ガルヴォルスBlade 第16話「悲劇の序章」
力を使い果たした華音は、また女子寮の部屋での休養を余儀なくされた。横たわる彼女を、麻子が沈痛の面持ちで見守っていた。
(さっきの華音ちゃん、どうしたんだろう・・ちょっと様子がおかしかった・・・)
麻子は先ほどの華音の異変を目撃していた。何かがおかしいことを麻子は感じ取っていた。
(華音ちゃん、ホントに大丈夫かな・・・?)
「う・・ぅ・・・」
麻子が不安を募らせていたところで、華音が意識を取り戻した。
「華音ちゃん、目が覚めたんだね・・」
「麻子ちゃん・・・僕は・・・」
安堵の笑みを見せる麻子に、華音が当惑を見せる。
「華音ちゃん、あの人を、碇双真を助けようとして、あの怪物と戦って・・・」
「そうか・・・でも・・ハッキリと思い出せない・・・」
麻子の説明を聞いても、華音は気絶する前のことを正確に思い出すことができなかった。
「覚えてないの、戦ってたときのこと?・・体から何か、赤い霧のようなものを出してて・・すごいパワーだったよ・・・」
「えっ?・・僕が、そんな・・・」
麻子から話を聞いても、華音は思い出せなかった。
「もしかしてまた僕、暴走してたのかな?・・・また、見境なしにみんなを・・・」
「ううん、そんなことない!華音ちゃんはそんなことしないって!」
落ち込む華音を麻子が励ます。彼女の呼びかけを受けて、華音が戸惑いを見せる。
「ありがとう、麻子ちゃん・・それとゴメン・・こんなに心配かけちゃって・・・」
「いいよ・・華音ちゃんが元気なら、あたしも大丈夫だよ・・」
頭を下げる華音に、麻子が弁解を入れる。
「そうだ・・双真が・・・!」
華音が双真のことを思い出して周りを見回す。
「あの人も無事だったけど、1人でどっかに行っちゃったよ・・・」
「そう・・双真らしいな・・・」
麻子から説明を聞いて、華音が物悲しい笑みを浮かべる。
「あの人は女殺しだけじゃなく、ホントに自分のことしか考えてない・・華音ちゃんのこと、全然よく思ってないみたいだし・・・どうしてあんな人を助けようっていうの・・・!?」
深刻な面持ちを浮かべて、麻子が華音に問い詰める。しかし華音は困惑を募らせるだけだった。
「分かんない・・分かんないけど・・・何とかしてあげないといけない・・そう思えてならないんだ・・・」
「華音ちゃん・・・」
「ほっとけないんだ・・このまま独りになっていくアイツが・・・あの怪物たち以上に暗くさびしい人になっていくようで・・・」
戸惑いを見せる麻子に、華音が自分の気持ちを口にしようとする。
「僕も、そんな気分にさせられたことがあったから・・こんな性格だから・・・」
「どういうこと・・・?」
「女なのに男っぽくしている・・どっちつかずの性格と態度で、僕はなかなか他の人と仲良くなれなかったんだ・・・」
華音は昔の自分を思い返していた。女の体で男の性格、中途半端な彼女の人格は、周りからの敬遠を呼び込んでいた。
「翔太さんや麻子ちゃんのように、こんな僕を受け入れてくれた人はいた・・でもそうでない人のほうが多い・・・」
「そんな華音ちゃんだから、碇双真をほっとけないっていうの・・・?」
「分かんない・・・言葉じゃ言い表せないことかもしれない・・こういう気持ちというのは・・・」
麻子に問われても、華音はきちんと答えることができないでいた。
「もう休んだほうがいいかもね、華音ちゃん・・」
「うん・・こういうときこそスッキリしておかないとね・・体も心も・・・」
麻子に促されて、華音は再びベッドに横たわった。
(ムチャしないでって言いたいけど、あんなことを経験してきた華音ちゃんには言えないよね・・・)
