ガルヴォルスBlade 第13話「絆の錯綜」

 

 

 麻子を助けに現れた華音。秀樹への怒りを膨らませるあまり、華音は自分の怒りと力を制御できなくなっていた。

「ダメ・・・耐えられない・・・!」

「フフフフ・・耐える必要はないよ。そのまま自分の力に体と心を任せていけばいいんだよ・・・」

 苦悶の表情を浮かべてふらつく華音に、秀樹が喜びを込めて言いかける。

「いけないことだけど・・・この人を許せなくて、仕方がなくなっている・・・!」

 自分自身の怒りに逆らうことができず、華音が右手から刃を伸ばす。彼女と秀樹が同時に飛び出し、刃をぶつけ合う。

「ぐっ!・・力も上がっている・・本当に理想の姿に近づいていっている・・・!」

 増している華音の力に毒づく秀樹。華音は間を置かずに秀樹に迫り、刃を振りかざしていく。

「おのれ!」

 声を荒げる秀樹が華音の刃をよける。さらに振りかざしていく華音の刃を、秀樹は自分の刃で防いでいく。

「この僕が、ここまで手も足も出なくなるなんて・・・!」

 危機感といら立ちを膨らませていく秀樹。華音が突き出してきた刃を、彼は紙一重でかわす。

「僕をなめるな!」

 秀樹が華音に向けて刃を振りかざす。彼は攻撃を当てられる、切り裂けると確信した。

 だが秀樹の刃は華音を切り裂くことなく、逆に折れてしまった。

「何っ!?

 驚愕する秀樹が無意識に華音から離れる。彼女の体からあふれ出ている紅いオーラが、彼女自身の耐久力を上げていた。

「バカな!?・・僕の力を簡単に打ち砕けるほどに、あの子は力を上げているというのか・・・!?

 さらに苛立つ秀樹が再び華音に飛びかかる。だが今度は華音の刃にかかり、左腕に傷をつけられてしまう。

 屈辱と苦痛に打ちひしがれて、声にならないうめきを上げる秀樹。本能的に危険であると直感し、彼は華音から離れていく。

 華音は逃げようとする秀樹を追いかける。たまらず傷ついた腕を振りかざした秀樹だが、傷口からあふれた血が華音の目に入った。

「ぐっ!」

 血で目が見えなくなり、秀樹を見失う華音。だが秀樹も華音を倒す自信が持てず、逃げて生き延びることを優先した。

 華音に視力が戻ったときには、既に秀樹の姿はなくなっていた。同時に我に返った彼女は、人間の姿に戻った。

「僕・・また力に振り回されてたのか・・・?」

 自分のしていたことを思い返していく華音。

「そうだ・・麻子ちゃん・・麻子ちゃんのところに行かないと・・・」

 麻子を心配して、華音は疲れ切った体を突き動かして歩き出していった。

 

 怪物の出現、華音もその怪物だったことに、麻子は動揺を隠せなくなっていた。秀樹から逃げ延びたものの、彼女は動揺と恐怖を感じたままだった。

(あんなバケモノが、ホントにいるなんて・・・しかも華音ちゃんも、あんなバケモノだったなんて・・・!?

 自分が見た出来事を信じることができず、麻子は怯えていた。

(もしかして華音ちゃんも、誰かを襲って・・・!?

 次第に華音への疑念を膨らませていく麻子。

「麻子ちゃん!」

 そこへ麻子を追ってきた華音が駆けつけてきた。

「華音ちゃん・・・華音ちゃん・・・」

 人間の姿に戻っていた華音だが、麻子は怯えて後ずさりする。彼女の反応に華音も困惑する。

「あの姿・・・ホントに、華音ちゃんなの・・・!?

