ガルヴォルスBlade 第14話「対立の錯綜」
流星に助けられて、病院に連れてこられた華音。流星に励まされて、華音は落ち着きを取り戻しつつあった。
1度病院を出た流星はその翌日、翔太のレストランを訪れた。
「こんにちは、翔太さん・・」
「いらっしゃい、流星くん・・今日は華音ちゃんのシフトの日じゃないよ・・」
レストランに入ってきた流星に、翔太が声をかけてきた。すると流星が困り顔を見せてきた。
「翔太さん・・その、華音ちゃんのことでお話が・・・」
流星が切り出した話を聞いて、翔太も真剣な面持ちを見せた。2人はレストランの奥の部屋で話を続けることにした。
「華音ちゃんがどうしたんだい・・・?」
翔太が声をかけると、流星は話を切り出した。
「昨日、華音ちゃんが倒れて、病院に入院したんです・・僕が華音ちゃんを病院に連れてって・・・」
「また、華音ちゃんが!?・・華音ちゃん、やっぱり疲れていたんだ・・・」
流星の言葉を聞いて驚き、翔太が思いつめた心境を覚える。
「ありがとう、流星くん・・華音ちゃんを助けてくれて・・・」
「気にしないでください、翔太さん・・こういうときに助けるのは当然ですから・・・」
感謝の言葉をかける翔太に、流星が弁解を入れる。
「今は落ち着いて休んでいます・・過労だって診断です・・・」
「そう・・後でお見舞いに行くよ・・」
翔太が流星に答えると、沈痛の面持ちを見せる。
「では僕はこれで・・落ち着いたら、またここに来てコーヒーを飲みますよ・・」
「ありがとうね、流星くん。わざわざ伝えてくれて・・待っているよ・・」
互いに笑顔を見せ合う流星と翔太。レストランを出ようとして、流星が双真がいることに気付く。
「双真も気になるのかい、華音ちゃんのこと・・?」
「誰があんなヤツのことなど・・ふざけたことを言うな、流星・・・」
流星が声をかけると、双真が憮然とした態度を見せる。
「ちょっとでも華音ちゃんを気にしているなら、助けてやればいいじゃない・・遠慮したって何にもならないことは、双真のほうが分かってるはずだけど・・?」
「遠慮などしていない・・アイツがどうなろうと、オレには関係ない・・・」
「そうかい・・気が向いたら、見舞いにでも来てあげて・・」
「そんなことはありえない・・・」
悪ぶった態度を崩さない双真に微笑みかけてから、流星は改めてレストランを出ていった。
(絶対にありえない・・オレが女と仲良くなることと同じように・・・)
心の中で不満を募らせていく双真。彼は気を紛らわせようとして、自分の仕事に集中するのだった。
華音の異形の姿を知って、困惑を膨らませていた麻子。気持ちの整理がついていなかった麻子だが、流星からの知らせを聞いて病院にやってきた。
華音とどう向き合えばいいのかまだ分かっていなかった麻子。それでも合わないといけないと思い、彼女は華音のいる病室のドアを開けた。
「華音ちゃん?・・・起きてる・・・?」
「この声・・・麻子ちゃん・・・」
麻子に声をかけられて、横たわっていた華音が体を起こす。麻子とのすれ違いが解消されていないことに、華音は困惑を感じていた。
「よかった、華音ちゃん・・どこか悪いってわけじゃないんだね・・・」
「麻子ちゃん・・・僕は・・麻子ちゃんを傷つけてしまうかもしれないのに・・・」
微笑みかける麻子に、華音が沈痛の面持ちを見せる。華音は力に振り回される自分が麻子を傷つけてしまうことを恐れたままだった。
