ガルヴォルスBlade 第17話「紅の悲劇」

 

 

 隼介から逃げ延びようと考えていた双真は、大学の敷地内を走り抜けていた。だが彼の姿を隼介に発見された。

「見つけたぞ、碇双真!」

 隼介の怒号を耳にして、双真が立ち止まって振り返る。

「くっ!見つかった・・!」

 走っていた勢いで逃げようとする双真だが、隼介のほうが確実に速い。

「待て!」

 だが隼介が双真に向けて放たれたとげの群れは、割り込んできた華音が振りかざした刃で全て弾き飛ばされた。

「またお前か!」

 いきり立った隼介が双真と華音に向けて襲いかかってきた。

「下がるんだ、双真!」

 隼介が突き出してきたとげを、華音が右手の刃で受け止める。押し切ろうとする隼介だが、華音は踏みとどまって双真に近づけさせないようにする。

「どけ!そんなにオレに殺されたいのか!?

「殺されるのはアンタのほうだ!これ以上、僕を怒らせるな!」

 怒号を放つ隼介と華音。隼介のとげが華音の頬をかすめ、華音の刃が隼介の右肩を貫いた。

「ぐおっ!」

 華音に競り負けた隼介が、突き飛ばされて双真から引き離される。双真に近づけさせまいと、華音が隼介の前に敢然と立ちはだかっていた。

「こんな・・オレは、目の前にしながら、碇双真を叩き潰すこともできないのか・・・!?

 歯がゆさを隠せなくなったまま、隼介は華音と双真の前から逃げ出していった。双真と流星のことを気にして、華音は隼介を追おうとしなかった。

 人間の姿に戻り、華音が傷ついた流星に駆け寄った。

「流星さん、しっかりしてください・・すぐに病院に行きましょう・・」

「華音ちゃん・・僕なら大丈夫だよ・・・」

 呼びかける華音に流星が弁解する。しかしどう見ても大丈夫とは華音には見えなかった。

「双真も手伝って・・流星さんを助けないと・・・!」

「ふざけるな・・女のお前の指図は受けない・・・!」

 双真にも呼びかける華音だが、彼は聞こうとしない。すると華音が激情をあらわにしてきた。

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!流星さんがケガをして、たくさんの人が殺された・・・!」

「そんなことでオレを思い通りにできると思うな!オレは女には絶対に従わない!」

「アンタ、今こういう状況だってのに、何とも思わないのか!?

「女がオレに偉そうにするな!女に逆らうなら、他のヤツがどうなろうと関係ないんだよ!」

 あくまで華音の言うことを聞こうとしない双真。そんな彼に詰め寄り、華音が殴り飛ばした。

 その態度と行為に激高した双真。殴り返そうとする彼だが、華音に拳を受け止められ、両手をつかまれたまま彼女に膝蹴りを叩き込まれた。

「アンタ・・それでも人なの・・・!?

「何っ・・・!?

 声を振り絞るように言ってきた華音を、双真が睨み付けてくる。

「自分のためなら他人を見殺しにするアンタのその考え、僕は絶対に許さない!」

 華音は憤りを込めて双真を殴り飛ばす。殴られた頬を手の甲で押さえて、双真は華音に激しい憎悪をあらわにする。

「今みたいな状況で、男も女もあるか!傷ついている人を助ける!それが人としてやることなんだよ、今は!」

 目に涙を浮かべながら双真に言い放つと、華音は1人で流星を病院に連れて行った。不満を隠せなくなった双真が、そばにあった気を殴りつけた。

「オレはアイツの言うことを聞く気はない・・女のアイツなど・・・!」

 憤りを抑えきれず、双真が声を荒げる。

「オレは他のヤツのために自分を犠牲にするヤツにはならない・・陥れられる苦痛を知っているから・・・!」

 自分が苦しむことから遠ざかろうとする双真。しかし彼は華音に対する感情を捨てられないでいた。

「どうして・・どうしてオレは!?・・・オレの納得するようにしているだけなのに・・・!」

 わだかまりを抱えたまま、双真も大学を後にした。

 

 隼介が襲った大学の敷地内は地獄絵図のようだった。多くの生徒や講師が殺害され、いたるところに血が飛び散っていた。

 調査と大学の生徒たちの心中を考慮して、警察は大学を立ち入り禁止にして、講義も休止となった。

 その一方、華音は流星を連れて病院に向かった。その途中、心配した麻子と合流した。

「華音ちゃん・・・流星さん、大丈夫ですか・・・!?

