ガルヴォルスBlade 第15話「復讐の鬼」
怪物の襲撃で傷ついた華音。彼女を抱えたところで、双真は彼女が女であることを実感した。
「コイツ・・・女だったのか・・・!?」
双真が華音に対して憤りを感じていく。華音も自分が憎んできた女の1人であると思い知って、彼は激情に駆り立てられていた。
「ついでだ。碇双真、そいつも一緒に地獄に落としてやるよ・・」
怪物が双真を狙ってとげを出そうとした。そこへパトカーのサイレンが響いてきた。怪物がその音に注意を向けた一瞬に、双真が逃げ出した。無意識に華音を連れて。
怪物が視線を戻したときには、華音も双真も麻子もいなくなっていた。
「逃げやがったか・・ふざけたヤツなのに逃げ足が速いとはな・・・!」
いら立ちを見せながらも、怪物は人間の姿に戻る。
「楽しみながら探すことにするか・・今のオレに勝てるヤツはいねぇんだからな・・・」
不敵な笑みを浮かべて、青年は歩き出した。異形の力を手にしたことで、彼は自分が負けないと思っていた。
「碇双真、オレはお前を許さないぞ・・必ずズタズタにしてやるからな・・・」
怪物から辛くも逃げることができた華音たち。だが華音が女であると気付いた双真は、立ち止まったところで彼女を地面に落とした。
「まさかお前もだったとはな・・・つくづくオレをイラつかせるな、コイツは・・・!」
双真が華音を見下ろして、憤りを募らせていく。殺気とも思える彼の憎悪を前にして、麻子は困惑するばかりとなっていた。
「だがこれで、オレがお前を敵とみなす理由ができたな・・このまま叩き潰してもいいが、あんなヤツに助けられる形になってイヤになるからな・・・」
双真は華音を鼻で笑うと、彼女と麻子を置いて1人で歩き出していった。
「・・・華音ちゃん!」
麻子が傷つき倒れた華音に近寄って、声をかける。怪物のとげに刺されて、華音は傷だらけになっていた。
「華音ちゃん、しっかりして!華音ちゃん!」
麻子が呼びかけるが、華音は目を覚まさない。
「急いで病院に・・って、病院は・・・!」
慌てるあまり冷静な判断が下せないでいる麻子。病院は怪物に襲われて誰もいない状態にあった。
「急いで・・急いで他の病院に・・・!」
「ま・・麻子ちゃん・・・」
華音を連れて行こうとしたとき、華音が意識を取り戻して声をかけてきた。
「華音ちゃん!・・病院に連れて行ったほうがいいんだけど、病院は・・・!」
「麻子ちゃん・・少し休めば大丈夫だから・・病院じゃなくて寮に行こう・・・」
心配の声を上げる麻子に、華音が呼びかけてくる。
「でもあんなケガしてるのに、診てもらわないなんて・・・!」
「大丈夫だって!・・・僕、力を手にした自分のことが分かるようになってきたんだ・・これでも自然に回復できるって・・・」
心配してくる麻子に華音がさらに呼びかける。彼女に気おされて、麻子は思わず頷いた。
「・・双真は?・・アイツはどうしたの・・・?」
「1人でどっかに行っちゃった・・あの人も怖くて、呼び止めることもできなかったよ・・・」
華音の問いかけに、麻子が困惑を見せながら答える。
「双真・・・どうして・・・」
双真の独りよがりな態度に、華音は歯がゆさを感じていた。
華音が女だと知り、双真は苛立ちを隠せなくなっていた。我慢ができなくなり、彼はそばの壁を殴りつけるなど、八つ当たりをするようになっていた。
「まさかアイツが女だったとはな・・そいつに目をかけていたオレ自身が許せなくなっている・・・!」
さらに腹立たしくなり、双真が体を震わせる。
「オレをとことん騙したアイツを、オレは絶対に許さない・・バケモノだろうと何だろうと、叩きのめさないと気が治まらない・・・!」
