ガルヴォルスBlade 第18話「欲情の暗躍」
隼介を追うため、流星を探すため、華音は街中を走り回っていた。隼介との戦いでかなり体力を消耗していた華音だが、その苦痛に構わずにひたすら走り続けていた。
「流星さん、どこにいるんだ!?・・・もしアイツと鉢合わせになったら・・・!」
不安を募らせていく華音が、1度足を止める。
「病院に戻ったのかな?・・・1回麻子ちゃんのところに行ってみたほうがいいのかな・・・?」
「華音ちゃん・・・」
引き返そうとしたところで、華音が声をかけられる。流星が姿を見せてきた。
「流星さん!・・よかった・・無事だったんですね・・・」
流星の姿を見て、華音が安心の笑みを見せる。緊張が解けてしまい、彼女は疲れを感じて倒れそうになり、流星に支えられる。
「僕は大丈夫だけど・・華音ちゃんのほうが大丈夫そうには思えないよ・・・」
「すみません、流星さん・・心配になっていた僕が心配されてちゃ面目ないですよね、アハハ・・・」
戸惑いを見せる流星に、華音が苦笑いを浮かべる。
「でも、ダメですよ、流星さん・・麻子ちゃんから離れたら・・・」
「ゴメン、ゴメン・・華音ちゃんと双真のことが心配になってしまって・・・」
顔色を変えて注意する華音に、流星が頭を下げる。しかし華音はすぐに笑顔を取り戻す。
「いいですよ、別に・・僕も心配のあまりに飛び出しましたから・・・」
「でも本当にゴメン・・心配かけてしまって・・・」
謙遜する華音に、流星が謝ってくる。
「とにかく、麻子ちゃんのところに戻りましょう・・麻子ちゃんも心配してるから・・」
華音の呼びかけに流星が頷く。しかし流星は腑に落ちない面持ちも浮かべていた。
「でも、双真のことも心配だ・・できれば、見つけ出したいけど・・・」
「双真・・・僕も心配です・・でもやっぱり1度、麻子ちゃんのところに行きましょう。アイツは僕が探してきて、流星さんの前に連れてきます・・」
「華音ちゃん・・気持ちは嬉しいけど、華音ちゃん、疲れているじゃないか・・」
「近くにまだあの人殺しがいるかもしれません・・やっぱり、僕が探しに行ったほうがいいです・・・」
双真を心配する流星をなだめる華音。2人はひとまず麻子の待っている病院に向かう。
(華音ちゃんには悪いけど、彼はもういないよ・・僕が始末したからね・・・)
流星は心の中で、隼介がもう生きていないことを思い返していた。
病院の前で華音たちの帰りを待っていた麻子。華音も流星もなかなか戻ってこないことに、麻子は不安を募らせていた。
「華音ちゃん、流星さん、大丈夫かな・・1回携帯で連絡してみようかな・・・」
華音に連絡しようと携帯電話を取り出そうとした麻子。
「麻子ちゃん!」
そのとき、華音が流星を連れて麻子に声をかけてきた。
「華音ちゃん、流星さん、無事だったんだね・・・」
「麻子ちゃん、ゴメン・・心配かけちゃったね・・・」
安堵の笑みをこぼす麻子と、謝る華音。
「もう、ダメですよ、流星さん!1人で飛び出していっちゃうなんて!」
「華音ちゃんにも言われたよ・・本当にゴメン・・双真のことが心配だったから・・・」
注意してくる麻子に、流星が苦笑いを見せる。
「麻子ちゃん、流星さん、ここで待っていて・・僕がアイツを、双真を連れてくるから・・・」
華音は双真を探しに飛び出そうとするが、満身創痍の彼女はふらついてしまい、走ることもままならなくなっていた。
「華音ちゃん、ムリだって!探しに行くにしても、ちょっとだけでも休んでからのほうが・・・!」
「それはそうなんだけど・・今すぐ行かないといけない・・そんな気がしてならない・・・」
心配する麻子だが、華音は彼女の制止を振り切って歩き出す。
「華音ちゃん・・・」
これ以上呼び止めることができず、麻子は華音の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