 麻子が声を振り絞ると、華音が深刻な面持ちで小さく頷いた。

「やっぱり怖いよね?・・僕も最初にあんな怪物を見たとき、怖くなって信じられない気持ちでいっぱいになったよ・・・」

「華音ちゃん・・・誰かを襲ったりしてないよね・・・?」

「麻子ちゃん・・・襲っていない・・襲いたくなんかない・・そう思いたいけど・・・」

 麻子が投げかけた問いかけに答えようとするが、華音は込み上げてくる不安を抑えきれず、麻子の前で膝をついて震えだした。

「僕、自分が怖くなってる・・自分でも気づかないうちに、誰かを傷つけてしまうかもしれないって・・・」

「華音ちゃん・・・」

 怯えている華音を目の当たりにして、麻子が戸惑いを見せる。彼女は華音が心まで怪物になっていないことを実感する。

「怪物の力や怒りで、見境なしに戦いをしてしまう・・もしかしたらそのまま、麻子ちゃんやみんなまで・・・」

 不安と絶望を膨らませていく華音。麻子も困惑を膨らませるばかりで、華音を勇気づけることもできなくなっていた。

「・・・もう・・僕は麻子ちゃんやみんなのそばにいないほうがいいかもしれない・・・」

「華音ちゃん・・・!?

 華音が口にした言葉を聞いて、麻子が不安を覚える。目から涙を流したと同時に、華音は麻子から逃げるように走り出した。

「華音ちゃん!」

 声を上げる麻子だが、華音を追いかけることができなかった。困惑と不安でいっぱいになっていた彼女は、華音とどう向き合えばいいのか分からなくなり、立ち止まってしまっていた。

 

 麻子と向き合うことができなくなり、華音は彼女から離れていった。押し寄せる不安を振り払おうとして、彼女はひたすら走り続けた。

(どうしたらいいんだ・・どうにもならないのか・・・?)

 心の中で自分に問いかける華音。しかし考えれば考えるほどに、不安と恐怖は和らぐどころか増すばかりとなっていた。

(絶対に麻子ちゃんやみんなを傷つけるようなことはしたらいけない・・たとえ僕が自分を見失うことになっても、絶対に・・・)

