ガルヴォルスBlade 第21話「信念の揺らぎ」
流星についていって、双真は彼の家にたどり着いた。大きな屋敷を目の当たりにして、双真は緊張を覚える。
「ここだよ、双真・・遠慮しないで入ってくれ・・・」
流星が招き入れてきて、双真はその誘いに乗って家に入っていった。家は大きく広いが、人がいる様子は見られなかった。
「こんなに大きな家なのに、僕たち以外誰もいないから、違和感があるよね・・でもそれだけの財力も仕事もあるのは事実だから・・・」
「気に入らないな・・まるで自分なら何でもできると思い上がっている・・・」
「これだけのものがあっても、何でもできるとも、何もかも思い通りになるとも思っていない・・あっても虚しくなるだけさ・・」
疑いの眼差しを送る双真に、流星が物悲しい笑みを浮かべる。双真に自分の気持ちが伝わっていないことも痛感して、流星はやるせなさを募らせていた。
「それでも双真を救ってやりたいって、強く思っていた・・願い続けていた・・傲慢とか思われても・・・」
「そこまでして、オレをどうしようというんだ・・・!?」
「何度も言っているけど、僕は君を辛さから助けたいだけなんだから・・・」
双真との会話を続けて、流星は大部屋の前に来て足を止めた。
「ここだよ・・ここに華音ちゃんや、女たちを押し込んでいる・・・」
流星がその部屋のドアを開けて、双真に中を見せる。大部屋の光景を目の当たりにして、双真は緊迫を覚える。
大部屋には立ち並ぶ全裸の女性の石像たち。みんな流星に石化された人ばかりである。
「心配しなくていい・・ご覧のとおり、みんなオブジェにしてある・・よからぬことどころか、指一本動かすこともできないから・・」
流星が優しく言いかけるが、双真は警戒を消さない。石化されて動けなくても、目の前に女がいるため、双真は不快感を感じずにいられなかった。
「いくら石化していても、女にはどうしてもいい気分が持てない、か・・仕方ないよね・・それだけの仕打ちを、君は受けてきたんだから・・」
流星は双真に告げると、石化している女性の1人に近づいて、彼女の裸身に触れる。しかし彼女は反応を見せることはなかった。
「ほら。こんなことをされて、何の反応を見せないはずがない・・オブジェになった女たちは、何の毒気のない美しい人となったんだ・・」
「本当に、何もしないのか、コイツら・・・!?」
「何もしないというより、できないよ・・オブジェになっているからね・・・」
疑問を投げかける双真の前で、流星がさらに女性の裸身に触れていく。
「これからは僕と君が女たちを虐げることができる・・君もその気になれば、今までの恨みを晴らす行為をすることができる・・」
「オレが、女への恨みを晴らす・・・」
「そのほうが君が納得できると思うんだけど・・他の選択肢を選んでも僕は構わない・・君が納得できるのが、僕の納得できることでもあるから・・」
流星が投げかける言葉に、双真は心を揺さぶられていく。心から憎んできた女が駆逐されていくことに、彼にすがろうという気持ちを芽生えさせていた。
「お前が、全てこうしたのか・・・!?」
「そう・・こうしておけば、女たちは君に危害を加えられなくなる・・だったら君が女に敵意を見せても、敵意を和らげることになっても、より効果的になる・・」
「華音も・・アイツも・・・」
「そうだったね・・華音ちゃんも、僕がちゃんと粛清してあるよ・・」
双真が投げかけた話題を振られて、流星が視線を移す。その先に双真も振り向く。
他の女性たちと同じように、華音も石化されて立ち尽くしていた。
「華音・・・」
変わり果てた華音の姿を見て、双真が緊張を膨らませる。彼の隣にいる流星は、悠然とした面持ちで彼女を見つめていた。
「華音ちゃんももう2度と動くことはできない・・天敵がいなくなって、君も安心したんじゃないか・・・」
「天敵・・・コイツが、天敵・・・」
流星の言葉に突き動かされるように、双真が華音に近づいていく。石化された華音は、呆然にも無表情にも見える面持ちを浮かべたままだった。
「君が気が済むというなら、華音ちゃんを好きにしていいよ・・触っても蹴っても殴っても・・といっても、僕の石化はどうやっても壊れないし、石だから殴ったら逆に痛くなるだけだけど・・」
流星が言いかける前で、双真が華音の両肩に手をかけてきた。
(双真・・・完璧に見られてる・・僕の、女としての体を・・・)
意識が残っていた華音が、目の前にいる双真に戸惑いを覚える。しかし彼女は何の行動も反応も見せることができない。
「コイツが、オレをとことんイラつかせてきた・・・!」
憤りを感じて、双真が華音をつかんでいる両手に力を込める。
(感じる・・双真の力も、肩の痛みも、怒りも・・・でも、僕はもう何もできない・・したくてもできない・・・)
心の中で呟くことしかできず、華音は困惑と無力感を募らせていた。
「華音・・・オレは・・・」
双真は華音を責めきれず、徐々に手から力を抜いていく。
「どうしたの、双真?まだ気分がよくならない?」
流星が声をかけてくるが、双真は動揺を募らせるばかりとなっていた。
「怪物とか石化とか、現実からかけ離れたことばかり目にしたからね。いいことって言っても、どうしてもすぐに気持ちの整理はつけられないものか・・」
双真の心境を察して、流星が苦笑いを浮かべる。
「でもその複雑な気持ちで君が不幸になることはない・・君が苦しむことのないように、僕が手を打つから・・・」
「オレをとことん守ろうというのか・・だがオレは、気に入らないヤツに苦しめられるのはイヤだが、守られてばかりなのも癪に障る・・」
「・・できるなら君のそういうところを尊重したいよ・・でもそうも言っていられなくなったら、僕は迷っていられなくなる・・・」
「そんなお前の気持ちなど、オレには関係ない・・オレがコイツを、女を許せないという考えは変わらない・・・!」
流星が投げかける言葉に対して、双真は冷静さを保てなくなっていた。女への憎悪と華音への感情の板挟みにあい、彼は気分を落ち着けるどころか、ますます苦悩を深めることになった。
(双真・・双真はどうしたいんだ?・・双真の、ホントの気持ちは何なんだ・・・?)