激高した双真が地面を強く踏みつける。彼は華音への憎悪を一気に強めていた。
女子寮に戻ってきた華音と麻子。休息を余儀なくされた華音を、麻子が心配そうに見つめていた。
「華音ちゃん・・・ホントに大丈夫・・・?」
「うん・・疲れが残っているけど、ホントに休めば大丈夫だから・・」
麻子に微笑んで答える華音。しかし麻子の心配は和らいでいない。
「体もだけど、心のほうも・・華音ちゃん、すごく思いつめちゃうから・・・」
「麻子ちゃん・・・今度のあの怪物も、怪物に襲われた人たちのことも、気にならないと言ったらどうしてもウソになる・・・」
「華音ちゃん・・・こんなことになっちゃうなんて・・あたしも、どうしたらいいか分かんないよ・・・」
「分かんなくていいよ・・分かんないのが普通だからさ・・・」
目に涙を浮かべる麻子に、華音が微笑んで言いかける。
「問題なのは、あの人を野放しにできないってことだ・・最悪あの人、何をしでかすか分かんないぞ・・・」
華音が笑みを消して不安を口にする。双真を狙う青年の行動が、彼女には気がかりになっていた。
(最悪の事態にならなければいいんだけど・・・)
焦る気持ちを何とか抑えて、華音は1度眠りについた。麻子も不安を抱えたまま、華音の様子を見守ることにした。
病院での悲劇から一夜が明けた。病院での事件以外は、大きなニュースが報道された様子はなかった。
一晩で体力を回復させた華音。傷もほとんど消えていて、重傷を負っていたとは思えないほどに回復していた。
「すごい・・ホントに全回復だよ〜・・・」
華音の回復力に麻子が驚きの声を上げる。
「ここまで来るとホントに人でなくなっている・・普通の人だったら、助かるかどうかも分かんない傷だったのに・・・」
華音が異形の存在となった自分への歯がゆさを募らせる。
「そ、そんなつもりで言ったんじゃないよ・・ホントにすごいって思っただけなんだから・・・」
「麻子ちゃん・・分かってる・・麻子ちゃんは、僕を僕として見てくれてるじゃない・・」
「そうだった・・そうなんだけど・・・やっぱり言ったらまずいんじゃないかって思っちゃって・・・」
弁解する華音だが、麻子は困惑を膨らませるばかりとなっていた。
大学に向かっている華音と麻子だが、その途中、2人の前に双真が現れた。鋭く睨み付けてきている双真に、華音が深刻さを浮かべ、麻子が怯えて彼女の後ろに隠れる。
「双真・・アンタ・・・」
「まさかお前もだったとはな・・・」
声をかける華音と、低く言いかける双真。
「そんな男のなりをしていてもムダだ・・お前がオレの敵だということに変わりはない・・・!」
「・・・知らず知らずのうちにこんなことになってたのにな・・・」
鋭く言いかけてくる双真に対し、華音が物悲しい笑みを浮かべる。
「どんなに言い張っても、結局僕は女ということだね・・・」
「何をいまさらなことを・・だがこれで、オレはお前を完全に敵だと認識することができる・・・」
「そうだな・・僕は女で怪物・・敵だと思うのに十分すぎる理由だ・・・」
自分への皮肉を口にしていく華音。そんな彼女に双真がつかみかかってきた。
「人間じゃなくても、怪物でも、オレはお前の思い通りにはならない・・女のお前のには・・・!」
「双真・・・」
鋭く睨み付けてくる双真に、華音は戸惑いを見せるばかりだった。双真は華音から手を離すと、さらにいら立ちを見せる。
「オレは逆らう・・お前にも・・あのバケモノにも・・・」
華音にそう言い放つと、双真は立ち去っていった。困惑を募らせていた華音は、双真を追いかけることができなかった。
華音を敵とみなして決別した双真。しかし双真は華音に対する感情を捨て切ることができないでいた。