(そろそろはじめようか・・まずは君からだ・・・)
その後ろで、流星は麻子に向けて野心を募らせていた。
華音に対する感情を捨てられず、双真は不快感を募らせていた。彼は翔太のいるレストランに飛び込むように入ってきた。
「おや、双真くん?今日は君の仕事の日じゃないよね?」
翔太が声をかけるが、双真は答えずにレストランの奥の部屋に進んでいった。彼は部屋の中で座り込み、荒くなっていく呼吸を整えようとしていた。
「本当にどうしたんだい、双真くん?何かあったのかい・・?」
「うるさい・・オレに構うな・・・!」
心配してくる翔太だが、双真はいら立ちを膨らませるだけだった。
「構うなって言っても・・さすがに今回は見過ごせない・・・」
「構うなと言っているだろう!黙っていろ!」
近づこうとした翔太に、双真が怒鳴りかかる。近寄ることもできず、翔太も周りの人たちも困惑するばかりとなっていた。
そのとき、再びレストランのドアが開く音がした。
「いらっしゃいま・・華音ちゃん・・!」
慌てて出てきた翔太の前にいたのは、双真を探して走り回っていた華音だった。彼女は双真の行きそうな場所を回って、レストランを訪れたのである。
「翔太さん、アイツは・・双真はここに来ていますか・・・!?」
「丁度よかった・・今、双真くんが来たんだけど、様子がおかしいんだ・・・!」
声をかける華音に翔太が答える。話を聞いた華音が、奥の部屋にいる双真を発見する。
「双真!・・流星が病院の前で待ってるから、一緒に行くよ!」
「ふざけるな・・誰がお前の言うことなんか・・・!」
呼びかける華音に、双真は鋭く睨み付けてくる。
「僕の言うことじゃない・・流星さんが願っていることだよ・・・!」
「ふざけるなと言っているだろうが!お前の言うことだろうが!」
振り絞るように呼びかける華音だが、双真は聞こうとしない。
「お前はオレの敵だ・・オレを騙してオレを陥れようとする、自分勝手なヤツの1人なんだよ!」
双真が怒鳴ったこの言葉に、華音が激高する。彼女は双真に詰め寄り、無理やりレストランから引っ張り出そうとする。
「触るな!オレを思い通りにできると思うな!」
だが双真は華音に殴りかかってきた。殴られた痛みにも気に留めず、華音は双真をつかむ手にさらに力を込める。
「アンタを信じてる人を裏切るような人なのか!?そんな最低なのがいいのか!?」
双真とともにレストランから飛び出す華音。2人は道の真ん中で掴み合いを繰り広げていく。
「お前はどうして、オレを苦しめるようなことばかりするんだ!?」
「アンタが苦しみから逃げてるからじゃないか!そんな逃げ腰、誰も認めてくれない!」
「誰が逃げ腰だ!?言いなりになるほうがよほど逃げ腰だろうが!」
「イヤなことと向き合わずに背を向けることも逃げ腰だろうが!」
互いに怒鳴り合って、双真と華音が殴り合っていく。その間にも、華音は双真を病院に引き連れていた。
「1回はちゃんと向き合って、自分の考えを言いなさい!それで仲良くなれないなら、嫌っても背を向けても構わないだろうが!」
「その1回で陥れられることを、オレは何度も味わった!そんな言葉、オレは信じない!」
「だったら何なら信じられるの!?自分!?それとも他の何か!?」
「うるさい!オレはお前の言葉を信じないと言っているだろうが!」
あくまで信頼を見せない双真に、華音はついに見切りをつけた。
「もういい・・勝手にしろ・・そこまでして流星さんやみんなを裏切りたいなら、好きにすればいい・・後で後悔しても知らないから・・・!」
華音は双真を置いて、麻子と流星のいる病院前に戻ろうとする。しかし隼介との戦いや双真との争いで、華音の体力は限界に達していた。
「あっ・・・」
