らせに来たのか・・・!?」
双真が流星を鋭く睨み付けてくる。だが流星は笑顔を絶やさない。
「怒らせるなんてとんでもない・・むしろ心配になったんだ・・ここまで辛い思いをしている君が・・・」
「そんな言葉を鵜呑みにすると思っているのか・・・?」
「どうしても我慢できなかった・・辛い思いをして、1人になっていく君を放っておくことができなかった・・・」
警戒を見せる双真に対し、流星が沈痛の面持ちを浮かべた。
「お節介かもしれないけど、僕は君を支えてあげたくなって・・僕じゃダメかな・・・?」
手を差し伸べてきた流星に、双真が戸惑いを見せてきた。動揺を募らせていって、双真は流星の手を取った。
これが双真と流星の出会いだった。
次回
「オレは陥れられるばかりだった・・」
「自分の罪を棚に上げて、オレを悪くする女を許せなかった・・」
「だけどお前は違った・・・」
「華音・・オレは、お前が・・・」