ガルヴォルスBlade 第19話「裏切りの支配」
麻子と流星がいなくなり、心配でたまらなくなった華音。だが満身創痍だった彼女は意識を失うこととなった。
華音が目を覚ましたのは病室のベッドの上。その病室には双真がいた。
「僕は・・また、寝ていたのか・・・?」
「あぁ・・また無様に倒れて・・本当にどういう育て方をされたのか、疑いたくなってくるな・・」
疑問符を浮かべる華音に、双真が憮然とした態度を見せてきた。
「また病院送り・・本当になってないな、僕は・・・」
「そういうならふざけたことをするな。オレに世話を焼かせるな・・」
「ゴメン・・・でももしかして、僕を助けてくれたのは、双真・・・!?」
「お前をあのまま置き去りにしたら後味が悪くなりそうだったからな・・親切だと勘違いするな・・・」
華音が問いかけると、双真が不満げに答える。
「お前、本当に中途半端だな。女のくせに男みたいに振る舞って・・」
「うん・・僕が物心ついたときには、もうお母さんがいなくて、他の家族はみんな男だったから・・・」
憮然とした態度を見せる双真に、華音が物悲しい笑みを浮かべて語り出す。
「みんな女の子の育て方がうまくなかったみたいで、僕も男だらけの環境に慣れすぎちゃって、男っぽい性格としゃべり方になっちゃったわけ・・」
「そうだったのか・・そういうものなのか・・・」
「そうかも・・・双真の言うとおり、こんな中途半端だから、女のくせに男みたいとか、悪口言われたりいじめられたりした・・双真みたいに、気持ちが荒れて暴力を振るいそうにもなった・・・」
華音が打ち明けた過去を聞いて、双真が当惑を感じていた。彼は彼女も理不尽に打ちひしがれてきたのだと思っていた。
「もしも翔太さんや親切なみんなが支えてくれなかったら、多分僕も双真のようになってたかもしれない・・気に入らないものを徹底的に叩きつぶすような人間になってたかもしれない・・・」
「おい・・オレを何気に悪者にしているな・・・?」
「だって、無関係な人にまで暴力振るうことがいいことになるわけないじゃない・・」
不満を見せる双真に、華音も不満を返す。
「だけど、僕も怒りのあまりにそうなりかけてた・・力任せになって、見境をなくしてた・・・」
「それがあの、紅い姿なのか・・・」
「今は何とかコントロールできてるけど、前は意識も吹っ飛んでた・・」
華音の話を聞いていくうちに、双真は彼女に共感するようになっていた。
「お前もお前で、いろんなことに苦しんでいたんだな・・」
「やっと分かってくれた・・って言ったら、自分はかわいそうだって甘えてることになるね・・・」
双真が投げかけた言葉を聞いて、華音が物悲しい笑みを浮かべる。
「麻子ちゃんと流星さんは、まだ見つかってないよね・・・?」
「オレはあれからずっとお前のそばにいたからな。探してはいない・・」
「そう・・・ホントに、どこに・・・」
双真から答えを聞いて、華音が困惑を見せる。
「今は大人しく休んでいろ。また倒れられたら気分が悪くなる・・」
「悔しいけど、今はそうするしかないな・・ホントはすぐに探しに行きたいけど・・・」
双真に呼びかけられて、華音は大人しくすることにした。
(麻子ちゃん・・流星さん・・・休んだらすぐに探しに行くから、どうか無事でいて・・・)
麻子と流星の無事を祈って、華音は休息に専念した。流星が麻子を手にかけ、自分をも敵に回していることにも気づかないまま。
流星の手にかかり、麻子は一糸まとわぬ石像にされてしまった。流星は動かなくなった彼女を抱えて、大部屋へと移動していた。
2人が来た大部屋には、麻子と同じように石化された美女たちが立ち並んでいた。彼女たちを見回して、流星が笑みを浮かべる。
「これだけ捕まえて石化させていくと圧巻だね。姿かたちは十分絵になるよ・・姿かたちはね・・・」