心配を募らせるも、麻子は華音に打ち明けることができなかった。
華音のことが頭から離れず、双真はいら立ちを募らせるばかりになっていた。どうすればいいのかも分からなくなり、彼は大学に来ていた。
(まさかオレが、こんな騒がしい中で落ち着けるとはな・・雑音が、オレをかき乱すものを紛らわしてくれているということか・・・)
騒々しさの中で落ち着いていられることに、双真は自分に皮肉を感じていた。
(それにしても、どうしてアイツのことを気にしているんだ・・オレはアイツが許せなくて仕方がないのに・・・)
双真が華音のことを考えて、苦悩を深めていく。彼は華音のことが頭から離れなくなっていた。
(アイツのことなど考えるな・・オレはアイツがどうなろうと・・・)
次第にいら立ちを募らせていく双真。じっと席に座っていることもできなくなり、彼は講義室を飛び出した。
双真の命を狙う隼介は、彼のいる大学に足を踏み入れていた。
「ここにアイツがいるのか・・・」
大学の校舎を見渡して、隼介が不敵な笑みを見せる。しばらく進んだところで、彼は男子たちに声をかけた。
「おい、ここに碇双真がいるはずだ。どこにいる?」
「え?碇双真?あぁ、あの女殺しの・・」
隼介に問いかけられて、男子たちが答えていく。
「そいつのことだ・・ヤツはどこにいる?」
「どこって、知らないよ、そんなこと・・あんなヤツと関わりたくないし・・・」
さらに問いかけてくる隼介に男子たちが答える。双真の居場所を聞けず、隼介は笑みを消した。
「そうか・・役に立たねぇなぁ・・・!」
次の瞬間、男子の1人が隼介の放ったとげに頭を貫かれて倒れた。血をあふれさせた無残な姿を目の当たりにして、周囲にいた人々が驚愕と恐怖を覚える。
「さっさと碇双真を連れてこい・・オレはそいつを八つ裂きにしたいだけなんだよ・・・!」
いきり立った隼介が異形の怪物へと変貌する。その姿を目の当たりにして、人々が一斉に逃げ出した。
「逃げんなよ・・オレは碇双真を探してるだけだ・・・」
隼介は不気味に言いかけると、人々に向けてとげを飛ばしていく。とげに刺された人々が次々に昏倒していく。
「さっさと教えてくれりゃ、死なずに済むんだよ・・・」
いら立ちを見せながら歩を進めていく隼介。逃げ惑う生徒や講師たちが、隼介の放つとげに刺さって倒れていった。
寮の部屋にて休息を取っていた華音と麻子。だが外の騒がしさを耳にした華音が、目を覚まして窓から外を見た。
「何かあったのかな?・・こんなに騒がしいなんて・・・」
その騒々しさに疑問を覚える華音。
「もしかして、また怪物が・・・あの怪物が・・・!?」
不安を覚えた華音はすぐに部屋を飛び出した。その彼女に気付いて、寝ていた麻子も体を起こした。
「華音ちゃん・・どうしたの・・・?」
麻子が声をかけるが、華音は気付かずに出ていってしまった。
寮の外に出た華音が、人々に声をかけた。
「何かあったんですか!?」
「だ・・大学に、バケモノが・・・!」
震える男子の答えを聞いて、華音が緊迫を覚える。
(まさか、あの怪物が大学に・・・!?)
不安を一気に膨らませた華音が、逃げ惑う人々をかき分けて大学に走っていった。
双真を探して大学の中を歩いていく隼介。彼の手にかかった生徒や講師たちが、血まみれの無残な姿で倒れていた。
その様子に、大学の校舎から見ていた双真も緊迫を感じていた。
「アイツ、オレをわざわざ襲いに来たのか・・・!?」
双真は息をのんで、校舎の中を走り出した。
(誰がどうなろうと知ったことじゃないが、オレはあんなのにやられるつもりはないからな・・・!)