「僕なら大丈夫だよ・・・華音ちゃんに助けられたからね・・・」

 麻子の心配の声に、流星が笑顔を見せて答える。だが華音にはとても大丈夫とは思えなかった。

「そう言ってるけど、急いで病院に連れてったほうがいい・・・」

「うん・・あたしも手伝うよ・・」

 華音の言葉に頷いて、麻子は流星を支える。2人に連れられて、流星は病院に来て療養を受けることができた。

 ケガは見た目ほどひどくはなく、入院する必要もなかった。

「だから言ったじゃないか、華音ちゃん・・僕は大丈夫だって・・・」

「エヘヘ・・ちょっと慌てちゃったみたいですね・・・」

 微笑みかける流星に、華音が照れ笑いを見せる。

「でも、あんなことがあって、大学はしばらく休校になりました・・みんな、気持ちが落ち着かないですし・・」

「そうだね・・僕も、こんなにひどいことが起こるなんて、思いもしなかった・・・」

 言葉を交わして気落ちする華音と流星。だが2人は双真のことも気にかけていた。

「すみません、流星さん・・どんな理由であっても、双真に暴力を振るうのはよくないですよね・・・」

「いや、華音ちゃんが謝ることはないよ・・双真のああいう性格は今に始まったことじゃないし、そうなったのも理由があるし・・」

 謝る華音に流星が弁解を入れる。しかし華音は笑顔を取り戻さない。

「流星さん・・信じないって・・信じられないって、辛いですよね・・・」

「うん・・それから信じさせてくれない、というのもね・・」

 互いに不安を口にする華音と流星。その流星の返事を聞いて、華音が戸惑いを見せる。

「信じても裏切られると思い込んでしまっている・・それが双真を独りにしてしまい、心を締め付けている・・どんなに励まそうとしても、疑心暗鬼になっているから耳を傾けようともしない・・」

「それじゃ、双真はどんなに呼びかけても・・・」

「呼びかけても変わらないだろうね・・でも、自分で自分を変えることがあるかもしれない・・・」

「自分で自分を変える・・・」

 流星が口にした言葉を聞いて、華音がさらに困惑を募らせていく。

「ものすごくガンコな人は、自分で気付いていくしかないんだよ・・気付けなかったら、本当にどうしようもなくなってしまう・・・」

「それは双真だけに当てはまることじゃないかもしれませんね・・ただ双真が、その部分が強すぎてるだけで・・・」

「うん・・本当は真っ直ぐでいいヤツなんだけどね・・」

「はい・・でも真っ直ぐだから、イヤなものにはとことん反発するんですね・・・あっ・・・」

 流星と会話を交わしていくうちに、自分が双真について話していることに安らぎを感じていたことに気付いて、華音が動揺を見せる。

「ぼ、僕は、何を言って・・・!?

「・・君にそこまで優しくされて、双真は本当に幸せ者だね・・ありがとう、華音ちゃん・・・」

「僕は、そんなつもりじゃ・・・!」

「とにかくありがとうね、華音ちゃん・・」

 動揺する華音に、流星が笑顔を見せて感謝した。

 

 紅いオーラを発して力を増した華音に太刀打ちできず、逃走を余儀なくされた隼介。彼は激しく憤っていて、感情を抑えられなくなっていた。

「このままで済ますか・・碇双真だけじゃなく、アイツも必ず叩き潰してやる・・・!」

 双真だけでなく華音にも憎悪をむき出しにする隼介。

「どんなヤツでも容赦しねぇ・・2人を見つけ出すためなら、何でもやってやるぞ!」

 激高した隼介が異形の怪物へと変化する。彼は華音と双真を追い求めて、見境なしに暴れ出した。

 