石化された美女たちを見回す流星の表情が曇っていく。
「でもこれだけやっても、まだ双真の敵は減らない・・双真が不快になれば、僕の心も決して晴れない・・・」
双真への思いと彼の敵への憎悪を募らせる流星。憤りのあまり、彼は右手を強く握りしめていた。
「そして今、双真を1番苦しめているのは彼女、華音ちゃんだ・・・」
目つきを鋭くして、流星が華音への憎悪をも募らせていく。
「そろそろ手を下したほうがよさそうだ・・これ以上、双真を傷つけさせない・・・!」
華音を次の標的と認識して、流星は大部屋を出た。
麻子がいなくなってから一夜が明けた。休養に専念して、華音は体力を回復させた。
「よし!これでしっかりやれるぞ!」
ベッドから起き上がって、華音が気合を入れる。
「本当に一晩寝たら全回復したな・・」
その彼女の様子を見て、双真が呆れていた。
「これが怪物だと言われてる人の身体能力なんだ。普通の人と比べて、力も感覚も回復力も全然違う・・」
「オレも、そうなったほうがいいと思うか・・?」
「できるならなってほしくないのが僕の考えだよ・・僕は最初この力を求めてきたけど、力に振り回されたり見境をなくしたりした・・誰もがそうならないとはいえない。最悪、心まで怪物になってしまうかもしれない・・」
「心が怪物、か・・皮肉なことだな・・・」
自分の経験を口にする華音と、憮然とした態度を見せる双真。
「オレなりに流星を探したが、見つからなかった・・・」
「そう・・ホントにどこに行っちゃったのかな・・・」
双真の言葉を聞いて、華音が戸惑いを募らせていく。体は回復しても、麻子と流星への心配は和らいでいなかった。
「十分に休んだのならお前も探しに出ろ。自分だけ楽をするな・・」
「分かってるよ・・いい加減に僕も行かないと・・・!」
双真に呼びかけられる形で、華音はベッドから立ち上がった。2人は改めて麻子と流星を探しに出た。
2人は1度大学の前まで来た。隼介の引き起こした事件の影響は消えてはおらず、警察の調査が続いていた。
「昨日も来たが、流星たちは見当たらなかった・・というより、警察がウロウロしていて、まだ立ち入り禁止になっている・・」
「そう・・僕も、大学に麻子ちゃんと流星さんの気配を感じない・・中にいるのは警察の人だけだ・・・」
声をかけ合う双真と華音。2人は仕方なく大学から離れることにした。
「後はどこを探せばいいっていうんだ・・どこを探せば・・・」
「お前はオレより感覚がいいんだろう?だったらオレよりも十分に探せるだろう・・」
「そうだけど、見当がつかないことには・・」
双真に呼びかけられても、華音は麻子たちの行く手の手がかりを見出せないでいた。
だがそのとき、華音は自分に向けられた感覚を感じ取り、緊張を覚える。
「どうした?」
「この感じ・・私たちと同じ種類の感じ・・でも、ものすごく協力・・・!」
双真に声をかけられて、華音が声を振り絞る。彼女は緊張感を振り払おうとして、気配のするほうに振り返る。
「ゴメンね、華音ちゃん、双真、心配をかけてしまって・・・」
2人の前に現れたのは流星だった。彼の登場に双真は安堵を感じていた。
「流星、無事だったのか・・どこに行っていたんだ・・・!?」
「本当にゴメン、双真・・君を心配させるなんて、僕は本当にひどいね・・・」
双真の問いかけに、流星が苦笑を浮かべて答える。
「麻子ちゃんがいない・・・麻子ちゃんは・・麻子ちゃんは、どこですか・・・!?」
華音が声を振り絞って、流星に麻子のことを問いかける。すると流星が笑みをこぼしてきた。
「あの子なら僕のところにいるよ。だから心配はいらない・・」
「流星さんのところにいるって・・どういうことですか・・・!?」