 必死に自分に言い聞かせる華音。彼女は麻子から離れようと、街とは反対のほうへ歩を進めていく。

「どこへ行くつもりなんだい、君・・・?」

 街から出たところで声をかけられ、華音は道の真ん中で足を止めた。彼女は目つきを鋭くして、ゆっくりと振り返る。

 その先には物陰から現れた秀樹がいた。

「まさかアンタから出てきてくれるなんてね・・」

「それは僕のセリフだよ・・君のほうから僕を求めてくるなんてね・・・」

 低い声音で言いかける華音と、悠然と言葉を返す秀樹。だが彼の顔から笑みが消えていく。

「僕に屈辱を与えたばかりでなく、僕をここまで傷つけた・・・今の僕は我慢がならないんだ・・・!」

 苛立ちと憎悪をあらわにする秀樹の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。

「許さない・・・許さないぞ!」

 叫ぶ秀樹がサメの怪物へと変貌する。華音はそんな彼に鋭い視線を向けていた。

「許さないのは僕のほうだ・・つばきさんを殺して、さらに麻子ちゃんにまで襲いかかってきた・・・!」

 華音の頬にも紋様が走る。

「アンタだけは・・アンタだけは野放しにしない!」

 激高した華音が異形の姿に変わると同時に、秀樹に向かって飛びかかる。右手から伸ばした刃を、彼女は力を込めて振りかざす。

 だが秀樹も右ひじの刃で受け止める。少し押されるが、彼は持ちこたえて踏みとどまる。

「力がますます上がっている・・でも僕が負けることはない!」

 秀樹が言い放ち、足を突き出して華音を蹴り飛ばす。だが華音はすぐに踏みとどまって、秀樹に向かっていく。

 華音と秀樹が刃を振りかざし、ぶつかり合う衝撃で火花がきらめく。2人が互いの刃を叩き付け、つばぜり合いに持ち込む。

「僕にここまで屈辱を与えた君に、負けてたまるか!」

 秀樹が再び足を突き出そうとするが、華音も足を振り上げて攻撃を相殺する。この一瞬で秀樹は体勢を崩し、続けて華音が振りかざした刃に胴体を切り付けられる。

「ぐっ!」

 痛みを感じてうめく秀樹。さらに彼は華音が突き出した刃に左肩を貫かれてしまう。

「ぐあっ!・・認めない・・認めるものか!」

 いら立ちを膨らませる秀樹が、華音の刃をつかんで力を込める。手から血を出しながらも、彼は華音の刃をへし折った。

 右の刃を押されて、華音は毒づきながら秀樹との距離を取る。秀樹は左肩に刺さっている刃を引き抜いた。

「これでその刃はとりあえず封じた・・再生できるとしても、すぐには元に戻せないよね・・・!」

 目を見開いた秀樹が華音に向かっていく。彼が振りかざした右ひじの刃を、華音は左手の刃で受け止める。

 秀樹はすかさず左ひじの刃を振りかざす。華音の右の刃が折れているため、秀樹は確実に攻撃を当てられると確信していた。

 だが秀樹の左ひじの刃は、華音の折れた刃の先で受け止められていた。

「くっ!・・君、往生際が悪いことだな!」

 秀樹が左腕に力を込めて、華音を押し切ろうとする。

 だがそのとき、折れたはずの華音の刃が伸びてきた。刃は秀樹の左ひじの刃を切断し、さらに彼の左腕にも傷をつけた。

「ぐっ!・・バカな!?こんなすぐに再生できるというのか・・・!?

 腕の痛みを感じながら、秀樹が華音の力に驚愕する。紅いオーラを発する華音は、ますます力を上げていた。

「超えているというのか・・つばきさんも、僕さえも・・・!?

 絶望感を覚えて、秀樹は無意識に震えていた。

「認めないぞ、こんなこと・・・絶対に認めてたまるか!」

 声を張り上げる秀樹が華音に向かって飛びかかる。華音は復元させた右の刃を高らかに振り上げる。

「そんな見え見えの攻撃で、僕を倒せるとでも思っているのか!?

 怒号を放つ秀樹が、さらに加速して華音に詰め寄る。

「調子に乗るのもいい加減に・・!」

 秀樹が右ひじの刃で華音を切り付けようとする。だが華音が振り下ろした刃の一閃が、秀樹の右腕を切り裂き、さらに彼の体にも深い傷をつけた。

 激痛に襲われ、声にならない絶叫を上げる秀樹。切り裂かれた傷から鮮血があふれ出す。

「もう僕の前に現れるな・・僕の知り合いに手を出すな・・・!」

 華音が鋭い視線を投げかけて、秀樹の眼前に刃の切っ先を突きつけた。そんな彼女に、秀樹が強い憎悪を傾ける。

「そうしてほしいなら・・まずは君が僕に切り刻まれればいいだけのこと・・イヤな気分を味わうこともないし・・それにつばきさんにも会えるし、いいことづくしじゃないか・・・」

 秀樹が不敵な笑みを見せた瞬間、華音が目を見開いて刃を振りかざした。秀樹の体が真っ二つに切り裂かれ、血しぶきがまき散らされた。

 血塗られた道路と壁。血がしたたり落ちる刃を見つめて、華音が笑みをこぼしていた。

「やっと・・やっとつばきさんの仇を・・・」

 つばきのかたき討ちができたことを喜ぶ華音。だが彼女は同時に、憎悪で戦うことの虚しさを痛感し、悲痛さを膨らませていた。

「辛いよ・・悲しいよ・・・どうして・・こうなる前に気付けないのかな・・・?」

 後悔と絶望を募らせていく華音が、人間の姿に戻っていった。

「もう僕は、戻ることはできない・・・今まで過ごしてきた時間には、もう・・・」

 目から涙を流す華音が振り返って歩き出す。彼女は夢遊病者のように道路を進んでいく。

 押し寄せてくる絶望感に打ちひしがれて、ついに耐えられなくなる華音。彼女は意識を保てなくなり、道の真ん中で倒れそうになった。

 だが地面に倒れずに受け止められたことに気付いて、華音は失いかけていた意識を取り戻した。

「大丈夫、華音ちゃん!?しっかりして!」

 呼び声を耳にして、華音が顔を上げる。彼女を受け止めていたのは流星だった。

「桂、さん・・・!?