華音が双真に対する心の声を上げる。届かないと分かっていながら、彼女は双真への思いを感じずにはいられなかった。
(今の僕は何もできない・・こうして双真を見ることしかできない・・双真が、流星さんに惑わされないで、自分の正直な気持ちを貫いてくれることを、祈ることしかできない・・・お願い、双真・・自分を貫いて・・・)
流星に惑わされず、流星に流されずに、自分の意思で自分を貫く。双真がその決断をしてくると、華音は願っていた。
「双真、華音ちゃんは好きにしていいよ・・君が納得できる形が、僕の理想だから・・・」
「相手が女だから、オレも納得できることがあるが・・自分の考えを押し付けるヤツだったのか、お前も・・・!?」
「言って悪いけど、君もそうだったよ・・それが気に入らないというなら、君は自分を否定することになってしまう・・」
「それでも・・オレはお前のこのやり方に納得ができない・・・!」
「・・こういう気持ちは理屈じゃないんだね・・特に君みたいな性格の場合はね・・・」
自分の考えを貫こうとする双真を見つめて、流星が苦笑いをこぼす。
「僕にわざわざ伝えなくていいよ・・君が華音ちゃんを粛清することを、僕は願わせてもらうよ・・」
「そうか・・・お前がそこまで言い張るなら、オレもオレの考えを押し付けないといけないようだな・・オレの考えが、お前にとってどうしても納得できないようなものになったとしても・・・!」
妖しく微笑む流星の前で、双真が石化している華音を持ち上げた。彼のこの行動を目にして、流星が眉をひそめる。
「双真・・まさか・・・!?」
「とりあえずコイツを連れ出す・・お前の言う粛清は、コイツに対してはオレだけでやる・・・!」
双真が華音を抱えたまま、大部屋から飛び出していった。
(双真・・どうしてこんなこと・・・!?)
たまらず驚きの声を心の中に響かせる華音。だが彼女のこの声は双真に届かず、双真の考えを華音は察することができなかった。
(何をやっているんだ、オレは・・バカバカしいことをしていると分かっているのに・・・!)
自分の行動に疑念を感じながら、双真は華音を連れてひたすら廊下を走った。
「まさかそんな行動に出るとはね・・」
だが双真の前に流星が回り込んできた。彼は双真に先ほどと変わらない悠然さと笑みを見せてきた。
「でも勝手にここから持ち出すのは感心しないな・・どうしてもっていうなら、僕がうまく出してあげてもいいのに・・・」
「こんなお前の手は借りない・・オレはオレでコイツをやってやる・・お前の言う粛清ってヤツをな・・・!」
流星が呼びかけるが、双真は聞き入れずに自分だけで行動しようとする。彼の態度に流星がため息をついた。
「他の人に頼らずに自分だけで解決しようとする。君らしいね、本当・・でも、こればかりは見過ごせない・・この行動は僕にも君にも損にしかならない・・」
「そうかどうかはオレが判断する・・お前が勝手に決めるな・・・!」
「これは僕と君のためだよ・・そのために、あえて君のこの行為、止めないといけない・・・」
「だから勝手に決めるなと言っているだろう!」
制止を呼びかける流星に双真が怒鳴る。
「そこをどけ!どうしても通さないというなら、たとえお前でも・・!」
双真が華音を放して、流星に殴りかかる。
(ダメ、双真!流星さんには・・!)