 隼介が見せつけてきた力と脅威を、華音は突き刺されるような感覚で感じ取っていた。

「どうしたの、華音ちゃん・・・?」

 彼女の様子に流星が声をかける。

「もしかして、また怪物が・・・?」

 麻子も続けて声をかけると、華音は小さく頷いた。

「麻子ちゃん、流星さんと一緒にいて・・もしもアイツなら、双真を狙ってくるかもしれない・・・」

 華音は麻子に呼びかけると、2人の前から走り出していった。

 

 華音と双真を探して暴れまわる隼介。彼は無差別にとげを飛ばして人々を襲撃していた。

 街中はとげに刺された人々の亡骸や、血まみれになった壁や地面でいっぱいになっていた。

「どこだ・・・どこにいる!?

 激情をあらわにして叫ぶ隼介。暴走する彼の気配を痛感して、華音が駆けつけてきた。

「アンタ・・僕と双真を狙うためだけに、また関係のない人たちを・・・!」

 憤怒する華音の頬に紋様が走る。

「絶対に許さない!アンタだけは!」

 異形の姿に変化した華音が、隼介に向かって飛びかかる。

「オレはお前を・・お前を!」

 隼介もいきり立って華音に飛びかかる。彼は体から出したとげを手にして、華音が伸ばした刃とぶつけ合う。

「お前が邪魔しなければ、オレはすぐに碇双真を叩き潰せた!お前はオレにそれだけのこともさせなかった!」

「そのそれだけのことが許されないことなんだよ!」

 言葉もぶつけ合う中、華音が隼介の顔面を蹴り飛ばした。怯む隼介だが、足に力を入れて踏みとどまる。

「自分の目的のためなら、見境なしに暴力を振るう!双真と同じじゃないか!」

「ヤツと同じだと!?同じにするな!」

 華音の言葉に激高して、隼介が力任せに攻撃を仕掛ける。華音も迎え撃って刃を突き出す。

 とげと刃が華音と隼介の体に突き刺さる。体から血を流しながらも、2人とも引き下がろうとしない。

「いいや、同じだ・・どっちも、自分のために他人を傷つけて平気な顔をしている、最低なヤツだ!」

「それは碇双真だけだろうが!」

 声を張り上げる華音と隼介。とげを押し込もうとしてきた隼介を、華音が右足を突き出して蹴り飛ばす。

「ぐっ!」

「うっ!」

 うめきながら後ずさりする隼介と華音。体から血をあふれさせながらも、2人とも倒れずに踏みとどまっている。

「たとえ僕自身を見失うことになったとしても、僕はアンタを絶対に倒す!」

 華音が声と力を振り絞って、隼介に向かっていく。彼女の体からは紅いオーラがあふれてきていた。

(もう悲劇は起こさせない・・迷いもしない・・・!)

 心の中で決心を強めて、華音が刃を突き出す。紅いオーラをまとわせた刃が、隼介の体を貫いた。

「ぐうっ!・・こんなもので・・オレがやられるわけが・・・!」

 隼介が自分に刺さっている華音の刃をつかもうとした。だが刃を包んでいる紅いオーラが隼介に襲いかかり、炎のようにまとわりついてきた。

「な、何だ、これは!?・・くそっ!」

 紅いオーラに構わずに、隼介が華音の刃をつかむ。だが次の瞬間、華音が隼介を貫いている刃を振り上げた。

 鮮血と炎をまき散らして、隼介が昏倒する。切り裂かれた激痛と紅いオーラに焼かれる激痛の2つに、彼は襲われていた。

「オレが・・オレがここまで・・・!」

 激高した隼介が力を振り絞り、立ち上がる。彼は絶叫を上げながら紅いオーラを振り払い、激痛に耐えながら華音の前から姿を消した。

「待て!」

 追いかけようとした華音だが、隼介の姿を見失ってしまった。力の消耗を痛感して、彼女は人間の姿に戻る。

「早く見つけないと、また誰かを・・・!」

「華音ちゃん!」

 倒れないように踏みとどまっている華音に、麻子が走り込んできた。

「麻子、どうしてここに!?