 華音は緊張を膨らませた。流星に狂気に満ちた自分を見られたのではないかと思ったのである。

「今の、見て・・・」

「しゃべらないほうがいい・・すぐに病院に連れて行くから・・・!」

 声を振り絞ろうとする華音に、流星が心配の声をかける。彼は華音を連れて、病院に向かった。

 

 流星に連れられていく間に意識を失った華音。彼女が再び意識を取り戻したのは、病院の中の病室のベッドの上だった。

「気が付いたみたいだね・・よかった・・・」

 起き上がろうとしたところで声をかけられ、華音が一瞬驚きを見せる。彼女を病院に連れてきた流星が、彼女のそばについていたのである。

「桂さん・・・あなたが、僕を・・・」

「流星でいいよ・・フラフラしていて、僕が見かけたらすぐに倒れたから・・・君に何かあるといけないから病院に連れてきたんだけど・・・」

 当惑を見せる華音に、流星が事情を説明する。すると華音が物悲しい笑みを浮かべた。

「そうだったんですか・・・流星さんにまで迷惑をかけて・・僕は、ホントに情けない・・・」

「華音ちゃん・・・よかったら、話を聞かせてくれないかな?・・・内緒にしてほしいことだったら誰にも言わないから・・・」

 自分を責める華音に話を聞こうとする流星。しかし華音は流星に打ち明けることに消極的だった。

「あの華音ちゃんの様子・・僕にはただ事にはどうしても思えない・・・本当に何があったんだい・・・?」

「・・・言えないです・・言ったら、流星さんまで危険に巻き込んでしまう・・・」

「でも、君がいつまでも辛そうになっていることのほうが・・僕にとっては危険なことだよ・・・」

「ですが・・僕に深く関わったら、僕は知らないうちに流星さんまで・・・!」

 励ましてくる流星の気持ちを、華音は受け止めることができないでいた。

「僕は、自分を見失って、見境なしに傷つけてしまっているんです・・僕自身でも自分をコントロールできなくて・・・僕と一緒にいたら、きっと流星さんも・・・」

 不安を募らせて震えだす華音。その彼女の体を、流星が突然優しく抱きしめてきた。

「えっ・・・!?

 動揺する華音が声を出すこともできなくなった。流星は彼女に対して沈痛さを感じていた。

「言ったよね?・・君がいつまでも辛そうになっていることのほうが、僕にとって危険なことだって・・・たとえ君に傷つけられることになっても、君が気持ちを落ち着かせることができたなら、僕は後悔はしないし、君を恨んだりするのは絶対にしない・・」

「流星さん・・僕、流星さんに甘えてもいいのでしょうか・・・?」

 励ましてくる流星に、華音が目に涙を浮かべていた。すると流星が笑顔を見せて頷いた。

「流星さん・・・本当に、どうなっても知らないですから・・・」

 込み上げてくる気持ちを抑えきれなくなり、華音が流星にすがりついた。涙を流す彼女の背中を、流星が優しく撫でていた。

「今まで背負ってきていたんだね・・でも時には、僕や他の誰かを頼っても悪くないんじゃないかな・・・」

「本当に・・後悔しても知らないですから・・・」

 優しく声をかける流星に、華音が不満を口にする。彼女は流星に心を寄せるようになっていた。

(ホントにしっかりしないと・・もうこれ以上、僕のために誰かが傷ついてほしくないから・・・)

 華音は心の中で自分に言い聞かせていた。自分の力を自分自身でしっかりと制御しなければならないと。

 心身ともに落ち着こうと、華音は流星に促されてベッドに横になった。

 

 

次回

第14話「対立の錯綜」

 

「どこまで腑抜けたことをしてれば気が済むんだ・・・!?

「ちょっとでも華音ちゃんを気にしているなら、助けてやればいいじゃない・・」

「双真・・・僕に、近づくな・・・!」

「お前・・・それは・・・!?

 

 

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