華音が心の声を上げた直後、双真が流星が出した右手に簡単に弾き飛ばされた。強く床に叩き付けられて、双真が苦痛を覚えて顔を歪める。
「強引なのが君らしさだけど、普通の人間の君じゃ、僕には勝てない・・華音ちゃんにも真っ向勝負で勝ててないんだから・・・」
「うるさい・・勝手に決めるなと、何度言わせれば・・・!」
淡々と言いかける流星と、力を振り絞って立ち上がる双真。だが2人の力の差は明らかだった。
「気持ちや感情だけではどうしても貫き通せないものがある・・もしも君に僕のような力があれば、何でもできたかもしれないけど・・」
「だったら・・力がなかったら諦めるのか、お前は!?・・・力がないからって、気に入らないヤツのいいなりになるしかないって考えるのか・・・!?」
「・・そうだね・・確かに君の言うとおり、僕もそんな不満を抱くだろうね・・・」
鋭い視線を向けてくる双真に対して、流星はさらに笑みをこぼしていく。
「でもこれが現実・・現時点で、君は僕よりも力が確実に弱い・・」
「お前も・・何をやっても理解しないヤツだったのか・・流星!」
悩ましい表情を浮かべる流星に、双真が再び突っかかる。だが流星の右手から放たれた念力を受けて、双真は動きを止められる。
「ぐっ!」
体を締め付けられるような苦痛を覚えて、双真が顔を歪める。彼は流星に体を持ち上げられていく。
「理解していないのは君のほうだ、と言わざるを得ない・・もっとも、僕もこんな状況に追い込まれても、抵抗しようとするけどね・・」
「だったら、オレに何を言ってもムダだって、お前も分かるはずだろう・・・!」
「ムダか・・僕の気持ちも、双真には絶対に伝わらないんだろうね・・・」
睨み付けてくる双真に虚しさを感じて、流星はため息をつく。流星は右手から力を抜いて、双真にかけている念力を消す。
「ぐっ・・!」
床に落とされてうめく双真。念力の束縛で、彼は全身に苦痛を感じていた。
(もうやめるんだ、双真・・僕でも敵わなかったのに、アンタが敵うはずないだろ・・・!)
華音が必死に呼びかけるが、双真には届かない。
「そこをどけ・・オレはオレの考えで、コイツを叩きのめすんだからな・・・!」
声と力を振り絞って、双真が流星に飛びかかる。だが流星に片手で簡単に弾き飛ばされてしまう。
「そこまで言うなら気が済むまで、意識を保てなくなるまで挑んでくるといいよ・・」
流星が冷淡に告げて、双真を退けようとする。さらに向かっていく双真だが、流星には太刀打ちできない。
(早く逃げてって・・これだけやられても挑んでいくのは、逆に馬鹿げてるって・・・!)
悲痛さを募らせていく華音。彼女は双真が流星に返り討ちにされるのを、黙って見ていることしかできなかった。
何度も流星に突き飛ばされて、双真は大の字に倒れたまま立ち上がれなくなってしまった。
「もう立つ力も出なくなったみたいだね・・認めたくないだろうけど、もうここまでだよ、双真・・」
双真を見下ろして言いかける流星。ボロボロになっているにも構わず、双真は立ち上がろうとする。
「オレは・・オレの憎む敵はオレの手で倒す・・お前や他のヤツに任せても、意味はないんだ・・・!」
傷ついている体に鞭を入れて、双真は立ち上がった。彼は流星を睨んだまま、再び華音をつかんだ。
「お前、言ったな・・石にしたヤツは、どんなことをしても壊れないと・・・」
双真の口にした言葉に、流星が眉をひそめる。
「だったら強行突破に巻き込んでも平気ということだな!」
双真が華音を抱えたまま、強引に流星の横を突っ切ろうとした。だが流星の放った念力で、彼は再び動きを止められる。
「ぐっ!・・くそっ・・またかよ・・・!」
「君たちは僕に対して何もできない・・勝つことも、逃げることも・・・」
うめく双真に流星が冷淡に告げてくる。
「本当に思い通りにならないんだね、双真・・好き勝手にされるのを嫌うのが君だからね・・でも・・」
「ぐあっ!」
流星が念力を強めると、双真の体が圧迫される。その苦痛で双真があえぎ声を上げる。
「これだけは・・今回だけは・・君たちを、僕の思い通りにする・・・!」
「ふざけるな・・分かって・・いるなら・・・!」
目つきを鋭くする流星に向けて、双真が声を振り絞る。
(離れて、双真!僕に構うことないって!)
伝わらないことも気にせず、華音が双真に必死に呼びかける。彼女の願いも虚しく、双真は1人だけで逃げようとしない。
(ホントに強情だ・・僕以上にガンコだよ、アンタは・・・でも・・僕もこんな状況になっても、双真みたいにしたかもしれない・・・)
強情な双真と自分に対して、華音は物悲しさを痛感していた。
「僕もあまりムダな時間を費やしたくない・・これが最後だ・・今は僕の言うとおりにしてくれ、双真・・・」
流星も声を振り絞って、双真に忠告を送ってきた。しかしこれも双真は聞き入れない。
「オレは・・お前に従うつもりは・・ない・・・!」
「そう・・本当に、残念だよ・・・!」
双真の答えを聞いて、流星が左手を掲げる。その指差しから双真に向けて、光の刃が放たれた。
次回
「こんなことになって、本当に残念だったよ・・・」
「こうでもしないと、君は自滅してしまうから・・・」
「もう心配しなくていいよ・・これからはしっかりと、僕が見守っていくから・・・」