脱力してその場に倒れてしまう華音。体に力が入らず、彼女は仰向けになったまま起き上がることができない。
「お前・・そんなざまで・・・!」
双真が華音にいら立ちを見せるが、彼もふらついて倒れてしまう。2人とも体力を使いすぎて、倒れたまま息を荒くしていた。
「くそっ・・どっちも無様になるとはな・・・」
「僕もそう思う・・疲れてるのに双真のためにムキになって、何の得にもならない結果になった挙句に、こうして倒れてる・・何やってるんだろうって自分でも思う・・・」
呼吸を整えながら、声をかけ合う双真と華音。
「何の得にもならないのに、どうしてオレにそこまで構う?・・オレが声をかけ続けていれば応じると思っていたのか・・・?」
「分かんない・・最初は許せなかったから・・我慢できなかったから、アンタに突っかかった・・でも今は、何でアンタにそこまでムキになってるのか、分かんなくなっちゃった・・・」
双真がおもむろに投げかけた問いかけに対して、華音が自分の思ったことを口にした。彼女は自分の中に湧き上がってくる何かに突き動かされていると直感していた。
「馬鹿げてる・・本当に馬鹿げている・・・」
「ホント・・僕もそう思う・・もう、理屈じゃないかも・・・」
ため息をつく双真と、苦笑いを浮かべる華音。
「やはり・・1度流星に会わないと、かえって気分が悪くなりそうだ・・・」
「結局その結論になるのか・・ホントに気に食わないな、アンタは・・」
双真が口にした決断に、華音が呆れてため息をついた。
そのとき、華音は自分の携帯電話が鳴っていることに気付いた。彼女が電話に出るまで、少し時間がかかった。
「はい・・・麻子ちゃん・・・?」
電話の相手は麻子だったが、すぐに電話が切れてしまった。麻子に何かあったのだと、華音は緊張を一気に膨らませた。
流星が突然麻子に襲いかかってきた。華音に連絡しようとした麻子だが、流星の放った光の刃に携帯電話を貫かれた。
「すまないね。君はもう僕から逃げることはできないよ・・・」
「流星さん・・どうしたんですか・・・何を言ってるんですか・・・!?」
優しく声をかける流星に、麻子は困惑を隠せなくなる。
「君も僕たちに屈することになる・・双真を傷つけるものは許さない・・・」
「あの人のこと・・・流星さん、何を言って・・・!?」
「君も双真の敵の1人となっている・・だから僕にとっても、君は敵ということさ・・・」
困惑を募らせる麻子に、流星が右手を伸ばして衝撃波を放つ。
「キャッ!」
強い衝撃に当てられて、麻子が倒れて気絶する。横たわった彼女に近づいて、流星が近寄って見下ろす。
「もう少し有意義な時間を過ごしたかったけど、そうも言っていられないほど、双真が追い込まれてしまっているからね・・・」
妖しい笑みを浮かべて、流星は麻子を連れて音も立てずに姿を消した。
「麻子ちゃん!」
麻子からの連絡を受けて、病院の前に駆けつけた華音。だがそこには麻子も流星もいなかった。
「麻子ちゃん・・流星さん・・・どうしたっていうんだ・・・!?」
病院の周りを見回す華音だが、2人の姿を見つけられなかった。
「おい・・どうしたというんだ・・・!?」
双真が遅れて病院に到着し、華音に声をかけた。
「・・・麻子ちゃんと流星さんが・・いなくなった・・・」
「何だと・・・流星が・・・!?」
華音が呟くように言いかけた言葉に、双真も緊張を覚える。
「まだ近くにいるはず・・すぐに助けに・・・」
麻子と流星を探そうとする華音だが、またしても彼女は疲弊のために倒れてしまった。意識を保てなくなった彼女は、病院の前で気絶してしまった。
暗闇に包まれた場所で、麻子は意識を取り戻した。
「ここは・・・?」
自分がどこにいるのか分からないまま、麻子が体を起こす。手さぐりしながらこの場を歩こうとする彼女だが、顔を壁にぶつけて痛がる。
「イタタタ・・ホントに暗い・・・」