心の中で自分に言い聞かせる双真。隼介に見つからないようにして、彼は校舎を飛び出した。
だが異形の姿となった隼介の聴覚は研ぎ澄まされており、走る双真の足音を耳にしていた。
「誰か逃げているな・・もしや碇双真か・・・?」
その足音が双真のものだと直感して、隼介はその方向に向かって進んでいった。
騒ぎを聞きつけて大学にやってきた華音。正門の前に来た彼女は、血まみれとなったキャンバスを目の当たりにして愕然となった。
「これ、まさか全部、アイツが・・・!?」
華音は隼介の仕業であると直感した。同時に彼女は隼介に対する怒りを膨らませた。
「許せない・・こんなことをするアイツを、僕は許さない!」
激高した華音が隼介を追って大学内に入った。人の目が届かなくなったところで、彼女は異形の姿へと変身した。
双真を追って大学内を進んでいく隼介。その彼の前に警備員や、大学の外からやってきた警官たちが現れた。
「動くな!止まれ!」
「構うことはない!撃て!」
声を上げる警備員と警官たち。警官たちが手にした銃を、隼介に向けて撃った。
だが着弾したはずの弾は、隼介の体に傷をつけることもできなかった。
「そんなものがオレに通じると思ってんのか・・・!?」
いら立ちを見せる隼介が全身からとげを放つ。とげに刺されて、警備員や警官たちが次々に血をあふれさせながら倒れていく。
「碇双真を連れてこい!でないとお前らも命はないぞ!」
「やめろ!」
高らかに言い放った隼介に向けて声がかかった。彼の前に華音が現れた。
「またお前か・・邪魔すんなって言ったよな・・・!?」
「アンタ・・双真のために、また関係のない人たちを・・・!」
いら立ちを見せる隼介に、華音が怒りを募らせていく。
「それも僕の通う大学のみんなを・・・絶対に許さない!」
いきり立った華音が隼介に飛びかかる。だが彼女が伸ばした刃を、隼介は軽々とかわした。
「さっさと碇双真を出してくれれば、他のヤツが死ぬこともなかったんだよ・・!」
「自分の悪さを他人に押し付けるな!」
隼介の態度に激高する華音が、強引に刃を突き立てようとする。しかしその一閃は隼介の固い体に防がれる。
「悪いのは碇双真・・そしてそいつを素直に引き渡さないヤツら!」
隼介が華音にとげを伸ばす。その数本を体に刺されて、華音が顔を歪める。
「もうアンタには何も言わない・・何の同情もしない・・アンタへの何もかもがムダだから!」
だが華音は強引にとげをはねのけて、隼介に向けて刃を振り下ろす。だがその一閃も隼介にかわされる。
「だったらお前もさっさと地獄に落ちろ!」
隼介が華音の顔面をつかんで、地面に叩き付ける。さらに足を振り上げて蹴り飛ばす。
「うわっ!」
激しく横転してうめく華音。だが彼女は地面に手を叩き付けて体勢を整える。
「許さない・・アンタだけは絶対に許さない!」
さらに怒りをあらわにした華音から紅いオーラがあふれてきた。その姿を目にして、隼介が目つきを鋭くする。
「またそれか・・何度もやられるオレじゃないぞ!」
隼介が華音に飛びかかり、1本のとげを手にして突き立てる。そのとげを華音が右手だけで受け止めた。
「オレの力を受け止めきれると思うな!」
隼介が強引にとげを押し切ろうとする。とげが華音の右手をすり抜けて、彼女の体に突き立てられる。
「やった・・何っ!?」
隼介が驚愕の声を上げる。とげは華音の体を捉えていたが、刺さってはいなかった。
「こ、このっ!」
隼介が強引にとげを突き刺そうとする。だが逆にとげが折れてしまった。
「バカな・・・!?」
愕然となる隼介が華音に腕をつかまれる。彼女は隼介に向けて刃を突き立てようとする。
振り払おうとするのも間に合わず、隼介は体を華音の刃に貫かれる。
「ぐうっ!」