「どういうことなんだ・・オレはアイツがとことん我慢がならなかったはず・・しかも女だと分かって、受け入れる必要がまるでないと思えるようになったのに・・・」
自分自身の複雑な気分に、双真は困惑を募らせていた。振り払おうとしても逆にもやもやした気分を捨てきれず、双真は苦悩を深めた。
「アイツは出会った頃から気に食わなかった・・女の思い上がりを叩きのめしているだけなのにそれを邪魔して・・その態度が、自分も女だったからというのがようやく分かった・・・それなのに、なぜ罪悪感を感じなくてはならない・・・!?」
自分でどうすることもできない気分に、双真は苦悩を深めていく。
「華音・・華音・・・」
双真はいつしか無意識に、華音に対する感情を募らせていた。
「何をそんなに苦しんでいるんだ・・・?」
そこへ声がかかり、双真が振り返る。彼の視線の先には、病院を襲った青年がいた。
「お前・・・!」
「あのときは仕留めそこなったが、今度は確実に息の根を止めてやるよ・・・」
目つきを鋭くする双真を、青年があざ笑ってくる。
「せめて冥土の土産に名乗っておくか・・オレは明石隼介・・お前を殺す男だ・・・」
青年、隼介の顔に紋様が走る。彼は全身から針を生やした異形の怪物へと変わった。
「さぁ、死ぬ前にたっぷりと地獄を味わいな・・自分が犯した罪の苦しみってヤツをな・・・」
「何でオレを狙う?・・オレの敵は、思い上がっている女だ・・・!」
不敵な笑みを見せる隼介に、双真が疑問を投げかける。すると隼介が鼻で笑ってきた。
「思い上がってるのはお前だ、碇双真・・身勝手な女嫌いをするお前が、オレの好きだった女を死んだも同然にしたんだよ!」
いら立ちを見せてきた隼介が双真に飛びかかってきた。とっさに横に飛んで、双真は隼介の突進をかわした。
「何だよ・・オレの女に散々なことしておいて、その復讐をしようとするオレから逃げんのかよ・・」
振り返った隼介が双真をあざ笑ってきた。起き上がった双真が隼介を睨みつけてくる。
「そんなに睨み付けてきてもダメだ・・今のオレにお前は傷ひとつつけられない・・・」
「勝手に決めるな・・思い上がった女に尻尾を振っていたヤツが・・・!」
不敵な笑みを見せていたところで双真に言いかけられて、隼介が笑みを消した。
「勝手に決めているのは・・お前のほうだろうが!」
激高した隼介が針を飛ばしてきた。その針が双真の右肩に突き刺さった。
「ぐ、ぐあっ!」
激痛に襲われた双真が、絶叫を上げてその場に膝をつく。昏倒する彼を見下ろして、隼介が哄笑を上げる。
「本当に無様だな!見ていて笑いが止まらなくなりそうだ!」
とげを肩から引き抜いた双真に近づき、隼介が蹴り飛ばす。仰向けに倒れた双真の傷ついた肩を、隼介が思い切り踏みつける。
「があっ!」
さらなる激痛に襲われてもがき苦しむ双真。振り払おうとする彼だが、隼介の力に抗うことができない。
「ズタズタにしてやるよ・・体も心も・・・」
隼介は低く言うと、さらに双真の肩を強く踏みつけていく。激痛を通り越して麻痺にも襲われ、双真は声にならない絶叫を上げていた。
「まだだ・・アイツがお前から受けた痛みと苦しみは、こんなもんじゃねぇよ!」
「やめろ!」
そこへ華音が駆けつけ、呼び止めてきた。隼介は足を双真につけたまま、華音に振り向く。
「お前か・・今、碇双真に思い知らせているところなんだよ・・邪魔すんな・・・」
「双真・・・!」
いら立ちを込めて言いかける隼介と、傷ついた双真を目の当たりにして困惑する華音。そして彼女は怒りを募らせていった。
「双真にこんなに痛めつけて、関係のない人たちまで傷つけるなんて・・・絶対に許せない!」