「あたし、もう気にしないことにした・・華音ちゃんがどんな姿になっても・・・」
「えっ・・・?」
麻子が口にした言葉を聞いて、華音が当惑を見せる。
「あんな姿になっちゃって、いろいろと悩んでいるけど、華音ちゃんは華音ちゃん、そのことは何も変わってないって・・」
「華音ちゃん・・・僕は、僕・・・」
「男の子っぽいし優しいし、自分のことより周りのみんなのことを考えているし・・全然華音ちゃんだって・・」
「麻子ちゃん・・・エヘヘ・・そういわれると照れてしまうって・・・」
麻子の励ましの言葉を受けて、華音が照れ笑いを見せた。彼女はようやく、麻子との間に安らぎを感じられるようになった。
「昨日、流星さんに励まされて、僕、やっと元気を取り戻すことができたよ・・流星さんや麻子ちゃんがいなかったら、僕はきっと自分を見失っていた・・・」
「大丈夫だよ、華音ちゃん・・華音ちゃんは、今も華音ちゃんだから・・」
「エヘヘ・・麻子ちゃんらしい答えが聞けて、ホントに気持ちが落ち着いてきたよ・・ありがとうね・・・」
互いに笑顔を見せ合う麻子と華音。2人は以前のように心から笑いあえるようになっていた。
華音も麻子も、これが流星のおかげだと思っていた。
「僕はこのまま入院することになったよ・・すぐに退院してまた倒れられたら困るって、先生が・・」
「そりゃそうだよね・・流星さんにもお礼を言っておくよ・・」
「分かった・・ホントにありがとうね、麻子ちゃん・・・」
「ううん・・お礼を言うのはあたしだよ・・ありがとうね、華音ちゃん・・いつもあたしを助けてくれて・・・」
華音との会話を終えて、麻子は病室を出た。華音が体も心も落ち着いているのを見て、麻子も安心していた。
「よーし・・華音ちゃんが帰ってきたときにとんでもないことにならないように、あたしがしっかりやらないとね・・」
麻子が廊下を歩きながら、小声で意気込みを口にした。
そのとき、麻子は緊張を感じてたまらず近くの物陰に隠れた。彼女はこの廊下を双真が歩いてきていたことに気付いた。
(あれ・・あの女殺しの・・何であの人がここに・・・!?)
動揺を隠すのに精一杯になっていた麻子。双真は彼女に気付くことなく、華音のいる病室の前で立ち止まった。
(あそこは華音ちゃんの病室・・・!)
麻子の中で不安が一気に膨らんだ。
(疲れてる華音ちゃんじゃ、アイツには手も足も出ないって!)
麻子が慌てて華音のいる病室に飛び込もうとした。
ノックがされないまま開いたドアに気付いた華音。彼女の前に双真がやってきた。
「どうしてアンタが・・・僕をやっつけようっていうの・・・!?」
身構えようとする華音だが、回復していない彼女に対応するだけの力も残っていない。
「改めて確認した・・まだオレが叩き潰す必要がないな・・」
双真が口にした言葉に、華音が眉をひそめる。
「まだくだらないことを考えている・・どこまで腑抜けたことをしてれば気が済むんだ・・・!?」
「もうくだらないことを考えていない・・アンタの勝手を僕に押し付けるな・・・!」
鋭く言いかける双真に、華音も声を振り絞る。
「僕はもう1度、みんなを信じたいと心から願った・・アンタみたいに信じようともしないヤツとは違う・・・!」
「当然だ。女は信じたところでいいことなど何もない。信じられるわけがないだろう・・」