体から血をあふれさせて、隼介がうめく。刃を引き抜かれた彼は、華音の高まっていく力に脅威を痛感させられていた。
「オレのこの力が、全然通じないなんて・・そんなバカなことがあるなんて・・・!?」
自分に降りかかっている現実に目を疑う隼介。華音は彼に向けて、刃のような鋭い視線を向けてきていた。
「このままやられてたまるか・・碇双真の命を奪うまでは、オレは絶対にやられない!」
隼介は力を振り絞って、華音から離れていく。華音も駆け出して隼介を追う。
「ヤツは・・碇双真はどこだ・・・!?」
血眼になって双真を探す隼介。その彼の耳に、近くからの足音が入ってきた。
その足音に向かった隼介が目撃したのは、逃げ遅れた流星だった。
「チャンス!」
喜びを覚えた隼介が流星を捕まえ、体から出したとげを突きつけた。追ってきた華音が、流星が人質にされたのを目の当たりにして足を止める。
「動くな!動けばコイツの命はないぞ!」
「流星さん!・・流星さんを人質にするなんて・・・!」
怒鳴る隼介に華音が憤りを見せる。
「コイツも自分も助かりたかったら碇双真を連れてこい!ヤツを始末できれば、オレはどうなってもいいんだよ!」
隼介がいら立ちながら、華音に脅しをかける。
「そ、双真・・双真を、どうして・・・!?」
「黙っていろ!死にてぇのか!?」
声を上げる流星に、隼介がとげを突きつける。
「放せ・・流星さんを放せ!」
「だったら碇双真を連れてこいよ!それが分かんないのか!?」
互いに怒鳴る華音と隼介。
「さっさと碇双真を連れてこい!オレはヤツを始末すればそれでいい!」
「ダメだ・・双真を、危険なことに巻き込んでは・・!」
「そんなに死にてぇのか!?」
華音に向けて呼びかける流星が、激高した隼介のとげに左肩を刺される。
「ぐあっ!」
「流星さん!」
激痛を覚えてうめく流星に、華音が声を上げる。
「動くな!こっちに来たらすぐにでもコイツをやるぞ!」
隼介が新しくとげを体から出して、再び流星に突きつける。
「ホラ!さっさと碇双真を連れてこい!同じことを何度も言わせるな!」
「・・・放せ・・・!」
怒鳴りかかる隼介に対し、華音が低く声を振り絞ってきた。
「おい、早く碇双真を連れて来いって・・!」
「放せって言っているんだ!」
いら立ちを見せた瞬間、華音の怒号とともに隼介の右の肩が切り裂かれた。衝撃と激痛に襲われて、隼介は思わず流星を放す。
次の瞬間には、華音は流星を抱えて隼介との距離を離していた。紅いオーラを発した彼女は、目にもとまらぬ速さで隼介を攻撃し、流星を救ったのである。
「コイツ・・いつの間にこんなマネを・・・!」
さらに増していく華音の戦闘力に、隼介は愕然となった。
「流星さん、大丈夫ですか!?」
「そ・・その声、華音ちゃん・・・!?」
心配の声をかける華音に対して、流星が驚きの声を上げる。
「本当だったんだ・・人と違う姿と力・・・」
「本当でしたらすぐに病院に連れて行きたいんですけど、今はアイツを何とかしないといけないんで・・・」
動揺を見せる流星の前で、華音が隼介に視線を戻す。紅いオーラを発しながらも、彼女は自分を失っていなかった。
「ここでお前を叩き潰す・・僕たちの何もかもをムチャクチャにしたお前を、僕は絶対に許さない!」
華音が隼介に攻撃を繰り出そうとしたときだった。彼女と隼介は、双真が近づいてきているのを目撃した。
「あれは・・・!」
「碇双真・・見つけたぞ!」
緊迫を膨らませる華音と、双真を見つけたことを喜ぶ隼介。
「待て!」
双真に向かっていく隼介を、華音が必死になって追っていった。
次回
「アンタ・・それでも人なの・・・!?」
「オレは他のヤツのために自分を犠牲にするヤツにはならない・・」
「オレはお前を・・お前を!」
「もう悲劇は起こさせない・・迷いもしない・・・!」