激高した華音も異形の姿に変化する。彼女は即座に飛びかかり、右手から伸ばした刃を隼介に向けて振りかざす。
「邪魔すんなって言ってんだろうが!」
隼介が針を飛ばしてくるが、華音は刃で全てなぎ払う。だがその一瞬に、隼介は華音の背後に回り込んでいた。
「えっ!?うわっ!」
驚きの声を上げる華音が、隼介の突き出した針に刺される・体勢を崩した彼女は、血をあふれさせながら倒れていく。
「イラついてる割に全然遅いな・・やっぱ、同じ怪物でも力の差はあるもんだな・・」
痛みに顔を歪める華音を見下ろして、隼介があざ笑ってくる。
「これ以上邪魔しようっていうなら、お前から先にズタズタにしてやるよ・・オレは碇双真を叩き潰したいだけなんだからさ!」
声を張り上げて華音を蹴り上げる隼介。感覚を研ぎ澄ました華音は、右手の刃を地面に突き刺して踏みとどまる。
「だったら他の人は関係ないじゃない・・自分勝手なことして、自分が正しいなんてこと言うな!」
怒りの言葉を言い放つ華音。その言葉が隼介の感情を逆撫でした。
「自分勝手なのは碇双真だ!ヤツの悪さを棚に上げて、オレの邪魔をする口実を作るな!」
いきり立った隼介が華音につかみかかり、そのまま全身から針を突き出す。体に張りを突き立てられて、華音がさらに激痛に襲われる。
「オレの女は、碇双真の自分勝手な暴力で死んだも同然になった!その罪を償わせないと、オレの気は治まらねぇんだよ!」
「だからって関係ない人まで傷つけることはないって言ってるだろ!」
「邪魔するヤツは全員敵だ!お前もだ、小娘!」
「そんなのは仕返しでも復讐でもない!ただの人殺しだ!」
隼介以上の怒りを見せつける華音。彼女は怒りと力を込めて、隼介を蹴り飛ばす。
力を一気に消耗した華音が仰向けに倒れそうになる。針に刺された彼女の体から血がしたたり落ちる。
「やっぱアンタは許せない!自己満足なアンタは、絶対に許せないんだから!」
隼介に怒りを膨らませる華音。その彼女の体から紅い煙のようなオーラがあふれ出してきた。
「何だ・・・!?」
隼介が華音の異変に眉をひそめる。紅いオーラをあふれさせながら、華音が隼介を鋭く睨み付けていた。
「だけどそれがどうした・・邪魔するヤツも容赦しねぇんだよ!」
いきり立った隼介が華音に飛びかかる。華音が怒りのままに右手の刃を突き出してきた。
刃は隼介が伸ばしてきた針を打ち破り、彼の体に突き刺さった。
「何っ!?」
驚愕の声を上げる隼介が華音から離れる。傷は浅かったが、彼は華音の見せつけてくる力に脅威を感じていた。
「お前だけは・・・お前だけは!」
華音が隼介に詰め寄ろうとしたときだった。突然彼女が人間の姿に戻り、その場で膝をついた。
「華音ちゃん!」
そして麻子が遅れて駆けつけてきた。困惑していた隼介は華音や双真を攻撃することができず、やむなく引き返すこととなった。
「華音ちゃん、しっかりして!華音ちゃん!」
麻子が華音に駆け寄って声をかける。力を使い果たした華音は、自力で立ち上がることもままならなくなっていた。
そんな状態の中、華音は衝動的に双真に目を向ける。双真は歯がゆい面持ちを彼女に見せていた。
「双真・・・僕は・・・」
「そうやって助けたフリをしてもムダだ・・オレはお前に、女に気を許すつもりはない・・・」
弱々しく言いかける華音に突き放す言い方をすると、双真は1人歩き出していった。華音は双真を追いかけることもできず、麻子のそばで意識を失った。
次回
「どうしてあんな人を助けようっていうの・・・!?」
「オレはアイツがどうなろうと・・・」
「ここにアイツがいるのか・・・」
「ほっとけないんだ・・このまま独りになっていくアイツが・・・」