「僕の部屋で勝手なことをしないでもらいたいね・・」
そこへ声がかかり、麻子が緊張を覚える。次の瞬間、彼女のいる場所にかすかだが明かりが入った。
周りが少しだけ見やすくなった麻子。彼女がいるのは小さな部屋。目の前にいたのは流星だった。
「やっと目が覚めたようだね・・待つことさえも苦痛に感じれたよ・・」
「流星さん・・どういうことなの・・あたしに何をしようとしてるの・・・!?」
妖しい笑みを浮かべる流星に、麻子が不安を浮かべる。
「言ったはずだよ・・双真の敵は、僕の敵だと・・・」
流星は低く告げると、素早く詰め寄って麻子を壁に押し付けた。
「殺すだけなら簡単にできる。でもそれだと僕も双真も安らげない・・だからある意味生き地獄といえるコレを使っている・・」
流星は目つきを鋭くすると、右手の人差し指の先に黒い光を集める。彼は指を麻子の胸元に当てる。
「君がどんな反応をするのか、楽しみだ・・・」
ドクンッ
流星の指先の黒い光が光線となって放たれた。胸を貫かれた麻子が、強い胸の高鳴りに襲われる。
流星が麻子から手を離して後ろに下がる。光線に撃たれたが、麻子に外傷はなかった。
「今の、何!?・・何を、したの・・・!?」
「施しをしただけさ・・単純に死ぬよりも重い苦しみを与えるだけの・・・」
ピキッ ピキッ ピキッ
麻子が声を上げて、流星が言葉を返したときだった。麻子の来ていた服やスカートが突然引き裂かれた。
「えっ・・・!?」
突然のことに驚愕する麻子。あらわになった彼女の素肌は固く冷たくなり、ところどころにヒビが入っていた。
「どういうことなの!?・・体が、石に・・・!?」
変わり果てた自分の体に、麻子が驚愕する。彼女の反応を見つめて、流星が喜びを見せる。
「驚いているかい?怖いかい?君みたいな女のそういうところを見るのがたまらなくなってくる・・」
「流星さん・・何でこんなことを・・・!?」
ピキッ パキッ パキッ
問い詰めようとする麻子だが、石化が進行してさらに石の素肌をさらけ出してしまう。ほとんど裸にされて、麻子は動揺を隠せなくなる。
「何度も言わせないでほしいな。双真の敵が僕の敵。双真が嫌悪する女が、双真を傷つけないようにすればいい。そのための手段として、僕はこの力を思い描いたんだ・・」
「も、もしかして・・他の女の人も・・・!?」
「そう。君も他の女と同じように、石化という生き地獄を味わい続けるといいよ・・」
絶望感を襲われる麻子を見つめて、流星が喜びを募らせていく。
パキッ ピキッ
石化が麻子の手足の先まで及び、髪や頬をも蝕んでいく。体に力が入れられなくなり、彼女は沈痛さをあらわにしていく。
「華音ちゃん・・逃げて・・・流星さんから・・逃げ・・・て・・・」
華音への思いを募らせて、麻子が声を振り絞る。
ピキッ パキッ
唇さえも石に変わり、声を出すこともできなくなり、麻子は涙を浮かべるしかなかった。
フッ
その瞳にもヒビが入り、麻子は完全に石化に包まれた。彼女は一糸まとわぬ石像と化して、微動だにしなくなった。
「これでまた、双真の敵を大人しくさせた・・でもまだ敵はたくさんいる・・・」
麻子の石の裸身を見つめて、流星が喜びを浮かべる。
「双真は僕よりもずっと女への憎しみを抱いているけど、憎しみを貫き通せるだけの力を持っていない・・でも、僕には排除する意思も力も持っている・・・」
双真への感情を募らせながら、流星が自分の右手に視線を移す。
「もう心配しなくていい・・僕がいる限り、双真をこれ以上苦しめさせはしないよ・・」
双真への欲情と敵への憎悪が、流星の中で膨らみ続けていた。
次回
「麻子ちゃんは・・麻子ちゃんは、どこですか・・・!?」
「いつまでも調子に乗らないでほしいな・・・」
「ウソ・・・そんな・・・!?」
「僕にとって君は、最初から敵でしかなかった・・・」