「アンタ・・そうやって憎んでれば気が済むのか!?・・・そうやったってスッキリしないって、僕は思い知らされた・・・」
「そんな勝手なことでオレを騙そうとしてもムダだ・・・!」
自分の気持ちを切実に告げる華音だが、双真は冷徹な態度を取るばかりだった。
「オレは敵を絶対に認めない。絶対に受け入れない。そうでなければ、オレはオレでなくなる。死んでいるのと変わらなくなる・・」
「・・やっぱり・・僕はアンタのその考えを認めない・・それこそ自分勝手な考えだって・・そうとしか思えない・・・」
いら立ちを見せる双真に、華音が歯がゆさを覚える。彼女が気持ちを落ち着けていても、2人の溝は埋まらないままだった。
「おいおい、病室でそんなケンカをしてんのか?」
そこへ声がかかり、華音と双真が振り向く。その先には逆立った髪型をした青年がいたが、その場は病室の窓の外、3階の高さの空中だった。
「おめぇが碇双真か・・噂通り、目つきの悪いヤツだな・・」
「お前は誰だ?何で宙に浮いているんだ・・!?」
不敵な笑みを見せる青年に、双真が眉をひそめる。
「そんなことはどうでもいい・・おめぇはオレに叩きのめされるんだから・・・!」
目を見開く青年の頬に紋様が走る。その変化に華音が緊迫を覚える。
「まさか・・・!?」
華音が声を荒げた瞬間、青年の姿が変わった。全身からとげの生えた異形の怪物だった。
「自分のしたことを後悔しながら死んでいけ、碇双真!」
「逃げろ、すぐに!」
怪物がいきり立つと同時に、華音が双真に呼びかける。怪物が体のとげを伸ばして、2人のいる病室を襲った。
恐る恐る病室に近づこうとした麻子。だが双真に何をされるか分からないという不安が、彼女を病室に向かわせることを躊躇させていた。
(華音ちゃんが危ない・・・だけど・・・)
麻子が心の中で不安を呟いていたときだった。華音と双真のいる病室のドアが爆発したように吹き飛んだ。
「何!?・・華音ちゃん・・・!?」
突然のことに麻子が驚愕する。巻き起こる煙の中から、華音と双真が飛び出してきた。
「華音ちゃん!・・もしかして、また・・・!?」
「麻子ちゃん!?・・逃げて、早く!危ない!」
動揺を見せる麻子に気付いて、華音がとっさに呼びかける。華音が麻子を連れて廊下を、階段を進んでいく。
「ちっ!くそっ!」
双真も毒づきながらも病室から離れていく。崩れた病室から怪物が出てくる。
「逃げるなよ・・すぐに終わらないだろうが・・・」
怪物が双真に目を向けて不気味な笑みを見せる。
「バ、バケモノ!?」
「キャアッ!」
この廊下にいた医師や看護師、入院していた患者たちが悲鳴を上げる。
「ギャーギャーわめくな・・耳に響くだろうが!」
いら立ちを見せる怪物が全身からとげを飛ばしてきた。そのとげに刺された医師たちが、鮮血をまき散らして倒れていく。
「邪魔するヤツも皆殺しだ・・碇双真は、オレの手で八つ裂きにしてやる・・・!」
憎悪をむき出しにして、怪物が双真を追って動き出していった。
病室を、そして病院を飛び出した華音、麻子、双真。突然の怪物の襲撃に、華音も麻子も動揺を隠せなくなっていた。
「おい・・何だ、あのバケモノは・・・悪ふざけのつもりか・・・!?」
「悪ふざけで殺されたんじゃ、アンタだってたまんないだろ・・・!」
問いかけてくる双真に、華音が声を荒げる。彼女は怪物がいる病院を見据える。
(僕たちを真っ直ぐ狙ってきていない・・病院にいるみんなを襲っているんじゃ・・・!?)