流星の答えに対して、華音が問い詰めていく。すると流星がおもむろに笑みをこぼしてきた。
「本当に真っ直ぐなんだね、君は・・だからこそ気が向いてしまったんだけどね・・」
態度を変えた流星に、双真が眉をひそめる。
「お前、誰だ?流星ではないな?」
「何を言っているんだ、双真・・僕は正真正銘の桂流星だよ・・」
疑問を投げかける双真だが、流星は悠然と答えるだけだった。
「他からは他人を拒絶するから人を見る目がないと思われていたらしいけど、僕が思った通り、十分人を見る目があるよ。」
「流星さん、どうしたんですか!?・・ホントに麻子ちゃんはどうしたんですか!?早く助けに行かないと・・!」
双真を称賛する流星に、華音がさらに呼びかける。すると流星がさらに笑い声をあげてきた。
「フフフフ・・君、いつまでも調子に乗らないでほしいな・・・」
「流星さん・・・!?」
「不愉快で不愉快で・・本当に我慢ができなくなってしまったよ・・・」
華音が困惑する前で、流星が冷淡な態度を見せる。
「双真にいつまでも付きまとって、双真を怒らせて苦しめて・・本当に鬱陶しかった・・・」
「流星さん・・・!?」
「何の愛情も感じてはいなかったよ・・僕にとって君は、最初から敵でしかなかった・・・」
流星の冷たい態度を目の当たりにして、華音が困惑を募らせていく。
「でもせっかくだ。彼女に会わせてあげるよ・・」
「お前、流星ではないだろ・・流星はオレと違い、他のヤツに親切にするヤツだ・・・」
華音に呼びかける流星に、双真が疑念を募らせる。
「それは表向きの僕だよ。そう見せるように僕が段取りしたんだよ。そうでもしないと、本性を見せたら、僕は双真に心の底から嫌われてしまうかもしれないと、不安になっていた・・」
「流星・・お前、本気で・・・!?」
あくまで悠然さを崩さない流星に、双真が憤りを覚える。
「でも、それでも、君がこのまま傷ついて苦しんでいくのを黙って見ているよりはいいと思った・・たとえ後で君に嫌われても、僕は君を助けたかった・・・!」
「オレはそんなお前の自分勝手が不愉快だ・・・!」
切実な振る舞いを見せる流星に、双真がいら立ちを見せる。彼が感情のままに流星につかみかかる。
「ダメ!流星さんは・・!」
華音が呼び止めようとする前で、双真が流星に殴りかかる。だが彼が繰り出した右手は、流星に左手だけで軽々と受け止めていた。
「普通の人間である君が、僕に敵わないのは当然のことだと思うんだけど?」
流星が双真の右手をつかんでいる左手に力を入れる。流星にとっては軽く押したつもりだったが、双真には強い衝撃のように感じて、白に突き倒される。
「双真!」
華音が双真に駆け寄ろうとしたとき、流星が右手から光の刃を出して、彼女に切っ先を向けてきた。
「けがらわしいくせに、双真に近づかないでもらいたいな・・なんて、双真にこんなことをしてしまった僕が言えた義理じゃないんだけど・・・」
目つきを鋭くする流星に、華音が一気に緊張を膨らませる。
「あの子のことが本当に心配なら、僕についてくるといいよ・・ここで僕に息の根を止められたいなら、それでもいいけど・・」
「・・残念ですが、あなたの言葉を聞くことも、ここで死ぬのもできません・・僕自身で麻子ちゃんを助け出しますから・・・!」
誘いを口にする流星に言い返す華音の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。
「流星さんと争うのはイヤですけど、流星さんのために、麻子ちゃんや双真がイヤな思いをするほうがイヤだから・・・!」
異形の姿に変身する華音。彼女の変化を目の当たりにして、双真が息をのむ。
「その姿になっても僕には勝てないよ。僕はこれでも戦闘力が高いほうだから・・」
華音の姿を目の当たりにしても、流星は余裕を消さない。