「大変なの、華音ちゃん!流星さんが飛び出していっちゃって!」

 声を荒げる華音に、麻子が声を張り上げる。

「流星さんが・・・!?

 華音が再び緊迫を膨らませた。

「麻子ちゃんは病院に戻って待ってて!もしかしたら戻ってくるかもしれないから!」

「待って、華音ちゃん!華音ちゃんだって疲れてるはずだよ!」

 呼びかける華音だが、麻子は聞こうとしない。

「アイツを追いかけながら流星さんを探し出す・・それが僕が今、やらなくちゃいけないことなんだ!」

 華音は麻子の制止を振り切って、力を振り絞って走り出していった。だが彼女が満身創痍にしか思えず、麻子は困惑するばかりになっていた。

 

 華音に太刀打ちできず、彼女から逃げ出した隼介。彼は双真の命を奪うことしか考えていなかった。

「このまま死んでたまるか・・せめて碇双真を八つ裂きにするまでは、絶対に死なない・・・!」

「残念だが、君のその野心は絶対に敵わないよ・・」

 前進しようとしたところで声をかけられ、隼介がいら立ちを募らせる。

「何をふざけたことを言ってる・・そんなにオレにズタズタにされたいのか!?

 隼介が振り返った先にいたのは流星だった。流星は隼介に対して目つきを鋭くしていた。

「何だ、お前か・・オレに人質にされてたのに、そんときとはずい分違う態度だな・・」

「僕のことをあまり打ち明けたくなかったからね・・命に関わる直前までは極力打ち明けるのを避けたかったからね・・」

 あざ笑ってくる隼介に、流星は淡々と声をかけてくる。

「でもここなら人目に付きにくいし、本気になってもいいかな、と思ってね・・・」

「調子に乗りやがって・・そんなに死に急ぎたいなら、望みどおりにしてやるよ!」

 流星に対して不満を爆発させる隼介が、体からとげを出して手にする。彼は激情のままに、流星に向けてとげを突き出す。

「・・浅はかだな・・・」

 低く告げた流星が、右手だけで隼介のとげを受け止めた。

「何っ!?

 簡単に攻撃を止められたことに、隼介が驚愕する。憤慨して力を込める彼だが、押し切ることができない。

「君はたくさんの過ちを犯した・・僕の通っている大学を襲ったこと・・そして何より、双真を傷つけようとしたこと・・・!」

 流星がさらに目つきを鋭くした瞬間、隼介が衝撃波に襲われて突き飛ばされる。壁に叩き付けられて吐血し、隼介が倒れる。

「何だ、この力は!?・・まさか、オレと同じ・・・!?

「君の察した通り、僕は君と同じ種族だよ・・・」

 愕然となっている隼介の前に、流星が詰め寄ってきた。

「でも力までは、君と一緒にされては困るな・・・」

 流星が再び低く告げた瞬間、隼介の体を光の刃が貫いた。目を見開く隼介を手にかけた流星の目には、曇りのない殺気に満ちていた。

「双真を殺そうとした君は万死に値する・・生きているだけで不愉快だよ・・・」

 流星は隼介から光の刃を引き抜いた。鮮血をまき散らして、隼介が昏倒する。

「オレはまだ死ねない・・碇双真をやるまで・・死ね・・・な・・・」

 まだ声と力を振り絞って動こうとしていた隼介だが、流星の光の刃に頭を貫かれた。事切れた隼介の体が崩壊を引き起こした。

「いつまでもしぶとくしつこく生きているな・・不愉快だと言ったはずだよ・・・」

 冷徹に隼介の最後を見届けて、流星が光の刃を消す。

「双真を傷つけるものは何だろうと容赦はしない・・・華音ちゃん、君であってもね・・・」

 殺気を押し殺して、流星は歩き出した。彼も華音や隼介と同じ異形の存在だった。

 

 

次回

第18話「欲情の暗躍」

 

「双真を傷つけるものは許さない・・・」

「僕には排除する意思も力も持っている・・・」

「僕がいる限り、双真をこれ以上苦しめさせはしないよ・・」

「まずは君からだ・・・」

 

 

作品集

 

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