「僕は戻る!麻子ちゃんは急いで逃げて・・!」
不安を感じた華音が麻子に呼びかけて、病院に戻ろうとする。
「おい、自分だけ逃げるつもりか!?デカい口叩いている割に、女と同じで自分勝手なんだな、お前も!」
だがそこへ双真が怒鳴ってきた。
「そんな人でなしじゃない、僕は!きっとあの怪物、病院で暴れてるんじゃないかって・・!」
「信じられるか!それに他のヤツなど知ったことか!」
「アンタ、それでも人なのか!?襲われてる人がいるのに、見殺しにするのか!?」
「そんなふざけたことを考えて騙されるつもりはない!」
言い争いをする華音と双真に、麻子が動揺を隠せなくなる。
「まだケンカしてんのか?ギャーギャー耳障りなんだよ・・」
そこへ声が飛び込み、華音たちが緊迫を募らせる。3人の前にとげの怪物がやってきた。
「碇双真だけを始末するつもりだったけどな・・鬱陶しかったから皆殺しにしてやった・・」
「えっ!?・・・アンタ、病院にいた人たちを・・・!?」
怪物が口にした言葉に、華音が耳を疑った。彼女の中に制御できない感情が湧きあがってきた。
「どうして・・・僕や双真とは全然関わりがないじゃないか・・それも病気やケガを抱えてる人たちを・・・!」
込み上げてくる怒りと憎しみで、華音が体を震わせる。彼女の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「お前・・・それは・・・!?」
双真が華音の変化に目を見開く。
「双真・・・僕に、近づくな・・・!」
近寄ろうとした双真に、華音が声を振り絞って呼び止めた。その声で双真がたまらず足を止める。
「2人ともすぐに逃げろ・・僕に構うな!」
声を張り上げる華音が異形の姿に変化する。怪物としての姿となった彼女に、双真は目を見開いた。
「お前も、バケモンだったのか・・・!?」
双真が声を荒げるが、華音は怪物を鋭く睨み付けていた。
「お前もオレと同じだったとはな・・これで少しは楽しくなれるかな・・?」
怪物が不気味な笑みを浮かべて華音に近づく。次の瞬間、華音と刃と怪物のとげがぶつかり合った。あまりの速さに、麻子と双真にとっては目にも止まらない一瞬の出来事のように感じた。
「それに力もすごいな・・だが今は碇双真を地獄に落とすことが先だ!」
「だったら、病院にいる人たちに手を出す必要はなかっただろう!」
「鬱陶しかったって言っただろ・・邪魔だから殺した・・それだけなんだよ!」
「そんなことのために、みんなを!」
怪物の言動に激高した華音が膝蹴りを叩き込む。蹴り飛ばされるも、怪物はすぐに体勢を整えた。
「アンタのようなヤツを、僕は絶対に許さない!」
怪物に対する怒りと憎しみを激しくさせる華音。彼女の体から紅い霧にようなオーラがあふれ出してきていた。
「おいおい、これって暴走か?見境をなくしたか?」
怪物が華音をあざ笑ってくる。次の瞬間、華音が素早く詰め寄って、怪物の体に刃を突き出してきた。
だが怪物からとげが飛び出し、華音の刃を受け止めていた。さらにとげは彼女の体に数本刺さっていた。
「そんなところからもとげが・・・!?」
驚愕する華音からとげが引き抜かれる。体から血があふれ出し、彼女が激痛にさいなまれる。
「華音ちゃん!」
傷ついた華音を目にして、麻子が悲鳴を上げる。激痛が体を駆け巡り、華音はうずくまったまま動けなくなってしまった。
「麻子ちゃん・・双真・・・逃げるんだ・・・早く逃げろ!」
華音が痛みに耐えて、麻子に向けて声を振り絞る。
「逃がさねぇよ、逃げられねぇよ・・ただの人間はオレにやられるだけなんだよ!」
怪物が双真に狙いを移してとげを伸ばす。
「双真!」
反応が間に合わない双真の前に、華音が飛び込んできた。彼女は再びとげに刺されてしまう。
「ぐっ!」
吐血する華音が血みどろになって昏倒する。痛みがさらに強まり、彼女は起き上がることもままならなくなっていた。
「たとえ同じバケモノでも、オレのほうが圧倒的に強いってことだな・・」
怪物があざ笑いながら、傷だらけの華音を踏みつけてきた。痛みに打ちひしがれる華音は、怪物の足を払いのけることができないでいる。
「バケモノでも、こんなものなのかよ!」
怪物に蹴り飛ばされて、激しく横転する華音。双真の眼前で倒れ込んだ華音が、力を発揮できなくなって人間の姿に戻る。
「そんな・・華音ちゃんが・・・!」
麻子が愕然となる中、双真がおもむろに華音に近寄る。意識がもうろうとなっている彼女を持ち上げようとしたときだった。
手に伝わってくる触感に双真は疑問を感じた。男とは違う体の感触を彼は感じていた。
次回
「まさかお前もだったとはな・・・」
「どんなに言い張っても、結局僕は女ということだね・・・」
「華音・・華音・・・」
「ズタズタにしてやるよ・・体も心も・・・」