「君は絶対に僕に勝てない。君が手を焼いていた人殺しの怪物は、僕が簡単に息の根を止めたからね・・」
「アイツを、流星さんが・・・!」
流星の言葉を聞いて、華音がさらに緊迫を覚える。だが彼女は流星に立ち向かうことを諦めていない。
「何にしても、今は麻子ちゃんを探すのが先決ですよ!」
「真っ直ぐだね、本当に・・真っ直ぐに双真に突っかかって、苦しめ続けてきた・・・」
呼びかける華音に、流星が冷淡な視線を向ける。
「華音ちゃん・・君は僕と双真の、最大の敵だ・・・!」
流星が素早く動いて、華音の眼前にまで一気に詰め寄ってきた。その速さを捉えきれず、華音が驚愕する。
華音がとっさに右手から刃を出して、流星に向けて振りかざす。だが流星にその右手を払われる。
「えっ・・!?」
驚きの声を上げたと同時に、華音が激痛を覚える。流星が発した光の刃が、彼女の左肩を貫いていた。
痛みのために顔を歪める華音。光の刃が引き抜かれると、彼女は血のあふれる左肩を押さえて倒れる。
「その気になっていたら、この一撃で僕は君を殺せた・・でも、すぐに命を奪っても、僕の気も双真の辛さも晴れない・・」
「ぐっ!・・僕が反応するよりも速く・・・!」
低く告げる流星に目を向けたまま、華音がうめく。彼女は痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がる。
「君にはもっと苦しい思いをさせるからね・・望みどおりにさせるのは癪に障るけど、あの子のいるところに連れて行ってあげるよ・・」
流星は淡々と告げると、華音に再び詰め寄って左手を突き出す。強烈な衝撃に襲われて、華音が意識を失って倒れた。
「双真、少しだけ待っていて。すぐに戻ってくるから・・」
流星が双真に振り向いて声をかけてきた。
「おい、待て・・何をやろうというんだ、お前は!?」
「君を守るために力を使っている。そのことは忘れないでいて・・」
駆け寄ろうとする双真に呼びかけると、流星は華音を捕まえて走り出していった。双真は流星に追いつくことができず、立ち止まってしまった。
「流星・・・華音・・・!」
憤りを募らせて、双真が地面を強く踏みつける。怒りを感じる中、双真は華音に対する感情を心に宿していた。
流星に傷を負わされ、気絶させられた華音。意識を取り戻した彼女は、双真の部屋で目を覚ました。
「僕は・・・ぐっ・・!」
意識を取り戻した華音だが、左肩の痛みに襲われて突っ伏す。
「思ったよりも早く目が覚めたようだね・・僕たちの同類でも、これだけの傷を受けてから目を覚ますのに、かなり時間がかかるんじゃないかなって思ったんだけど・・」
ゆっくりと起き上がる彼女に、流星が声をかけてきた。
「ここは僕の家。その中の部屋のひとつさ。君が目を覚ますまで、一応見守らせてもらったよ。」
「麻子ちゃんはどこ!?・・・双真が、いない・・・!?」
流星に麻子のことを聞いたとき、華音は双真がいないことに気付き、周囲を見回す。
「双真には待たせてもらっている・・君がいなくなって、やっと落ち着けていることだろうね・・・」
「流星さん・・・!」
「それよりもあの子のことだ。ついてくるといいよ・・」
流星が華音に向けて手招きをすると、部屋を出ていった。華音は流星についていって、大部屋に行き着いた。
「ウソ・・・そんな・・・!?」
そこで目の当たりにした光景に、華音は驚愕した。部屋には石化された全裸の美女たち、そして同じく石化された麻子がいた。
次回
「こうされることで、彼女たちは死ぬよりもつらい生き地獄を味わっている・・」
「オレはアイツを、見捨てることができないというのか・・・!?」
「そんな・・そんな・・・!?」
「君にも受けてもらうよ・・終わりのない絶望を・・・」